●団子を作ろう
お月見当日、喫茶店の窓から見える空は赤みが掛かっており太陽が降りようとしているのを告げていた。
あと数時間もすれば完全に陽が落ちるだろう。
そんな中、お月見会に訪れた参加者達はそれぞれの役割を行っていた。
空き地ではお団子作りにウサギ達の餌作りを行う準備や、お月見を楽しくしようとする参加者達の動きがあるのだった。
喫茶店から持ってきたテーブルを合わせて作業台にし、月見団子が作られていた。
と言っても、現在作業台で団子を作っているメンバーの殆どは『うさ』の名の下に集まったお友達一同だったりする。
それ以外の参加者として、金髪のサイドテールの少女がいるのが見えた。
『うさ』の仲間達へと新名 明日美(
ja0222)が用意された団子粉と水を用意し、台の上へと置いていく。
「月見なんて二の次や、作って食ったろーやないか」
そう言って霧切 左京(
ja5398)は楽しそうに団子粉をボウルの中に入れると、量った水を入れるとそれを混ぜ合わせる為に掻き混ぜ始めた。
同じ様に周囲の仲間達も行っていく。
「んじゃあ、俺は二人を応援する役を」
言いながら近くのイスに座ろうとする柏木 丞(
ja3236)だったが、遊佐 篤(
ja0628)が視線を送る――手伝え。
喋って唾液がボウルの中に入ったりするのがイヤだったりするのだろう。だから篤は視線だけ送ったのだ。
「ああ、はい、手伝います」
応援と言う名のサボりをしたら後で篤に何をされるか分かったものじゃない。だから諦めて丞も作業を開始した。
「ほら、兄貴も一緒に団子作ろうぜ!」
「……仕方ない……な」
白虎 上総(
ja0606)の誘いに白虎 直紹(
ja0604)が笑顔で近づくと、水と混ざった団子粉を混ぜ始めた。
水を吸い始めた団子粉が粉から固形へと変わり始めると、千切れ易い紙粘土を触っているようなザラザラとした感触が手に伝わってきた。
「丸くしたらいいんですっけ?」
「ど、どうでしたっけ……?」
丞の言葉に明日美がオドオドしながら首を傾げる。
とは言っても、何だか張り切っている篤と左京に視線を向けられる。
「いやいや、うさぎ型を作るんだろ。そして、作ったそれを熱湯で茹でるんだ」
そう篤が言い。
「ええかぁ、重要なんは冷水に晒して団扇で扇いでからで――」
これ以降はかなり熱弁となるので割愛。
「んーと、本物見ながらつくれば、なんとか可愛くつくれっかなー?」
「わ、ぁ……。うさぎさん、いっぱい、です……♪」
篤や明日美が足元を跳ねるウサギを見て、声を洩らす。
こうして作り終えた団子をパットの上に置くと、鍋の水が沸騰するのを待つ。
その間に、団子粉を混ぜ合わせたボウルを巌瀬 紘司(
ja0207)が喫茶店脇の洗い場で洗剤をつけたスポンジでゴシゴシと力強く洗っていく。
真剣に洗う飼い主の屈んだ背中に爪を立てて、サバトラ猫の桐が夜目を光らせながらグイグイとよじ登っていく。
時折ボウルを入れ替える作業で紘司が体を動かすと揺れた影響で桐の後足の爪が服から外れ落ちそうになるが、前足の爪で落ちないように頑張ってブランブランとしていた。
お湯が沸騰するとうさぎ団子を熱湯の中に落としていく、沈んだ団子はしばらく熱湯に沈んで……浮き上がってきた時にはもう粉ではなくモチモチお団子に変化している。
その後は冷水で冷やして、団扇で水を飛ばせばお月見団子が完成だ。
それを待っている『うさ』の面々が鍋を見ている中、篤が左京へとデジカメをこっそりと渡す。
「手筈通りにいくぞっ霧切!」
「よっしゃぁ、任せときぃ」
何かよからぬ事を考えているのか誰にも気づかれない様に、2人は準備を着々と進める。
その間にも鍋に沈んだ団子はプカプカと浮いていき、出来上がった事を教えていく。
ザラザラとした白色だったうさぎがクリーム色になり、姿を現す。
