●茶会だよ、全員集合
お茶会当日、空は雲ひとつ無い晴天。
そして中庭には小日向 向日葵(jz0063)を含めたお茶会参加者が集まっていた。
「今日は集まってくれてありがとう、楽しいお茶会にしましょう」
「小日向さん、今日はお招きを感謝します。素敵なティパーティになるといいな」
「えと、お招き、ありがとうございます……」
早咲きの向日葵の花を手渡しながら雪成 藤花(
ja0292)は笑みを浮かべる。
儀礼服姿の冬樹 巽(
ja8798)からも少し恥ずかしそうに花束が差し出された。
2人が花を手渡すと共に挨拶をしたかった、他の参加者が向日葵へと近づいてきた。
「お招きに預かり、光栄です」
マカロンの詰め合わせが入った箱を差し出し、牧野 穂鳥(
ja2029)は頭を下げる。
「はぅはぅ、お久しぶりなの向日葵ちゃん! 貰ったちょこ太ちゃんたち、大事に飼ってるよ!」
「京都の一件も一先ずの終り、一息つくにはちょうど良い催しですね」
両隣からエルレーン・バルハザード(
ja0889)、雫(
ja1894)も顔を出し声をかける。
そして挨拶を終えると、会場設営とお菓子作りを行う為に作業を開始した。
●中庭を彩ろう
お菓子作りに行く者、倉庫にテーブルと椅子を取りに行く者の中から外れ、佐藤 としお(
ja2489)は中庭に立っていた。
「ちゃちゃっと会場作ってみますか!」
元気にそう言うと、借りてきた芝刈り機のエンジンを動かすと持ち手を握った。
軽い振動を両手に受けながら、芝刈り機をまっすぐ動かすと底に設置されたソーが初夏の陽気で少し伸びた中庭の芝を均等な長さに刈り始めていく。
軽く鼻歌を歌いながら、としおはゆっくりと均等に動かして行く。
そんな時、音楽室から教師の説教が聞こえ、同時に「堪忍してなー!」と言う亀山 淳紅(
ja2261)の泣き声が聞こえた。
キンキンに聞こえる教師の金切り声で、どうやら淳紅は音楽室からグランドピアノを素で持ち出そうとしているのが判った。
どうツッコメば良いのか判らないから、としおは芝刈りを静かに再開するのだった。
「ボク、男だもん。力仕事は任せてよ! お菓子作りしない分、しっかり働かなくちゃだし」
そう言って、犬乃 さんぽ(
ja1272)は倉庫から白いテーブルを引っ張り出すと、1人でテーブルをフラフラしながら持って行く。
どうやら前を歩く若杉 英斗(
ja4230)が軽々と同じテーブルを持ち上げてたのを見て自分も男らしさをアピールしたかったようだ。
さんぽの後ろを追うようにして、メイド服の穂鳥がテーブルと同じ素材の椅子を持って付いていく。
「ふぅ……っと、この格好だと、お茶会に迷い込んだ部外者って感じだよなぁ」
中庭に持ってきた椅子を置くと、雨宮 歩(
ja3810)は自身の格好を見る。
歩の格好は黒スーツにソフト帽といった探偵の様なスタイルをしていた。
GジャンにGパンといった服装の人物も居るが、歩は場の雰囲気を壊したくないようだ。
「ま、今はこの格好でいいけど、お茶会が始まったら着替える事にでもするかなぁ」
皮肉げな笑みを浮かべ歩は倉庫へと歩いていった。
そして26の椅子が中庭に置かれ、影野 恭弥(
ja0018)が持った最後のテーブルが地面に下ろされると9つあることに気づいた。
「パラソルも……持ってきた」
「お、ご苦労様!」
そう言って、巽は纏めて結んだパラソルの束を地面に置いた。
どうやらコレで倉庫にある物は持ってきたようだ。
「何か手伝う事ある?」
「じゃあ、テーブルと椅子を並べるのを手伝ってもらえますか?」
桝本 侑吾(
ja8758)がテーブルを運ぶ英斗に問い掛けると、慣れない丁寧語を使いながら侑吾に指示を出す。
