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マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/23


みんなの思い出



オープニング

●7月の慟哭

 7月に入ったばかりのある日のことだった。
 久遠ヶ原学園大学部准教授、ジュリアン・白川(jz0089)の講義を終えた学生達が教室をぞろぞろと出て行く。そこで、ある女に呼び止められた。
「ごめんねぇ、キミ。ちょっとお願いしたいバイトがあるんだけど、時間を貰えるかしら?」
 見た目年齢は三十歳ぐらい、なかなかの美人だ。ふんわりウェーブの明るい茶色の髪、生き生きと輝く茶色の瞳。が、それよりも目を引くのは、ボン、キュッ、ボーン! のダイナマイトバディ。自分でもその点に自信があるのだろうが、身体のラインも露わな薄手のワンピースが男子には実に目の毒である。
 そこに吸い寄せられたか反抗心を持ったかは知らないが、話を聞いてみようという気になった学生がついて行く。

 女は久遠ヶ原学園の卒業生でフリーランスの撃退士、村田桃子と名乗った。どうでもいいが、モモコちゃんと呼んで欲しいらしい。
「ねぇキミ達、白川先生のことどう?」
 どうって。
 意味がわからず首を傾げる学生に、苛立ったように桃子が口を尖らせる。
「だ・か・ら! 好き? 学園から去ったら、寂しくない?」
 ……何を言っとるんじゃこいつは。
 一同が無言になる。

 桃子が唐突に始めた説明によると、白川が近々見合いをすることになったらしい。
 相手は誰かは知らないが、とにかく金持ちでやんごとないお家の出身だという。
「あのね、そういうお嬢様と結婚するとね。現役の撃退士っていうのは、だいたいそっちの家に便利に使われるようになるの。つまり、婿入り状態よ。学園を出なきゃいけないの! このままほっといていいの? いえ、良くないわよ、ねぇ!!」
 桃子が突然拳を握りしめ、テーブルに叩きつけた。
「だいたい、白川君が私より先に結婚するとかあり得なくないっ!?」
 流石、久遠ヶ原学園のカフェ。撃退士が殴っても大丈夫。そうじゃなくて。
 俯いた桃子がふるふると肩を震わせる。
「ジューンブライドのご祝儀ラッシュの波ももう、今年は静かなものよ。なのに今、白川君が先に抜けるなんてぜっっっっったいに認めないわ!!!」
 それって要するに、私怨って……。
 心の中で学生達が呟いた瞬間、キッと桃子が顔を上げた。
「というわけで、お見合いに行けないように阻止して欲しいの。いいわね?」
 桃子の目はどこまでもマジだった。


●もうひとつの依頼

 教授室(※間借り)に戻った白川を、上司である星徹子教授が待ち構えていた。
「どうなさったんです、星さん」
「いえ。明日の会議のこと、ちゃんと覚えているか確認にね」
 珍しい。そう言わんばかりに白川が目を見張る。
「勿論ですよ。星さんもおいでになるのですか?」
「ええ、そのつもり。だからみっともない格好はやめて頂戴ね。床屋もちゃんと行くのよ」
「はいはい。今日は今から行ってきますよ、『カット』に」
 白川は顔剃りをしてもらえる理髪店を好んでいる。……それはどうでも良くて。
「じゃあ明日、駅でね」
「星さんもちゃんとして来てくださいよ? ではお疲れ様です」

 白川に使わせている教授室を出て、星は自分の快適な研究室へと戻った。
「悪いわね、待たせて」
 中にいた学生達の前に座り、星が話を切り出す。
「さっき話した通り、明日、私と白川君はある会議に出席することになっているのだけど。私達の上司の名誉教授から、ある人に白川君を引き合わせるように言われているの」
 ようするに会議にかこつけた見合いである。
「お相手の家は中々のものだって聞いてるわ。後ろ盾ができたら白川君も何かと得よね」
 学生のひとりが尋ねた。その場合、白川は学園を去ることになるのではないか、と。
「それはわからないわ。でもね、案外白川君って流されやすいタイプだと思うわよ。もし独占欲の強いタイプの女性と結婚なんかしたら、学生と遊んでくれなくなるんじゃないかしら?」
 白川がこの場にいたら『遊んでる訳ではない』とこめかみに青筋を浮かべたかもしれない。
「まあ本人は何も気付いていないと思うから、問題ないのだけど。知人からある人物が邪魔しようとしているという情報が入ったの。だから皆には、白川君のガードをお願いするわ。さり気なーく会わせるだけで、後は本人次第なのだしね」
 そう言いながら、星がテーブルの上で白封筒をすっと滑らせた。星の資金が潤沢であることは、一部の学園関係者には周知の事実だ。
「彼を無事に会議に出席させてちょうだい。頼んだわよ」

