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マスター:嶋本圭太郎
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:7人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2012/11/19


みんなの思い出



オープニング

 ある日。潮崎 紘乃(jz0117)がいつものように斡旋所で仕事をしていると、バタバタと騒々しい足音とともに女の子がひとり、受付にやってきた。
「あら、佳澄ちゃんいらっしゃ──」
「紘乃さん! 特訓グッズ、貸してください!」
 春苑 佳澄(jz0098)は紘乃の挨拶を遮るようにして、カウンターに身を乗り出した。
「‥‥ええと、とりあえず落ち着いて、ね?」
 くっつかんばかりに顔を近づけていきまく佳澄を、紘乃は苦労して席へと誘導するのだった。

「それで、どうしたの?」
「確か、斡旋所に特訓用の武器とかあったなあ、って思い出して‥‥。以前、貸し出してくれましたよね」
「もちろんあるし、貸してあげられるけど‥‥ずいぶん急じゃないの?」
 紘乃が優しく問うと、佳澄はすこし落ち着いたのか、ばつが悪そうに下を向く。
「ええと‥‥あたし、学園にきてもう半年ですけど、まだまだてんで弱いなあ、って──」
「佳澄ちゃん、がんばってると思うわよ?」
「でも、同年代や年下でもあたしよりずっと強い人もいるし、本物の悪魔と戦ってる人とか──。最近は、すごい重傷を負って帰ってくる人もいるし、神器がどうとかいうニュースとか、奪回作戦が、とかいろいろ聞くけど、あたしはまだまだそんなすごい作戦には参加できなくて、その、えっと、なんというか──」
「いてもたってもいられなくなっちゃった、ってわけね」
 佳澄が言いたいことをうまくまとめられずにあわあわとしているのを見て、紘乃は微笑んだ。
「うーんと、はい。それで、とにかく強くならなくちゃ! って」
「なるほどね。まあ、そういう気持ちを持つのはいいことだと思うわよ。でも、特訓って一人でするの?」
「えっ? そうですね、なにも考えてなかったから──」
「やっぱり。そんなことだろうと思った」
 本当に、とにかく思いついただけでここへ来たのだろう。
「特訓、って言ったって、一人でできることなんてそんなにないと思うわよ? 効率だって悪いし」
「それは、確かにそうですけど」
「とはいっても、せっかくやる気になってるところだし、知ってる先生に頼んで、なにかカリキュラムを考えてもらいましょうか」
「いいんですか?」
 紘乃の言葉に、佳澄は目を輝かせる。
「撃退士の成長は、学園にとっても喜ばしいことだもの。きっと喜んで協力してくれると思うわよ。楽しみに待っててねっ」
「はい、よろしくお願いします!」



 ──という会話が交わされたのが昨日の話。
 佳澄が呼び出されてやってきたのは、学園の外にある広大な空き地だった。
 空き地には柵がおかれ、正方形のフィールドが作られている。
「先生が言うには、実戦に勝る特訓なし、ということなので」
 風で暴れる長い髪を押さえながら、紘乃。
「実戦形式で、勝ち抜きバトルロイヤルをやってもらうことになりました」
「バトルロイヤルっていうと、みんなで一斉に戦うんですか?」
「そういうこと。体力がなくなった人から離脱して、最後まで残った人の勝ち! 
 ‥‥といってもあくまで特訓だから勝ち負けはおまけだけれど、目標はあった方がいいだろうから、一応最後まで残ったに人にはちょっとだけご褒美をあげようかな?」
「最後まで‥‥よーし‥‥」
 紘乃の言葉を聞いて、真剣な顔でフィールドを見つめる佳澄。どう動くか、作戦を考えているのだろうか。
「訓練だから、魔具と魔装はこちらで用意したものを使ってね。一応、依頼の形式にしてもらったから、少しだけど報酬もでます。単純な能力の優劣を測るというよりも、戦闘中の立ち回りかたを考えてもらうのが狙いです。みんなそれぞれに目的を持って行動してみてください」
 佳澄のほかに集まった参加者にも向けて、紘乃が簡単なルール解説をした。
「それじゃ、みんな頑張ってねっ!」


