●お猿さんと露天風呂
必要な者は現地で物を購入し、そしてそうじゃない者は持参したものをまずはきちんと預ける。
もしもお猿さん達との交渉次第で全部台無しになってしまっては、温泉を楽しめないのだから!
「天呼ぶ地呼ぶ人が呼ぶ、ボクを呼ぶ声がする! そう、ボク参上!」
すたぁん!! とポーズを決めたイリス・レイバルド(
jb0442)!! しょっぱなからラストスパート気味である。
テンションだけで言うのなら、サルのボスになる! とめっちゃ高い九 四郎(
jb4076)も負けていないだろう。
だがしかし、一番テンションが高いのは彼であろうと想像される。
袋井 雅人(
jb1469)が腕組みして、じーっと見詰める先は温泉。
よぉぉく見なくても分かるとおもうが、褌一丁である! ちょっと何を言ってるか分からないと思うが……いや、見りゃわかるか。
「男らしく真・漢の褌に決定しました!」
と言い切るその姿はうん、確かに男、いや漢だ! そんな雅人をそっと生温かい瞳で見つめる片瀬 集(
jb3954)。
(これは絶対にハプニング起きるよね……その時は、逃げよう)
すでにフラグじゃなくて決定事項である。
そんな様子を見詰める八握・H・リップマン(
jb5069)とカラス(
jb5834)。二人とも表情は楽しそうで、これからの作戦にわくわくしているのかもしれない。
「良いなァ、近所に住んでる方々が羨ましいなァ……」
そんな中、久々の温泉ということで上機嫌の安形一二三(
jb5450)。迅速かつ平穏無事に交流し、一秒でも長く温泉に浸かって見せる! と意気込む。
そして、ガタァ! と身を乗り出したのは来崎 麻夜(
jb0905)。
「温泉だ!」
気合十分! そして、続いて言った言葉は、今回の皆の気持ちそのものである。
「共存は大事、一緒にのんびり温泉に入れば確執なんて忘れるよ」
こくんと頷いたその言葉に、皆が頷いた。
共存が大事、その通りである。
戦場に向かって、一歩、足を踏み出す……!
●お猿さんを説得しよう!
すでにそこにはお風呂に浸かってゆったりしているお猿さん達が居た。
今日は人も居なかったため、もう我が物顔である。だがしかし、入ってきた侵入者達を見るとキシャーっとあるものは声をあげ、あるものは威圧するように瞳を光らせる。
「まずは説得まっかせるよー。あ、猿の湯作るんなら手伝うよー?」
イリスの言うとおり、説得は出来る人に任せることになる。
今回の概ねの意見は、お猿さん達をお猿さん専用の温泉が出来たらそこに誘導というものだ。
「お堅い頭の大将を納得させりャあ良いんすよねェ……」
そんなお猿さん達をみながら、一二三が呟いた。
意志疎通を使って、話しあいをしたいと進みでれば、お猿さん達が顔を見合わせた。今までの人間で、話しあいをしたいなんていう人はいなかったし、自分達を怖がる人や威嚇する人はいても、こうやって静かに見守る人はいなかったのだから。
進み出てきたのは、ごん太だ。傷でそうと分かる。これは、話しあいがスムーズに行くか?! と思ったが……。
ここは人間の縄張りであること、君達が避けてほしいこと、ここで避けてくれれば手荒なまねはしない。また、君達用の温泉も用意できたらしようと伝える。
ごん太がそれをきき、なにやらキキッと鳴けば、他の面々から色々と声が上がる。どうやら話し合いをしているようだ。
やがて結論がでたのだろう。皆が静かになる。
だがしかし、ごん太が何事か言うと、そのまままた去って行ってしまった。
「あー……決裂っすね。言い分はわかったが、だからといって出ていく必要がどこにある? 自分達が勝ちとった場所だ、言うことを聞かせたいのならば」
お前達が勝てばいい。
それに、皆が顔を見合わせた。
●決裂からの?
駆使したが、結局お猿さん達は、『話しは分かった、けれど、そうそう簡単にここの縄張りを渡してなるものかぁぁぁぁぁ!!!!!!!』となってしまった。
結局は、縄張り争いである。
そもそも、彼らは縄張り争いをして勝った側だ。彼らの理論からすればあとからやってきたお前らの話を聞く必要があるとでも? になってしまうのだろう。
説得だけで場所を譲ってもらうのならば、もう少々皆が言葉が通じずとも何か交流をすればよかったのだろうが……。
まぁ、そもそも皆お猿さんと実力でやる方を選んでいたのだから、問題はないだろう。
あとは、勝つだけである。
「言葉が通じないのなら、実力で分からせるしかないんじゃないかー!」
拳を天に突きつけびしっと決めポーズをとるイリス。きらきらと何か輝いてるきがしないでもない。
いや、輝いていた、掌大の炎だ! 自然の動物たちは火を怖がる。お猿さん達もびくっっとなったが、動かないことを確認すると、湯船からすら出なかった。
その姿を見たからというわけではないが、飛び出した姿がある。四郎だ!
