●まずは試してみよう!
「変な奴……隙間に、ねじ込むとか」
退屈そうに呟きながら、零那(
ja0485)は持ってきた鉄パイプや棒状のモノを中心に向かって突っ込んだりし始める。
しかし、軽い金属音を立てながらそれらは突き刺さる事は無かった。
「あぁ、聞かせないと、ダメなんだ。けどもう一回」
やり終えた顔でタバコを吸うが、もう一回と言うわけで零那はホルターに入れたリボルバーを抜くと鉛の弾を撃ち出した。
だけどやっぱりカキーンと金属同士がぶつかる音を立て、弾丸はあさっての方向に飛んで行った。
「――うッ……がく」
そこに不幸な事に小日向 向日葵(jz0063)が立っていたらしく、血を流して倒れていた。
ああ、解説通り即効出落ちしたね……この子。
突然の事に一同は静まり返る。だが、ここはあれだ、超法規的措置を行うべきだ。
「見なかったことにしよう」
「「いやいや、それ無理だから!」」
ツッコミが上がるが今は無視だ。
●と言うわけで、笑わせよう。
「笑い、ねぇ……何が、楽しいんだっけ?」
吸い終えたタバコを捨てながら、零那は丸まったサーバントに近づく。
何をするかって? それはもちろん、始めると言う合図だ。
「これから始めるから見ててください」
そういうと、特設ステージへと零那は立つ。
彼女のお笑いを見ようと数名の仲間達も近くの席に座る。
と言うわけで、零那のお笑いが始まった。
初めにそこに壁があるかのように手を動かす仕草から始まる。パントマイムだ。
幾度と無く見えない壁に触れると、今度はロープを使って壁をこちら側へと倒そうとし始める。
一生懸命零那は見えないロープを引っ張る。だが壁はロープごときでは倒れないようだ。
ロープを手放すと、やれやれといったポーズを取りどうするべきか考える。
……が、今度はロボの出番だ。ガシャンガシャンとかくかくとした動きをしながら零那は壁を押し倒そうとする。
頑張れ零那ロボ、ロボ零那! だが今回は成功したのか、壁が壊れ地震も壁の向こう側に倒れるといった事を行い驚いた表情をしてキョロキョロと様子を伺う。
が、このままではいけない。ばれてしまったら捕まってしまう。そう表現するように足を静かに動かし後ろへとバックするように零那の体は移動していく……ムーンウォークだ。
直後、審査員……じゃなかったサーバントが起き上がると回転して、零那に突進していった。
どうやらパントマイムはお気に召さなかったようだった。
こうして第一の挑戦者零那は星になった。
「ま、別に気にしないけどね……」
結構辛口なのか、見えないことが気に入らなかったのかは分からない。
「ふふふー私の自慢のネタでどっかんどっかん笑いを取るんだよー♪」
色々なお笑い番組を見ているルーナ(
ja7989)にとってお笑いはお手の物らしい。
そんな彼女は、両手に人形をつけて上がってきた。
何かどこかで見たような白ヤギと黒ヤギの人形だ。
どうやら腹話術をするつもりのようだ。
「隣の家に囲いが出来たんだってねー、カッコいいー!」
『つまらなーい、失格! かえれー!』
「うわーん、酷い事言われた! 意味不明な人形達に酷い事言われた!」
『ルーナだって酷いじゃないかー!』
「いやん、もうばかー! じゃあ、キミ達もやってみなよー!」
『いいとも! じゃあ行くよー、布団がふっとんだー!』
「…………寒!」
瞬間、周囲はあまりの寒さに凍えた。どう見ても出落ちだ……出落ちが必死に頑張っているようにしか見えない。
どういえばいいのか分からない表情をする仲間達にルーナは顔を赤くする。
「ぜ、全開ソニックブーム!」
半ばヤケクソで拳を打ち込む事で衝撃波を放つが、硬い外殻に阻まれ……迫るそれにルーナは吹き飛ばされてしまった。
