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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/10


みんなの思い出



オープニング

 獅号 了(jz0252)は年が明けて久し振りに、久遠ヶ原島へとやってきた。

 昨年は失踪騒ぎから、なし崩し的にシーズンオフへ突入してしまった。プロ野球選手としてシーズン後半は結局棒に振る形になり、球団にも迷惑を掛けた。
 思えば海外移籍初年度の一昨年も、怪我をして出遅れている。まだまともに一年働いていないのだ。それだけに今年に掛ける思いは強い。
 今は自主トレーニングの真っ最中といえる時期だが、それでも合間を縫ってわざわざ久遠ヶ原へやって来るのはそれなりに理由があった。



「リョー」
 ドアを開けると、まるでそう仕掛けがしてあったかのようにすぐ名前を呼ばれた。獅号は苦笑する。
「少し間が空いたな」
 面会用の部屋で、直前までは行儀良く待っていた悪魔の少女‥‥リュミエチカはソファから腰を浮かすと、獅号のところまで駆けてくる。
「遅い」
 少しだけ責めるような調子で言う。
「でも、来てくれたからいい」
 すぐに、元の平板な口調に戻った。

「言ったろ。これからはそうそう会いに来れなくなるって」
 ソファに腰を下ろしながら獅号は、リュミエチカの様子をそれとなく観察する。
 あの時のように、拘束されていないだけでも気は楽になる。もっとも、部屋の奥にはきっちりと、監視の撃退士がついてはいるが。
 服はあてがわれた中等部の制服を着ているからこざっぱりとしているが、そのほかは以前と同様だ。金髪は肩の辺りでざんばらに切られているだけだし、化粧っ気も全くない。
 元は獅号の私物だった、大きな大人用のサングラスで目を隠しているのも変わっていない。
 女の子なんだからもう少し──と思わなくもないが、そっち方面の助言は出来るとも思えないので、獅号はスルーした。

「ここの学生とは、仲良くやれてるのか?」
 そもそも、彼女がこの学園に来た最大の目的を思い出して聞いてみると、リュミエチカは小首を傾げた。
「‥‥ふつう?」
 なんとも頼りない返事だ。
「授業とか、もう受けてるんだろ」
「チカは、後ろの方でおとなしくしてる。前の方だと、先生と目が合いそうになるから」
 リュミエチカの目には、目を合わせた相手を支配下に置く特別な力がある。目を隠しているのもそのせいだ──能力を抑えるためというより、目線を悟られないためらしいが。
 冥魔勢力を離脱した彼女の力は少しずつ弱まってきているはずだが、まだその能力は残っているらしい。
「放課後とか、何してるんだ」
「部屋にいる」
 至極当然、とばかりに答えが返ってきた。
「部屋で‥‥何を?」
「何もしてない。授業の後何をすればいいのかって聞いたら、依頼がないなら特に何もない、って言われたから。部屋で、これとか、見てる」
 リュミエチカは、懐から小さなカバのようなぬいぐるみを取り出した。
「ここにはアルペンはいないけど、これがあるし、リョーとかも時々来てくれるし、嬉しい」

 これはいけない、と獅号は思った。こいつ、ここまでずれたヤツだったとは。
 魔界で孤独だったのは、何も能力のせいばかりじゃなさそうだ。
 今はまだリュミエチカもそれなりに幸福そうにしているが、シーズンが始まれば獅号自身はまず遊びには来れなくなるし、いつまでもこれでいいはずがなかった。

「チカ、学生生活ってのはそんなもんじゃない。部屋に閉じこもってたら友達も増えない」
「そうなの?」
 獅号は少々おおげさに頷いて見せた。
「授業のほかにも、学生にできることはいっぱいある」
 サングラス越しに、リュミエチカの黄金色の瞳が見開かれた。
「どんなこと?」
「そうだな‥‥部活に打ち込むとか、帰りに買い食いするとか‥‥」
 とここまで答えて、獅号ははたと考え込む。あと何があるかな。

 そもそも獅号自身が、学生時代は野球しかしてないのだ。

「リョー、どうしたの」
「まあ待て。こういう時は現役の学生に聞くのが一番だ」
 動揺を悟られないようにそれとなく顔を逸らしつつ、獅号は言った。
「この学園の過ごしかたなら、この学園の生徒に聞く。至極当然だな。俺も付き添うから、一緒にお願いしに行くか」
「ん」
 特に疑うでもなくリュミエチカは立ち上がり、獅号は内心胸を撫で下ろすのだった。


