●酒臭い倉庫
積荷が積載された倉庫の中は酒の臭いが強く、軽く深呼吸しただけでも吐き気が込み上げる程の臭いだった。
そんな中、倉庫の入口の扉が開かれ撃退士達が中へと入っていく。
「……ってうわぁ、すごい臭っ……鼻が、鼻がぁー!?」
あまりの酒臭さにアッシュ・スードニム(
jb3145)がその場でのた打ち回る。
ちなみに扉を開ける前までは自分のマスターと共に依頼が出来る事に彼女のテンションはMAX状態だったりした……。
まあ、同じ様にこの臭いが好きだと言う人物は居ないらしく、蒸姫 ギア(
jb4049)は顔をしかめる。
「ギア、この臭い嫌いだ……って、別に気分悪くなったりは、しないんだからなっ」
ツンデレらしく言って、気分が悪くないと言い張る。
その近くではレイ(
ja6868)が頭を抱えて嫌だと言う事をアピールする。
「あーやだー酔っ払いいやだー! けど酔っ払いのヘビを倒さないとー!」
「四国辺りで慌しいなか、少しは落ち着いたと思ったが……またか」
レイとは違う意味で頭を抱えているのは北条 秀一(
ja4438)だ。
何度か彼女と接触があるからか今回の変化球は久しぶりだった様だ。
「さてとォ、大蛇退治には酒は付き物ォ……まァ、大蛇って言っていい相手かどうか分からないけどォ♪」
酔い止め薬の箱を片手に黒百合(
ja0422)が前に立って合図をすると、2班に分かれての行動を開始した。
入口から少し離れた場所にある窓の鍵を開け、虎落 九朗(
jb0008)は窓を開けた。
すると、外から少し寒いが春の風が倉庫内へと入って来た。
そのすぐ近くの窓をレイと蒸姫が開け、雁鉄 静寂(
jb3365)が壁へと阻霊符を貼り付け蛇を外に逃がさない様にしている。
「準備にぬかり無しです。確実に撃破します」
そうキメ顔で静寂は言う。ちなみに撃退士が所持していないと有効にならないのだが、そのキメ顔を見てると絶対に言えない……。
一方、反対側でも窓が開けられ換気が行われていた。
「酒臭い怪獣ねぇ? 酔っ払いって嫌いなのよね、面倒でしょ色々」
くーるにブリギッタ・アルブランシェ(
jb1393)は言うが傍から見るとちょっと大人になりたいお年頃が背伸びしている様に見えてしまう不思議である。
黒百合もやはり酒臭い場所で戦うのは嫌らしく、素早く窓を開け換気扇が無いかを調べていく。
秀一は置かれた積荷に阻霊符を貼り付けると、積荷を積み上げていく。
窓を開けていると2階への階段を見つけ、補助として参加した麻生 遊夜(
ja1838)とダッシュ・アナザー(
jb3147)の2人は行動を始めた。
「換気扇とクレーンは任せるぞ、ダッシュ」
「うん……任せて……」
悪魔の翼を顕現させ、ダッシュが2階へと飛んで行き窓明けと換気扇を起動させに行き、遊夜はフォークリフトが置かれている入口まで移動して行った。
「よし、ボクも頑張るぞー!」
頑張るマスター達に触発されたのかアッシュはやる気を出しながら、残りの1階の窓を開ける為に尻尾を振りながら歩き出した。
しかし、少し移動すると慣れかけていた酒臭さが更に酷くなった。
そして……ゲフゥと言うゲップ音も聞こえた。
というよりもアッシュのすぐ側の曲がり角から3頭の蛇の頭が顔を出していた。
目と目が合った――瞬間、込み上げる物があったのか……蛇はうっぷと言う風に口を膨らませると一気に溜まっていたアレを吐き出した。
「ニャ……にゃーー! 何するのー!?」
すっぱい液体を頭から被ったアッシュは叫びながら、ヒリュウにブレスを命じる……が、召喚していなかったのを忘れていた。
吐くだけ吐いてちょっとすっきりしたのか蛇はアッシュを標的にしドスドスと重量のある足を踏み締めて歩き出した。
