●
「皆さん遠い所をありがとうございます。改めまして、今日皆さんの案内を務めさせて頂くサヨリです。よろしくお願いします」
事件の起きた学校に行くと彼らを待っていたのか正面玄関にサヨリが立っており、お辞儀をした。
落ち着いている彼女に対して彼らは不信感を募らせる。
「それでは校舎の中をご案内します。どうぞこちらへ」
そんな彼らの心中を気づいているのか居ないのかサヨリは校舎の方を振り返り歩き始める。
彼女の背後から海城 恵神(
jb2536)はこっそりと中立者を使いカオスレートを調べる。
(さて、一応確認させてもらおうぜ〜)
その結果、天魔であれば彼らは問答無用で彼女を殺すだろう。
しかし、カオスレートを見破ったが……人間だった。
それを仲間達に言うと、納得はすれど案内を買って出た理由が益々解らなくなった。
「本当に事件関係者の方が興味深くていいんだがね。淑女的に」
思案しながらアイリス・レイバルド(
jb1510)は含みを込めて呟く。
「兎に角、捜索の前にまずは失踪した女生徒の確認じゃ。名と外見を知らねば探しようが無い」
可能であれば顔写真も見たいものじゃな。そう言いながら白蛇(
jb0889)が歩き、一向は職員室へ向かう為に歩き出した。
玄関に入ると、校舎の中は静まり返っており人の気配があまり感じられない。
疑問に思ったがサヨリは彼らを、職員室へと案内する為に前を歩く。
「どうぞ、中に先生が数名ほど居ますのでお話を聞いてください。私はこちらで待たせていただきます」
「だったら俺も待たせてもらおうか。いいか?」
北条 秀一(
ja4438)が言うと残りは理解し、職員室へと入って行く。
入室に気づいた数名の教師がこちらを見ると、この中で一番社交的に見えるユリア・スズノミヤ(
ja9826)が前に出た。
「すみません、斡旋所の紹介で依頼を受けた撃退士ですがお話を聞かせて頂いても宜しいでしょうか?」
「失踪した女生徒の詳細を訊ねたいのじゃが、大丈夫じゃろうか?」
撃退士だと知ると、彼らは一斉に安堵し事件解決に役立てる為に女生徒の資料を開示する。
資料には名前と外見、そして生徒手帳に使われたであろう顔写真が載っていた。
ふむふむと頷きながら白蛇はそれを読む。そして、もうひとつ気になっていた事を教師に訊ねる。
しかしこれは内密の為に聞こえないように注意を払っての事だ。
「実在している場合はその者の外見も教えて欲しいのじゃが。ふむ、わかった……判り次第教えて欲しいのじゃ」
……どうやら良い返事は得られなかったようだ。だが、後になってもう一度来たら判るかも知れない。
確認を終え、顔写真を依頼が終了したら消去する事を約束し携帯で撮影し彼らは職員室から出た。
最後に入口の方でサヨリが教師に向けて挨拶をし、扉を閉めた。
「それでは皆さん。よろしくお願いします」
「ええ、女生徒さん達にも大切な家族が居るんだ……だから必ず連れて帰ってこないと!」
もう妹の時みたいな想いをするのは嫌だよ……。苦々しく呟きながら四条 和國(
ja5072)は気合を入れる。
「それじゃあお前ら、行動開始と行くか?」
ヴィンセント・ブラッドストーン(
jb3180)の合図と共に彼らは先に打ち合わせした班で別れて行動を開始する事となった。
●
一階を探索し始めたアイリスとヴィンセントはまず最初に埋め立てられていたという部屋を調べる事から始めた。
科学準備室だった部屋はビニールシートが貼られていた。
二人はまず、ビニールシートを剥がす。するとひと一人が通れるほどの扉サイズの穴が姿を現した。
しかし急場で壊して開けた穴だからか穴の周りには瓦礫が付いたままとなっていた。
