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マスター:清水裕
シナリオ形態:イベント
難易度:やや易
参加人数:10人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/23


みんなの思い出



オープニング

●男達のドレスアップ
 初夏が近づくある日の事。斡旋所の掲示板に1枚のポスターが貼られた。
 ポスターには煌びやかな星が沢山描かれており、その中にアルファベットでこう書かれていた。
『★I☆K★☆★☆★E☆M★N★』
 ……きっと、IKEMEN(イケメン)の事だろう。
 その目が痛くなるようなポスターの下には冊子が置かれており、それを1枚手に取ると読み始めてみた。
 どうやら、男性の輝ける才能である、イケメン力(滲み出るオーラ)を着飾ってみないかというものらしい。
 一応は男性っぽい雰囲気の女性も大丈夫らしいが……来る者はいるのだろうか?
 もう一度目が痛いポスター(☆や★はイケメンの才能(スター)を現しているといいたいのだろう、きっと……)を見る。
 煌びやか過ぎて何とか、イケメンの文字は読めたポスターだが妙な威圧感を感じる……。
 どんな……どんなノットモテメンでもイケメンになれるのだろうか……。
 そんな想いと共に、モテない男達の喉はゴクリとなったのだった……。

 そして、イベント当日。
 ある者は本気で、ある者は冗談半分で、ある者は究極の美を求め、ある者はネタを求めて会場の入口へと立つのだった。
 ちなみに入口の隣にはイベントのスケジュールが書かれた紙が貼られていた。
 着替えから始まり、雨に濡れた時の仕草や、女性が居ると仮定しての護衛をする仕草、服を脱いだ時の仕草といった感じの物だった。
 そう思いながら扉を見ると……扉からにじみ出るほどの強烈な威圧感を感じた。
 扉越しでもわかる……凄いイケメンの威圧感だ。
 集まった仲間の中の1人が恐る恐る扉を開いて中を覗いてみた。

 会場の中は、イケメンだった――。


リプレイ本文

●イケとメン
 受付でスーツ一式を渡され、更衣室にて袖を通し(一部は通さずに……)、参加者達は会場の中へと集まっていく。
 ホール内では馬子にも衣装なスーツ姿、普通に似合ってるスーツ姿、決まってるスーツ姿と分かれ、一部は自前の洋服に身を包んだ者達が居た。
 独り暗い世界の中に居る元 海峰(ja9628)だが、気配を察する事には人一倍長けているようで……周囲のただならぬ雰囲気を感じ取っていた。
(皆、イケメンが食べたいのだな)
 ……どうやら彼は、イケメンを『イケてるラーメン』と誤解しているのだろう。
『伊家麺:清とか唐とかそんな時代に伊太利亜地方に移住した一人の男が不意にラーメンを食べたくなり、この地方で主流であった太目のパスタに鶏がら・豚・牛の骨を丹念に煮込み続け、濃厚に煮込んだ白湯スープを塩で味つけし、パスタを浸して食べたのが始まりと言われるラーメンのようでありパスタでもあるという伊太利亜の麺、伊家麺と呼ばれるようになったという。民●書房著』
 何処で仕入れた知識かはまったく覚えていないがきっとそんな感じの食べ物だろうと思いながら、海峰は喉を唸らせる。
 そんな時、近くで驚きに満ちた声が聞こえた。
「……えっ、イケって種類の麺打ち修行とか、そうじゃなか――そ、そう思って参加なんてしてないよ!」
 慌てふためく声と共に目の前で手を振っている気配が海峰には感じ取れた。
「そうか……違ったんだな。ではイケメンとは一体なんだ?」
 残念そうに呟いた彼だったが、直ぐにそんな疑問を考え始めるのだった。
 だが誰かが教える前に司会者であろう人物が喋り始め、イベントの開催が告げられた。
 何時に何を行うかや、イケメンとは何かと言う本に書かれた格言が読まれ、最後に……。
「それでは本日のゲストである、顎山顎彦さんに挨拶を行って貰います。皆様、盛大な拍手でお迎え下さい」
 その言葉と共に入口が開かれ、そこには……誰も居なかった。
 全員が『?』という表情をしているかしていないかの中で、スタッフの方がより驚いているのか「どうなっているんだ?」とか「ちゃんと確認を取ったのか?」と言う声が聞こえた。
 まさか……居ないのか? ちょっと不安になり始めた時、スモークがステージから黙々と上がり始めた。
 そして、その中央には……AGOがいた。
「ヘロォ」
 何かイケボで全員に向かって挨拶をしてきた。そんなAGOへとスタッフが声を上げる。
「ちょ、顎山さん! 勝手に移動されたら困るんですけど!?」
「ノォ……プログレム」
 ポーズをキメながら、AGOは言い。怒りかけのスタッフは自制しながら震えた声でマイクを握る。
「お、お待たせしました。本日のゲストの顎山顎彦さんです」
「オゥケィ」
(……なるほど、これがイケメンというものか)
 妙な誤解をしながら海峰は静かに頷いた。
 顎山がステージから降りると顎山の登場と共に閉じていた床が再び開き、スモークが漂い始めた。
「イケメンを語る上で、俺を忘れて貰っちゃ困るぜ……ベイベェ?」
 自称イケボでカッコイイ気分に浸れる台詞を口にしながら、リフトが上がりその人物にライトが向けられた。
 片手を天に向け、もう片手を心酔する自らを戒めるかの様に当てながら地を見つめ……少し静止後、立ち上がって上半身だけを振り向かせ、指鉄砲と共にカメラ目線でウインクを決めた。
「感じろよ――俺と言う名の小宇宙を、な☆」
(これは……イケメンなのか?)
 赤坂白秋(ja7030)から放たれる妙な気配と周囲に渦巻く肌寒い空気を感じつつ、海峰は首を傾げた。
「ォゥ、ベリィナイス……」
 顎山は意外な新人を発掘した様な表情をしていたが、今は気にしないでおこう。

