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休日になり、遊園地入口に集まると貰ったパスを受付に出した。
「ああ、貴方がたが……頑張ってくださいね。まずは特設ステージ前に行って下さいと支配人からの伝言です」
何故か憐れな瞳を向けられ、首を傾げる彼らはステージへと向かうと……向かい合って座れる長机が設置されていた。
どうやら始めに座って自己紹介をして欲しいようだ。と言うか、支配人が立っているのが見えるから間違いない。
「ぃよく来てくれたねチミたち! 今日はよろしく頼むよ! っと、ぼかぁ邪魔みたいだから離れておくよ」
言うだけ言って支配人は去って行き……後には、彼らが残った。
……とりあえず、自己紹介するしかないようだ。
「相馬遥、16歳! トレードマークは眼鏡と腕章! 今日はよろしくお願いしますっ」
彼氏募集中の腕章を目立たせ、顔をキリッとさせながら相馬 遥(
ja0132)は着席をする。
次に市来 緋毬(
ja0164)が立ち上がり自己紹介をするが……「なんでそんな事をするんだろう?」という表情だ。
(「早く遊園地を楽しみたいですね」)
しかし、疑問は遊園地の魅力に掻き消されてしまった。
緋毬が座ると青木 凛子(
ja5657)が立ち上がり、気さくな笑顔と共に男性陣に手を振る。
「青木凛子です。出来れば名前で呼んでねっ」
「い、一年の沙酉 舞尾です。今日は一緒に楽しく過ごせたら嬉しいですっ! え、あ、こ、高等部……です!」
凛子が紹介した直後、沙酉 舞尾(
ja8105)が混乱気味に自己紹介をする。最後の付け加えは物凄く小さいから小学生に見えてしまうからだろう。
まあ年齢的には小学生だったりするが、高校生だ。やっぱり小学生は最高だぜ。
話が脱線しかけたが、最後に細江 悠宇(
ja8329)が立ち上がり笑顔を向ける。
「同じく高等部1年、細江悠宇です。よろしくね」
言い終り座ると今度は男性陣の紹介だ。
まず最初に鴻池 柊(
ja1082)が立ち上がり、自己紹介を始める。
「大学部2年、鴻池 柊。特技は彫刻とバスケと芸事。披露するのは難しいので店に来てくれた時にでも。今日は宜しく」
次に星杜 焔(
ja5378)が立ち上がり、自己紹介を始めた。
「遊園地無料にホイホイされた高等部1年。非モテ騎士友の会の星杜焔16歳です。特技は料理、彼女居ない暦16年、宜しくね〜」
「どーもこんにちは、小野友真でっす☆ よろしくお願いしまーす」
焔が終わると同時に小野友真(
ja6901)が立ち上がり、癒し系笑顔で自己紹介。
それが終わると八辻 鴉坤(
ja7362)に向けてタッチをして交代。
「初めまして、大学部2年のAkonです。お見合いって名目で集まったけど今日は存分に楽しもう」
そう言うと最後の紹介で翡翠 龍斗(
ja7594)が立ち上がった。
「高等部1年、翡翠龍斗。今日はよろしくな。自己紹介も終わったしアトラクションに行くか? それとも、何か食べてからにするか?」
龍斗が座ると共に問いかけると、待ってましたと言う様に友真が手を上げた。
「折角やし皆で何か乗らへん?」
友真が指差した先は……。
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潰れかけの遊園地で何が怖いって?
