●集まった参加者達
店内を満たす珈琲の香りは今日はせず、代わりにワイワイと賑わう人の話し声が満たしていた。
「きょ、今日は美味しい物を作りますですよぉ〜……」
店の手伝いとして参加した魚住 衣月(jz0174)が、彼らに向けてそう言うと返事が返ってきた。
そうして、思い思いのお菓子を作るべく彼らは動き出すのだった。
ちなみに店長の勘十郎は何をしていたかというと、慌てる衣月をビデオで撮影していた。
●クッキー作り
「料理は心、食べて貰いたいという気持ちが大事。だから私は手を抜かない」
チェックのエプロンに赤い三角巾を着用した鴉乃宮 歌音(
ja0427)がそう言って小麦粉をふるいにかけていた。
ふるいを揺する度に、下に置かれたボウルへとサラサラの小麦粉が降り積もっていく。
こうする事で小麦粉の塊は無くなっていくのだ。
「ふふっ……いつもは僕が作ってもらってばっかりだけど、今度は僕の番なんだから!」
隣ではレグルス・グラウシード(
ja8064)が星型の型を手にやる気満々である。
どうやら可愛い彼女へのお返しを返す為に意気軒昂だ。
しかし大事な事を彼は忘れていた。
「どうやって作れば良いんだろう?」
そう、彼はクッキーの作り方なんて知る訳が無かったのだ!
隣の歌音がそれに気づいたのか、作業を止めるとレグルスに話しかけた。
「レグルス、よかったら一緒に作るか?」
「た、助かります! 私は何をすれば良いでしょうか?」
「私はバターを混ぜ合わせたいから、レグルスはふるいをかけて粉を振るってくれないか?」
了解しました。そう言いながら、歌音と代わりレグルスはふるいを揺すり始め、歌音は別ボウルに入れておいたバターをホイッパーで軽く押し潰してみた。
少し固かったらしく、ホイッパーは底に当たらなかった。どうやらまだ室温で柔らかくなりきっていないようだ。
もう少し常温に置いて溶けるのを待つ事を考えながら、歌音は色んな種類を作る為の準備を始めるのだった。
一方、レンジが軽い音を鳴らしたのを見ながら大狗 のとう(
ja3056)は安堵の息を吐いた。
「よかった。今度は爆発しなかった」
どうやら前にレンジを爆発させた苦い思い出があるようだ。
そんな思い出に浸りながら、レンジからボウルを取り出した。
中には細かく切ったバターが入っており、そこに砂糖を混ぜるとホイッパーで混ぜ始めた。
ボウルを擦りチャリチャリと音を立てながらボウルの中でバターは混ざり合っていき、少しずつふんわりと変化していく。
その中へとのとうは卵黄を落とし、更に混ぜ合わせていく。
すると白の中に濃い黄色が混じり、クリーム色へと変化していった。
その中に彼女は振るって混ぜ合わせた抹茶入りの粉をボウルへと落とすのだった。
「俺、中に入れる具材は買ってきていますから、混ぜるのをお願いしますね」
「わかったよ。二人で作ったほうが色々種類作れるし」
バターを混ぜたボウルに粉を入れ、それをゴムベラで混ぜながら礼野 智美(
ja3600)が美森 仁也(
jb2552)にお願いをする。
頷きながら、仁也は智美の持ってきた袋からトッピングを取り出していくと板状のホワイトチョコを砕き、ナッツ類を軽い鼻歌と共にフライパンで乾煎りする。
フライパンからカラカラと転がる音がし、ナッツの焼ける香りが漂ってきた。同時に、智美が女であった事が良かったと言う友チョコを送った事の複雑な思いも仁也の中から薄れていった。
ある程度煎るとキッチンペーパーの上に載せ、上にもう1枚被せるとそれを砕いた。
ペーパーにナッツの脂が染み込み、いい具合に砕けると同時に智美が大量に作っている生地の一部を小さめのボウルに入れて差し出してきた。
