●探索の前に
「これだけ阿修羅がいると、相手がディアボロ寄りならヤバそうっすね」
学校の裏山に集まった7人の仲間たちを見ながら、杜七五三太(
ja0107)は言う。
事実、この依頼に参加した阿修羅は6人いたりする。
ちなみに1年しか違わない上に女性の仲間に対して身長差があることに少しショックを感じていたりもする。
しかし当の本人は所用があってかこの場には居なかった。
「うぇー。人面ムカデとか悪趣味すぎる……。想像しただけで鳥肌がっ」
ヘッドライトを頭に取り付けながらテイル・グッドドリーム(
ja8982)は、嫌な顔をする。
その近くで作業員から南雲 輝瑠(
ja1738)が、トランシーバーを数人分借り、突入準備を進める。
(「人面百足ね。百足に戦争で亡くなった人たちの恨みでも宿ったんだろうか……」)
準備が完了し、口を覆うマスクを着用しヘッドライトの明かりを点けると相談で決めた3人4人の班で防空壕の中へと入っていった。
●闇に光を
中に入るとすぐに権現堂 幸桜(
ja3264)は作業員の無事を祈りながら、眩い光を放った。
(「皆さんが無事でありますように……」)
光は自分の周囲を照らし、真っ暗であることを忘れさせるほどだった。
幸桜が先頭を歩き周囲を照らしていく中、無愛想に焔 戒(
ja7656)は地面に持ってきた蛍光スプレーを吹き付け、出口へのルートを分かりやすくしていく。
そんな中、天井からの奇襲に注意をしながらテイルは上を見上げながら歩く。
「んー。天井はおっけーだ、よぉっ!? ……く、くもの巣が顔に……」
天井ばかり見ていたからか、前方のくもの巣に気づかずにテイルの顔面はそれを被ってしまう。
そんな彼女の顔についたくもの巣を戒が剥ぎ取る。どうやら、無愛想だが根は優しいようだ。
ある程度進むと明かりは段々と暗くなり始め、暗闇が侵食し始める。
そんな中で幸桜の手から再び眩い光を放つと周囲は明るくなった。
綿貫 由太郎(
ja3564)が光から逃げるように隅を移動していくゲジゲジを見ながらあることを思いそれを口にする。
「土砂崩れでやっと発見されたような防空壕になんで天魔っぽいものが居るんかねぇ? 隠れて何かやってたのか?」
「ゲジゲジが口に入って来るってキモチわりー……でも、何かをしていたとしてもその野望を叩き潰せば問題無いです」
由太郎の疑問に七五三太は言う。
前方からの明るい光が届き難い場所へと輝瑠は着用したヘッドライトで照らし歩いていく。
同じように頭上に注意しながら千堂 騏(
ja8900)も借りたヘッドライトで照らしながら進んでいく。
それから少し歩くと、2つの曲がり角が見えた……どうやら、8人部屋への道のようだ。
「作業員が存命しているか確認します……」
そう言って生命を感知するために、幸桜は力を使った。
すると、2つの部屋から3つずつの生命が感知された。
「反応がありました! 生きてる!」
百足の位置と作業者の位置を2人に告げると、戒がトランシーバーを使いその情報を後ろを歩く班に告げた。
そして、その情報は後ろを歩く4人へと届き、班は別れてそれぞれの部屋へと入っていった。
「誰か……いねえか? ここで声出さないと帰れないぞ!」
進んだ先にあった部屋に由太郎が叫び明かりを照らすと、光から逃げるようにカサカサという音とともに長い甲殻が見えた。
