●下へ。
「ネズミ退治ねぇ……。猫にでも任せることができれば苦労は無いんだがなぁ……」
下水道へと続くマンホールの前で水無月 湧輝(
ja0489)は呟く。
その視線は暗い下水道へと向けられる。
「しかし、ディアボロを作製した悪魔の意図が見えない……いや、今は現状を収集する事が最優先か」
同じ様に暗闇に視線を向ける北条 秀一(
ja4438)は呟く。
「簡単な依頼だって聞いたけど、気を引き締めていかなくちゃ」
「ペンライト準備良し! 武器、準備良し!」
エルム(
ja6475)が意気込むと共にレイ(
ja6868)が元気良く言うと、彼らは下水道へと降り始めた。
(「放置すると大変だし頑張らなきゃ!」)
功刀 凛(
ja8591)が心の中で元気に声を出しながら、ガッツポーズをする。
その際、降りる順番を決めていなかったからか……率先して男子が降りていく。
ふと男子の最後尾である秀一は上を覗く……降りていく女性達のスカートの中が見えた。
これもラッキースケベの賜物だろう。
「……鼠を一掃する作業は何処にでもあるものだな」
ポツリと呟きながら、シィタ・クイーン(
ja5938)は咥えていた煙草の火を消すと首に掛けたゴーグルを着け、体をマンホールへと沈ませると……蓋を閉めた。
●チューチューパニック
梯子を降りると鼻にツンと来る臭いがし、山岸 楓(
ja4520)は顔を潜める。
だが敵が待ち伏せている事を懸念して楓は下を見るが、その心配は無いようだ。
すぐにシィタが手に持ったペンライトを天井や壁に向けるが、コンクリートの壁と時折ゴキブリが光から逃げるぐらいだった。
だけど周囲にネズミが大量に潜んでいるのが分かるほどに、周りからネズミの鳴き声がする。
「鳴き声うるさいなぁ」
何時の間にか臭い対策なのかエルムはマスクを着けた状態で喋る。
その間に秀一が携帯していたノートを全て千切り、ウォッカで濡らすと9本の瓶の口へと詰め込む作業を行いトーチを使い即席の火炎瓶……ではなく、簡易のランプを作り上げる。
そんな時、彼らに発破を掛けるように路を護る撃退士の声が聞こえた。
「早くネズミ退治を始めましょうか」
ヘッドライトを頭に付けながら、唐沢 完子(
ja8347)が言うと周囲も頷く。
「倒すことも重要だが、後ろに逃がさないこと、そして網に穴が開く前に到着することが重要だ」
湧輝が言うとすぐに事前に班分けした通り、秀一とレイが上へ、完子とシィタが右へ、エルムと凛が左へ、最後に湧輝と楓が網がある下へと歩き出した。
「1匹でも増殖するネズミ……必ずここで、倒しきってしまわないといけませんね」
秀一から渡された簡易ランプを片手に楓は早足で移動する。
途中、足元をネズミが4匹ほど走る彼らから逃げるように奥へと進んでいくのが見えた。
それに気づいたのか楓が銃を構え、引金を引くが動き回る小さな体には命中し辛い。
だが撃ち洩らしたネズミへと湧輝が同じ様に引金を引き、撃ち出した弾丸は命中しネズミを木っ端微塵にする。
そこで張り切り過ぎている楓に気づいたのか、優しく彼女に口を開く。
「……まあ、力を抜いておくように。寄って来るのが発見できなくとも、網を破るまでの時間はあるからな。主に警戒するのは通ってきた通路と網だが、網を確実に補強しておけば大丈夫さ」
「は、はい。あ……水無月先輩、網が見えてきました」
下水を挟んだ先に網が見え、近くの通路を4匹のネズミが走るのが見えた。だが、網には意識が向かれていないようだ。
どうやら網を食い破るという発想はネズミ達には無いのかも知れない。
逃げたネズミ達も近くのそこへ向かおうとしているのか、汚水に飛び込んで進んでいく。
「……汚水にいるネズミは任せてもらおう。レディを汚すのは気が引けるからな」
