●仄暗いプールの藻から
雲一つ無い青空、燦々と照り付く太陽、今日は絶好のプール掃除日和だ。
そんな彼らは更衣室で着替えをしプールサイドに立ち、プールの色に固まっていた。
腐海、その一言で通用しそうな水の色だった。今まで屋内プールだけ使っていたが学生増加を機に使っていなかった屋外プールを掃除しようと学校側が思い立ったのだから当たり前だろう。……あ、魚が跳ねた。
物凄く嫌そうな顔をする撃退士達を見ながら、監督役として来ていた魚住 衣月(jz0174) は点呼確認をし終えて困った顔をする。
「み、皆さん〜……。は、張り切って掃除するのですよぉ〜……!」
ちなみに25名中24名が参加しており、静馬 源一(
jb2368)はどうやら事情があったのか来なかった。
そんな衣月はこんな暑い日にも関わらず羽織った青色パーカーのチャックを完全に上げ、下に着ている物を見えない様にしていた。
きっと事前に喫茶店で行った投票結果の水着を用意させられたのだろう……合掌。
そう思うが悲しいけど時間は過ぎて行き、プール掃除の時間はもう直ぐそこまで近づいているのだ。
洗眼場の前にはデッキブラシとタワシ、バケツが数十個と科学部謹製の洗剤が用意されていた。
そこまで用意されているとなると、もう逃げる訳にはいかなかった……。
露となっているプールの壁は凄く……藻緑色だった。
●プールでだって俺達は生きてるんだ!
「えっとぉ〜……、先にバケツにプールの中の生物を避けてくださいぃ〜……」
足首ほどまで水の抜かれたプールからは藻緑の壁が見え、残った水の中を何かが泳ぐのが見えた。
何というか残った水も長く放置された上に泥や藻で汚れており、どんな生物が居るかも分からない上に下手をすれば踏み潰しかねなかったりした。
そんな所に足を入れたくなんか無い! むしろ洗剤をぶちまけて、生態系がどうなろうと知った事か!! と言った具合にやれたらどんなに良いだろう。
だけど、虫や魚も生きているのだ。自分達の勝手で殺したりなんかしてはいけない。
と思っていた矢先、プールサイドを見るとスク水姿のシェリア・ロウ・ド・ロンド(
jb3671)が洗剤をドバドバかけ流していた。
「汚い……汚い……嗚呼、穢らわしい!」
「な、何をしてるんですかぁ〜……!」
気づいた衣月が慌てながらシェリアに近づき、眼が据わってるのに恐怖しながらも頑張って止める。
けれど洗剤はもう大量にプールの中に入り込み生態系は崩れさって……いなかった。
むしろキッチン洗剤のCM宜しく、洗剤が藻水をどかすようにして行き、中の生態系が判り易くなっていた。
あまりの綺麗っぷりに洗剤に何かやばい成分でも入ってるのではないかと不安になる……どんなの創ったんだよ科学部!?
一方衣月は衣月で、垂れた洗剤をまじまじ見つめて水に垂らして反応を見て……納得した顔をする。
「え、えっとぉ〜……洗剤は危険な物じゃないので、入っても大丈夫ですよぉ〜……ですので、お願いしますよぉ〜……」
何を如何納得したのかは解らない、だけど彼女は理解したのだろう。
まさかアレを創れるだなんてぇ〜……。と呟く衣月を他所に、踏む心配が無くなったプールへと虫取りや魚取りを開始する勇気ある者達が現れた。
……と言うよりも、捕らなければ先に進めないのだ。
蒸姫 ギア(
jb4049)がプールに来た時、どんな物を着ればいいのか良く分からず衣月の着ている物を指差していた。
「人界の学校では、すくーる水着を着る風習があるってギア知ってるから……あれと同じ水着で」
購買の人にそう頼み、用意してもらった水着を着てギアはプールに降り立った。そう……、女性用のスクール水着を着て!!