そりゃあ決まってるだろう。……老朽化して動く度にギシギシ音を出す物全部だ。
彼らを乗せたバイキングは半分まで上がると、風を切って滑空し再び風を切っていく。
「風を切って気持ち良いです♪」
「ぴゃ〜〜!」
その度にギシギシ船が音を立てるが、夢中になっている者たちには聞こえない。
柊も聞こえた音に一瞬驚いていたが周りを怖がらせてはいけないと思ったのか、風を感じている。
一回転するかしないかまで船は上がり、時間が来たのかスピードは緩まって行き……ブレーキが掛かったのかギギッという音と共に船は止まった。
バイキングから下りると彼らは2人に分かれてデートをすると決めた行動を開始する。
「相馬、俺で良かったら一緒に行動するか?」
「りーんこさん、デートしよ?」
「市来、一緒に回らないか?」
柊、友真、龍斗がペアの相手を誘い、喜んでついて行く中で舞尾は猫毛がもふぁっと膨らんだ状態で悠宇に引っ付いていた。
緊張しているから同じ女性と一緒に居たいのだろう。
「離れそうにないし、2組で行動するか?」
「ん、あ……ああ、舞尾さんも居るしそれも良いかもしれないね」
鴉坤の言葉に少し戸惑いながら焔は返事を返す。どうやら初対面の相手には人見知りだったようだ。
『好きなタイプは何ですか?』
龍斗と緋毬がお化け屋敷に向う途中、そう書かれたフリップボードを構えたスタッフと出くわした。
「皆で乗れるものが好きです」
ガーリー系の女の子らしい服装の緋毬が言うと、スタッフは大げさに転び手を振る。
乗り物の好みと勘違いしているようだ。そこに助け舟を出すべく、龍斗が……。
「儚い雰囲気で、穏やかな人。あと、料理上手であれば、更に良し」
「え、あ……す、好きになった方がタイプなのだと思います」
異性だと言う事に気づき、緋毬は顔を照れながら言う。
すると、次に『趣味は何ですか?』と書かれたボードに切り替わった。
「お料理が好きです。美味しく食べてもらえると嬉しくなります」
「鍛れ……いや、木陰で本を読むことかな?」
いま鍛錬って言おうとしたよね。
『好きな料理は何ですか?』と書かれたボードに切り替わった。
「……和食」
「甘いお菓子と家庭料理です」
『ありがとうございました。』
4枚目のボードを出し、スタッフが去って行くと2人はお化け屋敷に到着した。
古びて本当に何か出そうな草臥れ具合に緋毬が無意識で龍斗の服を掴む。
「お化け屋敷……」
「大丈夫か?」
「はわっ、ごめんなさいっ。だ……大丈夫です。これもお仕事ですしっ、行きましょうっ」
龍斗の服を放して涙目になりながら勇気を振り絞ると、緋毬は急いでお化け屋敷の中へと飛び込んで行った。
その姿に恋愛に乏しい龍斗は微笑みながら、後について行く。
「そんなに慌てなくても時間は、まだあるさ」
龍斗の勘違いは数分後、緋毬の悲鳴で気づくのだった。
「定番やけど、好きになった人が好みのタイプかなぁ」
「尊敬できる人が好き。前を向いて、頑張ってる姿に弱いの」
観覧車に乗る前に友真と凛子へとスタッフがボードを見せていた。
どうやら全員に同じ質問をしているようだ。質問が変わり、趣味を訊ねられた。
「ゆっくりご飯を食べたり、ドライブとかも好きよ」
「最近は人と一緒におる事かな。複数でも一対一でも」
『ありがとうございました。それでは観覧車をお楽しみください』
3枚目のボードを見せ、2人を観覧車に招く為にスタッフは移動する。
ゆっくりと動く観覧車へと友真が飛び乗り、凛子に向けて手を差し伸べ、エスコートされ中へと入った。
「ありがとう、友真ちゃん」