それを網で取ると、氷水を入れたボウルへと次々と落としていく。
熱が取れたら、余熱と照りを出す為に団扇で仰いでいる中、上総が丞の脇から顔を覗かせた。
「ウマそーじゃん。あーん」
「え、上総。どうした――もぐもぐ」
口を開ける上総に対し、丞がされるまま口を開けて団子を食べる。そこへ明日美がオドオドとしながら止めに入る。
「……あわ、上総先輩、まだ、ダメで……っ」
「おいし? おいし?」
しかし、そんな彼女の口へと上総は出来立て団子を口の中に押し込もうとする。
そんな喧騒の中、左京は静かに爪楊枝と筆を使って食紅でウサギに顔を付けるのだった。
●ペットの餌作り
一方、動物達の餌作りとして野菜を調理する面々はまな板が載せられた作業台の前に立っていた。
「皮は残した方が良いだろうか」
包丁を握りながら、酒井・瑞樹(
ja0375)は悩む。
そんな彼女の足元をウサギがぴょこぴょこと跳ねていく。
(も、もふもふなうさぎが沢山! ここは天国か……い、いや。可愛い物好きなどとバレては一大事)
頭を軽く振り、冷静さを保ちながらコホンと瑞樹は咳払いする。
「武士たる者のやる事ではないが、依頼だから仕方が無い」
自分に言い聞かせ、瑞樹は野菜を切り始めるのだった。
その近くでは、楠 侑紗(
ja3231)が野菜を1本1本念入りに水洗いしていく。
「去年うさぎ年だったからって、愛らしい毛玉の映像ばかり映したテレビさんは、畜生の極みなのですー……」
淡々と呟きながら、跳ねたりじゃれ合うウサギを見ながら侑紗はウサギの可愛さに見惚れるが野菜が欲しい声が聞こえ、作業に戻るのだった。
まな板に置かれた野菜を夏野 雪(
ja6883)がトントンと切っていく。
「お月見……も大事だけど、うさぎ……」
淡々としながら作業を行う雪だが、頭の中はウサギさんカーニバルが開催中だったりする。
だから、ウサギさんに食べ易い工夫を考えながら野菜を切っていた。
「食べやすいほうがいいよね……」
そうしていると、足元に小さく白いウサギがクリクリとした赤い瞳を雪に向けていた。
向かいでは村上 友里恵(
ja7260)が用意した野菜とドライフルーツを食べ易く切っていく。
「待っていてくださいね、ウサギさん」
今はまだ抑えているのだ、準備が終わった後は全身全霊を込めてウサギにストレスを与えないようにしながらもふるのだ。
同じ様にもふもふしたい根来 夕貴乃(
ja8456)は餌用の野菜を持ち易く且つ食べやすい野菜スティックへと切っていく。
野菜は事前に夕貴乃がウサギの好物を調べて、用意された餌用の野菜から選んだ物だ。
「うさぎさん、もふもふするの……」
同じ様にウサギが食べやすいように紀浦 梓遠(
ja8860)が野菜を細長くカットしていたが、足元にウサギがいるのに気づいた。
切っていた野菜を1本取るとそれをウサギに近づけた。
するとウサギが、近づくと……カリッと野菜を食べ始めた。しかも、そのスピードは速く、あっという間に半分を食べ終えたではないか。
そんな食べている最中のウサギを梓遠が抱き上げると毛並みを堪能し始めた。
「かわいいなぁ……もふもふ、えへへ……」
何と言うか凄く嬉しそうだった。しかし、ウサギは大人しかったが高い位に上げられて少し怖くなったのか「離してー!」と表現するように前足をバタバタと動かした。
そして、暴れた結果……ウサギは跳ねて梓遠から離れると、逃げるように去って行った。
残念そうに梓遠は逃げていくウサギを見ているのだった。
「……ちょっと小さく切りすぎたような気が……?」
慣れない手つきで包丁を握り、野菜を細かく裁断した結果……摘めるほど小さな大きさになった。
だけど切り過ぎていない、これは切り過ぎていないんだ。むしろウサギ達に食べ易いサイズになっているに違いないんだ!
