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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/10/05


みんなの思い出



オープニング

●ピース:学園
 久遠ヶ原学園のミーティングルームでは、学生達が額を寄せ集めている。
 ともかく、誰もが今まで余り経験したことのない類の依頼であることは確かだった。
 調査領域は九つあり、ここに集まったメンバーはそのうち北西での活動を担当することになっていた。
 地図を見る限り、大きな病院を中心に比較的低層の建物が並んでいる区画のようだ。
 目的のひとつは、堕天使三柱の捜索。
 もうひとつは、『神器・聖槍アドヴェンティ』と呼ばれる物体の探索。
 現在学園が保護している堕天使からもたらされた情報によれば、逃亡中の堕天使の身柄を確保すれば、『神器』の捜索は容易になるらしい。
 斡旋所アルバイトの女子学生が、注意点を説明する。
「堕天使三柱の知識は、人間にとって有益である可能性が高いでしょう。ですので先に救出したアルドラという堕天使同様、可能な限り救出することが望ましいということです」
 今回は天界も冥界も互いを牽制しつつ同時に同地域で活動しているという、非常に特殊な状況。
 そこに人間が加わり、駆け引きを複雑にする。さながら奇妙なパズルのようだ。

 これまでの一連の事件から、上級に属する天魔はお互い積極的に手を出しては来ない可能性が高いと思われた。だがディアボロやサーバントはそうもいかないだろう。
 広いエリア内を神器を探して回るだけの時間的余裕も人的余裕もない。
「ですので、当エリアでは目的を堕天使の捜索に絞ります。建物が密集しているこのエリアで、誰も見たことのない物を探すよりは工夫の余地があると思われますので」
 ……それでも、困難なことには違いありませんが。
 女子学生が嘆息しつつ、地図を示す。
「今回まず手をつけるのは、この病院からとなります」
 かつては救急搬送も受け付けていたと思われる、それなりの規模の病院だった。
「広い建物の方が隠れる場所も、逃走経路の選択肢も多いでしょう。ここで見つからなければ阻霊符で天魔の進入を阻み、拠点として捜索範囲を広げていきます」
 基本方針が示され、撃退士達は作戦の詳細を詰める話し合いを始めるのだった。

●ピース:天界
「保身を望み、貴重な宝物を持ち出してまで逃亡すること二回。よくもまあ今日まで命があったものね」
 シュトラッサー川上昇を呼びだした主は、大天使グラディエル。見た目は金髪碧眼の若い女性だ。従者に手伝わせて兜を取ると、自ら外した手甲を放り投げた。美麗な文様が刻まれたそれは軽く丈夫で、涼しい金属音を立ててサイドテーブルに転がる。
 川上は主の機嫌を伺うように尋ねた。
「そんなに強い天使なのですか」
 長椅子に優雅に腰かけた天使は、その言葉に眼を細める。
「逆ね。強ければそもそも逃げ出したりしないわ。そうね、一対一なら貴方が充分勝てる相手」
 試すような視線。川上はその視線を受けても顔色一つ変えない。
「本来ならばこれは私の仕事なのだけど。今回は直接手出しは無用というご命令で、こうして戻ってきたって訳」
 長い睫毛に覆われた青い瞳が、ほんのわずか、思案げに翳る。
 あと少し時間があれば。裏切り者を捕まえて神器の在り処を吐かせたものを。
 だが引けという上からの命令は絶対である。それが秩序というものなのだ。
「……要は直接でなければいいのよね。ノボル、貴方にお願いするわ」
 そう言いながら先刻外した手甲を手に取る。
「これを持って行きなさい。私の力を分けた貴方なら使いこなせるはずよ」
 美しい手甲は、不思議なことに川上の左腕にあてがうと、誂えたようにしっくりと馴染んだ。
「神器の在り処を知っているクルド以外の裏切り者は、抵抗するようなら処分して構わないわ。二度目の裏切りなど恥の上塗り。同族としてのせめてもの情けよ」
 あどけなさすら漂う唇から発せられた主の言葉は、どこまでも苛烈だった。

「さて、どうしたものか」
 川上は手甲を上着の袖で覆う。
 主から与えられたのはこの手甲とサーバント。天冥の気配を感知する能力を持つ白銀の獅子だ。ある程度なら痕跡を辿ることも可能だという。
 警察犬みたいなものだな、と川上は解釈した。
 神器を隠す為に残した気配もひょっとしたら嗅ぎつけるかもしれない。それが駄目でも主の言う通り、堕天使を炙り出せれば何とかなるだろう。
「よし、行ってこい」
 三頭の獅子は一吠えすると、人気のない街へと駆け出して行った。


