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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/02/25


みんなの思い出



オープニング

●どうせヒマだし
 今日も図書館は程良い静けさに包まれていた。
 書物を愛し、見知らぬ世界への旅を愉しむ者達は、規律と静寂が支配するこの空間を概ね好むであろう。
 大八木 梨香(jz0061)もその一人だった。
 図書委員としてはずっと本に没頭する訳にもいかないが、図書館に居るだけで幸福感に包まれる。
 今日も古書の放つ独特な香りに包まれながら、書架の間を縫って歩く。

「あ、いたいた! 大八木さ〜ん、探してたのっ」
 梨香の愛する静寂を叩きのめす、明るい声。突然背中にのしかかる暖かく重い感触。
「……山本先輩、今日もお元気そうですね」
 振り向くと、少し派手だが、目鼻立ちの通った綺麗な女子学生がいた。
 名前は山本若菜。梨香より一学上だが、なんだかんだで友人関係が続いている。
「そういう大八木さんは、今日も本が彼氏なのかなあ?」
 ちなみに若菜は、依頼によって成就を果たした遠距離恋愛継続中である。
「かっ彼氏!? 架空の世界の物語は好きですけれど、流石にそれは問題が……」
「もー、言葉通りに受け取らないでよ。それより次の日曜、ヒマでしょ?」
 暇前提である。だが梨香も強くは否定しなかった。
「……特に約束はありません。読みたい本があるぐらいですね」
 梨香としては『読みたい本がある』を強調したつもりだったが、若菜には伝わらない。
「えっとね、架空の世界構築が得意な人向けのアルバイトなんだ」
「……要するに、またゲームなんですね」
「ご名答〜♪」

 若菜の兄はゲーム会社で働いている。
 久遠ヶ原学園の学生達は、普通の学生と違って普段から任務に関わる情報に接しており、いざという時の口は固いだろう。そういう思惑で、開発中のゲームのテストや、ソーシャルゲームの迷惑行為の取り締まりを、若菜を通じて依頼してきた。

「今度は恋愛アドベンチャーゲームのバレンタインイベントの為に、知恵を貸してほしいんだ」
「れ……?」
 また梨香の判らない単語が出てきた。
 恋愛アドベンチャーゲーム。ゲーム内キャラクターを口説いたり、口説かれたりする過程を楽しむゲームである。
「携帯ゲーム機用の既存ソフトなんだけどさ。バレンタインイベント用の追加パッケージを、期間限定でダウンロード販売するんだって。学園物で、登場キャラクターは男女ともいるし、人数も多いから、それぞれの台詞やシチュエーション考えるだけで大変だってわかるんだけどさ〜」
 賢明な皆様にはおわかりと思うが、この間梨香は曖昧に頷いているだけである。
「台詞がさ……萌えないんだわ!!」
 突然若菜が拳を握る。
「うちの兄貴含めてそうなんだけど、発想が貧困で! バレンタインみたいなドキドキワクワクするイベントなのに、突っ込みどころ多すぎる設定ばっかりなのよ!!」
 以下、酷かった事例が続く。
 そこは省略するとして。

「そこで、現役学生の、リアルな声を届けてほしいの! バイト料は出させるから!」
「正式な依頼ということであれば、問題ありません。それにしても……」
 梨香が少し言葉を切り、眼鏡の位置を直す。若菜は続きを促すように梨香を見た。
「その、色んな意味で。お兄さんの会社、大丈夫なんですか?」
「……大八木さんのツッコミって、ときどき心臓抉るよね」
 若菜ががくりと首を垂れた。


●妄想力でバイトする
「……という訳で」
 梨香が集まったメンバーを前に淡々と説明する。
「こちらの内容を、山本先輩を通じて依頼人に提出していただくのが今回の依頼内容です」
 ホワイトボードにマーカーを走らせる梨香。たぶん、若菜の手渡した内容そのままの転記だろう。

ゲームタイトル:キミとラブ★チャンス
依頼内容:ゲーム内バレンタインイベントの提案
・こんなシチュエーションでチョコを渡されたら萌え死ぬ!
・こんな台詞でチョコねだられたら萌える!禿げ萌える!