●仮想要人警護
 午前中の彼女を外敵から護る行動を行われる中、まだ時間があるヤナギ・エリューナク(ja0006)は入口の扉から顔を覗かせながら外を見ていた。
 外では中で一体何が起きているのか気になっているであろう人が、時折指差して行くのが見えた。
(此処で注目を浴びるのも手じゃん?)
 そう思いながら、彼は持っていたベースを掴むと入口前で弾き鳴らし始めた。
 軽快に徐々にスピードを上げて行き、同時に爽やかに首を振って汗を飛ばしてイケメンっぷりを発揮する。
 玉の様な汗が陽光で輝きながら、ヤナギは周囲を見ると無難に可愛い同年代の女性を見つけた。
 弾き終えると彼はベースを壁に立て掛けるとその女性へと近づいて行く……現地調達の為に。
「なぁ、ちょっとばかり付き合って欲しいじゃん」
 勿論、いきなり話しかけられた女性は驚いた顔をした。
 だが少し考え、恥かしそうにヤナギへと付いて行った。

「颯爽といかせてもらおうか、それじゃあ行くよ」
 ヒンメル・ヤディスロウ(ja1041)はそう言って目を閉じて静かに深呼吸をし……ゆっくりと静かに目を開けた。
 空気が変わり、周囲はこれといった変化は無かった。だけど解る者にはわかった。
 彼女が居るのはステージではなく見通しの良いだだっ広な荒野、そして側に居るのは1人の身分の高い少女。
 護る壁も無ければ味方も居ない。そして周囲には2人を亡き者にする為に集められた一個旅団その数六千人。
 そんな中でヒンメルは駆け出すとそれを助走にし跳び上がり、黒ゴスを翻し強烈な回し蹴りを放った。
 その一撃は空想の敵の首を刈るとプロペラの様に横回転しながら、周囲を巻き込み吹っ飛んでいく。
 更に方向を変えると一気に移動し、肘を相手の鳩尾へと打ち込むと片方の手を裏拳にして隣に立つ敵の顔面に打ち込んだ。
「これは、大仕事……だねっ」
 駆けながらヒンメルは呟き、別の敵へとストレートを打ち込む。
 実際にはステージを駆け巡りながら、演舞をしているのだが1体1体を捻じ伏せ、蹴散らして行く姿は戦乙女の様だった。