「いえいえ、凛子さんを独り占めできて光栄です」
笑い合いながら、ゆっくりと昇り始める観覧車から周囲を見渡すと色んな景色が見えた。
中央広場の巨大なモニターに何かが映ってたり、特設ステージが見えたり、様々なアトラクションが見えた。
「あ、他の子らも遊んでるなー」
「そうね。ところで、ここでキスしたら、永遠の愛が叶ったりするのかしら……?」
悪戯に微笑み友真を見ると、顔を真っ赤にして俯いていた。
それから話題が減り、観覧車は終着を迎え友真が先に降りた。
「どうぞ……?」
「ふふ、ありがとう」
顔を見ずに出してきた手を繋ぐと2人は観覧車から離れていった。
「背が高くて、優しくて頼りになって誠実で……うへへ」
「好みのタイプは特に居ない。……そうだな、あえて言うなら……幼馴染2人を最優先しても怒らない人。だな」
妄想世界に飛び込む遥と寛容な女性を求む柊。続けて趣味の質問へと移ろうとした……がボードを持つスタッフに別のスタッフが近づき耳打ちをする。
『2つ目以降はアトラクションに乗りながら行います』
と書かれたボードを見せた。
「そうか、相馬。お前はどれに乗りたい?」
「はひ!? え、えと、ああ、あれでお願いします!」
遥が指差したアトラクション……ジェットコースターだった。
決して早くは無い上に、目立った回転も無い、所謂子供向けといったタイプの物だろう。
だけど、その分スピードが出る所は出ていた。
それを見た瞬間、緊張でガチガチになっていたり妄想世界に飛び込んでいたはずの遥は一気に下界に突き落とされた。
「もしかして、怖いのか?」
「あ、あはは、怖くないですけど、意外と速そうですね……怖くないですけど」
声を震わせながら、柊に返事をし2人はジェットコースターに乗り込んだ。
2列目に座ると、前列に座ったスタッフが2つ目のボードを見せ……直後、コースターが動き出し坂を上り始めた。
「彫刻と体を動かす事……特にバスケが好きだな」
「しゅ味は音楽でベースとかやってますっ、セッション募集ちゅ――ぎゃー!」
遥が言い終わる瞬間、コースターは頂上に上り切ると一気に滑り出した。
ボードが落ちない様に必死に押さえながらスタッフは3つ目の質問を聞く……根性あるなぁ。
「ぎゃー!」
「和食全般……だな。後はオムライスとハンバーグ」
叫ぶ遥を無視し、クールに柊はスタッフに質問を返す。悲鳴が物凄く生々しい!
コースターは1周終えると終了……と思いきや、ある程度まで進むと中継地点があり曲がったレーンにコースターが上ると逆方向にスタート地点へと戻り始めた。
更に始めに降りた坂を一気に上り切る……と思いきやそれを使ってまたも同じ風に走行を開始した。
どうやら回転が無い分、こういう系で人気を取ろうとする魂胆だろう。
一瞬驚いた表情を見せる柊だったが納得がいった様に頷き、隣の遥は……絶叫をあげ続けていた。
「大丈夫か? 結構、叫んでたよな。ジュースでよかったか?」
「ぜ、ぜひー、あ……ありがとう、ございます……」
コースターから降り、近くのベンチに座った遥へと柊は少しだけ心配そうにしながらジュースを渡した。
「同い年以上で俺より背が低くて、笑顔が綺麗でお淑やかでトレンチコートが似合うお嬢様系で、散弾銃をぶっ放す様が可憐な一緒にヒャッハーしてくれる黒髪ストレートロングの女性かな〜」
言いながら焔は迫り来るゾンビの大群に向けて、マシンガンを撃ち出す。
握った玩具のマシンガンは振動を出して、画面上のゾンビの脳天に弾を命中させていく。
焔の言葉は特定の人物を指しているように聞こえたが……コイツ実はリア充じゃね?