その指示に頷くと侑吾は英斗と共にテーブルを持つと綺麗に刈られた芝の上へとテーブルを置いた。
同じ様に恭弥と歩がそこから少し離れた場所にテーブルを設置し、9つのテーブルで大きく円を描くように配置された。
9つのテーブルへと、26の椅子はさんぽと穂鳥によって3脚ずつ並べられていった。
そしてテーブルの中央の窪みへと、共に持ってきたパラソルをそこに突き刺すために開かれた。
濃緑のパラソルが陽の光を遮るのを確認し、テーブルへと設置して行く。
試しに座ってみると心地良い涼しさが感じられた……これなら日光で倒れる心配は無いだろう。
満足そうに設置を終えた彼らへと、ションボリしながらオルガンを持ってきた淳紅が合流した。
●茶会にお菓子を
「どうせならお持ち帰り出来ちゃうぐらいに作っちゃおうか」
ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)はそう言いながら、事前に用意した土台用の生地とクリームチーズ、カッテージチーズ、マスカルポーネチーズ、リコッタチーズといったチーズケーキ用のチーズを調理台へと置いた。
どうやらチーズは自分で質の良い物を選び買って来たようだ。
ソフィアはいろんな種類のチーズケーキに挑戦しようとしているらしい。
「白猫さんに黒猫さん、ふんわり膨らみにゃーにゃーにゃー♪」
その向かいでは、市来 緋毬(
ja0164)が可愛い歌を歌いながら喫茶店「猫の家」用に作ってもらった猫の顔型の焼き型へとケーキのタネを流し込んでいく。
クリーム色、ココア色2色のタネがペーパーの敷かれた型に広がって行き、流し終えると予め暖めていたオーブンへと入れると、温かい熱を感じながら、緋毬はオーブンを閉じた。
「それじゃあ、焼ける間に虎猫さんを作りましょー♪」
楽しそうに言いながら緋毬はクリームチーズとレモンを手に取るのだった。
そのすぐ傍には2つの型より一回り小さな猫顔の型が置かれていた。
隣の調理台では、メイド服姿のアーレイ・バーグ(
ja0276)が持ち込んできたスコーン生地をラップを広げて敷板の上に載せるとその上にラップを被せて重ねるようにするとその上から麺棒で生地を平坦にし始めた。
ある程度の厚さに伸ばし終えると、丸い抜き型を使いひとつひとつシートを敷いた鉄板に載せていく。
「まだまだたっくさん作りましょう〜」
楽しそうに言いながら、作ったスコーン生地を全て鉄板に載せ終えるとアーレイはそれらをオーブンの中へと入れた。
スコーンを焼いている内にアーレイは持ち込んだクロテッドクリームと数種類のジャムをガラスの器へと入れた。
「準備完了ですっ」
元気にポーズを決めると、メイド服に包まれた2つのメロンが揺れた。
一方、『りあじゅうとぼっち』班の調理台では4人がお菓子を作っていた。
(「焔先輩の執事コス、似合ってるなぁ」)
目の前で調理を行う星杜 焔(
ja5378)を見ながら藤花は心の中でそう思う。
そんな事を思われているのに気づかない焔は慣れた手付きでゴムベラを使い、ボウル内の小麦粉とバターを混ぜ合わせていた。
どうやらパイ生地を作っているようだ。
その隣では柊 夜鈴(
ja1014)が勇気と努力と夢と根性でお菓子を作っていた。
……要するに適当に作っていた。
だが、小麦粉を使っているところを見ると粉物なのかも知れない。
「料理の腕が絶望的でも何とかなるはずっ!」
そう自分に言い聞かせていた。……不安だ。
焔の向かいではフェリーナ・シーグラム(
ja6845)がバニラビーンズを包丁で細かく切り、鍋の牛乳へと入れていた。
牛乳に火を点けると鍋の縁から沸々と泡が出始め、牛乳特有の香りとバニラの香りが鍋から漂い始め……泡が増え始め沸騰する寸前に火を消した。
