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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:シリーズ
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:6人
リプレイ完成日時:2014/06/25


みんなの思い出



オープニング


 獅号 了(jz0252)は試合のないある日、ぶらぶらと町を歩いていた。
 彼のエージェントから、外出するときには連絡をするようにと耳が痛くなるほど聞かされていたが、遠出をするわけでもない。滞在も二年目になり、ちょっとした買い物にでるくらいなら、言葉がほとんど分からないままでもたいして支障はない。少なくとも彼はそう思っていた。

「リョウ! 次の登板期待してるぜ!」
 町ゆく人からふいに声をかけられる。もちろん英語だ。激励されていることは雰囲気で分かったので、右腕を挙げて応える。
 ここのところ、身体の調子はすこぶるいい。獅号自身、次の登板日が楽しみだった。

「ねえ、‥‥ってところに‥‥」
 遠くから風に乗って、ふと聞き慣れた言葉が聞こえてきた。日本語だ。
 懐かしい音の元を探して首を巡らせると、金髪の少女が肌黒の大男になにやら訴えている。日本語を喋っているらしいのは、少女のほうだ。
 大男には通じていないのだろう。あきらかに戸惑っているが、少女はお構いなしだった。
「ねえ、ニホンってところに行きたいんだけど。どう行くの?」

 ニホン──日本か?

 獅号は目を瞬かせた。ここから日本に行くなら飛行機に乗るしかないが、空港への行き方を聞いている、というよりは『日本』がどういうところなのか、それがまずよくわかっていないようなそんな口振りだった。
 少女は大男が相手にならないと悟ると、さっさとそこから離れて次の相手を探し始めた。
 少女は彼女自身の身長ほどもある、おおきなぬいぐるみを抱いている。カバをディフォルメしたような、見たこともないキャラクターだった。

 少女は獅号に気づかない様子だったが、肩越しに覗くぬいぐるみと目があったような気がする。
 どことなく一般人離れしている少女の様子に、獅号は単純に自分と同じ言語を話すという以上の親近感を抱いた。
 この地にも撃退士というものはいる‥‥そういえば口やかましいエージェントもそうだった気がするが、獅号が思い出す存在といえば印象深い海の向こうの若者たちだ。

 ──もしかしたら、あいつらの仲間なのかもな。

「おい、何が知りたいんだ?」
 遠く海の向こうの友人たちを思い出しながら、獅号は日本語で、少女に声をかけた。








 『獅号、先発登板を回避 15日間の故障者リスト入り』
 『──監督は負傷部位を明らかにしなかったが、長期離脱ではないと繰り返した。なお、本人のコメントはとれず──』

 潮崎 紘乃(jz0117)がネットで獅号 了の記事を見かけたのは、数日前。そのときは、ちょっと残念にこそ思ったものの、(すぐ復帰するわよね)とたいして気にもとめていなかった。
 事態が変わり始めたのは、昨日の夜からだった。

 『獅号了、失踪か? 球団関係者も所在つかめず』
 『──監督は相変わらず獅号の負傷は深刻ではなく、近日中に復帰するはずだ、と述べたが、肝心の獅号本人は今日も姿を見せなかった。
  ある球団関係者は「彼が今どこにいるか知らない。ただの負傷ではないのかもしれない」と語った──』

 昨日見つけてしまったこの記事は、根拠も何もないものだった。誰かも分からない球団関係者の、本当に言ったかも分からないコメントくらいしか情報はなく、あとはすべて憶測だ。タイトルに驚いて思わず記事を読んでしまったことに紘乃は後悔していた。

 だが、獅号が姿を見せなくなっていることはどうやら事実らしい。
 いやな胸騒ぎがしたが、紘乃にはどうしようもない。海の向こうのことだ。しばらくしたらきっと元気な姿を見せてくれるはず──。そう思うほかはないはずだった。
 デスクの電話が内線の赤ランプを灯すまでは。

「潮崎、お前宛だ」
 受話器を取ると、上司の牧田が伝えてきた。
「アルバート・タケウチ‥‥覚えてるか?」
 いつか獅号了と共に学園に来ていた彼のエージェント‥‥その名前だったことを思い出すには、少しの時間を要した。


