.


マスター:樹 シロカ
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2014/05/15


みんなの思い出



オープニング



 舞鶴の海風もいつしか、頬を優しく撫でる暖かなものになっていた。
 だが埠頭の岸壁は、ずっと不気味な赤い樹木に覆われたままだ。
 撃退署所属の撃退士・四方は、相変わらず生真面目な調子で切り出した。
「皆さんには今回もお世話になります」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
 中山律紀 (jz0021) ら久遠ヶ原学園の撃退士達が軽く一礼する。

 先日の出動で、この地のゲートの主、悪魔カダの存在が確認できた。
 公務員撃退士達はその後も調査を続け、ゲート付近の様子を探っている。
 一方で、ゲートの出現が確認できたのが昨年の夏の終わり頃。そろそろ悪魔による魂の吸収が始まっていてもおかしくない。
 なるべく急いで悪魔を撃退、もしくはゲートコアを破壊する必要があるだろう。
 そこで四方らは上部組織にかけあい、何とか人員をかき集めた。久遠ヶ原学園にも人員派遣の要請を出した。
 しかし時期が悪かったのだ。
 この規模のゲートならば充分な人員をつぎ込めば、力押しで制圧することも可能だろう。
 だが撃退庁も、久遠ヶ原学園も、日本各地での大規模な天魔との戦いに人員を派遣している。舞鶴ゲートの対応に割ける人員は、必ずしも充分とはいえなかった。
 しかも面倒なことに、ここでは強力なヴァニタスも守りについている。

「まともに突っ込んで行っては、ゲート内部に侵入するのは難しいでしょう」
 四方らの調査によると、ゲートの入口はおよそ4mと狭い。
 一方で、カダはかなりの巨体である。実際にそうするかどうかは別にして、カダが入口に立ち塞がっているだけで、単純に物理的な意味でゲートに入れないのだ。
 そこでまず、撃退署の面々がカダを誘き出し、ゲート入口から引き離す。
 次に久遠ヶ原学園の撃退士が伏兵として側面から攻撃を仕掛ければ、恐らくヴァニタスも出て来ざるを得ないはずだ。
「前に使った手ですね……もう一度引っかかってくれるでしょうか」
 律紀が思案気に言った。
「だからこそ、という面もあります。今回はそれをもう一段階増やす訳です」
 つまり、久遠ヶ原の学生を二隊に分ける。
 これまでの経緯から、ヴァニタスはどうやら久遠ヶ原の学生相手と見れば機会さえ許せば仕掛けて来る。カダとヴァニタスをゲートから引き離し、そこで残しておいた一隊が、コアを狙いに行くのだ。
 万一サキュバスがそれを察知しても、どちらか一隊しか追えないだろうという訳だ。
「わかりました。では、こちらの班分けは俺達の方で」
「よろしくお願いします」
 今回も囮に使って申し訳ない。四方は重ねて、頭を下げた。




 カダが体をくねらせると、苛立ちを表すかのように水が跳ねた。
 何度追い返しても、原住民どもは懲りずにやって来る。カダにとっては煩わしい限りだ。
 いっそ急いで収穫を済ませるかとも考えた。だが今の熟成具合では収穫分を上納し、そこから再分配される分け前は、カダ自身がゲートを開く為に使った分を僅かに上回る程度だろうと思われた。
 ヴァニタスを二体も失って、それではなんの旨味もない。
 奴らはここに仲間が捕まっている間は、何度でもやって来る。守る側の勝利は守り切る事だけだ。その厄介さがカダを苛立たせていたのだ。
「カダ様」
 女の声に、カダは水面に顔を出す。
 借り物のヴァニタス、サキュバス・ラリサ (jz0240) が水辺から覗きこんでいた。
「私に少し策がありますの。お耳を拝借できますかしら?」
「……言ってみるがいい」
「作って頂きたいディアボロがあるのですわ。カダ様のお力なら容易いことでしょう」
 カダが無言で先を促す。
「彼らの目的は、力なき同朋を救出すること。そこが泣き所になると思いますわ」
 嫣然と微笑む女の目には、底知れぬ悪意が宿っていた。