 六千人目を叩きのめすとヒンメルは空想の彼女の手にキスをすると、ステージから降りていった。
 そして次にルティス・バルト(jb7567)が壇上に上がり、その傍らには女性が1人付き添っていた。
 見た限り、一応はどんな事をしているかという説明は行っているのだろう。
 そんな2人へと全身を黒一色の服装をした男が突撃して行く。彼はスタッフの1人であるようだ。
 その手にはきらりと光るナイフが握られており、それに気づいた女性は説明はされていたのだがいきなりの事だったらしく悲鳴を上げる。
 だがナイフは彼女に向けられる事は無く、間に入り込んだルティスの腹へと吸い込まれ……彼は倒れた。
「か、彼女には指一本触れさせないよ……無事だったかい?」
 腹を押さえながら、彼は女性を安心させるべく微笑む。
 女性はそんなルティスの手を握り締めるとお礼を言って……少しして、これが全て演技である事を思い出して顔を赤くした。

 ルティスがステージから降りると共に、入口の扉が開かれ嘶きと共に一頭の白馬が姿を現した。
 その背にはカミーユ・バルト(jb9931)と同年代ほどの女性を乗せ、優雅にステージへと移動して行く。
「さあ、御嬢さんお手をどうぞ」
 ステージに白馬を横付けするとカミーユが先に下り、手を差し出し女性を下ろす。
 降りてステージ中央へ歩いて行く2人、その最中にフルートの音が周囲に響き渡った。
 音楽を奏でる主を捜すべく、カミーユは彼女へと振り向き微笑みかける……そして彼は見た。
 先程ステージから離れたルティスが何時の間にかフルートを手にし優雅に演奏を行っている様を。
(ルティス……恥かしいにも程があるであろう……)
 急に顔を片手で覆ったカミーユに女性は心配そうに声をかけるが大丈夫と言って彼は歩み始める。
 ちなみに顔を手で覆ってはいるがその下は怒りとかそういう感情ではなく、恥かしさと照れと嬉しさが混ざり合った真っ赤な顔だったりした。
 そして中央に辿り着くと共に上からロープが落ち、数名の敵役が降りてきた。
「心配するな、僕が護る」
 女性を抱き抱えると自分達を囲む敵の上を跳び、距離を取り……離れた辺りで女性を下ろすと、カミーユは振り向く。
 さあ、討伐の時間だ。

「はっ……この気配は魔王!?」
 ヤナギの番が終了し、ステージに降りると同時に駆け上がった紺屋 雪花(ja9315)が叫び、芝居めいた大袈裟な感じに両手を広げる。
 直後、まるで吹き飛ばされた様に彼の体はステージ上を舞い、床を転がり……停止した。
「く、っは……はぁ、今こそこの久遠ヶ原名物鰹おにぎりの出番!」
 胸元から大きめなおにぎりを一つ取り出すと昔のカートゥーン作品に出てくる水夫の様に一口で平らげた。
 すると元気百倍という感じにダブルバイセップスを取った。
「絶望シィィィルドォォォ!!」
 叫びと共に雪花の体は輝き、激しい音が響き渡った。
 光が収まるとそこには膝を抱え顎が伸びた雪花が居た……そして、荒い息を吐きながら……仮想彼女へと微笑む。
「お嬢さん……怪我は、なかったかい? ……そうか、それは良かった」
 きっと仮想彼女は無事であると言って、感謝を述べたのだろう。
 安心すると、片手を前に出して一輪の薔薇を差し出した。
「さあ、踊ろうぜ!」