一部出る所が出ている水着を着た状態で周囲の視線をある意味釘付けにし、彼はデッキブラシ片手にプールに入る。
それを使って生態系を掃除しようとしているようだ。せめて回収してあげようよ……デッキブラシで擦ったら可哀想だよぉ。
そんな時、ギアの体がびくりと震え、足元をキョロキョロと見回した。
「いっ、今ギアの足を何か……って、ギア吃驚なんかしてないんだからなっ!」
誰かに見られているかと思い、ギアはツンツンしながらそっぽを向く。
そんな彼におっかなびっくりと衣月が問い掛ける。
「あ、あのぉ〜……、何で女性用のスクール水着を着てるのですかぁ〜……?」
その言葉にギアはキョトンとした風になる。どうやら間違っていないと思っているからだ……だが、辺りを見回しようやく自分が間違っている事に気づくと彼は顔を真っ赤にし、慌てて自分の体を手で隠した。
「ギア、勘違いなんかしていないんだからなっ」
そう言って、ギアは慌ててプールを飛び出すと更衣室へと逃げ込むのだった。
「お魚さ〜ん、今助けるよ〜」
濃紺のスク水に未成熟の体を包み込んだ深森 木葉(
jb1711)が大きなバケツと自前で持ってきた虫取り網を手にプールの中に足を入れる。
すると近くを泳いでいたメダカの大群が蜘蛛の子を散らす様にして一気に逃げていく。
それらを木葉は楽しそうに追いかけ、プールの中を駆け回っていく。
「ふむ。様々な生物が居るものですね」
ゆっくりとした足取りでボディラインが判る競泳タイプのスク水で成熟した肉体を包むミズカ・カゲツ(
jb5543)が木葉を追いかけながら、網を使いプールの中を掬ってバケツに入った生物を見て感心する。
メダカや御玉杓子、アメンボやヤゴがバケツの中で動く。
そんな時、ヌルリとした苔に足を滑らせて木葉が頭から倒れそうになる。
「あうっ!? ……あれ?」
頭をぶつける事を覚悟し、眼を閉じていた木葉だったが予想に反して頭に当たったのは柔らかい感触だった。
「木葉、夢中になるのは分かりますが、気を付けないと危険ですよ」
「あ、ありがとう〜。えへへっ、ちょっと張り切りすぎちゃったね〜。うん、気をつけるよ〜」
ミズカに助けられた事に感謝し、木葉は今度はゆっくりと魚を捕り始めるのだった。
「……うにゃぁ。なんか、ぐちょってする……」
半袖のTシャツとホットパンツに猫耳帽な格好の草薙 胡桃(
ja2617)がプールに入るが、群生する藻が足の隙間を縫う様に胡桃に不快感を与える。
それを我慢しながら、手をプールの中に入れると近くを泳ぐ巨大なオタマジャクシを捕まえた。
普通に見る大きさのよりも10倍近い大きさだった……ウシガエルになるのだろう。
ヌルヌルした感触を感じながら、水を入れたバケツの中に入れると胡桃は作業を続ける。
「わひゃ!? 服の中に入ったらめーなのだー!?」
「……楽しそうだなぁ……」
はしゃぎながら、虫や魚を捕まえる焔・楓(
ja7214)を見ながら胡桃は呆れつつも呟く。
「き、聞こえない……私は何も聞こえないー!」
一方で、完全に虫が苦手な菊開 すみれ(
ja6392)は隅っこで体育座りをしながらグラウンドの方を見ていた。
そんな時、事件は起きた。楓が捕った水蟷螂が勢い余って彼女の手から飛んで行き、すみれの背中に付いたのだ。
「おねーさん、ごめんなのだー。背中に付いた虫を捕って欲しいのだー」
「……え? い、いやぁぁああああぁぁ!!」
恐る恐る背中を触ると、すみれの手にぶつかるのは細長い水蟷螂の腕。
直後、悲鳴を上げて立ち上がると、すみれはその場で暴れ回る。
揺れに耐えれず、背中の水蟷螂は飛んで行くが気づいていない様だ。
「な、何て事するの!?」
「……落ち着いて、不慮の事故だから……」
ワザとではないにせよ、怖かったのか涙顔で彼女は楓を睨む。
そんな彼女を止める為に胡桃が間に立ち、抑えるのだった。
(……流石に、これを女の子にやらせる訳にはいかないし、な)
3人の女性に見守られながら、ドニー・レイド(
ja0470)は薄汚れた水の中に手を突っ込み、身動きを取らない虫を見つけると捕まえてバケツの中に入れる。
「ドニー、頑張ってね」
デッキブラシを抱く様に持ち、しゃがみ込んだカルラ=空木=クローシェ(
ja0471)がプールサイドから応援をする。
隣では恵夢・S・インファネス(
ja8446)がホースを手に、体操服の一部分を引き伸ばす作業を肉体的に行っていた。
反対側ではカルラに抱き付いたビキニ姿のカレン・ラグネリア(
jb3482)が猫可愛がりしていた。
「消火栓とかさー、水圧強いの使えねーの?」
「普通の水圧で我慢です」
「簡単に放水して終わりで良いんじゃない? そうじとかなーなーですよ、JKは」