 どこかで試合開始のゴングが鳴ったような気がした。


リプレイ本文


 桃子の話に、僧形の天使Дмитрий(jb2758)は慈愛の笑みを浮かべる。
「良いだろう。人間の生の感情、俺は嫌いではないぞ」
 怪僧は相手の出方を探る為、星教授側にスパイとして接近することを約束した。
「何か掴んだらあんたに連絡しよう」
「頼んだわよ!」
 桃子はそれから包帯も痛々しいアスハ・A・R(ja8432)に目を止めた。
「ねえ……そうまでしてキミを駆り立てる物は何?」
「ジュリーが結婚など、多分誰も望んでいないから、な」
 アスハは微笑んで見せるが、鋭く走り抜ける痛みに思わず舌打ちする。
「天はジュリーに味方したというの、か……」
 重体でなければ一体何をするつもりだったのか。
「ならば……僕は支援を、考えるとする、か」
 アスハの目は夜来野 遥久(ja6843)に向けられた。秀麗な頬が心なしか普段より凄みを帯びている。
 矢野 胡桃(ja2617)は遥久の瞳に宿る不穏な輝きからそっと視線を外す。
(ごめんです白川先生……! 私、はるおにーさんの味方ですから!)
 若杉 英斗(ja4230)が眼鏡の位置を直しながら顔を上げた。
「事情はわかりました、村田桃子さん。この依頼、自分も引き受けましょう」
「嬉しいわ♪ 頼りにしてるわね」
 突然、桃子がギュッと英斗の手を掴んだ。
「でも、ひとつ条件があります」
 英斗は重々しく呟く。
 目の前には大人の女性のワガママボディ。
「……もし成功したら、桃子さんのボン、キュッ、ボーン! の水着ピンナップをですね、おーえむしーd」
「行こうか、ヒデト」
 胡桃がジト目を向けたせいか、アスハは英斗の頭を抱え込み口を塞いだ。

 一方、星の部屋。
「任せてください! 俺が無事に先生を大阪まで連行……じゃなかった、護衛しますよ!」
 月居 愁也(ja6837)が胸を逸らした。
 だが星はじっと愁也を見据える。
「相方さんはどうしたの」
「えっ」
 流石に星は抜かりがない。
 愁也が遥久の為なら死ぬ気で頑張ることはとっくに調査済みである。
「彼は随分白川君にご執心のようだったけど?」
 仕方なく愁也は、わざと顔を曇らせた。
「俺、遥久が以前の遥久に戻ってくれるなら、何でもしますよ……っ!!」
 あながち嘘でもないように見える。
「まあいいわ。じゃあこれは依頼の達成を確認してからね」
 愁也の目前で白封筒が滑って行った。
 そこで不意に星が眉をひそめる。
「何か?」
「……いえ、何でも。とにかく今回は宜しくね」
 星はそう言って席を立った。


 理髪店で白川はあからさまな不審の目を向ける。
 応対に現れたのは、マスクで顔を覆い帽子をかぶった男だ。
「本日は2種類の髪型からお選びいただけます。すなわち『世紀末モヒカン』か『ちょんまげにござる』かです。どちらにいたしましょう?」
「……そうですな、選べませんから是非『世紀末モヒカン』の実例を見せて頂きたい。貴方で!」
 がし。白川が英斗の腕を掴んでいた。
「くっ、何故判った!」
「わからいでか!!」
 店主に『紳士的対応』で接近、可愛い生徒のサプライズというのを信用させた英斗。お見合いには耐え難い二択で迫るも、速攻失敗。
「これには深い訳が……」
 そう言って俯いた英斗は、一瞬の隙をついて自慢の俊足で逃げ出したのだった。
「何なのだ一体……?」
 白川は首を傾げた。