酒臭くすっぱい臭いに気が遠くなりそうだったが、敵を引き離す目的を思い出し分断工作の為に追いかけられるような速度で逃げ出した。
「く、臭――っ! じゃなくて、こっちだよー!」
尻尾を動かし、蛇を誘導させると同時に声で自分の状況を周りに伝えながらアッシュは逃げる。
ある程度移動した瞬間、蛇が進んできた道を分断する様に積荷が崩れ、換気扇が回る音が聞こえた。
同時に蛇を囲むようにしてレイ、九朗、静寂、ギアが姿を現した。
さあ、戦いの開始だ。
●B班の戦い
「どっせい!」
「一気に決着つけてやる!」
レイが巨大な戦斧を抱えると、蛇に向けて小天使の翼で飛び上がった。
同時に九朗が叫び、大剣に星の輝きを込めると蛇目掛けて積荷の一つから飛び降りた。
フラフラする蛇の真ん中の首に大剣が減り込み、追い討ちをかけるようにレイの戦斧が重量を加えた。
その斬撃で真ん中の頭は重量に耐え切れず胴体と分断し、地面へと落ちた。
だが生命力があるのか落ちた首はその場でビタンビタンと跳ねる。それと共に首を落とされた痛みからか蛇は酔いが少し醒めたらしく鋭い牙でレイと九朗に襲い掛かってきた。
「うわっ!? よ、よいしょー!」
「くっ――!」
「逃がしはしないのです」
いきなりの事だったが、焦りながらレイは翼を羽ばたかせ蛇の頭を抱えるように締め上げた。
一方、九朗は噛みつかれるのを覚悟していた。だが蛇の頭へと静寂が放った弾丸が命中し痛みに悶える隙に後ろへと下がった。
そして締め上げられた頭はレイを引き離そうとブンブン頭を振り回していたが……突然動きが止まった。
プルプルと小刻みに震え、微妙に酸っぱい臭いがレイの鼻にした。瞬間、噴水が噴出すようにレイの眼前で汚いもんじゃは吐き出された。
当然、飛び立つ事も出来ず。盾でガードする事も出来なかった。
「う、う……うがーーっ!」
やるせない気持ちが叫びとなり、レイはもんじゃを吐き出し落ち着いた蛇の首を力一杯締め上げた。
そこへ少し離れた場所からギアが符を翳す。
「圧を上げた蒸気は刃となる。万能蒸気の力その身でとくと味わえ……行け、蒸気の式よ!」
紡がれた言葉と共に風が刃となり、鎌鼬がレイの締め上げる首を根元から切り飛ばした。
同時にレイの小天使の翼が消え、首と共に地面へと落ちてしまった。
そして上からギアを見る静寂の視線に気づいたのか、プイッと顔を背けた。
「べっ、別に隠れたままなの、汚いもんじゃが怖いとか、そういうわけじゃないんだからなっ」
一方、落ちたレイを汚いもんじゃを浴びた仲間のアッシュが心配そうに軽く見ながら、敵の背後へと近づき……残る1本の首にチタンワイヤーを巻き付け締め上げた。
「この口が悪いんだよね……? 大丈夫、今楽にしてあげるからぁ……」
何だか黒い微笑みを浮かべながらアッシュの力を込めるワイヤーは蛇の首をボンレスハムみたいにギチギチに喰い込ませた。
締め付けるワイヤーを解こうと蛇は暴れ周り、足元のレイを潰しそうになる。
「重い! ってか普通だったら死ぬ! ってかギブギブ! タップタップ!」
今回は盾を取り出す事が出来、構えるがあまりの重さに潰れそうになり空いた手で地面をバシバシと叩いた。
「大丈夫か?」
「た、助かったんだぜ……」
驚きながら九朗が大剣を振り、蛇の身体を斬り付けると共に押し飛ばしレイを助けると生還の溜息を漏らす。
しかし、蛇は首にワイヤーをより深く喰い込ませ、身体から血を流しながらも暴れ続けていた。
それを見ながら静寂は真面目に最終通告のように蛇へと言う。
「そこの酔っ払い、こちらは撃退士です。大人しく排除されるのです。繰り返します……」
「でもね、暴れても排除はするからぁ……」
余程もんじゃの恨みが激しいのか、アッシュの黒い微笑みが眩しい。
とか何とかやっていると、向こうの方で激しい音が聞こえてきた。どうやらA班の3人も戦いを始めたようだ。