ホースを持ちながら恵夢は言う。そんな彼女達の会話を聞きながら、ドニーはバケツを変える為に立ち上がる。
だが彼は気づいてしまった。中腰で立ち上がろうとする角度がプールサイドでしゃがむ3人の水着で覆われた股間や胸が良く見えてしまうという事に……。
ドニーは顔を赤くし、しゃがみ込むと心を無にしながら今見えた物を忘れようとするのだった。
「話に聞いてはいても、こうして間近で見たり触ったりするのは初めてなんだよねー」
そう言いながらクリフ・ロジャーズ(
jb2560)は手網を使い、プールの中を泳ぐ生物を捕まえてバケツの中に入れる。
隣では体操服姿のシエロ=ヴェルガ(
jb2679)が綺麗な水が入った水槽をクリフの前に置いていた。
「私も初めてなんだけど……! クリフ、魚と亀はケースか水槽に入れて」
「了解っと、この亀でかいな」
言いながら自分の掌ほどある亀をクリフは水槽に入れる。
近くではアダム(
jb2614)がオタマジャクシを手に乗せて意思疎通を行っていた。
「おたま、おたま……聞こえるか? いま、お前の心に直接語りかけている……そんなちっちゃいお手手じゃ大変だけど、強く生きるんだぞ……」
「……何て言ってるか、解った?」
彼の頭をポフポフしながらクリフは問い掛ける。すると、アダムは真面目な顔をする。
「こいつはこいつで強く生きていくらしい……って、おおお? こいつは何て言うんだ?」
バケツの中に入ってる生物に興味を示し、ヤゴを指差す。
ちなみに持っていたオタマジャクシはシエロに差し出していた。
「っ! このオタマジャクシ手足が生えてる……!」
初めて見たからなのか、驚き方が凄かった。
それを見ながらクリフがシエロからオタマジャクシを取るとバケツの中へといれる。
「しーちゃん、苦手な生物は俺がすくって入れるから無理しないでね?」
「ありがとう、クリフ。でも、私も頑張るわよ……ってアダム何してるの!?」
「これは……いちごみるくのもとか? って、何をするんだシエロ!」
クリフとシエロが話をしていると、アダムが洗剤の蓋を開けて中の液体を見て……何を思ったのか口に入れてみようとする。
だが、それに気づいたシエロが間一髪で止め、洗剤を奪い取る。
「これは食べ物じゃないの! 何でも口に入れない!!」
「む、わ……分かった」
シエロに怒られ、アダムはしょんぼりするのだった。
それを見ながらクリフは掃除が終わったら苺ミルクを飲ませてあげようと思うのだった。
デッキブラシにバケツをぶら下げ、物凄く不安定なタモモドキを創ったジズ(
jb4789)は自分の周囲の水中に入れて、その場で回ってみた。
回るにつれ手に来る重みは徐々に増えて行き、回り終えるとバケツは重くなっていた。
バケツの中を見ると、藻に混じってメダカやタガメ、ゲンゴロウが見えた。
しかしそれらが何であるか解らないジズは持っていた図鑑を開き、どんな生物かを調べ始めた。
「小さいのに強い、ん。固い。防御重点か?」
「んー? ジズ、何やってんの?」
鼻歌交じりで藻をバケツに集めていた虚神 イスラ(
jb4729)がジズのやっている行為に気づき、近づく。
「まさか持って帰って飼うつもりとかじゃないよね……」
「いや、後日周辺の各池や自然地帯に分配して放流するつもりだ」
「自然に放すんだ。ジズってば優しーい♪」
笑いながら、イスラは捕まえた小亀をジズの頭に乗せると、藻を取り続けていく。
時折藻を見ると、粒々の物が見え首を傾げるが……メダカの卵なのかも知れない。
「足があるのに。泳ぐ、半……透明。これは何だ?」
「んー、ジズ何か見つけたのか?」
不思議がるジズの声を聞きながら、イスラは振り返ろうとした。
だが、足元は予想以上に滑り易くなっており、イスラは足を滑らせ水の中へとすっ転んでしまった。
「うわっ!? っと……ちょ、服の中に何か入ったぁぁ!?」
ぐしょ濡れになったイスラは直ぐにジズへと走り寄ると彼の服を引っ張り、背中を見せて自らのTシャツを広げて見せたた。
「ジズ、早く取ってくれよーっ!」
軽く溜息を吐きながら、ジズはイスラを助けるのだった。
●磨いて、プール
大体の藻や生物を取り除き終え、プールの中には殆ど生物は居なくなったのを確認し、残りの水を流す作業が始まった。
排水溝に吸い込まれる音を聞きながら、濃紺色の旧スク水で小さな体を包んだ東風谷映姫(
jb4067)は虫や魚や亀などが入ったバケツが置かれた所を見る。
「すごい数ですね……」
「プール内の生物も取ったし後は、プール掃除だけよね。さあ、張り切っていくわよ!」
隣に立つグレイシア・明守華=ピークス(
jb5092)がTシャツ越しに胸を張り、デッキブラシを掴む。
プールは殆ど水が抜かれていき、足裏に少し浸るくらいの量しか残ってはいなかった。