「日本人女性は好きだよ。ヤマトナデシコ……っていうの? 活発な子も好きだけどね」
隣に立つ鴉坤の手にも玩具のハンドガンが握られ、踏み板から足を離すと同時にトリガーを引き、自分を狙う敵と虫ロボの大群を撃ち落していく。
あと少しで貼り付かれる瞬間、2Pの悠宇がマシンガンに切り替えトリガーを引いて虫ロボを駆逐していく。
「……ああ、ボクは心の広い人かな」
的確に撃ち落しながら、悠宇は質問を返答する。
そんな彼らのプレイを驚きながらも熱中する舞尾へと質問が移る。
「え、えと優しくて、そのえっと……撫でるのが上手、とか……ぴゃ!?」
焔は水路で追いかけて来る巨大なゾンビに舞尾は驚き、鴉坤と悠宇はヘリに乗ってビル街で銃撃戦を繰り広げていた。
手が放せない様なので、続けて舞尾へと2つ目の質問を連続で訊ねた。
「猫、です。愛でてよし撫でてよしなのと、にくきぅも……らぶりーです」
頬を緩ませながら猫を撫でる仕草をする。
ステージボスと戦いながら悠宇も質問に答えるべく手を上げる。
「ウィンドウショッピングかな。ボクに合う服が無くてね〜」
「餌付け、銃撃戦、ロボット開発、大工仕事かな〜」
巨漢ゾンビに銃を乱射しながら焔は答え、引鉄を引いたまま集中砲火を行っている鴉坤に質問は移った。
「趣味は……うーん、弦楽器かな。他は車を走らせたり、旅行とか……」
『有難うございました。時間まで楽しんでください』と書き、スタッフは離れて行った。
それから合流し、別のカップルに分かれ楽しんでいると……アナウンスが鳴った。
『ご協力の10名様、特設ステージの準備が出来ましたのでお集まり下さい』
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「凛子さん、今日は楽しかったです! また俺と遊んでくれませんか!」
頭を下げ、手を凛子に差し出しながら友真は特設ステージ前で叫ぶ。
「何時も元気をくれてありがとう。友真ちゃん大好き! こちらこそ、またデートしてください!」
笑顔で答え友真の手を握った途端、ハートは桃色に点灯し鐘が鳴った。
どうやらそういう仕様らしい。
仲良く手を繋ぎ、去っていくと次の告白者が立ち上がった。
「さっきは誘って貰って、凄く嬉しかったです! わ、私でよければ、お願いします!」
珍しく女の遥からのアタックだったが、困った表情を浮かべながら柊は微笑む。
「――ごめん、付き合えない。気持ちは嬉しいけどな」
「そ、そんなー……」
ぼうけんのしょが消えた音楽と共にハートは青く点灯し……遥の立っていた場所は穴が開き、落ちていった。
まさにどん底気分。中はスポンジプールだから大丈夫★
「俺に告白されて嬉しい女子がいる訳ないし……だったら面識ある相手で良いよね。舞尾さん、第一印象から決めてました!」
「ぴゃ……ぴゃ〜!? ふ、不届き物ですがお友達でお願い、します……っ」
炎の羽根を背中に纏った焔がポーズを決め、舞尾に告白もどきをするとフリーズした直後、アタフタと混乱しながら舞尾は頭を下げた。
それから告白は停滞し、静かになると支配人がマイクで声を出した。
『ちょっとチミ、告白してくれないと大作戦の意味が無いよ!』
「俺は自分から告白はしない」
『奥手だと彼女が靡かないよチミィ! ああもう、そこのチミ! 告白受けてもらいなよ!』
半ばキレ気味の支配人の言葉に渋々と龍斗と悠宇がステージに上がり向き合う。
「ごめんね〜」
「……すまん。お前さんには俺より相応しい男が居るはずだ」
「え、あー……うん、ソウダネー」
何か妙に白々しい2人の会話と共に、ハートは割れると共にガラスが砕ける音が鳴った。
直後、2人はプールに落とされた。
「好きです。一緒に居てとても楽しいんだ。良かったらもう少し……傍へ行っても良いですか?」
どうやら、ゲーセンの後に鴉坤は緋毬と行動をしていたようだ。
その時に乗ったメリーゴーランドでの「少し照れますけれど子供の時は憧れでした。お姫様気分です♪」と楽しそうに笑ったのが忘れられなかったようだ。
その言葉にやっと依頼趣旨を把握し、緋毬は驚き顔を赤らめ……。
「……っごめんなさい」
「残念……だけど、楽しいひと時だった。有難う」
軽くポーズを決め、鴉坤はプールに落ちていった。
こうして、カップル成立大作戦は幕を閉じた。
ちなみに参加者10人は気づいていないだろうが……中央広場のモニターでは彼らのデート模様が上映されており、来場者を楽しませてたりしていたのだった。