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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:11人
リプレイ完成日時:2012/02/17


みんなの思い出



オープニング

●女王の襲来
 自然派民芸風レストラン「東風」を経営する、安藤氏(57)の電話は涙声だったという。
 
 「東風」は元々契約農家から送られてくる、季節の安全な素材で作った料理が売りの店だ。
 それが最近、自家製蜂蜜を使った限定スイーツが地元グルメとして話題になり、休日は雑誌の切り抜きや携帯を手にした老若男女が列を作る程になっていた。

 そんなわけで、店から少し離れた山にある養蜂用の施設もちょっとした規模になっていた。
 巣箱は温度・湿度管理の行きとどいた部屋に整然と並び、レストランの従業員とは別に養蜂専業の社員が常にミツバチの様子をチェックしている。
 このレベルになると、巣箱を置いて後はミツバチ任せ、というわけにはいかない。蜂蜜確保のために、契約農家のレンゲや菜の花の畑に巣箱を置かせてもらうのだ。


 その日も養蜂場では、巣箱10箱をトラックに積み込むところであった。
 まさにその時。異様な生き物が姿を現した。

 人間の背丈程の巨大なハチ。スズメバチに似ていたが、頭部と胸部に比して、腹部が妙に大きい。女王蜂だ。
 ――明らかに自然の生物ではない。
 女王蜂は羽音を響かせて巣箱に近づき、悠然と降り立つ。

 人々は養蜂場の施設に逃げ込んだ。
 窓から伺うと、巨大な女王蜂は巣箱の上を探るように移動していた。
 
 最初に女王蜂が降り立って、暫くたった頃。
 ふわりと浮き上がるように、大人の拳大のハチが現れた。その周りには巣箱のミツバチが狂ったように群れている。そのハチの集団が、真っすぐ養蜂場に向かって飛んできた。
 一団のミツバチが壁に激突する音が、激しい雨のように養蜂場の中に響く。蜂の中では大人しいミツバチには考えられない行動だ。その異常を察知したのか、養蜂場の中のミツバチ達も騒ぎ始める。
 

 養蜂場からの電話は、この異状を報告してきた社員の絶叫で途絶えた。
 ニュースで耳にしたことはあるが、まさかこれが天魔という奴なのか?危険を感じながらも、様子を見に行ってしまうのが人間だ。
 安藤氏は愛用の原付で養蜂場に向かった。
 
 そこで目にしたのは、巣箱の上に鎮座する巨大な女王蜂と、それに従うように宙に浮かぶ3塊のハチの集団。一つが大人の頭ほどあろうか。
 物陰に隠れながら近づき、窓から養蜂場を覗き込んだ安藤氏は、その瞬間眼をそむけ、激しく嘔吐した。僅かに残った衣服からそれと判るだけの、かつてヒトであった血肉の塊が無残に転がっていたからだ。

 よろめいた足が、一応準備してきた燻煙器に当たり、思わず座りこむ。
 そこへ数匹のミツバチがつい、と近寄った。それが集団を呼ぶことに気付く。
 破れかぶれで燻煙器を手に煙をまき散らすと、ミツバチ達は塊を解き、散らばった。
 その隙に原付にまたがり、安藤氏は全速力でその場から逃げ出した…。

●厄介な依頼
「依頼内容は、ハチ型ディアボロの撃退です」
 久遠ヶ原の依頼斡旋所で、大学生風の男性職員がコピー資料を撃退士たちに配布した。
 養蜂場内に逃げ込んだ人に即危害を加えている点からみて、敵はディアボロと判断されたらしい。

 資料に現場の見取り図がある。
 養蜂場は平屋建て1棟。
 中庭に建物から20m離れて平行に5×2で10個巣箱が並んでいる。この上で女王蜂が発見されたということになる。
 運搬用に用意されていた有蓋型小型トラックが一台、鍵がついたままで巣箱の近くに停車中だ。
 巣箱は他に養蜂場の建物内に30個。
 巣箱はいずれも標準的な段ボール箱を3段積み重ねた程度の大きさらしい。

