「特訓? 参加する!」
話を伝え聞いた礼野 智美(
ja3600)は一も二もなくそう答えたという。
「雪合戦? うん、本来の基本能力把握しておくのも重要だしな」
●
「うわ〜! こない大雪、僕初めてやわ〜!」
夜爪 朗(
jb0697)は感嘆する。見慣れたはずの学園の景色が一変し、歩くだけでも一苦労‥‥だが、それが楽しい。
「久遠ヶ原って、雪の降り方まで大規模なんやな〜!」
雪掻きされているところもあるが、わざわざ脇へそれて足跡を作ってみたり。
「ふわぁぁーすごい銀世界ですぅ〜あたり一面銀世界ですぅ〜」
満穂 聖子(
jb2589)も興奮した様子で雪の平原をくるくる駆ける。
‥‥あ、こけた。
「絶好の雪合戦日和だよ!」
下妻ユーカリ(
ja0593)は積もった雪を見回して、にっこり。
「もちろんやるからには負ける戦はしないっ。覚悟しておいてねー」
そう言うと朗を追い抜いて、職員らの集まっているところへ走っていく。
「ふふ‥‥みんなはしゃいでるわね」
そんな彼らの様子を見て、フィン・スターニス(
ja9308) もにこにこと微笑んでいた。
「参加希望者はこれで全員かしら?」
いつもの事務服ではなく、上下ジャージに身を包んだ潮崎 紘乃(jz0117)が集まった面々を見渡した。
「むぅ‥‥さ、寒いぞ‥‥」
チーム分けに周りが動く中、鬼無里 鴉鳥(
ja7179)はマフラーに顔を埋めてぶるぶる震えていた。
「此度は合戦よりも裏方に回るとするか‥‥」
「あ、鴉鳥さんっ! 鴉鳥さんも雪合戦ですか?」
もそもそ歩きだそうとした彼女をアステリア・ヴェルトール(
jb3216)が見つけた。
「おや、リア殿。ん、いや私は裏方にでも──」
「え、そうなんですか?」
鴉鳥の返事を聞いたアステリアは、んーと思案顔をした後で。
「折角なのですから楽しみましょうよっ!」
「ん? おお?」
笑顔で鴉鳥の腕をとると、「Aチームはこっちよー」と声がかかる方へ引っ張っていったのだった。
「ギィと敵同士になっちゃったかー‥‥」
青い瞳をしばたたかせ、センティ・ヘヨカ(
jb2613)はちょっとだけ残念そうに。一緒に来たギィ・ダインスレイフ(
jb2636)は人数調整の末別チームに。
そのギィはなにやら深刻な顔つきだ。
「‥‥戦いとは無情だな‥‥」
「?」
しばし下を向く。首を傾げるセンティに、やがて決意の表情で向き直る。
「だが、やる以上手心を加えるは非礼。センティ、お前も遠慮せずかかってくるといい」
「うん、敵になっちゃったからには手加減はなしだからね♪」
悲壮な覚悟を固めたギィであったが、どうやら彼は雪「合戦」と聞いて何か勘違いしていたらしく、あとでルールを聞いて脱力したという。
「うふふ、可愛い雪玉さんができました〜」
裏方になった聖子がせっせと作っているのは耳と手足のついた人形の雪玉。
「可愛いけど‥‥それ、投げるの?」
見ていた紘乃が思わずツッコむ。
「えと、こうやってちっちゃなお椀に雪を入れてポンって合わせれば‥‥」
白鳳院 珠琴(
jb4033)は両手に持ったお椀を胸の前で合体させる。
「ほら、出来上がり♪」
いい具合に丸形のきれいな雪玉が姿を現した。
「どんどん量産するんだよ♪♪」
「はぅはぅ‥‥いっぱい、いっぱい作るんだからねっ(*´Д`)」
一心不乱に雪玉を量産しているのはエルレーン・バルハザード(
ja0889)。
おにぎりを作る要領で、せっせせっせと雪玉を握る。運搬用の手押し車を用意して、できたらそこへ積み上げていく。
傍らの袋へときどき手を突っ込んでいるのが気になって、紘乃が中を覗いてみると‥‥。
鮭やら昆布やら、おにぎりの具が用意されていた。あと、石。
「みんなびっくりすればいいのっ(*´Д`)」
どうも、「当たり」的に具を混ぜ込んでいるらしかった。
「‥‥石はやめてね。私、死んじゃうから」
紘乃はちょっと涙目でエルレーンにお願いしていた。
「雪玉の準備も十分だな」
フィールドに石などが落ちていないか見回っていた獅堂 武(
jb0906)が戻ってきた。雪玉は各チームでも準備しているようだ。
「よし、それじゃあ始めるぞ! 全員用意はいいか?」
参加メンバーがそれぞれ自陣の中で配置についたのを確認して、武は声を張り上げる。
「第1ラウンド、スタート!」
合戦の幕開けを知らせる法螺貝の音が響き、戦いの火蓋が切って落とされた。
●
「とつげ〜き♪」
開幕と同時に勢いよく敵陣に飛び込んでいったのはチームAの雀原 麦子(
ja1553)。開戦の合図を法螺貝にしようといったのも彼女である。
「合戦ならば、当然大将首ねらいよね」
このルールでの大将とはすなわち、敵陣中央と最奥に設置された高得点の旗である。
「早速来たね。迎撃するよ」
