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マスター:セラニアン
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/20


みんなの思い出



オープニング

●『行きは良い良い……帰りは…………』

(とある雑誌記者が失踪直前に送ったメール原稿より)

 私は今、N県の山奥にあるA村に来ている。マイナーなオカルト雑誌の記者である私がこの辺鄙な村に来たのは、ある『神隠し』についての取材をするためだ。
 このA村では、昔から『ソトマサマ』という土着神を祀っているそうだが、そのソトマサマを祀っている『祠』で、度々神隠しが起こっているのだという。
 もっとも、真相はただの迷信か、あるいは噂話にすぎないのだろうが……
 しかしながら、このA村は酷く閉鎖的な村だった。交通の便が悪いということもあるが、とにかく村人たちの目が恐ろしいほどに冷たいのである。よそ者である私の姿を見たとたん、能面のような無表情になり、なにやらヒソヒソ話を始める。話しかけても無視される始末だ。気分が悪いというより、気味が悪いといった方が良いだろうか。彼らの囁き声の中に、こんな言葉が聞こえてきた。

 ――行きは良いのに、帰りは……あーあ、お気の毒に……

 それは、私もよく知っている童歌の一節によく似ていた。ふと耳を澄ますと、どこからから子どもたちの歌声が聞こえてくる。

 ――とおりゃんせ……とおりゃんせ……。
 ――ここはどこの細道じゃ? ソトマサマの細道じゃ。
 ――この子の七つのお呪いに、お髪(ぐし)を納めに参ります。
 ――行きは良い良い、帰りはこない。
 ――こないながらも……とおりゃんせ……

 私の背筋に嫌な寒気が走る。なんだ、この歌詞は! 私の知っている歌詞じゃない! 私はこの薄気味悪い村から一刻も早く出たくなった。今なら、日暮れ前に『ソトマサマ』の祠に行けるだろう。その後は、最終バスに乗って帰ればよい。

 私は地図を片手に、足早に村はずれに向かった。山村の夕暮れは早い。すでに太陽は山陰に隠れ、赤い血のような色が空を覆っている。不気味だ。
 祠があるという雑木林にたどり着く。朽ちかけた鳥居が、招かざる客であるかのように私を見下ろしていた。鳥居の脇には石碑。しかし何が書いてあるかは読めない。かろうじて、『……様……』という文字だけが判別できた。
 それにしても暗く、薄気味の悪い雑木林だった。グニャグニャとした木々の間に、文字通りの『細道』が伸びている。私の脳裏に、先ほど耳にした童歌が蘇った。

 ――行きは良い良い、帰りは『こない』……

 ふん、どうせただの迷信だ。私は自分に言い聞かせ、細道に足を踏み入れた。砂利を踏む足音だけが、木々の間に木霊する。静かすぎる。
 しばらく進むと、開けた場所に出た。ぽつりと朽ち果てた祠が建っている。その中には黒い人形のようなものが……いや、なんだ、これは……!
 私は思わず悲鳴を上げそうになった。黒い糸のようなものにビッシリと覆われた人形。お地蔵様のようだが、もはや顔は判別出来ない。私は一歩後ずさり、そこで奇妙なことに気付く。
 足の裏に、クシャリと奇妙な感触を感じる。地面を見下ろし、私は「ひっ!」と息を飲んだ。
 そこにあったのは、おびただしい量の『髪の毛』だった。ようやく私は、人形を取り巻く黒い糸がなんなのか気付く。これは髪の毛だ! 人形に、おぞましい量の髪の毛が埋め込まれているのだ!
 恐怖が私を支配する。しかし私はプロだ。今にも崩れ落ちそうになる足を叱咤し、私は何枚かの写真を撮った。早くこの不気味な空間から逃げたくてたまらない。写真もそこそこに、来た道を戻ろうと踵を返す。
 そのときである。背後から、突如としてシュルシュルという音が響く。まるで無数の髪の毛が蠢くかのような音。ただの風の悪戯だ。そう思うが、しかし私の身体にはいい知れない恐怖が満ちていた。
 とにかく、確かめねば……! 私は錆び付いた首を回し、ゆっくりと振り返る。おぞましい量の人毛が埋め込まれた人形が視界に入る。シュルシュルという音。そして次の瞬間、バサリという音と共に、人形の頭から一房の髪の毛が抜け落ちたかと思うと、私の目にソトマサマのかoにzinnあをvkmzがぼkmzぬうyzvbnあああああああああああああ、、、、、、