「依頼主が目撃した時点ではまだディアボロ達は養蜂場の外にいたようですが、その後の確認は取れていません」
 最初の事件より遅れて到着した依頼主が確認した時点で、ディアボロは4体。
 情報にある出現スピードから考えると、もっと多くても不思議ではない。ディアボロの数に上限があるか、他の何らかの要素により、攻撃型ディアボロをやたらに作りだすことはできないのかもしれない。
 勿論、その後増えている可能性もあるのだが。

「今回の依頼の特に厄介な点ですが」
 厄介でない依頼など聞いたことがない。そう思いながらも撃退士たちが居住まいを正す。

「まず、ミツバチが攻撃してくることです。依頼主が従業員用の装備を用意してくれるそうですが、普段通りの立ち回りは難しいでしょう」
 ミツバチは針を使うとちぎれて自分が死んでしまうため、滅多に攻撃してこない。だが、攻撃型ディアボロに統率されているせいか、普通では考えられない行動をとっている。
 大量のミツバチに刺されては撃退士とはいえ、命に別条はなくとも痛みは相当なものだろう。

「ミツバチを駆除する手もありますが、ハチは仲間を殺されると興奮し凶暴になります。また燻煙器で依頼主が難を逃れていますので、ミツバチは操られているだけのようです。依頼主の損害も考えると、ミツバチは無駄に殺さない方が望ましいでしょう」
 なかなか面倒な注文だ。

「次の問題は、攻撃型ディアボロが小さいことですね」
 蜂のスピードで動きまわる拳大の敵。確実に攻撃を当てるのは確かになかなか難しい。逸れれば誰かを巻き込む可能性もある。

「現時点では養蜂場以外での被害報告はありません。ですが、ディアボロが移動し今後被害が拡大する恐れがあります。早急に対策が必要でしょう。この任務を受けていただける方は、即出発となりますので準備してください」
 
 それまでのざわめきがピンと張りつめた空気に変化し、撃退士たちが一斉に立ち上がった。


リプレイ本文

●いざ、玉座へ
 依頼人の安藤氏がワゴン車を止めた場所からは、養蜂場の建物の屋根がよく見えた。

 高坂 涼(ja5039)は事前に燻煙器の使い方をしっかり教わった。片手で本体を持ち、もう片方の手で空気を押し込み、煙を噴き出す仕組みだ。
「うんうん、大丈夫そうだ。蜜蜂はその煙を浴びると巣に帰りますからな。上手く使ってくださいよ」
 しばらく使ううちに、安藤氏のお墨付きが出た。
 アイリス・ルナクルス(ja1078)は、その様子を横目で見ながらひそかに期待する。
「蜂蜜…あとでもらえないかなぁ」
 呟きに、涼が目を輝かせて同意を示す。

 移動中の車内で、月臣 朔羅(ja0820)がケミカルライトを全員に配布した。イベント会場などで見かける蛍光色に光る棒だ。腕輪にすれば、燻煙器の煙が籠っても互いの位置を把握できる。
 玄武院 拳士狼(ja0053)は腕に巻きつけようと何度か試した結果、防護服のベルト穴にぶら下げた。彼の逞しい腕には長さが足りなかったらしい。

「うう、蜂の敵かあ……」
 紅葉 虎葵(ja0059)は嘆息しつつ建物を仰ぐ。
「でも頑張らなきゃ依頼人さんが大変だしね、うん、頑張るぞ!」
 苦手でもやることはやる。ぐっと気合を入れた。

 虎牙 こうき(ja0879)は打ち合わせの内容を反芻していた。その右眼は、本来の蒼色になっている。
「…と、そして3つ目のスクロールは出来れば戦いの終わりまで取っておく…」 
 アストラルヴァンガードの彼には、戦闘と同時進行で回復のタイミングを見極めることが要求される。