プールの中に入ると明守華は自分が選んだ場所へと歩き、その場に立つと……デッキブラシを構えた。
直後、彼女は底にデッキブラシを走らせた。すると、底にこびり付いていた青緑色の苔が少し削れていった。
「元々のプールの色ってこんな色だったのね」
驚いた顔をしながら、青緑色の下から見える空色を見て明守華は呟く。
隣では映姫がデッキブラシを手に持ち、勢い良く滑る様に一直線に突き進んでいく。
押し込む様にして進んでいるからか、底の苔は削れて行くが……綺麗には取りきれてはいなかった。
「きゃ!? いたた……。結構痛いですね」
そして、そんな仕方だとこけてしまうのも当たり前で、巴投げの様に映姫は一回転してお尻を打った。
そんな映姫へと明守華は怒る。
「あんたねぇ……滑り易いのにわざわざ走るんじゃないわよ! 誰かにぶつかる可能性もあったんだからね!」
「ごめんなさいです……」
反省したのか、映姫は再び走り出す事は無く……一生懸命力を込めて、少しずつ磨く様に底を擦るのだった。
洗剤を自分の周囲にばら撒き、月乃宮 恋音(
jb1221)はデッキブラシで底を磨き始めた。
ゴシゴシする度に洗剤が泡立ち、底にこびり付く汚れを洗い流していく。
「……うん……しょ、うん、っしょ……」
デッキブラシを動かす度に大き目のTシャツの下の爆弾は上下左右にビッグバンを行い、ブルンブルンと揺れる。
その光景はあっち系でない薄着の男子にはある意味眼の毒であったりする。
「さて、今回は一体何が起こるのやら、油断しないでプール掃除しますよ! さあ、月乃宮さん。僕は何をすればいいでしょうか?!」
スク水姿の袋井 雅人(
jb1469)がポーズを取って恋音に訊ねる。
ちなみに彼の穿いているスク水は男性用です。男性用……だよね? 男性……用? そう信じておこう。
「……えっとぉ……じゃあ、タワシで磨き難い所を磨いてくださぃ……」
「わかりました! うおおぉぉぉぉおおぉぉっ!!」
恋音の指示に雅人は頷き、跪くと両手に持ったタワシで一心不乱に底を磨き始めた。
それを見ている限りは今回は目立った様なハプニングは起きる事は無いだろう。そう恋音は考えながら、デッキブラシで周囲を磨く。
だけど、それは幻想でしかなくハプニングは……起きた。
「うおおぉーーって、足っ!?」
「あうっ!? あいたた、た……」
雅人の叫びと共に足に何かがぶつかり、恋音は巻き込まれてしまった。
何が起きたのかと眼を開けると、特に何もな……いや、何かお尻の下でモゴモゴとする声が聞こえた。
下を恐る恐る見ると、お尻で潰す形で雅人がいた。
「もご、もごもごも――」
「え……ひゃ、ひゃん!? ふ、袋井先ぱ――も、もごもごしない……で、くださ……いぃっ!?」
お尻に潰されている為か、声は聞き取れず雅人はもがきながら、手をバタバタさせて丁度掴み易かった2つの双丘を掴んだ。
直後、恋音の悲鳴が木霊した。
「これ、まさか水着に掛かったらそれを溶かしたりなんて……しないわよね?」
科学部提供という言葉に一抹の不安を感じながら藍 星露(
ja5127)は呟く。
ちなみに彼女が動く度に身に着けた指定水着が肩に大きく食い込む。……良く見ると、胸や尻の辺りも物凄く食い込んでいた。
どうやら着ている水着は去年の物らしく、1年の成長は星露を格段にボンキュボンとなり……水着は小さくなったのだ。
「んっ、ちょっときついけど……着れない訳じゃないものね」
そう言いながら、彼女はタワシを手に隅の方に洗剤を垂らしゴシゴシと磨く。
四つん這いになって行う作業の為、お尻を周囲に向けているが……その度に彼女の尻に水着が食い込んでいき、きつくなって来た所で軽く背を伸ばしながら直していた。
何というかおとなむけびでおに出てきそうなシチュエーションですね。
「ダッシュ&ダーッシュ!」
洗剤を混ぜた水で濡らしたモップを手に下妻ユーカリ(
ja0593)がプールの壁を走って行く。
その彼女の進路を照らす様に黒百合が咲き誇り、ユーカリが過ぎ去ると共に花を舞い散らしていった。
それらは幻影なのだが、彼女の過ぎ去った後は空色のプールの壁が見えていた。
端から端へと走り終えると彼女は近くに置いておいた洗剤入りのバケツにモップを突っ込み……上下に勢い良く動かしていく。
すると、先程まで汚れていたモップから汚れが落ちて綺麗になり、ユーカリは再び走り出した。
「普通にやると意外とモップがけが難しいし、忍軍の出番かなーっと」
鼻歌交じりに言いながら、彼女は壁を綺麗にしていく。往復を終え、最後の一周を行う為に壁を駆け出した。
半分を越え、ゴールに辿り着く……そんな時にユーカリの足は壁から離れた。どうやら10分間は過ぎてしまった様だ。