 翌朝。
 自宅を出た白川は、怖すぎる新聞よりも怖いお届けモノと対面する。
「おはようございます、幸運の黒猫です……んなあ」
 無表情の遥久が、手錠を片手に感情の籠らない鳴き真似で迫り来る。
「今日はまた随分と早いね。悪いが、急いでいるので失礼するよ」
 突っ込んだら負けだ。そう思った白川は遥久を押し退けた。その腰に柔らかい物がとびつく。
「おはよございます、白川先生。お付きのももんがが突撃きゅぃ!」
 遥久のお手伝いを頑張る胡桃がしがみついていた。
「……矢野君か。今日はどうしたんだね一体」
 白川は腰に小動物をぶら下げたまま、歩みを止めない。
 だが、まわりこまれてしまった!
「今日も暑いですから。駅まで涼しさを堪能して頂こうかと思いまして」

 はるひさからにげられない! どうしますか?
  にげる
  たたかう
 >なかまをよぶ

「お早うございます! 夏の暑さで暴走してるのがいるんで護衛にきましたー」
 マンション前の道路に不自然に散らばっていたカラスの羽を背中に隠しつつ、愁也が明るく敬礼する。
「おや、月居君か」
 白川も笑顔を返すが、当然まだ警戒している。
「とにかく駅までご一緒しますよ! とりあえずそこの黒猫()とももんが、おとなしく帰ろうな」
 しっしっと遥久を追い払い、胡桃をひきはがし、愁也が白川の背中を押し出した。

 駅までの道を歩いて数分、突然誰かが目前で倒れ込んだ。
「先生、後ろへ!」
 愁也は立ち塞がり、赤いアウルの光を纏う。すごい本気である。
 だが相手は襲撃者ではなかった。
「そこのひと……たっ……たすけて」
 服装は革の鎧に旅人のマント、という具合だ。
 ……だがここは久遠ヶ原、然程驚くに値しない。それでも声をかける白川。
「どうかしましたか?」
「私は異世界から来ました。どうか私と一緒に来て、魔王を倒して私の世界を救ってください」
 髭面の男は、涙を流して訴える。
 白川は暫しの間、無言で男を見据えた。
「そうですね……。私の知っている理髪店に、世紀末なモヒカンがいるはずです。彼に頼むといいでしょう」
「あっ、待って! お願い!」
 人情と正義感に訴える作戦、失敗。寧ろ何故成功すると思った!

 そのとき。
「どうしました?」
 通りすがりの撃退士が、白川の顔を見て声をかけて来た。
 他にも数人。
『誰か、あそこで襲われてる先生がいるので来てください』
 不思議な囁き声を耳にした者が、集まってくる。
「くくく……これで連中も手を引かざるを得んだろう」
 謎の影が、壁をすり抜けて消えた。

 形勢不利と悟った英斗は、立ちあがって髭をもぎ取る。
「ふっ、よくぞ見破りました、白川先生」
 白川が額に手をあて、深い溜息をつく。
「でもよく考えてください。あの星教授がキッチリ会議に出席するだなんて、おかしいと思いませんか? これは罠です。行けば大変な事になります!」
「……きっちり会議に出席させるのだよ、今回は」
 白川が意味ありげに英斗を、そして愁也を見る。
「どうしても行くのですか……ココで俺の忠告を聞いておけばよかったと、後悔する事になりますよ?」
「覚えておこう」
 懐中時計を確認し、白川は足を速めた。


 星と合流した白川は、その後無事に大阪に到着。
 だがホテルに入ろうとしたところで、不運に見舞われた。
「あっ!」
 清掃担当らしき男が、派手に転んでバケツの水をひっくり返したのだ。
 びしょぬれになりながらも、男の尋常でない転び方に思わず白川は屈みこむ。
「大丈夫ですか!」
「すまない。そちらで服を乾かそう……か」
 帽子を目深にかぶったアスハが、白川を連れて行く。
 この為に前日から大阪入り、撃退士として会場警備の担当者と渡りをつけ、変装して潜り込んでいたのだ。
 だが星が眉をひそめる。
「何処へ行くの」
「このままでは流石にまずいですからね、少し場所を借ります」
「じゃあ私も行くわ」
 一緒についてくる。
(最終兵器は私自身、だものね……)
 赤い唇の端が僅かにつり上がっていた。