 拳士狼、燻煙器担当の涼、そして彼の防御担当の虎葵が、防護服を身につけている。
 多少動きにくいが、充分な空間を取って目の細かい網が顔を覆うので、視界は割に良好だ。
「本当に他の方は、装備はいいんですか?」
 依頼人の安藤氏が心配そうに見渡す。
「熱そうなので嫌なのですよ〜っ」
 アイリスがぱたぱたと顔を仰ぐようなしぐさをした。
「綺麗さっぱり駆除してくるので、待っててくださいなのですよ!」

「くれぐれもお気をつけて!何かあったらすぐ学校の方へ知らせますから、連絡くださいよ!」
 一同は、目的地まで一気に駆け上がる。

●宣戦布告 
 建物前の広場には巣箱が綺麗に並んでいた。
 山の爽やかな風が、蜂蜜の甘い香りを運んで来る。
 
 建物の壁一枚向こうの惨劇が嘘のような、のどかな光景だ。
 その元凶が、眼前に待ち構える。
 玉座に鎮座する女王のような巣箱の上のディアボロ。

 養蜂場の壁に、桜井・L・瑞穂(ja0027)の高笑いが反響した。
「人様の城を奪う女王なぞ笑止千万。早々に駆除しますわよ、おーっほっほっほ」
 宣戦布告である。

 将来的に経営者を目指す彼女には、大事な従業員を失い、事業施設を占拠された依頼人の気持ちは痛い程判る。
 判るから、協力はお断りする。経営者には将来への責任があるのだ。

 彼女の言葉を解したわけはないだろうが、不意に現れた8人の人影に、敵が反応した。
 
 女王が羽を振るわせると、巣箱の陰、建物の中から拳大の大きな蜂が現れた。攻撃型のディアボロだ。餌食を求め、辺りを飛び回っていたのだろう。
 巣箱から一斉に蜜蜂が飛びだし、大きな蜂を核に巨大な塊となって群れる。
 静かな光景は一変し、禍々しい羽音が周囲を埋め尽くす。
 

 涼が燻煙器に火を入れる。両手が塞がる涼が配置につくまで、峯月 佳織(ja5831)は楯を構え突進する陽動役だ。
「…守りきる…」
 その佳織とは距離を取って、虎葵が涼の前方でガード。

 涼が普段通りの柔和な微笑のまま言う。
「皆さん、戦闘は任せたよ…僕はミツバチ達を大人しくさせなきゃ、ね」
 今回は、戦えないばかりか身動きも取れそうにはない役割だ。だが、皆が勝利する事は確信している。だからこの役目を引き受けた。
 わが身の心配はしていない。

 佳織は無言のまま、虎葵に目で合図。
 地を蹴って、正面に躍り出る。

 蜂の集団は一斉にそちらへ注意を向けた。
 反対側から、涼がそのうちの一つに燻煙器の煙を浴びせる。
 と、蜜蜂は一斉に塊を解き霞のように広がると、狼狽したように辺りを飛び回り、そのまま我先に巣箱へと飛び込んでいった。
「ミツバチさん達には、美味しい蜂蜜を作って貰わないとね?やっぱり」
 劇的な効果に喜ぶ暇はなく、護衛を失って丸裸になった大きな蜂が、涼に襲いかかる。

「殘月光冷やかに、狂疾に因りて殊類と成り、相仍りて逃がるべからず。爪牙、誰か敢て敵せん――オン バザラ アラタンノウ オンタラク…ソワカ!!」
 虎葵の玉髪飾りが踊り、残光を引きながら翻ると、長大な剣がその手に現れる。
 涼の前に回り込み一閃、蜂の薄羽の切れ端がぱっと宙を舞う。

 
 ほぼ同時に、アイリス、拳士狼が飛び出す。
「攻撃型をこちらに陽動ですね、了解しました。…ですが…別に倒してしまっても構わないんでしょう?」
 アイリスの身体を血のような赤黒い煙状のオーラが覆う。
「I desert the ideal!」
 手にした剣を、巨大な蜂に振るった。

 宝石のような碧眼はあくまで静かな光を湛えたまま、身に纏う丈夫な防護服も破れんばかりの力が漲る。拳士狼が己を鼓舞するような声と共にナックルダスターを繰り出す。
「アタァ!」
 