「そういえば本命どうするんですか?」
「アクセサリーにするよ。君の本命は今年も図書カードかい?」
「そのつもりですよ。キャンディーよりそっちの方が喜びますから。珈琲豆とも考えたんですけど、如何考えたって嗜好品より本代の方に費やしてますからね、あいつ」
そんな会話をしながら、仁也は貰った生地にチョコやナッツを混ぜる様に捏ね、智美は生地を分けて差し出していく。
どうやら姉妹や友人達から友チョコを大量に貰ったようだ。……勿論、恋人からは本命チョコを貰ったわけだったりする。
そんな会話をしながら、2人は受け取った部員や恋人達の喜ぶ顔を思いながらクッキー生地を混ぜるのだった。
「カロリーなんて気にしてたら美味しい物はできないわよね、うん」
そう言いながら、ナナシ(
jb3008)は混ぜ合わせたクッキー生地を良く練り込み、ラップに包むと寝かす為に冷蔵庫へと入れる。
そして、もう一つの作業に掛かり始める。
鍋に火にかけシロップを作り始め、砂糖と卵白が入ったボウルをミキサーで泡立て始めた。
ミキサーのモーター音と共に卵白は混ぜられていき、透明な卵白は少しずつに白色変化していきメレンゲへとなっていく。
その中にナナシは出来たシロップをボウルの縁から少しずつ注いでいき、入れ終えると再び泡立て始めた。
するとメレンゲはますます硬くなっていき、一度ミキサーを止め少し上に上げると角が……まだ立たなかった。
「まだ泡立てが足りないみたいね」
言いながら、またミキサーを回し始めた。
それが終わったらクリーム状になるまで練ったバターと混ぜ合わせれば、バタークリームの完成だ。
これは本当にカロリーが高そうなクッキーだ。
「師匠、こんな感じで如何でしょうか?」
「ダマも無さそうですし、良い感じ……ですよぉ……」
黒井 明斗(
jb0525)が冷蔵庫から寝かしていた生地を取り出すと月乃宮 恋音(
jb1221)に見せる。どうやら作り方を教えて貰っているようだ。
ラップに巻かれて細長くなっている2本の生地には細かくだが、オレンジと黄色の具材が見えた。
オレンジとレモンのピールらしい、濃い目の紅茶と共に食べると美味しそうだ。
一方、恋音はマシュマロを作っていたらしく、シリコンバットに流し込み冷やす為に冷凍庫へと入れていた。
「自分が久遠ヶ原学園で歩んだ足跡を刻みましょう」
そう言いながら、袋井 雅人(
jb1469)は寝かしていた生地を成型し包丁を使い、切り揃えて行く。
その形はまるで足跡のようであり、鉄板の上へと並べていく。そしてその上にカボチャの種やクリームチーズ等を乗せていく。
歩んだ軌跡は色んな思い出があるという事を意味しているのだろう。
思い出しながら鼻歌混じりに雅人はクッキーの上に材料を載せていく。
「師匠。後はこれを均等に切って鉄板の上に乗せてい行けば良いでしょうか?」
「クッキングシートを忘れたらいけない、ですよぉ……。あ……袋井先輩の材料がこんな所にある……ですよぉ……」
どうやら恋音の所に雅人の材料が混じっていたらしく、それを渡そうと彼女は雅人に近づいた。
一方で明斗は教えて貰った様に鉄板にクッキングシートを敷くと少し薄めに切りながら、均等に鉄板に乗せていく。
「袋井先輩、材料が混じってた……ですよぉ……」
「え、本当ですか? すみませ……ん?」
受け取ろうと片手だけを動かし彼は手を動かした。瞬間、何やら柔らかなマシュマロを掴んだ気がした。
何か布製品に包まれた柔らかなマシュマロを。同時に何を掴んだのか知りたくない心が雅人の中にはあった。
「……ふ、袋井先輩。いくらなんでもこんな所で師匠の胸を揉むのは」