リプレイ本文

●散らばるピース
 廃墟同然の病院は、打ち捨てられた日のまま静かに眠っているようだった。
 開いたままの自動ドアを抜けると、仄暗い内部を背景に風に舞う埃が日の光にキラキラと反射して見える。
 秋月 玄太郎(ja3789)が、僅かに目を細めた。床や壁、窓に目を凝らす。
 例え人でなくとも何かが通ったならば、痕跡は残るはずだ。自分達が踏み込んでその気配を消す前に、残された手がかりが無いか探る。
(堕天3人か……よりにもよってこんな面倒なところに隠れるなよ……)
 玄太郎にとっては余り気乗りのしない状況である。
 本音を言えば、堕天使した3柱自体に余りいい印象を抱けないのだ。
(のんびりしてられないが、慌てると足元をすくわれかねない。……堕天の3人だって腐っても天使、手傷を負ってても簡単にやられると思わないしな……)
 だが神器の情報を持っているとなれば、身柄の確保はやむを得ないだろう。何か良い方法はないかと思案を巡らす。 
 広いロビーを見まわす櫟 諏訪(ja1215)の頭上のアホ毛が、ひよひよと揺れる。
「堕天使さん、一体どこにいるのでしょうねー……」
通称アホ毛レーダー。どういう原理かは謎だが、周囲の生体反応を探ることができるらしい。
「いくら透過能力があるとはいえ、何も痕跡がないとは思えないのですよー?」
 だが目前の白く埃の積もった床には、足跡一つ見当たらなかった。
 佐藤 七佳(ja0030)が、何かに聞かれるのを警戒するかのように囁く。
「神器はどうでもいいですけれど……もし、天使の方が居るのであれば、助けたいですね」
 少しくたびれた上着のポケットに手を突っ込み、黒田 圭(ja0935)は見るともなく天井を見上げた。
「どこにかくれんぼしてるのかねぇ……」
 ポケットの阻霊符に短時間だけ念を籠める。
 天使ならば透過能力を持っているはずだ。何かの拍子にそれを遮られたことに気づいてくれれば、ひょっとしたらこちらの存在に気づいてくれるかもしれない。
 諏訪も少し離れて歩きながら、同じ様に阻霊符を使用する。
「これで気づいてくれるといいんですけどねー……。敵が気付く可能性もありますし、気をつけていきましょうねー?」
 阻霊符に影響を受けるのは、堕天使だけではない。
 おそらくこの周辺のエリアにいるはずの、神器と堕天使とを追っている天魔も同様のはずだ。
 透過能力を遮られたことに気づいたその瞬間、撃退士達の存在にも気付くだろう。
 一同は慎重に病院の奥へと足を踏み入れる。
「何かあったら、すぐに連絡くださいね」
 外部を警戒するメンバーと連絡先の確認を終え、唯一の癒し手、紫ノ宮莉音(ja6473)も後を追う。
 雫(ja1894)はその背中を見送りながら、呟いた。
「彼らが素直に此方に協力してくれれば良いのですが」
 天界から冥界へと渡り歩いた堕天使達は、おそらく強い警戒心を抱いているだろう。
「さぁ、来て! ヒリュウ君!」
 蒼井 御子(jb0655)がヒリュウを召喚する。
 ヒリュウは目を細めながら御子に頬をすりよせ、すぐに外へと飛び出していった。
 広い誰もいない駐車場、公園の柔らかな緑。
 シンクロする御子の目には、風を切り飛翔するヒリュウの見る景色が映る。
 余り長時間は使えないが、人より高い角度のヒリュウの視点でも探索を続ける。

