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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:イベント
難易度:普通
参加人数:25人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/07/31


みんなの思い出



オープニング

●絶海の孤島
「騙されたんだ……!」
 中山律紀(jz0021)が砂浜に膝をついた。
 青い空。白い砂。緑の木陰。ちょっと見た所は、まさに楽園。
 だが、あるのはそれだけだ。つまり、それしかない。
「話がうますぎると思ったんだ!」
 拳を握る。だが、時すでに遅し。

 話は少し前にさかのぼる。

●リゾートへの誘い
 その日も律紀は、パソコンの前に伏せていた。
 寝落ちている訳ではない。新聞同好会の記事を書こうとして、書けずにやさぐれていたのだ。
 気晴らしに、マウスを操作してネット上の斡旋掲示板をチェックする。するとある依頼が目に入った。

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【急募】リゾート開発のお手伝い
 南海の島でのアルバイトです。リゾート開発予定地の調査をお願いします。
 主なお仕事は地図作成と周辺の生物調査。
 余った時間は、美しい海で自由にお過ごしください。
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 その他、条件なども悪くない。
 なるほどこれならば、上手くすればレポート記事も書ける。写真を撮るだけでもいい絵になりそうだ。
 ……普段の律紀ならば、こんなおいしい依頼がネットに掲載されるまで残っていることに、一抹の危機感を覚えただろう。だが、追い詰められた人間は時として正常な判断を失う。
 即座に応募してしまったのが運の尽きだった。


 どのような思惑があってか、他に同行者あり。
 どういう訳か船の操作まで自分達で行うという、無茶ぶり。
 GPSのお陰で、ほぼ丸1日かけて目指す島についたまでは良かったが、そこは完璧なまでの無人島だった。
 嫌な予感が、見えない霧のように一同にどんよりとのしかかる。
 船を操作してきた学生の叫び声が、操舵室から聞こえた。
「ね……燃料が……ほとんど底をついてる!」
 何故気付かなかったのか。それは、燃料計が偽装されていたからだ。そこまでやるか。

 そのとき、船内放送が流れた。
『久遠ヶ原の学生の皆さん、長い船旅お疲れ様でした。荷物を持って甲板へお集まりください』
 誰かが他に乗船していたのか?訝しみながらも、一同は甲板へ集まる。
『こちらは到着時点で流れます、録音放送です。こちらの島は、企業研修用に開発予定となっております。一般の方が生存できる程度の島かどうか、強靭な肉体と精神力を持つ皆様に調査をお願いしたいと思います』
 それを先に言え!誰もが内心突っ込んだことであろう。
『天候が悪化しなければ、三日後に迎えがまいります。それまでに島内の調査を宜しくお願い致します。また島は携帯電話の圏外です。あしからずご了承ください』
 盛大なブーイングが湧きおこった。当然だろう。だが涼しい声が続ける。
『尚こちらの船は、音声終了と同時に使用不能となります』
 ぶつん。ドオン!
 どういう仕掛けになっているのか判らないが、船の操舵室が吹き飛んだ。そこまでやるか。

 とりあえず船が沈む前に、詰み込んできた荷物を持ちだすことには成功した。
 切り詰めれば携帯食糧は三日分、飲料水は五日分というところか。後は四人用テントが六張と、人数分の寝袋。それに炊事セット、固形燃料が一ダースに、温情措置なのか気休めなのか釣り道具もあった。
「あとはそれぞれが持ち込んだ物に頼るしかないな……」
 律紀が大きなため息をついた。


リプレイ本文

●渚の撃退士達
 どこまでも続く、白い砂。
 その照り返しを避けて、船から降ろした荷物は木陰に運び込まれた。
「リゾートか。やはり美味しい話には裏があるということだな」
 翡翠 龍斗(ja7594)が呟いた通り、メンバーの大部分は割合冷静に事態を受け入れた。
「……素直に最初から調査といえば、十分な準備で挑むことだってできたろうに、なんでわざわざ調査の難度を上げるようなことをするんだ……」
 物事に整合性を求める理論派の天羽 流司(ja0366)は流石に呆れてもいるが、それでも運び込まれた荷物の数量チェックに手をつける。サバイバルは不得意ではあるが……。
「文句は後でいうしかない。今はやる事をやろう」
「暗くなる前にまず野営の準備ですね」
 彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)が言い、適当な場所を求め木立に分け入って行く。
(あぁ…、この状況…懐かしいっすね。
 昔よく師匠にナイフ一本だけ持たされて山の中とか放り込まれたもんっす)
 オレンジ色の瞳でどこか遠くを見つめていた夏木 夕乃(ja9092)が、我に返って彩の後に続いた。何やらいろいろ事情があるようだ。
 流司と一緒に荷物をチェックしていた中山律紀(jz0021)が、ふと手を止めて感心したように呟く。
「流石というかなんというか、皆この状況でも立ち直り早いね」