そう言い聞かせながら、フェリーナ・シーグラム(
ja6845)は足元にいる白い子猫のシロに同意を求めるように見る。
ファーっと口を大きく開けて、欠伸をしていた。何時もは寮でお留守番中のクロ・ミケ達と共にごろ寝を楽しんでいる時間帯だからだろう。
そんなシロが飼い主のフェリーナが見ている事に気づき、視線を向ける……と手に包丁を持っているのに気づきご飯の時間と思ったらしく。
ニー、ニー。と鳴きながら爛々と輝く瞳を向け、ご飯を催促し始めるのだった。
●お月見!
すべての準備が終わる頃には空はもう暗くなっており、夜空には金色に輝くお月様が照らし出されていた。
幾つものお皿の上には、丸く作られ積まれたお月見団子。
『うさ』の面々が作り上げたモチモチウサギが月に照らされる。
すぐ傍には細長く切られた野菜や、切り刻まれた野菜と言ったウサギ用の餌が置かれていた。
そして、地面を跳ねたりのんびりしたりじゃれ合ったりと様々な姿を見せるウサギ達。
お月見会の始まりだ。
「こっちが恋人のシスイ、でこっちがアタシの大事な妹のジネットだし! ちなみに、ディガはジネットがつけてくれた名前なんだよ〜」
ニコニコ笑顔を浮かべながらミシェル・ギルバート(
ja0205)が小柄な茶虎の猫のティガを抱きながら2人を紹介する。
ミシェルにとってどちらも大事で大切なひとだから、仲良くなれるといいと心の中で思っているようだ。
「初めまして。癸乃紫翠です。お噂はかねがね」
笑みを浮かべながら、まず最初に癸乃 紫翠(
ja3832)が手を差し出し握手を求める。
それに対し、ジネット・ブランシャール(
ja0119)が差し出された手を握り返すと挨拶を行う。
「初めまして、だね。私はジネットだよ。ティガも久しぶりだね」
紫翠に挨拶をし、すぐにミシェルの抱くティガに近づくと前足に握手をした。
ティガもジネットの顔を覚えていたのか、ニャーとひと鳴きしてされるまま握手をした。
「ティガの名はジネットさんが……良い名前ですね」
「そうだよ。ところで……葵乃の傍にいるのは…………猫?」
ジネットがそう言うと、紫翠の足元で座り込んでいる黒い塊はグルグルと音を鳴らす。
紫翠が最近拾った黒猫で名前はザクロ。大きさは普通の猫の2倍近くのでかさと言う、猫?といった動物だった。
そんなザクロはぴょこぴょこ跳ねるウサギをゆっくりとした動きで見る。しかし、追いかける気は無いらしく動かない。
そこにミシェルが抱きかかえたティガをザクロの上へと乗せた。
乗られたザクロは飼い主達のする事にはなれているらしく微動だせず、糸目のような目でウサギを追っており、乗せられたティガは自分よりも遥かに大きい体に安心しているのか静かに丸まった。
「完成、猫鏡餅〜! 猫のお供えなんて他にはないし〜♪」
楽しそうにミシェルは笑いながら、お皿に積まれたジネットが作ったお団子を取り、ヒョイヒョイと口の中に入れた。
まん丸のお団子には何も付いてはいないが、混ぜる時に砂糖を混ぜたからそのままでも美味しく食べられる仕上がりだ。
「お団子を洋風にアレンジ……とも思ったけど、やっぱり日本の風流を味わいたいよね。だから基本に忠実に。でもその分、想いはしっかりと込めたよ」
「ティガとザクロの月見猫鏡餅に、ジネットさんの月見団子か」
大人しく丸まっている2匹をそのままにし、紫翠も積まれた団子を取ると口に入れた。
モッチリとした食感とほんのりと甘い砂糖の味が口に広がる。
美味しかったのか、紫翠の隣でミシェルはハムスターのように口いっぱいに団子を詰め込んでニコニコご機嫌な様子で食べていた。
それを見て面白そうに紫翠は笑う。そんな2人をジネットはじっと見る。
もしかするとほんの少し心の中で、ミシェルが取られた、そんな思いがあったかも知れない。
だけど今の2人を見ていると無条件で信頼できる人であり、ねーさまが選んだ人。
そう思うと心が穏やかになっていき……ほうじ茶を淹れて、紫翠へと差し出した。
「ねーさまを頼むよ、にーさま?」
ジネットはクスリと笑い、紫翠は首を傾げるのだった。