そう言って湧輝は汚水へと足を突っ込ませると距離を詰めながら、構えた銃で狙いを定めると共に撃つ。
同時に楓が連絡通路で汚水を渡り終え、銃を構え――撃った。
鳴き声を残しながら、弾丸はネズミを木っ端微塵にしていく。
逃げるだけでは駄目と判断したのか、ネズミは一斉に2人に襲い掛かる。
襲い掛かるネズミを見ながら、楓は思う。
「……他の皆さんは順調でしょうか」
路を塞ぐ撃退士の近くに簡易ランプを置くと、次の置き場所へと向かいながら秀一は溜息を吐く。
「害虫駆除業者ではないのだが……まったく」
これを言うなら害獣駆除だと思うが、呟きながら秀一は足元を走るネズミを踏んで逃がさないようにすると――銃で撃ち殺した。
ネズミを伝い銃の衝撃が足に伝わる、死骸から足を離すと近くに隠れていたのか2匹のネズミが死骸を食べ始めた。
そのまま秀一が前に進んでいくと、後方を歩いていたレイが食べる事に夢中になっているネズミ達をマジカルステッキで潰していく。
「ごっつんこ! ごっつんこ!」
下半身だけしか潰せずに殺し損ねた場合は、もう一撃を与え潰していく……がその場に立ち止まる。
「レイ氏どうした、早く来ないのか?」
「北条先輩に任せてもいいですか? だって、動くの怖いから!」
振り向き、来るように訊ねるとレイはそう言う。すると面倒臭そうに暗がりへともう1本の簡易ランプを持って消えていく。
それを見ながらレイは声援を送る。
「さすがに北条先輩! オイラに出来ない事を平然とやってのける! そこに痺れるぅ!」
と思ったら、戻ってきてレイを掴むと右側へと再び歩いていった。
やはり雑魚だとしても1人では危ないからだろう、そういう事にしておこう。
「後ろからネズミは来ていないかレイ氏」
「来たらオイラのマジカルステッキでごっつんこ!」
ランプの明かりを頼りに歩いていくと、水に飛び込む音が聞こえた。
明かりをそこに向けるとネズミが汚水を泳いで行くのが見えた。
どうやら何か近づいてきた事で逃げたのだろう。
「レイ氏、ちょっと持っていてくれ」
「分かったぜ。北条先輩」
レイがランプを受け取ると、秀一はホルターに入れた拳銃2丁を引き抜くと共に撃ち出した。
一つの炸裂音と共に2つの弾丸は発射され、ネズミの残骸と共に汚水が跳ねた。
他にネズミは居ないかを見渡しながら、周囲を見渡していく……が四隅の一角に辿り着く方が早かった。
「ランプを置いたら残りの道も進もう。大丈夫だ」
仏頂面だがレイの事を心配し、そう言ったのかも知れない。
そのカッコよさにレイのテンションは上がり、ウッカリ抱きつきそうになった。
「功刀さん、よろしくおねがいしますね」
「こちらこそお願いしますね、エルムさん」
左側の通路を歩き出すと光纏を発動し阻霊陣を使い壁に手を当てて、通り抜けを妨げる。
暗く臭い道をエルムの持つLEDランタンの明かりと凛の持つ簡易ランプを頼りに歩きながら進んでいくと、何か群がっているのが見えた。
ネズミだ。
そして食べている物は……普通のネズミの死骸だろう。
「気持ち悪い! 気持ち悪いです……!」
「うわっ! 実際に見てみると大きいな……っ!」
それを見た瞬間、凜は顔を顰めさせて叫ぶ。叫び声に気づきネズミは逃げ出そうとするが、エルムが苦無を取り素早く1匹を突き刺す。
「ネズミさん、貴方達の悪夢のはじまりよ。さ、功刀さん行くよ」
「はっ、はいっ!」
共食いは可愛い物大好きな凛にはグロすぎる光景だったらしく、叫び声を上げてしまったがエルムに話しかけられ何とか冷静に戻り素早く逃げるネズミをジャマハダルで貫いた。
残った3匹は勇敢なのかすぐ近くに手があったからかエルムの腕に噛み付いた。
「イタッ! ……噛まれた」