 立ち直るどころか、大いに楽しんでいる者もいる。
(…えと、無人島?)
 逸宮 焔寿(ja2900)は小首を傾げたが、直後に目をキラキラさせた。
「つ・ま・り。自分のお城が作れるってコトなのですねー♪」
 落ち込むどころか、大喜びである。
 元々リゾートを期待していない八角 日和(ja4931)などは、動じる理由もない。そもそも『生物調査』に惹かれて参加しているからだ。
「少し南に行くだけで住んでる生き物は結構違うからねっ」
 まだ見ぬ生き物との遭遇が、楽しみで仕方がない。
「与えられた任務は任務。面倒だけれど達成してあげるわよぉ……」
 雨宮アカリ(ja4010)はそう言って、年齢の割に妖艶さを感じさせる仕草で長い髪をかきあげた。

 だが一方で、まだ現実を受け止め兼ねている者もいた。
「え?漂流?無人島?え?」
 御手洗 紘人(ja2549)は砂浜に立ちつくし、海に向かって疑問符を飛ばし続けている。
「騙された?いいえ、このわたくしがそのように迂闊なはずがありませんわ。ねえ……」
 傍に控えているはずの従者の少女が居ないことを桜井・L・瑞穂(ja0027)は思い知る。不安が押し寄せるが、プライドで押し込めた。レースの上着を勢いよく脱ぎ捨て、フリルの水着が最低限覆うだけの完璧なプロポーションを惜しげもなく晒すと、満ち潮になりつつある砂浜に仁王立ちして高笑いを響かせる。
 そこに雪村 楓(ja0482)がやってきて、腕を掴んだ。
「ほら、自棄になってないで行くわよおじょー!」
「か、楓。お放しになって!わたくしはリゾートを、い、いーやー!?」
 瑞穂は叫び声を後に残し、楓にずるずると引きずられて行った。

 木立が程良く開けた草地に、荷物が並べられている。
「あ、すみません、寝床とは別にテントひとつを女子で使っちゃダメですか」
 彩が手を上げた。数日の滞在で必須になる物。飲料水や食糧はもちろん大事だが、飲食後に必要なもの……トイレの確保である。考えてみれば当然だ。
「この程度の島なら大きな水の流れはないから、海に流れる心配はありません」
 彩は少し離れた場所で、手早く穴を掘りはじめた。
 逆にいえば、男はその辺で頑張れ。そういうことになるのだが。
「となると、残りのテントの配分をどうするか」
 流司が眼鏡の位置を直しながら、頭の中で素早く計算を始める。
 女子16名、男子10名。テントの残りは5張り。何人かは見張りを担当するとしても、どうしても足りない。係留した船で寝るという案も出たが、推進力の無い船で眠るのは危険すぎる。
(僕は肉体労働には向かないからな。そっちを担当してくれる人にテントを譲ろうか)
「ニンジャはサバイバルなんて平気だからね!ボクはテントはいらないよ」
 犬乃 さんぽ(ja1272)が言うと、レナ(ja5022)も元気よく同意した。
「絶海の孤島で修行なのだ!ニンジャなのだ!ニンジャなのだ!」
 二人は今こそニンジャ力を発揮する時とばかり、ハイテンションだ。ところでニンジャ力って何だろう。
「あ、私も野営で。こういうときは中の方が落ち着かないのよぉ」
 アカリが手を上げる。
 テントはどうやら、眠るときに交替で使えば何とかなりそうだった。寝袋は人数分あるのだから、雨さえ降らなければ外でもなんとかなるはずだ。

 やがて日が傾き始める。見事な夕焼けだ。とりあえず明日はいい天気になるだろう。
 砂浜の方から駆けあがってきた久遠 栄(ja2400)が、皆を呼んだ。
「食べ物持って行って、キャンプファイヤーやろう!」
 今まで龍斗と紘人と3人で、準備していたらしい。
「どうせならこういう時は、思いっきり楽しもうぜっ」
 火を起こし炊事セットを手早く広げると、食事を準備する。とりあえず1日目ぐらいは、景気よく。料理の得意な者がそれぞれ腕をふるい、限られた食材の中にしては立派な夕食が用意された。
 赤々と灯る火の前で食事を頬張ると、これはこれでリゾート気分。談笑しながらそれぞれ今日の出来事を笑い合う。
「皆で食べると美味しいのです。キャンプファイヤーなんて…キャンプしているみたいなのです」
 紘人が笑顔で言った。
 だが日和の元気いっぱいの言葉が、全員を現実に引き戻す。
「みんなで頑張って、元気で帰ろうー!」
 結局、早々に砂浜から引き揚げた。