(しばらく意味不明な文字列が続く)

 ガタガタという揺れに、私は目を覚ます。ここは……? ああ、そうだ。帰りの最終バスだ。どうやら文章を書きながら寝てしまっていたらしい。寝ぼけていたのか、意味不明な何かが書いてある。消そうとして、しかし私にその気力はなかった。疲れ果てている。この文章を自宅にメールして、もうしばらく寝ていよう。
 しかし、あの童歌はどういう意味だったのか? そんなことを考えていると、私はふと自分の足首に何かが絡まっているのに気付く。黒く、長い糸のようなもの。髪の毛だ! 一体いつの前に巻き付いたんだ! 
 私はがむしゃらに髪の毛を引きちぎろうとして、そこで全身を強ばらせた。長い髪の毛の先が、座席の下に続いている。軽く引っ張ると、明らかに髪の毛がどこかに繋がっているのが分かった。どういうことだ! 怖気を感じつつ、私は座席の下をのぞき込んだ。そこには……まさか……そんな……
 
(文章はここで終わっている)


●『久遠ヶ原学園教室』
「……というわけで、もしかしたら天魔が関わっているかもしれないということで、学園の方に依頼が来ました」
 事務員の女性の声に、教室に集まった生徒たちは一様に顔を強ばらせた。何せ、あまりに気味の悪い話なのだ。当然である。
「依頼主は、失踪した男性が所属する雑誌出版社。依頼内容は、神隠しにあった男性の捜索と事件の調査です」
 ちなみにそのA村では、ここ10年の間で5人もの失踪者――しかも全て旅行者である――が出ているのだと、事務員の女性は語った。
「なお、その男性が最後に目撃されたのは祠の入り口だそうです。男性が残した文章を読む限り、バスに乗っているようですが、路線バスの運転手の方は乗せた憶えはないとのことです」
「バスに乗ってないん……ですか……?」
 人の女生徒がこわごわと聞く。
「はい。ですから『神隠し』なのです」
 神隠し。その言葉に、生徒たちは思わず息を飲んだ。ただの行方不明事件か、天魔の仕業か、あるいは……
「依頼書と件の男性が残した文章を貼っておきます。依頼を受ける撃退士の方は、事務の方まで来てください」
 生徒たちは、改めて掲示板に貼られた文章を見る。その中には、どこか歪な童歌が記されていた。

 ――とおりゃんせ……とおりゃんせ……
 ――行きは良い良い、帰りはこない……

 この依頼を受けたとして、果たして自分たちは『帰れる』のだろうか……?
 撃退士たちの胸に、言いしれぬ恐怖が満ちる。


リプレイ本文

●とおりゃんせ

 ――俺、天魔だって信じてる。

 出発前はそう思っていた高樹朔也(ja4881)だが、しかしその考えも、役場の職員から『奇妙な童歌』を聞くまでだった。
「おいおい、どうなってんだ……?」
「わ、わかっ、わからないです……けど……でも、もしかした、ら……記者の人が……『私の知ってる歌詞じゃない』って言ったのは……このこと……かも……ご、ごめんなさい……僕の、想像ですけど……」
 ぽつりとつぶやかれた朔也の言葉に、九十市鉄宇(ja3050)が応える。自分からしゃべることの少ない鉄宇だが、このときばかりは自然と声が漏れてしまっていた。
 撃退士たちは、今し方聞いた童歌を反芻した。