 ……ベタである。
 そのベタな内容を、無表情で書き終える梨香。いっそ笑え。笑ってくれ。
「では皆様、宜しくお願い致します」
 尚、自分は戦力外としてカウントするように。そういう表情で、梨香が頭を下げた。


リプレイ本文


 チャイムの音に、山本若菜がドアを開ける。
「いらっしゃい、入って入って!」
 ディートハルト・バイラー(jb0601)が、若菜に笑いかけた。
「Miss.山本、年長者として言わせてもらうけれど、恋人がいる女性が男をみだりに部屋に上げるものじゃあないよ。……と言いたいところだが」
 青い瞳に、悪戯小僧のような光が宿る。
「生憎、俺は自分に素直でね、其れにそこまで上品じゃあない。君のような可愛らしいフロイラインの部屋にお招きいただけるなんて光栄だよ」
 渋い声で囁き、リボンで飾られた箱を若菜に手渡す。
「生憎こちらは男所帯でね……華やかさはないが、ささやかながらクッキーでもどうぞ。口にあうといいのだが」
 玄関先で固まる若菜を、梨香が揺すった。
「や、山本先輩、大丈夫ですか」
「はっ! 司君、ごめん!」
 一瞬大人の色香に迷いそうになった若菜は、恋人の名前を呪文のように呟く。

「書物によれば、ヴァレンタインデーとは諸説様様な物があるようですわね」
 ステラ シアフィールド(jb3278)が穏やかな笑みで、持参したチョコチップクッキーを皆にすすめた。
「実際にどのような感じなのか、私も勉強させていただきたいと思います」
 ヴィクトリアン調のメイド服を纏った姿は、人間と全く変わる所はない。
 だがまだ人界には判らないことが多い。恋愛という感情も興味深く、書物では知り得ない知識との出会いを期待している。

 美森 仁也(jb2552)は依頼内容に真っ当に取り組んでいるようだ。
(ゲームか……業界の方は色々大変だな) 
 部活でリサーチした結果を報告する。
「初等部の子は『好きな子からなら義理の文字が入ってなかったら、10円チョコでも嬉しい!』って言ってたね。それと彼女が男勝りな高校生は『毎年私から渡してましたよ』だって」
 さらにレポートをめくる。
「とりあえず日本ではバレンタインは女性から男性へ、が定番だから、男から贈物すれば意外性があるかな?」
 ゲームならば、キャラクターの特色が出る何か……料理が得意ならチョコレート、園芸部員なら自分が育てた花、科学系だったら『世界に一つしかない花を』などと虹色の薔薇を、と提案する。
 若菜が頷きながらメモをとる。
「あと『男同士だったら、友チョコだと思ったら愛の告白メッセージカード付きだった、とか楽しいじゃない?』って、そういうのに詳しい子が教えてくれたよ」
 ずしゃあ。
 若菜が机の上にすべった。仁也の友達、何処を目指しているのか。
「まあ、そういうのもありだけど! 一応今回は、男女間の方が有難いかな、って!」
 ステラが微笑みながら一枚の紙を取り出す。
「ええ、そこで皆様と相談しまして。全員で実演することに成りました」
 そこには男女ペアに分かれた組み合わせ表があった。



 真剣な表情で、ラグナ・グラウシード(ja3538)が思案する。
 ペアの相手のステラは、静かにラグナの行動を待つ。
(爽やかそうな好漢で、人間が言う所の二枚目? という方でしょうか……でもどこか影を感じる気も致しますね)
 影のある二枚目と評されたラグナの脳内は、果たして。
「ば、バレンタインのチョコをもらうなら……か? えっと、ええっと……」
 ステラを相手に、あらん限りの妄想力をかきたてるラグナ。脳から流血しそうである。
 
 そう、それはとある舞踏会にて。
 ステラ嬢はイブニングドレス。うむ、咲き誇る花のように美しいに違いない!
 数多の男たちのダンスの誘いをつれなく断り、誰かを探す。
 ベランダから見下ろすと、庭園に佇む青年の姿。
 赤い瞳の端麗な青年(=ラグナ)は物憂げに夜空を見上げている……。
 駆け寄るステラ嬢の姿を見ると、青年は笑顔で手を差し伸べる。
 月夜の下でワルツを踊る二人。
「……お慕いしております」