「それじゃあ、一気に決めちゃおうぜ!」
潰された痛みが引いてきたのか、レイが元気にそう言うと残りの4人は頷き武器を構えたのだった。
●A班の戦い
積荷が崩れ、一方の蛇と分断された中、もう一匹の蛇はノソリノソリと倉庫内を歩いていた。
その姿を隠れながら黒百合は様子を観察していた。
フラフラしている姿を見るとまだ酔っているようだ……そのまま気づかれないように静かに背後へと回り込んでいく。
「うふふ、行くわよォ……」
狙いを定め、漆黒の大鎌を構えると黒百合は蛇へと駆け抜け、三又の1つを刎ね飛ばすようにして鎌を振るった。
蛇の首へと鎌はまるでバターを切るように滑らかに吸い込まれて行き、地面に降り立ち駆け抜けると共に首は地面へと落下した。
そして、首が切れた箇所からは噴水のように血が噴出し黒百合の立つ場所へと降り注いだ。
垂れた血を舌で軽く舐めながら、妖艶に少女は笑う。そこへ二又となった蛇は牙を光らせ、襲い掛かる。
だがその牙は黒百合に突き刺さる事は無かった……。何故なら秀一が間に立ち、黒百合を庇ったからだ。
「くっ、大丈夫か黒百合?」
「えェ……助かったわ」
だが蛇は止まる事無く攻撃を繰り返そうと、もう一頭で秀一に攻撃を加えようとする。
「大人しくなさっ……い!」
それよりも先に小柄な体を活かしブリギッタが双剣を構え、間に飛び込むと共に蛇の口へと刃を突き刺し、斬り裂いた。
痛みに暴れ、秀一を放すと共に3人は蛇から距離を取り、黒百合は離れ際に攻撃を放ち影縛りで拘束しようとした。
だがそれよりも早く蛇はその巨体を踏み締め高く飛び上がり、全体重を込めて相手を潰そうと迫って来ていた。
「ブリギッタ!」
「ええ、足場にさせてもらうわ!」
秀一が小天使の翼で飛ぶと手を組む。同時にブリギッタが素早く駆け寄り、飛び上がるとそれを足場により高く飛び上がった。
しかし飛距離が高すぎたのかブリギッタの体は蛇を通り過ぎ、天井にぶつかりそうになる……だが宙で回転し天井を踏み締めるとブリギッタはその反動で一気に蛇へと向かった。
「大人しく落ちな、さいっ!」
落下するスピードにスマッシュを併用した一撃は鋭く重く、蛇の首の根元を貫いた。
暴れる蛇を押さえつける様にしてブリギッタはそのまま地面へと落下した。
土煙と共に残った首が寸断される瞬間、溜まっていたもんじゃが血混じりで吐き出された。
そして運悪く、黒百合がその場に立っていた……ええ、偶然なんです。
「ふ、ふふ……殺すゥ!」
血走った瞳で瀕死の蛇を睨み付けると黒百合は大鎌を構え、首の無くなった胴体を切り裂き内臓を抉り出し、四肢をもぎ取り死体を蹂躙し始めた。
それはブリギッタ、秀一をドン引きさせ、加勢に来たB班の面々も恐怖させる光景であった……。
●悪魔が来たりて、アレを吐く
「よくやったな、二人とも」
戦いが終わり、積荷を少しでも整理する中、遊夜がアッシュとダッシュの頭を撫でる。
2人とも擽ったそうに目を細める。だがすぐに表情をしかめた。
「お酒くさーい! しかも何かすっぱーい!」
「すごい、臭い……」
もんじゃの恐怖を味わった上に、臭いが取れなかったらと思うとアッシュは泣きそうになる。
そんな彼女をあやす様に遊夜が頭を軽く叩く。
「大丈夫だ、お風呂に入れば臭いも取れるはずだぜ」
「きっと大丈夫……アッシュさん」
「臭い取れるかなー?」
期待しながらアッシュは呟くのだった。
「あー、何か怪獣映画見たくなってきたな」
「そうですか?」
戦ったディアボロがあんな姿だったからか、九朗は呟く。
それに反応したのは静寂だった。
「後片付けが終わったら映画でも見に行くか、それかDVD借りて鑑賞会とか」
「私はどっちでも良いですが、後片付けをする事には賛成です」
やっぱり男と女の思考は少し違うのだろうか?
