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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/01/22


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。


 ドンドン、パッ。ドンドン、パッ。

 身体全体に伝わる振動を感じて、君は目を開ける。
 ここは、どこだろう? 辺りを見回す前に、声がかけられれた。

「まさか、寝てたのか? 大した度胸じゃないか」

 後ろを振り向くと、ユニフォーム姿の男が呆れたように見下ろしている。
 プロ野球選手の獅号 了(jz0252)──彼は気安い様子で君の肩をたたいた。
「ま、この局面で寝てられるなら、逆に期待できるってもんだ。頼むぜ」
 置かれた手に視線をやって、気づく。自分も彼と同じユニフォームに身を包んでいることに。
「試合も終盤‥‥このまま終わるわけには、いかないからな」
 外へ向けられた獅号の視線を辿る。目線の位置に、グラウンドが広がっていた。深く明るく、鮮やかに色分けされた芝と土のフィールドの向こうには巨大なスクリーンが設置され、選手たちを鼓舞し、観客を盛り上げる映像が繰り返し流されている。オルガンの軽やかなメロディがネクストのバッターを呼んでいる。
 スタンドを埋め尽くした観客たちが、歓声を上げ、手拍子をうち、足を踏みならす。それらが一体となった振動が、自分を揺らしているのだと気づく。

 気づいた途端、思い出した。自分がなぜここにいるのかを。
 自分も戦っているのだ。獅号と、ベンチにいる仲間たちと共に。

 世界最高の舞台で、頂点に手をかけている。


 反対側のベンチで、屈強な体躯の男たちがこちらを伺っていた。遠目に見える表情には、余裕が感じられる。
 スコアボードを見直すまでもなく、これまでの展開が頭の中に思い返された。

 1ー3。劣勢だ。逆転しなければ、すべてが泡と消える。
 だが逆転すれば、そこがてっぺんだ。

 仲間たちと共にチャンピオンリングを嵌めるシーンを、想像する。
「頼りにしてるぜ」
 軽口を引っ込めて、獅号がつぶやく。熱のこもった声が耳に届く。

 きっと同じ瞬間を、想っていた。
 夢を叶えるために残されたのは、3イニングスだ。


リプレイ本文

●七回表
 スクリーンビジョンに、帽子をとって汗を拭う獅号 了(jz0252)が大映しになると、ホームグラウンドを埋め尽くした観客のざわめきが大きくなった。
 マスクをかぶった橘 優希(jb0497)がマウンドに駆け寄る。内野陣全員がそれに続いた。
「今のは、運が悪かっただけです」
 獅号に向け、優希が気丈に言う。相手の三番・ロブソンが叩いた打球は三塁ベースに当たって大きく跳ねるという不運で内野安打になっていた。
 一死一三塁のピンチ。
「まだ球威もあります、抑えられますよ」
「もちろんだ」

 次打者がバッターボックスの外でバットを振り回している。ベースの後ろの定位置に腰を下ろしながら、優希はその表情を盗みみる。
(これ以上、失点は出来ません‥‥)
 先ほどはストレートを本塁打にされた。ずいぶんと気分を良くしていることだろう。
 それならば。

 初球、スライダーを外角に外す。オルテガは反応しない。
(やはり、ストレート狙いですね)
 二球目はシンカー。膝元にストライクをとる。
 三球目は、再びスライダー。耐えきれずに手を出した相手のバットは空を切った。
「‥‥ッ!」
 吐き捨てるように何かつぶやき、優希をにらみつけてくる。優希は見ない振りでボールを獅号に投げ返した。
(これで決めましょう‥‥いいところにお願いしますね)
 獅号がうなずく。二人が決め球に選んだのは、フォークボール。優希の狙い通りストライクからボールに外れて落ちていく。
 待ち球のストレートを徹底的に外されて、それでもオルテガは食らいついてきた。バットの先で捉えた球が高く打ちあがる。
「!」
 観客席から一瞬、悲鳴。だが打球は力なく右翼線に。構えるのは強肩の三善 千種(jb0872)だ。
「タッチアップなんて、させませんよぉ☆」
 ストライク返球が優希に返る。走者はスタートを切れない。
 観客が安堵のため息を漏らし、プレーの緊張感が一瞬、切れた。
 その隙を、優希は見逃さなかった。
 矢のような送球を一塁へ。緩慢な帰塁動作を見せていたロブソンがあわててベースへ飛び込むが──。
 コールと共に、塁審が右手を高く突き上げる。マスクを外した優希は、柔らかく顔をほころばせた。