「お菓子作りなんて何年ぶりだろう……? っと、素早く混ぜ合わせないと」
ボウルで卵黄と砂糖を擦り混ぜ、薄力粉を混ぜるとそこへ温めていた牛乳を少しずつ混ぜ合わせていった。
ボウルの中身が牛乳と溶け合うのを感じながら、フェリーナはそれを再び鍋の中へと戻し中火で温めながらホイッパーでゆっくりとかき回して行き……とろみを感じ始めると鍋を火から下ろし、鍋敷きの上へと置いた。
「後はバニラエッセンスを入れてね〜、フェリーナさん」
「分かりました。最後にバニラエッセンスを少し入れて……っと」
伸ばし終えたパイ生地を3枚の鉄板に敷き詰めながら、焔はフェリーナへとアドバイスを送る。
それに従いながらフェリーナはバニラエッセンスを加え、軽くかき混ぜた。
後は固まれば成功。そう思いながら、女らしい事をしたが無かった事を思い出しフェリーナは溜息を吐きながら、焔を見た。
パイ生地が焼き上がる間に、藤花にお菓子作りのアドバイスをしていた。
……何故だか知らないが、フェリーナの目からは汗が出た。
決して、女の自分よりも男の焔の方がお菓子作りが出来てる事に涙した訳ではない。
心の汗なのだ。
そんな彼女の思いを露知らず、オーブンは音を立て鉄板を抜くとこんがり狐色に焼けた熱々の板パイが姿を現したのだった。
「よし、冷めたら苺のミルフィーユ作りを開始だ〜」
笑顔で焔は言うのだった。
オーブンを開くと、焼き上がった平らなビスキュイ生地が美味しそうな匂いを放ち天風 静流(
ja0373)を甘い空間に誘い込む。
表面はこんがりと茶色に焼きあがっているが、余分に広げたクッキングシートの端を摘み余熱を取る為に網に載せると……中が抹茶色になっているのが分かる。
生地に抹茶を練り込んで焼き上げたようだ。
崩れないのを確認すると、静流はボウルに生クリームを入れホイッパーで混ぜ始めた。
(「材料費くらいなら申請して経費で落とせると思うが……どうだろうか」)
台に置かれた美味しそうな数種の果物を見ながら、静流は思った。
その向かいでは、黒百合(
ja0422)が泡立てた生クリームを指先で掬い、ペロッと舐めた。
砂糖をタップリと混ぜたから甘い味が口の中で溶けていった。
その甘さに満足しながら、黒百合はまな板の上で苺、林檎、キウイ、オレンジなどのフルーツを一口サイズにカットし始めた。
ある程度カットし終えると、網の上で熱を冷ましていたスポンジケーキを軽く触ってみた……大分冷えてきたのか、軽く頷くとスポンジを包んでいたシートを剥がし始めた。
少しずつ周囲に巻かれたシートはスポンジから離れ始め、剥がれるにつれスポンジケーキは美味しそうな黄金色の姿を現し始めてきた。
巻かれたシートを剥がし終えると、今度は底となっていたシートを剥がし始めた。
シートが剥がれるにつれ、同じ様に黄金色のスポンジは姿を現していく……それはあたかも、月が満月へと変わろうとしているかのようであった。
「最近、茶会の依頼が多いからお菓子作りが妙に慣れてきたわねェ……私らしくないィ……」
ぼそり呟きながら、黒百合はケーキナイフで均等にスポンジケーキを整えると半分に切り、生クリームと果物を載せ始めた。
それが終わると、切ったスポンジを載せ……残りの生クリームを満遍なく塗り始めた。
塗り終えると最後にデコレーションとして生クリームを絞り、フルーツを載せ黒百合のケーキは完成した。
「お菓子と聞いたらスイーツプリンセスたるこのわたしが黙ってるはずもない!」
下妻ユーカリ(
ja0593)が元気良く叫びながら、大型の蒸篭を前に立っている。
流し台が色々大惨事になっているが今は気にしないでおこう。
と思っていたら、時間が来たのかユーカリは蒸篭を開けようと手を伸ば――
