●魔女が集まる喫茶店
その日、客が喫茶店の扉を開けると中は暗幕が掛けられ暗くなっており、室内には無数のカボチャが置かれていた。
しかもカウンターの店主はオッサン吸血鬼、そしてお子様魔女っ子に妖艶な魔女、和洋様々な妖怪が喫茶店内には屯していた。
いつも変な店だが今日はますます変な様子だった……変な恐怖を覚えた瞬間、お子様魔女っ子衣装に身を包んだ犬乃 さんぽ(
ja1272)が客を出迎えた。
女の子みたいに可愛い容姿だが悲しい事についている。そう、俗に言う男の娘という奴だ。
そんな彼が笑顔を向け、口を開いた。
「ハロウィンデーにようこそ、魔法の時間をあげちゃうよ」
そう……今日はハロウィン! 悪戯とお菓子を届ける日!(本当は違うけど)
そんな彼に出迎えられ、客は店内へと入っていった。
一度目は社交辞令、二度目は遅れない。
そんな想いの元、執事風の衣装に白手袋をはめ、頭に大きなネジを付けて顔に傷メイクを施しフランケンシュタインをイメージした時駆 白兎(
jb0657)が立つ。
店の扉が開くと共に召喚していたヒリュウのエルナに白い霧を吐き出させた。
突然視界が白に埋め尽くされた客達は困惑の声をあげる。その隙に白兎は後ろに回り込むと口を開いた。
「トリック・オア・トリート?」
背後からの声に驚いた客は軽い悲鳴を漏らす。それに対し、一瞬気まずい顔を白兎は見せるがすぐに無表情となり。
「……失礼、ようこそお客様。ただいまお席へ案内致します。あぁ、今宵は当店の魔物も荒れております。心臓の悪い方はせいぜい、ご注意の程……」
と言って、薄っすらと口を上げるのだった。
●開店、ハロウィンデー
「ああ、おもてないしして差し上げたいわ……」
体をくねくねとさせながら江見 兎和子(
jb0123)は更衣室にて着替えを行う。
彼女が選んだ制服は海パンに狼セット、胸は今にも解けそうな包帯を巻きつけて。
「いいよーいいよー、もう一枚脱いでみようかー」
何時の間にか忍び込んだそう言いながらカメラで兎和子を撮影するが、別の女性スタッフに気付かれ殴り飛ばされて追い出された。
ついでにその服装はダメと言われた。
「あら……、仕方ないわね。じゃあこれでいくわ……」
呟きながら妖艶魔女衣装を着て口裂け女風なメイクを施しホールへの扉に手を掛ける。
「ふふ、刺激的な一日にしましょうね……」
フロアでは魔女っ子、魔女、妖怪が入り乱れていた。
そんな彼氏彼女の想いは様々だった。
「何事も経験、仕事は仕事だけど……これはちょっと恥かしい、かな」
趣味の同人活動の為に経験を積む目的でこのバイトに入ったノルトリーゼ・ノルトハウゼン(
ja0069)は恥かしそうに帽子を目深に被る。
彼女が着ている衣装はお色気が高い黒色のドレス、魔女帽、マントといった漫画やアニメ御用達な魔女の衣装だった。
黒い衣装は色白に白髪のノルトリーゼに似合っており、スリットや胸元から見える白い肌が艶かしかった。
目元が見えない上に、恥かしさからかモジモジしている姿が何と言うか艶を感じさせた。
そんな時、客から呼び出しが掛かった。
「あ、はい。何になさいますか?」
呼ばれた事に気づき、近づくと礼儀正しく注文の受け答えを開始した。ただし目元は帽子で隠したままである。
そんな彼女の姿を思い出に残すべく勘十郎は写真を撮った。
「さすがにこの衣装はないよね。もっとちゃんとしたものでないと」
勘十郎に投げつけられた狼耳と尻尾や包帯を戻しながら、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)は用意した衣装を着込みフロアに立つ。
黒を基調としたスーツに裏地が赤の黒マント。
口から見せる歯は鋭く尖り、血を吸うのに最適な形をしていた。
グラルスは吸血鬼に扮しているようだ。
「お待たせ、ご注文は何が良いかな? ちなみにレディの血は貰ったりはしないからね」