●七回裏
「七回3失点なら投手の責任じゃありませんよぉ」
 ベンチに腰を下ろした獅号に向け、千種が明るく言った。
「さあ、リングを目指して逆転しましょう! 逆転優勝とか気持ちいいじゃないんですか☆」
 残す攻撃はあと3回、点差は2点だ。

 一番・優希からの打順だったが、追い込まれてからのスライダーに対応しきれず三振。
 次打者もあえなく三振で、二死無走者で三番の千種に。
「チャンスで回ってくると信じていたのですが、仕方ないですねぇ」

 前打席、千種はストレートにタイミングが合わず凡退に終わっていた。
(あれを布石にしちゃいましょう☆)
 初球、カウント狙いのスライダーをファールする。やや腰を引き気味に、最初から変化球狙いのスイングだ。
(ほらほら、もうストレートは捨てましたよ?)
 賭けではあるが、千種は確信を持って打席に入った。
 迷っていたら、結果は残せない。
 相手投手の左腕から繰り出される速球の軌跡をイメージする。サイドスローから対角線に投げ込まれる、その威力は抜群だ。
 相手が足をあげる。千種はバットをキリ、と握りこんだ。

 狙い通りの、ストレート。右翼線めがけて、弾き返す!

 打球はライナーとなって糸引くように飛び、観客の声援を巻き込んでライトスタンドのポール際に飛び込んだ。

 ──HOOOOOOME RUUUUUN!!!!!

 スクリーンのビジョンが踊った。場内アナウンスも叫んだはずだが、それは全て客席の歓声にかき消された。
「さぁ、反撃ですよぉ☆」
 両足でホームベースを踏んだ千種はチームメイトとハイタッチを繰り返しながら、にっこりと微笑んだ。


「さ、優勝まであと一歩‥‥やってやりますか!」
 四番打者・クラウス レッドテール(jb5258)が右打席に入る。
(気が付いたらこんなコトになってたけど‥‥スポーツやってた事がここで活きてくるとは! やってて良かった♪)
 剛速球に振り遅れず打ち返したが、センターの正面に飛んでしまった。これでチェンジだ。
 観客のため息をバックに、相手チームがベンチに戻っていく。クラウスは一塁線の中程に立ってそれを見ていた。
「折角の大舞台‥‥負けるつもりはないよ」
 ──なんだか柄にもないけど燃えてきた! クラウスは相手ベンチに熱い視線を送ると、バットを拾い上げてベンチに戻っていった。


●八回表
 アナウンスが投手交代を告げる。
『ジョン・イシズカ!』
 歓声が彼を迎え入れる。仁良井 叶伊(ja0618)‥‥ジョンは一度だけぐるりとスタンドを見てから、マウンドを慣らした。
 優希の構えるミットにめがけ、腕を振り抜く。常時160km/hを超えるストレートが、狙い違わずそこへ飛び込んでいく。

 数年前の彼を知るものには信じられないかもしれない。

 かつて、彼は一度下部リーグでデビューを果たした。当時から剛速球は見るものの度肝を抜いたが、一方で荒れ放題の制球もまた、打席に立つものを恐怖に陥れた──狙われているのはミットか、あるいはメットか? 投げる当人すら分からないレベルだったからだ。
 『トール・ハンマー』はそのころに付いた異名だ。当たったものを見境なく打ち砕く恐怖の雷。
 結局、彼は目立った成績を残すことなくチームを去ることになる。

 先頭打者を高めのストレートで空振り三振にとった。観客が沸き上がるその声を、ジョンは淡々と聞く。

 日本の球団に拾われた彼は、そこで徹底的に鍛え直された。荒削りなハンマーを、使える武器へと創り変えられた。
 そして帰ってきた──いや、たどり着いたのだ。頂上へと上る階に。

 次打者はスライダーでレフトへ打ち上げさせた。クラウスが軽快な動きでボールをつかむ。
 だが続く七番打者にパワーカーブを狙われた。レフト前へ弾き返され、二死一塁。

 優希がマウンドへ来た。
「三球勝負でいきましょう」
 八番のロブレスは、バットコントロールに定評がある。粘られるのはやっかいだ。

 初球、ストレートを内角膝元に。球審の腕が上がる。
 二球目、スライダーを外に落とす。カットされてファールに。

 優希は言葉通り、強気のサインだ。頷き、セットに構える。
 ボール一つ、コントロールを誤れば痛打されかねない位置。あのころの自分にはなく、今の自分にはある力。
 『トール・ハンマー』。彼は今でも、その愛称で呼ばれている。