 斥候ディアボロを排除し、撃退士の一団が進む。端からぶつかるつもりなのだから斥候などどうでもいいのだが、いつも通りの行動を演出しなくてはならない。
 やがて珊瑚樹が途切れ、埠頭のコンクリートに妖しい光の魔方陣のような物が浮かび上がる。ゲートの入口だ。
 珊瑚樹の陰に潜む撃退士達に、光信機を通して戦闘の激しい物音が届く。それに、公務員撃退士達の呪詛の声が混じった。
『くっそ、悪魔め……!!』
『今は倒すしかない! 作戦は続行だ!!』
「どうしました? 何があったんですか!」
 暫くの間の後にようやく四方の悔しげな声が応答した。
『申し訳ありません、作戦は一部変更です。新手のディアボロが……!』

 そのディアボロの大きさは、ほぼ人間と同じサイズだった。
 わかりやすく言えば、半魚人。頭部から肩と思しきあたりは魚に酷似し、鱗に覆われた全身は二足歩行の人型である。
 そいつがカダを守るように長槍を手に、展開していた。
 長射程の銃や弓を扱う撃退士が先頭の一体を狙って、一斉に攻撃を仕掛けた。さらに一人が突進、迫る穂先をかわし、斬りつける。
「やった……!」
 案外と鈍い。倒れたディアボロに、そう思ったのも束の間。
 半魚人の鱗は消え、まごう事無き人間の身体がそこに倒れていたのだ。

 律紀が珍しく苛立ちをあらわにした。
「まだ完全に魂の吸収が終わっていない状態、ということですか」
『恐らく。コアを壊せば、まだ助かる可能性が高いでしょう。ですがこのままここに置いておくわけにも行きませんので、移送に人出が取られます。すみませんがすぐに行動を開始してください』
 否はない。
 短い手順の確認の後、撃退士達は飛び出した。


リプレイ本文



 珊瑚樹に身を隠し、周囲を窺う。
 クロエ・キャラハン(jb1839)は逸る心を押さえ、静かに状況を見定める。
「まだカダはゲートの中に隠れているのかな」
 舞鶴での戦いには幾度か関わってきた。
 カダという悪魔は尊大そうで慎重な面を持っている。引っ張りだすのは容易ではないだろう。
 入口付近には長大な槍を構えたディアボロがたむろしていた。これが魂が抜け切らぬ状態でディアボロ化された人間だ。
「久しぶりの仕事やけど結構ハードそうやな」
 古島 忠人(ja0071)が言う通り、とにかくディアボロを片付けないと始まらないのだ。
 だが忠人の顔に、躊躇はない。
「まっ、ウォーミングアップに足りないってことはないやろ!」
 ニヤリと笑い、飛び出す為の準備に入る。

 短い通信を終え、中山律紀 (jz0021)が振り向いた。
「あの槍で怪我をすると麻痺するみたい。気をつけて!」
 鈴代 征治(ja1305)は少し考え、律紀に呼びかけた。
「中山さん、前衛ではなく仲間の回復に重点を置いて頂いていいですか」
「了解。攻撃の方はお任せします」
 強く頷く律紀の頭を、鐘田将太郎(ja0114)の大きな掌がぐりぐりと撫でた。
「任せておけ。舞鶴戦にケリつけるために俺はここに来たんだ」
 弟分の律紀がずっと出動している作戦に、ついて来てやれないこともあった。今回、いよいよ敵の大将と相まみえるチャンスだ。だが将太郎が気合を入れているにはもう一つ理由がある。
(カダ、っていうのか。俺と名前似てるのが気に食わねえ……)
 そんな思いもこもった闘気解放。紅蓮の炎が右腕を覆う。
「皆、別動隊も成功できるよう俺達も頑張ろうぜ!」
 将太郎の声に、忠人が威勢よく答えた。
「ほな、いっちょぶっ転がしてやるかのっ!」