最前線のバリケードからチームB、高峰 彩香(
ja5000)が号令をかけ、麦子に集中攻撃を仕掛けようとする。
「フォローは某に任せるで御座る!」
さすがに全員に狙われることになればひとたまりもないが、虎綱・ガーフィールド(
ja3547)が遁甲しながら彼女を支援。攻撃の手をゆるめさせる。
敵陣の左翼を切り込んでゆく麦子の前に、神凪 宗(
ja0435)が現れた。
「合戦後のビールがかかっているからな‥‥負けるわけにはいかない」
「そっちこそ、ジョッキを洗って待ってなさい♪」
この二人、個人的に賭けをしているらしい。
縮地の力も使って派手に雪煙をあげ、中央の旗へと向かおうとする麦子。千葉 真一(
ja0070)ら旗の守りについた面々も麦子を狙うが、なかなか決定打を当てられない。
だがさすがに多勢に無勢。宗の放った一投がついに麦子のビブスを捉えた。雪玉の水分をすってビブスが赤く染まり、彼女が最初の失格者となったことを知らせる。
「無謀すぎたな、雀原殿」
宗の言葉に、しかし麦子はにやりと笑みを返した。
「‥‥勝ったわ」
「なに!?」
彼女が足を止めたことで収まってゆく雪煙から、そのとき飛び出した一つの影。
五十鈴 響(
ja6602)だ。その手にはもちろん雪玉が。そして旗は、射程圏内。
彼女の近くにいる全員が、彼女に向かって雪玉を投じる。だが、それが届くよりも早く。
「ええいっ!」
響が投じた一球が、旗を射抜いた。直後、彼女も雪玉を受けるが──。
「チームA、+5点!」
得点は認められた。麦子と響が離脱したとはいえ、これで3点のリードだ。
「くそっ、易々と突破を許すとは──」
真一が歯噛みする。序盤にして作戦が崩れてしまった。
その声を聞き、二人はフィールドの外へ向かいながら、ハイタッチを交わしたのだった。
雪玉飛び交う最前線。
チームA・天ヶ瀬 焔(
ja0449)はバリケードから半身を出して口上を述べる。
「譬え雪が冷たくても、それ以上に熱くなれる志士、天ヶへぶっ」
‥‥全部言えなかった。あ、顔面なのでセーフです。
「気を取り直して、攻めるぜぇ」
焔は雪を払い落とし、めげずにバリケードを飛び越える。突撃する彼に、マリク トース(
ja1003)が援護についた。
「盾になるわよん。顔面防御もOK☆」
「‥‥冷たいぞ」
経験者は語る。
「よっし、やるわよ! とりあえず雪投げればいいんでしょう?」
迎え撃つヨナ(
ja8847)は腕まくり。
「うっふふ、こういうの初めてだわ! ほらほら、敵が来てるわよ!」
周りにも声をかけ、焔たちに向かって雪玉を投げまくる。
守るべき旗を失った中衛陣も新たにそれぞれのポジションに着いた。黄昏ひりょ(
jb3452)は後衛が増産している雪玉を前衛に運ぶ役割を。
「追加です!」
「ありがと、どんどんもってきて!」
攻撃は他のメンバーに任せて、また雪玉を受け取りに戻る。もちろん、周りの警戒はかかさない。
「十五分って意外と長い‥‥かも」
ひりょが無意識に額を拭うと、うっすらと汗をかいていた。始める前は、肌寒かったのだが。
焔は一人当てたが、マリク共々迎撃されてポイントは6ー4となった。
そこで少し状況が落ち着いて、雪玉は飛ぶものの離脱者はでないまま、五分が経過。
最初の鬼が登場した。
「お、お手柔らかにお願いねっ」
軽く声を震わせて、紘乃が足を踏み入れる。一気に駆け抜けようとするが、当然皆それを許すはずもない。
「やるからには、やっぱり勝ちを狙いたいよね」
彩香が放った一投が紘乃の左肩に巻かれた的を捉えた。
「鬼が来てますよ、鴉鳥さん!」
「うむ‥‥リア殿は元気だのう‥‥」
アステリアと鴉鳥も紘乃に向けて雪玉を投じる。相変わらず低気力な鴉鳥だが、しっかり紘乃の背中にヒットさせていた。
そんな中、上空5mの高さへその翼で飛び上がったのは、シオン=シィン(
jb4056)。
大量の雪玉を抱えた橋場 アトリアーナ(
ja1403)の背中をつかんで空を舞う。
「勝負は非情なのだー」
迎撃を躱しながら、シオンがたどり着いたのは紘乃の直上。
「爆撃開始!」
「えっ、上から‥‥きゃあああ!?」
号令とともにばらまかれた大量の雪玉が紘乃を押しつぶした。
「寒‥‥やっぱ止めとけばよかった‥‥」
鬼の登場で騒がしくなった前線を遠巻きに眺めつつ、チームA・常木 黎(
ja0718)は一つ大きく身を震わせる。
「じっとしているのでは、な。‥‥そろそろ」
彼女とともにバリケードで身を潜めていたアスハ・ロットハール(
ja8432)が見やるのは、前線のさらに向こう側。
「状況開始、と行こう、か?」
肩をすくめたアスハに、黎は苦笑する。
「“慎ましく”ね?」
それは一応の忠告だ。
