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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:難しい
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/03/23


みんなの思い出



オープニング

「すぅ‥‥すぅ‥‥」
 薄暗い部屋の中。ベッドの上で布団にしっかりくるまって、女の子が一人、眠っている。
「ん‥‥うん‥‥」
 時折なにやらむにゃむにゃと、寝言のような音を漏らす。今頃は、何か夢でも見ているのだろうか。
「うー‥‥えへへ‥‥」
 あっ、笑った。

 時刻は早朝。太陽が毎日少しずつ変わるペースで朝を告げる、丁度その頃合いだ。
 カーテンの隙間から僅かに覗く空が急速にオレンジに染まり、一条の光となって部屋の中に差し込む。
 光は部屋の中でまっすぐに伸びて、まだ夢の中でまどろんでいる女の子の頬を照らした。
 女の子はいやいやをするように布団ごと体をぐっと丸め、光の筋から逃れた──けれど、結局その動作で目が覚めたようだった。
「ん‥‥何時‥‥?」
 上目遣いで時計を見ると、目覚ましがなるまであと十分。
 こんなとき、ぎりぎりまで寝るか、思い切って起きるかは人それぞれかもしれない。
 女の子は、後者を選択したようだった。
「うー‥‥えいっ!」
 気合いを入れて、ベッドから身を起こす。桜色のパジャマの背中が容赦なく部屋の空気にさらされて、ぶるっと震えた。一時期よりましになってきたとはいっても、早朝の室内はまだ寒い。
 お布団の中に再度潜り込みたくなるそんな衝動を、しかし彼女は見事抑え込んで、がばっとそいつをはねのけた!
「早く、もっと暖かくなればいいのに」
 両肩を手で撫でさすりながら、ベッドから降りて窓際へ向かい、カーテンを開く。
「わあ、いいお天気!」
 ──お昼頃には、少しは暖かくなるかなあ?
 そんなことを考えながら、春苑 佳澄(jz0098)は窓の外に笑顔を向けるのだった。



 さて、そんな彼女がいつものように学園の斡旋所へと出向いていくと、受付の潮崎 紘乃(jz0117)が電話の受話器を手にしたままこちらを呼んだ。
「佳澄ちゃん、いいところに! 緊急の依頼があるんだけど、いける?」
「戦闘依頼ですか!?」
 表情を引き締めて紘乃の元に駆け寄る──が、紘乃は口をへの字に曲げて微妙な表情をした。
「そのはず、なんだけど‥‥これ。先行した撃退士から応援が来ているんだけどね」
 紘乃が受話器を示す。そこから、現地のものであろう声が漏れ聞こえていた。

 ──あー、いいわー極楽だわー
 ──すー、すー
 ──ダメだ、これをはねのけて外へ出るとか、ありえん‥‥
 ──おやすみなさーい‥‥

「‥‥? 戦闘中、なんですよね?」
「さっきまではもう少し緊張感があったんだけど‥‥。と、とにかく向かってくれない? 追加の応援もすぐに出すから!」
 よくわからないまま紘乃に促され、とにかく佳澄は現地へと急いだ。


「よく来てくれた。状況は劣勢だ」
「えっと‥‥あれ、なんなんですか?」
 とある町の商店街。道の真ん中で我がもの顔に飛び跳ねているディアボロ──だと、一応紘乃に聞いてきていた──を見ながら、佳澄は唯一意識を保っていた先行部隊の撃退士の男に尋ねる。
「見て分からないのか?」
「分からないって言うか‥‥」
 そのまま口に出していいのかな、と困惑する佳澄に、男は苦々しい口調で言った。
「フトンだ」
「布団‥‥ですよね‥‥」

 それはどう見ても、お布団だった。
 ふかふかあったかそうな羽毛の掛け布団に、真っ白シーツの敷き布団‥‥が、最近テレビでみた某ゆるキャラみたいな動きで通りをぴょんぴょん跳ねているのだ。
「あれが、ディアボロなんですか?」
「ふつうの布団は、飛び跳ねたりしないだろう」
 確かに、中の人がいるようにも見えない。
「見た目にだまされるな‥‥アレは強力だ。もう五人やられた」
「五人もですか!?」
 男が示したほうに、積み重なった人の山があった。戦闘不能の撃退士たちはいずれも真っ赤な顔で、ホカホカと湯気が立っている。
 が、表情はどことなく幸せそうであった。

