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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:9人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/01/18


みんなの思い出



オープニング

●使徒
 京都に展開されるゲートの中心部・中京城。八つの小要塞がそれを囲み守護する。
 そのうちのひとつ南小要塞は、撃退士達の攻撃により城門をこじ開けられ、城壁までもが一部崩されていた。
 要塞内を縦横に走る回廊の中心部には、ひと際大きな建造物があった。いわば南要塞の司令塔である。
 そこから城壁の崩れた部分を見下ろす、険しい金色の目があった。
「全く、煩いったらないな」
 甲高い声。年の頃は14〜5歳、黒い髪を編んで纏め、青いゆったりとした衣を纏った小柄な娘だ。
 傍に立つ男が笑いを含んだ声で答えた。
「でなければ、お前がここに来ることもなかったな。あれを何とかするにはサーバント達では足りんからこそ、米倉殿もお前の受け入れを了承してくださったのだ」
 一見何の変哲もない中年男、名は川上昇というシュトラッサーである。
「……判っています」
 少女は眼下の光景を見つめたままである。
 崩れた城壁を修理する為、骸骨兵士達が資材を運んでいる。だが城外から開口部に向かって、行く筋もの火線が集中し、作業を邪魔する。これがずっと続いているという。
 城壁上からサブラヒナイトが蒼炎の矢を射るが、そもそも突っ込んでくるつもりのない敵には牽制にしかなり得ないようだった。
「シャオチン、判っているとは思うが。サーバントを上手く使え。それと、人間を余り見縊るな。引き際は弁えろ。私は直接手を貸してはやれんからな」
 念押しに、小青(jz0167)は今度は黙って頷く。
(絶対にあたしを認めさせてやる。そしていつか――)
 川上はそれを横目に、傍らの孔雀の首を撫でてやると、踵を返す。

 正直今回の役割は、小青には荷が重すぎる。川上はそう思っていた。
(ゲートを守るための小要塞が落とされては、話にもならん)
 川上の主である大天使グラディエルは、この地にゲートを作ったザインエルに忠実であり、それ故にややもすれば押され気味であるという状況を気にかけていた。
 だがこの地の守護を任されたのは、大天使ダレス・エルサメク。
 ザインエルを通じて友好的な立場にあるとはいえ、グラディエルが余計な手出しをすることは好まないであろう。
 そこで故あって配下の天使に預けていたシュトラッサー・小青を、ダレスを補佐する米倉の元に送ることにしたのだ。
 形式的にはグラディエル直属ではない。その点が肝心なのである。
(まあいくら血気盛んとはいえ、サブラヒナイトなどよりはましな指揮もできるだろうさ)
 小青のいつも他人を睨みつけているような金目を思い出し、川上は苦笑を洩らす。
 彼女には彼女なりの思惑があるようだ。酷い下手は打つまい――今はそう信じるよりないのだ。
 
●要塞攻略戦・A班
 これまでの2度の作戦により、久遠ヶ原学園の撃退士達は、南小要塞の城門と南東側城壁の一部破壊に成功した。
 本格攻略の準備が整うまでの間、修復を防ぐため継続して距離を取った攻撃を仕掛けているが、最近になって要塞側の防御力が上がったようだという報告がもたらされた。
 正確には、こちらの牽制攻撃に対し、防御するサーバント達の行動に連携らしきものが見られるようになったという。
 その頃から時折、要塞内に人間に似た姿が見られるようになった。
 当然、今の京都市内に普通の人間が歩いているはずがない。撃退士は別だが、撃退士が敵陣を自由に歩き回っていることは、もっとあり得ない。
 城壁外から遠距離攻撃を仕掛けてみたところ、その人影は双刀を振るい、斬り払いで容易くかわしてしまった。
 強いサーバント、もしくはシュトラッサーの可能性。
 いずれにせよ、これまでに見なかった敵の出現は、敵が南要塞の防衛を補強する余地があることを意味する。
 開口部が塞がれないうちに。そしてこれ以上、増援が増えないうちに。
 迅速に南要塞を攻略するべく作戦が練られることとなった。