『画像はご覧になれましたか』
 アルバートの固い声が受話器から漏れてくる。
 挨拶もそこそこに、彼はひとつの画像をメールで送ってよこしたのだった。
「ええ‥‥」
 画像は、日本の空港であるらしかった。沢山の人が写っていたが、その中の一組に印がつけてあった。
 二人組だ。一人は、大きなぬいぐるみを抱いた金髪の少女。中学生くらいだろうか。そしてもう一人は──
「獅号選手‥‥ですか? この方は‥‥」
 地味なデザインの帽子をしっかりとかぶり、サングラスをかけている。そのためはっきりとは分からないが、背格好は確かに彼らしい。
 ただ、少女に手を引かれるようにしているその姿は、写真とはいえ覇気がない。ユニフォームを着ている時の獅号とはなかなか結びつかなかったし、そう多く知っているわけではないとはいえ、プライベートでももう少しみなぎる気配があったような気がする。
『写真も、これからの話も、すべて秘密厳守でお願いします』
 アルバートは念を押した。
『そちらでもそろそろ騒がれているかもしれませんが、リョウが行方不明になっているのは、事実です。私を含め、球団関係者も誰も居場所を把握していない。そして、日本のフリーカメラマンが売りつけてきたその写真が本物ならば、リョウは今、日本にいることになる』
「‥‥なんのために?」
 紘乃は本心から疑問に思った。彼が野球を放り出して、秘密裏に帰ってくる理由などあるだろうか。
『わかりません』
 アルバートも心当たりはないようだった。
『ですが、一緒にいる少女が鍵になるかもしれません。私は職務上、リョウの交友関係はすべて把握しているつもりですが、このような女性を見かけたことはない』
 紘乃にはアルバートがどの程度有能なのかは分からなかったが、まだ先があるようだったのでそのまま話を聞く。
『さらに、彼女が抱いているぬいぐるみ──既製品ではない。こんなキャラクターはどこにもいません。もしかしたら、ぬいぐるみですらないのかもしれない』
 ぬいぐるみでなければ、何だというのだ‥‥そこまで考えたとき、紘乃の頭にひらめくものがあった。
「まさか‥‥」
『興信所ではなくそちらに連絡した理由、おわかりいただけましたか?』
 アルバートは、たいして嬉しくもなさそうに言った。



「そうは言っても、どう探したらいいのかしら?」
 アルバートの依頼──日本における獅号の捜索を請け負ったものの、紘乃は首を傾げる。
 手がかりは画像一枚だ。しかも空港を通過したのは数日前であり、すでにどこかに引きこもられでもしていたなら非常にやっかいなことになる。
 さらに言えば、アルバートと紘乃の少女に対する推測が当たっているのなら──獅号が無事かどうかさえ、保証はないのだ。
 学生を派遣するにしても、情報がなさ過ぎて現状では雲をつかむようだ。

 思案に暮れていると、部屋の奥から牧田の鋭い声がした。
「潮崎、緊急の依頼だ。商店街に天魔が出たらしい」
 紘乃もすぐさま思考を脇に置き、背筋を伸ばしてデスクに向かい直す。
「学生の手配を!?」
「ああ、頼む」牧田は答えた。「新手のようだ。今、資料を入れる」
 そう間を置かずに、紘乃のPCに資料が送られてきた。敵は複数、下等天魔のようだが──。

「あっ!」

 思わず声をあげていた。

 添付画像に写っていたのは、少女が抱えていたぬいぐるみのような何物かと、まるでうり二つだったのだ。


リプレイ本文

 商店街は騒然としていた。

 といっても、襲い来る天魔に逃げまどう人々‥‥といった光景ではない。
 報告通り、六体の天魔が通りの真ん中を歩いている。時折「ヴォ、ヴォッ」とうなり声をあげては周囲を威嚇している。
 だが、逼迫した恐ろしさというものを感じるには外見がどうにも邪魔をしている。