「あいつ等は掛け布団と敷き布団でこっちを挟み込もうとしてくる。中はたいそう心地よいらしくてな。撃退士といえども抵抗は難しい」
「はあ‥‥」
「おまけに特殊な防御能力があるらしく、外側から叩いても攻撃が通らない」
「それじゃ、どうやって倒すんですか?」
「外がダメなら内からってことだ」
 男はそう言うと、ぱん、と両手をあわせた。
「こうやって掛け布団と敷き布団に挟まれたときがチャンスだ。あいつ等の誘惑に抵抗して、中から叩いてやれば──」
「倒せるんですね!」
「ああ。だがそれが分かるまでに時間がかかりすぎた。俺たちのチームはもうダメだ」
 幸せそうに眠っている仲間たちを見やって、男は唇を噛む。
 それから一歩前に出た。
「時間を稼ぐ。君はここで後続を待ってくれ」
「え、でも」
「一般人の避難はとりあえず完了しているが、見た目があんなせいもあるのか、遠巻きに見てるのがいくらかいるんだ。そっちに向かわれたらまずい」
「それなら、あたしも!」
 佳澄は訴えるが、男は首を振った。
「後から来る連中にも伝えてやらなきゃ、いかんだろう?」
 だから君はここにいるんだ──そう言うと、男は武器を顕現する。
「せめて一組は、俺が‥‥後は頼む!」
 言い残し、男は颯爽とオフトンの群に駆け込んでいく。
 すぐさま一組の掛け布団と敷き布団がやってきて、彼をばっふーんと取り込んだ。

 オフトンの中で、男がしばらくもぞもぞ動いている様子が見えた──が、やがて動きを止める。
 佳澄が心配そうに見守る先で、オフトンが男をぺいっと吐きだした。真っ赤に、ホカホカと湯気を立てた男を。
「だ、大丈夫ですか!?」
 たまらず佳澄が駆け寄り、彼を抱き起こす。
 男はうっすらと目を開け、言った。
「すまん‥‥俺は、低血圧なん、だ‥‥」
 それだけ言い残して、彼は深い眠りに落ちた──。

「ええっ!? ちょ、ちょっとしっかりして下さい!」
 あっという間に戦力外になった男をどれだけ揺さぶっても、もはや反応はない。
「それならあたしが囮になったほうがよかったんじゃないかな‥‥」

 今更言っても遅いことを呟きつつ。
 残ったオフトンの群は、ぴょんぴょん飛び跳ねながらつぎのターゲットを探す。


 佳澄に続いて派遣された君たちがたどり着いたのは、そんな時だった。


リプレイ本文

「布団型のディアボロ、で御座るか‥‥?」
 緊急の応援依頼を受け取って、エルリック・リバーフィルド(ja0112)はかくりと首を傾げたという。
「この時期は確かに、まだ布団から出辛くはあるで御座るが」
 はてさて何を思って作られたのやら。

 とにもかくにも時間が惜しい。一行は春苑 佳澄(jz0098)が待つ現場へ向かった。



 鬼定 璃遊(ja0537)と稲葉 璃々乃(jb9278)は通りの先でぴょんぴょん跳ねているオフトンの群を見、それから顔を見合わせた。
「可愛いんだか、不気味なんだか」
 少々呆れ顔で呟く璃遊とは対照的に、璃々乃は目をキラキラさせている。
「もぞもぞ動くオフトン! これは、大金チャンス?」
 花柄オフトン、クマさんオフトン‥‥いろいろ可愛いフトンカバーを着せたら。
「貴方を心地よい眠りにいざなう自立型ゆるキャラオフトン! いいかも!」
「ディアボロだけどな」
「そうだったよ、リュー! 残念ながら成敗だね!」
 璃々乃は璃遊に向けて気合いを入れて見せた。