この赤髪の戦友にはそんな言葉は似合わない。それは、彼女もよく知っている。
「雪合戦か‥‥故郷のあいつら、元気かな‥‥」
懐かしい景色を思い出し、虎落 九朗(
jb0008)はつと黄昏れる。
それを断ち切ったのは、敵の来襲だ。
アスハと黎の二人が、右翼を切り込んでくる。狙いはどう考えても、奥の旗。
「その動き、読んでいたよ☆」
ジェラルド&ブラックパレード(
ja9284)ら、中央に残っていた者たちも二人を迎撃する。
だが黒い霧を纏ったアスハは襲い来る雪玉を躱し、はじき、たたき落とす。
「まっすぐにしか飛ばぬ玉など‥‥!」
「後ろ!」
黎が警告をとばす。振り向きざま展開された『悪意穿槍』が雪玉を防いだ。
こなれた連携で奥へと進む二人。
チームBも奥の旗はとらせまいと、懸命の防衛が続く。ついにジェラルドの放った一投が、黎を捉えた。
「くっ‥‥行きなさい!」
アウトを宣告される寸前、黎はアスハを押し出した。敵陣にただ一人となったアスハは正面に立った九朗へと突っ込んでいく。
「‥‥貫く!」
雪合戦だろうが、彼の信念は変わらないらしい。
雪玉をその手に、右手を突き出す。雪玉ナックル、射程1。
その攻撃に、逆に意表を突かれたか。九朗は躱しきれず、拳がかすめた胸に赤いラインが刻まれた。
「くそっ!」
九朗を抜いたアスハの眼前に、旗が姿を現す。あとは渾身の一撃を、あの旗にたたき込むだけだ。
飛びつかんばかりの勢いで、旗に向かって右手を──。
そこへ割り込んできたものがあった。
「おりゃあああああ!!」
飯島 カイリ(
ja3746)がアスハと旗の間に体をねじ込ませたのだ。
アスハの拳が捉えたのは、カイリの顔面だった。
「ふぉのはふぁはやわふぇないなの(この旗はやらせないなの)」
拳をめり込ませたままで、カイリのクロスカウンター! ‥‥雪玉は?
互いの拳が互いをつなぎ止め、二人の動きが止まる。
そこへ雪玉が殺到し、アスハは後一歩で旗をとれずに退場となった。
「よっしゃ、やったー!」
前線で、チームAに振り分けられた朗が歓声を上げる。仲間に混じって投じた玉が見事相手のビブスに命中したのだ。
一進一退ではあるが、やはり最初に落とした旗の差が大きい。若干チームAが有利な状況だ。
時間はそろそろ残り五分。ここで、第二の鬼がフィールドへ。
「ただのボーナスキャラでは終わらんよ」
ボクシングスタイルで足を踏み入れたのは、石動 雷蔵(
jb1198)。
「案外と避けれるものだな」
雪玉を数発拳でたたき落とし、つぶやく雷蔵。だがその直後、背中へ一発。
「あの時は世話になったなぁ!」
ミハイル・エッカート(
jb0544)がバリケードから身を乗り出していた。
過去の依頼で旧知の二人。視線が交錯する。
「全ポイント、こっちにもらうぜ!」
「やれるものならやってみろ!」
雷蔵も雪玉を手に、反撃の構えだ。
その時。チームAの左翼を無音で疾走する影があった。チームBの宗である。
混戦の中で遁甲し、フィールドのギリギリ端を渡って、目指すは陣地奥の旗だ。
敵はいい具合にこちらに意識が向いていないようだ。旗まであと、30m。
20m。後一息で、射程に収められる──。
旗の手前で警戒にあたっていた田村 ケイ(
ja0582)が改めて索敵を行ったのは、その瞬間だった。
「敵が来てるわ!」
意識の外に置かれていた存在が、突然現実味を帯びて現れる。ケイの呼びかけで、同じく旗の近くにいた綾瀬 レン(
ja0243)、グラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)も宗に気づいた。
「ちっ‥‥」
宗は舌打ちした。旗はまだ少しの距離がある。だが三対一。迅速に勝負をかければ、あるいは。
「出でよ、黒曜の盾。オブシディアン・シールド!」
グラルスが生み出した障壁が、雪玉を弾く。だがその隙に宗は脇を抜けてゆく。
「くっ‥‥二人とも、頼みます!」
追撃の一投は脇をかすめた。グラルスはレンとケイに望みを託す。
攻撃を躱して旗へ向かおうとする宗に、ケイが正面から雪玉を投じる。宗は対抗するように雪玉を投じ、二つの玉はぶつかって雪の粒をまき散らす。
宗はケイを躱し、ついに旗を射程に捉える。──だが、そこで足を止めた。
「‥‥ここまでか」
いつの間にか、わき腹が赤く染まっていた。
「まあ、やらせる訳にはいかんよ」
ケイの攻撃の陰からレンが放った雪玉が、宗の突撃を止めたのだった。
鬼の雷蔵は五つある的のうち二つを抜かれていたが、まだ前線で耐えていた。
「そら、そこ!」
ミハイルの雪玉が右肩に当たり、これで三つ。
「身を晒しすぎだ!」
雷蔵も素早く反撃し、投球直後で体勢が整っていなかったミハイルのビブスを射止めた。
「うおっ‥‥と。やるな」