女性客に呼ばれ近づくとグラルスは少し冗談めかして、言うと注文を聞き始める。
そんな彼の態度と元々のルックスに女性客は色めき立つ。と、突然何を思ったのかバサッと彼はマントを手で翻した。
「おっと失礼、しかしレディに対するその行動は見過ごすわけにはいかないのでね」
そんな笑うグラルスの先には同じ吸血鬼の格好をしているが残念店長がカメラを構えていた。
写真を撮るのに失敗した勘十郎は残念そうに仕事をする為に歩き出した。
そんな紳士的な態度のグラルスへと女性客が頬を染めながら注文をするのだった。
一方、入口の方ではウェイトレスが客を招きいれていく姿が見えた。
「いらっしゃいませ、ハッピーハロウィンっす」
ニコニコ笑顔で訪れた客を猫又姿のニオ・ハスラー(
ja9093)が迎える。
金色の猫耳と二又の尻尾、首の付いた首輪には金色の鈴が付いた首輪。
丈の短い着物の裾とエプロンを靡かせニオが客を席まで案内する。
「ご注文は何にするっすか? あ、小さな子とおじーちゃんおばーちゃんにはメニュー刺激が強いっすから注意してくださいっすね」
メニューを開く客にそう言うと、ニオはその場で注文を待つ。
しばらくすると注文が決まりニオが受け取るとキッチンへと向かう為に軽快に歩き出した。
跳ねるように移動していたからか、チラリと着物の裾から南瓜パンツが顔を覗かせ周囲の視線が集まった。
「注文っすー。言うっすよー」
キッチンに受け取った注文を伝えるとウェイトレスの仕事を再開しようとした……が、ふと何かに気づきしゃがんだのが見えた。
「何してるっす?」
「……き、記念写真だ」
匍匐体勢で斜め四十五度の角度に構えたカメラを持つ勘十郎を純粋な瞳でニオは見つめる。
それに耐え切れずに勘十郎は言葉を濁しながらシャッターを切るのだった。
(……ああ、これはきっと下から覗いて盗撮してたな)
気づいた客達はそう思うのだった。
そう思っていると料理を運ぶさんぽが彼に気づかずに踏み潰していく。
「う、うわっ!? な、何か今踏んだっ!? ――あ、店長さんかー」
驚くさんぽだったが踏んだものが店長だったと気づくと安心したのかホッと息をついた。
と、思い出したようにすぐに彼は料理を持っていくのだった。
そんな魔女っこ(男)の後姿を勘十郎は写真に収めた。
「お手伝いに来たの……でも、めにゅーのらいんなっぷが本当に怖くて……運べない……の」
涙目で起き上がった勘十郎を見ながら若菜 白兎(
ja2109)が小動物のようにビクビクしながら言う。
そんな白兎は魔女っこ衣装を着ており、小柄な体にそれはよく似合っていた。
「だから注文聞くのと、どりんく類運ぶのだけにしてもらえないでしょうか?」
「うーん、そう言われてもな……」
お願いされる勘十郎は困った表情をするが今にも泣きそうな瞳にあまり強くは言えない。
そして考えた結論を溜息を軽く吐くと白兎へと告げた。
「分かった、今回は君の言った通りにしても良い。だけどもう少し大人になったら頑張ってくれ」
出るとこ出て、バインバインになったらあの衣装を着て。と何か副音声で聞こえたがきっと気のせいだろう。
「いい……の? うん、頑張る……の、ありがとうございます。店長さん」
勘十郎がそう言うと、助かったのか少女は目を輝かせて頑張る事を約束してお辞儀をすると仕事に戻った。
そんな中、入口から一際元気な声が聞こえた。
「ハッピーハロウィーン!! 魔法使いの喫茶店にようこそー!!」
入口を見ると、両手を広げて藤咲千尋(
ja8564)が客を出迎えていた。
しかも衣装は妖艶な魔女衣装だ。……が、勘十郎は衝撃的なものを見たように固まっていた。
「なん……だと……?」
あの衣装は胸があまり無い人が着ると残念な事になるのだ。要するに千尋=貧乳という認識を彼は持っている。
なのにそれを着ている……何故、何故だっ!?
