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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:8人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2013/12/30


みんなの思い出



オープニング

「私を連れていってください」
 娘の口からその言葉が発せられた日のことを、小野八重子は今でもはっきり覚えている。

 薄ぼけた結界の中に閉じこめられ、閉塞と絶望と、近づく飢えへの恐怖におびえながらも、残されたものたち全員で、肩を寄せ合って生き続けていた。

 それを裏切るものが、まさか血を分けた娘であろうとは。


「椿、あんた‥‥」
 本気か、と目で問うと、椿は皺に埋もれた目を向けて、しかししっかりと頷きを返した。
「ほう」
 悪魔レガ(jz0135)は椿を見ると翼を広げ、ひと飛びで彼女のすぐそばに降り立つ。風が巻き起こると、椿はそれだけでよろめき倒れそうになった。
「あっ‥‥」
「顔を見せろ」
 レガは素早く椿の腰に手を回して抱え、彼女の目をのぞき込んだ。
「ふむ。少々光は弱いが、悪くない面構えだ」
「その子には娘も孫もいるんだ。馴れ馴れしく触るんじゃないよ!」
 八重子が険の強い声を出したが、レガは気にもとめない。
「私が求めているのは伴侶ではなく下僕だ。孫がいようと関係ないさ」
 興味津々といった体で目を大きく見開き、椿を遠慮なく眺め回す。
 椿はしばらくされるがままになっていたが、やがて言った。
「あなたの下僕となることを承知する代わりに、叶えていただきたいことが二つあります」
「なんだ? 言ってみろ」
 レガは一度椿から身を離し、彼女の要求を待つ。
「一つは、この地に食糧を。今のままでは残された人々は魂をとられる前に飢え死にしてしまいます。そうなればあなたもいいことは無いでしょう」
 それを聞くと、レガは鼻白んだ。
「ふむ‥‥自らを犠牲にして仲間の延命を計る、と?」
 どこか拍子抜け、期待はずれという空気を漂わせて次を問う。「二つ目は?」
 椿は息を整えるように一度、目を閉じた。

「私は、ずっと病に憑かれております」
「ほう?」
「子供の頃から‥‥ことあるごとに臥せっては母に迷惑をかけました。成人した頃には少し落ち着いて、子を為す幸運に恵まれましたが‥‥。その後も何かにつけては調子を崩し、入退院を繰り返し、外を歩くだけでも準備と覚悟が必要になる、そんな日々を過ごして参りました」
「椿‥‥」
 八重子は思わず娘の名を呼んだ。呼ばれた彼女はちらと視線をやっただけで言葉を続けた。
「このままここにいても、私は飢えることはないでしょう。そうなる前に魂がこの身から剥がれていくであろうことは自覚しています。‥‥ですが、私は」
「椿!」
「私は! 私は知りたいのです。病という霞に包まれていない世界の景色を。曇りの無い心で二本の足で立ったとき、私がなにを思うのかを!」
 八重子の叫びを消し去るように語気を強めた直後、椿は咳込んだ。ひゅうひゅうと音を立てて息を吸い、何とかそれを抑え込んだ椿は再びレガを見る。
「あなたが望みを叶えてくださるというのなら、私は下僕としてあなたに忠誠を誓いましょう」
 レガは聞き終えて、ニンマリと笑顔になった。
「身体は弱いが、精神は強いな。なるほど‥‥いいだろう。一緒に来たまえ」
「行かせないよ!」
 八重子はレガに飛びかかった。だが腕を払われただけであえなく吹き飛ばされ、部屋の柱にぶつけられる。
「親の庇護が必要な齢でもあるまい。一人の決断として尊重したまえよ」
「その子は分かってないだけだ‥‥悪魔に魂を売るってことがどんなことなのか!」
 そう叫び返したあとで、八重子は痛みに顔を歪めた。椿の身体がつとそちらへ流れようとする。
 だが次のレガの言葉に身を固くした。
「私の元へくれば、ヒトであった頃のつながりは絶たれることになる。それは理解しておいた方がいいな」
 レガは自分の顎をひとつ撫でた。
「未練を感じるならば、母上を助けてあげたまえ。私とともに来るというなら、後ろは見ずについてこい」
 そして自身はさっさと背を見せると、歩き去っていく。

 椿はほとんど、迷わなかった。
「お母さん、──」
 ありがとう、ごめんなさい、さようなら。

 様々な想いをない交ぜにした表情で一度だけ頭を下げる。
 そして背を見せたあとは、もう二度と振り返らなかった。



「おばあちゃん?」
 声をかけられて、八重子は自分が半ばまどろんでいたことを知った。
 窓越しに、穏やかな冬の日差しが降りかかっている。もうここは結界の中ではないことを、改めて思い出す。