●島内探検
 翌朝、朝日と共に全員が起き出した。
 各々の希望と得意分野は昨夜のうちに調整し、役割分担を決めてある。
 朝食を済ませ次第、次々と島内に散らばって行く。
「さあ、お父さんについてきなさい!」
 雀原 麦子(ja1553)が堂々と宣言した。水場確保班は、【漂流家族】になりきっている。
 お父さん・麦子は焔寿の手を握っていた。特に行き先の希望はないようだったので、仲間に誘ってみたのだ。焔寿は嬉しそうにくっついている。
「ま、騙されちゃったのは仕方ない。せっかくの南の島、思いっきり楽しみましょ♪」
 持ち前の明るさと度胸でメンバーをまとめ上げた麦子は、そうやって不安そうな女子を元気づけていた。
「私のリゾート生活を返して!」
 最初こそ嘆いていた菊開 すみれ(ja6392)だったが、気分はすっかりお姉さんその一だ。末っ子・三神 美佳(ja1395)と手をつないでいる。
「なんだか映画みたいでワクワクしません?」
「うみゅぅ……何があってもお姉ちゃんたちと一緒だから大丈夫ですぅ」
 皆の足を引っ張らないようにと精一杯背筋を伸ばしている。そんな美佳に、すみれは頑張らなくちゃ!と決意を新たにするのだ。
 お姉さんその二のフィーネ・ヤフコ・シュペーナー(ja7905)と共に、桜花 凛音(ja5414)は軽い足取りで後に続く。
「すみれ先輩、お誘いありがとうございます…皆様宜しくお願い致します」
 昨日は硬い表情で頭を下げたが、一晩共に過ごした仲間となればおのずと表情も和らいで来る。
「あ、虫に刺されるといけませんから…」
 持参した虫よけスプレーを、手際良く全員に噴いてやった。
(ああ……叔父に連れられて放浪生活だった頃を思い出すわ)
 なんだか色々複雑な過去を持った者の多い久遠ヶ原である。
 最後を歩く副隊長は、お母さんの雨宮 キラ(ja7600)だ。
「とりあえず、のんびり楽しめば、何とかなるさ♪一人じゃないし♪」
 いつも通りの笑顔。お父さんの麦子と共に頼りになる存在……のはずだが、昨夜テントですみれに抱きついて眠っていたのは内緒である。無意識らしいが、相手によっては驚かれることだろう。
 歌など歌いながら、全員で木立の奥へと踏み込んで行った。

 島内調査の担当は、幾つかの班に分かれていた。
 島は撃退士の行動力ならば、日のあるうちに一周できる程度の大きさしかない。だが海岸には大岩や崖が突き出し、島の中央部は濃い緑の木々に覆われている。
 滞在中に白地図を埋めるには手分けして調査する必要があった。だからと言って、単独行動は危険を伴う。そこで小班に分かれ、それぞれの成果を持ち寄ることになる。
「……おー、なんだこれ。まぁ、話が上手すぎるって言えばそうだけどさ……」
 神喰 朔桜(ja2099)が島の輪郭だけが記された白地図を広げた。見事に何も書かれていなかった。
 だが言葉の割には不満は籠もっていない。どうせなるようにしかならない、という達観。
「あ、あーたんもこっちの班だったんだ。何しよっか」
「おや、朔桜殿…と言うかその呼び方は…」
 『あーたん』こと鬼無里 鴉鳥(ja7179)は、一応呼び名に抗議する。だが朔桜はそれを全く意に介した様子もなく、話を進めて行く。
「えっと、島内の調査をお願いって言ってたよね。まぁ適当にやってこうか」
 本来騒がしいことや他人と群れることを好まない鴉鳥だが、なんだかんだでこの友人のペースに乗ることに悪い気はしない。相性というのは不思議なものである。
「あ、流司君はどうするんだろ。ちょっと声かけてみようかな」
 朔桜は部活仲間も誘ってみることにした。だがサバイバルに向かないことを自認する流司は、荷物管理担当に収まっていた。
 行って来るねーと元気よく手を振る姿を見送りながら、流司の方も朔桜を心配する。
「大丈夫だろうか。まあ僕よりは慣れてそうか……」
 それぞれが淡々としながらも、程良い距離を保っているのだろう。