「彼女は俺が護る。たとえこの命捨てる事になろうとも!」
 気を込めた雄叫びを上げ、全身に力を込め海峰は背後に彼女を隠しながら構えを取り、四方八方から迫り来る外敵を円を描くように極力移動せず、一撃で屠っていく。
 前方、右方、後方、左方、拳、蹴り、掌底、迫る外敵に打ち込み、仮想の敵は粉砕され、背中には仮想とは思えぬ彼女の温もり。
 最後の一撃を外敵に打ち込むと、海峰は静かに呼吸を整えた……。
(此処で気の利いた台詞を一言言えばいいのだな?)
「大丈夫だ、問題ない」
 そう言って、自分なりのイケメンポーズであるサムズアップをするのだった。

「さてと、次はボクのば――」
「お嬢さん、ここは危険ですよ!」
 意気込みながらさんぽがステージへと向かおうとする中、突然佐藤 としお(ja2489)が彼の腕を掴むと外へと引っ張っていった。
 いきなりの事で驚く暇も無いさんぽを入口に横付けした車へと押し込むと、他の参加者に協力してくれた女性も引っ張って同じ様に車へと押し込んだ。
 突如、悲鳴が起こり、どう見ても変質者の誕生だった。
「危険から護る為に次々に保護だ! 何故なら僕が居れば大丈夫! 僕こそ女性の守護神!!」
 眼鏡越しの瞳は物凄く怪しく光っており、十中八九誰もが皆おまわりさんこいつが変態です。悪です。と言うだろう。
 そのままとしおは運転席に入ると車を走らせると、バッハハーイ!と言って逃走劇を開始しようとし……無かった。
 何故なら車がドシンバシンと上下に動き、暫く止まると……中から某大作RPGよろしくの棺桶が1つ出てきたからだ。
 そして押し込まれた女性達は物凄く不機嫌そうな表情で棺桶を蹴ったり、少し下品ながら唾を吐いたりしていた。
 中に何が入ってるかは……お分かりだろう?

「うぅ、大変な目に遭ったよ……。でも今度こそボクの出番!」
 少しぐったりしながら、さんぽがステージに上がると気を取り直して、外敵から護る仕草を行い始める。
 さんぽの得意技はやっぱり忍術! だってボクはニンジャだもん☆
 そんなアピールと共にニンジャ仕草を取り、抜き足やスリケン代わりのヨーヨーを使っていく。
 仕草を決める度に仮想の外敵は火柱で燃えたり、雷が落ちたり、風で飛ばされたり、ヨーヨーが食い込んだりしていく。
 なお、一部の観客からは「アイエエエエエエエ!!」とか「ニンジャ、ナンデニンジャ!?」と言う叫びが聞こえるがきっと普通のニンジャの事だろう。(棒読み)
 さんぽも少し気になったのか小首を傾げるのだった。

 先程の登場とよく似た感じの自称スタイリッシュイケメンポーズ(……長いのでSIPにしよう)を両手に銃を持ちながら決め込み、白秋は仮想的を相手にとしおを棺桶にした女性の1人を護る。
 そして最後の外敵を退治したらしく、銃をホルスターに戻すと格好良く髪を手で払う。
 若干ナルが入ったような態度に女性が軽く引きながらも、演技と言う事でお礼を棒読みながらも言った。
 白秋もこれが演技であると気づいて……あれ、ちょっと待ってなんか悦に入ってるみたいで演技忘れてない?
「ふっ、礼には及ばないさ……。だがどうしてもお礼をしたい、って言うなら……」
 台詞を溜めて、ここ一番のイケボでいかした台詞を彼は口にした。
「膝の裏をペロペロべろんちょべろんちょさせてくれ」
 きっと今の表情はこれまでの人生で一番のイケメンスマイルだったであろう。
 そして、イケスマへと雷の様な左フックが減り込み、女性の罵声が白秋に叩き付けられ怒りながら女性は去って行った。
「ワンダホォ……」
 昏倒した白秋を抱き寄せながら、顎山は称賛の言葉を静かに贈ったのだった。