「熱っ! 熱い!」
……蒸気が指に当たったのか、蒸篭が熱くなっていたからか涙目になりながら蒸篭の蓋を落としそうになっていた。
しかし此処は根性、根性があったら何でも出来る(多分)
そんな考えと共に蓋を開けると、クッキングシートに載せられた小さく可愛らしい紫色とピンク色のお饅頭が姿を現した。
蒸し上がったお饅頭を熱熱と言いながらユーカリは緑色の小皿へと載せていき、緑の小皿の上で紫とピンクの紫陽花が花を咲かせた。
その向かいでは、五十鈴 響(
ja6602)がコンロの前で立っていた。
コンロの上には3つの鍋が置かれており、中にはラズベリー、ブラックベリー、ミックスベリーが入っていた。
それらが弱火でぐつぐつと煮込まれラズベリー特有の甘酸っぱい香りと真っ赤なシロップ、ブラックベリー特有の酸味の強い香りと濃紫のシロップが鼻腔を擽る。
ある程度煮込み終え、後は余熱を冷ますだけなので響はコンロの火を消した。
「後は冷やしてるヨーグルトムースに載せたりしましょう」
冷蔵庫の中で冷やしている一口サイズのタルト型に入ったムースの美味しさを考えながら、響は微笑むのだった。
鳳班の調理台では鳳 静矢(
ja3856)が、焼き上がったタルトへと少し柔らかめに作ったカスタードクリームを流し入れ、2つに切った苺を盛り付けて行き……最後に艶出しに作ったジャムを刷毛で塗っていた。
「後は冷やしたら艶が綺麗に出てくれるはずだな」
出来に満足しながら、完成した苺タルトを冷蔵庫の中へと入れた。
オーブンのタイマーが止まる音共に、鳳 優希(
ja3762)は中から鉄板を取り出す。
そこには不揃いながら美味しく焼き上がったシュー皮が載っていた。
「うん、美味しそうに焼けましたよ〜、熱が冷めたら仕上げを行いましょう〜」
そんな優希の傍には静矢と共に作ったカスタードクリームとレモン汁を振り撒いた輪切りバナナがあった。
どうやら、バナナシュークリームを作ろうとしているようだ。
優希の向かいでは雫が貝型の型からマドレーヌを取り出し、皿に載せているのが見えた。
マドレーヌの色は薄茶色と緑色だった……どうやら、紅茶味と抹茶味だろう。
微妙に幾つか緑色が強すぎる物が見えるが今は気にしないでおこう。
雫の隣では、焼き上がったプレーンスコーンを取りながら、氷雨 静(
ja4221)がケーキスタンドに乗せた皿の上へと置いていく。
傍にはクロテッドクリームと苺ジャムを載せたスタンドを用意し、準備を整え始めていた。
着ている服がメイド服だからか、物凄く様になっていた。
「やったあ! ちゃんと焼けたよ!」
嬉しそうにエルレーンが目の前のホカホカレンガを見ながら万歳する。
本人曰くコレはチョコ味のパウンドケーキらしいが、どう見てもレンガです。
だけど、凄く嬉しそうなので誰も茶々は入れない。
その向かいでは、向日葵が冷凍庫で冷やしていたクッキー生地を手ごろな大きさに切っていた。
切れる度にクッキーの模様となったクマさんが驚愕な表情を浮かべ始めているがきっと気のせいだろう……。
他にもハート、ダイヤ、ジャック、クローバーの絵柄のトランプ型のクッキーが次々と切られ始めていく。
「コレくらいなら足りるわね」
淡々と言いながら、向日葵は切ったクッキー生地をオーブンの中へと投入した。
数分後、オーブンの中からクマの断末魔がコーラスとなって聞こえたりしていたが……何も聞こえない、聞いてはいけない。
そんな感じの悲鳴が聞こえ続け、タイマーが鳴ると向日葵はオーブンからクッキーを取り出した。
取り出されたクッキーのトランプ型に手足が生えているように見えたが、きっと気のせいにしておこう……。
●中庭ティータイム
「メイドの血が騒ぎます」