 二人は当面、攻撃型の蜂をひきつける役目だ。
 防護服の拳士狼は、普段通りの動きができない分、小回りの効く武器で連打する。
 狙い通り2つの蜂の塊が佳織を離れ、向かってくる。

「行くよ!」
 涼が防護服を着ていないアイリスから蜜蜂を引き剥がすために、煙を浴びせた。
「ごほっ!げほっ!あ、あり、がとう…!」
 蜂がマシか煙がマシか、微妙な線のようだったが…蜜蜂は、見事に散っていった。

●厄介な敵
 ここまではあくまでも陽動である。真の狙いは女王蜂型ディアボロ。
 従者たる攻撃型の蜂を引き離し、死角から女王を討つ。
 分身能力を持つ以上、護衛を幾ら倒してもきりがないことは明白だ。

「おーっほっほっほ、真打ち登場ですわ!」
 ロングボウに携えた瑞穂が、狩りの女神よろしく矢をつがえる。
 もっともこの女神、リボンとレースをふんだんにあしらった改造制服に、マスクと水泳ゴーグルという多少アレないでたちなのだが。

 少し離れた位置で、ヘルメット姿のこうきのスクロールが光弾を放つ。
「今のうちに削るっすよ!」 
 二人の羽と胴を狙った攻撃が、女王蜂に命中する。だが、巨大な女王蜂は矢を胴に突き刺したまま、巣箱の上をずるりと移動する。


「これでラスト!」 
 涼の声とともに拳士狼に纏いつく蜜蜂の群れが散り、辺りに喧しく響いていた低音がほとんど消えた。残るは、ディアボロ達の羽音のみ。
「…これで手加減は無用だな」
 拳士狼が体勢を立て直す。

 目前には拳大の蜂型ディアボロが3匹。その背後には、女王蜂。
 
「佳織、お疲れ様!僕と交代!」
「…ん…わかった…」
 涼の当面の役割が済んだので、虎葵が前に出る。
 頷いた佳織は、楯で正面の蜂型ディアボロに不意打ちを食らわせると、その隙に虎葵と入れ替わった。

 やや後方で、攻撃型3体を見渡した朔羅が指摘する。
「弱った物から各個撃破しましょう。ルナクルスさん、左へ二歩お願い!」
 朔羅の苦無の射線上にいたアイリスが、斬り付けざまに位置を変える。
 
 拳士狼めがけ礫のように突進する一匹の大蜂の進路に合わせ、朔羅が苦無を放つ。
 その羽の付け根に光を纏う苦無を受けながらも、蜂はその勢いのまま突き進む。

 それを間合いを計りつつ待ち構えた拳士狼が、メタルレガースの脚を振り上げ強打する。
「ホゥアッタァー!」
 頭部を粉砕された蜂は、ほとんど条件反射で下半身を拳士狼に振り向けた。
「!!」
 防護服の上から、蜂の針が膝付近を貫く。
 激痛が走っただろう傷口から、無言のまま蜂を掴んで引き剥がし、地面に叩きつける。
「…まずは一匹」
 その眼は、既に次の敵を見据えていた。


 その直後、女王蜂の動きが変化した。
 巣箱を覗き込むように頭部を動かし、忙しなく這いまわる。

「次の…分身を…作り出す…!」
 踏み込むアイリスに、別れていた2匹の蜂が突進する。
「2匹来る。下がって!」
 突出して2匹同時を相手にするのはいくらなんでも厳しい。1匹を朔羅が苦無で牽制する。
 その隙に拳士狼が回り込み、拳を連打する。流石に毒を食らった脚は使い辛い。
 上空が有利と悟ったか、朔羅が狙った蜂が舞い上がる。

