●VS天使軍五十万
おあつらえむきに配された高台の上で、首元の赤いマフラーが風に乗ってたなびいている。
鋭く広い刃を持つ銃剣──バヨネッタをその手に、ギィネシアヌ(
ja5565)が見下ろしていた。
「撃鉄を起こせ、贋作者(フェイカー)祖は蛇の王、我はそれに準ずるもの」
言葉とともに真紅の光があふれる。光の一部は鋭角にとがったサングラスとなり、残りは四対八匹の紅の蛇となってバヨネッタの銃身に妖しく巻き付いた。
光纏を終えたギィネシアヌの、口角に刻まれた笑みが深くなる。
「贋物なら贋物らしく、派手にいくぜぇ!!」
ショータイムの始まりだ。
バヨネッタが火を噴くと、天使たちが数体まとめて吹き飛ぶ。背後から襲いくる天使の一撃も表情ひとつ変えることなく躱し、銃剣の剣先で斬りふせた。
彼女が剣先を振るうたび、ノズルから光がほとばしるたび、いくつもの赤い華が散らされる。
トレンチコートの裾をドレスのように翻し、ターン、ステップ、ターン。天使たちを死へと誘うダンスを踊る。愉悦の声と表情に、彼らは恐怖の感情を知った。
なおも殺到する天使たち。観客は大入り、満員御礼だ。
ギィネシアヌは笑みをそのままに、動きを止めた。銃口を正面に向けて、言い放つ。
「食事の時間だ。出やがれヒュドラ」
銃口から真紅の光があふれる──彼女の直近に迫っていた天使には、それしか分からなかっただろう。光は八岐大蛇となり、八つのアギトが群がる天使どもを平らげていく。
天使たちの阿鼻叫喚の歓声がショーを彩った。
紫藤 真奈(
ja0598)の目前にも、天使の大軍が迫る。
「一騎当千では到底足りませんが、──充分です」
彼女に恐怖の感情は一切なかった。
「だって私、すごい撃退士ですから」
彼女はどこまでも冷静だった。
「私の刀で全てを斬り伏せます」
真奈の刀は雷すら斬るといわれる希代の名刀。だがその鞘は女子高生の携帯よろしくデコレーションされている。デコ電ならぬデコ鞘だった。
「いきます」
刀を抜き、静かに告げる。
ボスへの最短距離、すなわち直進。彼女の前に道はなく、彼女の後に道はできる。天使の死体で舗装された道が、一直線に。
真奈が跳んだ。その高度は跳躍というよりもはや飛翔。そのくーるびゅーてぃーっぷりに天使たちは思わず見惚れた。
そんな天使たちに向けて、真奈は刀を一振り。
飛び出した強烈な衝撃派が天使軍をがーっと二つに割っていった。
「この程度の敵なら、どんなに数が多くても全く問題にならないね」
ソフィア・ヴァレッティ(
ja1133)は悠々と進撃していく。
軍勢に囲まれている撃退士を見るや、太陽の如く輝く光球をその中に放り込む。光球は大爆発を起こすが、アウルの光はただしく天使たちのみを選んで焼き、撃退士は傷一つ負わない。
天魔たちがこちらに迫ってくる。ソフィアは嫣然と微笑むと、天に向かって右手をあげた。
彼女の周囲に無数の魔力の粒が生まれ、輝く花吹雪となって天使を切り刻んだ。
暗雲たれこむ久遠ヶ原で、彼女の周囲は常に輝きに包まれている。
その姿は撃退士を勝利に導く太陽のように見えたのだった。
黒百合(
ja0422)は天使軍のただなかで、得物のハルバードを思うがままに振り回していた。
襲いくる天使の一撃を躱し、ハルバードを突き刺す。そこに灼熱の術を乗せ、天使の体を内側から焼いた。
「五臓を燃やし、六腑を焦がすぅ‥‥素敵な初体験が出来て良かったわねぇ♪」
ハルバードで殺戮し、灼熱の術で焼き殺す。彼女の周囲にはすでに、天使たちの死体が累々と横たわっていた。
「あははははぁ‥‥そろそろ十分かしらねぇ‥‥」
笑顔に潜むものは狂気。
黒百合は足下の死体を見下ろすと、氷の声でつぶやいた。
「飢えろ」
彼らに安らかな眠りなど許されない。
強引に目覚めを呼び起こされ、重なり倒れていた天使の死体が立ち上がる。再び開かれたその目にしかし理性はない。
人間や天魔の死骸を餓鬼として蘇らせる暗黒の奥義「死灰復然」。彼らはもはや黒百合の言葉のみに耳を傾ける存在だ。残る感覚は渇きと飢えのみ。
「さぁ諸君、地獄を作るわよぉ‥‥♪」
天使同士の共食いが始まる。
●VS悪魔軍五十万
「きゃあああっ!」
戦う術を失った女撃退士に、鬼畜悪魔が襲いかかる!
