●店を探して
夕方の歓楽街に撃退士達は立っていた。
時刻はあと2時間もすれば空は暗くなって夜となるだろう。
「よし、それじゃあ手分けして探すとするか」
大城・博志(
ja0179)の合図と共に、彼らは頷くと手分けしてクラブを探す為に行動を開始した。
「ねえ、きみ。この地図の場所を知らないだろうか?」
呼び込みをしているホステス達に長成 槍樹(
ja0524)が地図を見せながら話しかける。
すると槍樹のイケメンっぷりに女性はキャーキャーと言って話しかけられた事を嬉しがる。
だけど、場所が分らないとホステス達は言うと、「そっか、ありがと」と言って手を振って立ち去っていく。
今度はもう少し古くからやってるバーのマスターにでも話を聞いてみるべきだろう、そう考えながら歓楽街を歩くのだった。
ちなみにその光景を電信柱の影から博志が悔しそうに見ているのは、こういうことに対しての人生経験が不足しているから羨ましいのだろう。
一方、九曜 昴(
ja0586)は歓楽街の入口にある小さな交番を訪れる。
「あの、場所を教えて欲しい……の」
着ている服装が久遠ヶ原の儀礼服なのだが、中に居た警官にはキャバ嬢のコスプレと思ったのか普通に対応をしてきた。
ちなみにもし未成年だと知られても、任務で来ていると言えば何とかなる。そう昴は思っている。
そして、出した地図を見た警官はこの周辺の地図本を取り出すと広げて昴に見せる。
入り組んだ道ではあるが、目印を覚えたら行ける道だと警官は言う。
だが廃墟となっている場所に何か用があるのかと不思議がられると、少し慌てながら昴は立ち上がる。
「ど、どうもありがとう……なの」
警官にお礼を言うと、昴は交番を離れるとすぐに携帯電話を取り出し、仲間にメールを送る。
すると、一番最初に藍 星露(
ja5127)から返信が届き、開くと『位置情報検索サービス』と目印を使って探してみる事を促す内容だった。
そしてすぐにその方法を行うと言う仲間達からのメールが届き、それらの方法を使って潰れたクラブへの移動を開始した。
30分後、大体の目安を付けて移動をしていたが……道を間違えかけ迷子になりかけた蔵九 月秋(
ja1016)と合流し、現場へと到着。
「お待たせ……なの」
「お前ら、待たせたな」
そう言って店の前で待つ仲間達に挨拶すると、他の仲間の到着を待ちその場に立つ。
「お待たせしま――じゃなくて、悪い悪い、遅れちまった」
それから少し遅れて、チャラい系の服装での男装をした妃宮 千早(
ja1526)がぎこちなくも頑張って外見通りの口調をしながら到着する。
そして、全員がクラブの入口に辿り着いた頃には辺りは暗くなっていた。
●妖艶のステージ
博志、千早、昴が店の中へと入ると、色取り取りのライトが照らされ……さながら淫靡な光が店内を照らし、咽るほどの甘ったるい香水の……まるで女を体現した香りが充満していた。
「うわ、凄いにおいだ……」
「初めて嗅ぐ臭い……なの」
「わた――オ、オレの付けてる香水なんて目じゃないぜ」
博志はげんなりとした表情をし、昴は少し興味を示し、千早は予め付けていた強めの香水の匂いが掻き消される程の匂いに驚いていた。
そしてすぐに博志は持ってきていた消臭剤の原液を含ませたマスクを口に当てる。ちなみにこれは体に良くないので、一般人は真似しないで下さい。
匂い対策をとった3人は周囲を見渡す……ステージの上のポールに色黒の美女が下着姿で淫らに踊っているのが見えた。そして、ステージ近くの席に一般人が2人座っているのを見つけた。
3人は小さく頷き合うと、一般客の席の近くへと座り込む。
(「ちょっと社会見学……なの」)
「さて、時間まで観賞するか」
「誘惑されちゃ駄目ですよ?」
そう言いながらも3人は興味津々にステージを見る。
そんな彼らに美女がウインクしたと同時に入口の扉が再び開かれ、入口で待ち構えていた月秋、星露、槍樹の3人が店内へと入ってきた。
「ほう、こんなに店があったのか」
アロマパイプを咥えながら感心した様に槍樹が中に入る、その際にこっそりと完全に閉めないようにして換気目的に軽く扉を開けておく。
そうする事で、少し中のにおいが消えていくだろう。
