.


マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2012/06/28


みんなの思い出



オープニング

●どうせヒマだし
 今日も図書館は程良い静けさに包まれていた。
 偶に宿題を片付けながら、本の陰でおやつを食べたりする者(当然それは図書委員、果ては担当の職員によって叱られることになる。念のため)もいないではなかった。
 だが書物を愛し、ひとときの非日常に身を委ねることを愉しむ者達は、規律と静寂が支配するこの空間を概ね好むであろう。
 大八木 梨香(jz0061)もその一人だった。
 図書委員としてはずっと本に没頭する訳にもいかないが、図書館に居ること自体が好きなのだ。
 今日もカートに満載の本を元の場所に戻すべく、書架の間を縫って歩く。

「あ、いたいた!大八木さ〜ん、ひさしぶりっ」
 梨香の愛する静寂を叩きのめす、明るい声。突然背中にのしかかる暖かく重い感触。
「……山本先輩、お元気そうでなによりです」
 ずれた眼鏡の位置を直しつつ振り向くと、少し派手だが、目鼻立ちの通った綺麗な女子学生がいた。
 山本若菜、高等部二年生。春先にもこんな風に、突然図書館に現れたことがある。
 もっともそのときは、満面の笑みではなく強い猜疑心が彼女の顔に浮かんでいたのだが。

「この前は色々ありがとね!えっとね、大八木さんって次の土曜の夜、ヒマだよね?」
「ヒマです」
 週末の夜なのだ。
 せめて『ヒマかな?』と聞くべきだし、返答する方も多少は考える振りをすべきなのだが、お互いに気にしない性格のようだった。
「じゃあさ、私の部屋に遊びに来ない?良かったら他の人も誘って。ちょっと面白いゲームが手に入ったんだよね」
 一応場所柄は弁えているのだろう、ひそひそと耳元に囁きかけるのだが、それが却って怪しさを誘う。

「ゲーム、ですか。ボードゲームですか?カードゲームですか?」
 梨香は別にボケてはいない。大真面目に質問したのだ。
 若菜が呆れたように言う。
「何言ってんのよ、高校生にもなってわざわざ自分の家に人集めてボードゲームなんかする訳ないでしょ?
 テレビゲームよ!試作品なんだけどさ、すっごい乙女ゲーが手に入ったの!」
「オトメゲー????すみません、テレビゲーム自体未体験ですが、私にできるものなのでしょうか」
「えっと……もしかして、乙女ゲーの説明から始めるとかそういうカンジ?」
 若菜がかくりと首を傾けた。

●すっごい乙女ゲーでもする
 女性向け恋愛シュミレーションゲーム……つまり乙女ゲー。
 魅力的な異性に囲まれた世界で、それぞれと会話やデートを楽しみ、最終的には恋人同士になる…というのがオーソドックスな展開だ。詳細に違いはあるが、概ねこんな感じである。
 とりあえず、梨香はそう説明を受けた。
「はあ。それって楽しいのですか?」
 この手のゲームの面白さを、未経験の人間に伝えるのは至難の業だ。
 明らかに梨香は困惑していた。
(それってむなしくないですか?)
 むしろ顔にそう書いてある。

「まあまあ、やってみたらわかるって!現実じゃできない二股とか、飽きたら捨てるとかもできちゃうんだよ」
 若菜の普段の遊び方、結構鬼畜。

 そこでふと、梨香が思い出したように言った。
「そういえば山本先輩、大島先輩という方がありながらそれはどうなんですか」
「やだ〜、司クンがいるから現実の男子になんか目がいかないんじゃない〜っ!」
 頬を染めた若菜が、梨香の背中をバン!と叩く。
 世の中には理解できないことがたくさんある。改めて梨香はそう思った。

「私の兄貴がゲーム会社に勤めててね、試作品を友達と試して感想聞いて欲しいって。あ、バグのチェックも兼ねてね。
 だから少なめだけど謝礼も出るのよ。
 で、これが3D対応のゲームでね。序盤だけやってみたんだけど、本当に自分がその世界に入り込んだみたいで。
 あとね、8人まで同時にリアルタイム進行できるから、他ヒロインとの対決とか共同作戦もできるのよねー。
 しかもなんと!攻略対象に、自分が設定したキャラを作ることができるのよ!
 だから顔とボイスと行動パターンの組み合わせ次第で、いろんなキャラを攻略できちゃうわけ」

 賢明な皆様にはお判りかと思うが、この説明の半分も梨香には理解不能である。

「本当はこういうのは発売まで部外秘なんだけどね。
 久遠ヶ原の学生なら、依頼に対する守秘義務を理解してるだろうからって。
 だから女の子だけじゃなくても大丈夫よ。良かったら何人か誘っておいて!」