明斗が言ってしまった為、恐る恐る雅人は振り向いた。そこには……羞恥に顔を赤らめ悲鳴を上げそうになっている恋音が立っていた。
「う、うわ! 凄く柔らか――じゃなくて、ごめんなさい!」
直後、よく分からない悲鳴が木霊した。
「これ、毎回手作りしている女子は、凄いな?」
加熱中のオーブンを見ながら、早見 慎吾(
jb1186)は呟く。
中には四角の形をしたクッキーが並べられており、美味しくなる為に焼かれていた。
しかしこのまま見続けていても時間が過ぎるばかりの為、慎吾は立ち上がると調理器具の後片付けを開始する。
「作るの面白いけど、後片付けしんどいな……」
洗剤をつけたスポンジでボウルを洗うが、こびり付いているからか上手く取れない。
困っているのに気づいたのか、東城 夜刀彦(
ja6047)が近づく。
「慎吾、そういう時は微温湯に浸したりしてからの方がいいですよ」
「なるほど、ありがとな夜刀彦」
貰った助言通りに慎吾は洗い始めていく。それを見届けると、夜刀彦はオーブンを一度開けた。
中には1個だけメレンゲのような物が焼かれており、それに軽く指先で触れてみた。
「うん、付きませんね。じゃあ温度を下げてもう少し……」
温度を調整し、蓋を閉めると焼きあがるまで夜刀彦は待つ。
そんな様子とついさっきまで行っていた調理を思い出しながら、見学していたレイ・フェリウス(
jb3036)は呟く。
「……料理って、すごいんだな」
「マカロンは慣れですね……。マカロナージュは足りなくてもやりすぎても駄目ですし……、今の内にガナッシュを作っておきましょうか」
「わかった。作り方を教えてくれないか、東城さん」
「ええ、喜んで」
夜刀彦に作り方を教わりながら、レイは共にガナッシュクリームを作り始めるのだった。
時計が時間を告げ、アラームを鳴らしたのを確認しながらグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)はオーブンから鉄板を取り出す。
鉄板上には狐色に焼かれた美味しそうなクッキーが均等に並べられており、もう一枚取り出した鉄板には丸く抜かれたクッキーには砕いたホワイトチョコが混ぜられていた。
「うん、よく出来たね」
満足しながらグラルスは熱々の1枚を剥がし、それを口の中に入れてみた。
熱々だがサクサクとして、口の中に程よい甘みが広がっていく。
「味も良い感じだね、後はこれを網に乗せて冷まそうか」
ペーパーを持ち上げ、用意した網に載せると彼は湯煎していた鍋を取り出した。
中にはチョコが溶けているらしく、とろりとした白い物が見えた。
「後はこれをかけるだけだ」
呟きながら、ゴムベラで掬う様にして取ると網の上を滑らせた。すると狐色のクッキーの上に白い線の様にチョコが走っていく。
「波状もいいし、普通につけるというのもありだな。他にも色んな模様でも試してみるか」
満足しながらグラルスはデコレーション作業を続けるのだった。
クッキーを作っている中、それ以外を作っていたりする者も居た。
エドヴァルド・王(
jb4655)もその中の1人であった。
「彼女の名前と同じケーキ、喜んでくれやがりますかね……」
呟きながら王はメレンゲを作る為にミキサーを回していた。
混ざる度に透明な卵白は白く変化して行く、そしてそのまま角が立つ様になるまで掻き混ぜるのだ。
そして、メレンゲが出来上がると卵黄を混ぜ始め、そこに振るった粉と桜葉パウダーを加えていく。
「……つーか、一つで足りるですかね……」
混ぜ終えた所で疑問に思った事を呟く……が、暫く考えたがすぐにメレンゲを入れて混ぜ始めた。
「ま、何とかなりやがるですよね……」
少し不安だが王は作業を続ける。