「すみま、せん…肩…お借り…します…」
「む!」
 言葉こそ丁寧だが、やることは問答無用。アイリスが拳士狼の肩を踏み台にジャンプ、上空の蜂のさらに上から剣を叩きつける。
 さすがに不安定な足場からの攻撃で致命傷にはならなかったが、片羽根をもがれた蜂が、バランスを崩す。
「貰ったァ!山月流御業操剣、独楽の薙ッ――!」
 疾駆する虎のごとく踏み込んだ虎葵が、重い剣を遠心力を使って叩きつける。
 蜂は頭部を残して粉砕された。

 その隙に、残る1匹が涼に向かう。進行方向を読んだ佳織が、シールドで蜂を振り払った。
 が、それをかわした蜂が、目前の佳織の肩を襲う。

「!!」
「峯月さん!」
 蜂はそのまま離脱し、女王を守るように対峙した。

「…まだ、大丈夫…」
 前方を睨みつける佳織。

 その先にいるのはディアボロ達。
 蜜蜂は抑えられている。攻撃型も残り1匹に減らした。
 打ち合わせ通り、ここからは女王蜂を集中攻撃で叩く。
 

 その時。
 低い、大量の羽音が耳を打つ。
 女王蜂の傍らから、ふわり、と蜜蜂の塊が湧き上がった。

「きりがありませんわね…!」
 女王の腹を射抜いた瑞穂が、額を拭う。
 的が大きい分攻撃は確実に当たっているのだが、女王の耐久力が高すぎる。
 それをこうきと2人だけで攻撃するのだから、こちらもなかなか埒が明かない。

 既に拳士狼と佳織の2人が毒の攻撃を受けている。
 時間が経過すれば、ダメージが蓄積されていくだろう。

 回復スクロールを使えるこうきと瑞穂は女王を攻撃していて距離がある。近づけば近接攻撃の集団に混ざることになり、お互いが邪魔になる。
 毒を受けた二人が交互に下がってくれればいいのだが、攻撃型ディアボロの動きは早く、前衛3人と後衛1人の体勢を崩せば、さらに怪我人が増えそうだ。
 もう暫く、耐えてもらうしかない。 

「涼さん、それまだいける?」
 虎葵が屈んで燻煙器の様子を見ている涼に声をかける。
「こっちは大丈夫。それよりみんなは大丈夫かい?」
 立ち上がり、周りを見渡す。

 もちろん。誰もが頷く。
 まだまだ音を上げるには、程遠い。

●意気なお高く
「…肉を、切らせて…骨を断つ、ですね」
 アイリスが剣を握り直し言った。赤黒いオーラが一層激している。

「目標は女王。雑魚は後でゆっくり、だね」
 虎葵の背に、輝く3対の羽根のようなオーラが現れ揺れる。
 いつでも飛びだせるよう、身構える拳士狼。
 こうきもスクロールを収め、馴染んだハンドアックスに持ち替えた。
 
 涼と共に身構える佳織に、朔羅が声をかける。
「加勢するわ。私の後ろへ」
 3人が頷きあうと同時に走りだす。
 煙の中、ケミカルライトがお互いの場所を知らせる。
 涼と佳織はその隙に距離を取り、苦無の一撃と共に朔羅も下がる。
 
「では、まいりますわよ!」
 瑞穂が渾身の一矢を女王に放った。

 それと同時に、近接攻撃の全員が女王に一斉攻撃。一撃ごとに離脱を繰り返す。
 2匹の蜂は、当然狂ったように襲ってくる。

「月臣さん、危ないっす!」
 蜂の1匹が、上空から朔羅を狙った。
 半身でかわし、苦無で迎撃。だがその一撃をかわすと、すぐに向かってくる。
「くそお!」
 こうきが斧を身を庇うように構え、割り込む。向きを変えた蜂が、こうきの足の甲を突く。
 針を抜き一瞬動きが遅くなった蜂を、ハンドアックスの幅広の刃で叩き潰した。
「虎牙さん、大丈夫ですか!」
 朔羅が残り1匹の位置を確認しながら気遣う。
「大丈夫っすよ…!俺、丈夫なのが取り柄なんで」
 激痛を隠した、いつも通りの笑顔。
 誰かが傷つくぐらいなら、自分が傷を受ける。それが彼だった。
「それより、女王蜂を!」