 ――とおりゃんせ、とおりゃんせ
 ――ここはどこの細道じゃ? ソトマサマの細道じゃ
 ――この子の『八つ』の『お祝い』に、お髪を納めに参ります
 ――行きは良い良い、帰りは『怖い』
 ――『怖い』ながらも、とおりゃんせ……

「……あの、本当にその歌詞であってるんですか?」
 いつもは明るいルーネ(ja3012)も、このときばかりはおずおずと、
「実は、ちょっと違うってことは……」
「ないですよ。この村に伝わるのはこの歌詞だけです」
 役場の職員の男性は、面倒くさそうに言い放つ。
 撃退士たちは思わず顔を見合わせた。足下に這い寄ってくる奇妙な感覚を感じながら、同時に思う。

 ――依頼書と歌詞が違う……!

 神隠しの真相に、撃退士たちはどれだけ迫れるのか?
 時間を、村到着まで巻き戻す。

 
●村、入り口
 のどかというより静か――それが村の第一印象だった。現実感が薄いと言っても良いだろうか。ここならば神隠しが起こっても不思議ではない。撃退士たちは何となく、そんな気持ちにさせられた。
「へぇ、面白そうさぁぁねぃ。天魔以外の不可思議を経験できるかも……楽しみだよねぇ」
 眠そうな表情で、しかし楽しげに九十九(ja1149)が呟く。事件の奇妙さが、九十九の好奇心をくすぐっていた。
「神隠し、か……ともかく行方不明になった人を見つけないとね」
「とはいえ、娯楽ホラーなら、調査にきた時点で死亡フラグだな」
 おっとりと呟く桜木真里(ja5827)に、亀山絳輝(ja2258)がぶっきらぼうに応える。
「しかし神隠しですか……日本の民間伝承だそうですが……」
 依頼書を片手にフムと考え込むのは、イギリス人のカーディス=キャットフィールド(ja7927)だ。さすがに着ぐるみは留守番である。
 それにしても、と撃退士たちは思う。気味の悪い事件だった。ただの失踪事件では終わらないのではないか? そんな予感が一同の胸にジワリとわき上がっていた。
「はい、はい……そうですか、ありがとうございます! みんな、とりあえず失踪した日の最終バスから翌日の最終バスまでの間、運転手に村出身者はいないみたいです。最終バスの運転手さんも、やっぱり乗せてないって。声を聞く限り、嘘は言ってないかな」
 スマホを片手にルーネ。一同は思わず考え込む。
 失踪者が残した原稿を読む限り、失踪者はバスに乗っている。しかし、最終バスの運転手は乗せていないという。
 これは……いったい……?
 違和感を胸に抱え、撃退士たちは役割ごとに分かれる。それぞれの脳裏には、童歌の一節があった。

 ――行きは良い良い、帰りは『こない』。

 果たして自分たちは無事に帰れるのか。そんな思いが、撃退士たちの脳裏をかすめる。

 が、しかし――

 このわずか1時間後、そもそも歌の歌詞が違うことに全員が困惑するのだが、この時点でそれを知る者はいなかった。

●村・現場調査班(真里・絳輝・九十九)
(分かってはいたけど、良い気分じゃないな……)
 ひそひそと囁く村人の様子に、真里は思わずため息を吐いた。耳を澄ませば、村人の声が聞こえてくる。
 ――さっさと帰れ……
 ――行きは良いのに帰りは……あんな若い子が気の毒に……
「駄目だ。取り付く島がない」
「そうさぁねぃ」
 絳輝と九十九も肩をすくめる。九十九に至っては、中国語でまくし立てた為、余計に村人から怪しまれてしまっていた。計画通りというか、予想通りの展開である。
「しかしソトマサマか……外魔なら余所からやってきた魔物みたいな意味があるかもしれないな。そうするとやはり天魔か」
「それならむしろ楽というか、肩すかしですかねぇ」
 絳輝の言葉に、九十九がやる気なさげに応えた。
 一行は村人への聞き込みを諦め、公民館に向かった。残念ながら一人歩きをしている村人は見あたらない。というか、そもそも出歩いている村人が極端に少なかった。いたとしても、冷たい無表情で撃退士たちを見るだけである。
 しばらくして公民館にたどり着く。幸いにも周囲に人はいない。三人は公民館に入り込もうとして……しかし、そのとき真里の携帯がけたたましく鳴った。役場聞き取り班からだ。
「……え? 歌詞が違う?」
 役場聞き取り班からもたらされた情報に、一行は困惑した。