こうして第二の犠牲者も星となった。
「どーんって吹っ飛ばされる事も計算の内! お客に突っ込まれるネタですよぉぉぉぉぉーーー!」
飛ばされながら、何か言い訳を放っておりますが……可哀想なのでツッコまないであげましょう。
「やるからには……わらかしてやるぜ!」
「まさかお笑いで世界を救うことになるとはのぅ……」
ジョーン ブラックハーツ(
ja9387)とクラリス・エリオット(
ja3471)がそう言いながら特設ステージに上がる。
ちなみにクラリスはその言葉にツッコミ待ちです。
あと2人の服装は学生服だったりした。と思ったら、持ってきたラジカセのスイッチを入れる。
すると、よくお笑いが始まる前の囃子が鳴り出したではないか。
――テケテケテッテンテケテケッテッテン
「はいどうもー、クラリスです!」
「ジョーンです!」
「「2人合わせてクラリネットハーツでーす!」」
合いの手をあわせる様に他の仲間達が拍手を送る。
「どうもどうもー、突然ですけど私先生になりたいんですよ」
「うん、ホントに突然だね! まぁ、じゃあちょっと練習してみようか」
「いいねー、やってみよう」
そう言うとクラリスは胸ポケットから眼鏡を取り出し顔にかけ、ジョーンは立ち上がると少し離れてから走るようにして近づいてきた。
「っやべー、遅刻しちゃったよ! 先生に怒られちゃうよ!」
ジョーンが扉を開ける仕草をしたが、眼鏡をかけたクラリスは偉そうに立っているだけだった。
「あれ? 先生もまだ来てないのか?」
「……」
(ちょ、ネタ始まってるよ!)
小声で言うと、やっと自覚したのかクラリスが動き出す。
「え、ごめんごめん。それにしても先生来るの遅いねー」
「お前も生徒かよ! ちゃんとやってちゃんと!」
ついツッコミを入れたがすぐにジョーンは耳打ちをする。
「OKOK。おい、お前遅刻だぞ!」
「す、すみません」
「……お前、見ない顔だな」
「先生も見ない顔ですね」
すると、クラリスが組んだ腕を解き軽く広げながら、ウンザリしたように首を振る。
「まったく最近の新入社員は……」
「先生やれよ」
すかさずジョーンがツッコミを入れる。
そんな彼女にボケ返しするように、チョークを取り出す。
「あと先生って言ったらチョーク投げ」
「ああ、あるね。特に久遠ヶ原は強力だね」
そう言った直後、クラリスはチョークを構える。
「遅刻だと? とうっ!」
投げたチョークはヘロヘロ飛び……地面に落ちた。
それをジョーンはうんざり顔で見る。
「うわぁ……」
「……これを作る為には多くのエネルギーが。だから私には出来ない!」
「エコか!」
「あと先生って言ったら生徒との禁断の愛!」
力強くクラリスが言うと、ジョーンが恥かしそうに頬を染め首のリボンを解く様な仕草をする。
「良いねぇ……先生、アタシ先生のことが……」
「わかってる……だが、ボクとキミは教師と生徒。愛し合うことは出来ない……」
「そんな……」
「薄給だし、転勤あるし……」
「って、マジメかよ!」
とバシンとクラリスの胸にツッコミをジョーンは入れた。
そして、2人は見た。ほんの少し殻から顔を出しているサーバントの顔を。
「見てるなら、笑わぬか!」
ボケがツッコミを入れる貴重なシーンだった。だけど、軽く掠っただけですぐに殻は閉じた。
どうやら、小笑と言ったところだったのだろう。
「ネタに自信はねーんですが、友達の話ってことで」
と逆城 鈴音(
ja9725)が話を開始しようとする。
その隣では、雪室 チルル(
ja0220)が今まさに童謡昔話をネタにしたコントを鈴音と共に行おうとしていた。
……あれ? 何か変だぞ?