客が増えた事に気付いた美女が周囲を愉しませる為に、豊満な胸にポールを挟み込むと上下に動かし、その上……背中のブラジャーのホックを外した。
「ヒュ〜、いいぞー、もっとやれー」
「もっと擦り付けろー!」
いつの間にか博志の近くに座った月秋はそう言いながら、美女を囃し立てる。
ついでに博志も月秋が囃し立てるのに混ざる。一人じゃないから怖くないのだろう。
その期待に応えるように、美女は片手で胸を隠しながらもう片手を支柱にし、パンツをポールに擦り付けるようにし上下に揺する。
その淫らな行為に興奮したのか博志は目をギラギラ輝かせながら真剣にそれを見る。
一般人達も拳を握り締め真剣に見ていたが、隣の席に少女2人が座ったのに気付いた。
「ちょっとつまらないの……暇なの、一緒に遊びに……行かない?」
そう言いながら、男を誘惑する様に両腕で豊満な胸を更に強調させながら昴は上目遣いで男を見る。
反対側では星露が退屈している風に転寝をし、隣の男にしな垂れるように接近していた。
長い茶髪からシャンプーの香りが男の鼻を擽る。
だが、男達はポールダンスを見たいのと2人の誘惑の板ばさみとなりフラフラとしていた。
その証拠に星露の太股を撫でながら男はダンスを見ていた。
寝ているから気付かれないだろうと思っての行動だろうか? しかし、星露は寝返りを打つように男の耳元に近づくと……囁く様にこれを言う。
「ねえ……店を出て、あたしで遊びませんか?」
いきなりの言葉にビクリと震えた男性だったが、緑の双眸に見つめられながら綺麗な太股にゴクリと喉を鳴らす。
そして、隣では昴が男へと近づくと、男の手を掴み……自らの胸へと導く。
サイズが合わないセーラー服越しに、男の手の平に巨乳ではないが平均よりはある柔らかな感触が伝わる。
「――んっ。僕、何だか胸が熱くて……変なの、だから……外で遊んで欲しい……の」
目を潤ませながら、頬を染める昴が男を見つめる。
そして、1分も経たずに一般人達は昴と星露の肩を抱いて店を出て行った。
胸でポールをはさんで上下に動かし、太股で挟み込み抱きつくようにしながらパンツを下にずらしたり、ポールをアイスを舐めるように下から上へと舌を出して舐めたり、そんな魅惑的なポーズを取りながら美女はポールダンスを繰り広げる。
ちなみにそれを見ている者の反応も様々であった。
博志と月秋は囃し立てるようにもっとエロさを求め、槍樹は「フ、こりゃなかなかの見ものだな」と言いながら誘惑組の行動見終わった後に美女のダンスを見ており、千早に至ってはやはり恥ずかしいのか顔を真っ赤にしてあわあわしている。
そんな中、不意にステージを隠すようにしてカーテンが下ろされた。
それにより、彼らは心の中で思う。遂に来た……と。
「ここから先は入場料が必要よ」
その言葉に反応するようにして博志が立ち上がると……。
「俺が一番だーーっ!」
そう叫びながら博志は気を引き締めて走っていく、その表情は物凄く嬉しそうに。
カーテンを潜り抜けると即座に美女が博へと抱き付く。
ぽよんぽよんの2つの双丘が博志の胸板へと当たる。極楽に上りそうなくらいに……柔らかかった。
(「鷹師匠の本とAVとエロゲで培った成果よ! この場を凌ぎ切らせてくれ……!」)
柔らかい感触に唇を噛み締め、拳を強く握り締めながら博志は美女の体を負けじと抱きしめる。
「あら、我慢強いのは嫌いじゃないわよ」
そう言いながら美女は妖艶に微笑むと抱きついたまま博志の首筋を舐める。
ザラザラとした感触が博志の全身を駆け巡り、ビクリと震える。
(「勝つ! 俺が攻め勝つ――って無理無理ぃ! これはやばい本当にやばい!」)
香水と汗の香りが博志の鼻を貫き、弾力のある胸が当たり、舌の感触が首筋を痺れさせる。
初めてもまだな博志には耐えるのは無理だったらしく、体から力が抜けていく。
そんな博志の首筋へと美女……否、サキュバスは牙を立てて噛み付こうとする。
しかし、その寸前に博志を蹴りステージから落す者が居た。
「ポールダンスからレ・ダンスマカブルに演目変更だ、派手に逝こうぜ!」
先程まで隣でニヤニヤしながら様子を見ていた月秋が、前へ飛び出しサキュバスの首筋へとコートに忍ばせていたダガーを振った!