リプレイ本文

 特訓場には、今回参加する八名の撃退士が集っている。
 だが、その内の一人、天風 静流(ja0373)は痛々しい姿をさらしていた。
「天風先輩、大丈夫ですか?」
「ああ‥‥不覚をとったよ。残念だが、今回は大人しくしておくことにしよう」
 心配そうに見上げる春苑 佳澄(jz0098)の頭をひとつ撫でて、静流はそう言った。
 先の戦闘で重傷を負った彼女は、まだ戦いには到底耐えられない。そもそも撃退士でなければ、こうして出歩くこと自体医者に止められるだろう。
「特訓は棄権して、見物させてもらう。応援しているよ」
「はい、先輩の分まで頑張ります!」
 むん、と気合いを入れた佳澄は、一礼してその場を離れていく。

「‥‥気持ちが負けていないのは、良いことだね。春苑君にとっても、良い経験になるだろう」
 静流は特訓場で準備をしている他のメンバーを見渡す。そこにいるのは皆、豊富な実戦経験を持つものばかり。
「かなりハイレベルな戦いになるだろうな」



 静流をのぞく七人は特訓場の四辺に散らばって立つ。
 戦闘開始の合図を待つグラルス・ガリアクルーズ(ja0505)の元へ、黒百合(ja0422)がにこやかな笑顔で近づいてきた。
「今回はよろしくね!」
「ええ、よろしくお願いします」
 握手を交わし、二、三言なごやかな空気で会話する。
 黒百合は愛らしい外見を持つ少女だ。彼女と面識がない相手であったら、ころりと油断したかも知れない。
 だが、グラルスは──というよりも今回の参加者のほとんどは、彼女と共に戦った経験を持っている。
 だから。
「一緒に頑張ろうね♪」
 戦闘開始の笛が鳴り、彼女が笑顔のままトンファーを顕現させた瞬間に、反応することが出来たのだ。
 脳天めがけて打ち下ろされるそれを、すんでのところで回避する。
「くっ!」
 反撃しようと見やったときには、黒百合はすでにそこから離脱していた。この奇襲はほんの挨拶代わり、ということだろう。
「あはァ、正々堂々と頑張りましょうねェ‥‥」
 本来の表情を浮かび上がらせ、彼女は戦いの渦中へと飛び込んでいく。


「さて‥‥春苑君の武器は、三節棍に銃だったかな」
 外から眺める静流は、棍を顕現させている佳澄を見やった。
 佳澄の直近にいるのは、ソフィア・ヴァレッティ(ja1133)。
「ダアトが相手なら、先手必勝!」
 レベルに差があっても、臆せず突っ込んでいく。
(間違った判断ではない、けれど)
 静流は顔をしかめる。阿修羅の能力は確かに攻撃をしてこそ。だが、佳澄の行動はまだ素直にすぎた。
 相手が対策をとらないはずはないのだ。
「近づかせるわけにはいかないしね」
 ソフィアの手が動く。佳澄の眼前に、魔法の霧が生み出された。
「ふぇっ‥‥?」
 勢いを殺しきれず飛び込んだとたん、佳澄の足が止まる。それは相手を睡眠へと引き込む霧。
 頭を振って抵抗を試みた佳澄だったが、やがて膝を突いてしまった。
 それを見届けたソフィアは、周囲へ目を配る。
 模擬戦用の武器を使っているとはいえ、そのまま追撃すればかなりのダメージを与えることが出来るはずだが、そうしなかったのはこれが一対一の戦いではないからだ。
「集中攻撃を受けると即退場だから、上手く立ち回らないとね」
 他の場所でも戦いが始まっていることを確認すると、ソフィアは手近なバリケードへと移動した。