「川に洗濯に行ったおばあさんが川を流れていた大きな桃を拾って家に戻ってきました」
「僕も、昨日下着が盗まれたんだ……」
「ただ今帰りましたよ。お爺さん」
「へ、へぇ……災難だったね。何を盗られちゃったの?」
「お爺さんや、洗濯してたら大きな桃が……」
「上と下、両方一枚ずつだよ……」
「鳴声じゃないですよ! だから大きな桃が……」
……なんだろう、この噛み合わない歯車は。
「それはともかく、警察には届け出たの?」
「部位じゃないし焼肉大好きってわけでもない! 少しは牛から離れなさい!」
「変なものじゃないさ! 真っ当上下セットのだよ! もちろん、フリルの付いた女性用のさ」
何というか牛の下着がひどいことになっているようにしか聞こえない状況だ。
「だから大きな桃が……」
「意味がわからないよ!?」
うん、このコンビのギャグ自体が意味わからないよ……。
それを代弁するように、サーバントは起き上がり回転すると2人を空へと吹っ飛ばした。
第三及び第四の犠牲者だ。
兎にも角にも相談は大事だと言うことだ。
2つの上る星を眺めながら最後のトリオは思った。
●出るか? 満点大笑!
「サーバントにもお笑いが通じるとは……お笑いってすごいですな!」
驚きと笑顔で特設ステージに上る森田良助(
ja9460)の後ろから、ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)と御手洗 紘人(
ja2549)が着いて行く……が、紘人は少しアンニュイな表情だ。
(……笑いですか……僕には余り縁がないのです……)
そんな彼は気づいていない……自分自身がネタ製造機である事を。
と言うわけで3人は手を叩きながらステージの真ん中に歩き出す。
「はいどうもー、僕達3人合わせて」
「「「青春みそ味でーす!」」」
良助の台詞を起点とし、3人は一斉にトリオ名を答えた。
そして彼らの最初のネタが始まった。
どうやら打ち合わせを確りとして、2つのネタを考えていたようだ。
タイトルが書かれた幕を仁良井 叶伊(
ja0618)が捲る。
同時に3人は準備を始めるために後ろに潜る。
え、どうして叶伊くんはお笑いに参加しないかって?
取って置きの小話を披露しようと思っていたが、女性が半分を占めるこの場所でこのネタは恥かしい。
だから簡単な役に回る事にしたのだ。そう……敵にツッコミを入れる役を。
と言うわけで、青春みそ味の最初のネタが始まると共に叶伊はサーバントの隣に立った。
……あ、首に蝶ネクタイ着けてるからツッコミいれるのも本気のようだ。
「〜♪ 〜♪ 〜♪」
「あの……森田さん、この格好は?」
口笛を吹きながらステージ裏から登場する良助、ソフィア、そして紘人は恥かしそうにもじもじしながらご登場。
何故なら、可愛い系の女物の衣装に身を包んでいるからだ。
「御手洗ちゃんなら似合うと思って! ね、ソフィアちゃん」
「え? 知らないわよ、あたしに振らないでよ」
「そもそも、似合うと思ってて着せないで欲しいのです……」
げんなりとした表情で紘人は呟く。そんな彼に良助決めポーズ★
「そんな細かい事言ってると男の子にモテないぞ☆」
「僕は男なのです……」
「またまた、そんな事言って〜ソフィアちゃんも言ってやってよ」
「何を? 御手洗は男でしょ? モテなくていいじゃない」
「……え? じゃあ……ソフィアちゃんは女の子にモテない?」
キョトンとしながら良助首を傾げるの巻。
そして、ソフィア憤慨するの段。
「なんでよ! そもそもあたし女だからね!」
「またまた、ご謙遜を〜」
大阪のおばちゃんっぽく手首をスナップした謙遜ポーズが炸裂。
ネタの筈なのに迸る殺気。ネタ……だよね?