「うわっ!? た、ちょあーっ!?」
ドスンバシャンという音と共に、彼女の体は床に落ちた。
ヒリヒリするお尻と背中を擦りながら、ユーカリは立ち上がろうとする。
「うわー……ミスったよ。10分過ぎてたなん――てぶぁっ!?」
そんな彼女の頭上へとぶつかって舞い上がったバケツが落下してきた。
結果、ユーカリは頭から汚くなった水を被る事となったのだった。
「濡れるのは分かってたけど、これで濡れるなんて思って無かったよ」
水に濡れて体操着が肌に張り付き、薄っすらと透けて見えるのは彼女の素肌や下着……ではなく、指定水着だった。
ボディラインがくっきりと分かり、天然の淫靡さを醸し出している様であった。
「っと、残りの壁も磨かないとね」
そう言いながら、彼女はモップを持ち直すのであった。
「さあ! さっさと終わらせてしまおうではないか!!」
エナメル素材のブーメランタイプの水着が艶を出し、上半身に白いTシャツを着たラグナ・グラウシード(
ja3538)が片手を上げてやる気を声に出す。
そして、そのままラグナは黙々と底を磨く作業を開始する。……が、何というかそのあからさま過ぎる態度が逆に怪しかった。
(早くプール掃除を終わらせる事が出来たなら、その分多くの時間を水着姿のお姉ちゃん達を拝めるチャンス!!)
「って、ち、違うぞ!? 私は単に、泳ぐのが好きなだけだからな!」
自分の心の声を否定する様に彼はそう言いながら、全力でデッキブラシを動かす。
そんなラグナを見ている女子が……いた。
(あの人って若杉くんのお友達のラグナさん……? ふふっ、エネルギッシュな人だな)
張り切るラグナを見ながら春名 璃世(
ja8279)はクスクスと笑う。
そしてあんなにも張り切ってる友達の友達が居るのだから自分も頑張らないとと思い、璃世はデッキブラシで底を磨く。
撒き散らした洗剤が底を擦る度に泡立ち、凄い泡が溢れていく。
「すごいボリュームだけど綺麗になりそうだし、まいっか♪」
どうにもマイペースのようだった。そして暫く磨くと璃世はホースを掴む、ノズルを回転させる事で用途が変わるタイプの物だ。
彼女は引金を引くと、直射にした水が発射され……なかった。
「水が出てこない……詰まってるのかな?」
首を傾げながら璃世はグルグルとノズルを回してみるが水がまったく出てこない。試しに覗き込んでみた瞬間、誰かが踏んでいたのか、勢い良く直射で水が噴出してきた。
だがすんでの所で彼女は避け、ホースの口を自分から遠ざけた。そして水はラグナへと命中した。
「ぐ、ぐはっ!?」
「きゃっ! だ、大丈夫ですか!?」
慌てながら璃世がノズルを回して直射を放射に切り替えて、ホースをラグナからずらす為に上に上げた。
結果、水が雨の様に降り注ぎ、璃世の体を濡らした。
「びっくりした……ご、ゴメンなさいっ!」
「いや、別に気にしなくても良いぞ」
「そうですか……えっと、このままだと風邪引いちゃうし、一緒に水着になっちゃおうか?」
恥かしがりながら璃世は言い、濡れて肌に張り付いた体操服を脱ぎ、スク水を露わにする。
やったねラグナくん。君の好きな水着だよ! とか思ってると、期待してた本人は顔を赤らめ目線を逸らすのだった。
「ふふふ……太陽の反射光で火傷するくらいピッカピカにして差し上げます事よ……」
大の虫嫌いだったシェリアだが、虫が居なくなったプールは彼女にとっては戦いの場所であった。
今までの鬱憤を晴らすべく、デッキブラシを構えるとシェリアは隅にそれを当てると力を入れて磨き始めた。
その近くでは胡桃がタワシで壁を擦っており、綺麗になっていくのを見て満足そうである。
「綺麗になっていくです」
一方で虫が居なくなったプールの中ですみれがタワシを手に掃除を行っていた。
「今まで震えてた分を取り戻すよー」
鼻歌を歌いながらゴシゴシと底を磨き、跪いた状態から見える陽に焼けていない白い太ももが艶かしかった。
そんな時、突然強めの水が彼女に体に当たった。驚いて水が来た方向を見ると楓が楽しそうに汚れた部分に水を直射で当てていた。
「あわあわ〜どんどん飛ばすのだ〜♪」
楽しそうに壁や底に水をかけると、汚れが洗い流されて行き空色が見え始める。
そんな楽しい様子を見ていると怒るに怒れなくなり、すみれは複雑そうな顔をしながら、濡れた体操服から透ける下着を腕で隠した。
ある程度掃除が終わった頃、掃除をなーなーにしていた恵夢とカレンは銃を構えるかのようにホースを構える。
「水圧強けりゃ、ミスって恵夢やカルラとかに水掛かっても仕方ネーヨナー」
「JKは遊びたい盛りですよ。JKは」
そんな2人に関わるまいとドニーはプールサイドに置かれた虫や魚とかの入ったバケツを日陰へと移動させていく。