リプレイ本文

「‥‥‥‥‥‥あれ?」
 東條 雅也(jb9625)は己の日常を顧みる。
 そういえばここの所、依頼のない日は読書と剣の稽古くらいしかしていない。
 あまり他人をとやかく言えないような‥‥。
(‥‥まぁ、俺は良いとして)
 あ、脇に置いた。
「見識を広げることは必要ですね。見識が無いのと、あってしないのは別ですから」
「学園生活の楽しみ方‥‥そうねェ‥‥」
 黒百合(ja0422)はちょっと悪巧み風な笑みを浮かべる。
「ここの生徒らしい楽しみ方はァ‥‥」
「あー‥‥俺がついていけるレベルにしておいてくれよな」
 何かを察した獅号 了(jz0252)が言うと、黒百合は肩をすくめた。
「‥‥まァ、普通の学園生活の楽しみ方にしましょうかァ‥‥♪」

「初めましてですね、どぉぞ宜しくお願いします」
 にこやかに挨拶した百目鬼 揺籠(jb8361)から、リュミエチカはちょっと警戒するように一歩引いた。
「やあ、狐サンに聞いてたとおりの方ですねぇ」
 揺籠は気にした様子もなく、からから笑った。
「狐?」
「そこでだるそうにしてる兄さんのことですよ」
 獅号が聞くと、揺籠は恒河沙 那由汰(jb6459)のことを示した。
「妖怪仲間の後輩、ってとこですかねぇ。今日は彼に連れられてきたんです」

「チカちゃんは相変わらず可愛いしぃ、了ちゃんは相変わらず逞しいわぁ!」
 マリア(jb9408)は嬉しそうにしなを作った。
「‥‥そりゃどうも」
 獅号はちょっと勢いに押されている。
「もーお、アタシったら、どっちを選んだらイイのかしらン!!」
 言いながらリュミエチカの前にかがみ込むと、どこからともなく花束を取り出し渡すのだった。

   *

「チカちゃんは、お洒落に興味ないの?」
「‥‥別に」
 ふい、とマリアから顔を背けた。
「人間ってのは容姿を重視するもんだ。おめぇが変な格好をしてると一緒にいる了が周りから迫害されるが‥‥それでもいいのか?」
「‥‥そうなの?」
(ま、了なら気にしねぇだろうがな)
 内心そう思ったが、黙っておく。
「お洒落も意外と大事なのよぉ? 初めて会った相手なら、まずは見た目を見るしかないでしょ?」
 苦笑しつつ、マリアが続ける。
「チカちゃんも、もう少しだけ‥‥外見をお洒落にしてみるのも良いかもぉ。ふふっ、簡単なコトよン♪」
 眉をひそめるリュミエチカに、ウインクした。

   *

 マリアがしたことは、リュミエチカのボサボサの髪を洗ってトリートメントする事だった。
「丁寧に、優し〜くブラッシングして‥‥リボンは何色が良いかしらン?」
 リュミエチカに選ばせた赤いリボンで、髪をツーサイドアップにまとめる。
「そして‥‥仕上げにコレ」
「む」
「じっとしてねン」
 リュミエチカの口元で、ちょいちょいと手を動かす。
「ね、チカちゃん」
 マリアは語りかけた。
「お友達を沢山作りたいなら‥‥『自分から声を掛ける』こと。挨拶で良いの。毎日の『おはよう』が毎日の『距離の近さ』になっていく‥‥ホントよ?」
「自分から‥‥」
「ハイ、できたわ」
 マリアはリュミエチカから身体を放した。
「さ、皆とお買い物に行ってらっしゃい。それで今よりもっと素敵になって帰ってきて、アタシに見せてねン」

   *

「‥‥お」
「へえ、ちょっと印象変わったな」
 天険 突破(jb0947)が戻ってきたリュミエチカを一目見て言った。
「変じゃない?」
「よく似合ってますの、リュミエチカ」
 橋場・R・アトリアーナ(ja1403)が微笑む。
「リップくれぇでもその年頃なら十分ですよ。‥‥あとはも少し笑顔が欲しいですかねぇ」
 揺籠が言うと、リュミエチカは口元をむずむず動かした。
「‥‥難しい」
「ま、その辺はおいおいって事にしますか」