 白い壁と天井に覆われたここは病室だった。八重子同様、伊勢崎市の結界に囚われていた人々のうち、衰弱などの症状が重いものたちは同じ病院に収容されている。
 八重子は救出されたもののうち、唯一の物理的な負傷者だった。それも、並の人間ならその場で死んでいたかもしれないと言われるほどの重傷。
 アウルの力を持つ彼女だから助かったとはいえ、傷は深く残った。右目は視力を失い、顔の右半分は今もガーゼと包帯が覆い隠している。身体の半分にはしびれが残り、今はベッドから自力で起きあがることも出来ない。
 今後いくらかましになる可能性はあるが、元通りに歩けるようになることはないだろう、というのが医者の診断だった。

「大丈夫? どこか痛むの?」
 心配そうな声が届くが、そちらを向くのも一苦労だ。声の主が孫の有香の声であることは分かっているが、これもリハビリ、と八重子はゆっくり首を回した。
「‥‥大丈夫。ちょっとお日様に当たってたらぼっとしちまっただけ‥‥」
「そうならいいけど‥‥」
 有香は八重子を見ると、小さくため息をついた。
「せめてその顔の包帯、早くとれるといいんだけど。子供たちも会いたがってるし」
「‥‥今のまま会ったら、かえって怖がらせちまいそうだね‥‥」
 有香の双子の息子たち、尚矢と勇矢はまだ一度も病室に連れてきていない。元気な「ばーちゃん」と今の姿はギャップが大きすぎてショックを与えかねないという判断からだった。

 八重子は窓の外を見る。
 そこはとても穏やかで、結界の中にいた長い時間が全て夢だったとすら思えた。
 しかし思うように動かない体がその思いを否定する。半分隠れた視界の先にその背が今もちらつくように思えて、八重子は歯がゆさを覚えた。

 窓の外から一羽のコウモリが、それを見ていた。


リプレイ本文

 依頼を終えた時入 雪人(jb5998)と安瀬地 治翠(jb5992) は、街中を並んで歩いていた。
「ハル、早く帰ろうよ」
「せっかくここまで来たのですから、少し歩きましょう」
 拗ねた顔で治翠の袖をぐいぐいと引っ張る雪人。だが治翠もここは譲らない。
(当主の引き篭り脱却の為もありますしね)

「やっぱり、怒られるかなあ」「かなあ」
 病院の前で、同じような背格好の子供が二人。
「撃退士の兄ちゃんたちに、お願いすれば良かったかな」
「でも、『イライ』はお金がいるんだよね」
 なにやらこちらに関わることか、と雪人は子供たちに近づく。
「君たち、どうしたんですか?」
 同じ顔立ちの彼らが、振り返った。



「こっちもどうやら激戦だったみたいですね‥‥頭さえ潰せれば終わり‥‥というわけにはいきそうもナイか」
 天羽 伊都(jb2199)は病院内を歩いてそんな感想を口にした。

 群馬のその後を知ろうとここへきた伊都は、持ち前の性分で入院患者を手助けしたりするうちに、伊勢崎市を支配していたという悪魔の名を聞いたのだった。
「とはいえゲートは既に放棄済み‥‥今は何処にいるのやら」

 慌ただしい病院の空気を少しでも和ませようと、伊都は患者たちと積極的に交流を図っていた。
「おや、あれは‥‥」
 中庭の方にやって来ると、ふと見覚えのある姿に気づく。
 赤い髪の小柄な少年、エイルズレトラ マステリオ(ja2224)がなにやら子供たちを集めていた。


「よく見ていてくださいね」
 エイルズレトラはコインが子供たちの目によく止まるよう、ゆっくりと彼らの前で手のひらをスライドさせる。
 それからさっと手を振ると、次の瞬間手のひらのコインはいずこへと。
 子供たちがわっと歓声を上げた。その様子に、彼も満足そうに微笑む。
 伊都が中庭に降りてきたのは、そんな時だった。
「‥‥入院してるんですか?」
「いえいえ、今日はマジシャンとして慰問に来たんですよ‥‥怪我もしてますけどね」
 取り出したカードを片手間にきりながら、エイルズレトラは答えた。
「最近、戦闘ばかりで殺伐としてますからねえ。たまには、お客さんの笑顔で潤いを補給しないと、ねえ」
 子供たちは目を輝かせている。
「よかったら、手伝いましょうか?」
「そうですねえ‥‥人も集まってきましたし、もう少し派手なものも披露しましょうか」
 伊都の申し出に中庭をぐるりと見渡すと、一つうなずいた。