力仕事をドニーに任せ、カルラはデッキブラシで底を磨いていく。
「まだあるけど、ドニーお願いね?」
「分かってるよカルラ。こっちは良いから、お前は皆さんとそっちやっとけ」
言いながら、恵夢とカレンを見るが……水鉄砲の打ち合いの真っ最中だった。
2人とも水が命中し合ったり滑り転んだりして体操服が濡れ、体のラインが浮き彫りとなっていた。
何をしているのかと思いながら、カルラが呆れた溜息を吐いた瞬間……2人のホースの矛先が彼女へと向けられた。
「きゃっ!?」
「うわっと、カルラ大丈……ぶっ!」
心配してそっちを向いたドニーだったが驚きながら、直ぐにそっぽを向いた。
見ると体操服が肌に張り付き、下に着た水着が浮き彫りとなっていた。
「……ドニーの、エッチ」
頬を軽く染めながら、カルラはドニーから体を隠した。
●報酬は夕暮れ時に
数本のホースから水が放たれ、壁や隅に残った汚れと洗剤の泡は流され行き、排水溝を中心に渦を描きながらそれらは音を立てて流されていく。
開始するまで藻緑色だったプールは今やすっかり空色になり、彼らの苦労が伝わるかのようである。
綺麗になったプールへと放水がされ始め、激しい水音を立てながら水が溜まり始めていく。
その間に捕まえた虫や魚が入ったバケツを何名かで生物部に持って行く者達。
外来種ではないものを近くの川へと放流する者。
日に当たりすぎて陽射しから隠れて涼を取る者。
思い思いの行動を行い、時間は過ぎて行き……夕陽が赤く水面を照らす頃にようやくプールに水が溜まった。
そしてその中へと塩素剤が投げ込まれる。こうして掃除は終わり、報酬としての……初めてのプールを堪能する時間がやって来た!
「初プールなのだ♪ 思いっきり泳ぐのだ〜♪」
スクール水着に着替えた楓が駆け出し、プールへと飛び込む。
激しい水飛沫を上げ、暫くすると浮かび上がり元気に泳ぎ始めた。
幼いからまだ出るとこは出ていない為、凄く軽い様だ。
一方でプールサイドに立つシェリアはゆっくりと爪先からプールの中へと沈んで行き、側に置いたレモン色のビート板を手に取る。
「確か、本で読んだ限りだとこうやるのでしたわね!」
教本に書かれていた事を思い出しながら、シェリアはビート板を持ちながらバタ足を開始した。
バシャバシャと泳ぎながら、彼女の体は徐々に――水の中に沈んでいった。
「ブクブクブク……ぶはっ! ど、どうなっていますの!?」
泳ぎ方もフォームも完璧のはず、それなのに何故自分は泳ぐ事が出来ないのか!
悩みながらもシェリアはバタ足を続け……あ、溺れた。
「がばごぼがば、な……何故ですのーっ!?」
きっと彼女は泳げる計算に、自分がカナヅチである事を入れていなかったのだろう。
プールのスタート台に肘を預けて素足をプールに浸しながら、胡桃はのんびりとそれを見ていた。
「……泳がないけど、見てたら見てたで楽しいなぁ……」
ちなみに彼女は泳げないのではなく、肌を見せるのが嫌なので……泳がないのだ。
楽しく元気に泳ぐ楓、暴れて溺れるシェリア、そんな彼女達を見ながら胡桃はのんびりと過ごすのだった。
浮き輪に捕まりながら木葉がプカプカとプールを漂う。
その浮き輪に捕まりながら、ミズカもプールを漂う。
「あの状態だったプールが、良く此処まで綺麗になりましたね」
透明になった水を軽く撫でながら彼女は言う、頑張ったから当たり前だろう。
「ミズカちゃん、水が冷たくて気持ちいいね〜」
火照った2人の体をプールの冷たい水が程好く冷まして行き、ゆったりとした気分にしていく。
プカプカとした水の感触を味わいながら、ミズカの尻尾はへにょんとする。
「えぇ、連日暑い日が続いていましたし、心地良いです」
そのままプカプカと何処までも入れる事が出来れば最高だっただろうと思い始めた頃、木葉が手を動かしてプールを移動する水上バスごっこを始めるのだった。
赤い双子島がプール上を彷徨っていく。……いや、良く見ると赤いビキニ姿のすみれが水面を漂っているようだ。
漂いながら時折自分の近くを通っていく女性の水着をこっそりとチェックしていく。
水に濡れた為、よりピッチリと過激な状態になった星露の学校指定水着。
ユーカリも同じ学校指定水着だが自分の色を現す黒と黄のワッペンが胸の辺りにアップリケされていた。
他の子達も学校指定水着が多いが、ビキニ等も少なからず居た。
(うん、やっぱり私も新しい水着を買おうかな……)
少し羨ましがりながら、すみれはビキニの肩紐をころころ弄ぶ。
その時、彼女に笑いの神が光臨していたのかビキニの首の紐が解けてしまった。
だがそれに気づかずにすみれは漂っているとよく見かけた赤いビキニが自分の横を流れていくのを見た。
(何処かで見たようなビキニが流れていくわね……って、それ私のっ!?)