 梨香の手元に概略のみを書いたメモを残し、若菜は風のように立ち去った。
 
−−−−−
『(仮題)ダイヤモンド・ワルツ』
世界観:近世ヨーロッパの某国
概略:変動する世界の中、王国を守る存在となるべく導かれ集う若者たちのドラマ
ヒロインと攻略対象:属性/貴族、軍人、聖職者、市民(市民の出自は学生、酒場、商店のどれか)
物語:王国の秘宝である青いダイヤの光に選ばれた若者が、王家所有の離宮に集められる。そこで国を救う手立てについて学び、意見を交わし成長して行く。
最終選択場面:王子の結婚相手を決める夜会 そのときの行動でEDが最終確定
正統ED:王妃となり王と共に国を支える存在となる
恋愛ED:王子以外の攻略対象と結婚する
他ED:結婚せず王国の重鎮となる、適正なしとして元の生活に戻る、等
−−−−−

 成程、さっぱりわからん。
 まあどうせヒマだし、一度試してみてもいいかと思い直す。

 問題は他のメンバーだ。
 結構急で、しかも週末の夜である。ヒマですかと声をかけてまわるのもおかしな話だ。
 考えた挙句、報酬が出るということで普通に依頼として処理することにする梨香であった。
 


リプレイ本文

▼ゲームスタート
「いらっしゃーい、今日はよろしくね!」
 山本若菜が笑顔で出迎えた。テーブルには飲み物や軽食まで並んでいる。
 宮本明音(ja5435)は以前、若菜の恋の騒動に巻き込まれている。ふと気になった。
(若菜ちゃん、本当はちょっと寂しいのかな? )
 ならば賑やかに騒いで、今日は楽しく過ごそう。
「おじゃましまあす!」
 大荷物の清良 奈緒(ja7916)が元気に飛び込んできた。持参したポテトチップスや飴玉を並べる。お兄さんお姉さんと一緒にゲームできるのが、嬉しくて仕方ないのだ。ゲームの内容は今一つ分かっていないが。
 それぞれが座った所で、若菜がスイッチを入れる。OPムービーが流れ始めた。3Dゴーグルを通して見ると、中々良くできた映像である。思わず一同から声が漏れる。
 コントローラーを手に、神楽坂 紫苑(ja0526)は思案する。
(ふむ、テストだし難しいキャラにしてみるか)
 敢えて攻略難易度の設定は、ハードに。多少のことでは動じない王国の騎士団隊長という設定だ。
「こんな堅物にほれる奴いるのか?」
 できたキャラクターに、自分で苦笑する。もう一人の男子参加者である桜木 真里(ja5827)も、攻略対象を作成する。
「ゲームはあんまりしないからよく分からないんだけど何だか面白そうだね」
 依頼前に『乙女ゲー』というものについて調べてきたが、やはり勝手が違う。
「属性は聖職者、神官かな…性格はのんびり、おっとり、と」
 自由度の高いゲームでは、キャラクターにプレイヤーらしさがにじむのが面白い。

 ヒロインの設定はそれよりは簡単である。
「えっと名前はナオで。お菓子屋さん!大好きなお兄ちゃんが家出しちゃったのー」
 こういう時に小学生を侮ってはいけない。理屈抜きで対応力があるのだ。サクサクと設定を済ませる。
 明音も乙女ゲーム自体は初心者だが、未経験なのは攻略対象が【男】であるためだった。
「ふふふ、こういうのなら得意ですよ!あっ梨香さん、名前は苗字はやめた方がいいですよ?」
「えっそうなんですか?もう何が何だか……!」
 悪戦苦闘する大八木 梨香(jz0061)に密着しながら、明音は心の中で己の不実を懺悔する。
(ごめんなさい、白衣幼女さん……!)
 その様子を冷静に観察するジルゼ・エストッカ(ja8772)。プレイする女子達の反応を見るのも楽しみなのだが……ちょっと思っていたのとは違う。
「男の子より、女の子を攻略するゲームの方が得意なんだけどね」
 こんなメンバーで大丈夫か?