 鴉乃宮 歌音(ja0427)は目の高さの枝に、目立つカラーテープを巻きつけた。
「こういう仕事だよね、やっぱり」
 帰り道を見失わないよう、一定距離で立ち止まる度に同じ側に目印をつけているのだ。
 一見華奢にも見えるボーイスカウト風の出で立ちだが、どこかふてぶてしい程の落ち着きぶりである。
「探偵の活躍にこうご期待、なんてねぇ」
 依頼の傍ら探偵業も営む雨宮 歩(ja3810)は、どこか自分自身すら客観視して面白がっているような口ぶりだ。
 期待感に顔を輝かせているのは日和だ。
「どんな生き物がいるのかなあ……あっ、その赤い実は食べられると思う!」
 元々山野を駆けまわって育った彼女にとっては、苦になるようなことは何もない。珍しい植物や動物を次々とカメラに収めて行く。
 3人とも隠密行動が得意な為、粛々と進む。歌音が白地図に何事か書きこむ間に、歩は動く動物を目ざとく見つけ、音もなく近づき仕留める。
「狙った獲物は逃がさない、なんてねぇ」
 歩がぶら下げたものは温暖湿潤な場所にいかにもふさわしい、大きな蛇だった。
「噛まれたら厄介だよ、毒がある種類だから」
 日和はそれも記録に収めた。

「あ〜見事に何も無いな。日が暮れるのは遅いが、明るいうちになるべく動くか」
 神楽坂 紫苑(ja0526)がcicero・catfield(ja6953)に向かって愚痴ってみせる。
「ここにはどんな生物がいるんだろうなぁ。あ、あっちも行ってみよう」
 一方のciceroは瞳を輝かせていた。足取り軽く、鼻歌など歌いながら遠足気分だ。
「お、この実は食べられそうだ……痛っ」
「どうした?あ〜あ、ほらこっち貸してみろよ」
 木の枝に引っ掛けたciceroの指から血がにじんでいた。紫苑は手早く手持ちの応急キットを広げる。口ではめんどくさいと言いつつも、やることはやるのが紫苑だ。ciceroも判っているので、別に気を悪くしたりはしない。
「これでよしっと。めんどくさいけど、もうちょっと奥まで行くか」
「ありがとう。向こうの岩山辺りまで行ってみよう」

 迷彩服に身を包み、顔にはカモフラージュメイクまで施したアカリがぼやく。
「今更だけれどキツい仕事ねぇ……」
 使い込まれたレンザティックコンパスを手に、海岸線を測量する。彩はその結果を地図に書きとめて行く。近くの藪をかきわけ、夕乃が顔を出した。
「探検探検〜♪ この断崖は、奥まで続いているみたいっす。それとこれ。今日は暑いっすからね」
 頭が隠れるほど大きな葉を差し出した。帽子代わりになりそうだ。
「どうもありがとう。じゃあやっぱり、ここから登りますか」
 彩は葉っぱを器用に頭に載せると、身軽に岩場を登る。あっという間に見えなくなったかと思うと、するするとロープが下りてきた。登ってこいということらしい。諦めたような溜息をついて、アカリがとりついた。

「レナちゃん、今こそニンジャ力で、一緒にこの島調べて回っちゃお!」
「ニンジャ力なのだ!さんぽさんと一緒にオススメスポット探しなのだ!」
 さんぽとレナはハイテンションコンビだ。最初こそ騙されたと思って驚いたが、この困難な状況でこそニンジャ力が試される。誰も知らない場所を探検する醍醐味に目覚めてしまったのだ。
「さんぽさん!さんぽさん!すごいのだ!すごいのだ!大きな木なのだ!」
「わぁ、絶対この大木は伝説の木だよ……ニンジャモンジャの樹っと」
 彼らにしかわからない謎の記号や似顔絵で地図を埋めつつ、勝手に目標物に名前をつけて行く。
 レナにとっては、先輩ニンジャのさんぽと一緒に修行できるのが嬉しくてたまらない。驚くべき跳躍力で二人は灌木を飛び越え、森の奥へと進む。横倒しになった巨木も深そうな沼地も、彼らのニンジャ力の前には障害とはならなかった。
 そのテンションは岩山から流れ落ちる滝を見つけて、最高潮に達する。
「滝なのだ!修行の醍醐味なのだ!かっけーのだ!」
 目をキラキラさせて、レナはさんぽの袖を引く。
「これはすごい滝だね……シュギョーの滝、と」
 尚この地図は後に他のメンバーと照らし合わせるのに時間を要したが、一方で見て楽しいガイドマップであった。
 ……尤も、利用できるのは撃退士位という問題点はあったのだが。

