「実に興味深いな‥‥新年の記事のネタに丁度いい」
情報を入手した下妻笹緒(
ja0544)は、もふもふの手でもふもふの顎を撫でた。
「誰もが行くような初詣スポットでは、情報としての魅力は薄い。やはり新聞のネタとなるのは、こういった閑古鳥が鳴く場所だ」
笹緒は意気揚々と取材に出かけるのだった。
カンデラ(
jb8438)は、寒風に肩を縮こまらせながら島内をてくてく散歩していた。
(こっちの方は、静かですね‥‥あれ?)
ふと見やった通りの先を歩いていくのは‥‥紋付き袴を着込んだ、パンダ。
パンダはずんずんと歩いていく。
(あっちに何かあるのでしょうか‥‥)
カンデラはついて行ってみることにした。
(こんな所にお社が‥‥)
「いらっしゃいませ」
足を踏み入れてみると、巫女さんの格好をしたモブ子がまんまコンビニな挨拶をした。
社に近づいてみる。やっつけ感はあるものの、それなりにお社っぽい。ただ、賽銭箱は置かれておらず、代わりにコンビニのレジ横に見かける募金箱が並べて置かれていた。
(これまでの自分と決別する、怖いことから逃げずに立ち向かう‥‥ために、神様のご加護を祈るくらいは、許されます‥‥よね?)
カンデラはお社の前で手を合わせた。
「よかったら、おみくじどうぞ」
お参りを済ませると、モブ子が木の箱を差し出してきた。
言われるままに箱を振って中身を出すと、88と数字を振られた木の棒が。
「じゃあこれです」
折り畳まれた紙を受け取る。
(友情運とか、あるでしょうか‥‥?)
【小吉】学業○ 恋愛△ 健康◎ 金銭◎
・まずはお友達から
残念ながら友情運はなかった。近いのは恋愛だろうか?
(あんまり良くないけど、『お友達から』ってことなら友達はできるって事でしょうか)
全体的には悪くないし、と前向きに考える事にしてみる。
「甘酒どうぞ。寒いからね」
「あ、ありがとうございます」
ほわほわ湯気が立つカップを受け取り、カンデラは広場の隅っこで芝生の上に座る。
続いて赤い髪の少女が木箱を受け取るところだった。
「ま、年の初めといったらこれだよね」
神喰 茜(
ja0200)は木箱をじゃらじゃら威勢よく振る。
「ええと、85」
番号を告げ、モブ子から紙を受け取る。
「どれどれ‥‥」
【末吉】学業○恋愛○健康○金銭○
・そのうち良くなることもある
「うわ、普通だね」
茜は苦笑した。
「悪い結果を引くよりはいいかな?」
広場の先に、柵が設置されていた。「結びたい方はこちらにどうぞ」とある。
張られた鉄線の一角に、折り畳み直したおみくじを括り付けて、茜は一息ついた。
「せっかくだし、無料で配ってるものを貰ってあったまろうかな」
甘酒のほか、大鍋で豚汁も用意されているようだ。冬の弱い日差しを気持ちよく浴びながら、茜はそちらに向かっていった。
「うう、和服は慣れないから歩きづらい‥‥」
「大丈夫かい、姉さん?」
「うん、大丈夫大丈夫」
隣を行く雨宮 歩(
ja3810)に気遣われて、雨宮 祈羅(
ja7600)はにっこりと笑顔を向けた。
白地に赤い帯の振り袖姿の祈羅。彼女一人でもおめでたい柄だが、歩が赤地の和服姿のため、完璧な紅白カップルである。
二人は手をつないでお参りの列に並んだ。
募金箱にお賽銭代わりの小銭を入れて、手を合わせる。
「今年も笑顔で歩ちゃんと一緒に歩んでいけますように」
目を閉じて、祈羅が願い事を口にした。
「姉さん、ああいうのは反則だって」
「歩ちゃんびっくりするかなって思って。成功?」
今度はおみくじ。
「34、だねぇ」
「46番!」
それぞれ紙を受け取ると、互いのおみくじを交換した。
「さて、今年最初の運試し。ボクらの運勢はどうなっているかなぁ」
歩は、祈羅のおみくじを開く。
【末吉】学業△ 恋愛○ 健康◎ 金銭○
・病は気から、健康は笑顔から
祈羅が開くのは歩の分だ。