 服飾店の立ち並ぶ一角へやってくる。
「金の事は気にしねぇでいい。今日はスポンサー様がついてるからな。なぁじいさん?」
「誰がじいさんですかぃおにーさんと呼びなせぇ」
 那由汰の言葉に揺籠は憤慨した。
「あー、まあ服代くらいは俺が出すさ」
「へェ、太っ腹じゃないのォ‥‥♪」
 獅号が言うと、何を考えているのか、黒百合がニタリと笑った。

   *

 まずは女性向けのブランドショップへ。
「こういうのは俺もよくわかんねえから任せる」
 突破は潔く白旗をあげた。
「‥‥リュミエチカ、折角なので選んでみるのですの」
 アトリアーナが見ると、リュミエチカは口を半開きにしていた。
「色がいっぱいありすぎて、くらくらする」
「サングラス、役に立ってへんなあ」
 黒神 未来(jb9907)が残念そうに言った。

「やはり、可愛らしい服が似合うと思いますの」
「そうねェ‥‥これとかどうかしらァ?」
 黒百合が取り上げた、フリルがふんだんにあしらわれた服を二人でリュミエチカに当てる。
「こっちの方がいいんじゃねぇです?」
「揺籠‥‥てめぇはダメだ」
 彼の提示した淡い色合いのワンピースは那由汰にあっさり却下された。
「あんまり奇抜なのはやめとくか‥‥」
 那由汰自身もすいすいと幾つかの服を取り上げていく。
「よし、ちょっと着て見ろ」

 那由汰が幾つかコーディネートした服は、女子中高生が好みそうなポップなものや、可愛らしいデザインのものできれいにまとめられていた。
「ええやん、似合っとるで」
 未来に誉められると、リュミエチカは恥ずかしいのか、横を向く。
「リョー、どうですか」
 アトリアーナが聞くと、獅号は頭をポリポリ掻いた。
「ああ、なんか女子っぽく見えるな」
「おめぇ‥‥もうちょっとまともな感想はねぇのか」
 那由汰はため息をついた。

「せっかくだから、獅号さんに似合うものをチカに選んでもらおうぜ」
「‥‥俺のを?」
「そうだよ、獅号さんが着る服だよ」
 突破がそんなことを言ったので、男性用のフロアにも向かう。
「こっちの方が、色が少ない」
 リュミエチカが安心したように言った。

 那由汰はここでも幾つかの服を見繕っていた。値段は見てない。
「狐サン幾ら何でもこりゃ高ぇ‥‥」
 値札を見つけて揺籠は渋い顔をする。
「つーか、てめえそれ自分のじゃねえんですかい‥‥?」
「あぁ?」
 獅号向けと思われる服に混じって、明らかに系統の違う革ジャンが入っていた。なお一番高い。
「服の一着や二着でガタガタ言うなよ、ケチくせぇな‥‥」
「そもそも今着てるのと何が違うのかちっともわかんねぇんですが」

 沢山の服の前で困惑しているリュミエチカの元へ黒百合がやってきた。
「リュミエチカちゃん、これも着てみてくれるゥ‥‥?」
「‥‥いいけど」

 巫女服。
「動きにくい」
 メイド服。
「これは、さっきのと似てる」「いや‥‥そうか?」
 セーラー服。
「よく分かんない‥‥似合ってるの?」
「とても似合ってるわよォ‥‥♪」
「つーか、どこのコスプレコーナーで見つけてきたんだ」
「あらァ、保護者がおかんむりだしィ‥‥この辺にしておくとしましょうかァ‥‥」
 黒百合はとても楽しそうだった。



 雅也はゲームセンターへと案内した。
「クレーンゲームでぬいぐるみを取るとか‥‥あと、女の子が喜びそうなのはあの辺ですかね」
 彼が示した先には、プリントシール機がいくつも並んでいる。
「なあ‥‥俺、ちょっと中見てきていいか?」
 突破が奥へと入って行くと、リュミエチカは、その背中を首を伸ばして見送った。
「何か、興味のあるものはありますか」
「‥‥よく、わかんない」

「今は、『寂しい』が満たされてしまったから、無欲なんですよね」
 雅也は言った。
「でも、与えられるものを待つだけの生活じゃ、駄目ですから‥‥またアメリカに渡る獅号選手に、今日はこんなことをしたって、報告できるようなことを探しましょう」
 ね、と微笑みかける雅也に、リュミエチカはしばらく口をぱくぱくさせた。その様子を見て雅也は、はたと思い当たる。
「そういえば‥‥俺、きちんと自己紹介をしてませんでしたね」
 随分長い付き合いになったが、何しろ成り行きが成り行きだ。
「東條雅也です。よろしく、リュミエチカ」
「‥‥マサヤ」
 差し出された手に、リュミエチカは遠慮がちに指先を乗せた。