●昼時
 昼には今まで閉ざされていた扉が開放され、テラスへと参加者達は移動しそこに置かれた軽食を食べながらそれぞれ順番を待っていた。
 そんな中、会場へとのそのそと近づいてくる巨大な物体が居た。
「真のイケメンというものは午前中になど活動はしない。レディとの甘い一時を過ごし、朝方はまどろんでこそのイケメンだ」
 もこもこしたパンダ、下妻笹緒(ja0544)はそう言いながら、テラスの椅子に座るとスタッフに紅茶を頼んだ。
「スケジュールに自分が合わせるんじゃない。イケメンのリズムにスケジュールが合わせるのだ」
 言いながら庭を見る。そこには緑豊かな芝生があり、放物線を描く様にしてホースから水が流れ、雨の様になっていた。
 紅茶を飲みながら参加者が雨に濡れる仕草を見ていると、早くも笹緒の番がやって来た。
 のそのそと歩き出し庭へと向かうと、毎年あるテレビ局が夏頃は放映する映画の動物の様に大きな傘を広げ――る事は無く、機敏に動き一粒一粒の雨を見分けて避けていった。
「雨になど濡れないのがイケメン。避けるのは造作もないこと」
 素早く動いていたが一歩前に進んだ瞬間、パンダは消え何処に行ったのか周りに目を向けると……何時の間にか日陰になっている椅子に座って寛いでいた。
 イケメンには瞬間移動も造作もないことのようだ。

「正直、俺……雨が嫌いなんだよな」
 呟きながらヤナギは傘を持たずに庭へと進んで行く。
 足元の芝生からジワリと濡れた感触が足裏に伝わり、スーツが重みと濃さが増し、頭に水が掛かる感触……頭から頬へと垂れる水を感じながら、何もせず呆然と立つ。
 暫く立ち続け、スーツが水を吸って重くなった頃、ヤナギはゆっくりと雨降りから離れ、椅子に座った。
 そして、その仕草は流行っているのか違う種類ではあるが良く似た仕草が行われていた。
「………………」
 海峰が顔をあげ、涙を流すかのように水を伝え、物憂げに空を見上げていた。
 ヒンメルは両手を天に向けながら、静かに歌を歌い始める。
「〜〜♪ 〜〜♪」
 英語で歌っている為、歌詞は良く分からないが……聞いていると一度は聴いた覚えがあるかも知れない。
 確かこれは……雨に唄えば?
 雨を感じながら歌い続け、一頻り謡い終えるとヒンメルはお辞儀と共に仕草を終えた。

「僕の頭上に雨など、降らん」
 偉そうに言いながら椅子に座るカミーユが庭を見る。
 そんな弟にルティスは声をかける。
「カミーユ、これは本当の雨じゃないんだよ」
「何故なら僕は太陽に恵まれた存在だか――……何? 人工の雨、だと?」
 ルティスの言葉に一瞬キョトンとしたカミーユだが直ぐに納得した様に頷き始め……椅子から立ち上がり歩き始めた。
 その方向は庭であり、雨が降る範囲へとどんどんと進み……その中央へと立つと腕を組んで堂々と立った。
 どんどんと体を濡らしながら彼は威勢良く声を出した。
「皆、雨も滴るイイ男を堪能しても良いぞ!」
 そしてそんな弟の台詞を聞きながら、ルティスは空を仰ぎながら、打たれるがまま立っていた。
 髪から水が滴り落ちると、含まれた水分を弾くように手櫛で荒くかき上げながら流し目で女性を見た。
 少女マンガのワンシーンの様な仕草にときめいているのか女性達は頬を染め恥かしそうにする。
 その視線を感じながら、ルティスはもう一度髪をかき上げるのだった。

「ボクも頑張ってイケメンをアピールしちゃうよ!」
 自信満々にさんぽが立ち上がり、庭へと……あ、上着が濡れるとちょっとイヤだから脱いでおくのか。
 そしてそれを綺麗に畳み、座っていた椅子の上に置くと元気に庭に飛び出した。
(本当の雨じゃないから……シャワーみたいな感じ……かな?)
 ワイシャツが肌に張り付き、髪が水を吸って重みを増しながら、さんぽはそう考えながら最高のイケメンポーズを取ってみる事にした。
 自分自身の最高のポーズといえば、髪をかき上げる仕草だろう。水を含んだ金髪が光り輝く様は素晴らしいはずだ。
(よーっし、やってみるよ! ……でも、前よりも後ろ髪の方が凄く格好良く見えるよね!)
 結論付け、さんぽは少し重くなった自慢の金髪を広げるようにしてかき上げた。
 彼の予想は的中し、広がった金髪は翼の様に広がり水飛沫と共に陽光を浴びて綺麗に光り輝いていた。
 そして透けたワイシャツから見える、下着が淫猥さを感じさせ……あ、これアカン。アカンやつや。
 どう見てもイケメンというか美女だ。
(うん、イケメンに見えたよね! これで少しは向上してるはず!)
 そんな周りからのイメージに気づく事無く、ずぶ濡れさんぽは元気に椅子へと戻って行くのだった。