「確かめなければ……確かめなければ!!」
カメラをズームにして彼は千尋を見た。……あ、シリコン製の装甲が見えた。
その視線に気づいた千尋は顔を真っ赤にしながら勘十郎を蹴り飛ばした。
「こ、こういう衣装だって、つま先からウェスト辺りまではいい感じだと思うんだ、よ!!」
胸元を隠しながら彼女は叫ぶ、そんな彼女の肩に顔に足跡を付けた勘十郎が優しく手を載せた。
何も言わないが瞳で語っていた。うん、ハロウィン。ハロウィンだもんな。
「〜〜〜っ!」
口で言われるよりも数倍恥かしいそれに千尋は顔を真っ赤にしながら安全ピンでマントを留めるとポンチョのようにするのだった。
そして、目には血涙という天然物のメイクが追加されたのだった。
「……うふ★」
一枚のまな板のような体型のエルレーン・バルハザード(
ja0889)が鏡に向かって魅惑的なポーズを取る。
魔女っこ衣装のマントを外し手製の翼を取り付け、悪魔っこへと変身したエルレーンは今や夜の蝙蝠。
さあ、皆の者私のせくしーっぷりに悶えるがいい! とか思ってるとか思ってないとかの状況だった。
それをクリスティーナ アップルトン(
ja9941)が気付き、笑顔で駆け寄る。
「あー、いつぞやの! お久しぶりですわ!」
笑顔でクリスティーナはエルレーンの衣装を見ると考え、答えを導き出す。
考える仕草でお尻が揺れ、おっぱいが腕で潰れたりする。
「エルレーンさんは……断崖絶壁妖怪のナイアガラ風コスプレですの?」
まったく悪気は無い、悪気はないはずだが……無い分余計に酷かった。
瞬間、言葉のジェットアッパーにエルレーンは吹き飛んだ。
「うぐ、うぐぐ……ボ、ボイン爆発しろ! 爆発しろ! バクハツシロ!!」
血涙を流しながら、床を打ち抜く勢いでエルレーンは地面を殴りつける。
「楽しそうですわねっ♪ さてと、私も接客をしっかりしないといけませんわね」
数十分後、血の池地獄に大量のデスソースが混ぜられ客が倒れたり、セクハラをしようとした客へと血涙を流した宝井学園長の姿をしたエルレーンが阿鼻叫喚を巻き起こしたとか巻き起こしてなかったとか。
喫茶店のイケメン店員よろしくな服装に狼耳と尻尾を付けた風間 銀夜(
ja8746)が笑みを絶やさずにホールで接客を行う。
だが、彼の視線は何度も夜科小夜(
ja7988)へと注がれている。
「……ご注文は、以上でよろしい、でしょうか……?」
途切れ途切れに話す口調ながらも初めてのアルバイトを頑張ろうとする姿に兄である銀夜は優しい瞳で見つめる。
もう目の中に入れても痛くないほどに見る。
子供魔女の衣装を改造して、黒いワンピースにマントと魔女帽、黒のニーハイブーツを履き、何時も束ねているポニーテールをおろし黒く艶のある髪が綺麗だった。
(うんうん、流石小夜。僕の選んだ衣装が凄く似合ってる)
と心の中で思っているが実際はあんなお臍丸出しな格好を可愛い妹にさせるわけが無い!
要するに超が付くほどのシスコ――NOTシスコン、YESサヨコン!