【大吉】学業◎ 恋愛☆ 健康◎ 金銭☆
・待ち人はすぐに来る
「歩ちゃん、大吉だって!」
祈羅がはしゃいだ声を出した。
「姉さんのも、悪くないねぇ」
「歩ちゃんの方が運必要だもん、良かった‥‥でも」
祈羅の声がちょっとだけとがったものになる。
「恋愛運☆、だって‥‥浮気とか、しない?」
「ちょ‥‥するわけないだろぉ」
上目遣いでにらむようにされて、歩はあわてた。
「本当に?」
「本当だって」
すると、祈羅は破顔一笑。
「良かった。あのね、‥‥今の、冗談!」
「やれやれ、だねぇ」
くるくる表情を変える恋人に、歩は苦笑するしかなかった。
「まぁ、こういうのは気にし過ぎちゃダメだよぉ。自分自身の判断と行動が全てを変えるんだからねぇ」
「うん。うちね、どんな結果でも、歩ちゃんと一緒だったら、幸せになる自信あるよ」
祈羅は歩に向き直る。
「うちも、がんばって幸せにするから。よろしくね」
歩も、今度は戸惑わなかった。祈羅に向かって右手を差し出す。
「さぁ、一緒に行こうかぁ。今年も、これからもずっとねぇ」
そして二人手を取り合って、また歩き出した。
「『ポチ袋買ってきてくれない?』か」
礼野 智美(
ja3600)は普通に客としてコンビニを訪れていた。珍しい人だ。
どうもこのコンビニに縁のある知り合いに「可哀そうだから出来るだけ利用してあげて」と言ってくれている人がいるそうな。いい人だ。
(これから帰省だし、あっちは田舎だから正月開いてる店なんてないんだよな)
というわけで、移動中の食事もあわせて購入したところで、広場の様子に気がついたのだった。
急拵えのお社を前に、ほとんど無意識で二礼二拍手一礼を行う智美。
彼女の実家は本物の神社なのだ。戻れば彼女自身が巫女さんである。
「おみくじどうぞ」
お参りをすませると、なんちゃって巫女さんのモブ子が木箱を差し出した。
数字は82番だった。
【中吉】学業◎ 恋愛◎ 健康○ 金銭☆
・遠回りがいいときもきっとある
(‥‥一応、持って帰って神社の専用柵に縛り付けるか)
とりあえず、きれいに折り畳んで財布にしまう。
なかなかいい結果だったが、彼女が一番気になるのはここではなくて実家の神社の御神籤。
(あっちでもいい結果を引けるといいな)
実家の景色を脳裏に浮かべつつ、智美は帰省の途についた。
「何かの儀式ですか? 興味深い」
狗藤 いおり(
jb8390)は目を輝かせて広場を見回していた。
行き交う人々の中には晴れ着のものも多い。そういった儀式なのかな、と普段着のいおりは首を傾げる。
「そうだ、写真を‥‥」
スマホを取り出して、広場の光景をパシャリ。
ついでに、モブ子にも声をかけてパシャリ。
「せっかくですから、おみくじもどうぞ。運試しに」
「これが、おみく‥‥」
木箱を受け取ろうとしたいおりだが、不意に鼻をひくつかせる。
「何か良い匂いがしますね」
振り返ると、大鍋の向こうに立つ店長と目があった。
「よかったら食べていってね。あったまるよ」
「え、いいのですか?」
豚汁を渡され、いおりは湯気に乗った香りを改めて嗅ぐ。
「本当に良い匂い‥‥いただきます」
口をつける彼女の頭に、果たしておみくじは残っているのだろうか。まだ引いてないけど。
そんないおりの横合いから、ひょこりと現れたのは巫女服姿の黒百合(
ja0422)だ。
「あらァ、店長様新年そうそうご苦労様ですわ、今年も頑張って下さいね♪」
店長に向かって、礼儀正しくかわいく挨拶する。
「やあ、わざわざありがとう。甘酒飲むかい?」
「まあ、頂きます♪」
「よかったら、おみくじも引いていってね。僕がつくったやつだけど‥‥まあ、軽い運試しに」
「うふふ、是非そうさせて頂きますわ♪」
完璧に猫をかぶった黒百合は店長の元を辞すと、おみくじへ。
「さてェ、今年最初の運試しィ‥‥何が出るかなァ、何がでるかなァ〜♪」
64がでた。