だが、少しサキュバスもすぐに体を後ろに引かせた為に、首を軽く切るぐらいしか出来なかった。
「あら、過激な挨拶。そう言うのも……嫌いじゃないわよ」
そう言いながらサキュバスは首から垂れる血を指で拭い、舐める。
そこを狙うようにして光の玉が一直線に向かってくる。
「あー、痛かったぜ! けど助かったって事にしておくぜ!」
首を押さえながら、右手を構えた博志がそう言いながら敵を見る。
同時に席に座っていた槍樹と千早が立ち上がると武器を構えた。
戦いの始まりだ。
●淫魔の舞踏
月秋のダガーが横に振られると共に、千早のファルシオンが縦に振り下ろされる。
しかし、サキュバスは取り付けられたポールを支柱に回転し攻撃を回避するとそのまま背後から千早へと抱きついた。
「――きゃっ!?」
「あら、あらあら……肌がスベスベで良いわねえ」
「〜〜〜っ!?」
そう言いながら千早の頬を舐めると、千早は顔を真っ赤にし腕を後ろに振るがそれを回避する為にサキュバスは後ろへと跳んだ。
だが、そこに光の玉がサキュバスの体へと命中した。
「命中だ。効いただろう?」
「新しい刺激ね、初めてだけどこれも嫌いじゃ――」
言い終わる前に、博志も光の玉をサキュバスへと打ち出す。
その攻撃を回避しながら、わざと下着を下ろしながらサキュバスは博志を見る。
「あら、まだ遊び足りなかったの?」
「生憎とそう言うのに興味はまだまだあるんだよ!」
「でも残念、今は貴方よりもこの子に興味があるわね」
背後からダガーを手に近づいた月秋へと、サキュバスが再びポールを使い回転し背後から抱きしめると甘く淫らな匂いが月秋の脳内を満たしていく。
背後からの柔らかな感触が、黒く滑らかな指先が体を包み込み……戦意が喪失していく月秋の首筋へと牙を立てようと――。
「っっ、こういうアピールは拒みたくないけど、普通の子からされてみたいんだ!」
口の中に広がる錆鉄の味と舌の激痛を感じながら、月秋はガンベルトに掛けられたリボルバーを掴むと至近距離で撃ち出した。
室内に火薬の臭いが混ざり、サキュバスの脇腹から鮮血が零れる。
月秋の攻撃が命中したのだ。
「ぅあ……ふふ、ダンスはこれでお仕舞いよ。だから帰らせてもらうわね」
妖艶に微笑みながらサキュバスはステージを下りると、透過能力を使い壁をすり抜けて店から逃げようとする。
だが、壁をすり抜けようと近づいた瞬間、弾かれるようにして戻ってきた。
よく見ると、月秋と槍樹が阻霊陣を店の壁に押し当てているのが見えた。
透過出来ないのを知ると、表情の余裕が無くなり始めたサキュバスは扉から逃げ出そうとする。
「残念、ここは僕で通行禁止……なの」
その言葉と共に扉は開かれ、昴が構えたピストルからサキュバス目掛けて弾丸が撃ち出された。
弾丸はサキュバスの胸に命中し痛みに悲鳴が上がり、更に滑り込むようにして星露がサキュバスの懐へと近づく。
「帰る邪魔をしないで欲しいわね……!」
「あんたの帰るところなんて、何処にも無いよ!」
強引に抜けようとサキュバスは扉に向けて素早く跳ぶ。
だが、星露も逃がす気は無いのか握り締めた拳をサキュバスへと素早く打ち込んだ。
カウンター気味に放たれた一撃はサキュバスの体を後方へと弾き飛ばした。
「照準固定!」
「そろそろ終わりにさせてもらうとしようか」
博志と槍樹の2人がそう言いながら、弾き飛ぶサキュバスへと魔法を打ち出す。
「後ろいただきます!」
向かう先に千早が立っており、ファルシオンをサキュバスへと振り下ろす。
その斬撃で地面に倒れ込むサキュバスへと馬乗りするようにして月秋が跨ると、弱々しくも妖艶な笑みを向ける。
「あら……こういうのが好きなのかしら?」
「さあ、お前が分らない事を俺が知るわけが無いだろ? ――Sweet Dream!」
サキュバスの質問に素っ気無く答えると、月秋はそのままリボルバーに込められた弾丸を有りっ丈撃ち込むのだった。
●静かな夜に
「ごめんね。キスしてあげるから許してよ」
「本当に……ごめんなの。ピストル突きつけちゃって……」
事切れたサキュバスをその場に置くと昴と星露の2人はつい先程誘惑していた2人の男性へと謝っていた。
どうやら店を出てすぐにピストルを突きつけて入らないように言っていたようだ。
最初は怒っていた男達だったが、星露からの頬へのキスや謝る度に服の間から見える昴の谷間にご満悦なのかすぐに機嫌がよくなっていった。
サキュバスの死体の前では月秋がこの場の処理を携帯で頼んでいるのが見えた。
そのすぐ傍で博志はしょんぼり感が滲み出ている。どうやら噛まれてもいいからもう一歩前進してみたかったようだ……大人の階段を1歩上る的な前進を。
そして、用が終わったのか全員が立ち上がると扉へと歩き出した。
ふと、槍樹が立ち止まりポケットから携帯を取り出すと電話を掛ける。
数回コールが進んだ後に、電話に相手が出ると槍樹は父親としての笑みを浮かべた。
「ああ、今から帰るよ。もう遅いから、ちゃんと寝ていなさい」
電話の相手は娘で、生きて帰るということを安心させたかったのだろう。
その電話を聞きながら、星露も首に下げたチェーンに光る指輪を見て微笑む。
(「初仕事……上手く行ったわね」)
愛する家族を思いながら、星露はそれを優しく握り締める。
こうして最後の1人が扉を閉めると共に明かりは消え、サキュバスのクラブは永遠に開く事は無くなったのだった。