 内部探索の4名は病院のロビーを過ぎ、階段室から上階へと移動する。
「一先ず身を隠しながら逃げるなら……窓があったり様子を窺いやすいとこ、かな?」
 辺りの気配を伺いながら、莉音はそう予想する。
 入院患者用の病室が並ぶ廊下を、二手に分かれて進む。
 手際よく捜索したいのは山々だが、生命探知にも範囲や使用回数の限界がある以上、見通しの悪い場所での完全な単独行動は危険が大きすぎた。
 もどかしい思いを抱えつつも、いつでも合流できるよう全員で同じフロアを探索する。
 外からの光が明るく照らす廊下に向かい、諏訪と莉音が声を上げる。
「クルドさん、ムリフェインさん、それからミルザムさん、いませんかー? 助けに来ましたよー」
「僕たちは久遠ヶ原学園の撃退士です。アルドラさんを保護してます、彼女は学園で元気にしていますよ」
 静まり返った廊下に、声だけが響く。他の物音は聞こえず、生物の気配も感じられない。
 莉音はアルドラが語ったという話を思い出し、今このエリアのどこかで息を潜めているだろう堕天使の事を思う。
(平穏に暮らしたい、それだけのことが叶わない……天界も冥界も、人の世界も一緒なんだね)

 順に各階を回ったところで、ロビーに戻った。そこに別行動を取っていた七佳が合流する。
「会計コーナーの奥に、警備室がありました。監視カメラには堕天使らしきものは映っていません」
 七佳は最初、堕天使の潜伏場所としてそこにアタリをつけた。
 堕天使がもしかしたら監視カメラの使い方を知っているかもしれないと思ったからだ。
 だがそこでも何ら痕跡は見られなかった。
「エレベータシャフトとか職員用通路とか、隠れられる場所は多いですからね」
 警戒を解いて向こうから出てきてくれるのが最善なのだけれど……。
 広い病院の見取り図を眺め、七佳は溜息をついた。次は地下を確認し、別館に移動する。
 
 成宮 雫雲(ja8474)は別館の屋上に身を伏せ、地上を見下ろしていた。
 周囲を警戒しつつ、屋上の床に耳をつけ、天井を隔てた室内の気配を探る。
(屋内に動く気配はないが……)
 ふと眼を上げると、その表情が引き締まる。見えたのは彼方から駆け寄る赤い獣たち。
 阻霊符の効果だろうか、流石にこちらの存在に気づいたようだ。携帯を取り上げ連絡を入れる。
「来たぞ、サーバントだ」
「やっぱり、来てるね。まっすぐ来るなら割とすぐ、かな? そっちの様子は?」
 ヒリュウの眼で御子も気づいていた。すぐにヒリュウを呼び戻す。
「見えている。この周囲で見かけられているらしい赤猫だけだな。射程内に入り次第迎撃する」
 視界を遮られている建物内の仲間より先に動いて、対処の時間を作る。
「全力でいかせてもらう!」
 雫雲のリボルバーからアウルの弾丸が放たれた。

●集うピース
「サーバントが現れました」
 雫が地下部分を探索に向かった班に、連絡を入れる。
 手みじかに情報を伝えると、身の丈より長いフランベルジェを構えた。
 上方から降り注ぐ雫雲の弾丸に行く手を阻まれた赤い猫達。その数、5体。
 気配を消して至近距離まで一気に詰める。植え込みの陰から躍り出ると、それまで溜めこんでいた闘気を一気に解き放つ。
 陽光を受け輝くフランベルジェの軌道が三日月型の弧を描くと、赤猫2体が弾け飛んだ。
 雫雲の攻撃に意識が向き無防備だったサーバントは、悲鳴を上げて転がる。
 だがすぐに残りのサーバントが雫を狙う。今度は明確に、危険な敵と見定めて。
 赤猫がカッと口を開けると、赤い光球を射出。雫は身を低くして植え込みに跳び込んだ。が、3体が連続で吐き出す火球全ては流石に避け切れない。
 左肩に灼熱。
 駆けつけた御子が再びヒリュウを召喚した。
「いっちゃえバースト!」
 御子の肩のあたりにふわりと浮かんだヒリュウが、可愛い顔に似合わぬ強力なブレスを吐いた。
 攻撃を受けたサーバントが、ヒリュウに向かって火球を吐く。
「戻って、ヒリュウ君……きゃあ!」
 火球がヒリュウの翼を掠めるのと、御子がヒリュウを呼び戻したのはほぼ同時だった。召喚獣が受けた痛みは、術者も共有する。それが互いの絆の証だ。
 攻撃対象が目前で消え去り、サーバントは御子に向かって火球を吐かんと口を開いた。
「よーし、こっちだ」
 御子の前に回り込んだ圭のショットガンから放たれた散弾が、サーバントを引き裂く。
 赤猫の放つ火球が、攻撃を避けて転がる圭を次々と襲う。
「この!」
 雫雲が先頭の赤猫めがけて銃弾を撃ち込む。だが屋上からの射撃では、敵の移動を追い切れない。
 そこに跳び込んだ七佳のパイルバンカーがサーバントを強打。
(……黒田さんが、蒼井さんが、危なかった、から……)
 これは敵。自分達を狙う敵。そう自分に言い聞かせる。
「これで止めだ」
 玄太郎が分身の術で相手の狙いを逸らしながら突っ込んだ。手にした忍術書から出現する土塊を食らい、サーバント達はようやく動きを止めた。
「大丈夫!?」
 莉音の癒しの光が、仲間の負った傷を塞いで行く。