「なんてことだ……雨が世界を涙で染めてしまった……俺が美しすぎて」
 何かナルが入った台詞を言いながら雪花は雨振る庭で膝を突く。
 ……が、すぐに立ち上がると彼は顔を片手で覆い、空を見上げる。
「天女の涙に濡れた服を着替えなくちゃな……華麗なるイリュージョンで魅了してやるよ。イッツ・ショウタイム……!」
 叫びと共に雪花は片手に持っていた一輪の薔薇を空に投げると皆の視線がそこに向いてる中、光纏を放ち中性的な少年の姿となり、スーツを脱ぎ放つと水着に着替えた。
 それはマジックに使われる技術であり、投げた薔薇に意識を向けさせその間に芸を行うと言う物だった。
 そして、意識が雪花へと戻った時には雪花は別の姿となっていた。
「愛のマジシャンとは俺の事さ。さあ、踊ろうぜ!」
 再び何処かから出した薔薇を向けながら雪花は言った。

 ある程度の参加者が仕草を終え、昼の部は終了を向かえ……そうになるが、2名ほど足りなかった。
 周囲を見渡すと……としおは棺桶に入れられたままだった。処刑開始がまだなので問題ない。
 白秋は……何処だろう?
 そんな中で不意に甘い匂いが周囲に漂い始め、何処から匂いがしているのか嗅覚を総動員させ周囲を見渡すと……水を止められていた庭にまたも雨が降っていた。
 まだ誰かやり終えていない参加者が居たのだろうか……あ、顎山だった。
 庭に居る顎山は何処かから調達したであろう人が括れそうな十字架の前で膝を付いて祈っていた。
「エィメン……」
 雨が降る中での神への祈りは何というか神秘的でイケメンがやるとカッコイイポーズのひとつだったりするのだろう。
 そしてキラキラと光る雨とその甘い匂い……ん?
 甘い匂いは……顎山から漂っていた。恐る恐る状況を見直してみると……ホースの口から垂れる水は……物凄く糸を引いていた。
 更にいうと、服や髪にもべったりと濡らして行き……ヌルヌルテカテカに……。
「あれって……あめ?」
 どう見てもあれは、麦芽飴だった。
「スィーツ……」
 祈る顎山はぺろりと頬の麦芽飴を舐め、神に祈りを捧げ……ってちょっと待て。
 十字架に括りつけられているのは神ではなかった。括りつけられていたのは……気絶した白秋だった。
 そして甘い匂いにつられた鳥や蟻が近づき……彼ら以外の複数の参加者は叫んだ。
「「ア、アリだーーッ!!」」

●午後
 最後の仕草である服を脱ぐ仕草となり、参加者達は次々と濡れたスーツを色んな仕草で脱いで行く。
 カミーユの番となり、カミーユは美しさと優雅さを備えた風にスーツを脱ぎ始めた。
 ちなみに脱ぐのは良くて上半身までであり、カミーユが美しさを見せる最高のポイントは手袋を外す時の仕草であった。
(貴族たる者、脱ぐ時も優雅である)
 自身を持って手袋を外し、彼はスーツを脱いで行くのだった。

「脱いだ服は脱ぎっぱなし……かな?」
 呟きながらルティスはスーツの上着を椅子の背に投げ掛け、色気を伴う様にしてネクタイを緩める。
 ある程度緩めるとワイシャツのボタンを一つ一つ外して行き……半分ほど外すと一度前髪を軽くかき上げ、色気を放つ。
 そして、流し目でスタッフの女性を見て、焦らすようにしてボタンを外すか外さないかを指で弄ぶのだった。