素早く手を引くと同時にネズミ達はすぐに向こうに逃げて行った。
「大丈夫ですか、エルムさん」
「ああ、大丈夫。追いかけよう」
「はいっ! ……あ、簡易ランプを1本置いていかないといけませんね」
ウォッカ瓶を1本道の端に置くと共に、エルムが持ち替えた武投扇を投げつけた。
「これでもくらえ!」
『チュ――、ビ』
戻ってきた扇子には返り血が付き、どうやら水路を泳ぐネズミに気づいて投げたようだ。
「今度こそ追いかけよう」
「はい、頑張って殲滅しましょう!」
そう言うと2人はネズミを追いかけた。
「一気に仕留めるよ!」
完子の細身の大太刀が地面へと振り下ろされると、放たれた衝撃は直線に並ぶネズミを5匹ほど一掃する。
3匹は死んだが2匹は胴体を真っ二つにされ地面に転がる。しかし、切られた胴体を動かし近くを逃げるネズミを捕まえると歯を突き立て肉を喰らう。
共食いをして回復しようとしているのだろう、事実食べて行くにつれネズミの体は再生していく。
しかし、そこへシィタが火炎放射器でネズミを周辺の死骸ごと焼き尽くす。
「焼き払っても喰うのか、どうか……?」
ネズミは反応する事無くぶすぶすと黒い煙を上げるだけだった。
それからしばらく進むと、四隅の角へと突き当たりもう1本のウォッカランプを置いた。
アルコール度が高いからか染込んだノートは青白い炎を燃え上がらせる。
「このまま進めば、網まで辿り着きますね」
「ああ、その前にネズミを見つけて駆除していかないと」
言い終わる前にシィタがレガースを履いた足で床を踏み抜く、するとブチャリと音がした。
完子がヘッドライトで見てみると、潰れたネズミの死骸があった。
「6匹目だな」
「はい、――そこです!」
頷くと同時に目の前を通り過ぎるネズミに完子が護符をかざす。すると火の玉が放たれネズミに命中した。
黒焦げのネズミをシィタが踏み砕きながら前に進むと、光が見えてきた。
近づく2人に気づいたのか、網の前で待機する湧輝と楓が軽い合図を送る。
と、足元をネズミが走ったのだろう。湧輝が双剣を1本抜き地面を突き刺した。
●後始末
完子とシィタが網の前で2人と別れ、そのまま見回ってない最後の隅へと向かうと2匹のネズミが居たので簡単に駆除し左側の通路へと辿り着くと、入口へと戻った。
すると、先に見回りを終えた2組の姿があった。
そこで何匹倒したかを話し合うと、28匹を駆除した事を確認する……どうやら残りは7匹のようだ。
「それじゃあ、もう一度別のペアを作って周りましょう」
完子がそう言うと秀一とエルム、シィタとレイ、完子、凛といった元気と疲れている者のペア、元気な単独という組み合せで行動を開始した。
秀一とエルムが上へ、シィタとレイが下へ、完子と凛がそれぞれ左右へと向かっていった。
(「北条先輩もカッコよかったけど、クィーン先輩も綺麗でたまらないぜ!」)
テンションを上げながらレイはシィタの後ろをついていく。
と、シィタが照らした先にネズミが居たのか、鳴声を上げながら逃げていく。
口にペンライトを咥え、シィタは銃を抜き逃げるネズミ目掛けて撃つ。
流れる動作にレイのテンションは上がり、怖さは無くなっていた。
「チューチューがフィーバー!」
レイの声が向こうから聞こえる中、完子は路を封鎖する撃退士にネズミが通っていないかを確認する。
すると、逃げるように向こうに逃げていくネズミの影を見たという情報を得た。
「ありがとうございます」
お礼を言うとネズミが進んだ方向へ、完子はヘッドライトを照らしながら歩く。
少し歩くとヘッドライトの光から逃げる様にネズミが2匹逃げるのが見えた。
「逃がさないよ」
完子は自分よりも巨大な槌を取り出し、アウルを一転集中しながら地面に打ち付けた!