「‥‥何とまあ、面妖だのう」
 はぐれ悪魔・小田切 翠蓮(jb2728)の目から見てもどうやらそうらしい。一方、もう一人のはぐれ悪魔、ファウスト(jb8866)は思わせぶりに顔をしかめた。
「同じ悪魔だから分かる‥‥」
 避難エリアの外側に残っている野次馬に向け。
「アレは非常に危険だ! 貴様ら今すぐそこから離れろ!」
 少々大げさに手を振って、彼らを下がらせる。わざわざ顕現した蝙蝠のような暗闇色の翼がその言葉に信憑性を与えたらしく、いくらかは戸惑いながらもそこから去っていく。
(このくらい脅かしておけば、連中からディアボロに近づくようなことはあるまい)
 実はファウストだってこんなディアボロは知らないのだが、まあ嘘も方便という奴であった。

「みなさん、来てくれたんですね!」
 佳澄がやってきて、手短に情報を伝える。
「やられた撃退士はほっこりしてて悲壮感より満足感が漂ってるけど」
 山と積まれた戦闘不能の撃退士たちを見て璃遊が言ったが、次には自分たちもそうなるかもしれないのだ。
「極楽極楽〜♪ 等と言いながら、本当に極楽に逝ってしまわぬ様に気を引き締めて掛からんとな」
 翠蓮も片目の眼光鋭く頷く。
「こんなことと知ってたら、昨日はまとめサイト巡回も日参のMMOチャットも封印して20時には寝たのに! って赤ちゃんか!」
 平素であれば昼夜を問わず睡眠がお友達の璃々乃が、セルフツッコミしつつちょっと不安そうなところへ、レグルス・グラウシード(ja8064)が缶コーヒーを差し出した。
「よかったらどうぞ(*´∀`)つ」
「あ、ありがとー!」



「こんな危険なところにいられるか‥‥俺は後衛に戻らせてもらう!」
 などと米田 一機(jb7387)が口にしたから‥‥という理由ではなく、作戦として一行は前衛と後衛に分かれた。
「お兄ちゃん起こし隊として頑張ります!」
「ジジイの手荒い起こし方が嫌なら、寝るな」
 一機、璃々乃、ファウストが後衛として、万が一眠ってしまうものがでた場合の対処にあたることに。
 佳澄は一機に言われ、前衛に。
 前衛は横一列、商店街の道幅いっぱいに広がって後衛への突破を防ごうという作戦である。

 あれ、でも微妙に端っこに隙間が出来ているような‥‥?

「来たよ‥‥フトンが!」
 璃遊が叫ぶ。その言葉通り、オフトンの群が思いの外機敏な動きでこちらに向かってきていた。
(全員が同時に捕まる訳にはいかぬで御座ろうな)
 璃遊や翠蓮がオフトンに向かっていくのを見て、エルリックは突撃を控えた。一組のオフトンが彼女をも取り込もうと向かってくるが、最初の突撃を躱した後はじりじりと距離をとる。
 鬼道忍軍である彼女にとって回避は得意技である。敵に囲まれない限りは時間を稼げるだろう。

 一方、レグルスは突撃も回避もせず、迫るオフトンを待ち受けた。
 その手には、商店街に設置されていた共用の消火器のホースが。
「よし、今だ!」
 レバーを握り込むと、消火剤が勢いよく飛び出して正面に迫っていたオフトンに襲いかかった。
「これなら、挟まれても気持ち悪くて眠れません!」
 得意満面のレグルス。ふかふかオフトンもあっという間にびしょびしょになったはず。
 消火剤の噴射が終わる。オフトンは‥‥まだぴんぴんしていた。
「あ、あれ?」
 消火剤の雫がオフトンからぽたぽた垂れてはいるものの、水分が中までしみこんだ様子は全くない。外見はオフトンでも、やっぱりディアボロなのだ。
 オフトンは一度体を犬のように震わせた後、前後から彼を取り込んだ。