 こうして島内探検が進んでいる頃、夜間の見張りなどに備えて活動拠点に残った者もいる。
 夕食の準備を整えながら、栄が空を仰ぎ見た。
「げぇ、髪がもじゃもじゃだよ……こりゃ荒れるね……」
 湿気を帯びて普段よりくるくるになった髪が、不穏な空気を感じ取っていた。

●台風襲来
 3日目の朝は、湿気を帯びた強風に始まった。
「ちょっとまずいかな……これは台風だよね。今のうちに移動した方が良さそうだ」
 律紀がテントをたたみ始める。
「一番近くてそれなりに広さがあるのは、ここの洞窟だね」
 歌音が昨日の調査結果をつきあわせた島内地図の一点を指した。実は歩と共に簡単な調査を済ませ、既に荷物の一部を運び込んでいる。
 素早く荷物を纏め、手分けして背負う。
 最後のテントを必死に片付けていた栄と龍斗と紘人だったが、そこに突風が吹きつけた。
「ひやぁぁぁぁぁー!!助けてー!!」
「紘人ーーー!?」
 軽い紘人が、テントを掴んだまま風にさらわれて飛んで行く。
「……まあ、死にはしないだろ」
 結構酷い友人二人である。

 洞窟は全員と荷物がなんとか入る余地があり、入り口にテントの布を下ろせばどうにか風雨がしのげそうだ。キラがトワイライトを使って中を照らすと、意外と奥は深く、横穴もある。
「もうちょっと奥を見てみようか」
「変な生き物が隠れてても困るしな」
 感知が得意なメンバーが、手分けして調査に向かう。
 打ちつける雨の勢いは激しくなる一方だ。遠くの海が吠える音が洞窟に反響し、下腹に響く。
「お姉ちゃんがいるから怖くないよ!」
 すみれは凛音が怖がらないように肩を抱き、気丈に振舞う。だが内心では一番怖がっていたうちのひとりだったかもしれない。
 どこかで大きな木が折れたらしい、激しい音が響く。
「きゃーーーー!!!」
「わあああああ!!!」
 すみれの絹を裂くような悲鳴が洞窟内に響き、思わず一同は耳を塞いだ。
「お姉ちゃん大丈夫?」
 末っ子・美佳が心配そうにすみれを覗き込んだ。
「美佳ちゃん、なんて良い子なの!」
 麦子は美佳の健気さに、思わず抱き寄せて頭をぐりぐりと撫で回した。

 その頃、漸くまとわりつくテントから逃れた紘人は、心細さに耐えながら一人さまよっていた。
「栄さん、翡翠さん……皆さんどこですか……」
 激しくなる風雨を避けようと、木立へと踏み込む。海岸に突き出した岩山を沿って歩くと、風雨がしのげそうな洞穴が見つかった。
「ここは……洞窟なのです?」
 自分の声が反響し、思わず身をすくめた。暗がりに目が慣れてくると、洞穴はかなり先があるようだった。
「猛獣がいると怖いのです」
 感覚を研ぎ澄まし、空気の流れを感じとろうとする。そこに、かすかな人の話し声が聞こえた。
「あ!栄さん達なのです!!良かったです!」
 地獄に仏、友人の声に元気づけられ、奥へと駆け出す。

 栄と龍斗は洞窟の横穴を進んでいた。そのとき、向こうから近寄る気配に気づく。
「奥に何か生き物がいるような気がしますの」
 先刻、瑞穂に警告されていたことが気になる。足音からすると、それなりに大きな動物のようだ。緊張が走る。
「ふむ、今夜のメインとなり得るな?さぁ、絶望を受け入れろ」
 飛び出した相手に、龍斗の鉄拳が繰り出される。栄も加勢し、拳を叩き込んだ。
「ぎゃふん!!」
 叫んだ相手は人間だった。龍斗は漸く相手の正体に気づいた。
「ひ……紘人!?」
「あ……ごめんな、無事でよかった」 
「きゅぅ〜……」
 こうして紘人は無事(?)合流を果たしたのだった。