「で、どうして君がここに居るのかね?」
 白川は通された部屋で待ち構えていた胡桃に尋ねた。
「た、たまたま……きゅい!」
 すげえ嘘クセエ。
 だが胡桃はそっとタオルを差し出す。
「風邪をひくです、しっかり乾かすきゅい!」
「有難う、借りようか」
 上着を脱いでタオルを当てる白川の姿を確認し、アスハはそっと傍らの石膏像に囁く。
「待てよ。……よく考えたら、引き合わせてからぶち壊した方が、面白くない、か? よし、この間に、行け」
「了解! ……あっ、下から見ないで///」
 白い石膏像が腰巻の下のファンシーマスクをちらつかせて駆け出す。
 その後ろ姿はどう見ても愁也だった……。

 支度を終えた白川は、星と共に会場へ急ぐ。
 時間稼ぎのため、胡桃は一生懸命引き留めようとする。
「先生せんせい、どんなタイプの人がお好きです? 銀髪で、澄んだ碧眼の美人さんとかお好きですか?」
「特に外見での好みは無いよ。星さんは如何です?」
「どうして私に振るの?」
 等と言っているうちに、会場に入ってしまった。多くの人でごった返している。
「白川君、向こうよ」
 星が白川を引っ張っていった。そして胡桃は見たのだ――!


 胡桃は仲間の待つ部屋へと駆けこんだ。
「大変! 先生、もうお見合いしちゃったきゅい!!」
 星と白川が誰かに挨拶し、その人が呼んだ相手が、父親らしい40代半ばの上品な紳士と年の頃16〜7歳の美少女だったという。
「なんだって。それは犯罪ですよ!」
 英斗が普段以上に真面目な顔で立ちあがった。
 いつか巡り合うかもしれない貴重な美少女が、またひとり減ってしまうとは許せない。
「そうですか。美少女、とは結構なことですね」
 極低温の声を漏らしたのは遥久だった。
 ゆらり、と鏡台の前で振り向く姿は。
 銀髪はカラースプレーで金色に、青い瞳はカラーコンタクトで紫色に。白いスーツを着込んだ姿、多少背は高いが……。
「わぁ……」
 どうしようこれ怖い。胡桃の顔は、心中を雄弁に物語る。
 遥久は白川(偽)と化していたのだ!
「流石はハルヒサ、胡散臭さまで完璧、だな……」
 アスハが頼もしげに頷いた。
「お褒め頂き恐縮です。伊達に普段から付きまとってはいませんよ」
 にっこり笑った顔は流石にメイクを持ってしても誤魔化せないので、遥久はマスクをかける。
 楽しそうな親友の姿に、愁也はただ微笑むだけだった。
「よし遥久頑張れ、あんまりそっくりで俺はお前の今後が少し心配だけどな」
「そだ。念のために、銃でも持ちますです?」
 胡桃は何を期待しているのか、遥久に銃を貸そうとする。
「有難うございます。ですが流石に不要でしょう」
 いざとなればそんな物など無くても。自身に満ちた目が不気味に煌めく。


「ちょっと! どういうこと!?」
 関係者として潜り込んでいた桃子が、僧形の男の襟首を掴む。
「白川君、相手に会っちゃったじゃない!!」
 がくがく揺さぶられながら、怪僧は微笑んだ。それはもう、満足げに。
「残念だったな。俺はあんたのその表情が見たかっただけだ」
 桃子が一瞬ぽかんと口を開けた。
 そう、Дмитрийは二重スパイだったのだ。星には事前に『意思疏通』で意図を伝えてある。
 教授であり一般人である星自身が阻止派の実力行使を防ぐ切り札になると伝え、白川を密かに援護していたのもこの男だ。
 何故そこまでするのか。その理由は明快だ。
 人間の感情に興味を抱いて堕天したこの男にとって、自身の欲望と感情のままに動く桃子は格好の観察対象だったのだ。
 それを敢えて告げ、桃子の顔を嘲るように笑いながら覗き込む非情な元天使。
「なかなか楽しめたぜ。いい物見せてもらったことには礼を言っておこうか」
「……そう。じゃあこれぐらいは覚悟して貰わなきゃね……!!」
 桃子は怪僧の背後に回り込むと帯を取り、そのままのけぞる。
「天誅ぅううううう!!!!」
 見事なバックドロップで、ホテルの床が窪む程にДмитрийの頭を打ちつけた。