 翠蓮は一足先にオフトンの中。
「──おおぅ。この温もりと柔らかさ‥‥正に極楽だのう〜」
 しっかり頭までオフトンを被って、その感触を確かめていた。うむ、これはまさしく高級羽毛布団の肌触り。
「一組お持ち帰りしたいのう。──だが、これもお役目。致し方あるまいて」
 誘惑を辛うじて押しのけて、その手に陰陽の札を顕す。ボン、と小さな炸裂音がして、オフトンはあえなく弾け飛んだ。
「ひい、ふう‥‥やれやれ、後12体も居るとはのう。中々に骨が折れそうだ」
 普通の布団同様に動かなくなったオフトンから起きあがった翠蓮は、寝乱れた着物の前を軽く合わせて、次を狙う。

「動物の姿ですらないのが敵だなんて思わなかったな」
 璃遊はオフトンの中。本当、いろんな奴が居るものである。
 彼女の耳にはイヤフォンが嵌められていて、激しいメタルサウンドがガンガンに鳴り響いていた。
(これなら眠くならないだろ。‥‥しかし)
 オフトンの中は絶妙の温度に調整されている。
(厚着してるのに‥‥ちっとも寝苦しくないな)
 思わず身を委ねてみたい衝動に駆られる。いけないいけない、そんな場合じゃない、けど。
(対策してるし‥‥少しくらい‥‥)
 あ、まずいですよこれ。

 そのころ、一機はハンディカラオケ片手に一人リサイタルの真っ最中だった。
「〜♪ 〜〜♪」
 やたら上手いが、別に美声を披露したいわけではなくてこれも睡眠対策である。
 しかし璃遊がオフトンの中で動きを止めたことに気づくと、一機は歌うのを止めた。
 璃遊の取り込まれているオフトンに近づく。最初は足の方に回ろうかと思ったが、
「よく考えたら靴履いたままだしな」
 というわけで、頭の方へ。
 オフトンをめくると、璃遊の両目はすっかり閉じていた。イヤフォンからジャカジャカ音漏れがしているが、もはや聞こえていないようで安らかに寝息を立てている。
「女子なら‥‥これかな?」
 取り出したるは猫槍「エノコロ」‥‥猫じゃらし状の穂先を持つ武器である。
 エノコロの先を璃遊の鼻先へそっと近づけ、こしょこしょ。
「ん‥‥ふ」
 こしょこしょ。こしょこしょ。
「ふ‥‥ふぁ」
 こしょこしょこしょこしょ。
「ふぁ、はっくしょん!」
 璃遊は盛大にくしゃみをすると、掛け布団を跳ね上げ起きた。
「え、あたし‥‥寝てた?」
 こっくりと一機が頷く。
 跳ね上げられた掛け布団が即座に璃遊を取り込み直そうとするが、璃遊はバトルシザーズで布──皮と言うべきかもしれないが──を切り裂くと、足で蹴り飛ばして完全にフトンの外にでた。
「大丈夫だと思ったんだけどな‥‥助かったよ」
 寝顔を見られた事もあってか、少し照れくさそうに一機に礼を言う璃遊であった。

 消火剤付きオフトンに取り込まれたレグルスだったが、辛くも脱出に成功していた。
「予定ほど気持ち悪くなかったですね‥‥」
 ただの消火剤ではオフトンの保温効果を遮るまではいかなかったらしい。それでもオフトンの体にはまだ消火剤が残っていたのだが、レグルスの方も服や魔装をしっかり着込んでいるのであまり感じなかった。
 脱出できたのは、単純に彼の力‥‥日頃から健康優良児を地で行く生活だったのが効を奏したのかもしれない。
 だが彼のオフトン対策はまだ終わりではない。
「それなら‥‥次はこれです!」
 手にしたのは物干し竿であった。寮から拝借してきたらしい。
 オフトンに取り込まれる寸前、レグルスは竿を体と垂直に立てた。
 竿をつっかい棒にして、完全に取り込まれない様にする作戦である。
「すきま風が吹き込んできて寒い‥‥こんなんじゃ僕を眠らせられませんよ!」
 再び得意げなレグルス。
 オフトンは完全にレグルスを取り込めない事を嫌がるかのように、端っこをじたじたと動かす。
(あ、ちょっと可愛い)
 そんなことを思うのもつかの間。
 オフトンは両端で竿を包み込むようにすると、体をひねった。