そんな室内へと廊下側からの明かりが少し入り薄っすらとだが見えた。
「サヨリさんの証言だとこの真上で女生徒達が壁に吸い込まれたという話らしいな」
「そうらしいな。しかしサヨリが怪しいから素直に信じるという事は出来ないぞ」
どうやらヴィンセントはサヨリが言った証言に少し違和感を感じているようだ。
「一応善意の協力者、という事だから形だけでも信じてみるべきでしょう。淑女的に」
そう言いながらアイリスは科学準備室だった部屋の中へと入っていく。後に続いてヴィンセントも中へと入っていった。
室内は改修して以来閉ざされていた為か、未だに埃は抜け切れておらず軽く堰が洩れそうになる。
さらに薄暗く、室内が上手く見通せなかったりする。
星の輝きで照らすなり懐中電灯などで光源を持っていたなら話は別だろう。しかし彼らは忘れており、持ってもいない。
「しかし、薄暗くても目よりも耳が頼りになる作業だ。珍しい観察の仕方で興味深い。淑女的に」
笑みを浮かべながら廊下から洩れる明かりを頼りに壁に手を当てるとアイリスは叩き始めた。
――コンコン。と少し重い木の音が壁からした。
その音を聞きながら入口の壁を背凭れにヴィンセントは自分の感じたサヨリの違和感を考える。
(サヨリは帰り道に校舎を見ると無数の目が現れたと言った。つまりそれは外だ)
だがそれは変だ。彼はサヨリが見ていたであろう場所を横目で見る。
(あの場所で見ていたとしたら、克明に見えるものなのか? いや、むしろ……死角にならないだろうか)
暗い場所から明るい場所を見ると見えなかったりするのではないか? そしてあの場所から2階の壁を見る事が出来るのだろうか?
大きな疑問がヴィンセントの中を渦巻く。そんな中で床や壁を叩いていたアイリスも気づく事があった。
――トントン
ひとつだけ音が違った場所があった。そこは――。
「壁に擬態できる天魔だったら……きっと他の物にも姿を変えられるってことだよね」
1階のメンバーが探索を始めた頃、地下へと降りたユリアと和國の2人は倉庫の中を探索する為に行動を開始していた。
倉庫の中は空気が行き届いていない為、埃臭かったが電気は通っているらしく入口近くにあったスイッチを動かすと、天井につけられた蛍光灯が灯り、暗い部屋が明るくなった。
手前の倉庫の中は、パイプ椅子や音響器具といった集会などで使う道具が主に置かれているようであった。
そのままユリアは他の物に擬態している可能性を考えながら倉庫に置かれた色んな物を見ていく。
すぐ近くのユリアから付かず離れずの距離では和國が立ち、万が一に備えながら周囲を調べる。
「居ませんね……奥の倉庫も調べてみましょうか」
「パイプ椅子も普通ですね。他の方も違うみたいだし……そうね、和國ちゃん。行ってみようか」
2人は倉庫の中を歩き、奥に続く扉を引くと中へと入っていく。
こちらも電気は通っているらしく、スイッチを押すと電灯は光を放った。
中には使われなくなった生徒用の椅子と机、職員が使うであろうアルミ製の机と回転椅子。その他にも教室で使われなくなった物が積まれ――と思った瞬間、チカチカと電灯が明暗し、最終的に明かりが消えた。
長い事、入る者が居なかったから手入れが怠っていたのかも知れない。
暗くなった室内に万が一天魔に襲われたら……そう考えながら和國はユリアを護りながら距離を詰める。
「大丈夫です。こんな時の為にこれがあります」
ユリアがおっとり口調で言いながら、手に光球を作り出す。光球は淡い輝きを放ち、暗くなった倉庫を優しく照らした。
「さすがスズノミヤ先輩。それじゃあ、中を調べましょう」