だが気づいたときには優しく力強い男の腕のその中だった。
「大丈夫か?」
男が安心させるように微笑む。
「は、はい‥‥!」
その仕草はクールなイケメンそのもの、高城 カエデ(
ja0438)は見事一発で女の子のハートを鷲掴み成功。
しかしご褒美タイムはまた後で。瞳がハートな女性を逃がし、カエデは悪魔たちに向き直る。
そして、腰からふた振りの大太刀を抜きはなった。
「この神の刃を恐れないなら存分にかかって来な‥‥?」
彼の右手には「天剣ムラクモ」、左手には「地剣クサナギ」。
神剣より分かたれしニ刀が、悪魔たちを威圧し、同時に挑発する。
何体かの悪魔が、耐えきれないとばかりに飛び出したのを端緒として、無数の悪魔が堰を切ったようにカエデへと襲いかかった。
それらを苦もなく撫で斬りにしながら、視線を先へと飛ばす。カエデはまだ遠く先の存在へと剣先を突きつけた。
「はっは、雑魚が幾ら来ても俺は殺れねぇぜ! 高みの見物をしてないでかかって来いよ!」
悪魔のボスに向かってカエデは駆けだしてゆく。
天と地の神剣が止められる通りなどあるはずもない。立ちふさがる敵は、全て刀の錆となった。
悪魔の軍勢に対し抵抗を続ける撃退士の一群。
その中に、鴉守 凛(
ja5462)の姿もあった。
儚げな外見に似合わぬ大剣を力任せに振り回し悪魔と渡り合ってはいるものの、反撃を受けることもしばしばだ。
しかしその身に傷を受ける度、彼女の光纏の光は輝きを増してゆく。
大剣の取り回しは苛烈になり、一撃一撃も重くなっていった。
身体のあちこちから鮮血を流しているにも関わらず、凛はいつしか笑みを浮かべている。
平時は内向的な彼女にとって、戦いの場こそ存分に意志をぶつけ合える場所なのだ。
たとえその意志が殺意であったとしても。
凛が大剣を振りおろす。強力な衝撃波が生まれ、悪魔を、いやそればかりか彼女の周りにいた撃退士までまとめて吹き飛ばした。
「ふふ‥‥うふふふ‥‥」
だが凛はまるで気にせず再び大剣を振りかぶる。
強大な力は戦いに溺れた彼女に制御しきれるものではなく、すでに彼女は迫りくるものを無差別に叩き斬る狂戦士となっていたのだった。
「また性懲りもなくやってきたわね」
郭津城 紅桜(
ja4402)は群がる悪魔軍を一瞥すると、伊達眼鏡に手をやった。
「望むところですわ。わたくしの力、存分に発揮するですわよ」
伊達眼鏡を外し、高らかに声を上げる。
「雷精よ我に速さを。炎精よ我に威力を。双精よ我に全てを‥‥この身に宿れ!」
光の中で彼女の衣服が消失し、ボディーラインが露わにされる。見えそで見えない絶妙なサービスタイムが終わると、彼女は新たな衣装に包まれていた。
「魔法少女クオレンヌ参☆上!」
愛らしい姿となった紅桜‥‥クオレンヌがポーズを決めた。
「その身長で魔法少女は無理があるんじゃ‥‥」
「あら、なんのことでしょうか☆」
「げっはぁ!」
たまたま近くにいた撃退士のツッコミはマジックステッキで可憐に黙殺☆された。
雲海のごとく視界を埋め尽くす悪魔たちに向け、クオレンヌはステッキを突きつける。
「雷精よ‥‥遮るものを吹っ飛ばせ! レイジング☆レーザー!」
魔法の言葉とともに、ステッキの先端から極太の雷がほとばしり、一直線に地面をえぐりながら、悪魔どもを呑み込んでいく。
あまりの威力に、喰らった悪魔は吹っ飛ぶどころではない。受けたそばから焼き尽くされていく。