コンクリートの地面を震わせ、発生した衝撃が逃げるネズミを突き抜ける。
ネズミはその衝撃に耐え切れずに命を落とした。
一方、凛は路を歩いていると倒したネズミの死骸にネズミが2匹群がっているのに出くわしていた。
「き、きゃーーーー!!」
先程の気持ち悪かったが隣に同行者が居てくれたから耐えられた。しかし今は1人だ。
1匹だったら可愛かったりするかも知れない……が、目の前で仲間の死骸を食べる光景は――耐えれなかった。
悲鳴と共に凛の蹴りは遠心力を得て、高速で地面を走った。
結果、2匹のネズミは壁に吹き飛ばされブチャリと潰れた。
「今の悲鳴は……功刀か」
部活仲間という事もあってか、凛がどういう人間かというのを少し知っている秀一は今の悲鳴で何と無く自体を察した。
その近くではエルムが真剣に路に立つ撃退士に話しかけている。
「この辺にネズミいました? もう居ませんよね!?」
何と言うか出てほしく無い様に感じるのは気のせいだろうか。
……いや、1匹でも逃したら増殖するから心配なんだろう。
そんな時、悲鳴を上げて全力疾走をする凛が秀一に向かって突撃してきた。
突然の事だったので回避する事が出来ずに凛の全力の体当たりで秀一は吹き飛んだ。
「うわっ、……大丈夫か北条先輩」
「ああ……すまな――」
言い終わる前に秀一の動きは停止した。何故なら倒れこんだ拍子にエルムを押し倒した様な状態になっていたからだ。
更に言うとあと少し手が近かったら胸を掴んでいた。
「ぶ、部長……」
「待て功刀、これは仕組まれた罠だ」
「何言ってるんですか、部長のばか!」
聞く耳持たずに凛の容赦ないツッコミは放たれた。
「何と言うか、騒がしいな」
「はい……先輩きました、あそこです!」
騒がしい音を聞きながら網を護っていた湧輝と楓だったが、網の近くに撒いた簡易ライトを横切る影が見えた。
何か気づく前に楓は湧輝に言うと、左の剣を抜き横切る影を突き刺した。
それは予想通りネズミだった。ぴくぴくとネズミは痙攣し絶命する。
同時に楓が銃を撃つと、簡易ライトが弾け飛び欠片が移動するもう1匹のネズミに突き刺さる。
どうやらこれが35匹目のようだ。
●興味アリ
秀一は簡易ランプとして使っていたウォッカを回収していく。
中身はまだあるから、また使う事が出来るだろう。
また同じく地下に残り、LEDランタンで討ち洩らしがないかを確認しながらエルムは歩くが大丈夫なようだ。
「このあたりにゲートか何か、悪魔の痕跡が無いかちょっと調べて帰ろうかな」
呟きながら彼女は歩く。
どうやら他の仲間達もそう考えているらしく、下水道を散策する。しかし、これといって問題は無いようだ。
地上に出ると数時間ぶりの陽の光が目に入る。
眩しさに目を瞑るが、それ以上に下水道の臭いが無いのが素晴らしい。
下水道内では吸わなかったタバコに火を着け、シィタは思い切り吸うと――紫煙を吐いた。
(「絶対シャワー浴びよう……」)
持ってきた消臭スプレーを体に吹きつけながら楓は心からそう思う。
その近くでは湧輝がハンカチにネズミの死骸を1匹包む。
「最後くらいは……地上で、な」
どうやら軟らかい土を掘り起こして、墓を作るらしい。
各人色んな事をしている中、それを見る者が居た。
「あはっ★ あの人達おもしろーい。ウーネと遊んでくれないかなー♪」
楽しそうに笑いながら、悪魔は街の影へと姿を消すのだった。