……いる。
●防空壕の百足
「これぐらい相手が気持ち悪いほうが、化け物退治って実感がわいてちょうどいいってもんだ」
暗闇を這いずり回る人面百足に聞こえるように騏は、部屋の入り口で戦闘体勢に移る。
同時に七五三太がトンファーを構え、飛び込むようにして部屋へと入った。
そんな彼を狙おうと、天井に上がった人面百足は飛び掛るようにして襲い掛かってきた。
しかし、そんな百足の顔へと苦無が突き刺さった。
奇声と共に緑色の血を零しながら百足は後ろへと去って行き、変わってもう1体が地面を這う様にして襲い掛かってきた。
「奥に居る作業員が心配だから早く片付けるぞ! さあ、逃げずに掛かって来い!」
由太郎が叫ぶと、戦いは始まると同時に由太郎が構えたリボルバーが火を噴き、百足の表皮に命中するが目立った外傷は出来なかったが注意をこちらへと意識を引き付けることが出来た。
先ほどの百足と違った奇声を上げながら、後方に立つ由太郎と輝瑠へと顎を広げ鋭い牙で襲い掛かる。
しかし、咄嗟に察知した2人は左右に跳び攻撃を回避した。
直後無防備となった後頭部に向け騏が一気に距離を詰める。
「後ろががら空きだぜ!」
叫びと共に腕に付いたパイルバンカーで百足を殴りつけた。それを剥がすように百足は騏の足を締め付ける。
だがこれで騏は止まるわけが無い、止まるはずが無い。きっと締め付けられた足には痣が出来ているだろう。
だが同時にパイルバンカーを突き刺した頭から青みが掛かった緑色の血が噴出していく。
瞬間、アウルを燃焼させ騏は吼えた。直後パイルバンカーは作動し、炸裂音と共に杭は打ち出され百足の顔面を粉砕し壁に突き刺さった。
しかし、頭を失っても百足の体は反射的に動き、騏を締め付けようとする。
それはまるで百足の最後の抵抗のようだった。
「そうは……させないっ!」
声と共に輝瑠の手から白刃は振るわれ、百足を切り落とした。
しかしそれだけでは止まらない。目にも留まらぬスピードで騏の体を傷つけないようにし……百足の体を切り刻んでいく。
「これが……俺の戦い方だっ!」
双剣を振るい、血を振り落とすと同時に刻まれた百足の体は暗い地面に落ちた。
それを見届ける前に由太郎と七五三太は急いで部屋の奥へと走っていった。
まるで3人を待ち構えているかのように2匹の百足はそこに居た。
奇声を発し、人面は顎が外れるほどに口を開き毒が垂れる牙を彼らに見せる。
その奥には作業員と思しき者が見えた。
部屋に入るとテイルは光纏し、阻霊符は効力を発揮し百足の逃走を封じると戒が自ら愛用の魔具を取り出す。
「いでよ銀朱雀!」
取り出した羽ばたく銀の鳳凰は白銀の光を放ち、彼の体を守る鎧となる……はずだった。
しかし、銀朱雀は纏われることはなく、鳳凰も来ることは無かった。
召喚しようにも、あるはずが無いものは来るはずが無かった。
「――っく、俺としたことが……! だが、俺にはこの拳がある」
そう言って、拳を握ると戒は百足と対峙した。
直後、飛び掛るようにして百足たちは3人へと襲い掛かってきた。
同時にハルバードを横に構え、幸桜が飛び出すと柄に百足の口に引っ掛けるようにして壁へと押し付けた。
「早く! 僕が抑えてるうちに!」
女の姿をした少年の声に動かされるようにして戒とテイルは走り出し、倒れている作業員を担ぎ上げると部屋へと続く道の入り口へと連れ出した。