●サバイバーズ
 翌朝になり、台風一過の空は眩く輝いていた。
 本来迎えの船が来るはずの日だが、やはりというべきか、来る気配はない。
「これ、腐る前に回収してきました……」
「これも食べられるだろう。こっちは塩味で焼けばいい」
 凛音がマグロに似た巨大な魚を差し出した。歌音も海藻や貝など、砂浜に打ち上げられていた物を一杯に抱えている。洞窟内では最低限の火しか使えず大した調理もできなかったので、久々のごちそうだ。
「簡易食糧はもういくらも残っていないから、今日からは食糧調達が必要だ」
 流司が在庫をチェックして言った。
 幸い、水はまだ多少余裕があるし、水場も見つかった。いざとなれば沸かして飲むことはできるだろう。だが食糧はそうもいかない。また、地図の方もまだ完成とは言い難かった。
「私と朔桜殿は調査を続けようと思う」
 鴉鳥はどのような経緯であろうと、依頼は完遂するつもりだった。
「まだこの部分まで行けてないしねー」
 地図を広げ、朔桜が空白部分を指差している。彩がそれを覗きこんだ。
「では私とユウノも調査に回ります。手分けして地図を完成させましょう」
 測量は4名に任せ、他のメンバーは食糧を求めて森に海に散って行く。
 
 麦子を先頭に【漂流家族】の一団は森を進む。
 2日目に見つけた綺麗な水場にたどり着くと、麦子はまずその冷たい水に缶ビールを浸けた。
 最初にたどり着いた海岸から近い所に一ヶ所水場があり、今はそこの水を主に使っている。ここは少し奥に入っているので、まだ他のメンバーは知らないはずだ。そこで思う存分、水浴びを楽しむつもりなのだ。
 あ、水着着用なんで、念の為。
「あ〜生き返る!最高ねっ!」
 久々の冷たいビールを煽り、麦子が歓声を上げる。
「冷たくて気持ちいいのです〜」
「美佳ちゃん、あんまり深い所行かないように気をつけて……きゃあ!」
 派手な水音を立てて転んだのはすみれだ。フィーネが慌てて助け起こす。
「お腹がすいたらお菓子ならまだあるわよん」
 キラが荷物を広げる。
「あの、私はちょっと……」
「女の子だけなんだし、大丈夫よお。およ凛音ちゃん、いー身体してるわねん♪」
「え、ちょっと、きゃあ!」
 この辺りは色々ご想像にお任せするとして。
「気持ちいいーっ!すっきりさっぱりだね!」
 まさに生き返った漂流家族は、元気を取り戻し食糧調達に乗り出した。

「こんなところで何か釣れるんだろうか?」
 相変わらずぼやきながら、紫苑が釣り糸を垂れる。
「またそれだ」
 ciceroは隣で思わず噴きだした。
 海に張り出した岩の上で、数人が同じように並んでいる。
「一応食料も水も有る程度あるらしいけど、何が起こるかわからないからね。食料の確保は必要よ」
 少々刺激的な黒ビキニ姿の楓が、岩場に取り残されていた小エビを針につける。
 台風が去った後で水が濁っていて、魚さえいれば上手く釣れそうな場所ではあった。だがまだ波が高いので、魚が寄って来るかどうかは賭けである。
 楓は瑞穂を見つけて声をかけた。
 意地でもリゾートを味わうつもりか、青白のフリルとレースに彩られたビキニだけの姿で、岩場を伝って波打ち際へと降りて行く。
「おじょー!結構波が来るから気を付けてね!」
「おーっほっほっほ♪大丈夫で――って、きゃぁ!?」
 何というお約束。高波が押し寄せ、瑞穂は頭から波を被る。
「こ、こんな波、何でもありませんわっ!」
 海に向かって胸を張る瑞穂だったが、胸を覆う布はいつの間にか消えていた。
「ん?かかったか?」
「気をつけろよ、一緒に引こうか」
 そんなことは露知らず、紫苑が手ごたえを感じた釣り竿を引き上げるのをciceroが手伝う。
 ……まあ水着が返ってきたことは、とりあえず良かったのではないだろうか。