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・大怪我してもそのうち治る
黒百合はにやりと笑った。
「ひどいのが出たら、ここの神様にもお仕置きの必要があるかと思ったけどォ‥‥? ぎりぎりセーフだったわねェ‥‥」
そう言って、甘酒配りに精を出す店長を見やった。
それからお参り。
「そうねェ‥‥今年もいっぱい敵できれば天使や悪魔を美味しく頂けます様にィ‥‥」
※「頂けます」は「ぶちのめせます」と読みます。
新年早々、撃退士としては正しいけど若干物騒さが勝る願い事をして黒百合は去っていった。
よかった、よかったね店長無事で!
若杉 英斗(
ja4230)は暇つぶしに散歩をしていて偶然広場を見つけた口だった。お正月って、一人だとする事ないんですよね。
「巫女さん‥‥。巫女さんがいる!?」
コスプレのモブ子に驚く英斗。
「あの‥‥すみません。お祓いって出来ますか?」
モブ子の前に立つと、英斗はそんなことを聞いた。
「なんか、最近自分に“お笑い”が憑いている気がして。お祓いで取り払えないですかね!?」
「お祓いですか‥‥」
モブ子は思案顔をすると、屈み込んだ。
机の下から、黄色のピラピラがたくさん付いた棒を取り出す。
「掃除用の静電ハタキがあったので、これで」
モブ子はハタキを英斗の頭上に掲げると、「えい、やあ」と数回振った。
「どうでしょう」
「どう‥‥だろう?」
果たしてバイト巫女のお祓いに効果はあるのだろうか。
丁度いい具合に、おみくじがある。
「2014年よ、俺に微笑みかけろっ!」
英斗は気合いを込めてがしゃがしゃ振った。51番。
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・普通でごめんなさい
「こんなもんか」
「バイトなので‥‥」
でもほら、凶じゃなかったし、少しは効果あったんじゃないかな!
「豚汁食べて、コンビニでお餅を買って帰るかな」
誰か知り合いでもいないかな、と探しつつ、英斗は大鍋の方に向かっていった。
●
「ふむ‥‥確かに利益は出ていないようだが、そこまで悲壮感もない。むしろ応援したくなるようなほのぼのさも良し」
取材を終えた笹緒は満足そうに振り返った。
「では、私も参拝とおみくじを引かせてもらうとするか」
笹緒には、ある決意があった。
「吉や大吉で喜んでいるうちはまだまだ‥‥2014年、今年こそはその上をゆくパンダ吉を引かなければなるまい!」
ばばーん。
「というわけで、よろしく頼む」
「はあ」
モブ子は木箱を渡した。
笹緒はそのもふもふのおててでしっかり木箱を持つと、がしゃっと振る。
「4番だ」
結果は‥‥。
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・ある意味、最もしあわせかも
「む、これは‥‥」
「あ、それレアなやつですね。おめでとうございます」
モブ子がぱちぱちと拍手をした。笹緒はおみくじをしげしげと眺め、頷く。
「パンダ吉とはいかなかったが、これはこれでまた良し」
モブ子は去りゆくパンダを見送った。
「パンダ吉って‥‥パンダ以外が引いたらどうなんでしょうね」
そもそも、入ってないけどね。
「おお、可愛い子発見♪」
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)は、巫女服姿のモブ子を見つけてにこにこと近づいた。
「ふむ、清楚な感じが‥‥やっぱいいよねぇ♪ ねね、折角だしこれから一緒にこの辺回らない?」
「仕事中です」
「じゃあ終わった後にでも♪ 私服姿のキミも見てみたいなぁ☆」
「‥‥お断りします」
慣れた調子でナンパするジェラルド。断られても平気な顔だ。
「残念、じゃあまたの機会にね。‥‥それ、やってもいい?」
「どうぞ」