 ラファル A ユーティライネン(jb4620)は、前日からこの病院で過ごしていた。依頼で負傷して急患として運ばれてきたからである。
 外見から重傷と判断され、当座の施設としてここへ運ばれたのだが、その実深刻な症状はなかったので、今日にも退院できることになっている。
 そんな彼女は、病院の廊下を車椅子で進んでいた。付き添いはおらず、自分で車輪を回している。腰から下は毛布が掛けられていた。
「よっ、と」
 部屋の前で身体を伸ばして、引き戸を開く。がらがらと音が鳴って、中のものが顔を向けた。
「おかえり」
 奥のベッドに寝そべった老婆、小野八重子から声がかかった。
「中庭で、何か面白そうなことをやってたぜ。見にいってみたらどうだ?」
 ラファルはそう言ったが、八重子はゆるゆると首を振った。
「今は正直、体を起こすのも億劫でねえ‥‥」
「リハビリするなら付き合うぜ?」
「リハビリをしても、どこまで良くなるのやら」
 八重子は嘆息した。
「再起不能、なんだっけ。見た目だったら、俺の方がひどいのにな」
 そう言って、ラファルは毛布をたたく。毛布はなんの抵抗もなくへこんだ。
 彼女の四肢はすべて義手・義足であり、損傷した両足は今取り外されていた。毛布は周りを驚かせないようにかけているだけで、その下にあるはずの彼女の肉体はどこにもない。
「それでも、俺は撃退士をやってる」
「斬られ所が悪かったんだろうね、アタシは」
 八重子の顔半分が悔しげに歪むのが見えた。

「俺は、育ちはこの辺なんだ」
 生まれは北欧なんだけどな、とラファル。
「だから、奪還作戦にも参加したかったんだけどさ。主戦にはほとんど関われなくて、やっと参加できたと思ったら序盤で戦線離脱して終わり、さ」
「でも、戦ってくれたんだろう。ありがとうよ」
 自嘲気味にいうラファルに、八重子は笑いかけた。

 そこへ、コンコン、とノックの音が声を遮る。

 扉が開かれると、佐藤 七佳(ja0030)が籠盛りのフルーツを手にそこに立っていた。

 七佳は一礼し、ゆっくりと病室に入る。
 傷の具合はどうですか──問うまでもなく、包帯に覆われた八重子の有様は一目瞭然だった。
「あんたは、元気になったんだね」
 逆に声をかけられて、頷く。
 あの日、同じ場所で同じ相手──小野椿(jz0221)に斬られた二人は、そのやりとりで当時の記憶を思い返す。
「何も、できなかったねえ‥‥」
 八重子はそう言ったが、それは七佳の感想とは少し違っていた。椿の動きは人間の常識は超えていたが、多くの天魔とやり合った七佳からすれば、飛び抜けているものではなかった。おそらく、ヴァニタスとしても個人の能力は高いものではないだろう。
 その一方で、回復や防御の能力を持ち、引き連れていたディアボロを統率するような様子もあった。
 やはり、支援型ということなのだろう。
 気後れがあったということもあるまい。それは、八重子の顔の傷が示している。
 度重なる攻撃を受けて動きを鈍くした七佳を助けるように前へ出た八重子に、椿はためらうことなく刃を振り下ろしたのだから。



「おばあさんが入院してるんですか」
「ばーちゃんな!」
 右手にナオ、左手にユウ。病院の白い通路を、雪人は両手を子供に引かれるようにして歩いている。
 その少し後ろを、治翠がついて歩いていた。
(なんだか、思い出しますね)
 自分が幼い頃、さらに幼い雪人の手を引いて歩いた風景がぼんやり浮かぶ。
「母さん、イジワルなんだよ」「まだ会っちゃダメっていうんだ」
「だからって、さすがに君たちの年じゃ勝手に動き回るのはまずいですよ」
 雪人が言っても、子供たちは悪びれない。
「うん、だからな?」「兄ちゃんたちがいれば怒られないよな!」
 そう言われては、こちらは苦笑するしかなかった。

 見知らぬ大人に頼むほど、家族を大事にしている──それは良いことだと、治翠は思う。
(私には、どこか遠い存在ですが)
 だが今、子供たちのストレートな想いと、それに応えようとする雪人の姿を見て、彼自身も暖かいものを感じていた。