混ぜ終え、桜の塩漬けを底に散りばめた型に流し込むと空気を抜く為に少し高い所から落とすのを繰り返してから、オーブンの中へと入れる為に蓋を開けた。
余熱でオーブンの中は熱くなっており、真ん中に型を置くと王は蓋を閉めた。
「美味しく出来きやがりますかね……」
呟きながら焼き上がるまでの時間を待つのだった。
「……味は、どうかな……?」
ドキドキしながら華成 希沙良(
ja7204)は焼きあがったクッキーをこっそりと味見をする。
最初に微かなオレンジの味、次に緑茶独特の渋味、紅茶の苦味、レモングラス独特の酸味が口の中に広がってきた。
4種類にして作ったらきっと色んな味を見る事が出来ただろう。しかしこれはこれで乙な味であった。
でもきっと希沙良の恋人は美味しいと言ってくれるだろう。それほどにまで愛情を込めているのだから……。
(喜んでくれるよね……サガ様……)
ドキドキしながら彼女はマシュマロを作るサガ=リーヴァレスト(
jb0805)を見るのだった。
●マシュマロ作り
水でふやかした溶かしたゼラチンを泡立てたメレンゲの中へとサガは注ぐ。
注ぎ終えると再びミキサーで混ぜ始め、メレンゲをより泡立てていく。
泡立て、角が張っているのを確認すると用意していたシリコンの型へと落としていった。
「よし、後はこの溶かしたチョコを乗せて……っと」
生クリームが多く混ざっているのかとろふわとしたチョコをマシュマロを入れた型の真ん中に落としていく。
「口溶け良く仕上がるといいが……」
少し心配そうにサガは呟くのだった。
「こういうお菓子作るのにも興味あったしね。楽しませてもらおうかな、でも……まずはコツを掴まないとね」
楽しそうに言いながら、レシピ通りの手順でユリア(
jb2624)はマシュマロを作成していく。
基本的な作り方で作ったマシュマロを冷やし固める為に冷凍庫に入れ、暫く待って固まった事を確認すると味見の為に少し食べてみた。
味は普通にマシュマロだが、硬かったらしく……ふんわりとした食感は生まれなかった。
「うーん、まだだね……混ぜすぎたのかな?」
考えながら、ユリアは呟く。だけど、簡単に諦めたりはしない。
「美味しくてふわふわなのに上手く仕上げるのは大変かもだけど、頑張ろう……それにどうせなら何種類か作って色々と味わってみたいよね」
そう言って、持ち込んだイチゴやチョコレートを見るのだった。
「ふうむ、どれも作ったことは無いが……マシュマロとやらを作ってみるか、我がしゅくめいのらいばるの名前の響きに似ているからな」
そう言って、チョコーレ・イトゥ(
jb2736)はテーブルの前に立つ……が、作り方はまったく知るわけが無い。
だったら知る者に聞くのが一番だろう。そう思ったのか、子兎の様に震え隠れる衣月を見つけ首根っこを掴み持ち上げた。
「な、なんですかぁ〜……?!」
「魚住殿、すまないが作り方を教えてくれないか。まったくわからないのでな」
「は、はいですよぉ〜……、これはこうですよぉ〜……」
オドオドしながら衣月はチョコーレへとマシュマロの作り方を教えていく。
その説明を素直に聞きながら、チョコーレはマシュマロを作っていく。
一通り出来上がると型に流し込み、一気に冷やす為に冷凍庫に入れた。
暫く置いてから取り出し、一口サイズに切り分け……味見として一つ口に運んでみた。
「ふむ、悪くない。奴にもお土産に持っていってやろう」
「えっと、粉を塗して、ラッピングとかしたら良いと思うのですよぉ〜……」
「そうか。ならばそうしよう、魚住殿、世話になったな」
アドバイスを貰うとチョコーレは衣月が持ってきたココアパウダーやスキムミルクを受け取った。
「ど、どういたしましてですよぉ〜……」