おみくじは仕事なので、断らずにモブ子は木箱を渡した。
(実はあんまり気にしないけど、話のタネにね☆)
70番を引いた。
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・何事も下準備は大切
「恋愛◎か‥‥うん、神様分かってらっしゃる☆」
気にしないと言いつつ真っ先に恋愛の項目だけ確認するジェラルドである。
「あ、ねえねえキミ、よかったら‥‥」
おみくじの勢いでさらに近くの娘に声をかけるが。
「およ?」
それは新崎 ふゆみ(
ja8965)だった。残念ながら彼氏持ちである。
「ふゆみにはちょーカッコいいだーりんがすでにいるんだよっ。ゴメンねっ☆」
おみくじの列に並んだふゆみは、意気軒昂に木箱を振る。
「恋愛運☆が出るはずなんだよっ、
去年に引き続いてふゆみとだーりんはらっぶらぶのヨテーなんだからねっ(*´ω`*)!」
そう豪語して出した数字は49。結果は‥‥。
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・そのまま突き進めばよい
「わはー☆ やっぱり今年のふゆみのセイコーはヤクソクされたよーなもんなんだよっ☆(ゝω・)vキャピ」
「吉」と大きく書かれた紙を見てふゆみは歓声を上げた。恋愛も☆とは行かなかったが、なかなか良好である。
(吉は小吉と末吉の間だって店長言ってましたけど‥‥嬉しそうにしてるからいいですよね)
モブ子ははしゃぐふゆみを見てそんなことを考えていたが。
※順番は神社によっても違うみたいです。
おみくじを引き終えたふゆみは、お社の方に駆けていく。
「今年もだーりんとらっぶらぶでいられますよーに★ミ」
最後まで元気よく、新年の行事を楽しんでいた。
一方、二連敗のジェラルドは大鍋の方へ。
「おや? こんなところで奇遇だね」
そこには豚汁を食べているいおりがいた。声をかけると、いおりは白く曇ったメガネを拭いてから彼に気づく。
「あ、ジェラルドさん‥‥こんにちは」
「きみもおみくじ、引いてみた?」
「おみくじ‥‥はっ」
言われてようやく、まだおみくじを引いていないことを思い出す。ちなみに豚汁は三杯食べた。
「こ、これからです」
取り繕って、モブ子の元へ。
引いた数字は、51番。
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・忘れても思い出す
その後、他の人の見よう見まねでお参りもした。
「楽しい学園生活を送らせて下さい」
学園に来たばかりの彼女の一年は、どんな形になるのだろうか。
●
「戒お姉ちゃん、お待たせしました!」
振り袖姿の澤口 凪(
ja3398)が、一足先に待っていた七種 戒(
ja1267)の元へぱたぱた駆けてくる。
「お、凪かわええな!」
「ちょっと大人っぽ過ぎたかも‥‥似合うかな?」
『よき(斧)』『琴』『菊』の柄に抹茶色の帯は中等部の彼女には少々渋いチョイスにも思えるが、戒は凪の頭をぽんぽんと叩いて誉めた。
戒の隣にはランベルセ(
jb3553)も立っている。
「昨年に、おまえに正月の遊びを教わった」
戦いの最中出会ったという彼女を学園で見つけだしてから。
「一年か、早いな」
「そーいや出会ってから一年か、変わってないなー!」
感慨深げに呟くランベルセ。この寒いのに薄着(ピアス付きへそ出し)の彼の肩を、戒はドンと叩いて大爆笑。
「我が蒼もな‥‥。それで、今日は?」
「今日は、戒お姉ちゃんと初詣です!」
凪が答えると、戒は大仰に頷いた。
「うむ‥‥お参り後はおみくじを引いて、この一年の運勢を占うという重大イベントも待っているのである」
「おみくじ‥‥? 自分の占いは興味ないな」
ランベルセは本当に興味なさそうな顔をしたが、何か思いついて戒に顔を寄せた。
「勝負しよう、七種」
「勝負?」