●隠密班(カーディス)
 わずかに時を巻き戻す。真里・絳輝・九十九よりも一足早く村を回ったカーディスは、公民館の中に潜入していた。
 といっても、残念ながら大した情報はなかった。公民館の中はガランとしており、壁に写真がかけられているくらいである。
「これは……お祭りか何かの写真でしょうか……?」
 そこにあったのは、村人の集合写真とおぼしき写真だった。ボロボロの鳥居の前で、村人とおぼしき人々――お年寄りばかりなのは過疎村の宿命だろう――が、並んで写っている。日付は今年のものだ。
「何か違和感があるような……」
 写真を見つめ、カーディスは考え込む。そこでふと物音がした。一瞬、隠れようとしたカーディスだが、現場調査班の三名だと気づき、そのまま出迎える。
 九十九たちから歌詞が違うことを聞かされ、カーディスは眉をひそめた。
「歌詞が違うと……ふむ、どういうことでしょうか。ちなみにここに特筆したものはありませんね。写真くらいです」
 カーディスに言われ、九十九、絳輝、真里も写真を眺めた。誰ともなく、こうして見ると普通の村人だな、と呟く。
 はたしてこの村人たちは、いったい何を隠しているのか……?
 撃退士たちは、問題の祠に向かうことにした。

●役場・聞き取り班(朔也・ルーネ・鉄宇)
 役場での聞き取りを終えた三名もまた、祠へと向かっていた。その胸には、困惑が重くのしかかっている。
 その一因として、失踪事件について大した情報が入手できないこともあった。村役場の職員――一応、村人らしい――があまり話したがらなかったのだ。唯一、まともに聞き出せたのは『ソトマサマ』の由来についてだった。
 職員の話をまとめるとこうである。
 ソトマサマの由来は江戸時代。あるとき、子供たちの間で流行病が広まった。医者もなく困っていると、ふと村の外から乞食がやってきたのだという。この乞食に食べ物を恵んだところ、不思議なことに子供たちの病が治ったのだそうだ。それ以来、この村では外からやってくる者を子供の守り神として歓迎するようになった――というのがソトマサマの由来らしかった。ソトマサマという名前も、『外部から来た人』という意味であり、これについては朔也の推理がズバリ的中していた。
 が、しかし――
 問題は、失踪した男性の残した歌詞と、村役場の職員が言った歌詞が違うことだった。
「役場のオジサンが歌ってくれた方が本来のだとしたら……じゃあ、失踪した男性が残したのは何なんだろ?」
 ルーネは呟く。この歌詞の違いに、何か大きなヒントが隠されているような、そんな気がしてならなかった。
「ち、違ってる、の、のは……『八つ』が『七つ』になっているのと、『祝い』が『呪い』になってるの……あ、あと……『怖い』が『こない』になってる……ことです……い、言わなくてもわかりますよね……ごめんなさい……」
「九十市はおどおどしすぎだぞ。それはともかく、役場の人の話だと、子どもが八歳になると成長のお祝いに髪の毛を納めてたって話だよな? なのになんで『八つの祝い』が『七つの呪い』になってるんだ?」
「あとは、『怖い』が『こない』なんだよね? うーん、どういうことだろ?」
 三人は首をひねるが、答えは見つからない。
 しばらくして祠の入り口にたどり着く。すでにそこには、現場調査組とカーディスの四人が待っていた。
 撃退士たちを、細道が歓迎していた。