「炎精よ‥‥来るものを跳ね返せ、エンチェルト☆フレイ!」
今度は特大の火球がステッキから飛び、着弾点で大爆発。喰らった悪魔はやはり跳ね返すもなにもなく、亡骸も残らぬほどに焼き尽くされた。
この魔法少女、ハイスペックなのは身長だけではないのだ。
「なにかいいました?」
‥‥なんでもないです。
三船 甲斐(
ja7661)に、圧倒的なパワーやスピードはない。一撃で戦況を覆すような、特別な武器も魔法もない。
彼女は一言でいえば、タダの撃退士である。
だが、群がる悪魔の軍勢に、彼女はただ一人で渡り合えていた。
「なぜだ!? なぜ捉えられん!」
甲斐が押しとどめる一軍を指揮する中ボス悪魔は歯がみする。
理由は甲斐の立ち回りにあった。彼女は常に動き回り、敵に的を絞らせない。一撃を放てばすぐに移動し、次のポイントへ。
傍目には多対一の状況であってもその実、常に一対一の状況を作り出しているのだ。
説明するのは簡単でも、実践するのは並大抵のことではない。彼女の鍛え上げられた技術と戦闘理論があって初めて成立する戦法である。
「くそっ、──!」
わめき散らす中ボスだったが、悪寒を感じて言葉を止める。
「ばかな──」
気がつけば、そこに甲斐がいた。
構えた銃口が中ボスを捉える。
「なぜだ!?」
中ボスが叫んだ。
「怒りを憤る事莫れ。悲しみを哀しむ事莫れ。恐れを事莫れ」
甲斐の言葉は、中ボスへの答えだったのか。
引鉄が引かれ、中ボスは斃れた。
直後、甲斐はまた別の敵へ照準を定めている。一対一の戦いを百万回繰り返す、その覚悟で。
●
多勢の悪魔に囲まれて、凛が大剣を振るっている。
いつしか彼女の周りに味方は一人もいなくなっていたが、気にもならない。
ただ戦いのみが、彼女の至福。
彼女のアウルはとどまるところを知らず、今や一振りごとに千の単位で悪魔が消し飛ぶ。
手中の大剣も実は、ただの大剣ではない。その名は「Obliterate」。
最大まで溜め込んだアウルを解放すればこの世界全てをObliterate(抹消)せしめる唯一無二の魔法剣であった。
「受け止めて‥‥私の想い‥‥」
魔法剣が輝きをひときわ強くする。全てを消し去る想いを込めて、凛が剣を振りあげたそのとき。
「僕と、一緒に来てくれないか」
眼前で一人の悪魔が、凛へ呼びかけた。
りりしい眼差しで凛を見据える彼の言葉は、何の脈絡もないように聞こえる。
だが、そうではなかった。
「わ、私で‥‥良いんですか‥‥」
それこそが、彼女がもっともほしがっていた言葉、想いだったのだから。
「君がいいんだ」
凛から唐突に狂気が失せ、剣がおろされた。互いの手が伸ばされる。
そしてその手が絡み合った瞬間、凛の視界は朱に染まった。
制御を失った「Obliterate」の力が暴走し、彼女をその手の先の悪魔ごと引き裂いたのだ。
悪魔と重なり合うように倒れながら、凛は微笑む。その瞳には恐怖も、後悔もない。
新世界への旅路は、彼と一緒なのだから──。
●そしてボス戦へ
群がる雑魚を蹴ちらして、最初に悪魔のボスの元へたどり着いたのは、魔法少女クオレンヌこと紅桜だった。
「あら、一番乗りですわね。──わっと」
「けけーっ!」
そこへ、悪魔のボスが急接近。格闘戦を仕掛ける。
大規模破壊が得意な魔法少女だけに、接近戦は弱点──かと思いきや、マジックステッキで器用に応戦している。だが距離を詰められているため、大技が使えない。