肩をすくめるミハイルに一瞬だけ笑みを返して、雷蔵は再び雪玉を躱すことに集中する。
残り時間も少なくなり、前線は両チームの動きが活発になってきた。
Beatrice (
jb3348)が果敢に飛び出し、雷蔵の胸に雪玉を当てたが。
「派手に動けば狙われるってね!」
そこをすかさず虎綱が狙う。「襲わないで‥‥」と天使のような(悪魔なのだが)微笑みを浮かべるBeatriceだが、勝負は非情。正面から雪玉を受けた。
「む、胸に雪が入ったのぢゃ!」
寒い中セクシー衣装を着てきたのが仇になったが、がんばって笑顔で退場した。
「さああと少し、ポイントを稼ぐわよっ」
大張り切りのヨナが声をかける中、チームBが最後の猛攻を仕掛け、雷蔵がついに最後の的を抜かれた。5ポイントのうち3ポイントがチームBへ。
「ふぎゃ!! 痛ぅ、冷たーっ!!」
顔面に雪玉を受けて、朗が叫ぶ。さらに追撃でビブスにも雪玉を受けてしまったが、それでも彼は楽しそうに笑っていた。
●
第1ラウンドの結果は、17ー15でチームAがリードとなった。
「こうなったら俺も第2ラウンドは前衛にあがるぜ」
僅差とはいえチームBが劣勢という情勢を受け、九朗が仲間内に宣言する。
皆集まって、改めて作戦会議。最後はBeatriceが全員に声をかける。
「皆の者が力を合わせて頑張れば、勝利は目前。気を引き締めて参りましょう」
応、とかけ声一つ。
さて、彼女は勝利の女神となれるのだろうか。
「リードしたとはいえ、まだまだ油断は禁物ですね」
チームAの面々も集まっていた。中央の旗の守りについていたイアン・J・アルビス(
ja0084)が冷静に状況を分析する。
「鬼よりも、投げにかかってる敵を狙うのがいいですね。意識は全体に広げねばなりません」
「そうですね‥‥それにしても」
イアンの意見に同意した後で、智美は小さく嘆息した。
「雪玉を作るのは結構難しいものだな。泥団子を作るのとはまた違う」
温暖な地方出身の彼女は、なにげに雪合戦は初体験だったようだ。
「源一、お前つぎもその格好で行くのか?」
ミハイルが声をかけたのは真っ白な格好の静馬 源一(
jb2368)。
彼は雪だるまの着ぐるみでこの特訓に臨んでいた。注目を集めて囮になるのが狙いだったのだが‥‥。何しろ簡単に動き回れるものではなく、第1ラウンドでは描写する間もなく脱落していた。
「大丈夫で御座る! だいぶ動きにも慣れてきたので、次こそ戦力になってみせるで御座るよ!」
「よっ、カッコいいぞ、男の子♪」
そんな源一に、碓氷 千隼(
jb2108)が後ろから抱きついた。
「おわ! 碓氷殿、危ないで御座るよ!?」
「大丈夫かね‥‥」
あっさりバランスを崩している源一に、ミハイルは苦笑した。
裏方組は、第2ラウンドへ向けての準備中。
「雪玉の追加ですぅ〜」
満面の笑顔でぱたぱた駆ける聖子。そんなに急ぐと‥‥。
ほら、こけた。
「うう〜、冷たいですぅ〜」
「あーあー‥‥大丈夫か?」
武に引っ張り起こされ、涙目の聖子。その様子を見ていたマリクが近づいてきた。
「ほら、あったかいコンポタあげるから、元気だして」
持参の水筒からスープを注ぎ、聖子に手渡す。ふぅふぅと息を吹き付け一口飲んで、聖子は笑顔を取り戻した。
「暖かそうだな‥‥私にももらえるか」
相変わらず寒そうにしている鴉鳥。マリクからスープをもらって、一息つく。
「そうだ、試合終了後に皆で食べられるように、豚汁など用意してもらうというのもいいな」
とりあえず、暖をとりたいらしい。
「それなら、食堂の方に交渉してみますぅ。カレーも用意してもらうんですぅ〜」
「カレー?」
「はい、カレーですぅ」
首を傾げる鴉鳥に、聖子は笑顔を返した。
少し離れたところでは、天風 静流(
ja0373)が準備運動中。
彼女は第2ラウンドで鬼として登場するのだ。
「雪合戦か、随分と久々だが目一杯やってみるとするか」
その横で春苑 佳澄(jz0098)が静流に動きを合わせている。彼女もこの後の鬼役だ。
「お久しぶりですね? 今年もよろしくお願いしますね」
そこへ、神楽坂 紫苑(
ja0526)が声をかけてきた。
「ハシャぎ過ぎて怪我したら、駄目ですよ」
「だ、大丈夫ですよ!」
微笑んで忠告され、佳澄は口をとがらせる。
「皆、本気だと加減もないだろうしな」
「天風先輩まで‥‥」
「実際、各チーム、物凄いやる気溢れて怖いくらいだな」
選手たちの方を眺め、紫苑。
本当ですね、と一緒になって眺めているうち、佳澄は選手の中に見知った顔がいることに気づいた。
「ちょっと挨拶してきますね!」
「やあ、春苑さん。春苑さんは鬼役なんだ」
「与一くんは、Bチームだね」
部活でよく顔を合わせる各務 与一(
jb2342)は穏やかに笑いつつ。