 ホテルのボーイに化けた愁也が、会場を歩き回る。
(桃子ちゃんは見合い阻止しろって言ってたし、星先生は会わせろって言ってただけだし)
 どっちもクリアすりゃそれでいいはず。まあ大方の予想通り、愁也が遥久を裏切る筈もなく。
「あの、お客様」
 すぐに目当ての娘を見つけ連れ出した。ラウンジに現れたのは、白スーツの金髪男。
「お呼び立てしてすみませんね」
 遥久は口調まで真似ている。そこに。
「待って、白川さん! 私とは、遊びだったの!?」
 甲高い声(※但し男)が叫んだ。振り向くとウェディングドレスに身を包んだ英斗が、ばっさばっさと走って来る。
「今日ここで式を挙げるって、そう言ったじゃない!」
 英斗は遥久にしがみ付く。目を真ん丸に開いている美少女を横目でちらりと眺めながら。
(こんな修羅場の噂が広がれば、お見合い相手にも断られるハズ……!!)
 胡桃がそこに加わり、流し目でクスッと笑い遥久に腕を絡めた。
「ふたりともごめんなさい、先生は銀髪美女か、グラデカラーのロングヘアしか興味がないから……」
 その前振りに、背の高いロングヘアの人物が姿を見せた。
 遥久は眼を伏せ、目の前の美少女に軽く頭を下げる。
「この通り、実は交際中の相手がおりますので、今度のお話は……」
 隣に立つアスハは、赤から青へと見事なグラデーションを見せる髪を、意味ありげに掻き上げる。
「流石に、女生徒にズボンを溶かされてあわや……という相手は、ちょっと」
「おや。それはつれないですね」
 見つめ合う遥久とアスハ。それに愁也が耐えられる筈もなく。
「……ウワァアアやっぱりダメ! 俺のーーーーー!」
 ホテルのボーイまでが抱きついた形になった。

 突然、美少女が笑いだす。明るい声だった。
「あは、はは……おかしい……っ!」
 そこに本物白川が登場。
「皆で揃って何をしているかと思えば……」
 だが遥久は悪びれもしない。
「お見合いなどミスターらしくもない。……金持ちを望むなら別に私でも構わないですよね? 優雅な老後を送れるくらいは稼ぎますよ?」
 ほぼ冗談らしい。ほぼってどこまで?
 だが白川は腕組みし、胡散臭い笑みを崩さない。
「生憎、今回の主役は私ではない。こちらの令嬢の父上に、星さんを引き合わせるのが私の役割だからね」
「お父様ったら、星さんがお綺麗だからびっくりしてたわ!」
 美少女はくすくす笑っている。
 ……要するに。
 星教授に見合い話が持ち上がったが、面倒がって逃げるに違いない。
 そこで名誉教授は白川をダシに、星が会場へ赴くよう仕向けたのが真相だった。

「お陰で成功したよ。その点については諸君に感謝しないではないが」
 微笑む白川が一同を見渡す。本気すぎる一同を。
「私の評判をどうしてくれるのかね?」
 胡桃が澄んだ目で白川を見た。
「だいじょぶ、人のうわさは45日ってはるおにーさんが……あれ? 45日だよね?」
「75日ですね。大丈夫です、皆忘れます」
 遥久がやんわりと訂正。
「ま、まぁ、何日でもだいじょぶだいじょぶ。消えるはず、多分」
 アスハがふっと穏やかな笑みを浮かべた。
「そもそも、ジュリーが結婚したら、誰が僕たちを遊んでくれる、というんだ」
「元々遊んでなどいない」
 即否定。その肩に手を掛け、遥久が囁いた。
「構いませんよ、一度や二度の浮気くらいで目くじらは立てませんから」
「誤解に誤解を重ねるのはやめたまえ」

 アスハがさらに満足げに呟いた。
「あと、独身じゃないジュリーなんて、ジュリーじゃないからな」

 白川の前途は多難である。


<了>


依頼結果