「よしっ、みんなー! 団子のトッピングも用意したから使ってくれ!」
黄粉砂糖、ゴマ、大根おろし、練乳にチョコシロップを大きなタッパーに広げると水杜 岳(
ja2713)が呼び掛ける。
そう言うと岳本人もトッピングを制覇する為に団子を取ると食べ始めた。
「美味っ……そういえば、従姉がこういう可愛いのが好きなんだよな」
一通り団子を食べ終えると従姉を思い出し、持っていたデジタルカメラを取り出す。
まず初めにピョンピョンと跳ねるウサギを1枚撮影。
次に寝転がり、ウサギの顔をアップで撮影(その際、鼻をレンズへと近づけられる)
そのまま、ウサギが胸の上に乗ると月が見えるようにしながら撮影。
「皿の上にでも乗せてみるか」
腹の上に乗ったウサギを抱えると未使用の皿の上に乗せると、盛られた団子が写るようにしながら撮影する。
すぐに下に下ろしてやると、お礼として人参を1本差し出す。
するとウサギはカッカッカッカッカと素早く歯を動かして人参を食べ始め、ある程度口に含むともしゃもしゃと咀嚼を始める。
それを撮影しながら岳は呟く。
「うん、可愛いめっさ可愛い。姉ちゃんにも送ってやろう」
そう心に誓うのだった。
「お月見でしっかり癒してまた日々の勉強も頑張りましょう」
そう博士・美月(
ja0044)が言っていたのは十分前の事……。
そう、今は……。
「こんなかわいい生き物がこの世に存在してていいの!?」
魂を込めて美月は叫び、2羽のウサギを全力で抱きしめる。
抱きしめる力が強いのか、ウサギ達は全力で離れようと前足後ろ足をバタバタ動かして、スルリと脱げ出そうと頑張る。
「はっ……落ち着けあたし。論理的に、論理的に……そう、論理的に可愛さを表現すれば問題無い!」
変な思考の終着点に到達し、美月はギューッとウサギ達を抱きしめ……ウサギ達は何か燃え尽きたような白い煙が口から出ていた。
可愛い物が好きな美月と可愛いウサギ達が生んだ悲劇だろう……。
(主催の方はとても素敵な方に違いない)
白いうさ耳フード付きパーカーを被り、2つ結びにした髪を揺らし、小振りなお尻を包む白いホットパンツ。
足から太股を覆うのは薄水色と白のオーバーニー、そして足には小学生御用達のスニーカー。
活発系少女のような服装をした姫路 ほむら(
ja5415)は白くてふわもこのペットのマルチーズのくまちゃんを連れてやってきていた。
少女みたいな服装で、体型が少女みたいだ……だが、男だ。
「俺が料理を作ったらすべてゲル状になるのはなんでだろうなぁ……それにしても、ウサギさんたち可愛いなあ〜」
嬉しそうに呟きながらほむらはコップに入った野菜スティックからキュウリを1本取るとしゃがみ込み、近くのウサギへと向ける。
キュウリに気づいたウサギがピョンコピョンコと跳ねながら近づくと、サクサクサクと素早くキュウリを食べ始めた。
ウサギの食べる姿を楽しそうに見ていると、膝にくまちゃんが顔を乗せてきた。
よく見ると、2足歩行で立ち上がりプルプルしている。もしかすると芸をしているから褒めてもらって好物のキュウリを貰おうと考えているのかも知れない。
「くまちゃんもお腹空いたのー? でもこれはウサギさんのだからダメだよ〜」
貰えない事を知ると、くまちゃんはくぅんと鳴きながらトボトボウサギ達の輪の中に入るとゴロンと寝転がった。
視線はほむらにかまってビームを放射中。動物同士繋がる物があるのか近くのウサギもかまってオーラを放出開始。
「お友達になれたのかな? おいでおいで〜」
手を振ると飼い主の行動に尻尾を振りながらくまちゃんがハッハッハと近づき、ウサギも釣られて近づいてきた。
そんな1匹と1羽を抱き抱え、膝に乗せるとほむらは月見をするのだった。
小さく敷いたレジャーシートに座り、雨篠 柳(
ja6019)は寄ってきたウサギの頭を撫でつつ月を見る。
真っ暗な空の中で黄金色に輝く月を阻む雲は1つも無く、静かに地上を照らしていた。
と、コンビの袋から柳は大福を1つ取り出す。黒豆入りの豆大福だ。
団子とは違ったモッチリとした大福の食感と粒餡の甘さが噛む度に口の中へと広がっていく。