「おりゃーっ!」
 突破は新作レースゲームの筐体に収まって、全力でゲームを楽しんでいた。
「おっ、来たな。なあ、誰か対戦しないか?」
 シートに座ったまま呼びかける。リュミエチカは口を小さく開けて、ゲーム画面に見入っている。
 その肩を揺籠がぽんと叩いた。
「楽しいことってぇのは、自分から飛びこまねぇことにゃ始まりません」
「やってみてぇならそう言やいいだろうが」
「狐サンはきついですねぇ。でもま、そういうことですよ」

 リュミエチカは突破の方へ歩み出て、呟く。「‥‥やってもいい?」
 突破はすぐににかっと笑った。
「よし、やろうぜ!」
 3コイン分の勝負は全部突破がぶっちぎったが、リュミエチカは最後までハンドルをしっかり握りしめていた。



「うお、このたい焼き美味いな‥‥俺が舐めてた」
 ゲーセンを出た後は、買い食いをしながら街を歩く。
「スポーツは野球しかしらへん、と?」
 リュミエチカがこっくり頷くと、未来は「それはえらいこっちゃ!」と大仰に驚いた。
「ほな、他のスポーツも教えんとなあ」
「そうねェ‥‥身体を動かすのは嫌いじゃないみたいだしィ‥‥」
 黒百合はちらと考えて。
「スイミングなんてどうかしらァ?」

   *

「アトリ、これきつい」
「水着はそういうものですの」
 一行は室内プールへやってきた。リュミエチカは水着を着るのは初めてらしく、しきりにお尻のあたりを気にしている。
「水に入ったことはあるのかしらァ‥‥?」
「このくらいの深さなら、歩ける」
「透過能力を使う、ってことかしらねェ‥‥?」
 つまり、泳いだことはないのだった。

「ぜん、ぷぁ、ぜん進ま、あぷ、ない」
「しゃべると水飲むわよォ」
 黒百合に腕を引かれて、ばた足の基本からやることになった。

「泳ぐの、難しい」
「初めてならこんなもんやろ」
 肩で息をするリュミエチカを未来が慰めた。
「水泳はトレーニングにもいいぞ。泳げるようになったら、教えてくれ」
 獅号が言うと、雅也が頷いた。
「報告すること、一つできましたね」

「やるスポーツもええけど、見るスポーツってのもええやろ?」
 次はうちの番やな、と未来。
「着替えたら、案内するで!」



 リングの中央で、相手が突っ伏して倒れる。と、遅れてゴングが鳴った。
「‥‥今の何?」
「試合開始の合図だな」
 リュミエチカははてと首を傾げた。
「始まる前に殴っても、いいの?」
「んーまあ‥‥プロレスだからな」

 学園の部活の一つ『真久遠プロレス』。
 未来が一行を前に試合を行っている。リングネーム『メデューサ黒神』は、どうやらヒール(悪役)のようだ。
 倒れている相手の顔のあたりをこするように削ると、観客席からブーイングが起きた。
「‥‥今のは?」
「卑怯なことはするな、って非難してるのさ」
 未来はふてぶてしく胸を反らせるとリングを降りた。パイプ椅子を掴むと、バチンと音を立ててアピール。
「お、こっち来るな」
 獅号の言うとおり、未来は最前列のリュミエチカの目の前までやってきた。そして椅子を振り上げる!
「‥‥なっ」
 ──振り下ろす直前、復活した対戦相手が未来を引きずり倒した。
「あれも演出だよ。‥‥本気で反撃とかするなよ、チカ」

 リングへ戻った二人は息詰まる攻防のあと、決着の時へ。大の字に寝ころんだ未来の上へ、美しいムーンサルトプレスが決まる。
 ふらふらと起きあがった未来を捕らえ、最後は頭から叩きつけてそのまま1、2、3!
 ゴングが盛大に打ち鳴らされ、試合終了を告げた。