●ソトマサマの祠
 朽ちかけた鳥居の前に集まった撃退士たちは、おのおの鳥居と石碑を調べた。といっても、手がかりになりそうなものはない。
 入り口での調査を切り上げ、いよいよ撃退士たちは細道に足を踏み入れた。グネグネとした木々に挟まれ、薄暗い。
 しばらくして、ついに祠が目に入る。とたんに撃退士たちは息をのんだ。
「……雰囲気でてるねぃ」
 九十九がニィと口の端をゆがめつつ、索敵。敵性体はいない。
 しかしながら不気味な人形だった。おぞましい量の髪の毛が植え付けられた、お地蔵様のような人形。
「髪は神に通じるところがあるってのは有名どころだな」
 言いつつ、絳輝はわずかに身構える。同様に緊張感をみなぎらせる撃退士たち。一応、天魔である可能性が残っているからだ。
 それぞれ警戒しつつ、祠の周りを調査する。
「髪がもっさりな場所とか……人を埋めたら、こんな感じかもな……」
 ぽつりと呟かれた朔也の言葉に、真里などは、
「もしかしたら、人形が動いたのかも……だね」
「もう、そんなわけないです! ……と思うけど」
 ルーネの言葉が、尻つぼみになる。
 とりあえず、髪が積もった下に何かが埋まっている様子はない。となると……

 ――人形の髪の下は、どうなっているのか?

 撃退士たちはいよいよゴクリと喉を鳴らした。もしかしたら髪の毛に下に……そんな予感が、歴戦の戦士たちの背筋をわずかに冷たくした。
 もちろん、由来からすればこのソトマサマは子どもの守り神なのだろうが……

(……それにしても、『7つのお呪い』がどうしても気になるんだよな……)

 仲間が恐る恐る人形に近づくのを見つつ、真里は思考の海に沈んでいた。
 どうしても『7つのお呪い』という部分が気になっていた。
 7つのお呪い……7つの呪い……7つ……いや、まてよ……?
「そういえば『7つ』のことをずっと『7歳』って意味でとってたけど……別の意味にもとれるよな……7個とか7時とか…………ん?」
 その瞬間、真里の脳裏を様々な情報が一気に流れていった。バラバラだった情報の断片が、パズルのように繋がってゆく。

 ――7つ……7時……
 ――呪い……のろい……おそい……
 ――そして……『帰りはこない』……

「っ! もしかしたら!」
 急いでメールを飛ばす。そのときだった。

 ――バサリッ!

 撃退士たちの目の前で、突如として人形の髪がうごめいた。頭に生えていた髪が一房抜け落ちる。そしてその下には……
「ぜ、絶対に見ないからな! 見ないから……あ、あれ?」
 拍子抜けした声を上げる朔也。抜け落ちた髪の下にあったのは、文字通りの『お地蔵様』だった。だいぶ朽ちているが、柔和な雰囲気が見て取れる。
 なんだ、と拍子抜けする撃退士たち。調べてみるが、天魔の反応もない。念のために九十九がマーキングを使ったり、絳輝が自分の髪をお供えしているが……

 と、そのときだった。

 ふいに真里の携帯がけたたましく鳴った。皆が何事かと振り返る。対して真里は、スマホに映し出された写真――隠密行動をしている仲間に頼んだものだ――を見つめると、
「わかったよ、皆。神隠しの真相が」
 え? と目をしばたたかせる一同に対して、真里は確信を込めて言った。
「行きは良い良い、帰りはこない……帰りが『こない』のは、今日で終わらせよう」