「娘と一緒に見たかったねぇ」
そして、娘が団子を作ってくれたら……と思ったとか思っていないとか。
最終的には娘に団子を作ってあげて美味しいと言う顔を見る事になるだろうが。
だって主夫だから。
「ふむ……月見会、か。そういえば、今夜、だったか」
依頼帰りで立ち寄ったアスハ=タツヒラ(
ja8432)が喫茶店の壁に持たれかかりながら、月を見上げる。
地上に視線を移すと中央の方では皆が楽しそうに笑いあい、団子を食べているのが見えた。
そんな時、アスハを見るように1羽のウサギが前にちょこんと居た。
「どうした、仲間達はあっちだぞ」
円らな瞳が見つめてくる中、アスハがそう言うとクルリと振り返りウサギは向こうへと去って行った。
一度だけ振り返ったが愛想を尽かされたのかウサギは振り返らず。苦笑しながらアスハもその場を離れて行った。
瑞樹の手からカットした野菜が白と灰色の斑模様のフレンチロップがサクサクと食べていく。
その愛らしい姿と自分の手から直接食べるウサギの姿に瑞樹は冷静さが限界だった。
キョロキョロと辺りを見渡し、誰も見てない事を確認すると優しく抱きしめた。
優しく抱きしめているからか特に暴れる様子は無く、スピスピと鼻を鳴らし心地良さそうな顔で瑞樹を見る。
(……こ、この世の物とは思えぬ可愛さ!)
爆発しそうな思いを堪えながら、愛らしさを堪能する為に瑞樹はグルグルと転げ回った。
……周りが見ているのに気づいていなかった。
「どう……おいしい?」
一目惚れした白兎を膝の上に乗せながら、雪は月を眺める。
彼女の手に持った野菜をウサギは美味しそうに食べ、食べる振動が指へと伝わってくる。
隣では雰囲気が似ている侑紗がウサギ達を眺めていた。
「……かわいい。……かわいい」
「もふもふですー……」
なでなでと雪はウサギの頭を撫で、侑紗はそれを見て自分もやろうと考えたのか近くを歩くウサギを抱き寄せた。
一方、別のシートでは梓遠が膝の上に乗せながら団子を食べていた。
多めにかけた砂糖のザラリとした甘い味が口に広がり、団子のもちっとした食感を甘くする。
「綺麗な月だなぁ……」
そうしながら、ウサギを再び撫でようと……。
「あれ?」
ウサギを撫でようとしたが、感触が無かった。見てみるとそこにウサギは居らず、肩が重かった。
首を少し動かしてみると、いつの間に移動したのかウサギが肩に乗っていた。
特に問題は無いだろうと考え、肩に乗せたまま梓遠は団子を食べるのだった。
「はー……、すっごくもふもふですねー」
みー、と返事をするようにフェリーナの頭の上に載ったシロが鳴く。
そして膝には懐いてきたウサギを乗せて、優しく撫でる。
頭の上に載ってはいるが、シロも眠いのかファーっと口を開け眠そうに欠伸をする。
ウサギはウサギで丸まって、眠るように膝の上に座り続ける。
「この子たちにまた会いに行きたいですね」
と、呟きながら撫でていると、フェリーナの周囲に懐いたウサギ達が集まっていた。
それが膝の上に乗り、肩に乗り……。
「あ、あ……れ?」
気づけば、フェリーナは倒れていた。
そして、最後の光景は――ウサギのもっふもふのお腹だった。
食紅で耳と顔を彩られたウサギ型団子は皿に盛り付けられ、食べるのが勿体無いほどだった。
そんな皿に、サバトラの桐が近づいて食べようと爪を立てる。
「……桐、お前は止めなさい」
食べようとする桐を抱き抱え、紘司は立ち上がる。
抱き抱えられた桐はミャー! と「ボクも食べたいのー!」と言う風に暴れる。
すぐ近くでは上総が直紹へと団子を食べさせていた。
「兄貴おいし?」
「ああ、美味しいよ……ありがとな」
妹愛の篭ったお団子を食べながら、直紹は上総の頭を撫でる。
撫でられた上総は猫のように擽ったそうに目を細め、気持ち良さそうにする。
「えっへへー、じゃああたしも食べよーっと」
そう言うと上総は口一杯にお団子を詰め込み、ハムスターのように口を膨らませモゴモゴさせる。
何というか色気も女子力もまったく無かった。だけど本人はそれで構わない、だって団子が美味しいんだもん!