慌てて起き上がり、頭だけを水から上げていそいそとビキニを掴むと急いで付けるのだった。
そして、唯一の救いは……夕陽が水面に反射して、すみれのあられもない姿が見えなかった事だろう。
浮き輪の輪の中に入り、映姫はプールをゆっくりと泳いでいた。
前に進んだり、壁を軽く蹴ってそのまま流れていったり、クルクルと回転してみたりと浮き輪だけでも色々と楽しんでいく。
そんな彼女の視界が明守華を捉え、ゆっくりと近づき……両手で水を掬うと、彼女にかけた。
「わぷっ!? 映姫、何すんのよ!」
「油断してたらいけませんよ☆」
笑う映姫をお返しに浮き輪から引っこ抜いてお仕置きをする為に明守華は動くのだった。
「み、水に顔なんてそんなハードなっ……!」
恵夢に手を繋いでもらいながら、カルラは驚愕の表情で抗議する。
あえてそれを聞かないようにしながら恵夢は後ろに後退し始める。
「大丈夫、体の力を抜いたら浮くから心配しないで」
「無理なものは無理です!」
そう言ってカルラは頑として動こうとはしない。
そんな彼女を心配そうに見ながらドニーは近くを泳ぐ。と、そんな彼の視界がカルラに近づく飛来物を視認した。
「カールーラー!」
「はっ、あれはカレン亜種!」
翼を羽ばたかせて空から奇襲してきたカレンだ!
圧しかかってきたカレンに突然の事で対処できずに…というか恵夢が手を離さないで逃げるのを遅らせたのだった。
「に”ゃあああぁっ!?」
激しい水飛沫と悲鳴を上げながら2人の体は水の中へと沈む。……何か水面をビキニが漂うが気にしないでおこう。
それよりもバタバタするカルラを助けるのが先決だと慌てながらドニーは近づく。
暴れる彼女の手を掴むと力を込めて水面から彼女を引き抜く。
「掴まれ。水苦手なんだから、無理すんな」
「ぁ、う……ご、ごめん。ありが――っっ!!」
何かに気づき、カルラはビクッと震えると共にドニーの体に力強く抱きついた。
いきなりの事でドキッとしたドニーは高鳴る鼓動を気づかれない様に努力する。
「……そんなにくっつくな、照れる」
「ち、違うの……その、水着が……」
ビキニが流れてしまった少女が間近で潜ったとしても気づかれてしまうだろう……だったら、周りから見えないようにする方法はただ一つしかない。
そう、誰かに力いっぱい抱きついて気づかれない様にする方法だ。
「水棲カレンちゃん捕獲ゲットーっ!」
遠くで恵夢がカレンの胸を鷲掴みにして、対抗する様にカレンも恵夢の胸をもみもみ見ているのが遠くの光景の様に思えた……。
「ぷぁーー!! おーい、ジズーお前も来いよー!」
プールサイドから豪快に飛び込み、水中に頭まで沈めたままジッとしていたイスラは一気に水面に顔を出して楽しそうに笑い、ジズを中に誘う。
「アレは蟹だったのか。じゃあ、あの足があるのに泳いでいた物は何だったんだろうか……?」
一方ジズはスラックスを虫取りの時よりも折り曲げ、プールの中に足を入れ涼を取りながら……水辺の生物図鑑を読んでいた。
どうやら先程まで捕まえていた生物がどんな物だったのかまだ気になっているようだ。
だがそれがイスラには気に入らなかったらしい。
「ジズ、プールに来たなら泳がないといけないのが当たり前だよ。ほら、お前も遊ぼう――ぜっ!」
「……イスラ、図鑑がびしょ濡れだ。おまけに服もびしょ濡れだ」
髪から水を垂らしながら、水をかけたイスラをジッと見つめる。
「わ、悪かったって、でもお前もプールなんだから泳ごうぜ」
合わせた手を前に出し、イスラがジズに謝ると軽く息を吐きながらジズは図鑑を閉じた。
怒ったのかとイスラは少し驚くが、どうやら違うようだ。
「この格好でも良いなら泳ぐが良いんだな?」
「良いと思うから来いよ!」
手を広げて迎えるイスラへとジズは助走をつけて飛び出すのだった。