   *

「どやった? 面白かったやろ?」
 戻ってきた未来は頬を上気させながらリュミエチカに尋ねた。
「‥‥よくわかんなかった」
「ありゃ、そうか‥‥なるべくお約束っぽい展開にしたんやけどなあ」
「逆に、こいつはそのお約束がわかんないからな」
「でも、飛んだり跳ねたりして楽しそうだった」
 しょんぼりした未来だが、リュミエチカの言葉にまた顔を明るくする。
「お? せやったらリュミエチカくんは見るよりやる方が向いてるかもしれへんな!」
 よかったら今度は教えたるで、と未来が笑っていると、試合後に外に出ていた突破が戻ってきた。
「よう、野球場の使用許可とってきたぜ。せっかくプロ野球選手がいるんだからな」
「ヤキュー、するの?」
 それを聞いて、リュミエチカは肩をそわつかせる。
「おお、御用とお急ぎでないメンバーは是非ご一緒に、ってな!」

「うちも野球やってたんよ。せやから獅号さんとは是非やりたいわ」
 未来が言った。
「へえ、ポジションは?」
「うちも投手や。左投げ左打ちやで」

 それから一行はグラウンドへ移動して、獅号を交えて日が暮れるまで、野球に興じたのだった。



「俺のお勧めは、野球のマネージャーだな。もちろん選手でもいいと思うけど」
 獅号さんのやってることに近いことがいいだろ? と突破は言う。
「さて、俺はそろそろ──」
 すでに日が落ち掛かっている。獅号は時計を見た。
「おっと、待ちな」
 那由汰が呼び止め、獅号を手招きした。

「‥‥なんだ?」
 リュミエチカに背を向けて、那由汰は小さな箱を差し出した。
「渡してやんな」
 それはサングラスだった。女性用の、今日買った服にも似合うデザインだ。
「いつまでも男性用って訳にもいかねぇだろ」
「お前が渡せばいいんじゃないか?」
 獅号はそう言ったが、那由汰は無理矢理箱を押しつけた。
「ガキは好きな奴から貰うのが一番なんだよ」
 獅号は不意をつかれたような顔をした後、笑った。

   *

「また俺で手伝えることがあったら言ってくれ」
 突破は胸を叩いた。
「自信持っていくんですぜ、ここへ来たときのように、これからも」
 揺籠はリュミエチカにそんな言葉を贈る。
「これからも了と一緒にいてぇなら、毎日本を読んで知識を蓄えな」
 那由汰はぶっきらぼうに言い、本を一冊手渡した。「何でもいいからな」
「読書も面白いですよ。俺は今推理小説にはまってます‥‥読んでみますか?」
 雅也も続いて言った。

 獅号が帰るのに合わせて、一行も解散となった。
「‥‥おやすみなさい」
 リュミエチカは最後に、そう挨拶をした。



 リュミエチカの部屋に、アトリアーナがついてきた。
「ぬいぐるみを一緒に作ると、約束しましたの」
 初心者用の本を開きながら、一行程ずつ丁寧に教えていく。
「‥‥こうやって作って、今度リョーが来たときにビックリさせてあげるといいと思いますの」
 自分も手を動かしながらアトリアーナは言ったが、返事がない。
「‥‥リュミエチカ?」
 見ると、うつうつと船を漕いでいた。
 今日の出来事は、彼女がこれまで経験しなかったことばかりだったのだろう。
「疲れてしまいましたか」
 今日はここまでにしておこう。リュミエチカの手から針をとる。
「これからは、沢山一緒に遊べますの」
 背中に毛布を掛けてやる。


 おやすみなさい。
 また、明日。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: 久遠ヶ原から愛をこめて・天険 突破(jb0947)
 スプリング・インパクト・マリア(jb9408)
 とくと御覧よDカップ・黒神 未来(jb9907)
重体: −
面白かった!:3人

赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
無傷のドラゴンスレイヤー・
橋場・R・アトリアーナ(ja1403)

大学部4年163組 女 阿修羅
久遠ヶ原から愛をこめて・
天険 突破(jb0947)

卒業 男 阿修羅
人の強さはすぐ傍にある・
恒河沙 那由汰(jb6459)

大学部8年7組 男 アカシックレコーダー:タイプA
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
スプリング・インパクト・
マリア(jb9408)

大学部7年46組 男 陰陽師
撃退士・
東條 雅也(jb9625)

大学部3年143組 男 ルインズブレイド
とくと御覧よDカップ・
黒神 未来(jb9907)

大学部4年234組 女 ナイトウォーカー