 その時だ。
 空から降ってきた猛煙が、異常を知らせる。
「別口が到着した。ちょっと違う感じの奴が」
 雫雲の緊迫した声が携帯から響く。
 彼女が屋上から見た物は、明らかに赤猫とは違った。即座に発煙筒を点火、地面に向かって落とし注意を促した。携帯を使う時間も惜しかった。階段を駆け下りながら状況を説明する。
 現れたのは、銀色の大きなサーバントが3体。真っ直ぐこちらに向かっている。
 それを受けて、一同は病院内に後退する。
 発煙筒の煙で視界が遮られているが、それはあちらも同じことだろう。建物内にいれば、煙が晴れるまでは簡単には見つかるまい。
 そう思った矢先。
 生命探知のアホ毛レーダーが激しく反応し、諏訪は身構えた。
「きたっ! ってあれー?」
 跳び込んできた2体とは別に、1体が今来た方へと戻ろうとする。
(増援を呼ばれると、まずいかもしれないですねー)
 目を上げると、雫の視線。小さく頷くと、脇の出入口から身を低くして飛び出した。
 相手の進路に回り込んだ諏訪の、銀色の拳銃が吠える。
 突然の攻撃に、獣は怒りの声を上げた。それは大きな銀色の獅子。堂々とした体躯に煌めく鬣、まさに神話の聖獣が出現したようだ。
 だが、相手はサーバントだ。
 雫が剣を振り下ろす。痛撃に銀獅子が吠え声を上げ、太い前脚を雫に叩きつける。
 無防備になった脇に諏訪の銃弾を撃ち込まれ、獅子は荒れ狂った。振り被られた爪が雫の肩を裂く。押さえ込まれる寸前、雫は身を捻る。
 再び襲いかかろうとする獅子は諏訪の弾丸に後ろ脚の関節を砕かれ、姿勢を崩した。そこに体勢を立て直した雫の渾身の一撃を眉間に食らい、獅子はようやく動きを止めた。
 上がる息を整え、病院を振り向く。
 そこに立つ人影が目に入った。仲間ではない人間がいる……。

●混迷のパズル
 病院内の2体の銀獅子は、幾度か攻撃を受けると突然外へと駆けて行った。
 発煙筒の煙が晴れつつある中に、人影が見える。出て行った諏訪と雫ではない。
 玄太郎はそれを凝視した。
(あれが……シュトラッサーなのか)
 迷彩服に身を包んだ中肉中背の男に、銀獅子が寄り添う。その様子は明らかに人間ではない。
 玄太郎の鋭い眼が、すっと細められた。
(危険だとは思うが……いずれやり合うこともあるなら、少し手の内を探っておきたいな)
 男が不意に声を上げた。どこか親しみを含んだような調子だ。
「久遠ヶ原の撃退士さん達か。毎度ご苦労なことだな」
 言いながら、建物内に踏み込んで来る。
「さしずめ目的は神器の探索かな。あれは人の手には余るモノだと思うんだがねえ」
 まるで隙だらけの無警戒。それが却って不気味だと圭は思う。
(まずいな……こりゃもう堕天使の探索どころじゃない)
 全員が逃げる間の時間稼ぎぐらいは可能か?普段通りの表情の下で、頭はフル回転している。
 突然御子が手をひらひらさせた。
「や、やっほう。おじさんもお疲れ様、だよー……ボクは蒼井御子、おじさんは?」
 一か八か天然少女のふりをして、相手の気を削ぐ手段に出た。
 相手がふと、笑いを堪えるような表情になる。
「おじさんか?おじさんは川上っていうんだ。元人間だよ」
 元人間。その言葉に微妙な響きが籠められている。
(ここでシュトラッサーと戦闘になったら、さすがにまずいよね……)
 莉音の癒しのスキルは既に尽きている。今回の任務では戦闘は必ずしも必要ではない。
 ならば……