 リカーブクロスボウを構え、将太郎が手前の半魚人の脇腹を射ぬいた。射程外からの攻撃に、ディアボロは危険を感じ足を止める。
「そのまま。動かないでね」
 クロエが間が詰まった半魚人の集団目がけ、ファイアワークスを放つ。
 半魚人はその一撃で倒れることはなかったが、燃え上がる炎が混乱を招き足並みが乱れた。
 上空から、佐藤 七佳(ja0030)が建御雷を手に舞い降りる。
「長槍ならば間合いに入ってしまえば……」
 将太郎の一撃で動きが鈍くなった一体めがけ、流星のように飛びこむ。ディアボロが慌てて槍を立て直すが、動作は鈍い。七佳の刀は穂先をかわし、相手の肩を深く抉る。
 それが致命傷になったらしい。棒立ちの半魚人がコンクリートに倒れる鈍い音が響く。
 再び上空に舞う七佳の眼下で、身体を覆う鱗が消え、ディアボロはぐったりと横たわる人間の姿になった。
「悪趣味ですね」
 征治が呟く。極めて普通の感覚だ。クロエは無言のまま、唇を噛み締める。
「また一般の方々を武器に使うのですか……狡猾な、許しませんよ」
 黒井 明斗(jb0525)の優しい面差しを、憎悪が覆い隠す。感情を押さえ、静かに光信機のスイッチを入れた。
「以前にもここには一般人を使った罠がありました。念のために注意してください」
 明斗の言う罠とは、助けた一般人が操られ撃退士を邪魔したことを指す。あのときは珊瑚樹に囚われた人達だった。ディアボロでなくなった人が同じ状況ではないかもしれないが、念には念を。
 ――いざとなれば、拘束してでも。
 苦渋の決断に、明斗は歯を食いしばる。

 だがその間にも、残る半魚人はこちらへと押し寄せて来る。その数6体。
 人間に戻る存在とはいえ、今は紛うことなく敵なのだ。
「しっかりして。助ける為にも、今は倒すことに専念するべきよ」
 七佳が再び舞い降りながら仲間を鼓舞する。
 祈るように静かに目を伏せ、すぐに明斗も視線を前に。
「すぐに元に戻します。今は許して下さい」
 頷き合うのは征治、そしてクロエ。『絆』の力を得て、征治は不気味な林から踊り出る。




 上空から舞い降りては確実に一撃を喰らわせ、離脱する七佳。その動きに、半魚人たちは槍を並べ待ちうける。
「中山、もしもの時は頼む」
 七佳が包囲されないよう、将太郎が飛び出した。
 抵抗力には若干不安は残るが、万が一麻痺する様な事があれば律紀が回復してくれる。
「ほら、こっちだ! すぐ人間に戻してやるからな!」
 しなやかに脚を振り上げ、見事なスピードで半魚人の首の付け根を強かに打つ。『雷打蹴』が決まり、半魚人は思わず膝をついた。そして周囲の半魚人の意識が、七佳から将太郎に移る。
「よっしゃ、貰ったで!」
 忠人はその隙に遁甲の術で気配を消して接近。
 三方から将太郎に群がる半魚人を見て、珊瑚樹から近い方の敵を選び『火遁・火蛇』を見舞った。紅蓮の炎が2体の半魚人を包みこむ。
「あの2体を確実に仕留めましょう。僕は左側を」
 明斗が内心の嫌悪感を押し殺し、努めて冷静に弓を引き絞る。提案を受けてクロエも倣う。
「わかった、右は任せて」
 重いスナイパーライフルを構え、クロエは狙いを定め引鉄を引く。