「猿ども! どっちが上かわからせてやるっす! うきゃきゃっー!」
漸く猿たちがこいつら、出来るぞ?! という表情になった。突撃されて、右往左往するお猿さん達、そして動かないごん太。一瞥しただけである。
体の大きさと強さは自然界ではイコールであるという四朗の考えの元に、その大きな体を誇示するように立ちはだかる! ごん太以外は威圧されたように散り散りになっていく。
だがしかし、リーダーが動かないということから、まだお猿さん達にも余裕があるようで、他のメンバーの元に駆けていく!
そんな猿たちを見ながら集が呟く。
「お猿さん相手の依頼って初めてだよ……」
(これはこれで解決しないとねぇ……)
出来ればどこから来て、どう動いて、どう去るかを見極めたいと思う。追い払った後に話を引き継がないといけない。
その視線は、少々憂いを帯びていた。
(できれば、こんなことしたくないけど……)
話し合いで解決出来て居れば、と思うが、決裂した以上仕方がないだろう。
「さて、説得(物理)!」
キリィっと言い切った、麻夜。
「ボクに触っちゃダメだよー? 本気、出しちゃうから……ね」
その体には、黒い涙を流し身体中に鎖で縛られた様な痣が浮ぶ。
向かってきたお猿さんが、鎖に巻かれそうになったがぎりぎり回避した。
鎖が罅割れた後弾け跳び、残滓が舞う。お猿さんは、それをみて、あぁ、こいつらは本気だ、という表情をする。
彼らだって馬鹿ではない。通常と違うということを感じ取り、そして実力がどうやら強いぞ? と悟ってきたようだ。
「人は猿から進化したのだと誰かに聞きましたよ。ならば裸になってぶつかり合えばお互い分かり合えるはずです。彼らはサーバントやディアボロじゃないですからね」
そういうのは雅人だ。先にボスの座を狙いに行き、攻撃しては怪我をさせてしまうからと受け身で立っている四朗を見つめる。
「僕だって負けませんよ!」
とは言う物の、本音は本当にボスの座を狙いに行くのではなく、単純に種族は違えど男同士! 思いっきり喧嘩をしたあとは友達だからなーの精神で仲良くなれないかなーというものである。
四朗と肉弾戦になるかとも思われたが、アピールの方法が違う。
喧嘩ということできしゃーっと威嚇してみたが、ごん太は一瞥しただけである。寧ろ、その瞳は四朗の方をみていた。
なぜなら四朗はお猿さん達の攻撃を痛くても痛いそぶりを見せないのだ。普段なら悲鳴をあげて逃げていくはずなのに、という瞳だ。
だがしかしうきー! と威嚇して反撃するのは忘れない!
(攻撃を全て受けることで拳と拳の友情的上下関係を築くっす!)
やがて、イリスに高い高い4メートルをされていたお猿さんや、一二三の召喚獣による超音波攻撃を受けて居たお猿さん達がギブアップした。隅の方で蹲っている。
さらに、麻夜よって磔の系にされたお猿さんが多分人間なら号泣していただろう、泣き声をあげながら仲間達の元に走って行く! だがしかし、勿論攻撃は当てて居ない。居ないが刺激は強すぎたかもしれない……? まぁ温泉に入ってゆっくりすればすぐに忘れるだろうが。
ごん太がそんな状況をみて、そして四朗と雅人を見た。そして、すぐに先ほど意思疎通を図ってきた一二三をじっとみる。
今までお猿さん達を観察してきた集だからこそ分かる。これは、二度目の交渉の余地がある、と!
「話を、きいてあげて」
そして、勝負は撃退士達の勝利として終わった。
たのお猿さん達は皆を強い者として認めていたし、ごん太も雅人の心意気を、そしてなによりも四朗のその姿を認めて居た。ボスの座というのを譲り渡すかどうかは別としてである。
ずっと、仲間を引き連れていけるわけではないので、あくまでも今この時だけの臨時ボスという形だろうか?