 一方、鴉乃宮 歌音(ja0427)は、マキナ(ja7016)と交戦状態になっていた。
「さあ、武器で語らいあおうぜ!」
 弓を射かけ、距離を詰めようとするマキナ。対して、歌音は銃で応戦しつつ彼を引き離そうとする。
(この状況、どう切り抜けようか)
 歌音としては、真正面からやり合うのは出来る限り避けたい。相手が一人だけの今はまだいいが、ここで派手に撃ち合いをしていたら他の参加者にも自分の位置をさらすことになる。
 インフィルトレイターは後衛職。防御が脆いことは自分も、周りもよくわかっていることだ。
 普段とは違い、周りに仲間はいない。
 それでも冷静に見回すと、動きを止めている佳澄の姿が目に入った。
(よし‥‥)
 マキナの矢を躱し、佳澄を追い越す。
 そのまま振り向きもせず、彼女を銃で狙った。
「!?!?」
 睡魔に抗いきれずにいた彼女はその一撃によって目を覚ます。真っ先に目に入ったのは、歌音ではなく、彼を追ってきたマキナだった。
「はっ‥‥よ、よろしくお願いします!」
「蹴散らしてやるぜ!」
 あわてて棍を構え、マキナに向き合う佳澄。マキナも斧を顕現させ、接近戦に突入した。
 二人の阿修羅が戦いを始めるのを確認して、歌音は声もなくその場から離れた。


 残る一人、 橋場 アトリアーナ(ja1403)はバリケードに身を隠し、戦況を窺っていた。静流の棄権により、彼女だけは隣に人がいない状況からスタートしていた。
 現在、彼女が見える範囲でバリケードの外に姿をさらしているのはマキナと佳澄だけだ。一対一の戦いに割り込む気のない彼女は、別の相手を捜す。
「‥‥がんばる。一人でも多くと戦いたい」
 そして、いけるところまで勝ち抜きたい。
 開始時の立ち位置からして、両サイドのバリケードにはそれぞれダアトの二人がいるはずだ。
 スキルを使えば、距離を一気に詰めることも不可能ではない。
(超攻撃型の彼女なら、一撃で沈めることも出来なくはないだろう)
 戦況を見つめる静流も、彼女がどう動くかに興味を抱いている。
 だが彼女が行動を定めるよりも早く、別の影が迫っていることに静流は気づいた。
「──橋場君」
 バリケードは自身を隠す一方で、自身の視界をも阻害する。
 アトリアーナは、気づいていない。

「くっ‥‥」
 アトリアーナは呻く。
 バリケードを回り込んで現れたのは、黒百合だった。
 不意の一撃。ダメージは大したものではない。だが、反撃しようとしたところで、体が思うように動かなくなっていることに気づく。
 影縛の術によって、その身を絡め取られていたのだ。
 さらに追い打ちをかけるように、黒百合は戦場に響きわたる声で叫んだ。
「アトリちゃんを動けなくしたわよォ!」
「──っ」
 この状態で複数から狙われたら、凌ぎきれない!
「このままじゃ、まずいの‥‥!」


「おらおらぁ!」
「わっ、このっ!」
 マキナと佳澄の戦いは、元々のレベル差に加えて闘気解放で底上げしたマキナが優勢に進めていた。
(あたしだって、少しは成長したところを見せなくちゃ‥‥)
 あっさり敗退したのでは、応援するといってくれた静流にも申し訳が立たない。
 叩きつけられた斧を横に転がって躱すと、起き上がりざまに棍を一閃する。
 その一撃はマキナの脛を叩いたが、相手の動きを止めるには至らない。
「痛ぇな!」
 罵り声をあげながらも、喜悦の表情で斧を振るうマキナ。
 そこへ、魔法の一撃が飛来する。
 バリケードの影からソフィアがこちらを狙っていた。
「マキナくん、さきに二人でソフィアちゃんを‥‥」
 このまま二人で戦うところをダアトに狙われるのは危険すぎる、そう判断した佳澄は共闘を持ちかけるが。
「なんでてめぇと組まなきゃならないんだ。俺とお前は敵同士だろうが」
 マキナはにべもなく断る。むしろその瞬間を隙ととらえて、佳澄を攻撃する!
「あっ!」
 手痛い一撃を浴びたところへさらにソフィアの追撃を受けて、佳澄は敢えなく敗退となってしまった。
「次はてめぇだ!」
 さらにソフィアに迫ろうとするマキナ。
 だが風切り音が聞こえたと思った次の瞬間、腿の裏に痛みを感じた。