 連携攻撃の前に、長射程の攻撃方法をもたないディアボロは1体、また1体と倒れて行った。
 地面に転がると暫くの後、人間の姿を取り戻す。
 だがディアボロ達は、その身体を踏みつけることすら厭わない。
 魔女の箒を振るい、白野 小梅(jb4012)が元気いっぱい跳びはねる。
「ボク、お手伝いにきたよぉ!」
 現れた黒猫達が、一斉に半魚人たちの足元目がけて駆け出して行った。
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)が召喚したスレイプニルも蒼煙をたなびかせて後を追う。
「まだ召喚獣の扱いには慣れてませんけれど、お手伝いならば」
 2人と召喚獣は素早く倒れた人々を抱え上げた。その背中に迫る槍の穂先が、スピアに弾き飛ばされる。
「行ってください。その方達をお願いします」
 割り込むように征治が立ち塞がっていた。
「わかりました。お気をつけて!」
 エイルズレトラが軽く背中を叩くと、召喚獣は承知した、と言うように喉を鳴らす。
「急いで急いで!」
 力持ちの撃退士とはいえ、小梅の小さな体が軽々と大人を運んで行くのは、なかなかの見ものであった。


 確実に、ディアボロは数を減らしつつあった。
「まだカダは出てこないの? 意外と気が小さいのかしらね!」
 いよいよ訪れた強敵との対決。待ちかねていた雀原 麦子(ja1553)が、不満そうに鼻を鳴らした。
 ゲートに向かって仁王立ちし、大声でカダを呼ばわる。
「約束通りデートのお誘いに来たわよ〜♪ 今日すっぽかしても、何度でもちくちくとまた遊びに来るわよ〜!」
 麦子は思いつく限りの語彙で、カダを挑発する。
 確かにその声は届いている。そしてカダを苛立たせてもいる。
 だが、カダには『出る理由』がなかった。
 ゲートの入口は狭く、カダの身体で塞げてしまう。そして撃退士の目標がコアの破壊だとカダにも判っている。
 だから戦況が不利になる程、カダがゲート内から出て来るはずはないのだ。

 忠人はゲートの入口を気にしつつ、間近の半魚人に毒手を見舞う。
「あかんな、このままやったら別班が突入できん!」
 カダを引きずり出す方法を考えあぐねている忠人に、幾本もの槍が突き出される。
「ぬわー! 何でワイばっかり狙うんじゃー!?」
 素早く回避しながら、叫ぶ忠人。不意打ちと毒手が決まった為に、厄介な敵と認識されたようだ。
 忠人の回避能力は高いが、同時に2本、3本と突きだされては流石に厳しい。
 じりじりと、自分でも気付かない間に位置がずれて行く。
「うおっ、これもしかしてヤバ、……うごっ!?」
 気付いた時には遅かった。
 半魚人たちは連携してゲートの入口に忠人を押しやっていたのだ。カダの放つ魔法攻撃が当たりやすい地点へ。
 激しく叩きつけられる水流に揉まれるように、忠人が倒れ込む。ついでに半魚人も2体が巻き込まれたが、今はそれに構っている暇はない。
「つ、つめた……っ!!」
「古島さん、こっちへ!!」
 震えあがる忠人を律紀が引っ張り、楯に庇う。
「中山、ここは引き受ける。今のうちに下がるんだ!」
 将太郎が尚も忠人に追い縋ろうとする半魚人の槍を、大鎌で絡め、捩じり、掃う。

