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マスター:扇風気 周
シナリオ形態:イベント
難易度:易しい
形態:
参加人数:50人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2014/09/01


みんなの思い出



オープニング

※このシナリオは春どさイベ2014カラーポーカーの
 第4段階景品の無料イベントシナリオです。

 より多くのお客様に楽しんでいただく為、
 ■8月23日23:59までは『お1人様1PCの参加』■
 としていただきますようお願いいたします。

 また、キャンペーンシナリオの為、他の依頼に参加をしていても、この依頼に入ることができます。
 (この依頼に入った後は、通常通りの扱いとなりますので、
  条件を満たさない依頼への重複参加をすることはできません)





 夏も終わりに近づいたころ、とある自治体から久遠ヶ原へ手紙が届いた。


「お祭り?」

 斡旋所の休憩室で弁当箱(※手作り)を広げていたミルザム(jz0274)が訊き返す。
 狩谷つむじ(jz0253)の「はい!」という元気な声が響いた。

「先日、神社で天魔が暴れた事件があったんです。既に解決しているんですけど、お礼に学園関係者をお祭りに招待してくれるそうです!」
「天魔が暴れたあとだと、ボロボロではないのか?」
「えぇ、多少の準備は必要です。穴だらけの境内を整備して、ついでに掃除と出店の準備をしていただきたいそうです。少々手間ですが、それさえ終われば遊び放題です!!」

 遊ぶも良し。
 出店でバイトするも良し。

「着ようと思えば浴衣や巫女服も着れますし、打ち上げ花火大会もあるんですよー! ご飯のあとに依頼を掲示するんですけど、今から楽しみです!」
「なるほど。それで、休憩室に花火セットがたくさんあるのか」
「ですです! 奉納の催しも予定されてるみたいです。ミルザムさんも一緒に行きましょうよー。夏もあとわずかですし、素敵な思い出を作りましょう!」
「そうだな。……ところでその神社、何を祭っているんだ?」
「勝負の神様が祭られているそうです。単なる勝負事だけでなく、自分に克つ、弱気に負けない、とか目標を達成する願い事をする方もいらっしゃるみたいです」
「それは興味深い。撃退士たちが何を祈願するのか、気になるところだ」
「あ、確かに……撃退士のみなさんにとっての勝利って、何になるんでしょうね」
「私にとっては知識を得ることが勝利だな」
「私の場合は、みなさんが無事に帰ってくることですかねぇ……って、そうじゃなく! そういうのは置いといて、お祭りの楽しさを知ってください!」
「努めよう」