「……ふぅ、火照りが冷めますねぇ……」
水に濡れた大きなTシャツがプカプカと恋音の周辺を漂い、彼女の弾けんばかりのおっぱいを隠してくれる。
その隣では衣月がやっぱりパーカーを脱がないまま、プールサイドに座り足をプールにつけていた。
「み、皆さんが頑張ったからですよぉ〜……」
そんな感じの話をしていると隅に流れ着いた雅人が雑談に混じる。
「お疲れ様でした、月乃宮さん。魚住さんも監督役ご苦労様です」
「あ……ふ、袋井先輩もお疲れ様ですよぉ……」
先程の事を思い出したのか、恋音は顔を赤らめて隅の方へと後退していく。
まあ、お尻と顔がごっつんこしたのだから当たり前だろう。
「逃げなくても僕は何もしませんよー、ははは」
警戒する相手を怯えさせない様に笑いかけながら、雅人は両手を広げて近づく。
だがそこで事件は再び起きた。誰かが水中を泳いでいたのか、雅人の膝裏とぶつかり……かっくんとしてしまった。
一気に抜けた足の力と水の揺らめきが後押しし、彼を恋音へと近づける。
そして、雅人は恋音へと偶然にも近づく事が出来た。いや、近づき過ぎていた。
「ふう、助かりました。こんな所に偶然にも巨大なクッションがあるだなんて……ん?」
顔を埋めるクッションは温かく、マシュマロみたいに柔らかかった。
そして、そのマシュマロクッションの上から長い黒髪が垂れていた。
まあ、要するに恋音のおっぱいクッションな訳です。はい。
「……ふ、袋井先輩。今度は何もしないって言ってたのにぃ……」
「や、違うんだ! この凄いマシュマロは堪能したいけど、これは決して疚しい気持ちでやった訳じゃないんだ! 信じてくれおっぱい!!」
「え、えっとぉ〜……胸を触りながら言うのは説得力が無いと思うのですよぉ〜……」
衣月の言葉に気づき、雅人は胸から手をどける。直後、恋音の悲鳴が炸裂したのだった。
「くく……やはり、夏はいいな!」
水着美女達を見ながら、ラグナは自称爽やかな笑みを浮かべる。
ちなみに自称と言うのは、本人は顔を引き締めているつもりなのだが、若干鼻の下が伸びた爽やかスマイルだったりする。
そんなラグナにクーラーボックスを手に持った璃世が近づく。
「お疲れ様、ラグナさん。手作りアイスキャンディーどうですか?」
「え、あ……ありがとう。それじゃあ……このソーダ味を貰おうか」
スク水姿の璃世から目を逸らしながら、ラグナはソーダ味のアイスキャンディーを掴む。
受け取るのを確認し、璃世は別の人にもあげるべくその場を離れて行った。
去って行く彼女のスク水のお尻辺りの喰い込みから来るはみ尻を見たり、プール内で時折起こるポロリを見ながらラグナはアイスキャンディーを口にする。
「くく、何度も言うが……やはり、夏はい――あ、鼻血が」
エロスの許容量を越え、ラグナの鼻から血が零れ出した。
爽やかなソーダ味のアイスキャンディーと共に錆びた鉄の味が口に広がりながら、ラグナは夏を感じるのだった。
●おまけの報告
「無事にプール掃除終わりましたですよぉ〜……」
夜、喫茶店に戻った衣月が勘十郎へと依頼の報告を終えると、腕を組んだ勘十郎が頷く。
眼に涙が浮かんでいる所から、物凄く行きたかったんだろうな……。
「うん、報告ありがとう。今日はお疲れだったな、魚住」
「い、いえ〜……大丈夫ですよぉ〜……」
何か嫌な予感を感じながら、衣月は後退しつつすぐにでも逃げ出そうとする準備をする。
そんな彼女へと喫茶店のマスターは笑みを作る。
「そんなお前に報酬として、夏仕様の制服を用意したから、明日からこれで4649な!」
広げたミニスカの上に肩出しで上乳が外気に晒される仕様のメイド服っぽい制服を見て、衣月の恐怖に満ちた叫びが喫茶店に木霊するのだった。
夏は開放感の季節ということだNE!