 ついにカダが身を乗り出した。
 今なら3人、いや上手く行けば4人を魔法に巻き込める。
 ずるり。
 カダの上半身がゲートから覗いた。
 人の姿を取り戻しつつある半魚人の身体を、今にも巨体が踏みつぶしそうだ。
「まずいですね……」
 明斗は引き絞った弓の狙いを決めかねる。
 カダにはもう少し出て来てもらう必要がある。だがここでカダを撃てば、またゲートへ引っ込んでしまうだろう。
 その迷いを切り裂くのは、七佳の握る黄金の大鎌だった。
「もっとも優先されるのは悪魔を狩ることよ」
 ここでカダを討たねば、犠牲者は増え続ける。七佳は迷わず、カダの胴を刈り取るように鎌を振り下ろす。
「小癪な……!!」
 カダが三叉戟を突き上げた。その強烈な一撃を七佳は鎌で受け止める。が、流石は悪魔、その力はディアボロの比ではなかった。
「……ッ!」
 七佳の身体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「纏めて片付けてくれるわ!」
 三叉戟を構え直したカダの身体を覆う鱗が、青い水のように輝いた。

 だが次の瞬間、カダはつんのめったように前に押し出される。
「出てきなさいって、言ってんのよ!!」
 ゲートギリギリの位置に移動した麦子が、斜め後ろからカダの背中に『餓突』を食らわしたのだ。
 流石に数メートル動かすのが精一杯だったが、それで充分だった。カダはゲート外に全身を晒すことになったのだ。
「何ィ!?」
 カダは慌ててゲートに戻ろうとする。そこにもう一撃。
 麦子が荒い息の下でニヤリと笑う。
「このまま帰っちゃうなんて、あんまりじゃない♪ ……って、まだ隠してたの!?」
 麦子目がけて槍が突き出る。カダは背後に3体の半魚人を隠していたのだ。

 それでも、これで入口付近の敵は全て表に引っ張り出せた。
 律紀は急いで光信機に呼び掛ける。
「カダは釣れた。後はコアをよろしく……!」
 この瞬間をじっと待ち続けた仲間に、ゲートは託す。




 カダは焦っていた。
(一か八か、こいつらをゲート内に引きずり込むか……?)
 だが、つい先刻まで圧倒的有利な状況を作り出した己の巨体が、今は弱点となっていた。
 長い身体は格好の的となっている。自分を守るはずのディアボロは、次々と討たれて行く。
 サキュバスの提案は有効だった。人間達は倒れた仲間の姿を見ると、そちらに手を割いた。
 しかし作成に充分な時間と力を使えた訳ではないディアボロは、弱すぎたのだ。

「うおおおお、喰らえや!!」
 一度下がって傷を癒した忠人が復帰。猛然と駆けつけたかと思うと高く飛びあがり、影縛の術で留めた半魚人の脳天に兜割りを喰らわせる。
「今やで、朦朧としとるからな! 他のも動けんようにしていくで!」
「分かった、そちらも気をつけろよ」
 将太郎が力いっぱいに鎌を振るうと、半魚人は身動きもできないままに敢え無く吹き飛ぶ。
「あれがカダか」
 視界の端に捕えた悪魔に、将太郎は毒づいた。
「名前が似ているってのは気に食わねえな。仲間に名前間違えられるじゃねえか」
 カネダとカダ。確かにちょっと似ているかもしれない。
「はは……鐘田さん、結構余裕ですね」
 忠人の後から追い付いた律紀が、倒れた人を担ぎあげた。
 それでも今は力を抜く位の方がいいのかもしれない、と思う。救う手段とはいえ、人間に戻る存在に攻撃することのプレッシャーを少しでも軽くできる。
 忠人も遁甲の術を使い、再び接近。
「ふはは、お前さんみたいな怖い奴と正面から戦ってたまるかいっ」
 カダの真下に転がる人を救いだし、素早く珊瑚樹の林へと離脱する。

 中空から戦場を見下ろし、七佳は飽くまでも冷静だった。
 悪魔にとってはゲートは糧を得るためのものだ。人間とて他の生命を糧として生きながらえている。そこに違いはない、と思う。だからその行為自体を七佳は否定しない。
「だけど、あたしが生きる為にヒトの社会は必要なものなのよ。その社会に損害を与える行為は容認しないわ」
 草食動物が角を振り立て身を守るように、窮鼠が猫を噛むように。
 生きる為の戦いを捨てたりはしない。
 静かに悪魔を見据える七佳の手の中で、大鎌の輝きが増したようだった。
「故に貴方を斬り捨てるわ」
 迷う気配もなく巨体にぶつかっていく。 