 祭りまであと数日。
 昼食を食べ終えたつむじは、撃退士向けに情報を公開した。


リプレイ本文

●準備
「……これはひどいですね」

 境内に到着したレティシア・シャンテヒルト(jb6767)は、神社の惨状に眉をひそめた。
 ユグ=ルーインズ(jb4265)も「あらあら」と片頬に手を添える。

「混む前に参拝しちゃおうと思ったら、ずいぶん穴ぼこだらけなのねぇ。これじゃ夜になったら歩くのも危ないじゃない……」

 現在は夜間の立ち入りを禁じている、と出迎えた依頼主は語る。

「仕方ないわね、補修手伝うわよ」

 言うや否や、ユグは転がっている大岩を持ち上げる。
 細い身体のようだが、精力的に力仕事をこなしていた。

「作業が終わったら一回シャワー浴びに戻らなきゃ」

 真っ白なドレスを着ているレティシアも依頼主への挨拶を終えて、手伝いに向かう。

「服が汚れないかい?」
「大丈夫です、掃除は慣れていますから」

 依頼主の心配に微笑を返して、服を汚さずに整備をこなしていく。
 技術の成果でもあるが、ユグが汚れる仕事を積極的に行っている影響もあった。

 大岩が片付いたあとは、星杜 焔(ja5378)の出番だ。

「地面整備はバイトでいつもしてるからね〜。お任せあれ〜」

 四年間に及ぶ土方バイトの経験とマイシャベルを活かして、丁寧に地面を整えていく。

「こういう……一人で黙々とやる作業は……落ち着くね〜」

 一堀りするたび、独り言が積もる。

「やる事ない時は……穴掘って埋める遊びとか……してたね〜……子供の頃……懐かしいね〜……穴の中に入って……体育座りしていると……気持ちが安らぐよね〜」

 聞いている連中は、がんばって聞こえないふりをしていた。

「……はっ。いけないいけない。つい思い出に浸ってしまったよ」

 ――もう今は、ぼっちじゃないよね。
 妻である星杜藤花(ja0292)と養子の顔を思い浮かべながら、作業に集中していく。
 地面が綺麗になったあとは、ユグと協力して敷石を詰めていく。
 二人とも小天使の翼を使用して、上空から繊細に位置を決めていた。

「お祭り楽しみだね」
「シャワー浴びて、浴衣で改めて祭を楽しみたいわ」

 ユグと星杜が会話を交わす一方で、レティシアも忙しく飛び回っている。
 彼女は物質透過と闇の翼を駆使して、瓦礫や重い物を運搬していた。

「撃退士が多数いますし、今まで手が回らなかったところも修繕するのはいかがでしょう?」
「大丈夫だよぉ。でも、ありがとなぁ」

 もうすぐ、祭りが始まる。

●奉納
 境内には多くの人が集まっている。
 まもなく、奉納が始まろうとしていた。

「さてっと、精一杯踊ろう♪」

 巫女服を纏ったフィル・アシュティン(ja9799)が意気込むと、手にしている神楽鈴が涼しく鳴った。

 細く、長く、繊細な笛の音色に促されて、彼女は舞台袖から中央へ歩を進める。
 ゆったりと舞いながら、音楽に合わせて鈴を鳴らし始めた。
 空気が浄化されるように祈りながらの舞だった。
 その願い通り、境内は静謐な空気に包まれていく。

 それを、一瞬で斬り払う。

「……彩渦流剣術、とくとご覧あれ」

 神社の関係者が素早く歩み寄り、神楽鈴を受け取った。
 次いで、フィルが剣を抜き払い、光纏を邪気に見立てて連続で斬り舞う。
 人が変わったかのような剣舞だった。

 切っ先を天へ向けて、横一回転しつつ残影波閃を放つと同時に、余韻を残して光纏が解除された。

 直後、白髪をたなびかせて巫女姿の微風(ja8893)が躍り出る。

 フィルと同じく剣舞ではあるが、異質のものだ。
 水のように切っ先を流し、邪気が払われたあとの真空を安堵で埋める舞だった。
 微風の容姿が儚げなこともあり、幻想的な光景になる。

 その舞に魅入られて、小見山紗風(ja7215)は思わず呟いた。

「ちょっと踊ってきてもいいですか?」

 同行者、東城 夜刀彦(ja6047)の了承を得て小見山が走る。
 微風が観衆を魅了している間に巫女服に着替えて、入れ替わりに壇上へ上がる。

 直前に見た、フィルと微風の舞踊に得意なダンスの動きを取り入れ、緩急をつけた舞を披露する。

(紗風さん……すごく綺麗だ……)

 最前列でカメラを構えている東城は、見惚れていて撮るのを忘れている。


 舞が終わったあとは、奉納試合へと続いていく。

「頑張って盛り上げちゃうぞー!」

 舞が行われていた畳の上で、伊座並 明日奈(jb2281)がビシッと天を指さす。
 巫女服は借り物ではなく、自前だった。

「ネコ巫女さんである!」

 シャキーン! と眉毛を吊り上げて得意気にすると、拍手が起こった。

 拍手が収まると、琴の音色が響き始める。
 浴衣姿の佐伯栞奈(jb7489)が、弦を爪弾いていた。
 腰まで伸ばしている髪は綺麗に結い上げられている。
 目立たない演奏だが、彼女に気が付いた者はその美貌に必ず目を留めていた。
 彼女の隣で、ノスト・クローバー(jb7527)は龍笛でハーモニーを奏でている。