「こういう場であったなら、全力で戦うのが礼儀かな」
「もちろん! 遠慮しないよ!」
笑顔の佳澄につられるように、与一も微笑みを深くする。互いの健闘を祈って、拳を合わせた。
(‥‥真っ白、ですね‥‥)
糸魚 小舟(
ja4477)は微笑みを浮かべて、雪の平原を眺めていた。
そこへ、佳澄は遠慮なしに突撃する。
「糸魚先輩、お久しぶりです!」
「‥‥春苑さん‥お久しぶりです‥」
「先輩も、参加されてたんですね」
問いかけられて、小舟は穏やかな笑みのまま、雪へと視線を戻す。
「‥‥雪合戦は、昔‥‥一方的にぶつけられて、埋められたことがあります‥」
「えっ?」
「‥雪の中は静かで、このまま死ねたらいいなって、当時は思いました‥」
「せ、先輩?」
戸惑う佳澄を安心させるように、小舟は微笑みをほんの少しだけ深くした。
「‥‥今日は雪玉を回避して、生き残れるように頑張りたいです‥‥」
それを聞いて、佳澄もまた破顔する。
「そうですよ! 頑張ってください!」
第2ラウンドが始まる旨の号令がかかった。
「あっもう時間。じゃあまた後で! 合戦中は手加減しませんからね!」
言い残して去っていく佳澄を、小舟は微笑みで見送った。
草薙 雅(
jb1080)は、そんな風にばたばた走り回っている佳澄の姿を遠くから見ていた。
「‥‥可憐だ」
あれ、何か言いましたか。
●
第2ラウンドが始まった。
「さて、ちょいと頑張りますかァ」
チームAの前線で、落月 咲(
jb3943)がむんと胸を張る。
「お、落月さん、行くか?」
焔が横に並ぶと、ニィと口の端をつり上げる。
「やるからには圧勝しちゃいましょ〜、ふふふ〜」
自陣に二度の突撃を受けたチームBはさすがに警戒を強めている。
「ならば、それを利用するまでだ、な」
「‥‥付き合う身にもなってよね」
言いつつ、黎はどこか楽しげに。
囮となって敵陣に突撃を仕掛けるアスハ。黎は一歩引いて、彼を狙う敵を釣り上げる構えだ。
「悪く思わないでね?」
霧に紛れて雪玉を捌いていくその後ろから雪玉を投じ、一人を離脱に追い込む。
「そう何度もやらせないぜ!」
対して、前衛にあがった九朗が飛び出す。
アスハが闇ならば、九朗は光。星の輝きが戦場の中央を照らし出す。
1ラウンドに続いて対峙した二人。
「よっしゃあ!」
今度はアスハの拳が届くことはなく、ガッツポーズを見せたのは、九朗だった。
「少し大人げない気もするが、やるなら徹底的に‥‥だ」
天魔に向かうのと同じくらい、真剣に。静流がまさしく鬼の心でもって、フィールドへと足を踏み入れた。
鬼の登場に、前線がにわかに活気づく。
「援護射撃は得意でね。邪魔者は俺が狙うから、自分の相手に集中するといいよ」
前衛に立つ与一は周りに呼びかけ、彩香らが鬼を狙っていく。
だが相手チームの攻撃ばかりではない。鬼である静流自身が積極的に反撃を試みてくる。
彩香の投じた雪玉が静流の背中を捉えた。‥‥と思った次には反撃の一投がきわどく彩香を襲う。
「わっと!」
スキルを用いてかろうじて躱す。鬼に当てられた者は離脱するだけで点数には影響しないが、戦力ダウンは避けたいところだ。
その頃‥‥。
「今回は突撃してくる人はいないみたいなの」
第1ラウンドに続いてチームBの後衛をつとめるカイリは、せっせと雪玉づくりに励んでいた。先ほど拳を受けたほっぺが赤くなっているが、本人は気にした様子もない。
「ひりょ殿ーっ、がんばるのじゃぞー」
前方で動き回っているひりょに声援を送っていた美具 フランカー 29世(
jb3882)は、くるりと振り返るとつと顔をしかめた。
「む、雪玉が増えておらぬぞ。どうしたのじゃ」
美具の視線の先、フィールドのラインのすぐ外で、彼女の召還したヒリュウが小首を傾げていた。
「仕方ないのう、美具がもう一度手本を見せてやるからよく見るのじゃぞ‥‥」
かじかんだ手にはあ、と息を吐きかけてから屈み込む。どうやらヒリュウに雪玉を作らせようとしているようであるが‥‥。果たして召喚時間が過ぎるまでに覚え込ませることができるだろうか。
「いやあ、みんな頑張ってるなあ」
御伽 燦華(
ja9773)は雪壁のひとつに腰掛けて、すっかり観戦モードになっていた。
しゃくしゃく、とくずしつつ食べているのは新雪のシャーベット。雪玉に混ぜ込もうと持ってきた激甘調味料をトッピングして、かき氷風に仕立てていた。
「燦華ちゃん、寒くないの?」
「あ、佳澄ちゃんも食べる? 激辛もあるよ」
様子を見に来た佳澄にもすすめていた。
再び前線。
焔はそこまで明確な狙いはつけず、上空へと雪玉を放る。直線的に雪玉が飛び交う中、時間差で落ちてくるそれは絶妙に敵の歩調を乱す。
その隙をついて、咲が敵を仕留めるという算段だ。実際、早くも一人を仕留めている。