 征治は忠人を助け、珊瑚樹の林に倒れた人を運びこんだ。
「ここであの悪魔を倒せば、別班にとってもかなり楽になるはずです」
「今がチャンスだよね」
 クロエも頷く。
 光信機のマイクから、抑えた征治の声が仲間に伝わる。
「仕掛けます」
『了解。こちらに引きつけるわ。頑張ってね♪』
 麦子の力強い声。カダと間近で対峙し相当疲れているはずだが、そんな素振りも見せない。
「こちらからも援護します」
 珊瑚樹の隙間を縫って、明斗が移動する。カダを挟んで、麦子と対になる位置だ。
「カウント始めます。10、9……」
 征治が強い両脚に力を籠めて身を沈め、クロエは息を整える。
「……1、GO!」
 クロエのライフルが吠える。目を狙った初撃はほんの僅かに逸れたが、カダの動揺を誘う。
 その間に駆け出した征治が肉薄。
 七佳がつけた傷口を白く輝くスピアで斬りつけ、返す穂先を突き立てた。
「この、原住民ごときが……ッ!!」
 怒り狂うカダは征治目がけて三叉戟を振り下ろす。だがそれよりも早く、クロエの次撃が襲いかかる。
「この世界から消えてなくなりなさい!」
 敵意、憎悪、そして殺意を練り上げた銃弾が肩の肉を削り取る。
「な……!!」
 絆・連想撃。共に闘う仲間を信じ、強い意志を束ねた連撃。
 おびただしい体液が溢れ、コンクリートに流れ落ちた。
 カダは最後の力を振り絞るように、正面の征治を魔法の水流でなぎ倒す。
 そしてすぐにゲートに退くそぶりを見せた。
「逃がさないわ」
 七佳は機を逃さなかった。天界の気を乗せた黄金色の大鎌が、悪魔の命の緒を容赦なく断ち切った。

 忠人が確認するように言う。
「やったんか……?」
 長く伸びた巨体は、既にピクリとも動かなかった。
「当然よね♪ でも思ったより大したことなかったわねえ」
 カラカラと笑い、麦子はどこからか取り出した缶ビールを開ける。恐らく珊瑚樹の陰に隠していたのだろう。
「アルコールの摂取は傷には良くないと聞きますが」
 明斗が僅かに眉をしかめながら、麦子の傷を癒してやる。
「あら、飲んだ方が回復が早いのよ? それに明斗ちゃんヒールが上手だと思うわ、ねえりっちゃん♪」
 いきなり振られた律紀は答えに詰まる。
「ははは……下手ですみません」
「ちゃんと効いてるぞ、安心しろ中山」
 将太郎が癒えた腕を強く振って見せた。

 学生服を羽織り、征治はゲートの奥を見透かす。
「こちらは任務完了ですが。あちらに支援は不要でしょうか」
 その言葉に、律紀は光信機を取り上げた。


<了>


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: オモロイにーちゃん・古島 忠人(ja0071)
 最強の『普通』・鈴代 征治(ja1305)
 夜のへべれけお姉さん・雀原 麦子(ja1553)
重体: −
面白かった!:8人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
オモロイにーちゃん・
古島 忠人(ja0071)

大学部5年312組 男 鬼道忍軍
いつか道標に・
鐘田将太郎(ja0114)

大学部6年4組 男 阿修羅
最強の『普通』・
鈴代 征治(ja1305)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
夜のへべれけお姉さん・
雀原 麦子(ja1553)

大学部3年80組 女 阿修羅
鉄壁の守護者達・
黒井 明斗(jb0525)

高等部3年1組 男 アストラルヴァンガード
月華を謳うコンチェルト・
クロエ・キャラハン(jb1839)

卒業 女 ナイトウォーカー