「おまえが勝ったら何でもいい、好きにしろ。俺が勝ったらキスする。今度は指じゃないぞ」
いいことがある、と言ってからランベルセは戒の耳元で何事か呟く。
凪は戒の頬にさっと朱が入るのを見た。
「どうだ?」
「よ、よーわからんが勝てば問題ないってことだな!」
「‥‥そうだな」
自分を振り切ってずんずん先を行く戒。ランベルセは微笑みつつ後に続く。
「大丈夫かな‥‥?」
首を傾げつつ、凪もその後に付いていった。
「ん、なんだ‥‥結構繁盛してるじゃないか」
〆垣 侘助(
ja4323)は肥料が入った袋を肩に担いで少々困惑気味にしていた。
ここの広場を芝生にしたのはもともと彼の発案である。今日も様子を見に来ただけだったのだが‥‥。
入り口付近で立ち尽くしていると、店長の方が気づいて彼に近づいてきた。
「〆垣くん、君も来てくれたのかい」
「新しい肥料の配達に来たんだが‥‥忙しそうだな」
「今日はね。広場を使えるようにしてくれた君たちのおかげだよ」
「おっ、店長に庭師殿じゃないかね!」
そこへ戒たちがやって来た。
「やあみんな。明けましておめでとう」
「ああ、あけましておめでとう‥‥か」
店長たちの挨拶にあわせるように、侘助も新年の挨拶を口にした。
「庭師殿も、おみくじを引きに?」
「いや‥‥」
「せっかくだから、引いていきなよ。ちょっとした運試しさ」
店長に言われて、侘助もおみくじを引くことになった。
「神様今年こそお願いしますマジ本当モテたいんでよろしくお願いします」
極限まで精神を集中して木箱を振る戒。
「62番!」
「61番‥‥並んだな」とランベルセ。
「59番です!」凪は元気よく。
「65番」侘助は淡々と。
「結構みんな近い数字になったな‥‥むむむ」
戒がおみくじに念を込めている間に侘助はさっさとおみくじを開いた。
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・花はよく咲く
侘助はおみくじの内容をさっと眺めると、特に感慨もなく柵に結びに行った。
「おみくじは書いてある内容が大事だそうです‥‥いい結果の方が嬉しいですけどっ」
と言った凪の結果は。
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・今日悪いことは明日良くなる
「ふむふむ‥‥」
凪がおみくじを読み込んでいる横で、戒がかっと目を見開いた。
「全力全壊‥‥っ! 神様マジ頼んます!」
ばさっと開く。
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・頑張ってもどうにもならないことはある
「さよなら、2014」
戒は沈んだ。
「あ、でも恋愛運は私よりいいですよっ」
わたわたと凪にフォローされる戒。そこへランベルセが、自分のおみくじを寄越した。
「どっちが勝った?」
戒はぽそぽそとランベルセのおみくじを開く。
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・食事はバランスよく食べる
「揃いも揃って──」
まさかの凶二連発であった。
「もういい、甘酒を飲みに行くぞ、皆の衆!」
「あれ、戒だ」
「おお、若様!?」
英斗が豚汁をすすっていた。
「戒はおみくじ、どうだった?」
戒は遠い目をした。
「‥‥運命は自分の力で切り拓くものさ。そうだろ、戒」
かっこいいことを言って戒の肩を叩く英斗。
「若様‥‥そうだな!」
戒の目に輝きが戻った。──と思われたのもつかの間。
「店長もーいっぱい! 私の酒が飲めぬのか!」
甘酒をがぶ飲みした戒はあっという間にやさぐれていた。
「そんなに飲んだらお腹かぽかぽしちゃうよ?」
「ええい、いいから凪も飲め!」
「そもそも酔っぱらうものなのかな甘酒‥‥」
※ノンアルコールです