 ベキッ。

 いともあっけなく、竿が折れた。
 何度も言うが、こんななりでもディアボロなのである。
 オフトンが再びレグルスに覆い被さってくる。その動作がなんだか嬉しそうに見えたのは気のせいだったのだろうか。


「む、止まったな」
 前衛の様子を伺っていたファウストが、翠蓮の入ったオフトンを見て言った。‥‥そして言うなり魔法を撃ち放った。
 魔法は地面を穿ち、オフトンははじけてゴロゴロ転がった。もちろんダメージはほぼなかったようだが、その拍子に翠蓮が吐き出されてやっぱりゴロゴロ転がった。
「起きたか」
「起きた‥‥が、もう少し優しく起こしてくれんかの」
 着物の泥を払いつつ、翠蓮がファウストに向き直る。
「どうせなら、うら若き乙女に起こしてもらいたいのう‥‥」
「それなら、次は私が起こします!」
 はいはい、と璃々乃が手を挙げた。
「どんな起こし方が良いですか? 妹、幼なじみ、‥‥息子のお嫁さんとか?」
 バリエーション豊富な璃々乃の提案に翠蓮はむう、と唸って考える。だが答える前に、ファウストが口を挟んだ。
「‥‥どうやら、そんな余裕はなくなってきたようだぞ」
「え?」
 璃々乃はあたりを見回した。



 エルリックは前方に捉えたオフトンの攻撃を回避し続けていたが──。
「くっ、後ろから!?」
 いつの間にか後方に現れた別のオフトンが彼女を捉えようとする。それは何とか避けたものの、体勢を整える前に正面のオフトンが再び突っ込んでくると、ついに躱しきれなくなった。
 掛け布団と敷き布団に挟まれて、エルリックは地面に転がされる。だがふかふかオフトンのおかげでさしたる衝撃もない。
「おお、これは‥‥」
 あっという間に足下までじんわりあったかくなる。
(気合いで起きて──いられるで御座ろうか?)
 とりあえず、頬を抓ってみようとするエルリックである。


 璃々乃が見回すどこにも、オフトンの姿があった。
「どうやら、囲まれたようだな」
 とファウスト。
 前方に固まっていたはずのオフトンの群が、いつしか彼らを包囲するように広がっていたのだ。
 こうなれば、もう前衛も後衛もない。
 新たなオフトンが向かってきて、二人をそれぞれに取り込んだ。

「ふむなるほど、これは中々‥‥」
 ファウストは冷静にオフトンの感触を確かめていた。
 悪魔としても割と高齢な部類に入る彼の朝は早い。
「‥‥これを作った悪魔は日本贔屓だな‥‥ベッドじゃないし」
 一人得心顔で頷いているが‥‥。
「おっといかん」
 ついオフトンの中で時間を過ごしそうになったが、そこはしっかり抵抗して大鎌で掛け布団を切り裂き、脱出した。

「ぎゃー! ぎゃあああ!」
 璃々乃はオフトンの中で暴れまくっていた。
「なんかでかいしコレ!」
 本来二人用サイズのオフトンに一人で取り込まれ、がむしゃらにもがいても上手く抜け出せない。
(あ、攻撃すればいいのか)
 右拳に阻霊符を握りしめて渾身のストレートを放つと、オフトンは錐揉み回転しながら太陽へと吸い込まれていく。きらーん。
「どうだーうえへへへ‥‥」
 璃々乃は夢見心地で呟くのだった。ちなみに現実では阻霊符で殴ってもダメージにならないぞ!