「自分で服など脱がないのがイケメン。キュートなガール達に脱がせてもらった経験しかない以上、自分で脱げといわれても私には無理だな」
 そう肩を竦めながら、笹緒は言ってステージ上に置かれた椅子に座って優雅に新聞を読み始める。
 正直な話シティボーイといえばシティボーイなのだが、どちらかと言えば……動物園の面白パンダといったイメージであった。
 ……きぐるみを着ているからだろう。
 そして、このままでは後々に支障が来てしまうということもあり、スタッフにより笹緒はステージから出される事となった。

 次に海峰の番となり、ステージに上がった彼は徐に上着を脱ぐと右手でそれを翻し右肩にかけた。
(……これ以上の仕草は思いつかん)
 小さく溜息を吐きながら、彼は首を絞めるネクタイを緩めながらステージを降りていった。
 そして変わるようにして何故か再び顎を伸ばした雪花がステージに上がると服を脱ぎ始めた。
「俺が、俺達が……イケメンだ!」
 何処かで聞いた事がある台詞を言いながら、雪花は次々と服を脱ぎ……心地良いほどにズボンをずり下ろした。
 周囲に晒されたのは……水着だった。
「ふう……一気に脱いだら少しお腹が空いたな。お、こんな所にカロリーブロックが」
 呟きながら……彼は何処からか即エネルギーを補給出来るタイプの小麦粉で作られたお菓子を口にした。
 少し固めのボロボロとした食感と甘い味が口に広がり、飲み込みながらどんな味か気になり彼は箱を見た。
 人参味……それを見た瞬間、雪花は固まった。
「に、に、人参味のカロリーブロックだけは、だけはあぁぁぁ!?」
 ガクガク震えながら、雪花は仰向けに倒れた。……どれだけ人参が苦手なのだろう。

「何? インナーも脱げ?」
 男らしくスーツの上着を脱いだヤナギへと誰かが言ったらしく、彼は思案する。
 暫くして決心を固めたらしく、ワイシャツを脱ぐとシャツに手を掛けた。
 胴を摘み、ヘソをチラリと見せながら少しずつ上げ始め……サッと下に下ろした。
「脱ごうか……どうしようかな?」
 S気を見せながらヤナギは笑う。
 その姿からは少し色気が感じられた。色気もイケメンには必要な要素と言う事だろう。

「よしっ、じゃあ……脱ぐよ?」
 言いながら、さんぽはスーツの上着を脱ぎ、用意したハンガーへとかける。
 そしてそれをラックにかけ、生乾きのワイシャツに手を掛け始めた。
 若干張り付き透けて見える肌、それと一緒に見えるインナー、そんなワイシャツをさんぽは1つ1つボタンを外し始めて行く。
 その姿はイケメンと言うよりもエロチズムであり、耳を澄ませば吐息が聞こえてくる。
「……えっ、ボクがやると校則違反?」
 誰かにそう言われてさんぽは首を傾げる。
 そんな時、マイクが入りスピーカーから声がした。
『そんな事はないよ、さんぽさん』
 この声は……ヒンメルだった。だが姿を捜すがそこには誰も居ない。……いや、居た。
 一昔前に使われていたであろうゴンドラの上にボロマントを纏って立っていた。
 マントを荒々しく脱ぎ捨て、そこから飛び立つと空中で捻りながら方向を変え、ステージへと降り立った。
「さんぽさんはイケメンだよ。僕が保障するよ、だから……脱ごうか」
「え、ちょ……ヒンメルさん? ……って、ぬ……脱がさないでよぉ〜!?」
「大丈夫だよ大丈夫、恥かしいのは一瞬だけだから……ふふふ」
 クールに笑みを浮かべながらヒンメルはさんぽを脱がし始め、ステージではさんぽの悲鳴とヒンメルの冷笑が木霊した……。