 釣り組とは別に、直接捕獲に挑む集団もいる。
「…中山律紀様です?」
 素潜りの準備をする律紀に、焔寿がサンダルの音をぴよぴよ鳴らして近づいてきた。どうやら彼の姉を知っているらしい。紫色の大きな瞳が、律紀をじっとのぞきこむ。
「うん、よろしくね。ところで逸宮さん、そのリュックちょっと変わってるね……」
「週間占いのラッキーアイテムなのです♪お気に入りなのですよ。あ、これあげます!」
 背負っていたサメの顔型のリュックから、駄菓子を差し出し律紀に手渡した。お気に入りの白いウサギのぬいぐるみが顔を出している。……食われているように見えなくもない。
 ありがとうと受け取り、律紀は早速甘い菓子を齧った。久しぶりの都会の味である。
「じゃ行って来るかな!」
「いってらっしゃーい!」
 見送られて、海に入って行く。
 釣り人の多い岩とは別の岩陰で海に潜り、獲物を探す。やはり水が濁っていて視界が悪い。
「これじゃ無理かなあ……ん?大きいのが居るな……って、何だこれー!」
 すんでのところですれ違ったそれは、流線形の身体を捻ると戻って来る。
「サメが出た!すぐに逃げて!」
 波間から顔を出した律紀が叫ぶ。すると、すぐ傍にいた二つの影が水から躍り出る!
「サメだよっレナちゃん!これも修行だ!」
「さんぽさん、ニンジャ力でサメ退治なのだ!」
 他のサメが寄って来ないように血を流さない方がいいんじゃないかなとか、サメなんか獲っても食べられないよとか、色々言いたいことはあったが、律紀は諦めた。何と言ってもニンジャ力なのだ。
 ともかくなんとか無事に、海岸に戻って来る。
 ニンジャによってサメは仕留められ、得意げな二人と共に記念写真に収まった。

「ちょっとこっちいっしょにきてください」
 焔寿に呼ばれ、律紀は小高い岩の上に登っている。
「これです!ここはとっても遠くまで見えるんです」
 焔寿が得意げに指差した先には、小旗がはためいている。見ると地面には幼い字で『りつきのしろ』とあった。
「あはは、ありがとう。なんか嬉しいな」
 思わず焔寿に笑いかけたものの、彼女が背負うリュックに内心複雑な律紀であった。
(……もうちょっとで『りつきのはか』になるところだったぜ……)
 そのとき、脇の茂みに気配を感じ、律紀は焔寿を背後に庇う。
「あ、ゴメン驚かせちゃったかしらぁ?」
「ア……アカリさん!?」
 出てきたのはコンバットスタイルのアカリだ。台風が過ぎてからずっと、不眠で救助船の接近を監視していたらしい。
「徹夜は戦場で慣れてるのよぉ♪」
 やっぱり久遠ヶ原はすごいところだ。
 後で食事を運ぶことを約束して、律紀と焔寿は手伝いに戻って行く。
 その頃には料理の得意な者がそれぞれ腕をふるっていた。紫苑が釣り上げた魚はつみれ汁になっていた。紫苑の端正な顔の片側に赤い跡があるようだったが、誰もその点については突っ込まない。
 歌音が採ってきた茸も、そこに入っている。山野に親しんでいる日和によるチェック済みなので、安心である。
 美佳と麦子は採取してきた芋を蒸し焼きにした。塩をまぶせばこれもごちそうだ。
 ニンジャ二人と、律紀と焔寿が、火にかけた焼き網に魚や貝を並べる。
「わあ、ビールが進みそう♪あ、りっちゃんこれ食べてみない?」
 匂いに釣られてやってきた麦子が、笑顔で謎の木の実を差し出した。
「……いちにのさんで一緒に食べてくれるなら」
 ふふふふ。笑顔で対峙する二人である。
「どうぞ、と。姉さんの手作り料理、期待してるよぉ」
 歩は獲ってきて捌いた野兎を、キラに手渡した。
 キラは水辺で見つけた香草を使って焼き上げる。野生の生き物をそのままで調理すると、臭くて食べられないこともあるからだ。
「どうかな?ちょっと塩が強くない?」
「美味いよ、姉さん。ありがとう」
 歩がいつもの調子でニヤリと笑いかけるが、その眼は普段より少し優しかった。

 暗くなるまでにと皆で片付けまで済ませると、夜は長い。空には満天の星が輝いていた。
「すげ〜疲れた。慣れて無い事やるから、のんびりする余裕なかったな」
 砂浜に寝転びながら、紫苑が苦笑いを浮かべる。
「でもすごい星だね。これを見られただけでも、来てよかったとちょっと思うよ」
 ciceroが目を輝かせた。
 鴉鳥が暗い海を見つめたまま、並んで座る朔桜にぼそりと呟いた。
「私は少し、人見知りの気があってのう。朔桜殿がいてくれて、少し助かった」
 思い返せば、慣れない集団生活に耐えられたのは友のおかげなのだろう。
「私もあーたんとずっと一緒で、楽しかったよ!」
「そうか……それなら良かった。だがその呼び方はちょっと……」
 朔桜の明るい笑い声が、打ち寄せる波とハーモニーを奏でた。