お礼を言って衣月はそのまま逃げるように歩き出す。
「なんだよ、隠れてねーでこっち来いよ?」
「な、なんなんですよぉ〜……?!」
離れて再び隠れようとする衣月を発見し、英 御郁(
ja0510)が目立つ場所へと連れて行く。
この格好が恥かしすぎるのか衣月は顔を赤らめ、アワアワしている。
「折角可愛いカッコしてんのに、隠すなんざ勿体無ェ……って事で精一杯披露しろよ!」
そう言って、前に押し出した御郁は自分の作業に戻り始めた。
出来上がったマシュマロを丸型から外していく。
「ずっと食い専だったんだけどなァ……。ま、好きな女にイイとこ見せたい、男の見栄ってヤツだよ」
それが男というものである。そうして外していくマシュマロは緑色と淡い桜色の2種類であった。
緑色は抹茶であり、桜色は仄かに甘い桜の香りがするを見ると桜リキュールなのだろう。
そんな2種類のマシュマロを全て型から出し終えると、御郁は湯銭を行っていたボウルを近づけた。
中には溶けた2種類のチョコが入っており、そこへ串に刺したマシュマロを潜らせていく。
チョココーティングされたマシュマロを串に刺したまま冷やしていきながら次のマシュマロをつけていく。
「ぬー、料理ってこう……根気がいる作業だよなぁ……」
買えば美味い物はいくらでもある。しかし手作りはその人の為に作ったという想いが篭っている。
そんな想いを込めながら、チョコマシュマロの上に振りかける様にしてチョコスプレーやナッツを塗していき、ドライフルーツを乗せて飾り付けを行っていった。
雅人が双丘のマシュマロを掴んで慌てている中、森田良助(
ja9460)は鍋の中で踊る小豆を見つめる。
どうやら一から餡子を作る気満々のようだ。
ある程度煮詰まると水分が無くなって行き、木ベラで混ぜ始めた。
混ざる度に甘い砂糖の香りが漂い、周りが洋風な空気の中に和風が生まれ始めてきた。
混ぜ続け、最終的には良く見かけるつぶあんになっていた。ただし、水分を飛ばしすぎたのか少し焦げた様なにおいがした。
「失敗しても折れない心が重要だね!」
ポジティブに拳を握ると、漉し器を取り出す。
「つぶあんもいいけど、こしあんもいいよね!」
そう言うと、つぶあんから半分取り漉し始め……こしあんを作り始めた。
直ぐ側には真ん中が切られたマシュマロがある所を見ると、あんこを中に詰めるのだろう。
「ん〜と、ボクは何を作ろうかな〜……そうだ♪ マシュマロ入りのクッキーを作ろうっと、美味しいよね♪♪」
暫く考え事をしていた白鳳院 珠琴(
jb4033)だったが、決定したらしく作業を始めた。
自称グルメな分、作り方は上手くは知らないがインスピレーションが味方しているらしく、レシピを見てすぐに作り始めた。
そしてあっという間に珠琴はマシュマロを完成させると冷凍庫へと入れた。
そのまま、別のボウルでレンジで柔らかくしたバターを入れると砂糖を入れて、混ぜ始めて行き……白くになった所で余った卵黄を落としてより泡立てて行き、クリーム状に変化させていく。
「うん、確か見た目はこんな感じだったよね♪ ……うん、甘い♪」
ボウルの中の物を指先で拭い舐めると、珠琴は満面の笑みを浮かべた。
それに続いて、振るった粉を落とすと更に混ぜ合わせて行った。
混ぜ終えると同時に冷凍庫からマシュマロを取り出すと良い感じに冷えており、型から取り出すと細かく切り始めた。
「マシュマロは表に出さないのがコツだよ〜♪」
そう言いながら珠琴はクッキー生地を抜いて、中に小さくしたマシュマロを入れて包むようにしていった。
後は焼きあがれば完成だ。
●キャンディ作り
「籐花ちゃん、火傷に気をつけてね」
「はい、焔さんも気をつけてくださいね」
雪成 藤花(