ヘッドライトに写る顔は暗く良く見えないが暖かいから元気であるとテイルは信じ声に出す。
「うん、元気そうだねっ。それじゃあとっととムカデを倒して脱出だ!」
テイルの声と同時に、限界を向かえた幸桜は百足から距離をとり後ろに跳ぶと武器を構え直した。
そんな幸桜を狙おうと2匹の百足は牙を向ける。だがうち1匹へと戒が素早く飛び出し、重い拳を腹に打ち込んだ。
「貰った! ――ぐ、ぅ!」
炎のように燃えるアウルを込めた拳は百足に減り込み浮き立たせる。だが同時に牙は戒の左肩に噛み付き、毒を流し込む。
強烈な吐き気を感じ戒はその場に跪く。どうやら毒が効いたようだ。
「よっし、捉えた! このまま……貫くッ!」
だが尚も百足は噛み付いたまま体を離そうとしない。そんな百足を地面に繋ぎ止めるようにテイルがパイルバンカーを百足の体に打ち込んだ。
火薬の臭いと共に百足は痛みに奇声を上げ、戒から離れ地面にのた打ち回る。
一方、幸桜を狙おうと襲い掛かる百足へとハルバードを薙ぎ払い距離を詰めた。
「焔さん、大丈夫ですか!?」
「気に……するな、あんたはあんたで……あいつを倒せ」
苦しいのか、息絶え絶えに戒は言う。その言葉に心配な表情をしていた幸桜はハルバードを構え直す。
「テイルさん。焔さんとあの方を頼みます」
少しは言い返したかったのかも知れない、しかし幸桜の意思を尊重しテイルは持ち前の馬鹿力で戒を持ち上げ、入り口に置いた作業員を抱えると部屋を後にして入り口へと駆けていった。
そして百足が後を追わないように幸桜が立ち塞ぎ、敵意を向けた。
ヘッドライトの小さな明かりの中、小柄な体を活かし由太郎を追い越しテ先に部屋の奥へと到着した七五三太が自分に襲い掛かる百足の横っ腹にトンファーを打ち込む。
「小柄だからって甘く見てんじゃねぇぞテメェ!」
グニャリと柔らかな感触と硬い硬質の感触をトンファー越しに感じながら七五三太は睨み付ける。
小さいが接近すると危険だと察したのか百足は距離を取ると、口から息を吐き出し始めた。
直後、七五三太の手足が痺れだして来た。麻痺成分を含んだ息だ!
気づいた瞬間、飛び上がり回避しようと試みた……しかし、麻痺が届くスピードが速く気づいた頃には足は地面に縫い付けられたように動かなくなっていた。
そこへ百足は一気に距離を詰め、大きく顎を開き鋭い牙で七五三太の首に噛み付こうとした。
直後、激しい炸裂音と共に百足は奇声を発した。
なんとか動く首を動かし、七五三太はそちらを向くとセミオート式の散弾銃を構えた由太郎が地面を這う百足の胴体に照準を合わせトリガーを何度も引いていた。
トリガーを引く度に空となった薬莢はカランカランと音を立てながら地面へと落ちていく。
「足元がお留守だよ」
放射線状に放たれた小さな弾丸は幾度と無く百足の胴体に命中し肉をミンチにし、青み掛かった緑色の血を垂れ流していく。
その箇所にも神経があるのか、激痛に打ち震えるように百足の顔は狂ったように震え、唾液を撒き散らし、奇声を上げる。
「痛いか? だったら、もう痛みを感じさせないようにしてやるぜ!」
体の痺れが取れ始め、七五三太はトンファーから漆黒の大鎌へと持ち替えると全身をバネにし天井ギリギリまで跳躍した。
そして全身のアウルを燃焼させ、構えた大鎌を全力で振り下ろした!!