「んー、積極的に人を襲う訳でもなく見た目も‥‥」
 九十九(ja1149)は青灰色の体表をもつ天魔を眺めた。
「まぁ怖いわけでもないしねぇ? 何がしたいのかねぇ?」
「確かに、写真のあれと瓜二つじゃの」
 白蛇(jb0889)は件の写真を思い返す。
「これで無関係じゃったら驚愕するわ」
 ぬいぐるみが天魔なら、それを抱えている少女の正体もおのずと‥‥。
「了ちゃん‥‥イイオトコよねぇ♪」
 マリア(jb9408)も同様に写真を思い浮かべたのだろうが、出てきた言葉は少し違うものだった。
「あの逞しい腕‥‥抱きつきがいがありそう」
 体をくねらせながら代わりに自分の肩を抱く。
「そのためにも、探さないといけないわねン。とりあえず手がかりのアレを何とかしなきゃ」
「さすがにあのぬいぐるみみたいなの、喋れないでしょうしね」
 イアン・J・アルビス(ja0084)がふむと唸った。
「何か持っている可能性はありますが‥‥」
「よく見るとお腹のあたり‥‥袋のようになってますね」
 東條 雅也(jb9625)が遠くを覗くような仕草をした。「さしずめ有袋カバ、かな」
「何にせよ、商店街を歩き回るのを放ってはおけませんね」
「そうさね。何かしら関係はありそうだけど‥‥」
 アサニエル(jb5431)がイアンの言葉に頷く。
「とりあえず、あのアニメキャラを混ぜ損ねたようなのを排除しましょうか」
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)は有名な絵面をいくつか思い浮かべつつ、そのどれにもなりきれていない天魔を見据えた。



「久遠ヶ原の撃退士さぁね! 天魔はうちらに任せて、みなさんは避難を!」
 カバを遠巻きに眺めながら動こうとしない人々に向けて、九十九が声を張り上げながら駆け込んでいく。
 別の一角から声が挙がった。
「な、なんだこいつ!」「カバより強そうだぞ!」
「落ち着け! わしの司じゃ、敵ではない」
 白蛇は動揺する一般人を一喝し、続けてもう一体の司──召喚獣を喚び出した。
「さあ、早く逃げよ。動けぬものは司に咥えて運ばせるぞ」
 味方だからといって、竜の口に挟まれてみたいと思うものはそうそういないらしい。ほとんどのものはその言葉でぞろぞろと移動を始めた。
 あちらは大丈夫そうだな、と九十九は息をつく。こちらも避難を急がせねば‥‥。
 だが、その脇を男がすり抜けていこうとする。
「あっちには俺の店があるんだ!」
「大丈夫、仲間には店に被害を出さないように伝えてあるのさぁね」
 さりげなく男の前に立って動きを押さえながら、友好的な空気で話しかける。
「でも、カバが‥‥」
 なおも男が言い募るので振り返ると、天魔の一体が店へと近づいていた。青果店の軒先に並べられた野菜に目を向けている。
(何をするつもりかねぇ?)
 九十九が訝しんだとき──、
「とーっ!」
 戦闘配置を終えた仲間たちが駆け込んできた。

 先陣を切って天魔の群に飛び込んだのは新崎 ふゆみ(ja8965)。
「ふゆみちゃん参上なんだよっ☆ミ」
 一番近くにいた敵を華麗に蹴り飛ばすと、何匹かが首を動かして彼女を見た。
(ふふんっ、怒ってこっちに来たらいいんだよっ‥‥)
 そうして店から引きはがし、被害を押さえる算段だ。