とか思っていると、小夜へと近づく影があった……沙 月子(
ja1773)だ。
「ご、ごめん夜科さん……ちょっと、ちょっとでいいから隠れさせて」
顔を真っ赤にしている月子だったが、どうやら頑張って魔女ドレスを着ていたのだが、恥かしさが限界突破し一時的に避難させてもらったようだ。
そんな彼女の盾となるように小夜は静かにその場に立つ。
「……沙さん、大丈夫……?」
「うぅ、グロいものに抵抗がないから出される料理は大丈夫だけど、この制服が恥かしい……!」
言いながら月子はスリットから脚が見えないように抑えながら、胸を手で隠そうとする。
でも、そういう感じの仕草って何だかえっちぃよね。
その考えが伝わっているのか、勘十郎がカメラを手に写真を撮っていた。
「いいよいいよ。2人ともポーズを撮ってくれると嬉しいね!」
とか言ってると、彼の背後へと銀夜が釘バットを持って立つ。
更に水無瀬 快晴(
jb0745)が後ろからこっそりとカメラを奪う。
「……そういう行為は頂けないな」
静かに移動する快晴の衣装は着流しの着物に猫耳尻尾であり、化け猫を意識しているのか静かに動くのが得意そうな印象だった。
更に小さなシャッター音を聞き逃さず、音がした方向へと見えない弾丸を撃ち的確にカメラを破壊する。
「……悪く思わないでほしい」
何が起きたのか分からない客は驚くばかりで、それに対し快晴は小さく呟く。
一方、小夜の使い魔という立ち位置だから主人に何かがあった時の面倒事を処理する役割なのだろう。
「店長、店内でのトリックはお控えください。もし断った場合、使い魔が容赦致しませぬ故お覚悟を」
「ふう、冗談だ冗だ――って、おい引っ張っていくな! おいー!」
スマイル銀夜によって勘十郎は店の奥へと引っ張られていき天然のメイクを行うのだった。
学生服と狼セットの組み合わせをし、狼特有の鋭い牙を口に取り付けた影野 恭弥(
ja0018)がクールな狼男のように注文を取る。
「これで注文はいいか?」
無愛想な態度だが一匹狼のような態度にクールを求める女性客は頷く。
畏まりました。と無愛想ながら客に対する礼儀を唱え、恭弥は注文を伝えるべくキッチンの方へと向かっていった。
それからしばらくして出来上がった料理を持って現れた。
「以上で注文はよろしいでしょうか」
やはり無愛想に言って去ろうとした……所で、口の端に血が垂れている事に気づき拭うのだった。
人を食ったような演出だったそれは客に恐怖と共に刺激を与えた。
どうしてか分からなかった恭弥だったがキッチンで仲間が楽しそうにしているのを見た所で、料理を持って行くときにくれたガムに仕掛けが仕組まれていた事に気付くのだった。
「これは何とも……如何わしくはありませんか」
「……わたくしとしたことが、予想すべきでしたわ!」
リネット・マリオン(
ja0184)の言葉に桜井・L・瑞穂(
ja0027)が頭を抱えて悲鳴を上げる。
そんな2人の格好は妖艶魔女であり、片や色白黒髪のお嬢様魔女、もう片方は小麦色の肌に青髪のすんごい魔女。
どちらも出る所は出ており、妖艶魔女衣装を着こなしているが瑞穂の方は似合ってるが、リネットの方は胸と尻が少しでも衝撃を受けたら破けてしまいそうなほどだった。
(胸と尻の布がはちきれそうだ……)
きっと口にしたら少なからず主である瑞穂がショックを受けてしまうだろうと思い口にしないのだろう。
そう思っているとショックから立ち直った瑞穂がリネットへと向く。
「まあ兎に角……リネット。遠慮は無用、徹底的に教え込んで下さいな」
「難しい事はございません。敬意と忍耐を忘れなければそれで宜しいかと」
「そ、そう? それじゃあ、わたくしも頑張りますわ!」
接客の師事をリネットはそう言うと、自信満々に瑞穂はオーダーを取りに行く為に歩き出した。
しかしやはり心配だからか、リネットはトレイに水が入ったカップを持つとその後ろへと付いていった。
「いらっしゃいませ、ご注文は何になさいますの? わたくしとしてはこのかぼちゃ爆弾が美味しそうだと思いますわ!」
「すみません、注文が決まりましたらお呼び下さいませ」
注文を受けるような感じじゃないポーズで客の前に立ち、瑞穂は自信満々に言う。
それに対し、リネットは軽く溜息を吐くと彼女を連れて後ろへと歩き出すのだった。