 京都市内にある、久遠ヶ原学園が確保している陣地のひとつ。
 集まった撃退士達に、南小要塞攻略作戦を決行することが伝えられた。
 大八木 梨香(jz0061)が、略図を示しながら説明する。
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●要塞概要図(縮尺は一致しない)
↑北  
〜〜〜〜〜(不明)〜〜〜〜〜
■□□◆●●●●●◆□□■
●◆◆鎧◆◆◆◆◆鎧◆◆●
■火□◆□□□□□◆□火■
■□□◆□□□□□◆□□■
■□□◆□□□□□◆□□■
■□□◆□□□□□◆□□■
■□□◆□□□□□◆□□■
■□□◆□番□番□◆□□■
■火□◆□□□□□◆□火×←
●■■■■===■■■■◎

●塔など
■城壁
=城門
◆空中回廊(城壁の高さ)
×←城壁破壊ポイント
◎B班が上がる塔

【敵の初期配置】
番:ケルベロス
火:イフリート
鎧:サブラヒナイト
---
「今回の作戦では、特に他班との連携が重要になります」
 参加する撃退士は60名。担当は大きく3班に分かれる。
 一番人数の多いC班が城壁外からの攻撃を担当する。東と南から城壁上のサーバントを引き付けると同時に、城門から攻撃を仕掛け、城門前のケルベロス2体を足止めするのである。
 その間にA班が東側開口部から侵入し、要塞内の範囲攻撃が可能な敵を掃討。
 続いてB班が南東の塔から回廊上に上がり、中央部分にある大きな塔を目指す。そしておそらくそこにいる、指揮を執る存在を退け、要塞内のサーバント達の連携を遮断する。

「このうち私達は、主に地上の敵に対応するA班になります。まず最初にイフリートを倒します。回廊上を狙うのに充分な攻撃能力がある為です。また可能であれば、正面回廊上のサブラヒナイトにも対応します。いずれもB班の行動を楽にし、戦闘力を温存するのが目的になります」
 梨香が言葉を切る。暫しの逡巡。
「……主力と思われる存在への対応は、B班に任せることになります。ですが、私達が失敗すれば、そちらも無駄になりかねません。頑張りましょう」
 彼女が一番悔しそうに見えるのは、気のせいだろうか。
 いずれにせよ、こちらが楽な訳ではない。
 敵陣奥深く突っ込む、虎の尾を踏みに行くかのような作戦。激戦を免れないのは明らかであった。