「はい」
返事をして、2人は倉庫の中を調べ始めようとした。そんな時、電話から声がした。
1階と地下のメンバーがそれぞれ調べ始めた頃、残りの4人は2階を調べ始めていた。
「すまぬがさより殿、案内を頼むのじゃ」
「わかりました。こちらです」
白蛇の言葉にサヨリは頷き、2階の教室を案内し始めた。
「目玉の化け物でっておいでー♪ 出ないと塩でも撒いとくかー?」
「なんで疑問系なんだ」
案内された部屋を丁寧に調べながら、壁をバシバシ叩く恵神に少し突っ込みを入れながら秀一は冥魔識別を使いながら壁や床に警戒しながら歩いていく。
2年教室、PC室、図書室、家庭科室と調べていき、1年教室に移動しようとした所でサヨリは立ち止まった。
「皆さん、私が見た場所は此処です」
「ふむ、此処か……壁の厚さは普通じゃな、では叩くと……」
「この壁に人が埋まってたりしないかねぇ……とりゃ!」
思案しながら白蛇はまじまじとその場所を見、軽く叩いてみる。同じ様に恵神がバシバシと叩いてみた。
音を調べる、それだけだったはずだ。しかし叩く力が強かったのか単に壁が脆くなっていたのか……壁に穴が開いた。
「どーまんせーまん! 悪霊退散ぜよ!」
パラパラと音がした中で恵神が阻霊符を構えた。その後ろでは、サヨリの安全を確保する為に秀一が下がる。
「サヨリ、少し離れていてくれ」
「はい」
「この穴は……下へと続いているようじゃな」
元はゴミを捨てる為の穴だったのかも知れない。底は暗く良くは見えない。
「もしかしたら転送している可能性がある。試しに食料等を落としてみる」
秀一がそう言いながら穴の中へと食料と香水と助けに来た事を伝えるカードをひとつに纏めて投げ入れた。
しばらくすると穴の下から香水の匂いが漂ってきた。これだけ強い匂いだと何処かにある隠し部屋の位置も分かるかも知れない。
そう考えながら、1階地下を探索する仲間達に連絡を取った。
「匂いなら私の方にも漂って来るよ。だが、もっと下からだ」
と、1階を調べていたアイリスが答える。そして地下からは。
「廊下隅の壁から微かながら匂いがします。和國ちゃんに匂いがしている壁を壊してもらっていますが……あ、板の裏に壁が……少し時間が掛かります」
「そうか、一足先に俺も飛び込ませてもらう。サヨリを頼んだぞ」
「任されたわ。それじゃあわし等は階段で地下に向かう。健闘を祈るのぢゃ」
白蛇が竜馬の形を取る権能を召喚すると共に、秀一は自分が潜り込める程に穴を広げると中へと飛び込んで行った。
●
飛び降りた穴は埃や蜘蛛の巣があり、秀一の服は汚れたが底へと辿り着いた。
そこは湿っぽく真っ暗な場所だった。歩く度に硝子を踏む感触と音がするのはきっと科学準備室から廃棄していたであろう器具の破片だろう。
「無事か? 無事なら返事をしてくれ」
「だ……れ?」
「……た、す……け」
「たい……よぉ」
秀一の声に反応する様に声が聞こえた。携帯のライトで女生徒が3人壁に背を預けていた。
小さいライトだけでは光源は足りず、女生徒達の怪我の具合が良く分からない。
『北条先輩、女生徒さん達は見つかりましたか?』
「ああ、今見つけた。きみ達、今助け――」
『良かった生きていたか。良い恐怖体験を伺えそうで実に興味深い。淑女的に……ん?』
和國が問いかけ、秀一が生存の報告を行い、アイリスが興味を持つ。しかし電話の声が止まり不思議にする。
「悪い、少し掛かりそうだ」
『出たか。急いで壁を壊す、だからお前は女生徒を護れ』
憎憎しげに呟きながら秀一は言い、察したヴィンセントが呟き言うと電話口から声が遠ざかる。