 狙い澄ましたストレートが、内角高めに構えられた優希のミットに突き刺さった。
 ロブレスは悔しそうにバットを叩きつけ、ベンチに帰っていく。

 指先からミットへと、雷のごとく放たれる速球を今や精緻に操るジョン・イシズカは、己の仕事を終えてマウンドを降りた。
「あとは、打撃に期待ですね」
 スタンドの拍手を背に受けながら。


●八回裏
 クリスティーナ アップルトン(ja9941)が右打席に入る。
「私のあとは下位打順‥‥とにかくチャンスを作らなくては、ですわ!」
 この回、彼女を起点に一死二三塁の好機を掴んだが。
「せめて、外野に飛ばして下されば、私の華麗な走塁をお見せできますのに‥‥」
 下位打線が内野フライ・内野ゴロに打ち取られて、クリスティーナは頬を膨らませてベンチへ帰ることになった。

 とはいえ、これで最終回はまた一番からだ。


 グラウンドのざわめきから隔離されたブルペンルームで、神凪 景(ja0078)が目を閉じていた。
「出番だぜ、クローザー」
 獅号がやってきて、彼女に声を掛けた。ゆっくりと目を開ける。
「上位に回ってくる打順だ。気をつけろよ」
「要注意の選手はいますか?」
 そう聞くと、獅号は少し考えるそぶりをしてから答えた。
「三番だな」
「今日は、当たっていないみたいですが‥‥」
「その分ここは狙ってくる」
 場内アナウンスが叫ぶのが聞こえてきた。
『‥‥ヒカリ・カンナギ!!』
 観客が一斉に声を上げ、手をたたき、足を踏みならす。それは一つの振動として伝わる。
「サヨナラのお膳立てだ。よろしく頼む」
「はい!」
 景は力強く応えた。


●九回表
 スタンドの観客が、マウンドに上がる景を最敬礼で出迎えた。
 1点ビハインドでのクローザーの投入。このイニングで必ず逆転するという、チームの気迫を彼らも感じているのだ。

 相手は九番から。まずは初球、スローカーブで大胆にカウントをとると、観客がどよめいた。
 八回を投げたジョンのストレートは160km/h超。対して景のそれは140km/hに満たない。スローカーブとなれば、球速差はさらに広がる。
(さっきまでの速球とのギャップが有効なうちに終わらせたいわね‥‥)
 左投げオーバースローのジョンと、右投げサイドスローの景では球の出所も軌道も全く異なる。それら全てを武器として、景は凡打の山を築くのだ。
 決め球のスラーブに、相手は全くタイミングが合わない。ボテボテのピッチャーゴロを難なく捌いて、まずは一死。

 打順は一番に返り、ミヤウチが左打席へ。優希が声を出して守備陣形を指示する。
 インハイを突いて打ち上げさせようとするが、相手もさるもの。まったく強打せずに、コツンと合わせてきた。
 三遊間へのゴロとなる。ショートのクリスティーナが追いつくが、捕球位置が深く、内野安打に。
 次打者に進塁打を許し、二死二塁で三番のロブソンを迎えた。

(確かに‥‥さっきまでとは雰囲気が違いますね)
 景から獅号の話を伝え聞いた優希は、マスク越しにその様子を伺う。
 一塁は空いているが、塁を埋めて四番打者を迎えるのは出来れば避けたかった。

 優希はあえてサイン交換に時間を使った。相手をじらして打ち気に逸らせようというのだ。
 初球はスライダーを外角に外す。相手の肩が動いたのを見て、二球目はストレートを内角高めに。三球目はスローカーブで再び外角の隅を狙う。
 一つ間違えばすべてが台無しになる、そんな綱渡りの緊張感。それを乗り越えなければ、この位置で投げることなど出来はしない。
 フルカウントになった。
(ここを抑えれば、きっと)
 劇的な展開が待っているはず。
 内角膝上から、ストライクゾーンをかすめるようにして落ちるスラーブ。ロブソンの体が泳ぐ。
(打ち取った!)
 打球は鈍い音を残してふらりと上がった。だが飛んだ位置が悪い。内野と外野のちょうど中間点だ。
 観客の悲鳴がこだまする中、ドライブ回転する打球がグラウンドへ──。
「任せろ!」
 落ちる寸前、レフトのクラウスが猛然と駆け込み、飛び込む。
 芝の上をたっぷりと滑ったあとで、クラウスはグラブを差し上げた。
 その手に収めた白いボールを、見せつけるようにして。