リプレイ本文


 古都の光景に不似合いな、西洋風の石積みの壁。
 人間の作った都を睥睨するように、あざ笑うように、聳え立つ。
「無粋な天界の者どもが、大きな顔をしていますのね」
 ユーノ(jb3004)にはその壁が、天界の不遜さを表しているように見えた。
 魂そのもの、またそれが放つ輝きである感情を摘み取ることを無粋と思うが故、敢えて人の世界に身を投じたのだ。
「紛い物が本来そこにあるべき方々を追い払い、人々から感情を奪い続けている……無視している理由がありませんの」
 長い時を見つめて尚、曇りなく前を見る紫の瞳に静かな炎。
 アラン・カートライト(ja8773)が嘲るように鼻を鳴らす。
「全く、センスの欠片もねえ光景だな。可愛い妹が見たらがっかりするぜ」
 はるばる海を超えて日本に来たのに、まだ最愛の妹に京都を見せてやれていない。
 それもこれも、この地に陣取る天使どものせいである。
 傍らで城壁の一角に開いた穴を見据え、六道 鈴音(ja4192)は霊符を取り出す。
「ココを落として勢いに乗りたい所ね」
 前にアランと同行したときの作戦では、中京城を挟んだ彼方の北要塞を見つめていた。
 今や南要塞は、いよいよ中に乗り込むところまでこぎつけた。
「京都では、どうも陽動と縁があるわね」
 突入を静かに待つ新井司(ja6034)。
(前回は敵の姿を収めるため、その前は人を逃がす為、今回は指揮官を倒す為、か……)
「近づいている、のよね」
 それは自分に言い聞かせるように。
 雲を掴むようだった要塞攻略戦は、多くの撃退士の尽力によりここまで到達した。
 尤もエヴァ・グライナー(ja0784)の琥珀の瞳が生き生きしているのは、それが理由ではないようだ。
「電撃戦、浸透戦術、斬首作戦、殲滅戦―――ああ、心が踊るわ。奇襲って感じがする」
 自分のアウルの力を思うさま発揮してみたい。身体から、自信と興奮が立ち上るようだ。
 夜姫(jb2550)が愛用の刀を握る手に力が籠もる。
(折角京都に来たというのに、本場の団子屋が全て閉まっているとは……)
 趣味の為にも、この街を取り戻さねばならない。
(今の私が何処まで行けるか……試す良い機会ですしね)
 大八木 梨香(jz0061)の声が各人の耳に響く。
『光信機に問題はありませんか。支援班が攻撃を開始します。それが途切れたら突入です』
 全員が軽く片手を上げて同意を示す。
「大八木さん、どのポジションだって責任重大ですよ。はりきっていきましょう!」
 鈴音が敢えて明るく声をかけた。
「防御に難がある人を守って下さいね。期待してますよ」
 久瀬 悠人(jb0684)の橙色の瞳が、深い青に変化する。
「ようやくここまで来たわけだ……なら、ちょっとぐらい無茶しないと、だな」
 普段我が道を行くタイプの悠人だが、流石に今回は任務の重みを感じているようだ。
 瑞姫 イェーガー(jb1529)は黙して唇をかみしめる。
 瑞姫は、自分が対天界戦に於いて不利なことは承知している。
 ふと上げた視線が合い、梨香が頷いた。
 ――それでも、仲間の力を信じてる。どのポジションだって責任重大。足手纏いにはなりたくない。

 城壁に開いた穴に向かって、支援攻撃が注がれる。
 それが止んだ余熱の向こうへ、撃退士達は一斉に駆け出した。


 鈴代 征治(ja1305)が見た目に似合わぬ健脚を生かし、真っ先に躍り出る。
 普段の穏やかさの消えた鋭い表情。
 開口部の真近のイフリートが目前に迫るが、待ち受ける余裕があった。
「少し、下がって貰うよ」
 柄の長いハルバードを力を籠めて振るう。ウェポンバッシュが決まり、進路を塞ぐ火精が後退し道を開けた。
 征治は北東目指して駆けつつ、中央の広場に向かって煙幕手榴弾を投げ込む。白い煙が視界を奪うが、骸骨兵士は相変わらずこちらを見定めて攻撃を仕掛けてくる。

 夜姫が続く。刀を振り抜くと、アウルを籠めた一撃で強かに打ち据えた。
「貴様の相手だけをしているほど暇ではない」
 『薙ぎ払い』によるスタン効果で火精が動きを止めたのを確認すると、迫りくる骸骨兵士にすぐさま視線を移す。
 前方から槍兵・刀兵が湧きあがり、回廊の上からは弓が降り注ぐ。
 瑞姫はその数に、一瞬、圧倒される。だがすぐに首を振ると、弱気を意思の力で押し籠めた。
 夜姫の後を追って東側の回廊の下へと潜り込む。
 両腕に赤黒い流星のような幾何学模様が浮かび上がると、アウルの弾丸が飛び出し骸骨兵士の膝を砕いた。
 ユーノが『闇の翼』で、宙を滑るように移動する。
「最初で躓く訳には参りませんの」
 雷帝霊符の放つ光が、動きを止めた火精を容赦なく貫く。