「なかなか楽しそうなゲームね♪んで、若菜ちゃんはその後どお?」
 ビール片手に軽食をつまみ、雀原 麦子(ja1553)が声をかけた。若菜が照れたように頭を掻く。
「ほんと、この前はお世話になって……会うのは難しいんですけど、手紙は、はい、えへへ」
「そっかそっか、上手くいってそうでなにより♪」
 麦子が若菜の背中を叩いた。

▼がんがんいこうぜ
『なんて綺麗…!』
 田舎出の苦学生リカは、感嘆の声をあげた。離宮の庭園は、この世のものとも思えぬ美しさだった。
 夢の中で謎の生き物に会い、目覚めると手には青い羽根。王の御触れによりここに呼ばれた……という設定である。この辺の経緯は、早送りするのがお約束だ。
 歩いて行くと、鋭い声に呼びとめられた。
『娘、そこから先は立ち入り禁止だ』
 驚いて振り向くと騎士団長・シオンが厳しい顔をして立っていた。白皙の美青年だけに睨まれると迫力倍増である。

「ひゃあ!」
 梨香が妙な声を上げた。
「なんですか、怖いんですけどこれ!」
「あースタート時点で、シオンの好感度がすっごく低いのねー」
 麦子が操作するとキャラクターの横にステータス画面が表示される。属性や性格設定などで、攻略しやすさが変化するらしい。
 画面ではひたすら謝るリカの姿。やるべきことを疎かにするな、と説教されている。
「……わざわざゲームで怒られるんですか……」
「今助けに行きますよー!」
 明音が鼻息荒くコントローラーを握る。

『騎士団長様、深夜の見回りご苦労様です』
 貴族の令嬢アカネが進み出た。出自の割に親しみやすい、柔らかな微笑が印象的だ。
『貴方にもお勤めがおありでしょう、失礼しますわ』
 リカの腕を取り、その場から引っ張り出す。そしてリカを、お茶でもと自室に誘った。リカ→アカネの好感度がぴこん!と上がる。

 場面は変わり、若者たちが王に謁見する日である。定期的に王宮に上がり、学問の進捗状況をチェックされるのだ。
『余がナンターラ五世である。遠慮はいらぬ、皆の顔を見せよ』
 控えめに顔を上げた貴族の娘ムギコは、改めて国王の姿に惚れぼれする。

「国王がやもめの髭マッチョの偉丈夫なんて、判ってるわねー性格は豪放磊落で破天荒、何という麦子さんホイホイ」
 衣装の上からでも判る、肩や胸板の筋肉の厚み。広間を圧する声はまさに王者。次に登場した典型的美形の王子など目にも入らない。今回はバグチェックを兼ねたテストなのだ。得意のプログラミング知識フル回転で、攻略不可キャラを敢えて狙う。それが好みのタイプならいっそう熱も入るというものだ。

 離宮に戻る途中、ナオの希望で実家のお菓子屋さんに立ち寄ることになった。和気藹々と菓子を選び店を出たところで、事件が起こる。(※イベントともいう)
 馬が一頭、大通りを猛然と駆けてきたのだ。そこに跳び出した一人が、危険を顧みず手綱を奪い、振り回されながらもついに大人しくさせた。
『怪我人はいませんか?』
 馬車を警護する兵士の一人、リツという銀髪の青年である。自分の方が擦り傷だらけだ。
『ありがとう、大丈夫です。貴方こそ怪我を』
 ジルゼが自分のハンカチを差し出すと、リツはそれを固辞し、ふいと横を向いた。
『……こんな傷、舐めときゃ治る、いや治ります、から』

「これはどこまでどこまで少女漫画なのか試してみるべきね」
 ジルゼの腹も決まったようだ。

『こんにちは、今日はどのようなご用件ですか?』
 教会で笑顔のマリ神官が出迎えた。本来は自分のキャラの成長度に関しての情報やアドバイスを貰う場所である。だがマリとの雑談もできる。
『こんにちはマリさま。これあげます。お菓子なの』
 ナオが実家から持ってきたお菓子の包みを手渡した。普段から優しい表情のマリが、満面の笑みを浮かべる。
『ありがとうございます、ナオ。お菓子は大好きなんです。嬉しいですよ』
 既にこのふたりの好感度はお互いに相当高い。
(マリさまってお兄ちゃんみたい……手をつないでみたいな……あぅ)
 ふるふるとナオが頭を振る。お菓子を受け取るためにマリが一歩出した足が、長い神官服の裾にひっかかり派手に躓いた。
『うわぁ!』
『きゃあ、マリさま!?』
 教会で幼女を押し倒す神官。やばすぎる図である。
『大丈夫ですか!』
 真っ赤な顔で慌てて起き上がるマリ。ナオはびっくりしながらも、マリを心配していた。
『ナオ、あなたは優しい子ですね。ああもし良かったら、次の休みにピクニックでもどうですか』
『ピクニックうれしい!お兄ちゃんともよく行ったの』
 何とデート一番乗りである。幼女恐るべし。
 教会の入口でその会話を耳にしてしまったリカは、そのまま踵を返す。特に狙っていた訳でもないが、いつも優しいマリ神官が他のヒロインを特別扱いしているという事実は心に引っかかる。