 ぼかん、と音がして隣のフトンがフットンだ。(あっ、言っちゃった)
「けほ、とりあえず拙者は燃えなかったようで良かったで御座るが‥‥」
 緋炎の忍術書を片手に、無事脱出したエルリック。見ると近くにこんもり山となって動かないオフトンが。なんだか寝言も聞こえてくる。

「世話を焼かせる‥‥起きろ!」
 そこへファウストが魔法を放つ。爆風に吹き飛ばされたオフトンから、璃々乃が転げ落ちてきた。
「よっ、と。大丈夫で御座るか?」
「は、はれ‥‥あれ、夢?」
 エルリックに抱え上げられて、璃々乃は目をぱちくりさせた。


 佳澄がオフトンから脱出してあたりを見回すと、すっかり陣形も何もなくなっていた。
「米田くん、どうなったの?」
 とりあえず近くにいた一機に状況を確認しようと近づく、が。
「佳澄ちゃん、危ない!」
「え?」
 一機が右手を伸ばし、佳澄を押しのけようとする。後方から迫っていたオフトンを視認する間もなく、佳澄は一機ごとその中に押し込められた。


 オフトンの中で、二人はまとめて魔法のように暖かい空気にさらされる。
「‥‥ねむ」
 じゃ、なかった!

 抵抗に成功し、佳澄はぱちっと目を開ける。そういえば、一機はどうなっただろう?
 自分を助けようとしてくれた彼の事を思い出したとき、胸元で何かがもぞと動いた。
 目線をおろすと──、一機は佳澄の胸に思いっきり顔を埋めてまどろんでいた。
「‥‥固い枕だな‥‥」
 むにゃむにゃと呟く。
 もちろんこれは狙ってこうしたわけではなくて、不可抗りょ
「うひゃああああ!?」
 ばっちーん。と、音が響く。本日唯一の物理ダメージです。

「おお、いい音で御座るな」
「響いたね!」
 エルリックと璃々乃が見ている中、一機が布団から転がり出てきた。
「ご、ごめん、思いっきりはたいちゃった!」
 続いて佳澄がオフトンを跳ね上げて出てきて、彼を抱き起こす。
「な、何がどうなったの‥‥?」
 佳澄の近くにいたことに、なんの下心もなかった訳ではないけれど。
 一機は状況を理解しきれず、ただ呆然と呟くのだった。


「大きいのは二人で攻撃した方がいいみたいだね‥‥ああはならないように注意が必要だけど」
「うむ‥‥」
 璃遊が言うと、近くにいた翠蓮が頷いた。
「しかし、この齢で同衾‥‥することになるとはの」
 心なしかぽっと顔を赤らめているようだった。


 残るは大きいオフトンが数体ばかり。
 一行は陣形を組み直し、オフトンとの最後の戦いに挑んでいくのだった。



 戦い終わって。
「恐ろしい敵でした」
 商店街の通りに横たわるオフトンの群を見ながら、レグルスは感慨深く呟いた。
「もし、毛布もセットできたら‥‥僕たちは敗北していたでしょう」
 ↑真顔

 ファウストもまた、敗れ去ったオフトンディアボロに向けて勝ち誇る。
「素晴らしい寝心地ではあった。だが、貴様らには『枕』が足りん!」
 ↑真顔


 今日の戦いは撃退士の勝利に終わった。
 だがいつか──枕と毛布をも兼ね備えた、進化したオフトンディアボロが現れたとき。
 そのときこそ、真の戦いの始まりなのかもしれない。


   〜眠ってはいけない久遠ヶ原24時 第一部 完


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: あなたへの絆・米田 一機(jb7387)
重体: −
面白かった!:5人

銀と金の輪舞曲・
エルリック・R・橋場(ja0112)

大学部4年118組 女 鬼道忍軍
撃退士・
鬼定 璃遊(ja0537)

大学部6年1組 女 阿修羅
『山』守りに徹せし・
レグルス・グラウシード(ja8064)

大学部2年131組 男 アストラルヴァンガード
来し方抱き、行く末見つめ・
小田切 翠蓮(jb2728)

大学部6年4組 男 陰陽師
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
託されし時の守護者・
ファウスト(jb8866)

大学部5年4組 男 ダアト
オフトンからの脱出・
稲葉 璃々乃(jb9278)

大学部4年253組 女 陰陽師