ja0292)に星杜 焔(
ja5378)が優しい目で言うと、籐花はにこりと微笑み返事を返した。
2人は並び、砂糖・水飴・水が入った鍋をコンロにかけた。
すぐに鍋が熱くなり、ジュッという水が煮溶ける音が聞こえ始めた。
同時に甘い香りが鍋から漂い始め、細かい泡が立ち始め……徐々に粘り気が出始めた。
変わって行く鍋の中に2人は興味心身であり、同時に慎重に見ていた。
泡が大きくなり始め、色が付き始めた頃にスプーンで少しすくってホイルの上で固まり具合を確認してみる。
「……こっちはオッケーだよ」
「私の方も大丈夫です」
2人は頷き、氷水を入れたボウルで荒熱を取り、用意していたホイルにドロリと流されていき熱いそれを焔はすぐに剥がした。
こうした方が飴の熱さを感じる事が出来て、変化を知る事が出来るのだ。
「あ、熱いですね……」
「手袋とかをはめて置くべきでしたね」
苦笑し合いながら2人は細く伸ばした飴を引き伸ばし、それを折りたたみ、伸ばし、折りを繰り返していく。
すると、黄金色の飴に徐々に白色が混ざり始め、何度も何度も根気良く練っていく……。
「焔さんの白色、綺麗です」
「そういう、籐花ちゃんの色も良い白色だよ」
笑いながら2人は白くなった飴を適量千切ると丸めるようにしてから箸の先につけた。
それを2人は作りたい動物の形に整え、耳や足を鋏を使って切り出して行き動物の形になった。
それに対して次に爪楊枝や小さな絵筆を使い、食用着色料を使って鼻や目、耳をわかりやすく色付けていく。
こうして籐花の元にはウサギ達が、焔の周りには色んな表情のマルチーズが増えていった。
全て作り終えると良く出来た一品を2人はラッピングするのだった。
「食べられる物を作るんだよね! 任してっ、舐めたくなるような飴作ってあげる!」
そうイキイキとした表情でファラ・エルフィリア(
jb3154)は言っていた。
ええ、その時から何だか嫌な予感はしていたんですよ。
後にそうラウール・ペンドルミン(
jb3166)は言った。しかし今の彼もやる気満々であった。
「あれだろ。ともちょことかの、返しの菓子だろ。俺知ってるぜ!」
そうしてファラの監視をせずにラウールは本気を出して薔薇の宝冠を作り上げた。
宝冠自体も飴で作られており、薔薇も真っ赤な食紅が混ぜられ真紅に色付いていた。
「ふう、思わず本気を出してしまったな、とりあえずこれは魚住にでも渡すか」
「よーっし、完成♪」
ラウールが考えている中、ファラも細工飴が完成したらしく自信満々に声を上げた。
どんなのが出来たのか気になり、ファラの方を向いた……瞬間、吹いた。
何故なら、彼女の手には精巧に作られた女体飴が4本裸で握られていたからだ。
「あほかーーッ! 服着せろ!」
「……無駄に上手い!!」
「ファラ、君……女の子なんだから……」
ラウールの大声に気づいた3人が近づき、慎吾が驚愕し、夜刀彦が理由を理解し諭す様に語りかけ、レイは軽く頭を抱えた。
そんな彼らに対してファラはマジメな顔をする。
「わがままなんだからー。……これなら文句無いでしょ!」
頬を膨らませて愚痴を言いながら直ぐに裸飴に飴細工の服を着せて、彼らに差し出した。
だけどこの独特の匂いは……。
「服部分ハッカかよ!?」
「待て、ハッカ飴部分舐め終ったら完璧アウトだろ!?」
「なによぅ、ちゃんと食べられる物じゃないーっ」
そう言って、ファラは文句を言いながら白服お色気飴をラウール達に渡した。
「俺に食えと!? てめぇ……! まあいい、気が済んだら動物飴を作るぞ」
そう言うとラウールは貰った飴を懐に仕舞い込み、再び飴を作り始める準備をするのだった。
●最後の仕上げは