 身を潜めている歌音が放った一撃だった。

 マキナは舌打ちする。このままでは挟み撃ちだ。
「戦術的撤退だ」
 誰もいない場所へと全力で退き、態勢の建て直しを計る。


「黒玉の渦よ、すべてを呑み込め。ジェット・ヴォーテクス!」
 グラルスの放つ強力な魔法が、束縛状態のアトリアーナを襲う。
 アトリアーナにとって幸いといえたのは、束縛を受けたのがバリケードのそばであったために攻撃の来る方向をある程度限定できたことだ。
 思うままにならない体をなんとかひねって躱すことで、無傷とは行かずとも直撃は逃れた。
 だがこれで終わりではない。黒百合は依然彼女の近くにいた。
 アトリアーナが完全に行動不能になったわけではないことをふまえ、ある程度の距離は保ちつつ、彼女を使ってグラルスからは影になるように動いている。
「さあ、これでェ‥‥!」
 とどめを刺すべく、『爛れた愚者の御手』を発動する黒百合。
 地面から浮き出た巨大な手が、アトリアーナに向かって振り下ろされる。
 見上げる紅い瞳が、光を放った。

 まき散らされる腐泥をすり抜け、アトリアーナがそこから飛び出してきた!
 紅い残光をなびかせて、黒百合へと一気に肉薄する。
 先ほどのお返しとばかりに、アウルを集中した右手を振り抜く。
 白い輝きが黒百合を捉えて、衝撃を伝えた。
「あ──」
 動きを止めた黒百合に、勝負を決める一撃を。

「‥‥力なら、負けない」
 白と紅の光の名残が、アトリアーナの周囲を舞った。

 黒百合を退けたアトリアーナは、縮地を発動してグラルスから距離をとる。
「‥‥魔法は苦手。だから、一気に勝負をかけさせてもらう」
 一瞬で距離を詰めることの出来るギリギリの位置。

 グラルスの持っている魔具の射程では、彼女は捉えられない。
 だが、ダアトのスキルは武器に依存しないものも多い。
「残念だけど、そこなら届く」
 距離を詰めるグラルス。
「‥‥ジェット・ヴォーテクス!」
 漆黒の暴風が、アトリアーナを呑み込んだ。

 一人退け、息をつくグラルス。だが、すぐに飛び込んでくる別の人物があった。
「次の相手は俺だぜ!」
 再び戦線へと戻ったマキナが、一気に距離を詰めてくる。
 近づけさせまいと、グラルスが放った魔法の一撃に、マキナはなんと盾を投げつけた!
 実戦でやったら装備品をロストしかねない行為だが、それだけに予想外ではある。
 盾が魔法に呑み込まれる間に自身は転がって身を躱し、なおもグラルスへと接近する。
「くっ、出でよ、黒曜の盾──」
「甘ぇんだよ!」
 シールドを出現させたグラルスに、マキナは斧を振り抜く。
 ダメージは確かに軽減されたが伝わる衝撃までは減じきれず、グラルスはつかの間、体がすくんでしまう。
「もらったっ!」
 そこへマキナの追撃が容赦なく襲いかかり、グラルスも敗退となった。


 バリケードに身を潜め、歌音は戦況を観察している。
(‥‥残り三人か)
 今日は勝ちにいく。そのためにも自分に有利な状況以外では無理をしない。臆病ととられようが、それが彼の戦略だった。
 マキナのもとへ、ソフィアが向かっていくのを確認しつつ、隙あれば一撃を放てるよう、油断なく弓を構える。


「今度は逃がさないよ」
 ソフィアは符を構え、慎重にマキナとの距離を詰めていく。
 一瞬の判断を迫られるマキナ。盾は今手元にない。位置的に、利用できる障害物も見あたらない。もう一度距離を取り直しても、人数が絞られた状況では効果は薄いだろう。
 斧を構えて突っ込むか、弓で応じるか──。
 彼が選んだのは、接近戦だった。
 初撃さえ躱せば勝機はあると信じ、雄叫びをあげながら突っ込んでいく。
 だが、ソフィアは冷静だった。
 相手が向かってくると見るや、迎撃のために手を動かす。
 次にはマキナの眼前に、無数の花びらが螺旋の渦を描いた。
「ちっく‥‥しょう」
 回避を試みるもむなしく、ごうと唸って渦が彼を捉えた。