 病室に近づくと、金髪の少年が扉に手をかけようとしているところだった。
「あっ!」「エリアスだ!」
 彼らは雪人から手を離すと駆け寄っていく。
「やあ、君たち」
 エリアス・ロプコヴィッツ(ja8792)は振り返った。
「エリアス兄ちゃんも、ばーちゃんに会いに来たのか?」
「そう、お見舞いにね」
 双子は気づかないが、彼の表情は普段と比べるとほんの少しだけ、固い。
「ヤエコが怪我をしたのは、僕の責任も大きい。だから、これは義務なのさ」
「‥‥?」
 その意味が分からず、双子は首を傾げた。


「失礼します」
「ばーちゃ‥‥」
 扉を開いたのは雪人。双子は中に飛び込もうとして。
 包帯に覆われた八重子の有様に、足を止めた。
 八重子は片目を見開いて双子を見ている。固まりかけた空気を解いたのは、治翠の一言。
「お祖母さんが頑張ってる証拠が見えますね」
 双子の頭の上に手を置くと、子供らは彼を見上げた。治翠は力強く頷く。
 二人がおずおずと近づくと、八重子はゆっくりと微笑んだ。
「‥‥大きくなったねえ」
「「ばーちゃん!」」
 くびきが外れたように、双子は八重子の胸に飛び込んでいった。


 老婆は子供たちを大儀そうに受け止めている。その様子を、エリアスは険しく見つめていた。
 今の彼女は、双子から聞いていた八重子像とはあまりにも違う。顔の包帯は言わずもがなだ。
「‥‥僕はツバキを甘く見る向きがあったかも知れない」
 普段の彼は、一般人の被害に気を止めたりはしない。戦場で多少の犠牲はつきものだ。
 だが椿に関しては──双子の手前口には出さないが──彼自身がそうし向けた部分があることを、エリアスは自覚していた。
 八重子の有様はその結果だと、彼には感じられたのだ。
「彼女は紛うこと無きヴァニタス、悪魔の眷属。放置すればこうして被害が増す」
 八重子が表情を引き締め、双子は戸惑うようにエリアスを見た。
「ハル」
「少し、外へ出ていましょうか」
 流れを敏感に察した雪人が治翠を呼んだ。治翠は双子を促し、彼らと病室を出ていった。

「もし良かったら、話していただけますか。ヴァニタスになったという、その人のこと」
「ありがとね。あの子らがいると、話せないからね‥‥」
 八重子は訥々と、語り始めた。



 八重子が語り終えた後、最初に口を開いたのは、七佳だった。
「私は、天魔の眷属となる事、それ自体を『悪』とは思いません。
 あの人の望みは『生きる』という、生命としてごく単純なもの。そのための手段として、ヴァニタスという道を選択した」
 八重子は面食らったような顔をしている。
「私はずっと、本当の正義とは何か、その答えを探していました」
 椿にも尋ねたことがある、と七佳は言った。
「立場や人によって変わる正義は独善でしかない‥‥けれど、共通していることがあるとすれば、それは『己を存続させる』ということ」
 八重子の話で、七佳は最後の確信を得たのかも知れない。その声は毅然と張っていた。
「本当の正義とは、生きることを諦めないことだと思います」
 己が生き延びる為に生命を奪う──その行為は悪であり、同時に正義でもある。矛盾していても、それが彼女の得た結論だった。

「人類からすれば、ツバキは間違いなく悪。容赦なく排除すべき敵、ということだね」
 エリアスは七佳の言葉を受けて言った。
「願望の追及には必ず相応の代償が付き纏う‥‥魔術師として、僕はよく心得ている」
 その代償を支払うべき時が来たのだ。
「あの二人にも、よく言っておくべきです。お婆様‥‥ツバキは最早、人ではない。近づいてはならないと」

「俺はまだその人と会ったこともないし、その場に居たわけでもない。だから、その人を批難する事も賞賛することもできません」
 そう断ってから、雪人はでも、確かなことはある、と言った。
「護りたかったんだろうな、と思います。自分の母と、周りのみんなを」
 椿自身がそれをきれいごとだと言ったことを、彼は知らない。だが知っていても、そう思ったかも知れない。
(宗主として、ハルの友人として。一人のヒトとして)
 誰かを護る側に行きたい、それは彼自身の願いでもあるからだ。

 扉が開いて、治翠と双子が戻ってきた。
「あんたたちに、お願いだ。椿のこと」
 八重子は撃退士たちを見回した。
「本当は、アタシがやるべきだった‥‥でも、もう無理みたいだからね」
 動かない右手に視線を落とし、声を震わせた。

「兄ちゃんたち!」
 双子が雪人と治翠を呼び止める。
「今日は、ありがとな」「これ、『イライリョー』ね!」
 それぞれの手に、一枚の硬貨が押しつけられた。
「え、でも‥‥」
「貰っておきましょう、雪人さん」
 これは彼らなりの誠意なのだから、と治翠は硬貨を手に微笑んだ。