「謙遜ってどういうことよ!」
「あの〜……それはそうと、この話ちゃんとオチはあるんですよね?」
「え?」
「「ないのかよ!!」」
「ナンデヤネン!」
紘人、ソフィアのツッコミと共に叶伊も巨大な戦斧で、隣に居るサーバントを見ずにツッコミを入れる。
ツッコミは一度きりの大きな役割なのだ。
軽く何かを削り取った感触が手に伝わるが、すぐに金属音へと変わった。
3人がサーバントに視線を向けると血が出ていたが、すぐに殻の中に引き篭もってしまったようだ。
「だったら、もう一つのネタに賭けてみるよ!」
そう言いながら、2人に視線を向けると……頷き、ステージから飛び出した。
まず最初に地面に降り立ったソフィアがサーバントを指差す。
「皆、敵よ! よーし、あたしのスキルで一網打尽にしてやるわ!」
「僕は援護するよ!」
次に降り立った紘人が活き活きと言う。女装を解いたからだろう。
そして、ボケ役の良助はポーズを決める。
「では僕はその間にホカホカご飯を作って配膳を!」
「オイ、それ必要か……?」
「え、それ必要……?」
良助のボケに突っ込むように驚いた表情で紘人&ソフィアは振り向く。
「だって腹が減っては戦は出来ぬって」
「それ今じゃなくていいから!」
「まったくですよ」
そう言いながら、紘人は愛用のご飯茶碗に入れたご飯を食べていた。
ツッコミ役がボケに回った瞬間だった。
「って、食ってるー!?」
驚いた表情でソフィアはショックを受ける。背景があるなら雷が落ちてるトーンが貼られる事だろう。
「あ、そうか。アレがまだでしたね、ホイ味噌汁」
「いやいや、重要なのそこじゃないから!」
「まったくですよ」
そう言いながら紘人は味噌汁を啜る。日本人は味噌汁だよね。
「だからそう言いながら味噌汁飲まないの!」
「せっかく配膳された物ですし、食べなきゃ失礼でしょ?」
「私には失礼とか思わないの? ちょっと」
白い目で2人を見る……が、ホカホカご飯に罪はなかった。
「まあまあ、喧嘩はよし子さんですよって。一緒に食べましょう!」
「えぇー……じゃ、じゃああたしも食べる!」
そして、ご飯の誘惑にソフィアは負けた。
美味しくご飯を食べ始めた瞬間、紘人&良助の目が光り卓袱台を掴んだ。
「「食ってる場合かー!!」」
「えーーっ!?」
ボケがツッコミに、ツッコミがボケに変わると言うものだったのだろう。
浮いた卓袱台がサーバントに当たる瞬間、彼らは見た。
殻から顔を出して笑みを浮かべるサーバントを。
3人は勝利の美酒を味わうかのごとく、攻撃を浴びせた。
「元々はこっちが目的なんだから、キッチリ攻撃しないとね!」
攻撃の合間からそう呟くソフィアの声が聞こえた。
●相談って大切だよね
地面に倒れこんだ外殻の隙間から、サーバントのものと思われる血が零れる。
動かなくなっている所を見ると倒せただろう。
試しに外殻を殴りつけると、砂のように崩れ落ちた。あの無敵の硬さはもう何処にもないようだ。
戦闘が終了した事に一息吐き、お笑いの奥深さを感じたような感じてないような気がした。
やはりお笑い芸人は打ち合わせをきちんとするべきなのだろう。
「それではオチとして私がひとつ、ロンドン小噺をさせていただきます」
叶伊が言いながら、オチを語り始める。
「陛下、ロンドンには『世界の始まり』があると聞きました」
「ほお、それは何ぞや、申してみよ」
2人居るのが分かるように声を若干変えているようだ。
「こほん。では、失礼して……ビッグ・ベンでございます」
「……帰れ」
そう幕を閉じると、それはないだろうと言う表情をした仲間達の顔が見えた。
第五の犠牲者として星に上がることが無かったのは残念だろう。
空では星になった4人が手招きをする幻覚が見えた気がした。