「あら、リネット? どうしましたの、そんな引っ張ると衣装が脱げてしまいますわー!」
い、いったい何が……と言った表情をしながら、客は見るのだった。
夕方になってくると、客層も段々と変わって行き本格的な夜に近づこうとしていた。
「さあ、客よ、どんどん注文するが良い! この神たるわしが直々に奉仕してくれようぞ!」
半ば自棄になっているのか、白蛇(
jb0889)が魔女っこ衣装を着て偉そうに客の前に立つ。
子供が威張りたい盛りだろうと客は生暖かい目で見つめ、おじょうちゃん頑張ってるねと言いながら注文をする。
子供ではないと文句を言いたいだろうが仕事は仕事と言うわけで白蛇は抑えると受け取った注文を手に尊大にポーズを取る。
「うむ、畏まった! しばし待つのじゃ!」
そう言ってキッチンの方へと向かい、少しすると出来上がった注文を持って歩き出そうと……。
「ちぃ、手が足りん! 堅鱗壁の司よ、主も手伝うのじゃ!」
叫び、司を呼び出すと彼女は数枚の皿を背中に乗せて客のほうへと向かっていった。
ハロウィンならではの演出だろう。
そんな光景を見ながら、八重咲堂 夕刻(
jb1033)は苦笑する。
「なんというか……場違い……ですねえ」
若者だらけの中でコスプレ年寄りが混じっていると言う事に対しての苦笑だったようだ。
着流しの着物に銀狼の耳尻尾、煙管といった和式使い魔風の格好だ。
「狼男の血は如何ですか?」
緊張しているのか表情の硬い客を見つけ、夕刻はトマトジュースを差し出す。
出された物を飲んだ瞬間、夕刻は冗談めかして笑い、両手を広げ驚く仕草をする。
「おや、これはいけない! ……あなたも狼になってしまいましたね」
そう言って、頭に狼耳を取り付ける。
これで緊張が解れたのか、客は笑顔となる。それを見ながら、夕刻は失礼しました。と言って狼耳を外す。
それはそれで受けが良いと言う訳で、勘十郎がこっそりと新しいカメラで撮影するのだった。
「喫茶店のバイト再び、ですね」
前みたいな変な制服を着せられなくて良かったと思いながらRehni Nam(
ja5283)はキッチンに立つ。
そんな彼女の服装は白拍子。しかし、ただのではない……頭には金色の耳、お尻からは九尾の尻尾が生えていた。
九尾の白拍子といったものだろう。
「妖怪コスプレ、これなら問題ないですよね」
自信満々の呟きながらレフニーは長い振袖を1本の紐で纏め上げると作成しているお菓子に一工夫を開始した。
まず最初に詰め指の盛り合わせの爪にチョココーティングをし始める。
まるでネイルを描いている気分だ。更に新規で作り始める爪指には骨の形に作り直したチーズスティックを中に入れて迫力をアップさせた。
それを面白そうに勘十郎は隠れながら写真を撮っていた。
「ふふっ、こっそりはダメよぉ。ちゃんと一声掛けてくれないと」
そんな勘十郎へと声が掛かった。顔を上げてみるとスリットから艶やかな小麦色の太股が覗き……より上を見ると黒いドレスに包まれた豊満なおっぱい。
顔が見えなかったので立ち上がると、ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)が胸を強調するようなポーズで立っていた。
普段と違う口調に微妙な表情を見せるのに気づいたソフィアは妖艶に微笑む。
「雰囲気は大事にしないと……よね」
要するに意図的にそんな感じの声と仕草をしているようだ。……似合ってるから良しとしよう。
「じゃあ、1枚撮らせてもらうぜ」
「あなたもちゃんと料理を作りなさいね」
カメラを構える勘十郎にソフィアはツッコミを入れた。
「可愛くていいですよぅ。ハロウィンっぽい感ですっ」
ひと段落し始めた頃、黒瓜 ソラ(
ja4311)が隣でぐったりするギィネシアヌ(
ja5565)に語りかける。
隣に立つ彼女とソラの服装は共に魔女っこ衣装だ。
しかしスタイルの違いで、印象は両極端となっていた。
ソラは年齢と違い成長しているため魔女っこ衣装が少しきつそうだが、それがまた良い。
ギィネシアヌは体型が幼過ぎるためこの衣装は凄くよく似合っていた。
「ぐぬぬ……俺にもっと色気があれば他の服を、だな」
「ネア先輩? どうかしたんですか??」
ギィネシアヌのグギギと言う嘆きにソラは首を傾げるばかりだ。
だけど落込んでばかりではいられない、先輩としてソラに接客の仕事を改めて教えなければ!