「もう、何ですかこれは!」
 梨香はなんだかんだでハマりつつあるようだ。明音はからかってみたくなる。
「梨香さん、実際は気になってる人とかいるんですか?」
「はいっ!?」
 梨香が慌てて振り向く。
「ゲームじゃないですよ?いいなーって思う人とかいないんですか」
 にこにこ笑っている。が、万が一ここで特定の名が出れば、明音の敵認定確実だ。
「ああ!できれば仲良くなりたい方は、たくさん。皆さん本当に楽しい方ばかりで」
 別にはぐらかしたわけではない。「気になってる」「いいなー」の意図が伝わっていないだけだ。
「それにしてもこのゲーム、リアルよりむごいかも」
「リアルでもゲームでも恋愛に逃走は無いのだー!気になる人はどんどん攻めるべきです!」

 アカネとリカは木陰のベンチで並んで座っている。学問の相談をし、色々お喋りする楽しい時間である。傍目には公園デートだ。そのとき、アカネの膝に何かが落ちてきた。10センチほどもあろうかという巨大な芋虫である。
『きゃあ!』
 アカネは虫が大の苦手なのだ。リカが咄嗟にアカネのドレスをつまんで払うと、芋虫はのろのろと藪に消えて行った。アカネを支えながら建物に戻る途中、兵士リツを伴った騎士団長のシオンと出会った。
『アカネにも苦手な物があるのだな』
 シオンの謹厳な表情が、少し和らぐ。
『あんた結構度胸あるんだな、意外だったよ』
 去り際にリツがリカに微笑んだ。

(あら、ちょっと好感度上がった?)
 思わず緩んだ梨香の頬を、ジルゼがふにっとつまんだ。
「ひゃあ、あにするんへふか!?」

 ジルゼは噴水の傍で、溜息をつく。リツは身分を気にしてか、自分に親しもうとしない。何か言葉をかけても、すぐ視線を逸らし打ち切ってしまう。
 どこからか、楽器の音が流れてきた。辿って行くと東屋でシオンがリュートを奏でていた。人の気配に手を止め、顔を上げる。
『こんな夜に出歩くのは、関心しませんね。何が起きるか、分からないんですよ』
 普段の謹厳な表情とは全く違う、いたずらっ子のような目だ。
『何が起こるっていうの?』
 傲然と顔を上げ、わざとシオンの向かいに腰かける。
『ふむ、何事も決めるのは、自分です。その選択を後悔しないように』
 再びリュートが鳴りだし、ジルゼはじっとその音色に聞き入った。

 ムギコが今日も王子の処にやって来る。
『王子様、またお邪魔してもよろしいですか?』
『ようこそムギコ、この頃ではそなたの顔が見られない日は太陽が隠れてしまったように感じる』
 変動する世界情勢から、街の商店の世間話まで話題は何でも来い。時折得意の武術で、王子の鍛錬にも付き合う。お陰で王子との好感度はほぼ最大値だが、ムギコの狙いは父王である。
『今日は折り入ってお願いがありますの』
 ムギコが切り出す。次回の謁見日に、特別に王と会える時間を作って欲しいと。
 フラグの立て方を見切ったムギコのキャラ成長度は既に限界近い。すぐにでも勝利者=王子の嫁になりかねないのだ。
『そなたの為なら喜んで。きっと父も喜ぶだろう』
 キラキラ背景を背に王子が微笑んだ。哀れ王子。

▼ぶとうかいのよる〜大団円
「まだテスト版で、イベントの一部がちょっと駈け足なの。ごめんね」
 若菜が説明する。本来もう少し先であるべき、クライマックスの舞踏会が来てしまったのだ。

 華やかな装いのキャラクター達が、ズラリと並ぶ。
『王国の未来を決める大事な夜、皆思い残すことの無きように』
 王家の秘宝のダイヤが玉座の隣で輝く。王の声と共に、ワルツが流れ始める。王子が進み出て、微笑みながらムギコに近づいた。だがムギコは突然ドレスを翻し、王の前に進み出る。
『ムギコ、そなたの話はいつも興味深い。今日は何用か?』
『はい王様、私はそんなダイヤにではなく貴方に選ばれたいのです。王様はきっとダイヤなど関係なく、ご自分でこの世界に覇を唱えられる方だと存じます』
 王が、くっくと笑う。次第にその笑いは大笑いとなり、王が立ち上がった。
『成程、やはりそなたは面白い。では余と拳を交えてみよ!!』
 王の豪奢な衣装がメリメリと破れ、はち切れんばかりの筋肉が露わになる!