なお、ランベルセとの勝負は結局戒の酔っぱらい? 的忘却によってうやむやになったという。
●
「年末年始、それは学生にとって至福の時‥‥」
好きなだけゴロゴロ出来る、と言う意味で。
「だからってあまりごろごろし過ぎてもあれだろ? と思って誘ったんだけどな」
「儚い夢でした‥‥」
久瀬 悠人(
jb0684)と桝本 侑吾(
ja8758)はそんなことを言い合いながら二人で豚汁をすすっていた。
「男二人、お互い寂しいもんだよな」
ぴゅう、と寒風吹きすさぶ。
「寒っ」
「てか周り海ですよねここ」
豚汁を飲み終わった悠人は、召喚したヒリュウ(愛称・チビ)をマフラー代わりに首に巻いた。
「あ、いいなそれ」
「貸しませんよ‥‥」
「さて、ちゃっちゃとお参りしておみくじ引くか。寒いし」
「ですね」
使い捨てのカップをゴミ入れに放って、お社でお参りを。
「作法とかよく知らないけどな」
と侑吾。モブ子から木箱を受け取って、ジャカッと振った。
「64だな」
悠人は侑吾から渡された木箱を見つめた。
「結果が悪かったらチビの運勢ってことで‥‥あ、こら俺の頭を噛るな生温い」
チビに頭をガジガジされながら振った。
「えーと‥‥9番」
「気になるのは‥‥健康運かな」
まず侑吾がおみくじを開く。
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・怪我は死ぬほどのものでもない
「お、まずまずかな。撃退士として依頼に関わるのはこの辺だろうし」
学生として学業を気にしなくてもいいのだろうか。
「俺は金運ですね。生活費厳しくて‥‥主にゲーム買いまくった影響で」
どう聞いても自業自得にしか聞こえない理由をつぶやきながら悠人もおみくじを開いた。
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・貯金はうまく行かない
「今年も気にせずゲーム買いまくれってことですね、わかります」
「わかっちゃダメじゃないか?」
とりあえず、二人ともまずまずの結果ではあった。
「甘酒もらって帰るか」
二人でまた鍋の方へ行って、湯気の立つカップをもらう。
「これ、アルコールは入ってないのか‥‥帰ったら酒でも飲むかな。久瀬君も来るか?」
そっちは酒じゃなくてジュースになるけど、と言いつつ誘うと、悠人はぺこりと頭を下げた。
「あ、じゃあお邪魔します‥‥ついでに飯奢ってください」
首もとのチビが同意するように一声鳴いた。
「いいけど、高いのは勘弁してくれよ?」
「じゃあ早く行きましょう。‥‥寒いし」
甘酒をちびちび飲みながら、二人と一匹は広場を後にした。
「正月ののんびりした空気って好きだな‥‥」
冷たいし、ざわついてもいるが、それでもどこか居心地の良さがある。
木瀬 優司(
jb7019)はそんなことを思いながら広場を歩いていた。
「お社‥‥よくできてるな」
シンプルだが、最低限の様式にはなっている社を見て感心したりしていると、モブ子に声をかけられた。
「よかったら、どうぞ」
「おみくじか‥‥折角だし引いてみようか」
結果が良かったら、今年こそいい出会いがあるんじゃないかと妄想しつつ木箱を振る。
「21番だね」
「では、これです」
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「そんな予感はしてたけど」
残念な結果に優司は苦笑する。
「とりあえず、柵に結んでおくか‥‥」
ゆっくり歩いて、そちらに向かっていった。
「人が多いから来てみたけど‥‥これは何をすればいいんだ‥‥?」
鳥崎 真白(
jb8382)は結構前に広場にたどり着いていたが、何をすればいいのか分からずしばらくそこで呆然とたたずんでいた。
とりあえず、人が集まるお社の方へ行ってみる。
そこでもやっぱりたたずんでいると、店長が見かねて声をかけた。