同時に少し上から激しい音が聞こえる。壁を壊しているのだろう。
その音を聞きながら、秀一は視線のする方を見た。暗闇でもくっきりと見える無数の瞳があった。
「邪魔はさせないぞ。その前に……壁から出てきて貰おうか」
光纏を放ち、阻霊符を発動させた。瞬間、透過能力が無効化された無数の目は弾かれる様にして壁から飛び出し……スーパーボールが跳ねる様に部屋中を跳ね回り始めた。
予想していた行動と違ったのか、秀一は少し驚いたがすぐに3人の女生徒を護る為に行動した。
『何じゃ、この毬が跳ねるような音は!』
『よーっし、これで開けれるぜよー。てりゃー! って、うわ。これって……ひゃっほう! 必殺、ゴールド☆フィンガー!」
途中まで電話口だったのが、扉が叩き壊される音と共に恵神の楽しそうな声が室内に響き渡った。
よく見えないが、バウンドした目玉が飛び込んできてそれを目潰ししたのだろう。
壁が壊された事により、明かりが差し込み中の様子が少しだけだが判る様になった。
しかし同時に密室をバウンドしていた目玉は開いた穴目掛けて飛び出し始めた。
「覚悟は出来てるよね……ハァッ!」
和國が飛び出した目玉の一つに冷たく囁きながら刀を抜くと、怒髪天の怒りを込めて目玉を真っ二つに斬る。
それを掻い潜る目玉にはアイリスが発光した剣身を振り、倒していき地面に落ちて行く。
「ふむ、斬っても何かが零れたりはしないか、多少変だが興味深い。淑女的に」
地面を転がる残骸を見ながら、彼女はほくそ笑む。
それでも潜り抜ける事が出来た残りの目玉は阻霊符の影響が出ない場所へと逃げようと移動する。
「こっちにおいで、……女の子を傷つけた罪はとても重いんだって事、教えてあげる」
近づいてくる目玉へと薄紫色の光の矢を撃ち出して行く。
それに命中して目玉は次々と落ちていく。
「私の舞台、まだ終わらせないよ」
そう言って、ユリアはその場で舞う様にして矢を撃ち出して行った。
●
「終わったな」
「そうですね」
救急車に乗せられる3人の女学生を見ながらヴィンセントは呟き、和國が相槌を打つ。
呟きながら和國は後日お見舞いで妹の好きだった花を彼女達に贈ろうと考える。
そんな時、階段の方で白蛇が驚きの声を上げた。
「なっ!? わしの千里翔翼の後ろに跨らせていたのじゃぞ! それが何故おらぬっ!?」
どうやらサヨリが何時の間にか居なくなっていたようだ。
もしかしたら助かった彼女達が心配で病院に向かったのかも知れない。そんな考えもあった。
「ああ、居た居た。お嬢ちゃん、頼まれた事を調べて来たよ」
「む、ああ……じゃが今はそれ所では無い。早くさより殿を探さねば」
職員室に行った時に白蛇が頼んだ事が判ったらしく、職員がやって来た。
突っぱねてサヨリを探そうとする白蛇だったが、周りが抑えて話を聞かせようとする。
結果、悩んだみたいだが最終的に話を聞く事にしたようだ。
「サヨリと言う生徒はこの学校には居ないよ。ただ……」
「「ただ?」」
「学校を改築する前に、あの子達と同じ様にあの穴から落ちて死んでしまった生徒が同じ名前だったみたいだよ。用務員さんがそう言ってて、その事件がこの学校の改築を後押しする事となったとか」
初めて知ったのか感慨深そうに職員がうんうんと頷く。しかし彼らはそんな事はお構い無しに固まっていた。
「あの……私達の案内を買って出てくれた生徒のサヨリちゃんはいったい……?」
「え、今日はあの子達が居なくなった事と撃退士の皆さんが来るからと言う事で臨時休校でしたよ。それに……」
――玄関に入って来た皆さんは7人しか居ませんでしたよ?
不思議そうな顔をする職員を他所に、彼らの周囲は時が止まるのだった。