 続くアランは、『闘気解放』によって破壊力を増した刀身で斬りつけ、そのまま回廊の下を縫うようにして進む。上方からの矢を少しでも防ぐためだ。
 回廊の先には静かな監視塔。強敵が待ち構えているだろうその場所に、向かう仲間がいる。
 その行く手を塞ぐのは、回廊上のサブラヒナイト。東西に二体、巨大な弓を構える姿が見える。
「今回の見せ場は、紳士らしく連中に譲ろう、土台を築くのが俺達の役目だ」
 北東の方角からイフリートの炎が延び、地を這う。
「炎の魔神の割には低温ね。それじゃあ薬缶の水を沸かすこともできないわよ?」
 挑発するようにエヴァの声が響く。最初のイフリートを仕留め、意気は益々高く。
 青い電撃が迸り、次なる得物を狙い定める。
「Der Schatten aus der Zeit!痺れてなさいな!」
 打たれた火精は、痙攣したように動きを止めた。庇うように骸骨兵士が回り込む。
 瑞姫は意を決したように、淡く燐光を放つ機械剣を構える。
「私にだって……できることが、ある!」
 無数の三日月の刃が、強烈な冥魔の気を纏って襲い掛かった。動かぬ火精の腕が吹き飛ぶ。だが、猛攻から逃れた骸骨兵士の繰り出す槍が、逆に瑞姫の肩を貫いた。
「イェーガーさん、こっちへ!!」
 梨香が飛び出し、瑞姫を銀色に光る楯の影へと庇う。
「私って、本当は炎系魔法が得意なのよね。炎だとイフリートには効果ないかなぁ」
 愛用の召炎霊符の代わりの雷帝霊符に力を籠め、柱の影で鈴音が残念そうにぼやく。
 だが味方の危機に、片手を高く突き上げる。
「援護しますよ! 吹き飛べ、骸骨ども! 六道赤龍覇!!」
 赤い竜が空を駆けるように火柱が燃え上がり、巻き込まれた骸骨兵士がバラバラに砕け散る。
 それが作戦開始の合図となった。


「今です。夜姫さん、お願いします」
「判りました」

「新井様、参ります」
「よろしく頼むわ」

 短い会話が交わされる。
 夜姫が征治を、ユーノが司を抱え、『闇の翼』で回廊の東側へ舞い上がる。

 ほぼ同時にアランが西側へ踏み出す。
「俺が男を守ってやるなんて滅多にないぜ。有難く思えよ、久瀬」
 押し寄せる骸骨兵士に斬りかかった。
「なるべく急ぎます。耐えてください」
 悠人がその隙に、回廊の柱の影へ回り込む。鎧武者からは直接見えない位置だ。
(ここからが俺の本当の仕事になるな。結構重要だぜ、これ)
「――て事で相棒、出番だ」
 白い鎧の身体に赤い瞳のスレイプニル、ランバートを召喚。
「あの鎧を、意地でも俺たちのいるこの”地”に叩き落せ」
 逞しい脚が地を蹴り、馬竜は重い身体に似合わぬスピードで空へと駆け上がった。

 サブラヒナイトは、地上で派手に骸骨兵士が粉砕される様に気を取られ、背後の気配に気づくのがほんの一瞬遅れた。
 勇敢で忠実な馬竜は、危険を物ともせず敵に体当たりする。まるで怪獣映画のワンシーンのような光景だった。
「……くっ、たかが鎧が、俺たちを見下すな。頑張ってくれよ、ランバート」
 悠人は、相棒の受けた身体の痛みを共有している。幾度かの激痛に表情が歪む。指揮官を守るため、骸骨兵士達が召喚獣に矢を射かけているのだ。
 だが落下防止の柵がある訳もない回廊の上で、鎧武者の姿勢がようやく崩れる。
 宙を舞った巨体は、轟音と共に地上に叩きつけられた。
「よーしよくやった、ランバート。さぁてと――暴れてこい、グロリア」
 スレイプニルが姿を消し、代わりに獅子のような咆哮を上げティアマットが現れる。
 西北と、西南。残ったイフリートが迫り来る。
 味方の居ないその方角へ召喚獣を向かわせると、悠人は『狂化』を使う。刺だらけの鱗の隙間から黒い霧が滲み出ると、召喚獣は文字通りの大暴れを始める。