●最終バス
 午後7時発の最終バスの運転手は、妙な怖気にかられていた。先ほどから、誰かに見られているような気がしてならない。
 まもなくしてA村のバス停にさしかかる。お客は7人だ。
 ブレーキを踏み、バスを停める。そこでふと、バックミラーに人影が映っていることに気付いた。口元をバンダナで覆った、人形のような少年の姿だ。
 少年?
「ッ!」
 次の瞬間、運転手は首筋に衝撃を受け意識を失う。その右手から、ガスマスクらしきものがこぼれ落ちるのを、三瀬無銘(ja1969)は無感動に眺めていた。

●エンディング
「なるほどねぇ……帰りはまさに『こない』ってことだねぇ」
 九十九はバス停の時刻表から細いシールをはがした。そこには『19:00発』と記されている。どうやらこれだけ後から付け足されたようだ。
「に、に、偽……最終バス……だったん……で、で、ですね……」
「だからバス会社は乗せてないっていうのに、失踪した人の原稿にはバスの描写があったんだ……そもそも最終バスの認識が違ってたなんてね……」
 鉄宇とルーネが呟く。するとそこで、バス内を調べていた絳輝がギリと奥歯を噛みしめながら顔を出した。
「……いたぞ、失踪した記者と、それともう一人、女性の遺体だ。座席の下に荷物みたいに押し込まれてた」
 さらに、バス内に排気ガスを充満させる機構などが発見される。他にも、運転手の持ち物からは、過去の殺人の戦利品とおぼしきものも見つかった。
 どうやらこの偽運転手が、神隠しの真相のようだった。
「それにしても良く気付きましたね、桜木さん」
「たまたまだよ」
 カーディスの問いに、真里はわずかに微笑むと、
「ずっと7つのお呪いのことを考えてて、初めは祈祷か何かだって思ってたけれど、ふと現実的に考えてみて……そしたら、ピンときたんだ。あの歌は、もしかしたら『7時の帰りのバスが本当はこない』ことを暗示してたんじゃないか、って」
 あるいは、と真里は思う。村人はこの殺人者のことを知っていて、だからこそ旅行者を早く帰すためにあんな態度をとっていたのではないか、と。
「もしかしたら、子供たちが歌詞を変えて歌っていたのは、記者の人を助けようとしたのかも、って……なんてね」
 真里は小さく笑みを浮かべ、しかし次の瞬間だった。
「……あ」
 カーディスが、小さく声をあげた。彼はようやく、公民館で見た写真の違和感に思い至った。
「子供……何かおかしいと思ったら、公民館にあった写真に、一人も子供がいなかったんです……」
 えっ? と撃退士たちは振り返る。そういえば、村で一度も子供を見た記憶がなかった。そもそもこんな過疎村に子供がいるとは思えない。

 それでは、死んだ記者が聞いた『童歌』は誰が歌っていたのだろうか……?

「本当にソトマサマがいても……おかしくないかもな」
 絳輝が呟く。
 ちなみに偽運転手を捕まえてしまったため、撃退士たちは結局村で一泊することとなる。

 しかし、彼らが『とおりゃんせ』の歌声を聞くことは一度もなかった。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: 撃退士・高樹 朔也(ja4881)
 真ごころを君に・桜木 真里(ja5827)
重体: −
面白かった!:6人

万里を翔る音色・
九十九(ja1149)

大学部2年129組 男 インフィルトレイター
撃退士・
―(ja1969)

大学部4年140組 男 鬼道忍軍
いつかまた逢う日まで・
亀山 絳輝(ja2258)

大学部6年83組 女 アストラルヴァンガード
誠士郎の花嫁・
青戸ルーネ(ja3012)

大学部4年21組 女 ルインズブレイド
撃退士・
九十市 鉄宇(ja3050)

大学部6年142組 男 ダアト
撃退士・
高樹 朔也(ja4881)

大学部4年114組 男 アストラルヴァンガード
真ごころを君に・
桜木 真里(ja5827)

卒業 男 ダアト
二月といえば海・
カーディス=キャットフィールド(ja7927)

卒業 男 鬼道忍軍