それぞれが思い思いのお菓子を作り終えると、自由時間となった。
ある者はその場でお返しとして作った物をプレゼントし、またある者はその場でお茶を淹れて作った物の味を確かめたりし始めた。
綺麗にラッピングした飴細工を籐花と焔は互いに差し出す。
「はい、籐花ちゃん。良かったら貰ってくれないかな?」
「焔さんの飴はマルチーズですね……とても可愛いです。食べるのが勿体無いくらい……」
「そう言う籐花ちゃんのは兎さんだね。可愛いねえ、まるで籐花ちゃんみたい」
食べるの勿体無いねぇ……と言って、2人は部屋に並べて飾る事を決める。
それでも飴細工は暫く飾っていても、いつかは食べないと形が崩れたりベタベタになったりする。
しかし数年後にはきっと2人が住む家には可愛らしい白ふわのマルチーズが居る事だろう……。
「お? 君ってば、何でそんな所に隠れてるのかな? ねぇねぇ楽しい? その格好自前?」
「て、店長に用意されたのですよぉ〜……凄く恥かしいから隠れているのですよぉ〜……」
困った顔をする衣月にのとうはグイグイと迫っていく。
と、思い出した様にクッキーを差し出した。
「忘れる所だったっ。楽しかったよ! ありがとなっ」
「え、あ……ど、如何いたしましてですよぉ〜……」
受け取った袋の中には抹茶クッキーとホワイトチョコクッキーが入っており、口から美味しそうな香りが漂ってくる。
「お、良いの貰ったじゃねェか魚住嬢。俺からも試食として一つどうぞっと」
「は、はいですよぉ〜……はむ……あ、美味しいですよぉ〜……♪」
御郁がマシュマロチョコを差し出し、受け取るとそれを食べてみた。
パキッというチョコのほろ甘さとフワッとしたマシュマロの甘い食感が口の中に広がり、美味しい味わいを生み出していく。
「バレンタインのお返しだよ、希沙良殿」
「……有難う……御座います」
ラッピングされたマシュマロをサガが差し出すと、嬉恥かしそうに頬を染めながら希沙良は受け取る。
それから少しモジモジしながら、後ろに隠していたクッキーを差し出した。
「御返しの……御返しは……変、です……か?」
「いや、ありがたく頂くよ……ありがとう。ちょっと待っていてくれ」
そう言って、サガはカウンターまで向かうと勘十郎から中身が入ったカップを受け取る。
中には温かなココアが入っており、片方のカップを希沙良へと差し出した。
「ココアにチョコはちょっと甘すぎか……?」
少し気になりながらも、サガは余ったマシュマロをココアの上に乗せる。
それを希沙良は受け取り、軽く啜った。
「……美味しいです。甘い……ですけど……」
そう言って笑いながら答えた。そのまま2人は近くの椅子に座ると寄り添う様にココアを飲むのだった。
「そういえば、何で星型なんだい?」
作り終えたクッキーを皿に並べ終え、紅茶を淹れながら歌音はレグルスに尋ねた。
歌音の作ったクッキーの形はトランプの柄や十字などと様々であった。
「僕の彼女、流れ星みたいに自由な子なんです☆ あ、すみません」
反応に困るような発言を照れもせずに言い、紅茶を受け取りレグルスは礼を言う。
何というか色々凄い彼女のようだ。2人のデートを見たら暫く忘れられそうに無いくらいに……。
「っと、彼女に写メを送りましょう!」
嬉しそうに皿に置いた自分作のクッキーをスマホで撮影すると彼はメールを送る。
すぐに返事が返ってきたのか、凄く嬉しそうな表情をしていた。
それを見ながら歌音は淹れたローズティーを飲む。
そこに干し葡萄入りバタークリームサンドを抱えたナナシが物欲しそうに紅茶を見ていた。
「良かったら飲むか?」
「ありがとう御座います。何度も試食をしたら口の中が脂っぽくなってしまいました……でも、良いのが出来ました」