 一方で東側の回廊上には、司と征治が降り立つ。
 途中、骸骨兵の弓が射かけられたが、ユーノと夜姫は身を呈して二人を無事に送り届けた。
 その厚意に報いる為にも。
「落ち、ろぉーーー!!」
 吠える征治の斧槍の強い一撃を受け、サブラヒナイトの足がずるり、と回廊上を動く。
 弓を収めた鎧武者が、まるで効かぬわと言わんばかりに、刀を構える。
 征治の攻撃の間に、司は『雷貫』で回廊上の骸骨兵士をなぎ倒す。狭い回廊上に固まる敵が次々と落ちて行く。勿論、落下でダメージを受けるとは限らない。今はとにかく、後発組の為に道を開け、敵を自分達で引き受けるだけだ。
「ここは任せてください」
 ユーノの身体から電光が弾ける。『壊雷』を受けた骸骨兵士が、混乱に陥り同士討ちを始めた。
「ありがとう、行くわ」
 魔具を取り回しの良い鉄拳に替えた司が、『怯炎』による炎の拳を叩き込む。
 一発、二発。
 サブラヒナイトの刀が身体を掠める中、征治と交互に攻撃を叩き込み、相手を回廊の端に追い込む。
 だがあともう少しというところで、落ちない。二人の額には汗と血が混じり、流れる。
「往生際が悪いですよ」
 踏みとどまろうとする敵の向こう脛に、夜姫が『薙ぎ払い』をかけた。
 ついに宙を掴むような動作のまま、東側の鎧武者も地上へと落ちてゆく。夜姫はそのまま後を追う。
「新井様、行きますよ」
 ユーノが司を再び抱え、地上へと舞い降りる。
「東側のサブラヒも落としたわ。回廊は骸骨兵士も半分ぐらいは落ちたと思う」
 司の通信に、梨香が返答する。
『お疲れ様でした。B班に連絡します』
 司が静かに呟く。
「これで、最低限の役割は果たせたかしら」
「そうですね。次は地上の敵の掃討が、私達の仕事になりますね」
 ユーノは、東南の回廊上に次々に現れた人影を見つめた。

 地上では、連絡を待ち構えていたエヴァが飛び出す。
「落ちてきたわね、大本命よ。その鎧の中でジンギスカンにしてあげるわ!」
 物理攻撃の効くイフリートは瑞姫と梨香に任せ、サブラヒナイトにあたる。
「Fomalhaut n'gha-ghaa naf'lthagn―――火鬼の王よ、我が呼び声に答えて馳せ参じ給え」
 エヴァが呪文を詠唱すると、巨大な炎の塊が現れ、その周りを無数の小さな火が踊る。『火鬼の王の招来』による意思を持ったような炎塊が、鎧武者を焼き尽くそうと襲い掛かった。


 征治はそのまま回廊を西へと走る。
 西側回廊上の骸骨兵士が、まだ多く残っている。弓兵を少しでも減らしておきたい。
 白と黒の光が身体を包む。『ケイオスドレスト』が、単身斬り込む征治の負担を減らす。
「邪魔をするな」
 タイミングを見計らって放たれた『封砲』の勢いに、骸骨兵士がある物は砕かれ、ある物は足元を掬われ、落下してゆく。その先に見えるのは、起きあがろうとするサブラヒナイト。
 征治は息を整え、体力を回復。フラッシュライトを渾身の力で投げ落す。閃光にサブラヒナイトが身構え、一瞬の隙ができた。
「もらったーーー!!」
 槍を逆手に両手で持つと、征治が身を躍らせる。
「これで、つらぬけーーー!!」
 己の体重を掛けた槍による一撃を狙う。思いの他長い一瞬、脳裏に優しい面影がよぎり……腕に強い衝撃、次の瞬間全身を打つ激痛。
「く……!」
 背中に一撃を食らったサブラヒナイトは膝をついたまま、転がる征治を見つけ、刀を振りあげる。
「ほらこっちだ!」
 クレイモアをアサルトライフルに持ち替えたアランが連射。
 物理攻撃を半減するフィールドがあることは判っているが、今はとにかく敵の意識を征治から引き離すのが先決だ。
 重々しく立ち上がった鎧武者は、煩い虫を見るかのようにアランを向いた。
 その手から剣が消え、強弓が現れる。鈍重そうな外観に反し、その動きは俊敏であった。
 蒼炎の矢が放たれる瞬間、鈴音が駆けつける。
「させるかっ、六道封魔陣!」
 白い文様が鈴音の前に現れ、魔法の一矢を受け止める。鈴音の頬に、腕に、赤い筋がいくつも走る。

「みんな、無茶しすぎ!」
「俺はいつだって、愛しい妹の僅かな幸福の為に生きてるのさ」
 駆け込んだ柱の影。鈴音の苦情に、征治を背負ったアランが笑い返す。
「あいつが京都を旅行したがってるんだ。最愛の妹の頼み事を断る奴は兄じゃねえ、何としてでも俺は叶えてやる。だからこんなところで倒れたりしねえよ。……なあ、鈴代? 男なら判るだろ?」
 アランの呼びかけに征治は思わず苦笑を洩らす。
「理由はともかく。皆が元気で帰らないといけないですよね」
 残る敵はサブラヒナイト二体に、イフリート三体。それに骸骨兵士達。
 まだ、終わりではない。
 鈴音がきっと鎧武者を睨みつけた。
 霊符が輝き、『六道鬼雷刃』の雷光が迸る。
「雷系もけっこう得意ってことよね、私!」
 力強く言い切る鈴音にその場を任せ、征治とアランはイフリートと対峙する悠人を支援に向かった。


 イフリートの炎を楯で受け、梨香が足を踏ん張る。
「イェーガーさん、今です!」
「ごめん、もう少し頑張ってね」
 瑞姫が『ファントム・バレット』の魔法弾を撃ち込む。
 倒せなくても、構わない。強敵に立ち向かう仲間を少しでも危険にさらさないように――!
 その魔法弾も尽きる頃、氷の刃が弱っていた火精を釘づけにする。
「お疲れ。援護するわ」
 司が『薙ぎ払い』で敵の動きを止めたのだ。
「順番に、確実に仕留めてまいりましょう」
 ユーノの放つ雷光に貫かれると、漸く火精は動きを止めた。
 だが休む暇はない。
「いい、敵大将の頭が転げ落ちるまで耐えるわよ!」
 すぐ近くでエヴァと夜姫がサブラヒナイトを引き付けている。


 そして突然、それはやって来た。

 すいっと視界を横切る黒い影。それが蝙蝠なのだと判ったときにはもう、影は飛び去っていた。
 突如サブラヒナイトが、雷に打たれたように棒立ちになる。東側でも、西側でも。
 悠人の眼前で、イフリートが横っ跳びに走り出した。
 正門を守護するケルベロスまでもが、踵を返すと北へ向かって全速で駆け出す。
 骸骨兵士も、あるいは立ち、あるいは這い……。
「待ちなさい! 逃がさないわよ」
 エヴァの放つ雷光に反撃することもなく、サーバント達は一斉に北へと去って行った。

『……作戦完了。皆様、お疲れ様でした』
 梨香の声。静まりかえった城壁内に、じわじわと安堵の空気が広がっていった。

 こうして南要塞は放棄された。
 まだ八要塞のうちのたったひとつ。
 だが確かに打ち込まれた楔は、人間の勝機を強く謳うだろう。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:10人

撃退士・
エヴァ・グライナー(ja0784)

高等部1年1組 女 ダアト
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
闇の戦慄(自称)・
六道 鈴音(ja4192)

大学部5年7組 女 ダアト
撃退士・
新井司(ja6034)

大学部4年282組 女 アカシックレコーダー:タイプA
微笑むジョーカー・
アラン・カートライト(ja8773)

卒業 男 阿修羅
絆紡ぐ召喚騎士・
久瀬 悠人(jb0684)

卒業 男 バハムートテイマー
食欲魔神・
Md.瑞姫・イェーガー(jb1529)

大学部6年1組 女 ナイトウォーカー
撃退士・
夜姫(jb2550)

卒業 女 阿修羅
幻翅の銀雷・
ユーノ(jb3004)

大学部2年163組 女 陰陽師