連携ぶりを発揮する二人。また焔が雪玉を放り投げる。
しかしその時、静流が二人の近くへ迫ってきていた。射程距離。雪玉が投じられる。
「‥‥焔ちゃん!」
軽く押された。
そう思った次の瞬間には、咲の顔が思いの外近くにあった。
「あらあら、しくじっちゃいましたねぇ」
咲はいつもと変わらない笑顔でそう言うと、焔から身を離した。ビブスの背中が赤く染まっているのが見えた。
「後はよろしくお願いしますよぉ」
努めていつもの調子で。ひらひらと手を振って、咲はフィールドの外へ向かっていった。
「よしっ、やった!」
翼を広げ空を舞うセンティが快哉を叫んだ。上空からの一撃が鬼を捉えたのだ。
「ギィも頑張ってるなー‥‥」
見渡すと、右手下方には敵味方に別れたギィも奮闘している。
センティに並ぶようにして、アステリアが上がってきた。
「下は混戦模様のようです‥‥行きますか?」
アステリアの視線は敵陣の旗に向けられていた。上空からの急襲を誘っているのだ。
「俺が突っ込んだらすぐやられちゃいそうだけど‥‥」
ちょっとだけ、弱気の無視が顔を出す。だけどすぐに首を振った。
「うぅん、男は度胸だ!」
頷きあい、二人は敵陣に向かって飛び出した。
「‥‥敵さんが来たみたいだね」
上空から迫る二つの人影を見て、ハルルカ=レイニィズ(
jb2546)は待ち人を見つけたかのように呟いた。
「ドッグファイトを仕掛けてみるのも面白そうだ」
それを聞き、雪玉づくりに励んでいたミリオール=アステローザ(
jb2746)がぱっと顔を上げた。
「それは面白そうなのですワ‥‥ワうーー、燃えてきたのですワっ!」
自分で作った大量の雪玉をいそいそと抱え込む。
さらにBeatriceも加えて三対二。数の上では優位に立った。
「さあ、行こうか」
ハルルカの号令で、皆ふわりと空を舞う。
センティとアステリアは左右に分かれた。
空中戦では雪玉の補充も簡単には行かない。おまけに今回は5mより高く飛んではいけないという特別ルールもあるので、地上からも迎撃される。
すれ違いざま、アステリアがBeatriceにヒット。たが、下を抜けたところを地上からひりょが放った雪玉に当たってしまった。
にわかに味方がいなくなり、焦るセンティ。
「集中攻撃なのですワっ!」
ミリオールとハルルカが一斉にセンティを狙う。躱しきれない、と思った瞬間──。
目の前で雪玉がはじけた。当たってはいない。
「?」
どうやら、地上から投じられた雪玉がセンティを狙った雪玉に当たったようだ。下を見ると、ギィがばつの悪そうな顔でこちらを見ているのが目に入った。
(もしかして、かばってくれたのかな)
今は敵同士なのに──と思いつつ、やっぱりうれしいセンティであった。
静流はフィールドの中央をいくらか過ぎたところで、右肩に被弾。抜かれた的は三つになった。
「‥‥頃合いか」
すでに強化スキルは使い果たし、回避が難しくなってきている。
静流は手にあった雪玉を投げてしまうと、後は全力でフィールドの端をめがけて駆けだした。
すでに被弾していた背中に何発か追撃を受けたが、結局的を二つ残したまま、彼女はフィールドを渡りきったのだった。
「今度はやらせないぜ!」
健闘していたセンティだが最後は真一に当てられて、両チームとも旗はまだ健在。
「ぷるぷる‥‥自分、悪い雪だるまじゃないで御座るよ!?」
着ぐるみ姿で奮闘する源一は、このラウンドではまだ残っていた。狙われまくっていたが何とかビブスへの被弾は避けている。
動きにくい着ぐるみで生き残るこつは‥‥顔面防御。これであった。
「しかしミハイル殿、自分もう割と限界で御座る!」
「ああ、俺も割と限界だ‥‥この姿勢」
何発となく雪玉をくらい、鼻の頭を真っ赤にした源一が訴えると、後ろにいたミハイルも同意した。
ミハイルは目立つ源一を盾にするように動いていたが、二人の身長差は50cm以上。着ぐるみで多少膨れているとはいっても、かなり屈まなければミハイルの胴体は護れないのだ。
「いいんじゃない? 思ったより粘ったし」
横から千隼が雪玉を投げながらそう言った。
「ならば‥‥」
「最終兵器発動、だな」
チームA‥‥またの名を【特攻野郎】。その呼称は彼のために用意されたといっても過言ではない。
ミハイルは源一を抱え上げると、仲間の援護を背に前へでる。
「男にはやらねばならぬ時がある‥‥」
神妙な顔つきの源一。あっ、また顔に当たった。
顔に張り付いた雪が落ちたところで、源一はカッと目を見開いた。
「最終兵器雪だる爆弾の威力をとくとご覧じろでござる〜!?」
「源一、お前のことは忘れない‥‥行くぞ! 旗まで届けーー!!」
どう聞いてもやけっぱちな叫びを乗せ、雪だる爆弾が旗に向かって射出された!