 彼女と天魔の群を挟むようにしてアサニエル、雅也、そしてエイルズレトラが通りの反対側から現れた。
 エイルズレトラは先頭で自身をアウルのスポットライトで照らした。
「ねえ、カバさん。こっちむーいて」
 口ずさむといろいろ問題ありそうなリズムで敵を呼ぶと、二体が歩みを止める。
「ヴォッ」
 喉奥を震わせたような音を発し、そのうちの一体が突っ込んでくる。なかなか速い。
 彼の細身の体はあっけなく吹き飛ばされ──バラバラのトランプとなって散った。彼の作り出した虚像だ。
「ほらほら、僕はこっちですよ」
 エイルズレトラは余裕たっぷりの声でカバを呼んだ。
 そのすぐ隣にアサニエル。たたらを踏んだ敵に狙いを定める。
「さて、どっちの走狗かはっきりさせようじゃないか」
 彼女から伸びた聖なる鎖が敵を縛り上げる。相手はうなり声をあげたが、足が止まっている。麻痺が効いたのだ。
「つまり、こいつはディアボロってことさね」
 審判の鎖にはリスクがいくつかある。射程が短いのもその一つ。
 アサニエルも今は前にでている。別の一体が彼女に突撃してきた。
 敵を捉えるときには有利に働いたカオスレートが、今度は彼女を窮地に招く。
 カバの頭が彼女を正確に追い、弾き飛ばされた。店舗の軒先に突っ込み、棚を崩す。
「大丈夫ですか!?」
「げほっ、何とか‥‥ね」
 雅也が声をかけると、棚をかきわけアサニエルは起きあがった。だが負傷は軽いわけではないようだ。
 意識があるなら、彼女は自分で癒しを使える。雅也は敵を見据えた。
(俺、剣で向かっていくしか出来ないからな‥‥)
 雅也は翼を顕現すると上空へ浮かび、敵の群へと飛び込んでいった。

「まだ何かしている輩がいますね」
 イアンは武器を構えつつ、敵の動向を観察する。注目を集める技が重ねて使われ、戦闘も始まっているが、六体のうち二体はそこに加わらず、青果店の軒先でごそごそとやっていた。
(食糧を集めている‥‥? 何のためにでしょうか)
 店の被害は抑えなければいけない。イアンは自身もタウントを使い、二体を引きつけようとする。
「まだお店にいる人は、戸締まりしてねン。出てきちゃダメよ♪」
 マリアはイアンよりさらに前に出て、敵に肉薄した。その手には魔法の杖がある。
「喰らえ、オラッ!」
 それまでのオネェ声から一転、ドスの利いた気合いを発すると、背中から敵を殴りつけた。
 カバがこちらを向いた。肉に埋没しかかっている眼は、遠目で見るほど愛嬌はなかった。

 カバの一体が大口を開けてエイルズレトラを噛み砕こうとしたが、その牙にかかったのはまたしてもトランプの人形でしかない。
 続けてもう一体の攻撃を躱す。これでこのマジックはタネ切れだ。
 すでに敵味方が入り乱れていて、無差別の範囲攻撃は使えない。手近の二体を巻き込むようにして、トランプのシャワーを投げつける。体を無数に切り刻まれ、麻痺していた一体はそれで事切れた。
 どうと倒れたその向こう、一体のカバが四つ足になってこちらを見ていた。ショウ・タイムを使ったとき、彼を見ていた一体──。
 カバが口を開けた。口腔の奥に光の玉が生まれ、次には加速度をつけて打ち出される!
(──速い!)
 攻撃方法の予測がつかなかったことを差し引いても、躱しきれない弾速。彼は後方へ地面を一回転してから片膝をついた。
「どうやら、複数のタイプがいるみたいですね」
 あれは砲撃戦用といったところだろうか。

 そのころ、最初に攻撃を仕掛けたふゆみは少し距離をとって──歌っていた。
「(・3・)♪ふっふっふーゆみちゃんのらっぶっそーんぐ♪」
 もちろん遊んでいるわけではなくて、歴とした攻撃だ。
「♪らーぶらぶらぶあいしてるぅ〜☆ミ」
 彼女の歌声はアウルの衝撃波となって敵へと届く。少々調子を外しているが、効果には差がない‥‥はずだ。
 衝撃波を浴びせられたカバは拍手の代わりに口を開く。
「いったーい! むむむ、さては歌詞がらぶらぶすぎてシットしたんだなっ★ミ」
 光弾を受けてもふゆみは歌うことを止めなかった。いやそういう攻撃なので当然なんですけれども。

 最後まで青果店を漁っていた二体がマリアを囲んでいた。
「近づくと危ないわよン」
 隣に立とうとしたイアンを制し、斧に持ち替えたマリアは足下に魔法陣を出現させる。
「吹き飛べ、オラァッ!」
 爆発が二体を巻き込むが、どちらも倒れない。
 一体の大顎が開かれ、マリアを食いちぎらんとする。身を捻ったが躱しきれず、右肩を深く切り裂かれる。
「この‥‥ッ!」
 引き締まった肉体を露出させながらマリアはなおも敵に向かおうとする。
 だが別の一体が頭を大きく振るうと、吹き飛ばされ、倒れて動かなくなった。