●九回裏
「あとは、逆転するだけだな」
「期待してますよ」
「お願いしますね!」
 出番を終えた投手陣から激励を受け、優希が打席に向かう。

 相手も当然、クローザーがマウンドだ。
 優希の戦略はシンプルだった。球種を絞って狙い打つ。
 1点差だ。自分が出塁できるかどうかで展開が分かれる。内角へ食い込んでくるストレートに、覚悟を持ってバットを合わせた。
 鈍い打球音。叩きつけられて、ボールは高く跳ねた。優希は懸命に走り、一塁を駆け抜ける。
「‥‥やった!」
 審判の両手が広がっていた。内野安打だ。

 二番が確実に送り、一死二塁で千種。
「サヨナラホームラン、打つつもりで行きますよぉ」
 ロハスには落ちる球──空振りを取る球がない。ここは思い切って、狙っていく。
 七回の追撃弾を、もちろん観客も覚えている。劇的な瞬間への期待感が球場を包む。
 三球目のカットボールを、豪快なアッパースイングで捉えた。
 大歓声に押されて、打球は高く、高く空を舞う。
「行け!」
「ああっ、でも──」
 獅号は叫んだが、景は顔を歪めた。
 レフトスタンド、一歩手前。
 フェンスに張り付いた左翼手のグラブに、無情にもボールが収められた。

 二死となり、客席の反撃ムードも一気に萎んだ。
「うーん、状況はよろしくないねぇ‥‥けど、勝たせて貰うよ!」
 まだ試合は終わっていない。彼はみなぎる闘志でロハスと対峙した。
(まずは同点にしたいところだけど‥‥無理は禁物だね)
 できれば、この回で逆転してしまいたい。そのためには次打者にチャンスをつなげることが大事だ。
 クラウスにはボールがよく見えた。ファインプレーで気持ちが高揚していたのかもしれない。
 三球ファールで粘ったあと、カットボールにバットを叩きつける。打球は一二塁間を破った。
「よしっ!」
 二塁走者の優希は、ホームに突っ込みたい衝動をかろうじて抑え込んだ。右翼のミヤウチは強肩だ。
 矢のような返球が送られるのを見て、彼は自分の判断が正しかったことを知った。

 二死一三塁。

「頼んだよ!」
 一塁上のクラウスがクリスティーナに声を掛けた。彼女は目を閉じて、
(一番おいしい場面──つまり、見せ場。クライマックス!)
 そんなことを考えていた。

 ヒットを打てば、最低でも同点。しかし凡退すればそこで終わり。
 想像を絶するプレッシャーが彼女を襲う。
 妹、友人、そして数多の観衆──。それらすべての存在が、彼女を圧す。

 それを前に進む力に変換するのだ。

「『久遠ヶ原の毒りんご姉妹』華麗に参上! ですわ」
 口になじんだ言葉をほとんど無意識に発しながら。
 クリスティーナは打席で胸を張り、投球を待ち受ける。

(必ず一球は投げてくるカットボールを弾き返しますわ)
 ただし低めは捨てる。相手が全球そこにコントロールしてきたら──。
 いや、来るはずだ。

「‥‥打てよ」
「打ちますよ」
 獅号のつぶやきに、ジョンが答えた。

 プレートを蹴る音が聞こえてくるほど、静まりかえった。
 初球──。

 打撃の基本は、上から強く叩く!
「──ですわ!」
 気合いの一振りが、快音を導き出す。

 もはや声ではなく波となった音に包まれる中、打球は右中間を転がった。
 まず優希が返ってくる。これで同点。
「行けますよぉ!」
「回ってください!」
 ボールが中継に。クラウスは三塁を回った。
 捕手のミットをかいくぐり、転がるようにして右手を伸ばす。
 白いベースをタッチした瞬間は、まるで光がはじけるようであった。



 栄光の瞬間から一夜明け。
「‥‥ふぁ」
 景はいつもと同じベッドで目を覚ました。
「夢、か」
 だが右手はなにやら熱を持っている。大事なものを握りこんでいるような──。
 もちろん、開いたところで何もない。だがその熱が何であったのか、彼女には何となく理解できた。
 きっと、仲間たちも同じように思っているだろう。
 ──そういえば、なんだか学園で見覚えのある顔だったな。
 もし実際に学園であったら、野球部に誘ってみようかな?

 登校するのを楽しみに感じながら、景はベッドから体を起こした。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:2人

撃退士・
神凪 景(ja0078)

大学部4年6組 女 ルインズブレイド
撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
華麗に参上!・
クリスティーナ アップルトン(ja9941)

卒業 女 ルインズブレイド
夢幻のリングをその指に・
橘 優希(jb0497)

卒業 男 ルインズブレイド
目指せアイドル始球式☆・
三善 千種(jb0872)

大学部2年63組 女 陰陽師
青の悪意を阻みし者・
クラウス レッドテール(jb5258)

大学部4年143組 男 インフィルトレイター