「‥‥君の勇姿は忘れないよ」
流れ星を見るように遠い目をして、焔が敬礼した。
「撃て! 撃ち落とせ!」
中央の旗を守る真一らが雪玉を浴びせる中、雪だる爆弾‥‥源一は前衛のバリケードを飛び越し、一気に旗へ迫る。
また顔に数発のクリーンヒットをもらいながら、分身の術を発動する源一。
「これぞ夢の分身魔球で御座る!」
実際に投げるのは一人だけ‥‥とはいえ、咄嗟の事態のなか、相手を戸惑わせるだけの効果はあったようだ。
源一が迎撃の雪に埋もれたのは、彼の投じた雪玉が旗を射抜いたその後だったのだから。
雪だるまとして雪に還った‥‥もとい、離脱した源一の最後の活躍によって、再びチームAに5ポイントがプラスされた。
「よろしくお願いします!」
そこへ、第四の鬼として佳澄が入ってきた。
「行くよ、春苑さん。勝っても負けても悔いがないようにね」
「与一くん! 負けないよ!」
一気に突っ込んでくる佳澄へ、主にチームB側から猛攻が押し寄せる。あっという間に二つの的が抜かれた。
「うぷっ! ‥‥何これ?」
佳澄の顔面を捉えた雪玉は、なにやら赤いものが入っていた。エルレーンが仕込んでいた「当たり」だ。
「‥‥はぅはぅ(*´Д`)」
が、当のエルレーンはというと、すっかりトランス状態で雪玉量産を続けていて、フィールドを見ていないのだが。
「あら‥‥余所見をしている暇はあるのかしら」
一瞬動きを止めた佳澄に、それでも雪玉は容赦なく降り注ぐ。フィンの攻撃は何とか躱したが、そこを焔に狙われて、三カ所目。
「わあっ!?」
逆方向からくる雪玉を躱そうと無理に身をひねったら、滑った。ぺたんと尻餅をついてしまい、万事休す!
ぱしぱしっ、と佳澄の目の前で雪玉が何かに遮られ、雪が散った。
「‥‥?」
誰かが影を作っている。見上げると、蓑藁に三度笠、さらには般若面という出で立ちの何者かが立っていた。
「今のうちに、お立ちなされ」
女性のような柔らかい声が面の中から聞こえてきて、佳澄は戸惑いながらもあわてて立ち上がる。
佳澄と同様に五カ所に的を装着している。追加の鬼‥‥誰だろう?
謎の鬼は、両チームをさっと見渡すと、時代がかった口調で啖呵を切った。
「止むを得ん、雪玉は引導代わりだ! 迷わず地獄に堕ちるがよい」
その後で──謎の鬼こと雅は、面の奥で聞こえないように呟く。
「佳澄姫、助太刀いたす」
佳澄と雅は背中を合わせ、改めて両チームの猛攻を迎え撃つ。
二人の鬼を相手にヒートアップする前線からつと目を逸らし、チームB・エイルズレトラ マステリオ(
ja2224)は反対側の雪壁に潜む相手を窺った。
まるで示し合わせたように、カーディス=キャットフィールド(
ja7927)もこちらを見ていた。距離を離したままで、二人は視線を交わす。
「今こそ忍軍の力を見せつけるとしましょうか」
そして、二人はそこから姿を消した。
チームA・イアンはずっと、中央の旗の守りについていた。
「此方は盲点になりかねません」
第1ラウンドではここを狙う敵はいなかったが、だからこそこのラウンドでは来るかもしれない。
前線から、味方の麦子が下がってくるのが見えた。一瞬違和感を感じる。
「‥‥敵です!」
スルーしかけたところで、このラウンドでは後ろに下がっていた響が叫んだ。それでイアンも違和感の正体に気づく。麦子はこのラウンド、すでにリタイアしていた。
「バレたか!」
変化の術で麦子に化けていたユーカリが姿を現し、後は一目散に旗へと目指す。幾度か攻撃を躱してチームAを浮き足立たせたが、最後は智美が仕留めた。
「まだ来てる。正面!」
後方から上がってきたケイの声で、皆気づく。気配を薄めて前衛を突破してきたものが一人。小舟だ。
「‥‥右からも一人!」
駆け上がってくるのは迷彩用の白い段ボールを装着した黒猫‥‥カーディスである。
「今が忍軍の真の力を見せるとき!」
雪玉を躱し、カーディスは勇ましく叫ぶ。小舟は表情を変えず、しかし動きは彼に合わせてサポートに。
小舟は智美を仕留めたが、イアンによって退場させられる。その隙に、カーディスが的へと迫る!