「いいかソラ。客商売は、一に笑顔、二に笑顔。三四がなくて五に気配りだ。不満があっても顔に出してはならぬのぜ」
ついさっき顔に出ていたような気がと誰かが思ったが客が見ていないから良いという発想なのだろう。
そしてその教えを聞き、ソラは自信満々にギィネシアヌよりも大きな胸を張った。
「スマイルなら任せろー! 今日の座右の銘は『スマイルガーデン、ハッピーカム』ですよぅ!」
純粋にペカーッて太陽のようにソラは名前のごとく青空のように笑う。
「あー……なんだその、うん。良い笑顔だ、百点を挙げよう」
どう反応すれば悩んだ末に彼女はそう言ってよく出来ました判子を押す仕草をする。
それを嬉しそうにソラは受け取るのだった。
●夜のハロウィンパーティー
「「ありがとうございましたー♪」」
一同が勢揃いして頭を下げる中、最後の客が店から出て行くと共に喫茶店は営業時間の終了を告げた。
誰かが安堵の溜息を吐くと共に全員緊張していたのか、はふぅと座り込んだ。
「おー、今日は助かった。あとは店の後片付けだけだな!」
所々ボロボロになった勘十郎が元気良く店員達に告げる。
というか良く生きてるなこいつ……。
「……の前に、最後の仕事だ。さあ、飲めや歌えのパーティーだ!!」
勘十郎の叫びと共に思い出したように彼らは立ち上がり歓声を上げた。、
「……甘いもんでも身長伸びるかなぁ」
少し気になりながら相馬 カズヤ(
jb0924)は今日店で出されていたハロウィンメニューを自分が座る机に並べる。
そんな彼の仮想は和洋折衷みたいな服装に犬耳尻尾のとあるカードゲームのキャラのコスプレらしい。
「へへっ、でもこういうの一度やってみたかったんだー」
金持ちの気分を味わいながら、カズヤはまず最初にマジックジュースを飲み始めた。
段重ねとなってオレンジ、アップル、パイナップルのジュースが入っており、掻き混ぜると一つのミックスジュースへと味が変化していった。
次に指を食べ始めるとサクサクとした歯応えと素朴な甘さ、少し酸味のある甘いイチゴジャムが口の中で混ざり合っていく。
とか思ってるとカリカリチーズ入りの物が入っており、どうやら骨を演出しているようだ。
想いっきり食べていると友達作りを思い出し、サイコロを手にカズヤは立ち上がる。
「な、なあ! ボクとゲームしないか? ハイ&ローって言うんだけど……」
そう言って笑いかけるのだった。
夕刻がマロウブルーを飲む中、ギィネシアヌ、ソラ、白蛇の3人が話題を行っていた。
「ほう、ぎぃねしあぬよ、良く似合っておる。実に愛いのう」
「そういうきみだって凄く似合っているぜ」
白蛇が含み笑いをしながらギィネシアヌに語りかけると、蛇の系統同士だからか目つきの悪い瞳を白蛇に向ける。
「ふも? もふふ、ふもふももふもふもっふっふふほ!」
そんな2人に向け、ソラが死の断末魔を口いっぱいに頬張りながら喋る……しかし、モゴモゴしすぎてまったく聞こえない。
黙って立っていたらクールビューティなのに、動いたりすると残念なことになると言う何と言うか可哀想な子だったようだ。
「あー、ソラ。一度飲み込んでから言ってくれ……って、ああほら、ボロボロ零れてるだろ!」
「もぐ……もぐ、もっ……はぐっ、ネア先輩も白蛇さんもすっごく可愛いですよっ!」
目に入れても可愛い後輩に対してギィネシアヌは面倒見がいいらしく顔を赤くしながらソラの口を拭うのだった。
それを見ながら白蛇はうんうんと頷くのだった。
「リネット、今更ですが良く似合っていますわよ。ふふふふっ♪」
「いえ、私など。お嬢様こそ、実に似合っておいでです……」
互いの格好を見詰めつつ、瑞穂とリネットが互いが互いを褒め称える。
甘過ぎる空間を作りつつ2人は微笑みあう。
そんな甘過ぎる空間をより甘くするように2人はカボチャのお菓子を取ると互いに食べさせ始めるのだった……。
(なるほど……リネ×瑞ですか、それとも……瑞×リネ?)