 そう、そんな感じ! という囁き声。
「突然申し訳御座いません、わたくし常日頃よりラグナ様をお慕い申し上げておりました」
 ステラはスカートの裾を両手で軽くつまみ上げ、片膝を曲げて頭を下げる淑女の礼。いわゆるカーテシーの仕草で優雅にお辞儀。
「今日のこの日に思いの丈を打ち明けさせて頂きます、スキです、受け取って下さい」
 ぱっとドレスの裾を翻し、ステラは立ち去る。
 短い逢瀬の後、彼女の背を見送るラグナは、上着のポケットに何かが入っているのに気づく。

「はうぅ……」
 ラグナは可愛いラッピングのチョコチップクッキーを手に、歓喜に震える。
 もう何も見えない、見たくない。
 自分の鼻血さえも……!
「どうぞ……購買の支給品ですけど」
 ラグナの端正な顎から滴る赤い雫を見て、梨香がポケットティッシュを手渡した。
「ああ……もちろん夢は所詮夢さ、叶わないからこそ美しい……」
 朱に染まった丸めたティッシュは、深紅のバラのよう……には、ちょっと見えなかった。



 御手洗 紘人(ja2549)、もとい、桜色のワンピースのチェリーが続く。
「妄想なら任せて!! チェリーが最高にHiってやつを見せつけてやるよ!」
 ペアの相手は仁也。
(え、何、仁也君って実は悪魔なの!? 異種族交友……滾る!!)
 チェリーの体温、急上昇。
(人と悪魔の失楽園……うすい本書ける!!)
 カッと目を見開くチェリー。流れ落ちる、赤い液体。
「あの、チェリーさん、良ければ……」
 梨香の差しだすポケットティッシュを、チェリーはがしっと掴む。
「え、鼻血? なんの事? 清純派乙女はそんなものだしませんよ? これはね、か弱い乙女の喀血なの!!」
 乙女、鼻から喀血。
「えっとね、病弱な乙女が、死ぬ前に一度本当の恋をしたいって悪魔にお願いするの! でね、契約完了後に、黙って立ち去る悪魔に『どうして命を取らないの?』って尋ねると……渡したチョコを出して『お前の命(真心)はもう貰った』って、キャーーーー!!!!」
 鼻からの喀血、命にかかわるレベルってもんじゃねえぞ。

「あとー、男子が喜びそうなシチュエーションね!」

妄想1.
 友達以上・恋人未満なふたり。女の子がそっけなくチョコを渡す。
 男子は内心がっかりしつつ「お、義理かーありがとな」って受け取る。
 それに対して女子は、「は? 何言ってんの、本命」
 なんて言ってから、後に気がついて「い、今の嘘! 義理に決まってんでしょ!!」って慌てふためいたりしちゃう!

妄想2.
 常に大好きオーラを発して纏わりつく女子から、当日にどう見ても義理ってチョコを渡される男子。
 なんか肩透かしで、「あれ? 俺のこと好きだったんじゃ……」って疑問に思いつつ、家に着いたら、ジャストその時間に宅配便が到着! 中身は本命チョコ!
 翌日の彼の反応と、ちょっとやりすぎた感が否めない彼女の反応に、一粒で2度おいしい!

「その手があったか……」
 若菜、なんか呟いてる。実際これが嬉しいかどうかは、個人差があるだろうが。

 仁也が少し困ったような笑顔を浮かべる。
「俺は恋人がくれる本命チョコ以外、考えられないから……余り役に立たないかも」
「じゃあ恋人がどんなふうにくれたら嬉しい?」
 チェリーが聞くと、仁也は真面目な顔で呟いた。
「うん、彼女がベッドの上で裸で首にリボン巻いて、チョコ持ってれば最高かな」
 なんかすごいことをさらっと言ってる。
「まぁ、今やってもらったら困るけどね。数年後に期待、かな」
 爽やかな微笑と発言のギャップがすごい。



 菊開 すみれ(ja6392)は緊張していた。
 バレンタインに本命を上げる相手はいない。となると、やっぱり男子の視線は意識せざるを得ない。
 というわけで、今日も油断なく可愛い系で決めている。
「やっぱり男性は、バレンタインは裸リボンが良いって言いますよね!」
 緊張ゆえの、爆弾発言。
 炭酸飲料を飲みかけていた梅ヶ枝 寿(ja2303)が、激しくせき込む。
「すみれ、すみれちゃんソレ、年齢制限なっちゃいますしね落ち着いて!」
「あっ。私、何言ってんだろ……!]
 真っ赤になって顔を覆う。
 出るとこ出てるボディのすみれで妄想すると、本当に年齢制限になるので注意。
 というか、みんな裸リボン好きだな。
「あー、死ぬかと思った……」
 リラックスさせるためにコンビニで揃えたお菓子や飲み物で、まさかの大惨事手前。
 ティッシュでその辺りを拭きつつ、新しいスナック菓子の袋を広げる。
「という訳で、妄想大喜利〜〜!」
 気を取り直して、寿は妄想に集中する。
(すみれみたいな女子だったら、変に凝るよりど定番のが萌えるなー)

 放課後の校舎裏。
寿『すみれ、どーしたこんなとこ呼び出して』
すみれ『先輩、あの』
寿『もしかしてバレンタイン? なんて冗談だけどアハハ』
 と言ったら、すみれが。
『あのっ……冗談とかじゃなくて……本当にそうなんです』
 なんて言っちゃって。俺、思わず確認するわけよ。
『えっ、バレンタインの……友チョコとかでも、なくて……ええっ!?』
『貰って、もらえますか……?』
 なんて言われたら、もう、受け取るしかねえよな!?
『……やべー、すげー嬉しい。でも俺なんかでいーのか?』
 って再確認。
 そしたらすみれ、緊張でちょっと涙目になっちゃったりとかしてっとやばくね?

「って、すみれ途中から完全ついてこれてないよねコレ! 先輩暴走したよねスンマセン!」
 赤面しながら机をバンバン叩く寿。
 本当に赤面しながら、すみれは小首を傾げた。
「えっと……こんな感じですか?」
 瞳を潤ませながら上目づかい。寿の脳内に何かがスパーク。

 すみれは、ふるふる首を振っている。
『もうっ先輩だから貰って欲しいんですからねっ』
 こうなったら、後はもう!
『すみれ……』
『先輩……』

 すみれが勢いよく立ちあがり、寿が差しだした腕はスカッと空を切る。
「次、菊開 すみれ行きます! テーマはやっぱりツンデレ男子!」

 寿先輩とは普段から冗談を言い合う仲。 
 そんな2月初頭の日常風景のシーン……。
「今年は手作りチョコに挑戦しようかなーって思うんだ。若菜ちゃんが一緒に作ろうって」
 すみれの言葉に、寿が探るように尋ねる。
「そんなもん作ってどうするの?」
「クラスの男子に配ったりするんだよ? 欲しいって言ってたし」
「欲しいって言われたら配んのかよ。だいたいお前、料理苦手なんじゃなかったか?」
「大丈夫! 若菜ちゃんが教えてくれるって!」
 むきになるすみれに、寿は少し不機嫌そうに黙りこむ。
 すみれはその理由が判らない。訪れた沈黙をもてあまし、暫く並んで歩く。
 すると突然。
「作ったチョコは全部俺の所に持ってこい! あと、明日から朝、俺の家に来いよ。一緒に登校するからな」
「え? なんで? 急にどうしたの?」
「いいから!」

 すみれの脳内では、寿先輩は既に消え、相手はまだ見ぬ未来のパートナーとすり変わっている。
「こんなふうに言われたら、嬉しいですよね」
 フリーの男女が至近距離に居ても、纏まるとは限らない。そんな典型例である。



 ディートハルトは初々しくも可愛らしい妄想に、耳を傾けていた。
 自分の年齢を考えると、今回はやや不向きかも知れないと思う。
 チョコレートを貰う状況、と限定されているのも難しい。
 何を渡すか、どうやって渡すか……自分のために色々考えてくれた、そのいじらしさ。
 どういった状況でも、女性からプレゼントされるのは嬉しいものではないか。
(まあ、美しい女性に愛を囁くのに年齢はそう関係ないだろう、いくら年をとってもこればかりは男の性、というものだ)
 考え直すと、ペアの相手、七種 戒(ja1267)に微笑みかける。
「ああ、そうだ今だけは……戒、と呼んでも構わないかな?」

 戒は微笑みを返しながら、妄想スイッチON。
(渋くて大人の魅力溢れるダンディ系マジ大好物です、本当にありがとうございましたッ……!)
 迸れ、熱きパトス! 目を閉じ、妄想の奔流に身を委ねる。
「やっぱりこうオトナの余裕的な感じで、上手いこと翻弄して欲しいですよね」
 黒髪に縁取られた頬が、赤みを帯びてくる。
「柔らかく微笑みつつも有無を言わさず逃げ場を無くす感じに直球でこう『俺を好きなのはわかってるんだ』とか」
 感極まるように、ぐぐっと拳を握る。
「んで私はまるで震える子羊のように怯えながらも高まる胸の鼓動に躊躇いつつ上目遣いの涙目で」
 戒は驚異的な肺活量を駆使し、息継ぎもせず言葉を続ける。
 その迫力に、寿が茶々を入れた。
「ガンつけになってっぞ! 上目遣いっつったらお前……こうだろ!」
 寿の上目遣い、無駄に可愛い。男だけど。
「うっせえだからモテねえんだよ!?」
 猛烈な勢いで飛んだクッションが寿に命中。
「ゴフッ! 嫉妬される程の迸る女子力が憎い……!」
 撃沈する寿を放置し、戒は再び妄想の世界へ。
「あっでもヤキモチとかも捨てがたいですよね、もう余裕を保てない感じでほら壁ドンとか追い詰められて耳元で……」
「俺へのチョコはないのかい?」
 戒はその囁きと、手の甲に触れる感触にうっとりと眼を閉じる。
「うむ、そうそうそんな風に……」
 眼を開けると壊れ物のように自分の手をとり、口付けるディートハルトがいた。
「可愛い君が沢山の友人に囲まれているのを見て、時折酷く嫉妬に駆られてしまう」
 熱い愛の言葉が紡ぎ出される。
「滑稽と笑われてもいい、俺達の愛を縛ってくれるものが欲しいんだ。言葉だけの愛では満足できない俺を、君は許してくれるかい」
 ズギュウウウウウン!!
 そんな効果音が聞こえたような瞬間。
「って、ぎゃあああああ!!!!」
 絶叫と共に戒は全力移動で飛び退き、走り出す。
 汗なのか涙なのかそれ以外なのか、良く判らない流れが頬を伝う。
 続いて座り込むと、クッションで床を叩きだした。
 すっぽ抜けたクッションのひとつが、大笑いする寿の顔面を直撃する。

「何かまずかったかな?」
 ディートハルトが両手を広げる。梨香はクッションを抱きしめながら、若菜に尋ねた。
「学園物ですよね? ありなんですか、これは」
「隠し攻略キャラの美術教師なんかもいるから、ありかな〜」
 若菜は含み笑いで、ボイスレコーダーを構えている。
 チェリーの心のナイスダンディリストに、また一人。
「大人の余裕、イイ! 次にナイスミドルに遭遇したら、どんな反応するか確かめなくちゃ☆」
 鼻からの喀血を拭いつつ、その日を夢見る。
 ラグナは、無言のまま膝を抱えていた。
「これはものすごく参考に……なるか……ッ!!」
 非モテには、演技であっても遠い領域。これは泣いていい。


 その後、『キミとラブ★チャンス/バレンタイン限定ダウンロード版』がどうなったかというと。
 ファンの間で大いに話題となり、若菜の兄のゲーム会社は大喜びだったという。
 だが、ゲーム画面でラブラブモードのキャラクター達が、こちら側へ出てくるはずもなく。
「……現実って、色々寒い、な……?」
 戒はただ、冷えたチョコレートバーを握りつぶすのだった。

<了>


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: あんまんマイスター・七種 戒(ja1267)
 雄っぱいマイスター・御手洗 紘人(ja2549)
 夢幻に酔う・ディートハルト・バイラー(jb0601)
重体: −
面白かった!:10人

あんまんマイスター・
七種 戒(ja1267)

大学部3年1組 女 インフィルトレイター
哀の戦士・
梅ヶ枝 寿(ja2303)

卒業 男 阿修羅
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
KILL ALL RIAJU・
ラグナ・グラウシード(ja3538)

大学部5年54組 男 ディバインナイト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
夢幻に酔う・
ディートハルト・バイラー(jb0601)

大学部9年164組 男 ディバインナイト
最愛とともに・
美森 仁也(jb2552)

卒業 男 ルインズブレイド
愛って何?・
ステラ シアフィールド(jb3278)

大学部1年124組 女 陰陽師