「ああ、もっと戦いたかったなー」
 戦闘中の昂揚とした気分を幾分残したマキナの言葉を背中に聞きながら、ソフィアは残る一人の姿を探す。
 最後の相手──歌音は目に映るいくつかのバリケードのどこかに潜んでいるはずだ。

 戦場を、にわかに沈黙が支配した。


「先輩、どちらが勝つと思いますか」
 戦況を見つめる佳澄が、隣に座る静流にたずねた。
「そうだね──ここまで来たら、正直どちらが勝ってもおかしくはないだろうな」
 自分があの場にいたなら、どう動いただろう。戦いの場にいながら見ることしかできないもどかしさを覚えて、つと顔をゆがめる。
「傷、痛みますか?」
「いや‥‥私もまだまだ未熟だな、と思ってね」
 それ以上は応えずに、再び戦場へと目を向けた。


 バリケードの中で、歌音はなおも息を潜めている。
 こちらの位置を探りに接近してきたときが勝負だ。足を狙い、動きを止める。
 スキルを上乗せすれば、射程ではこちらに利がある。相手も物理防御は脆いダアトだ。押し切れる。
 ひとたび攻撃に移れば、もう音を隠す必要はない。歌音は銃を顕現した。

 ソフィアはバリケードのひとつを見定めると、慎重に近づいていく。
 あと数歩でそこを攻撃範囲に収めるというそのとき、銃声が響いた。
「!」
 着弾は足下。僅かに、外れた!

「っ──」
 隠密に徹し、一言も口に出さなかった歌音から空気が漏れるようなかすかな声がでる。相手がこちらに回り込んでくるまでに、もう一撃、狙えるだろうか。

 だがソフィアはそうしなかった。
「やっぱり、そこだね!」
 回り込むのではなく一歩大きく踏み込むと、バリケードに向かって魔法を放つ。衝撃が廃材を吹き飛ばし、歌音の姿を露わにした。
 歌音は転がるようにしてそこから逃れると、銃を撃ち放つ。銃弾は今度こそソフィアを捉えたが、展開された緊急障壁がダメージを抑え込んでしまう。

 訓練用の魔具でも強烈な、ソフィアの魔法が歌音を襲う。花びらの渦に包まれた歌音がそこから逆転する手段は、もう残されていなかった。



「みんな、お疲れさまっ」
 特訓が一段落したところで、潮崎 紘乃(jz0117)がメンバーを労った。
「撃退士の訓練って、ハードねぇ‥‥。怪我した人は、手当を受けていってねっ。
 それから‥‥最初に言ったとおり、最後まで残ったソフィアさんと、それから歌音くんにも少しだけ、特別報酬があるから受け取ってねっ」
「優勝は難しいと思っていたけど‥‥ありがとうございます」
 ソフィアが紘乃から封筒を受け取ると、拍手が広がった。

「お疲れさまです。手合わせありがとうございました」
 戦闘を終え、落ち着きを取り戻したマキナが丁寧に礼を言ってまわっている。

「さて‥‥特訓も終わったし、お茶にしようかな」
 歌音が呟くように言うのを、佳澄が耳ざとく聞きつけた。
「鴉乃宮先輩、お茶ですか? それなら‥‥」
「ん、ああ。紅茶で良ければ、ごちそうするよ」
「あらァ、それならあたしもご相伴に預かろうかしらァ?」
 二人のやりとりに、黒百合も入ってくる。
「ボクも‥‥ご一緒したいの」
 アトリアーナも頷く。
「それなら、皆で特訓を振り返りながらということにしようか」


 ひとときの対決を終えて、彼らはまた仲間同士。
(今日の特訓が、少しでもみんなの力になると良いわね)
 去っていく彼らを見送る紘乃は、心からそう願うのだった。


依頼結果