簡易コンロに掛かったヤカンがゴポゴポと音を立て、沸騰している事を静に知らせる。
張り切りながら温めたティーポットからお湯を捨てると、適量の茶葉をポットの中へと落とした。
そこへゆっくりと沸騰したお湯がポットに注がれて行き、茶葉がポットの中をクルクルと泳ぎ始めた。
茶葉が泳ぐにつれ、お湯は色づき始め……紅茶の香りが漂い始めた。
静は持っていた砂時計が落ちきるのを確認し、温めていたティーカップのお湯を捨てると紅茶を注ぎ始めた。
茶漉しに茶葉が溜まっていくと共に白い陶器製のティーカップへと飴色の紅茶が注がれ、周囲に紅茶の爽やかな風味が漂ってくる。
均等に紅茶を淹れて行き、最後の一滴を落として行った。
本場はポットにも1杯分残しておかないといけないが、水質によって大丈夫だったりする。
そして、同じ様な動作を近くのテーブルで向日葵、焔によって行われ、26人分のカップへと紅茶は行き渡った。
「会場設営ありがとう、お菓子も美味しそうなのがいっぱい出来たわ。それじゃあ、お茶会を始めましょう……ふぅ、美味しい」
それを見届け、向日葵が淡々と言うと共に紅茶を一口飲むと共にお茶会は開催された。
直後、クラシックな音楽が奏でられ始めた。淳紅のオルガンだ。
「声楽部からの出張……言いたいとこやけど、今回はゆめげんバンドからの出張やでー♪」
「こういう格好でよかったでしょうか……?」
もじもじと恥ずかしそうに緋毬は薄いピンクのフリルレースが施されたドレスを着て椅子に座り、ダージリンを飲んだ。
芳醇な香りが口いっぱいに広がり、爽やかな酸味が突き抜けていく。
紅茶を飲み込むと共に緋毬の口からはほぅ……と溜息が漏れ、美味しいのが理解できる。
その余韻を楽しみながら、自分の作ったケーキを口に入れた。
甘いスポンジと生クリームと苺の酸味が口に広がり、何時もと違う甘さを引き立てて行く。
「わぁ、美味しそうなお菓子がいっぱいあって、目移りしちゃうな。あ、猫ちゃんだ」
「良かったら食べます?」
そんな時、カップを持って歩いていたさんぽが近づき、可愛らしいネコさんケーキに目を光らせる。
そんな彼に緋毬が皿を渡して、食べるのを進める。
「じゃあ、頂くよ!」
嬉しそうに皿を受け取ると、散歩は黒猫さんと虎猫さんを取ると迷わず黒猫さんをさんぽは一口食べた。
チョコケーキ、チョコクリームが口の中で溶け合い、細かく刻まれたチョコが色んな味を生み出していく。
美味しさを口の中に満たしながら、さんぽはダージリンを飲む。
先ほど飲んだ味とは違った味が口の中に広がり、美味しさをより一層引き立てる。
「美味しー! こっちの虎猫ちゃんの味はどうかなー?」
嬉しそうに言いながら、レアチーズの虎猫を食べ始めるのだった。
「スコーンにはジャムをたっぷりと載せて、その上からクロテッドクリームを載せると美味しいですよ? 塗るではなく載せるという量を贅沢に使うのがポイントです」
給仕をしながらアーレイはスコーンを手渡しながら巽に言う。
巽は人見知りなのか返事はしないが……どうやら話を聞いてるようだった。
ちなみに、説明内容は彼女が何時も愛用している紅茶家さんの受け売りだったりするが秘密だ。
その言葉に従いながら、巽はスコーンを割るとクロテッドクリームとブルーベリージャムを載せ食べた。
ザクッとした肉厚の食感の淡白なスコーンと濃厚ながら軽い口解けのクリーム、甘いジャムの味が口の中に広がっていった。
「美味しい……な」
呟きながら巽は紅茶を口にし、次は別のジャムで食べようとスコーンに手を伸ばした。
次々と減っていくスコーンを見ながらアーレイは満足そうに頷くのだった。
一方、『りあじゅうとぼっち』達の座るテーブルには……執事が居た。
「お嬢様方、お茶のお替りはいかがですか?」