他参加者の衣装に興味を持ちながら色々見ていたノルトリーゼだったが、2人の甘過ぎる空間に興味を引かれ同人風に考えてしまった。
「お仕事お疲れ様、レフニーさん」
「グラルスさんもお疲れ様です。何が食べたいですか〜?」
グラルスがキッチンへ行くと未だ料理を作り続けるレフニーがそこには居た。
料理が好きだからと言う事もあるのだろうが、グラルスが柔らかく苦笑交じりに微笑む。
「それじゃあ、ちょっとお願いしようか」
「はい、わかりました〜」
そう言ってレフニーは料理を作り始めた。
「爆ぜろ巨乳、弾けろビッグバン……!」
ぶるぶる震える周りの巨乳オーラに遂に負けたエルレーンは跪きながら、怨念を込め恨めしく呟く。
そんな彼女へと勘十郎が優しく肩を叩く。
「断崖絶壁にも断崖絶壁の良さがあるさ……」
「例えば……?」
「……お皿代わりとか?」
瞬間、勘十郎は蹴り飛ばされた。そんな勘十郎に妖艶魔女姿の美女が語りかけた。
「トリックオアトリート!」
「素敵なお嬢さんにならトリックされた……ん?」
「あっ、ボク変化解くの忘れてた……てへっ」
瞬間、変化を解き美女はさんぽへと戻った。勘十郎が泣きながら立ち去って行った。
「精神的に疲れました……」
即座に私服に着替えた月子がカウンターに突っ伏す。
数か月分ぐらい働いた気分でしばらくは恥かしい衣装は着たくないと心から思った。
同じ様に制服に着替え、カウンターで突っ伏している千尋は心に負った偽乳の呪いに嘆き同じ様に突っ伏していた。
ああ神様、乳をください。または乳を無くしてくださいと思っていたりするのだろうか……?
隣では白兎がプルプルと震えながら大量の指が入った皿を見る……が決心したのかギュッと目を閉じて一気にパクッと口の中に入れた。
「……ほぁ、ほわぁ……」
見た目と違った美味しさに泣きそうだった少女の顔に笑顔が灯り、お菓子を食べ始める。
しかし、疲れ切っていたのかうとうとしながらこっくりと船をこぎ始めていた。
「兄様、焼いてきたアップルパイです……」
「ああ、ありがとう……うん、林檎も甘くてパイもサクサクしてて美味しいよ。小夜」
小夜の差し出したアップルパイを食べ、お礼に銀夜は妹の頭を撫でる。
撫でられ、んぅ。と呟きながら他の人へと振舞うために歩き出した。
去っていく妹を優しく見ながら銀夜はサラサラの小夜の髪の感触を魂に刻むのだった。
「んー、美味しいっす!」
腕ババロアを口に入れながら、ニオは笑顔を浮かべてそれを食べる。
甘い珈琲牛乳の味わいとプルプルとした食感、軽く吸うとチュルンと口の中へと吸い込まれていく。
周りからしてみたら、口から手が生えている状況だったりするが本人は美味しいから気にしない。
そう思っていると、ソフィアがジャック・オ・ランターンなどのデコレーションクッキーを配っているのに気がついた。
「良かったら食べてちょうだい、美味しいかはわからないけど」
渡されたクッキーを食べると素朴な甘さが美味しく思えた。
「そうだったっす、あたしも作ってたんだったっすよ♪」
思い出し、同じジャック・オ・ランターンの顔を描いたクッキーを取り出すと回りに配り出すのだった。
「なるほど、トマトの味がしっかり出ていますわね……それに野菜も細かく刻まれて分かりにくくなっていますが……美味しいですわ」
血の池地獄を味わいながらクリスティーナは味を盗もうと頑張っていた。
プカプカ浮かんでいる目玉はいったい何だったのかと思い食べてみると、大きめに切った野菜だった。
こういう笑いを掴むために使ったのだろう。
「面白いですわね、私のほうでもやってみようかしら」
そう呟くのだった。
適当に食事を終えた恭弥が喫茶店の隅で立っていると同じ様に快晴も立つ。
ただし恭弥は静かな場所を求めてであり、快晴は見守る為だった。
そんな彼らに気付いた勘十郎が近づき、こっちに来いとは言わず。食後の珈琲を出す。
「どうだ、楽しめたか?」
珈琲を受け取った恭弥はそれをスルーして珈琲を飲む。
受け取った快晴は今日一日を思い出し目を閉じ……。
「……まぁ、楽しかったよ」
と告げた。
「そうか、立ったらもっと楽しめ。学生生活は短いからな」
そう言って勘十郎はその場を去って行った。
良く分からないその言葉に首を傾げながら快晴は珈琲を飲むのだった。
こうしてハロウィンの夜は過ぎていくのだった。
きっとこの中に紛れて本物の幽霊や妖怪が混じっていたりもしたのかも知れない。
しかしそれもハロウィンの醍醐味の一つなのだ。
そう思いながら勘十郎は紛れた者にお菓子を与えるのだった。