 アサニエルはもちろんその光景を見ていたが、すぐに駆けつけることは出来なかった。
「回復が追いつかないね、これは」
「マリアさんはうちが引き受けるさぁね!」
 答えるように聞こえてきたのは九十九の声だった。
 戦いが激しくなったことで、避難を渋っていた一般人も事態を把握したらしい。
 九十九はマリアを回収すると、傷口に向けて手をかざす。風が小さく纏いつくように起きて、傷を癒した。
「わしもすぐ行く!」
 白蛇も仲間を励まそうと声を上げると、攻撃に移るよう司に指示を飛ばした。



「‥‥あら‥‥?」
「気がついたみたいだねぃ」
 マリアは九十九の腕の中で目を覚ました。
 体を起こす。まだ全快には遠いが、動かない箇所などはないようだ。
 戦いの音はまだ響いていた。しかしそちらを見ると、決着が間近なことは明らかだった。

 イアンと雅也、そして白蛇の召喚獣が敵を取り囲んでいる。残りは二体だ。
「壊したりしたいのでしたら壊してよいものの方へお願いします」
 イアンが大剣を振って挑発すると、一体が突進してきた。
 大剣の腹で受け止める。通りを数メートル後退することにはなったが、彼の防御力ならば正面からなら大きなダメージにはならない。
 動きを止めたカバの背中に、上空から雅也が飛び込んできた。無防備な背中に双剣を振るうと、相手は空気の抜ける音を発してその場に倒れ伏した。
 これで残り一体。
 どうやら一段落しそうだ、と皆思ったとき、その声は響いた。

「あーっ!」
「おりょ?」
 ふゆみが歌を止めて目を凝らすと、帽子とサングラスを身につけた少女が大股でこちらに向かって歩いてきていた。
 一般人はすでに屋内か、通りの外に待避している。
(天魔が出てきて危ないからヒナンしろってゆってるのに、ヘーキで来るとか‥‥)
 これは‥‥ぁゃιぃ!
 ふゆみが訝しんでいる間にも少女はずんずん進む。
 帽子からは、透き通る金髪がこぼれていた。
「おぬし‥‥」
 白蛇の制止をすり抜けるとアサニエルのすぐ隣まで。
 彼女は撃退士たちを見ていなかった。視線は倒れて動かなくなっている天魔たちに注がれている。
「戻ってこないと思ったら、どーなってるの!」
 その時点で、すでに全員が気づいていた。
 この少女は、写真に写っていた彼女なのだと。



「まぁ! 可愛らしい‥‥っ!」
 マリアが嬌声をあげた。「アタシ、カワイイものには目が無いのっ!」
 少女はサングラスで顔を隠していたが、大人用なのか微妙にサイズが合っておらず、少し曲がっていた。
 唯一生き残っていたカバが、よたよたと少女駆け寄っていく。
 白蛇が司を動かそうとするのが見えて、九十九は彼女へ(様子をみた方がいい)と抑える仕草をした。

「やぁ、こんにちは」
 雅也は武器を納め、友好的な雰囲気を作ろうとする。
「このカバさんたちは君のお供ですか?」
「オトモって何。アルペンはトモダチなんだけど」
 しかし警戒されているのか、少女の声には険があった。
「アルペンっていうのは、こいつの名前かね?」
「そうだよ。カワイイでしょ」
 アサニエルが返答に困っている間に、少女はカバ──アルペンのおなかの袋を引っ張って中を確認する。
「全然入ってないじゃん!」
「そういえば、食糧を集めようとしていましたが‥‥」
 戦闘中の光景を思い出して、イアン。
 エイルズレトラがふむと首を捻った。
「人間の食べ物を持って行って、一体何がしたいんです? あなた方に捕らえられた人達の食事ですか?」
「ふゆみちゃんの目はごまかせない‥‥! さては天魔だなっ☆ミ」
 問い詰められて、少女は横を向いた。口元は真一文字に結ばれている。