「じゃぁ、お願いします焔先輩」
執事姿の焔がそう言いながら、紅茶の入ったティーカップを見せる。
そんな対応に慣れていないのか、藤花は照れながらお願いすると、かしこまりました。と言って焔は藤花のカップへと紅茶を注いだ。
「柊さん、アメリカンスタイルでレモンティーを飲んでみませんか?」
「ぼくが作ったこれは結局何なんだろう……ん? ああ、じゃあフェリちゃんお得意のを飲んでみようかな」
シロップと輪切りのレモンを出しながら、フェリーナが夜鈴に訊ねると温かいホットケーキのタネの様なものを食べていた彼は頷いた。
しかも、何故か砂糖とかをタップリ入れたはずなのに……まったく味がしなかった。
ちょっぴり悲しい気分になりながらフェリーナから受け取ったレモンティーを夜鈴は飲んだ。
物凄くシロップの甘さが体中を駆け巡り、レモンの味は……した。
慣れた手付きで行っていたが、夜鈴には甘過ぎたのかも知れない。
どれくらい甘いかと言うと、リア充の惚気話くらいに甘かった。
「そういえば、夜鈴先輩とフェリーナ先輩は彼氏彼女が居ますが、どんな人ですか?」
りあじゅうが羨ましいのか藤花が問い掛ける。すると、独り身な焔も気になったのか苺のミルフィーユをカットする手を止めた。
好奇の目を向けられ、彼氏彼女持ちの2人は恥ずかしいのか軽く頬を染め……。
「大好きな人ですっ!」
「護ってあげたいと思うひ――って、何を言わせるんだ。とーかにほむほむ君!」
笑顔を浮かべるフェリーナ、照れながら頑張って言おうとしたが爆発した夜鈴。
そんな2人の反応を見ながら藤花は焔に差し出された苺のミルフィーユを口に入れた。
カスタードの甘く滑らかな味、苺の甘酸っぱさ、そしてサクサクとしたパイ生地が口の中でハーモニーとなっていく。
きっと、2人が持っている恋はこんな風に苺のように甘酸っぱく、クリームのように甘いのだろう。
そう藤花は憧れを抱いた。
「演技力向上にもなりそうですし、案外悪くないかもしれませんね、この姿」
燕尾服風の衣装に身を包み、赤い髪をオールバックにし、黒縁の伊達眼鏡を掛けた歩はそう言いながら、中庭を歩く。
この格好からは何時もの気だるい雰囲気はないが、インテリが際立ち皮肉げが際立っていた。
そんな時、紅茶の香りを楽しむ響を見つけ近づき……声を掛けた。
「おや、珍しい所で会いましたね、五十鈴さん」
「え、えっと……?」
急に話しかけられ、振り返るが……何処かで見たはずなのに思い出せない相手に響は困った風に首を傾げる。
服装と髪型を変えるとこれ程までに雰囲気が変わるものなのだろう。
「あの……何処かでお会いしましたか?」
「ふふ、お分かりになりませんか? では私が誰なのかは秘密です」
そう言って、正体を尋ねる響に笑いかけ、ヨーグルトムースを1つ摘み歩は立ち去った。
そんな2人のやり取りを見ながら、侑吾は紅茶を飲みながらぼんやりと茶会の様子を見学し……テーブルのヨーグルトムースを口に入れた。
爽やかなヨーグルトの酸味とフワッとした食感、タルトの甘みとサクッとした食感が口の中で混ざり合っていき……美味しかった。
(「もう少ししたら紅茶に詳しい人に色々話でも聞いてみたいな」)
「さぁ、いらっしゃいませ!」
中庭の一角を5m四方ほどの柵で囲みながら、としおは犬カフェを展開していた。
街に出てペットショップと交渉して何とか借りる事が出来た5匹だったりする。
ちなみにその前には、ヤンキー風の格好の彼を信用していない店長はやんわりと猫耳と犬耳を差し出し、「君が犬や猫になって接客したらいいじゃないか」とか言われたりもした。
それでもめげずに彼は頑張った。その結果が犬を借りた事だった。