とどめの一投を投じようとしたその時。
(足下に──)
雪玉がころころと転がってきた。
わずかばかりにバランスを崩し、カーディスの雪玉は旗を捉えられずに空へと消える。
最後は前方から下がってきたフィンがカーディスを捉え、中央の旗を狙うものの姿は消えた。
「危ないところでしたが、これで──」
「ふふふ、まだ終わりではありませんよ」
カーディスの言葉にチームAの一同が顔色を変える。
「チームBに勝利を! HAHAHAHA」
高笑いするカーディス。ケイは視線を巡らし、そして見つけた。右翼を飛行する人影ひとつ。
「奥の旗、もらったーっ!」
闇の翼を発動して、フィールドの端からシオンが回り込んでくる。
「って、見つかった?」
突然無数の雪玉に晒され、あわてるシオン。一斉攻撃を浴びてはひとたまりもない。
あっという間にビブスが赤く染まり、シオンは残念そうに降りてきた。
「残念、もうちょっとだったのに‥‥」
そう言ってシオンは奥の旗を見やり──「あ」目を見開いた。
最後の影が、そこへ向かっていた。
「カーディス先輩、みなさん、犠牲は無駄にしませんよ」
エイルズレトラは奥の旗を射程に捉えていた。
「くっ、迎撃を!」
直前で気づいたグラルスが声をとばす。だが、援護は間に合わない。エイルズレトラはグラルスの一投を躱すだけでよかった。
チームBの鬼道忍軍を中心とした波状攻撃の前に、もはや遮るものはなく。ついに奥の旗は陥落したのだった。
チームBがポイントを一気に取り戻す。流れが変わったか。
「攻めろ! 攻めろ!」
細かい勘定をしている余裕はない。両チームとも積極的に攻撃にでる。
鬼の二人はまだ健在──だったが、雅の奮闘むなしく、ハルルカが佳澄の最後の的を射抜く。
「──佳澄姫!」
おっと、声にでてますよ。
雅も攻撃に晒される。ギィが雅の左肩を抜くが、反撃を躱したところを敵チームの千隼にとられる。
前衛に上がったジェラルドが雅の最後の的を抜いた。他方では虎綱が与一を離脱させる。そして──。
混戦の中、終了の合図が鳴り響いた。
●
「結果がでたぞ」
ポイントを整理した紫苑がメモ紙を武に渡した。
「第2ラウンドは、21ー24でチームBがとった」
武の声に、ざわ、と小さく声がわく。
「2ラウンド合計、38ー39。チームBの逆転勝利だ!」
それを聞いて、今度こそ歓声があがった。
「あーあ、負けちゃったわね」
響を後ろから抱いた麦子。そこへ宗がやってくる。
「賭けはこちらの勝ちだな」
「仕方ない。‥‥今度は飲み比べで勝負しようか?」
「虎綱君、タオルどうぞ。要望通り、シャワー室も使えるからねっ」
「おお、かたじけのう御座る」
虎綱は紘乃からタオルを受け取って、ほぐれた笑顔を浮かべた。
「黄昏君もどうぞ。汗、すごいわよ」
紘乃は横で汗を拭っていたひりょにもタオルを渡した。
「思ったよりずっとハードでした」
二人とも、2ラウンドとも最後まで生き残った。ずっと動き回っていたせいで、雪の寒さもどこへやらである。
「作ったが、早いもの勝ちだ。要る人」
「特訓で疲れた後は、暖かくて甘いものだよ♪」
紫苑や珠琴が呼びかけている。用意されているのは、お汁粉に甘酒。
「ホットココアもあるぞ」
雷蔵もカップにココアを入れて、配って回っていた。
「カレーを用意してもらいましたぁ。甘口から100辛までありますよぉ〜」
聖子もおたまをかんかん鳴らしてアピールしていた。
さらに鴉鳥が要望していた豚汁もあり‥‥何のかんの皆準備していたので、ちょっとした炊き出しパーティ状態である。
「ま、皆とこうした事も悪くはあるまい」
さっそく豚汁をすすりながら、鴉鳥は頷いていた。
「お疲れさまで御座る。お召し上がりくだされ」
「わっ、大盛り‥‥ありがとうございます!」
給仕に回った雅。佳澄のお椀にはお汁粉を目一杯注いであげた。
佳澄はお汁粉をすすりつつ、そう言えばさっき助けてくれたのは誰だったんだろうと思案する。
(草薙先輩の声って、さっきの鬼さんにちょっと似てるかな?)
「‥‥(*´Д`)ハァハァ」
「エルレーンさん、もう終わったから‥‥」
エルレーンの雪玉はいつしか三角形のまんまおにぎりになって、手押し車に山と積まれていたという。
「やったー、勝ったなのー!」
大喜びのカイリだがまだ元気が残っているようで、今度は雪だるまを作り出した。
特訓の時間は終わり、自由な時が過ぎていく。
久遠ヶ原を局所的に襲った大雪は、あっという間にその姿を消した。
‥‥これは、そんな幻のような一日の、確かな出来事だったのだ。