(何か体から甘い匂いがして、ベタベタするが……はっ、まさかこれはイッケメーンじゃなくて本物のイケメンになる前兆なのかっ!?)
 良く分からないことを考えながら、白秋はステージ上へと上がって行く。
 彼が歩いた道には何やら黒い粒がうごめいており、スタッフが掃除したり駆除剤を撒いているが彼は気づいていない。
 そして視線が何故か自分に集まっているからきっとイケメンが黒光りし始めているのだと彼は考える。
(よし、ここはいかした台詞を全員に捧げるぜ!)
「そもそもイケメンとは何だ?」
 両手を勢い良く広げ、格好良くポーズを決めながら白秋は言う。その時、スーツの両袖がステージ上を舞った。
 ……あの、蟻とか動物にスーツの所々食われたり破れたりしてませんか?
「イケメン――その言葉を俺達は本当に理解しているのか?」
 そう言いながら白秋はその場でターンする。スーツの上着が千切れ壁に張り付いた。
「だが、これだけは確信を持って言おう……これだけは!」
 まるで自分が王様であると言う風に全員に背を向けた白秋は言う。……あ、今気づいたけど、十字架に括られた時に引っ掛かってたんだね。だって、その……お尻が……これ以上はいえない。
 最後に彼は跳び上がると空中でターンして片手を斜め上に、もう片手を自身に向けたポーズで正面を向いた。
「この赤坂白秋こそが……真の、真のイケメンだーーっ!!」
 叫びと共に白秋のスーツに限界が来たのか……吹き飛ぶようにして、尻見せパンツ一丁となった。
 直後、ブーイングなどの叫びといろいろな物がステージへと投げ込まれた。
「ちょ、まっ、べっ、――ぐぺ」
「……グッド」
 それを見ながら、顎山は一人サムズアップをした……。

 全ての予定が終わり、少し荒れたイベント会場の中、司会者が閉会の挨拶を行いイベントは最後の時を迎える。
「これで誰もがイケメンになるかといわれたらそうではありません。ですが、イケメンになる事を忘れなければイケメンになる事ができます」
 それでは最後に本日のゲストの顎山さんに一言をお願いします。そう言って、司会者は顎山へとマイクを差し出す。
 顎山はマイクを受け取ると、ステージから参加者全員を見回し……サムズアップした。
「グッラック……!」
 それを見ながら、彼らの手からは拍手が打ち鳴らされた。
 拍手を受けながら、顎山は去って行き……直後、外で何かが打ち上げられる音が聞こえ、花火の様な爆発音が大空に響いた。
「あ〜れ〜!」
 何か声が聞こえたが無視しておこう、たぶん庭先に捨てられた棺桶が打ち上げられただけだろうから。
 殆どの者はイケメンを学ぶ事が出来ただろう。しかし、一部は女子力が向上したり、Sイッケメーンとなったりした。
 そんなこんなで、イケメンを学ぶイベントは終わりを告げた。
 ある者はイケメン力を試すべく街へと赴きナンパをし、またある者は直帰する。
 ……これから彼らは大いなるイケメン道を進む事となるだろう、だけどイケメンを目指す者はこれしきの事は難なくこなすはずだ。
 頑張れイケメン、負けるなイケメン。イケメンの未来は光り輝いているはずだ。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
パンダヶ原学園長・
下妻笹緒(ja0544)

卒業 男 ダアト
ファイヤーアーティスト・
ヒンメル・ヤディスロウ(ja1041)

大学部1年156組 女 鬼道忍軍
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
時代を動かす男・
赤坂白秋(ja7030)

大学部9年146組 男 インフィルトレイター
美貌の奇術師・
紺屋 雪花(ja9315)

卒業 男 鬼道忍軍
惨劇阻みし破魔の鋭刃・
元 海峰(ja9628)

卒業 男 鬼道忍軍
優しさに潜む影・
ルティス・バルト(jb7567)

大学部6年118組 男 アストラルヴァンガード
孤高の薔薇の帝王・
カミーユ・バルト(jb9931)

大学部3年63組 男 アストラルヴァンガード