そんな中、新聞部でお茶会特集を組んでティーパーティを紹介する事を考えていたユーカリが通り掛り、柵に気づいた。
「あら、子犬が居るわっ! お菓子も撮ったし、こっちも写メ撮っとこうっと」
「いらっしゃい! どうぞ中へ中へ!」
そう言ってユーカリが携帯を構えると、としおが柵の中へと彼女を引き擦り込んだ。
すると、人懐っこいのか小型犬達が忙しなく尻尾を振って一斉に近づいてきた。
「ちょっ! 一斉に来たら危ないよっ!? きゃっ!? って、登らないで登らな――ひゃははは、くすぐったい、指くすぐったい!」
一斉に近づいた子犬に圧倒され、ユーカリが転ぶと珍しい物を見たからか子犬達はユーカリの服に引っかかると、頑張ってよじ登ろうとしたり、ぺろぺろと指先を舐めたりして来た。
指先のくすぐったさに、ユーカリは笑いを堪えきれず笑うのだった。
ちなみにとしおはその後、学生新聞で取り上げられたりしたが別の話だ。
「なんだろ、英国紳士ってこんな感じ!?」
ティーカップを持ち、椅子に座る英斗はそう言いながら紅茶を一口飲む。
どうやら心の中は英国気分のようだ。
楽しそうに言いながら、テーブルに置かれた濃緑のマドレーヌを食べ――
「がふっ!? な、何だこの味……!」
「抹茶が途中で無くなったので青汁で代用してみたのですが……」
雫が残念そうに言うが、やはり味はダメだったようだ。
隣のテーブルでは、鳳班の仲間が気を利かせたのか優希と静矢が仲良くお茶をしていた。
「本格的で美味しいのですよ〜、幸せなの〜」
「こちらも飲み比べてみて下さい。同じ紅茶でも以外に味や香りが違いますよ」
給仕を心から楽しみながら静は持参したシッキムで淹れたストレートティー、ルフナで淹れたミルクティーを注いでいく。
シッキムは先ほど飲んだダージリンよりも上品にして繊細な味わいであり、優希や雫や穂鳥と言った女性陣はうっとりと目を細めた。
ルフナもストレートでは味が強く飲み辛かったが、低殺菌牛乳を入れることで上品でマイルドな味わいへと変化した。
「美味しいですよ〜」
「ふむ……俺も香りの良い茶が好きでね。次は中国茶を試してみないか? 皆もどうだ?」
「はいですよ〜」
そう言うと、静矢は球状に乾燥された茉莉花茶を未使用のガラス製の急須に入れると茶器で量を測りながらお湯を入れた。
暫く急須を眺めていると、球が解けて行き湯に色が薄らと着き始め……紅茶とは違った香りが漂ってくる。
薄らとした緑色の茉莉花茶が茶器へと注がれていく。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただくですよ〜♪」
優希が嬉しそうに茶器を受け取り、茶の匂いを楽しみほんのり笑顔となる。
そして、紅茶や中国茶を楽しみながら給仕の仕事を休憩中の穂鳥は静矢が作った苺タルトを食べ始めた。
サクサクのタルト、トロリ滑らかカスタード、今が旬のフレッシュ苺、それらが口に入れ租借する度に混ざり合い一つの味へと変化していく。
「美味しいです、苺タルト」
素直に呟き、穂鳥は残りを食べていった。
そんな彼女に静が微笑みながらスコーンを載せた皿を差し出した。
「スコーンもどうぞ、苺ジャムとクロテッドクリームをたっぷりつけてお召し上がり下さい」
「そういえば、先日ご一緒した潮干狩りで途中から姿を見かけませんでしたけど、どうされてたんですか?」
英斗が思い出したように静矢に問い掛けると、中国茶に向いていた瞳は……遠くを見つめた。
「潮干狩りは……芥子とカニが痛いという事が良く解ったし、顔に迫る満ち潮が綺麗だったなぁ……」
「え、えーっと、それで潮干狩りから帰宅した静矢さんに、優希さんはなんて声をかけたんですか!?」
話題を逸らす為に優希に英斗は問い掛けた。オチしか見えない!