「よかったら、お参りしていくといいよ?」
「‥‥お参り‥‥?」
店長に簡単な説明を受ける真白。
「ここで手を合わせて一年のお祈り‥‥あー‥‥」
言われるままに手を合わせ、願い事を呟く。
「‥‥何というか‥‥とりあえず平和に生きられますように‥‥。
‥‥気が向いたら少しは記憶が戻りますように‥‥」
「け、結構重い願い事だね?」
「あ‥‥気が向いたらでいいんで‥‥」
内容と裏腹に真白の口調は軽い。というかテンション低い。
ついでにおみくじも引いていくといいよ、と店長。
「おみくじ‥‥なんだっけ、一年の運勢を占うんだっけ‥‥」
木箱を受け取ると、重たそうにシャカッと振った。
「‥‥57番‥‥」
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紙を開いた真白は、中身を読んではてと固まった。
「‥‥この結果は‥‥いいのか悪いのかよく分からない‥‥」
「え? 何、コスプレ? 店員さんも大変だねぇ」
「仕事ですから」
巫女服姿のモブ子と談笑するジェンティアン・砂原(
jb7192)。もっとも、モブ子は(いつも)無表情だが。
「正月ぐーたらしてて初詣もまだだし、ここで運試しでもしてみようかな。と言う訳で、僕にもおみくじ引かせてね?」
「はい、もちろん」
「と、その前に参拝しなきゃね」
先にお社に向かい、募金箱にも心ばかりを入れておく。
「気になる運勢は‥‥何だろう。とりあえず恋愛運でもわかるといいかな」
執着はしてないけど、まあ本気になれる人が現れればいいなとは思うしね、とジェンティアンはモブ子に向かって笑顔を浮かべ、それから木箱を振った。
「79番だね‥‥さて、どんな結果が出るかな?」
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・出会いは盛りだくさん
「お、いい結果。ありがとね」
モブ子に手を振ってその場を離れる。
「甘酒でも貰おうかな」
体を温めていると、おみくじに見入っている真白が目に入った。
「結果どうだった?」
軽く声をかけてみると、真白は首を傾げた。
「‥‥よく分からない‥‥」
見せて貰うと、ジェンティアンと同じく大吉である。
「これは一番いい結果だよ」
と教えてあげると、真白はほんの少し目を大きく開いた。
「‥‥そうなのか‥‥」
「余興にしては、いい結果になったよね‥‥甘酒で乾杯でもしようか?」
自分の結果も見せて、ジェンティアンはニッと笑った。
「こんなところに、なにやら社が出来ていたんですね」
島内を散歩していた鑑夜 翠月(
jb0681)は、人が集まっているのを見て広場に立ち入った。
「おみくじも引けるのですか‥‥折角ですし新年の運だめしとして引いてみるのも良いですよね」
まず先に社に向かう。賽銭箱の代わりに置かれた募金箱に若干戸惑いつつも、お参りを済ませた。
モブ子から木箱を受け取ると、カシャカシャと振った。
「3番です‥‥良い結果になると嬉しいですね」
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・土下座は最後の手段
「あらら‥‥」
苦笑しながらおみくじを読みつつ歩いていると、ジェンティアンが声を掛けてきた。
「やあ、君はどうだった?」
「残念ながら、悪い結果でした」
翠月が紙を見せると、横から真白もそれを見た。
「‥‥交換する‥‥?」
「いえいえ、大丈夫です」
にっこり笑う翠月。「こういう時はですね‥‥」
三人は柵の所までやってきた。
「悪い結果の時は、利き腕ではない方で結ぶと、凶が吉に転じるというお話があるんですよ」
「へえ、そうなんだ」
感心してみせるジェンティアンの横で、翠月は少々苦労しながら左手でおみくじを柵に括った。
彼らの会話は、やはり凶を引いた優司の元にも届いた。