 さしもの女王蜂も、もう分身を作る余裕はないようだった。
 胸から腹から、緑色の体液がとめどなく流れ出している。
 傷ついた羽を振るわせ、空を打つ。

「…逃げる…」
 佳織が飛び出す。涼が燻煙器を離し、手にした阻霊陣を地に当てる。
「配下を犠牲に逃げよう等と、そうはいきませんわよ!」
 女王蜂が向かってくる佳織の楯を避けて飛ぶ方向を見て、味方が射線に入らない位置へ瑞穂が移動する。
「無様な其の姿こそ貴女には相応しい‥‥そうでしょう?」
 女王の胸を、瑞穂の矢が羽まで貫く。

「敗軍の女王は処刑されるものよ。――死になさい」
 尚低く飛び続ける女王蜂の頭と胸の合間に、朔羅の苦無が正確に撃ち込まれた。

 女王蜂は、玉座から地面へと叩きつけられ、絶命した。

 残る1匹は、既に脅威ではなかった。
 何らかの形で女王蜂がコントロールしていたのだろう、パニックの様相を呈し飛びまわっている。
 アイリスの叩きつけた一撃に、呆気なく女王に殉じた。

●戦いすんで…
 長い戦いだった。
 
 女王蜂ディアボロは並外れてタフだった。
 女王の余力がもう少しあれば、あのまま逃げられていた可能性すらあった。

 にもかかわらず、8名中6名しか攻撃に参加できない状況。
 加えて射程の長い攻撃が小さな敵から外れ、味方に当たることを警戒した布陣。それが敵と対峙する前衛のメンバーに、一歩も後に引けない戦いを強いた。
 前衛の食らったダメージが、耐えられる範囲で済んだのは幸運だった。

 だがディアボロは殲滅、蜜蜂の被害は最低限で済んだ。まずは目的達成と言えるだろう。

 一息ついたところで、瑞穂が高笑いと共に、私が完璧に治療してさしあげてよ!などと言いつつ、毒の影響が残る拳士狼、佳織、こうきを回復する。
 その後、こうきは救急箱を携えて、皆の擦り傷や切り傷を手当てして回った。
 涼が佳織に、最後まで守ってくれたことに感謝の意を伝えた。佳織はその顔を見上げて、こくん、とただ頷いた。

 
 連絡を受け、依頼主が息を切らせ走ってきた。
 全員の手を順に握り、有難うと繰り返す。これで亡くなった従業員達の無念も少しは晴らしてやれると…。
「犠牲になった方々の家族を背負う…其れが、経営者たる者の責務ですものね」
 瑞穂の言葉に、何度も頷く。
 
 落ち着くと、自分の店で一休みしてから帰るようにすすめてくれた。
 件の限定品の蜂蜜スイーツと、お茶を用意するという。
 疲れた体には、何よりのごちそうだ。
 アイリスと涼は、ちゃっかりと蜂蜜も分けてもらえないか交渉していた。

 拳士狼は面白そうにそれを眺めながら、後をついて歩く。
 ふと足を止め、養蜂場の建物を振り返る。
 そこで犠牲になった人々のため、ただ静かに冥福を祈った。

<了>


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
戦王の風格・
玄武院 拳士狼(ja0053)

大学部5年107組 男 阿修羅
堅刃の真榊・
紅葉 虎葵(ja0059)

卒業 女 ディバインナイト
封影百手・
月臣 朔羅(ja0820)

卒業 女 鬼道忍軍
骨があると認めてやらァ!・
虎牙 こうき(ja0879)

大学部4年59組 男 アストラルヴァンガード
踏みしめ征くは修羅の道・
橋場 アイリス(ja1078)

大学部3年304組 女 阿修羅
飛天一槍・
高坂 涼(ja5039)

大学部7年305組 男 ディバインナイト
『魂刃』参加撃退士・
峯月 佳織(ja5831)

大学部4年291組 女 ディバインナイト