バナナシュークリームをゴクンと飲み込んだ優希は笑顔で口を開いた。
「静矢さん、とりあえずお風呂なのですよ。と言ったですよ」
その台詞が一層静矢の悲愴を上げた。直後、淳紅の演奏のテンポが変わった。
「では、私が歌わせていただきます」
曲に合う様に静は立ち上がり楽しそうに歌い始め、同時に縦笛が聞こえ始めた。
その曲と歌に乗りながら数名が立ち上がると中央でダンスを踊り始めた。
曲が奏でられダンスが催される中、向日葵は作ったクッキーを前にテーブルに腰掛けていた。
クッキー達は何やらトランプの兵隊のように隊列を皿の上で行っているが、気にしないでおこう。
そんな1枚に恭弥が手を伸ばし口へと放り込んだ。どうやら外見を見ていなかったようだ。
「ん、美味いんじゃね?」
「あら、ありがとう」
貰った感想を素直に受け取ると、同じく座っていたソフィアがチーズケーキを差し出す。
「あたしの作ったチーズケーキもあるから食べてみたらどうかな?」
「じゃあ貰うか」
そう言って恭弥はチーズケーキを1つ取ると口に入れた。
濃厚なチーズの味が口に広がり、美味しかった。
「イタリアでは紅茶は馴染みが薄かったけど、本場の味にはやっぱり興味があるから教えてくれないかな?」
向日葵へと飲み方を教えてもらおうとソフィアは話しかける。そんな時、
「あれぇ? これ、動かないの?」
動くお菓子を楽しみにやって来たエルレーンだったが、動かないクッキーを見てガッカリする。
先ほどまで動いていたはずなのだが……何かが起きたのだろう。
「またかぁいいペットが増えるかなあ、と思ってたのに……でも美味しい」
クッキーを食べると何か叫び声が聞こえるが……落ち込んでいる彼女には聞こえなかったのだろう。
と、何かを思い出したようにエルレーンは立ち上がる。
「っと、焔ちゃんとの約束の時間だ! 早く行かないとっ、それじゃあね向日葵ちゃん!」
「ええ、頑張ってきてね」
先ほど食べたパウンドケーキ風のレンガを食べた焔のお歯赤べったりを思い出しながら、向日葵は静かに祈った。
中庭の隅では、静流と黒百合が静かに紅茶を飲んでいた。
互いには干渉せずに、2人は遠くから周りの賑わいを眺めながら……紅茶を飲んだ。
賑やかだが、騒がしいこの光景に平和を静流は感じながら、紅茶を飲み干し椅子から立った。
「座ってばかりでは体が硬くなってしまうな」
そう呟きながら散歩を開始した。
静流が立ち去り、完全に1人となった黒百合は静流が作ったロールケーキや、他の参加者が作ったお菓子を堪能していた。
どれもこれも美味しく、奏でられる音楽を静かに聞き……やはり、自分らしくない事に落ち込んだ。
「まぁ、今回は真面目にお茶会でも堪能しましょうかねェ……♪」
そう言って、彼女は飛びっきり濃い珈琲を飲み干すと甘い甘いお菓子を食べるのだった。
やがて陽が傾き、周りがオレンジ色に染まる頃……お茶会は終りを迎えた。
「お疲れ様でした〜」
「向日葵さん、お茶会開催ありがとうございます♪」
「小日向さん、お茶会有難う」
子犬をケージに入れたとしおが手を振り、緋毬が笑顔で笑い、焔が執事っぽく頭を下げる。
「皆も今日はありがとう。機会があったらまたお茶会をしましょう」
向日葵は淡々と言ったが、夕陽の当たる顔は何処か嬉しそうだった。