「ちょっと待ったァ!誰が舞踏会で武闘会やれって言ったァー!?」
 若菜が叫ぶ。なんか上手いこと言ってるがわざとではない。麦子は王との一騎打ちに集中している。素晴らしいコントローラーさばきだ。
「なんで乙女ゲーに対戦モードがあるのよ!」

 舞踏会の喧騒……というより戦いの余波を逃れ、アカネは会場を抜け出す。折角着飾った姿でリカと並びたかったのに……。そこでシオンと出くわした。
『アカネ、無事か?良かった』
 緊張した表情がふと緩む。
『お前はどこか放っておけないからな、心配していたのだ』
 なんだか様子がおかしい。アカネが戸惑っていると、目の前に一輪の深紅のバラが差し出された。
『えっ、これって…!』
『がらじゃない?良いから、受け取れ』
 普段のクールな表情は何処へやら、赤面しながら花を差し出すさまは正統派ツンデレ。

「あっきー先輩、すごい!これが恋愛イベントなんですね!」
 梨香が明音を揺する。だが今度は明音が固まる。男性からの甘い台詞に反応が止まっているのだ。画面のアカネも固まっている。何か返事をしなければ……
『わ……わた……わたがし』
 甘い→わたがし。連想ゲームか。
「あ、あれ、違いました‥?」
 画面のシオンが固まっている。
『しょうがないじゃないですか最後までいった経験ないんですからーっ!』
 最後までってどこまでだ。という謎はさておき、アカネはシオンの前から逃げ出した。

 画面には雪のように白い花が舞う。
『ナンターラ五世、あなたは神の御前にムギコを伴侶とすることを誓いますか』
『誓おう。ムギコこそ救国の漢女(オトメ)に他ならぬ』
 武闘会の後、王はムギコに求婚した。傍で白いドレスのムギコは美しく輝いていた。

 ジルゼは離宮の庭にいる。簡素な服装に、手には鞄が一つ。
『ムギコが王妃になれば世の中は変わるわ』
 兵士リツの目をまっすぐに見つめた。
『身分とか、関係ない。あなたの居ない世界なんて考えられない。一緒に生きようよ、ずっと』
 リツはもう目を逸らさなかった。

『さて、と。これでもう思い残すことはありません』
 マリは神官の礼服を綺麗にたたみ、人気のない教会に残してきた。
『こんな私でも構いませんか?』
『マリさま、うれしいです』
 神殿の静かな庭園で、そっと手をつないだ。将来の約束。今はそれでいい。

『リカさん、私たちこれからもずっと一緒ですよ』
『はい、これからも共にムギコ王妃を支えて行きましょう』


「はーいお疲れ様でしたー!」
 割と投げやりに若菜が手を叩く。兄貴は乙女ゲーを何だと思っているのか、問いただしたい気持ちでいっぱいだ。
 シオンはソファに寄り掛かって顔を伏せていた。
「内容的に、かなり恥ずかしかったな、これ」
 自分の顔が甘い台詞を囁く所を自分で見る。途中で電源を切りたくて死にそうだった。
「ははは……ゲームですし、諦めましょう」
「今度またゲームしてたらボクも呼んでねっ!」
 奈緒が真里の腕をぶんぶんと振り回す。明音は麦子の健闘ぶりをほめたたえた。
「麦子ちゃんはいつも格好いいですよねー!」
「ふふーん、当然よ!」
 麦子は思い通りの結果に満足そうだ。
「桜木先輩、あっきー先輩、麦子先輩……今度は他のクラブのメンバーも設定してやってみたいですね。乙女ゲーって面白いです」
 ……梨香の誤解が解ける日は来るのだろうか。

<了>


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 夜のへべれけお姉さん・雀原 麦子(ja1553)
 心の赴くままに・ジルゼ・エストッカ(ja8772)
重体: −
面白かった!:12人

命繋ぐ者・
神楽坂 紫苑(ja0526)

大学部9年41組 男 アストラルヴァンガード
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
乙女の味方・
宮本明音(ja5435)

大学部5年147組 女 ダアト
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
碧い海の・
清良 奈緒(ja7916)

中等部2年1組 女 アストラルヴァンガード
心の赴くままに・
ジルゼ・エストッカ(ja8772)

大学部8年281組 女 ルインズブレイド