 そう思ったときだった。
 窓という窓を震わせ、白い閃光が辺りを包みこむ。光の中で使徒が顔を上げるのが判った。
「やれやれ、誰かが『聖槍』を使ってしまったか」
 敵意の感じられない、寧ろ穏やかとすら思える口調。
「でも撃退士さん達のお仕事は、終わりじゃないのかな?」
 その言葉と同時に、銀獅子が玄太郎に跳びかかった。
 気配を消してシュトラッサーに近づきつつあったところを、サーバントに察知されたのだ。
 玄太郎の腕に、銀獅子の牙が食い込む。
 雫雲が疾風の如く突進した。
「いつも裏方だ。今回は活躍でもせねばな」
 アウルの力を籠めた棒手裏剣が9本、その手に発現。
 真っ直ぐと見せかけて、跳躍を生かして方向転換、飛び退りざまに棒手裏剣を投げつけ、シュトラッサーが玄太郎に向かう動きを封じようとする。
 それを見て尚、微動だにしないシュトラッサーが無言で左腕を上げた。袖が肩に向かって引っ張られ、その下の手甲がちらりと覗く。
 使徒がそれを雫雲に向けると、鋭い光が弾け轟音が辺りに響いた。
「ふむ、扱い慣れていない道具はやはり精度が落ちるか……」
 壁が衝撃に大きく抉られ、雫雲はそのすぐ脇で膝を折り倒れ伏す。
 シュトラッサーは左腕をゆっくりと、今度は正面に向けた。
「おじさんこれでも色々忙しくてね。邪魔するなら、全力で君達を排除しないといけなくなる。
 もう追って来ないというなら、このままここでお別れだ。どうするね?」
 一見どこにでもいる中年男の全身から発せられる、圧倒的な気配。
 元々シュトラッサーと対決するのは、堕天使を保護するのに必要な場合のみと決めていた。
 この場に保護すべき堕天使がいない以上、敢えて負傷者を抱えてまで危険を冒す意味はない。
 相手が引くというなら、乗るべきだ……罠の可能性はゼロではないが。
 諏訪がシュトラッサーの前に敢えて身を晒す。
「この場は引くので、手出しは控えてもらえませんかー?」
 シュトラッサーはほんの僅かに表情を緩め、左腕を降ろした。
「お互いにそれが賢明だな。もちろん、次に会ったときにはどうなるかは判らないがね」
 その瞬間に、閃光。
 光に眩んだ視界が正常に戻るころには、使徒も銀獅子も姿を消していた。

 それからすぐ後のこと。
 3柱の堕天使発見と『神器・聖槍アドヴェンティ』の発動を知らせる連絡が入る。
 結局、このエリアには堕天使は潜んでいなかったのだ。
 だが神器発見の瞬間までここでシュトラッサーを足止めしたことは大きい。万が一あのシュトラッサーが堕天使のいるエリアに出現していたら、その部隊はかなりの苦戦を強いられただろう。
 だがひょっとしたら、もう天魔にとっては堕天使の存在は意味がないのかもしれない。
 危ういバランスを崩しかねない、強力な神器。
 あの凄まじい光を放った『聖槍』を巡って天魔が入り乱れ、混乱状態となることは必至だ。
 桁外れに強力なピースをどの陣営が入手し、パズルの盤面がどう変化するのか……それはまだ誰にも判らない。

<了>


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 二月といえば海・櫟 諏訪(ja1215)
 歴戦の戦姫・不破 雫(ja1894)
 夜の帳をほどく先・紫ノ宮莉音(ja6473)
重体: −
面白かった!:3人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
地道な見守り・
黒田 圭(ja0935)

大学部7年36組 男 インフィルトレイター
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
撃退士・
秋月 玄太郎(ja3789)

大学部5年184組 男 鬼道忍軍
夜の帳をほどく先・
紫ノ宮莉音(ja6473)

大学部1年1組 男 アストラルヴァンガード
縁の下で支えてくれる人・
成宮 雫雲(ja8474)

大学部7年20組 女 鬼道忍軍
滅雫のヴァルキュリア・
蒼井 御子(jb0655)

大学部4年323組 女 バハムートテイマー