それとも静寂が真面目だからだろうか……。
「メカの首が生えたら厄介だけど面白そうだったな」
九朗はポツリと呟きながら後片付けを行うのであった。
「あいつ、何してるんだろう?」
もう少し臭いを逃がす為に窓を開けていたギアだったが、積荷の上をフラフラしている存在に気づき怪訝そうな顔をした。
だが、説明で悪魔が居ると言う話を思い出し、あれが悪魔である事を理解し声をかける事を決意した。
「どうして人界でこんな騒ぎを起こすんだ?」
「う〜……なんだかふわふわするよー★」
「答えろよっ、だからどうしてだよっ!」
「あはは、くるくるくるくるー♪」
真剣に問い掛けるギアだったが、ウーネミリアは自分の世界を満喫するかのごとくクルクルと回りながら、話を聞かない。
と言うよりもアレって……。
「っていうか絶対酔ってるでしょアレ」
冷静且つ的確なツッコミを同じ様に見ていたブリギッタは呟く。
そんなツッコミも入らない程にギアは怒ったのか、顔を背ける。
「……話噛み合わないから、ギアやっぱり同族嫌いだっ」
「やっぱりマグロ食ってるようなァ……ってこれは言う相手が違うわよねェ? ……酒ばっか飲んでる奴はダメだなァ、だわァ♪」
ミンチレベルにまで微塵切りにし、満足したのか黒百合は額の汗を拭い清々しい表情をする。
そんな時、彼女の前へとウーネミリアが降り立った。
「へびさんへびさんまっかっか〜♪ あははー★」
「酔っ払いィ?」
蛇が倒された事に気づいているのか居ないのか、ウーネは楽しそうに笑う。それを見ながら黒百合は黒笑みを浮かべる。
「さァ、さァ、可愛い可愛い悪魔の御嬢さん、この御酒も美味しいわよォ、一杯ィ♪」
「わーい、こくこく……ぷはー♪」
どうやら酔わせるだけ酔わせようと考えたらしく、ウォッカのスポーツドリンク割りをジョッキに注ぎ、差し出すとウーネミリアは疑いもせずに飲み干した。
「あ、ウーネさんだー! そうだ、バレンタインのチョコあげるー、おタマさんの分もー、甘くて美味しいよー」
更にそこにレイがやってきてウーネミリアに気づき、近づくとチョコレートを差し出した。
「ぽりぽり、あまーい★ 美味しー♪」
「……すばらしい飲みっぷりだわァ、さァ、さァ、もう1杯如何ァ……♪」
チョコレートを頬張り、黒百合のドリンクを飲みますますウーネミリアはグデングデンになっていった。
「……まさか、飲んでいるのか。ウーネリア」
「にゃー、うーねはうーねみあじゃなくて、うーねみりあらよ〜♪ ひっく」
ウーネミリアを探し2階や屋根裏を見ていた秀一だったが、最終的に黒百合とレイが囲む中心で接触した。
しかも酔っ払っているからか、頬は赤く染まりペタンと座る姿が何処か艶かしかった。
「とりあえず、酔いを醒ませウーネリア」
「らから、うーねはうーねみりあらのー……んー、あー……しゅーちだ。しゅーちらー……う”っ!」
ミネラルウォーターを手にウーネミリアへと秀一は近づく。
結果、ウーネミリアは秀一を認識し、抱き付くように秀一の首に腕を回し――た所で、こみ上げる物があったらしく……。
警戒をしていた秀一だったが、流石にゼロ距離の対処は無理だったのだろう。
「何かチョコの風味がした……」
そう後に彼は語るのだった……。