(これはちょっとまずいかねぇ?)
 既に戦闘が行われたこともあるのか、相手が頑なになりかかっている。
 九十九は仲間を抑えようか逡巡したが、彼が口を開く前に、マリアがにこやかな笑顔で少女に話しかけた。
「ハァイ! アタシはマリア。お嬢ちゃんのお名前は?」
「そうじゃな、質問をするならこちらも名乗るのが礼儀か」
 白蛇も一歩前に出た。
「わしの名は白蛇じゃ。敬意をもって『白蛇様』と呼ぶように」
 少女はちらと顔を動かして二人をかすめ見た後、言った。
「‥‥リュミエチカ」
「それがあなたのお名前ね?」
 少女──リュミエチカはこく、と頷く。「長いから、チカって呼べばいい」
「それじゃあ、チカちゃん」
 マリアは笑顔で近づく。
「この写真‥‥了ちゃんと一緒に写ってるのは貴女?」
「‥‥そうだね」
 写真を一瞥すると、あっさり認めた。
「どーして食べ物を盗ませよーとかしたのっ。自分たちはゴハンいらないんじゃないのっ?」
 ふゆみの言葉にはまた横を向いたが、今度は答えた。
「リョーが腹減ったって言うんだもん」
 やはり、獅号は彼女の元にいるのだ。
「獅号さんは今どうしてるんですか?」
「チカが帰るの待ってる。腹減ってるから」

「獅号殿を帰して貰う‥‥というわけには、行かなさそうじゃな」
 白蛇は息をついた。相手は焦れ始めている。
「店主、悪いがこれで足りる分、包んでくれるか」
 財布から札を取り出して惣菜店の店主に渡す。
 そして受け取った袋をリュミエチカに差し出した。
「数日なら、これで何とかなるじゃろ」
「‥‥」
「食糧が必要なら‥‥買え。それがこの世界の道理じゃ」
 リュミエチカはしばらく袋を見ていたが、手を伸ばした。
「よく分かんないけど、くれるって言うなら、もらう」
「うちも、渡しておくかねぇ」
 九十九も懐を探ると、カロリーブロックを取り出して渡す。
「‥‥これ、食べ物?」
「これなら日持ちもするさぁね」
「ふぅん」
 箱の匂いを嗅いでから、少女はそれを総菜の袋の中に落とした。
「まあいいや。帰ろ、アルペン」
「ヴォッ」
 くるりと一行に背を向けて歩き出す。
 だが、白蛇が九十九にマーキングを依頼しようと近づいたところで、振り返った。
「アンタたちあれでしょ、ゲキタイシ。リョーが待ってるから帰るけど、追っかけてきたらコロスからね」
 言い残して、走り去っていった。


「あの食糧が獅号さんの為のものなら、獅号さんは無事、ということでしょうか」
 雅也が言うと、マリアがウインクした。
「それが分かっただけでも上出来ねン♪」
「あの様子ならアジトはこの近くかもしれん」
 白蛇は頭の中でいろいろと仮説を組み立てている。

「とにかく一度報告に戻るとしようかね」
 アサニエルは少女が去った方向から視線を外した。

 今日得たものを次に活かす。その機会は、きっとすぐに訪れるだろう。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: 万里を翔る音色・九十九(ja1149)
 慈し見守る白き母・白蛇(jb0889)
 スプリング・インパクト・マリア(jb9408)
重体: −
面白かった!:4人

守護司る魂の解放者・
イアン・J・アルビス(ja0084)

大学部4年4組 男 ディバインナイト
万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
ひょっとこ仮面参上☆ミ・
新崎 ふゆみ(ja8965)

大学部2年141組 女 阿修羅
慈し見守る白き母・
白蛇(jb0889)

大学部7年6組 女 バハムートテイマー
天に抗する輝き・
アサニエル(jb5431)

大学部5年307組 女 アストラルヴァンガード
スプリング・インパクト・
マリア(jb9408)

大学部7年46組 男 陰陽師
撃退士・
東條 雅也(jb9625)

大学部3年143組 男 ルインズブレイド