(じゃあ、俺もそうしてみようかな)
翠月をこっそりまねて、片手でおみくじを結ぶ。
「あとは甘酒と豚汁も頂いて‥‥」
ちょっと空の遠くを見やった。
「後で実家にでも顔を出そうか」
去年は全然帰れなかったし、と独りごちて、優司は柵から離れていった。
●
センティ・ヘヨカ(
jb2613)はギィ・ダインスレイフ(
jb2636)、紅 美夕(
jb2260)と三人で連れ立って広場を訪れた。
「御神籤を悪魔が引くっていうのもなんだか面白いね?」
「‥‥そういえば、二人とも悪魔だったんだっけ‥‥」
センティの言葉に、美夕は改めて二人を見た。一緒にいれば、空を飛びでもされない限り人間の自分とほとんど違いはない。
「おみくじ‥‥食えるのか?」
「食べ物じゃないよ、ギィ」
ただ、ギィは時々人間離れしたことを言うが。
「御神籤っていうのは‥‥」
センティが説明しようとするが、そのころにはギィは甘酒と豚汁の匂いにつられていた。
「って、すぐ何か食べに行こうとするんだから」
その様子に、美夕は口元を押さえて微笑んだ。
「ギィさん、御神籤は食べてからで大丈夫です」
「そうか‥‥おかわりしても、いいのか?」
「いいけど食べ過ぎないようにね」
半ば諦めたようなセンティの口調に、美夕はまた微笑むのだった。
「それじゃ御神籤引いちゃうぞー」
威勢よく腕まくりの仕草をして、センティがまず木箱を手に。
「48番!」
「ん‥‥じゃあ、俺もやってみる」続いてギィ。「20番‥‥だ」
「御神籤って、結果にどきどきしますよね」最後に美夕。「41番です」
それぞれ紙を受け取って、開く。
【吉】学業○ 恋愛○ 健康○ 金銭◎
・願い事は長い目で見る
「まずまず、かな」
センティはざっと結果を眺めてから、二人を見た。
「どんな結果だった?」
「私は、これです」
美夕が嬉しそうに紙を見せた。
【中吉】学業○ 恋愛◎ 健康◎ 金銭☆
・変わることはきっと良いこと
「いい結果だね。おめでとう、美夕」
「ありがとうございます」
「‥‥それで、ギィは?」
なにやら難しい顔をしているギィの紙をのぞき込んだ。
【凶】学業△ 恋愛△ 健康△ 金銭△
・美味しいものは値が張ることが多い
「‥‥センティ‥‥これはつまり、どういう意味だ?」
「あー‥‥ええっとギィ、これはね‥‥」
「‥‥そう、か」
説明されても、ギィは分かったのかどうなのか曖昧な返事をした。
「御神籤なんて何が出ても捉え方次第。悪い結果が出ても、それならそれで動きようがあるってことだし」
なんてこっちでの受け売りなんだけどね、とセンティは笑う。
「じゃあ、柵に結んでおこうか」
「結構、隙間がなくなってるね」
時間も過ぎてきたせいか、柵は結ばれたおみくじでだいぶ埋められてきていた。
ギィは自分の分をさっと結んだ後で、美夕を見た。
「上の方ならまだ空いてる」
言うなり手を伸ばす。
「‥‥えっ?」
次の瞬間、美夕はギィにお姫様抱っこされていた。
「遠慮なく結べ」
急に視界が空に向いた美夕は目を見開き、状況が分かるや顔を真っ赤にする。
「あ、あの‥‥あ、ありがとう、ございます‥‥」
ぎこちない手つきで、おみくじを結んだ。
「美夕、顔赤い‥‥風邪でも引いたのか?」
ギィは地面に下ろした美夕を心配そうに見ている。
「しかしギィって天然だよねぇ‥‥美夕も女の子なんだからそりゃ照れちゃうよ、ねぇ?」
「い、いえ、あの‥‥」
美夕は言葉少なに俯いている。
「一度女の子のエスコート、教えないと駄目かなぁ」
「‥‥?」
ギィは不思議そうな顔をしていた。
赤くなったのは何も照ればかりではない。美夕はそのことを伝えたかったが、うまく言葉が出てこなかった。
でも、彼らと共にいれば、いつか伝えられるようになるだろうか。
自分も少しずつ、変わっていければいい。今年がそんな年になれば素敵だな、と頬の熱を冷ましながら彼女は思うのだった。