 病院のロビーから、エイルズレトラと伊都がとぼとぼと出てきた。
「怒られましたね‥‥」
「さすがに、火を噴くのはやりすぎ‥‥というか、無許可だったとは思いませんでしたよ」
「まあ、お客さんは喜んでくれてましたから、良しとしますか──ん?」
 気を取り直そうと顔を上げたエイルズレトラの目に、見覚えのある男女の姿が飛び込んできた。


「こんな場合、奇遇とでも言えば良いのでしょうか」
 マキナ・ベルヴェルク(ja0067)は思いも寄らない相手に驚きは感じつつも、いつものように淡々としていた。
「確かに、奇遇だな」
 対して赤銅色の中年男──レガ(jz0135)もまた、いつものように不敵に笑って答えた。
「こんにちは。先日はお世話になりました。お見舞いですか?」
 そこへ、エイルズレトラ達がやってきた。伊都は興味深そうにレガを眺めている。
「ほう。撃退士が三人になったな」
 レガは軽く構えて見せた。「なんなら、一戦交えるか?」
「おっと、病院で荒事はマナー違反ですよ。それに僕は怪我人です」
 そう言って赤毛の少年は右手を振った。途端にその手に現れたトランプを一枚、差し出す。
「僕はエイルズレトラ・マステリオです。奇術で戦う撃退士、奇術士エイルズとお呼びください」
「覚えているぞ」
 レガの眼光が鋭くなった。

「‥‥勘違いしているかも知れませんが、私は別に殺し合いたい訳ではありません」
 拳を下ろしたレガに、マキナが言う。
「私が求めているのは『終焉』のみです。血に塗れた戦場を終わらせたい──それだけです」
「終焉‥‥だと?」
「どちらかが全滅するまでの殲滅戦など、最も忌むべき物です。何も残らないのですから」
「そんなことはない。勝者が残るではないか」
「‥‥命だけが残ったところで、価値はありません」
 マキナの言葉に、レガは鼻を鳴らした。どこか楽しげに。
「私と君は、敵対するに十分な理由があるな。私も戦いのみを楽しむわけではないが、終焉だの安息だの、そういった物は我慢ならん」
「貴方は親玉が潰されて形勢はこれから不利になっていく状況にあるのになぜこの地を去ろうとしないんです?」
 代わって伊都がレガに声をかけた。
「アバドン様のことか。私も驚いたよ。まさか人間にこれほどの力があるとはね」
 そう言いながらも、レガは不遜な態度を崩さない。
「君は目の前にごちそうを出されたら、それだけで満腹になって帰るのかね?」
「僕たちがごちそう、だと?」
「或いは、食われるのは私の方かも知れないがね。それを測るのも、また楽しいではないか」

「あーっ、レガ?」
 道の向こうから声をかけられた。エリアス達だ。
「こんな所うろついてていーの?」
「どこを歩くのも私の自由、と言いたいところだが、あまり目立つのは考え物だな」
 レガは一歩引いた。ここを去るつもりなのだ。
「見てないところで狩られたりしないでよね」
 約束は守ってくれなきゃ、とエリアス。

「それではまた、いずれ戦場で」
「戦場で再会した暁には、存分に楽しみましょう。次は、一発くらい当ててくださいね?」
「その言葉、覚えておくことだ。奇術士め」
 レガはエイルズレトラに向けて人差し指を突き立てた。
 治翠や、その後ろから覗き込むような雪人にも見送られ、赤銅の悪魔は悠々と歩いて去った。



「よし、問題ないな」
 義足を元通り戻したラファルは調子を確認するように軽く屈伸する。
「その体で、また戦うのかい?」
 様子を見ていた八重子が聞いた。
「ああ。戦える限りは」
 ラファルは答え、すっかり元通りになった体で八重子に手を振る。
「じゃーなー」

 そして、病院を後にした。


依頼結果

依頼成功度:普通
MVP: −
重体: −
面白かった!:3人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
撃退士・
マキナ・ベルヴェルク(ja0067)

卒業 女 阿修羅
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
新世界への扉・
エリアス・ロプコヴィッツ(ja8792)

大学部1年194組 男 ダアト
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
ペンギン帽子の・
ラファル A ユーティライネン(jb4620)

卒業 女 鬼道忍軍
花咲ませし翠・
安瀬地 治翠(jb5992)

大学部7年183組 男 アカシックレコーダー:タイプA
撃退士・
時入 雪人(jb5998)

大学部4年50組 男 アカシックレコーダー:タイプB