満足そうにナナシは出来上がったクリームサンドを差し出した。何というか見た目が何処かで見たような感じの物そっくりだった。
お茶のお礼らしく、1個食べてみると有名なクッキーの味に似ていたが微妙に少し違っていた。
味の感想を歌音は告げると、意見を貰いながらナナシは参考にするように聞くのだった。
作り終え、ラッピングを終えたが作業中のアレがあった為、雅人と恋音の間には微妙な空気があった。
如何反応すれば良いのか分からないのだろう。
ちなみに良助は「お茶が美味いね……」と現実逃避中であった。入り難い空気を本能が感じたのだろう。
一方で明斗は明斗で恋する瞳であった。
「気に入ってくれたら良いな」
きっと心と想いを込めた相手の事を考えているのだろう。
「つっ、月乃宮さんっ!」
「は……はぃ……!」
意を決したのか、雅人がいきなり話しかけると恋音はビクッと震えた。
「日頃の感謝と愛を込めて焼き上げました。どうか受け取ってもらえませんか? あと、さっきはすみませんでした!」
謝りながら、袋に詰めたクッキーを差し出した。一方、恋音はどう反応すればいいのか少し混乱していたが……軽く深呼吸した。
「……えっと、ありがとうございます……ですよぉ……。それと……怒ってません……ですよぉ……」
クッキーを受け取り、恋音は雅人に微笑む。安心したのか、雅人も篭った息を吐き出した。
そんな彼に、恋音は袋を差し出す。中にはマシュマロのクッキーサンドが入っていた。
「袋井先輩……逆チョコのお礼……ですよぉ……」
「あ、ありがとう……ございます」
その天然な対応に伝えた肝心な所は理解されなかったのだと、雅人は少ししょんぼりするのだった。
「はぁ……何とか出来た」
スキあらば裸飴を再び……しかも危ないポーズを決めた感じに作ろうとするファラを監視して、ラウールはやっとの事で動物飴を作り終えた。
夜刀彦のハムスター、慎吾の黒猫、ファラの白猫、レイの黒狼、ラウールの黒獅子が並んでいた。
「なんか猫好きな奴多いよな……」
ちなみに猫の胴体が長いのはスキあらばの結果だろう。
更に言うと、ハムスターは物凄く大量に作られていた。
「ふ……子沢山め」
まさにネズミ算式増量チュー。と言ってファラはほくそ笑みながら呟く。
とりあえず、それを無視する事にして出来上がった動物飴を仲間にラウールは配り始める。
可愛らしい黒猫飴に慎吾は脱力しうっとりする。
「……こういうのばっかり作れよ。って何か胴体が長いのも……って、こっちはファラ作? で、こっちのがラウール?」
おまえら性別取り替えろ! 同意しか出来ないような台詞に反論する事は出来なかった。
「あ、レイ先輩。友チョコのお返しです」
「む……すまないな。私からもお返しだ……今日はありがとう」
一番綺麗に出来たマカロンを夜刀彦はレイへと差し出す。
受け取ったレイも自分で上手に出来たマカロンを差し出し、付き合ってくれた事に礼を言う。
友情がほんわかする中、ラウールの監視を外れたファラはやはり自分の芸術センスを爆発させるのだった……より繊細に精密に……と。
「ふっ、良い感じにお返しのお菓子が出来上がったみたいだな」
「そ、そうですよぉ〜……。うぅ、べたつくのですよぉ〜……」
自分の立てた企画が成功して大満足な勘十郎と頭に飴細工の薔薇の宝冠を被せられた衣月は頷く。
しかしやはり何か足りない。そう、エロスだ。
「うむ、魚住。いきなり制服が破けたりしないか?」
「しないのですよぉ〜……、こんな状況でそれは無いのですよぉ〜……」
「……残念だ」
それはそれは凄く残念そうだった。とりあえず勘十郎は無視し、企画が上手くいった事に衣月は満足するのだった。