……百足は、奇声を上げることなく、左右真っ二つに両断された。
更に追い討ちをかけるように、両断された百足へと輝瑠のホワイトナイト・ツインエッジと騏のパイルバンカーが打ち込まれた。
●救う命、救われぬ命
桜色のアウルを纏い、幸桜は召炎霊符から放たれた火球により苦しみながら燃える百足を背後にし、部屋を出て行く。
きっと今頃助け出された作業員が介抱されているに違いない。
そう思いながら入り口へと向かおうとする。その直後、幸桜のトランシーバーに連絡が入った。
「もしもし……」
「テイルさんっ、作業員の方は無事でしたかっ?」
先ほどの活発な彼女の声とはまったく違った声に幸桜は一瞬疑問を抱く、しかし作業員は助かったと信じ彼は問い掛けた。
直後、堰を切ったようにテイルが泣き声をあげた。明るく活発な彼女にしては珍しい感情だっただろう。
しかし、起伏が激しい分涙が出るときは出るのだ。
涙ながらに聞いた情報を纏めるとこうだった。
無事だと思った作業員の体は所々百足に締め付けられた上に噛み千切られ人体は損傷しており、全身を毒が冒し回っており……太陽の光に手を伸ばし、虚ろな瞳から涙を零し……絶命した。
そして、戒のほうは命に別状は無く、作業員の死を見てから何も言わずに座り込んでいるとのことだった。
「そん……な、また人の命が……くっ、なん、で……!」
それを聞き、幸桜は今にも零れそうになるものを抑えながら心の底から悔しがった。
そして彼は誘われるかのように、もう一方の部屋へと歩いていった。
一方の部屋で見つかった作業員の訃報を聞いていた頃、4人は室内を調べていた。
まず最初に見つかったのは人体が締め付けられ在らぬ方向へと曲がり切り、苦悶の表情を浮かべた作業員の死体だった……。
「あんたが眠るべき場所はここじゃない、家族の元に帰ろう」
手で瞼を閉ざし、由太郎は静かにそう言いうと死体を抱きかかえる。
その作業員の服から落ちた物を輝瑠は拾う。……写真だった。
作業員と女性、少女が楽しそうに笑っている写真だ。
きっとこれを大事に胸に仕舞い込み、作業をするのが日課だったのだろう。
その写真を見ながら、輝瑠は静かな怒りを胸に燃やしながら……胸にそっと忍ばせた。
そんな時、騏が大きな声をあげた。
「おい! おい、しっかりしろ! 生き残ってくれないと困るんだよ!!」
急いでそこへ向かうと、七五三太が護っていた作業員へと騏が必死に呼びかけていた。
近づくと、その作業員は……生きていた。もしかすると、4匹の百足たちは2人の作業者を甚振り、最後の作業者を動けないようにして残していたのかも知れない。
きっと気のせいかも知れないが、そう思うことにした。
しかし、作業員には生命と呼べる物が限りなく薄く感じられた。
「しっかり! 気をしっかり持つっす!」
必死に七五三太も作業員に呼びかけ、叫ぶ。だが、その声は段々と届かなくなっていく。
ヒーローに憧れる少年は助かれと心から叫ぶ、しかし何も出来ない。
力で誇示をするという仮面を被った青年は、心の中で叫ぶ。助かれ、助けたいと。
だが、心のどこかで諦めかけた瞬間――風が室内に巻き起こった。
振り返ると、すぐそばには白銀の光を纏った幸桜が立っていた。
「これ以上死なせない、死なせたくない、死なせて……たまるものかっ」
神に祈るように、助かってほしいと叫ぶように、心の中で叫ぶ弱い自分を叱咤するように幸桜は叫ぶ。
それに呼応するように纏う光は白銀から桜色に変わり始め、風はやさしく彼らを癒すように撫でるように吹き、桜吹雪のように彼らを包み込んだ。
しばらくして……風は、やんだ。
同時に作業者の口からは安定した呼吸が漏れ、生命の息吹が感じられた。
(「よかった……助けることが、出来た……」)
心の安堵を感じ、緩んだ彼の瞳からは――涙が零れた。
つられる様に叫んでいた2人も鼻を鳴らし、涙を堪えているのかも知れない。
そして作業者を含め、6人は出口を目指し歩き出した。
陽の当たる場所ではきっと、彼らを待ちわびていることだろう……。
おかえり。その言葉と共に……陽の光は彼らを照らした。