「あふひほはへはほ! はほほへ」
「……か、上総先輩。ま、って――もぐっ」
口をモゴモゴさせながら明日美へと団子を食べさせ、上総は笑う。
そんな上総を見ながら、直紹は心で思う。
(夏は出かけられなかったから、な……また遊びに行こう。次は試験後か?)
「丞ー! 丞ー! ほらっウサギ団子できたぞ! 食えよー!」
一番可愛らしく出来た団子を皿に載せた状態で篤が丞へと近づく。
そんな彼の行動を回避しようと丞は両手を振り拒否する。
「っちょ、先輩。俺は自分で食いますって……! 左京! 左京にあーんしてあげてください!」
「まーまー、そう言うなって! 食えよー!」
押し倒すように篤が丞に襲い掛かると無理矢理口の中へとウサギ団子を詰め込み始めた。
ウサギの顔が少し出ている状態に団子を詰め込まれた丞はモゴモゴと苦しそうにし、篤はゴーサインを放つ。
「よしっいまだ霧切!」
「よっしゃッ、任せろ! 撮影したるわぁ! おーおー、めっちゃええ顔しとるで丞ー! その顔いただきぃ!」
パシャパシャとデジカメで撮影しながら、2人はゲラゲラと笑う。
そして、ある程度撮影し終えると、ぐったりしている丞を尻目に写真を確認し始める。
「ぶはは、まじいい表情じゃん!」
「は、腹……腹が、よじれるっ……!」
お腹を抱え笑う2人に対し、ぐったり地に伏した丞は地面を握り締めて誓う。
(い……今に見てろよ……)
「この大きさ……やっぱり素敵です」
うっとり呟きながら友里恵が呟く。
その膝元には巨大なウサギ、フレミッシュジャイアントが佇んでいた。
ジッと膝の上に座りながら、時折彼女が差し出す野菜をサクサク歯を動かし、モゴモゴと口の中で租借をし……彼女も手櫛で背中を撫でられながら、プウプウと鳴いていた。
ウサギも気持ちよく、友里恵自身もうっとり出来る。一石二鳥だ。
「はあ……ウサギをもふりながら眺める月の何と美しい事でしょう……」
お団子を食べながら、友里恵は頬を赤らめる。
少ししたら、今度は勘十郎を探し出し、脇腹をもふってみよう。
そう友里恵は考える。どんな反応をするのか……そう期待しながら。
空き地の隅の方にある木の上で少女が1人寝そべっていた。
「月が綺麗なのだ……いつかお月様にいけたらいいなー……なのだ」
煌々と輝く月を見ながらレナ(
ja5022)は呟く。
そんな月を見ながら、レナはうとうとし……気づけば夢の世界へと旅立っていた。
「……むにゃむにゃ…………」
夢の中で彼女は大きな大きなお月様の上に立っており、そこには2足歩行のウサギ達が楽しそうに跳ねていた。
レナに気づいたウサギ達が彼女の手を引っ張ると、嬉しそうにレナも付いて行く。
「ぴょんぴょんなのだ……お月様で、ウサギさんとダンスなのだ……むにゃむにゃ」
気持ち良さそうに眠りながら、夢の中ではレナとウサギさん達は楽しくピョンピョンと跳ねてジャンプしていく。
ウサギがぴょん、レナがぴょん、ウサギがぴょん、レナがぴょん。
そんな楽しい夢にレナは自然と笑顔を浮かべる。
こうして月下の下、団子を食べ、ウサギを愛でる楽しい楽しいお月見会は続くのだった。