●迎えの船
 日の光の下で、今日までの測量結果を流司が一枚の地図にまとめていた。
「ふむ、ほぼ全域がカバーできたか。朔桜といい、皆の行動力には恐れ入るよ」
「流司君も来ればよかったのにね!結構面白かったよ」
 朔桜が笑った。
「流石に全部の生物を調査するのは無理でしたけど、結構色々食べられる物がありましたね」
 日和は別の地図に、植生の状況を書きこんでいた。
 これだけ揃えば、依頼された内容は充分達成できているだろう。後は迎えの船が来るのを待つだけだ。
 そこにライフル音が響いた。誰かが危険な生き物に遭遇したのか?
 一同が身構える所に、迷彩服姿のアカリが駆けてきた。
「迎えの船がきたわよぉ」
 沸き起こる歓声。
 だが、当然それだけで済むはずはない。
 迎えの船の乗組員は真っ黒に日焼けして、目をぎらつかせた危険な集団に囲まれることになる。

 帰還後、きちんと纏められた地図と生物調査報告書が提出され、依頼主は出来栄えの見事さに感心した。充分目的に沿って使えそうだと報告の内容に喜びもした。だがそれは、飽くまでも撃退士基準の結果なのだ。
 この島が企業研修用としては過酷過ぎると知られるようになるのは、後日の事である。

「でも結構楽しかったなあ」
 日和のデジカメに残るのは、迎えの船をバックに全員で収まった集合写真。
 普段よりちょっと精悍になった面々が、やけくその笑顔で映っていた。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 撃退士・彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)
 ドクタークロウ・鴉乃宮 歌音(ja0427)
 夜のへべれけお姉さん・雀原 麦子(ja1553)
 心眼の射手・久遠 栄(ja2400)
 魂繋ぎし獅子公の娘・雨宮アカリ(ja4010)
 過去と戦うもの・八角 日和(ja4931)
 一緒にいればどこでも楽園・桜花 凛音(ja5414)
 リリカルヴァイオレット・菊開 すみれ(ja6392)
 撃退士・夏木 夕乃(ja9092)
重体: −
面白かった!:26人

ラッキースケベの現人神・
桜井・L・瑞穂(ja0027)

卒業 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
彩・ギネヴィア・パラダイン(ja0173)

大学部6年319組 女 鬼道忍軍
終演の舞台に立つ魔術師・
天羽 流司(ja0366)

大学部5年125組 男 ダアト
ドクタークロウ・
鴉乃宮 歌音(ja0427)

卒業 男 インフィルトレイター
ファウスト乗り隊・
雪村 楓(ja0482)

大学部6年97組 女 鬼道忍軍
命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
名参謀・
三神 美佳(ja1395)

高等部1年23組 女 ダアト
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
愛すべからざる光・
神喰 朔桜(ja2099)

卒業 女 ダアト
心眼の射手・
久遠 栄(ja2400)

大学部7年71組 男 インフィルトレイター
雄っぱいマイスター・
御手洗 紘人(ja2549)

大学部3年109組 男 ダアト
W☆らびっと・
逸宮 焔寿(ja2900)

高等部2年24組 女 アストラルヴァンガード
撃退士・
雨宮 歩(ja3810)

卒業 男 鬼道忍軍
魂繋ぎし獅子公の娘・
雨宮アカリ(ja4010)

大学部1年263組 女 インフィルトレイター
過去と戦うもの・
八角 日和(ja4931)

大学部5年96組 女 阿修羅
ゴッド荒石FC会員1号・
レナ(ja5022)

小等部6年3組 女 鬼道忍軍
一緒にいればどこでも楽園・
桜花 凛音(ja5414)

高等部3年31組 女 ダアト
リリカルヴァイオレット・
菊開 すみれ(ja6392)

大学部4年237組 女 インフィルトレイター
クオングレープ・
cicero・catfield(ja6953)

大学部4年229組 男 インフィルトレイター
斬天の剣士・
鬼無里 鴉鳥(ja7179)

大学部2年4組 女 ルインズブレイド
盾と歩む修羅・
翡翠 龍斗(ja7594)

卒業 男 阿修羅
撃退士・
雨宮 祈羅(ja7600)

卒業 女 ダアト
銀光鉄槌・
フィーネ・ヤフコ・シュペーナー(ja7905)

大学部7年165組 女 ディバインナイト
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト