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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/04/02


みんなの思い出



オープニング

●異形の影

 灰色の空の下、まとわりつくような濃い霧が水平線をもぼやけさせていた。
 昼だというのに辺りは黄昏時のように暗い。
 エンジンを止めて進むホバーの上で、四方初め撃退署所属の撃退士達は息を殺す。
 やがて舞鶴国際埠頭の岸壁が、霧の中から現れた。
 その縁を隙間なく覆う赤く奇怪な樹木が、モノクロの視界の中でいやに映える。
(いくぞ)
 無言で頷き合う撃退士達。
 アストラルヴァンガードが生命探知で感知した斥候ディアボロの位置をレーザーポインタで示し、ゴーグルを嵌めたインフィルトレイターがそれを撃ち抜く。
 カラス大のエイのようなディアボロが幾体か海に落ちて行った。
 続いて数人が大ぶりの得物を構えて進み出る。不安定な船の上で、互いに邪魔にならない足場を確保し、一斉に赤い樹木に打ちかかる。
 激しい連打に一角が崩れ、大量の液体と共にべきべきと音を立てて樹木が海になだれ込んだ。
 が、撃退士達の顔には見る見る落胆の色が広がっていく。
「……ここもハズレか!」
 広げた網にかかるのは赤い破片ばかりだった。

 そこに飛ぶ鋭い警告。
「来たぞ!」
 斥候が示す方角の海面が白く泡立っていた。
 操舵手がエンジンをかけ、ホバーは息を吹き返す。急速展開とほとんど同時に、海から飛び出て来る無数の影。
「近づけるな、やられるぞ!」
 アウルの光が幾筋も延びゆき、小さな影を射ぬく。その度に水風船が割れるように薄青い液体が飛び散った。
 海面に白い筋を引いて、艇がその場を離れようとする。が、影の一体が脇から飛び出し、宙を舞った。
 べしゃり。
 特殊ゴム製の黒いホバーの縁にぶつかった影は、液体を撒き散らして潰れる。
 その液体は流れながら、黒い表面を溶かし、だらりと海面へ垂れて行った。
「洗い流せ! 早く!」
 放水用のノズルが水を噴き出す。
「いかん、例の奴が来たぞ! 急げ、離脱しろ!!」
 白く泡立つ海面は見る間に膨れ上がり、黒い影が立ちあがった。
 ホバーは激しい波に抗いながら、どうにかその場を離脱する。
「危ないところだった……」
 ようやく一息ついた隊長格の男が、ふと四方が手にしたものに気付く。
「それはなんだ?」
「……捕獲に成功しました。こいつが潰れると、あの妙な液体を出すようです」
「何だと?」
 四方の掴んだ網の中では、青いトビウオがのたうっていた。


●依頼

 斡旋所からの連絡に、中山律紀(jz0021)は急いで駆けつけた。
 相手は京都府北部方面所轄の撃退署職員、四方である。既に舞鶴市でのディアボロ絡みの事件で幾度も顔を合わせている相手だ。
 いつもと同じように、学生である律紀相手に丁寧な口調で切りだす。
『お忙しいところをすみません』
 電話の向こうで恐縮する様子が目に見えるようである。

 現在、京都府舞鶴市の舞鶴西港は冥魔ゲートの結界内にある。
 ゲートの中心部は舞鶴国際埠頭にあると推測されているが、埠頭の岸壁は珊瑚の様な赤い奇妙な巨大ディアボロにびっしりと覆われており、正確な位置は確認できていない。
 撃退士達が珊瑚樹と呼んでいるこのディアボロは、特殊な液体が入った水泡を持ち、人間を生きたまま眠らせ続けることができる。
 久遠ヶ原学園の撃退士達も参加した作戦を含め、これまで数百人の人々がその珊瑚樹から救い出されてきた。
 そしてわかった事。それは、珊瑚樹に囚われた人間は『夢を見るように』外の出来事を認識できるということだった。
 目の前で救い出される人々がいる。だが自分の順番が回ってくる前に、化け物が表れて救いの手は去ってゆく。その様をずっと見ながら、人々は囚われていたのだ。
 期待と絶望。それにより、人の魂は悪魔にとって一層良好な状態に変化する。
 もはや一刻の猶予もならない。
 撃退署は可能な限りの人員を集め、自衛隊の協力も得て、多くの珊瑚樹を外側から突き崩して行った。

 だがここに来て『空振り』が増えてきたのだ。珊瑚樹を叩き壊しても、中から出て来るのは培養液ばかり。
 しかも海中から妙な物体が襲ってくるようになった。
『調査したところ、これもディアボロでした』
「面倒ですね」
 律紀が眉をしかめる。どうにもこの海域の敵は陰湿だ。
『そこでまたご協力をお願いしたいのですが……』
 四方が切りだし、律紀は改めてその声に耳を傾ける。


●悪魔

 大量の飛沫が辺りに飛び散った。
 巨大な蛟の下半身をずるりと床に滑らせ、人間の男の上半身が長い三叉戟を振るう。
 男は近寄る人影に気付き、声をかけた。
「もう傷はいいのか」
 美しい金髪を揺らし、サキュバス・ラリサ(jz0240)は膝を折る。先の戦闘での傷跡は綺麗に消えていた。
「お陰さまで。カダ様にはお礼の言葉も見つかりません」
「お前の姿形は人間に対する力。治癒に使った力は、お前の主の分け前から引くまでよ」
 カダと呼ばれた悪魔は淡々と答える。だが心の内では考えを巡らしていた。
(このヴァニタス、そろそろ用済みかもしれん)
 地球にゲートを開くために、カダは多くの力を費やしてきた。
 作り出したヴァニタスは2体とも失われ、ゲートを開く間の守りが心許ない。
 そこでラリサを借り受け、無事にゲートは開いた。後は熟成を待って魂の収穫を待つばかりだ。

 囚われた事による恐怖と、救いの手が届かない絶望。そしてラリサの与える恍惚。
 これらにより魂の熟成が進んだ人間を、カダは頃合いを見て身近に集めてきた。
 そろそろ全てを喰らい尽くせば、これまでに使った力を補った上で充分な力を得られる。
(欲を言えば、もう少し熟成を待ちたいところではあるがな)
 カダは喰い時を思案する。
 ラリサは役に立ってきたが、過度に撃退士に干渉しすぎるのだ。
 既にカダ自身と手持ちのディアボロでゲートは維持できる。
 ラリサの助力と、魂の分け前と。カダは天秤にかけ、思案を続ける。


リプレイ本文

●出航

 現地では撃退署の四方が待ち構えていた。
「今回もご協力有難うございます」
 案内された先には2艇の特殊ホバーが待っていた。若干スピードは犠牲になっているが、厚い装甲が覆い、弱いディアボロ程度なら一撃で沈むようなことはないという。
 事前に頼んであったブルーシートは既に積みこまれていた。
「気休め程度だが。無いよりはましだろう」
 巌瀬 紘司(ja0207)が早速一隻に乗りこみ、シートを広げる。
 作業を手伝いながら、クロエ・キャラハン(jb1839)が確認するように言った。
「巌瀬先輩はハンザキを知ってるのよね?」
「良く知っている」
 答えは簡潔。だが複雑な心境がにじみ出ていた。
「ハンザキって結構強かったけど。今回の影って、ハンザキより強いのかな」

 クロエはこれから向かう先を見遣った。
 灰色の空に突き出た岸壁は、薄紅色に縁どられている。あれに絡め取られている多くの人の事を思うと、一刻も早くと焦燥感に駆られるのだ。
 手を止めないままクロエが語る。
「ゲートができる前に出てきたハンザキ以外のディアボロって、そんなに強くなかった感じよね。もし影がここのゲート主の配下だったら後で作ったんだと思うけど。ハンザキより強い配下って、そんなにすぐ作れるものなのかな?」
「どうだろうな」
 紘司は耳を傾けながら、ブルーシートの具合を調整する。いずれにせよ、ゲートが作成された目的は一つ。人間の魂を吸収する事だ。
 雀原 麦子(ja1553)が少し名残惜しそうに、飲み干したビールの缶を潰した。
「ま、今回の目的はその辺りを調べる事よね。オハナシできたら多少分かるんじゃないかしら?」

 桜井・L・瑞穂(ja0027)は艇の上から水平線を見つめる。
「如何なる相手か存じませんけど、必ず正体は暴いてみせましてよ」
 敵は影だけではない。そこにはヴァニタス・ラリサもいるはずだ。
(あの女は今、何をしていますのかしら?)
 だが今は、気持ちを切り替える。
 瑞穂は私情に惑わされて目的を見誤ることはない。
(ともあれわたくし達は責務を果たしませんと)
 艇に乗り込みながら、黒井 明斗(jb0525)は思案する。
(ラリサさんだけでも厄介なのですが。謎の敵とは難儀な話ですね)
 それでも怖気づいたりはしない。できる限りの事はやる。
「当然です。その為に来たのですから」
 瑞穂に答えるように、そして自分に言い切るように。
 それでもこみ上げる物はある。艇に座を占めた神谷春樹(jb7335)は固く拳を握りしめた。
「ラリサ。今度こそ雪辱を果たして見せる……」
 ロキ(jb7437)はその傍らにさり気なく寄り添った。

 艇が出ようとする時に、ポラリス(ja8467)が駆け寄ってきた。
「はいはい、カメラ持ってる人よろしくね!」
 明斗は防水ケースにセットしたカメラを手渡す。
「あとで返して下さいね」
「もちろんよ!」
 預かったカメラの具合を確かめ、ポラリスはふと船縁から黒い海を見おろした。
 未知の敵との戦いを前に、さすがに緊張気味なのを誤魔化すように明るい声を上げる。
「うー、私あんまり泳ぐの得意じゃないのよね……万が一落ちたら誰か引っ張りあげてよ! ね!」
 身震いするように呟くと、中山律紀(jz0021)が重々しく答える。
「……なるべく落ちないように頑張ってね」
「え、それちょっと酷くない!?」
 居並ぶ艇のエンジン音が高くなり、静かに岸壁を離れて行く。


●トビウオ爆弾

 公務員撃退士達が埠頭に艇を寄せ、一斉に駆け上がっていく。
 それを見届け、麦子、明斗、ポラリス、クロエ、律紀らA班が乗り込んだ艇が沖寄りに、瑞穂、紘司、春樹、ロキらB班艇がやや岸寄りに停止した。
「上手く写ると良いんだけどね」
 ポラリスは動画モードに設定したデジカメをあらゆる方向が撮影できるように固定し、ビニールで厳重に包み海中に降ろす。
 尤もデジカメの耐水性能では精々5mがいい所だ。ロープを調節し、長さを固定した。
 紘司はビニール袋にフラッシュライトを包み海中に降ろす。
「少しでも足しになればいいのだが」
 デジカメの写りが多少なりとも良くなるようにとの考えだ。

 その間に瑞穂、明斗、律紀が生命探知で周囲の気配を探る。
「……ちょっと多すぎるかな」
 律紀が呻いた。生命探知は対象の大きさまでは分からない。多くの生き物に溢れた海では、反応が多すぎるのだ。
「こちらに接近する対象、それも一定のスピードの物に注意しましょう」
 明斗が艇から身を乗り出すようにして水面を睨んでいる。
 生きるために動く存在と、明確な意図を持って接近する存在には違いがあるはずだ。

 果たして、それは現れた。
「来ました! 北北西の方向10mの所を上昇してくる物体、多数っ!!」
 言うが早いか、明斗は腕を突き出す。その手に輝く星のリングから流星を放ち、波間に見えたトビウオ型ディアボロに叩きつける。
 ポラリスとクロエがバランスを取りながら、長射程を生かして飛び上がる銀色の影を討ち抜いた。
「上から叩きつけて、こちらに腐食液が飛ばないように……!」
 クロエは不安定な足場で、極力姿勢を高くして狙い撃つ。
 その間にも、群れは何者かに導かれるようにこちらに集まってきた。
「思った通りね」
 クロエが密集地点に向けて氷の夜想曲を放つと、動かなくなったトビウオが幾つも浮かび上がってくる。
「なるべく東側を狙ってください。埠頭側に追い込みましょう」
「わかったわ!」
 明斗の提案にポラリスが即応。東側に狙いを定めると、自然と西寄りに魚群は密集する。
「逃げ場はありませんよ。これでどうですか!」
 眩く輝く彗星が、水面に照り映える。銀色の身体を瞬間輝かせ、数体のディアボロが弾けた。


 A班の交戦を確認し、瑞穂は星輝装飾を発動する。
「紛い物の魚に此の美しさが理解出来ますかしら?」
 満天の星空の如く光子が2艇の周囲に舞い、その中心で瑞穂は手の甲を口に当て飽くまでも上品に高笑いする。
 勿論トビウオ型ディアボロへの目晦ましもあるが、今回目標とする謎の影に知能があれば、何らかの反応を示すかもしれない。
 何かの指示があったのかは判らない。だが魚群は明らかに分かれ、そのひとつがB班の艇へと回り込む。
「接近されると厄介だ。距離が離れているうちに叩こう」
 紘司が声をかけ、放水ノズルの傍で楯を構える。
「まったく、美しさの欠片もない魚ですわね!」
 瑞穂が純白のドレスを纏った姿となり、光の翼を広げる。花の意匠も豪奢なアウルの槍を海に向かって投げ入れると、魚群が分断される。
 分かれた一群が接近するのに合わせ、紘司は審判の鎖で動きを止める。
「所謂雑魚か……」
 確かにトビウオ自体の攻撃力はさほどでもなく、抵抗力もかなり弱いようだ。

 それでも数が多い。次々と海面を飛び出しては艇に襲いかかる。
 びしゃり。
 ブルーシートの表面でトビウオが見る間に潰れ、透明な液体が流れる。
 すぐに紘司が放水ノズルで洗い流すが、所詮はブルーシート、すぐに崩れて行く。だがほんの一瞬でも船体自体へのダメージは軽減できるようだ。
「こうしておけば!」
 春樹がラジエルの書を取り出し、上に向けた。アウルが作りだしたカードの幻影が、飛び上がったディアボロを切り裂く。が、間近で潰れたディアボロは飛沫を撒き散らし、そのまま落ちて来るのだ。船縁に、春樹に、危険な液体が流れ落ちる。
「危ない、春樹!」
 ロキが春樹を艇内に引き倒し、緊急障壁を展開。己の身体でトビウオを受け止める。
「動くな!」
 紘司が放水ノズルを向け、ロキごと艇を洗った。腐食液を撒き散らせば船底に穴が開きかねないのだ。

 ディアボロの群れは今や、群れと呼ぶには隙間だらけの状態だった。
 突然、その散り散りの影が、何かの合図があったかのようにまとまり沖へと泳ぎだす。
「来ましたわね。皆様、お気をつけになって!」
 瑞穂が注意を促す。黒く盛り上がる波頭が北側から迫りつつあった。


●影の正体

 影は巨大だった。
 筋骨逞しい男の上半身に、蛇の下半身。見えている部分だけで2m程はあろう。人間の腰あたりに大きな鰭を翼のように広げ、見る間にこちらに近づいて来る。
 麦子はその姿に不平を漏らす。
「えー……マッチョはいいけど髭がないじゃない! どういうこと!?」
 非常に大きなお世話である。律紀は苦笑いを浮かべた。が、それも麦子の作戦の内なので黙って見守る。
「まあいいわ。タイ捨流、雀原 麦子、手合せ所望するわ!」
「手合わせだと……? くくく、面白い奴だな」
 化け物が口をきいた。少なくとも会話が可能な知能を持っている。
 クロエが口元をぐっと引き締めた。
 まだ埠頭からの連絡はない。これだけの時間をかけて、まだ侵攻できているのなら。
(ゲートの主は埠頭にいないのかも……ということはこいつが?)

 青く長い髪の隙間から金色の目を剥いた化け物は、値踏みするように撃退士達を見渡す。
「子供や女もいるのか」
「ねえちょっと。こちらが名乗ってるのよ、名前くらい名乗れないの? 無ければ私がつけましょうか?」
 麦子がふんぞり返って啖呵を切った。
「知ってどうする? まあいい。我が名はカダ。逆に訊こう。我が配下を屠ってきたは、お前らか」
 紘司の手に力が籠る。ハンザキ。そして恐らくは、滋賀県で倒れた奥居一彦。これまで相まみえた2体のヴァニタスの主がこのカダと名乗る悪魔なのだ。
 クロエもまた、無言でカダを見上げる。こいつを倒さなければ、囚われた人々は救えない。
「礼はさせてもらうぞ」
 カダが三叉戟を振り上げる。ほぼ同時に撃退士達も動いた。
「そうこなくっちゃね♪」
 麦子が不敵な笑身を浮かべ、強弓を引き絞る。

「さて、どんな動きを見せて下さいますかしら?」
 B艇で少し離れた映像を撮ろうと、瑞穂がデジカメを水中に入れる。
 その間もトビウオ型ディアボロは飛び込んでくるので、手が塞がっている間は仲間が頼りだ。
「フォローは宜しくお願いしますわ」
「任せてもらおう」
 紘司が楯を構え直す。


 麦子が放った矢は海風を物ともせず弧を描き、カダの肩口を僅かに掠めた。
「早い……!?」
 図体が大きい割に、良く動く敵だった。明斗が間髪いれずに続く。
「いきます」
 明斗の指から流星が伸び、僅かに赤い筋の走るカダの肩を狙う。
 同じ場所を幾度も攻撃すれば、少しずつでもダメージは積み重なるはずだ。
「ははは、それだけか?」
 カダは高笑いで波間に消え、再び思わぬ場所から現れた。足場が定まらない撃退士に対し、相手は水の中を自在に泳ぎ回る。
 それでも麦子と明斗は休まずカダを攻める。

「もう少し……よし、今よ!」
 僅かに盛り上がった海面目がけ、ポラリスがマーキングを撃ち込んだ。
 カダの起こす大波に煽られ、ポラリスが船底に手をつく。
「ひっくり返されちゃうっ! 潜り込まれないように気をつけて!」
「ラジャー!」
 操舵手はポラリスの指示通りに艇を操り、カダを翻弄する。
「少しでも役に立てばいいのだけど」
 クロエがナイトミストを艇にかけ、回避能力を上昇させた。
(今までは接近攻撃狙いね。他に何か必殺技とか持ってないのかしら)
 激しい波を乗り越えて行く艇から転がり落ちないよう、合間を見ては攻撃を続ける。
「中山君、今こそ新聞同好会の出番よ! 激写お願い!!」
「実は原稿書く方が多いんだけどね!」
 ポラリスに発破をかけられ、律紀がカメラを構える。
 正にその時、僅かに沖に距離を開けていたカダが三叉戟を振るい海面を叩いた。
 衝撃波が真っ直ぐに麦子目がけて襲いかかる。
「なんの、これぐらいで……っ!?」
 足を踏ん張り攻撃に耐える。が、直ぐに膝をついた。氷のように冷たい波を浴び、身体が思うように動かない。
「麦子さん、大丈夫!?」
「へーきへーき! それよりしっかりお掃除頼むわよ!」
 律紀が手を離せば、トビウオが艇に穴を開けてしまう。麦子は敢えて笑って見せる。


(ふん、中々良く動く)
 カダは内心焦りを感じていた。
 直ぐに蹴散らせる相手と思い、ゲートの守りをラリサに任せてきたのだ。
(あの女、この連中にぶつけた方が良かったか……?)
 ラリサは撃退士の中でも、若い連中を目の敵にしている。必要以上に突進させぬよう、敢えてゲートに残したのだが。
 だが今回はそれが正解だったようだ。少なくともカダはそう思った。
 ラリサに追い立てられ、原住民が埠頭から転がり出て来るのが見えたからだ。

 春樹はB艇に群がるトビウオを叩きながらも、埠頭をずっと意識していた。
「来た、ラリサ!」
 かつて煮え湯を飲まされた相手。
「今度は小細工は無しだ。最初から本気でやってやる」
 得物を隼の銘を持つ和弓に持ち替え、艶やかな姿が近づくのをひたすら待つ。
 ロキは春樹の傍で魔法書を開いた。
(春樹は絶対に傷つけさせない……!)
 だが今回の目的はあくまでも謎の影の調査、そしてコアの位置特定だ。
 四方の声が届く。
『お疲れ様です、コアの位置確定しました。こちらは離脱します!』
 瑞穂はきっと顔を上げ、ラリサの姿を睨みつけた。
「貴女とは、また今度踊らせて下さいな」
 クリアランスを万一の場合に備え活性化し、腰を落とす。再戦の機会はきっとある。
「行きます、掴まって!」
 操舵手の声と共に、紘司はブルーシートを止めていた紐をほどいて海に落とした。その目晦ましの間に瑞穂は海中のカメラを引き上げる。

 B艇が離脱するのを確認し、カダと対峙していたA艇も離脱の準備に入る。
「手は確認できましたね」
 明斗が言うと、麦子が頷く。
「結構楽しかったけど、デートはまた改めて!」
 強い一矢がカダに向けて飛ぶ。
「馬鹿め、何度射ようと当たらぬわ!」
 高笑いと共に三叉戟を構えるカダ。その手元をクロエが狙う。
「さあどうかしらね?」
 攻撃しようとした瞬間を逆に狙われるのは煩わしい。苛立ちがカダの集中力を奪う。
「いきます」
 明斗が最後に残していたコメットを放つのと、艇が向きを変えるのはほぼ同時だった。
 切り離したブルーシートをはためかせ、エンジン音高く艇はその場を離脱する。

「しまった……!!」
 カダが歯噛みするも、機械の速度には叶わず。
 ――陸地に追い詰めるか?
 その考えをカダは振り払う。いつまでもコアを空にしておくわけにはいかない。
「まあいい。次に遭った時こそ、捻り潰してくれるわ」
 巨体が波間に遠ざかって行った。


 戻った岸辺で傷を癒し、改めてデジカメの中身を確認する。
「さすがに水中のは無理みたいね……」
 ポラリスが溜息をついた。トビウオディアボロや他の魚が邪魔して、肝心のカダの姿は残っていなかったのだ。
「水中での視界は限られますからね。実は我々も何度も失敗しています」
 四方が苦笑いを浮かべる。
 それでもコアの位置を特定し、敵の姿を視認した。
 あとは。
「ゲートを破壊して、結界の人達を助け出すのよ」
 クロエが自分に言い聞かせるように呟いた。


<了>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
揺るがぬ光輝・
巌瀬 紘司(ja0207)

大学部5年115組 男 アストラルヴァンガード
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
今年は絶対焼かない・
ポラリス(ja8467)

大学部4年263組 女 インフィルトレイター
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
月華を謳うコンチェルト・
クロエ・キャラハン(jb1839)

卒業 女 ナイトウォーカー
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
氷れる華を溶かす・
ロキ(jb7437)

大学部5年311組 女 ダアト