そこへ、カエデが颯爽と現れる。大太刀をナイフのように軽々扱い、ボスへと斬り結んだ。
ボスに向かって流れるような連続攻撃をたたき込んだところへ、距離をとった紅桜が雷の魔法をとばす。
すんでのところでそれを避け距離をとろうとするボス。そこへ一発の弾丸が飛来した。
タダの撃退士の、タダの銃撃。
甲斐の放ったその一撃が、ボスの動きを止めた。致命傷ではない、しかし決定的な隙。
「これで終わり! ラストレイン☆」
紅桜の声にステッキの☆が輝き、ボスの頭上から雷と火球の雨が降り注いだ。いかに俊敏なボスといえども、広範囲を埋め尽くす攻撃を躱すすべなどなかった。
破壊の雨が止むと、すでにボスは虫の息。
と見せかけて、一目散に逃げ出した。
不意をついた行動で素早く学園から離れようとする。だが。
「俺から‥‥鬼道忍軍から逃げられると思ったか?」
いつの間にか、カエデがすぐ後ろに迫っていた。ボスはさらに速度を上げるが、カエデは苦もなくその差を詰める。
「この俺が『最速』だ‥‥!」
神剣によって貫かれ、悪魔は断末魔の叫び声をあげたのだった。
天使のボスに真っ先に対峙したのは、ギィネシアヌ。
「よぉ、あんたがここの頭かい」
サングラス越しにボスを睨めつける。
「美味そうな匂いがするな‥‥ああ、失敬いやなに俺の言葉じゃない。‥‥蛇が、俺にそう囁くのさ」
八匹の蛇が怪しくうごめく銃口を突きつけ、不敵に笑った。
「さぁ血が滾る様な熱い熱いダンスをしようぜ」
蛇が咆哮し、銃剣が火を噴く。
天使のボスは障壁を張って彼女の一撃を防ぐ。距離を詰めようとすると、背中の翼から無数の羽がミサイルのように彼女めがけて降り注いだ。
「ちっ」
ギィネシアヌは舌打ちしてミサイルを躱す。
「近づけさせたくないの? 残念だったね、遠距離戦はこっちの土俵でもあるんだよ」
彼女の背後に姿を現したのはソフィアだ。
自らを守る障壁を張りつつ、ボスへ向けて魔力弾を連射。ボスも応戦するが、ソフィアが少しずつ押していく。
そこへ真奈が飛び込んできた。ボスは彼女に向けても光弾を放ったが、一発だけだ。真奈は刀身でそれをはじくと、ボスを間合いに捉えた。
直後の攻撃をボスはかろうじて回避したが、その隙にギィネシアヌも間合いを詰めてくる。三人の波状攻撃に、ボスは瞬く間に追いつめられていく。
「‥‥ふははは、また会おう!」
不利を悟るや、ボスは翼をはためかせ、上空へ逃亡を図った。
ソフィアが魔法弾を連射するが、ボスはそれを避けさらに距離を稼ぐ。
「ふははは‥‥は?」
なんと真奈が跳躍で追いすがってきた。
ボスが進路を変えると、真奈は空中で二段ジャンプ(原理不明)。
呆気にとられたボスに追いつくと、刀を一閃させた。
真奈は超高度から落下したが、何事もなかったかのように着地。
「帰りますか」
刀を納め、平然と言う。
そんな彼女の背後に、首から上を失ったボスがドサリと落ちてきた。
「地獄の川よぉ‥‥死者も生者も、皆々ぁ‥‥死んでしまえばいいのよぉ‥‥あははははぁ‥‥♪」
そのころ、わずかに残った雑魚天魔も黒百合の「死灰復然」によって餓鬼とされたあげく、彼女の灼熱によって燃やされていた。
山と積みあがった天魔の死骸は半年にわたって燃え続けていたという──。
こうして天使と悪魔の軍勢は残らず斃され、天魔は絶滅しました。
世界に平和が訪れた!(パパラパー)
めでたし、めでたし。