負けたお猿さん達は、それは従順である。皆が、お猿さん達が怪我をしていないか等をチェックするが、威嚇することもせず、猿だけど借りてきた猫状態だ。
麻夜と一二三がバナナや野菜を渡せば、案外こいつらいい人じゃん! となったお猿さん達がなついてきた。現金かもしれないが、そこが動物たるゆえんかもしれない。
そこに、従業員を呼びに行った八握とカラスが従業員と宿主を連れて戻ってきた。
軽く説明をしてあったので、話しはスムーズに進む。
特に、麻夜と集の説明には従業員と宿主双方が大きく頷いた。
「観光地として名物にもなるから客寄せにも使えそうだし、アリだと思うんだけどなぁ」
「観光の名所になる可能性もあるからね。共存共栄、的な感じかな?」
やはり、観光の名所や客寄せというのに経営者としてはやってみる価値があるだろうと思ったようだ。
ちょうど、人が入るには景色的な問題で先送りしていた場所があるという。お猿さん達に景色は不要だろうし、少し離れた場所にあるから、例え動物が苦手な人でも無理なく入ることが出来るだろう。
まぁ褌姿で無言のプレッシャーをかけてくる雅人の圧力に負けたことも、多少は否めないと追記しておこう。
●皆で作って?
本格的な物は後で作るから、というわけで、作る予定の場所をお猿さん達に教えてやり、今日は簡易のお風呂で我慢してねと皆で石を積み上げる。
お湯をせき止め作ったそれは、お猿さん達には十二分に大きく。
ウキー♪ と楽しそうである。
先ほどまでの恐怖を忘れたわけではなかろうが、切り替えは早いのだろう。
敢えて毛づくろいも出来そうな大きな岩とかも置いてやったりと、至れり尽くせりである。
………あれ? ちょっと誰かいるような気がしますけど、気のせいですよね! だって、そんなお猿さん達を見つめる7人の表情は優しいですし!
「うきゃっ! うきゃきゃー!」
ひと際大きな影が、お猿さんたちの中にあったという……。
●温泉温泉♪
お待ちかねの温泉である!
青空の下、景色は抜群だ! そこにもぞもぞと持ちこんだ物を置いていく面々。
「自家製コーラで熱燗……」
それは、どうなんだろう? という視線にさらされ、キンキンに冷やすことにするイリス。
お湯はゆったりとその体を癒す。じんわりと暖かな温度が、皆の体に沁み渡って行った。
麻夜が髪を結いあげ、学校指定の水着に身を包みながら呟く。
「あ、あとで温泉饅頭食べたいかも……」
その手には、一二三から寄こされた温泉卵を持っている。一二三特製の温泉卵を手に持つのは麻夜だけじゃなく、集もだ。髪を同じく結いあげ、トランク型の水着に身を包み、ぼんやりと思う。
(というか、水着着用でも混浴は青少年にとってちょっと刺激が強いと思うんだ)
「いや、俺は大丈夫だよ、うん」
「なにが?」
自分用の温泉卵をぱかっとした一二三が首を傾げる。
「いや、………なんでもない」
麻夜が何か気がついたのかくすくす笑っていた。一二三がじっくりと緑あふるる景色を見ている……後ろで、そう、後ろで物凄いことが起ころうとしていた。
イリスと雅人がお猿さん達が居る方の温泉を見ながら話していた。
そこに、数匹のお猿さん達がやってくる!
「あれ、君達どうしたんだい?!」
大体お猿さんに水着が取られるなんていう古典的なハプニングが起こるわけなどないではないか! というわけで、持っている一二三特製の野菜とかが欲しいのだろうか? と差し出せば、お猿さんがにやっと笑った気がした。
しゅばっ!!
その動きは素早かった! 目にもとまらなぬ速さで水着(上)を取って行くのだから!
「みゃーーッ!? な、ななななな何をするっかなー!? 乙女の肌をさらそうなんて何を考えてッ!」
慌てて抑えたその両手から見える肌色。そして、ふと感じた視線に、涙目になる。
「ちくしょーっ!? なんだそのがっかりした顔はーっ!?」
泣くよー?! と雄たけびを上げたイリス。だがしかし、ちらっと見えるか見えないかだったのだし、、多分見えなくてがっかりした表情だったかもしれないじゃないか! それは、神のみぞ知るということかもしれない。
紳士を気取っていた雅人にも、魔の手が伸び………。
「あぁぁぁぁぁ??!!」
「ウッキャッキャー!」
という声とともに、誰かが投げた風呂桶とか手拭いとかが色々な物を隠していく。大丈夫、誰も何も見てない。
そして。
「見えない……」
見えないというより、見ないが正しい集がそのまますいーっと温泉に潜って行った。
そして、多少? のハプニングがあったが、のんびりと浸かる。そして、一人猿用温泉に浸かっていた四朗が、最後にこう呟いたという。
「楽しかったっすけど、女の子の水着もみたかったって感じっすよね……」
まぁ、女の子の水着は見れなかったけれど、普段あまり体験できないお猿さんとお風呂ができたからいいのではないだろうか?
楽しい時間は、こうして過ぎていくのだった……。