(龍笛自体はやったことないけど、まぁ、似たような楽器は嗜んでいたから恐らく大丈夫)

 その目算通り、ノストはそつなく演奏をこなしていた。
 琴と笛の音色が出しゃばらない程度に、これから始まる試合への高揚を適切に煽っていた。
 自分たちが目立つよりも、みんなが楽しめるように、という気遣いに満ちた演奏だ。

「奉納試合はトーナメントなのだー!」

 魔装・魔具なし、スキルなし、光纏ありの素手勝負。
 場外か降参で決着する。

「さっそく一回戦開始!」

 初戦の行事を務める伊座並の合図で、試合が始まる。
 伊座並の出番もすぐにやってきた。

「にゃふふー。この華麗にゃる徒手空拳のボク、ネコ巫女あすにゃんは素手勝負で負ける事はないのだー!」

 自分よりも一回り大きい撃退士の攻撃を、伊座並は華麗に避ける。
 そして隙を見ては、場外へ押しやるべく足元を狙っていく。
 軽快な動きを後押しするように、佐伯とノストも曲調を早めた。
 それに気をよくした伊座並はさらに速度を上げる。
 瞬間、彼女は巫女服の裾を踏んづけた。

 あ。

 観衆が口を開けた瞬間、伊座並は畳の外へ転げ落ちた。
 しん――と静まる中、行事を務めていた雁鉄 静寂(jb3365)が告げる。

「場外です」
「にゃふ――ッ!?」

 ネコ巫女が惜しまれながら姿を消した後も、試合は順調に消化される。
 そして迎えた決勝戦。
 厳かな琴と笛の音色に後押しされて、巨体を誇る九鬼 龍磨(jb8028)が光纏の陽炎を立ち上らせながら試合に挑む。
 彼は髪を結い上げ、道着を着用している。前日から肉も断ち、身を清めていた。

 対するは長身痩躯の麗人、雁鉄 静寂である。
 彼女の手の甲では光纏が複数の歯車となり、回転している。

「いつも鍛えてますからね。一筋縄では行きませんよ」

 開戦直後に打って出たのは雁鉄だった。
 普段は銃器を好む彼女は瞬時に九鬼の懐に入り込み、掌打を放つ。
 その攻撃を九鬼が受け流した瞬間、彼女は軸足を起点にくるりと身体を移動させ、彼の背後に回り込む。

 おおっ、と観客がどよめく中、九鬼は振り向きざまに身を屈めながら足払いを放った。
 反撃を予測して待ち構えていた雁鉄は間一髪で跳躍し、空振りした九鬼を攻める――はずだったが、九鬼は両腕で頭部を防御していた。

「っ!」

 予測を上回られた雁鉄は、九鬼の両腕を蹴って間合いから逃れた。
 彼女が態勢を整える前に、九鬼は前進する。
 畳の端に追いやられた雁鉄は九鬼の体格を活かした攻撃の圧力に耐え切れず、ほどなく場外となった。

「ありがとうございました!」

 敬意を込めた九鬼の一礼と、応じた雁鉄に歓声が沸く。

「……いい試合だったわね。演奏止めないようにするの大変だったわ」

 佐伯が漏らした呟きに、ノストは笛を奏でながら微笑んだ。


「これで奉納は終わりか?」

 浴衣姿のミルザム(jz0274)が、狩谷つむじ(jz0253)に尋ねる。

「いえ、まだ舞とマジックショーがあるみたいです」
「舞ならさっき終わっただろう」
「なんで分けてるんでしょうね?」

 演奏していた佐伯とノストも撤収している。
 しかし突然、スピーカーから音楽が鳴り響いた。

 テレビでよく流れる、流行りのJ−POPだった。
 アップテンポのダンスミュージックに乗って、Abhainnsoileir(jb9953)が天使の微笑を浮かべながら現れた。

「大好きな歌を奉納しますー」

 服装はもちろん、巫女服だ。

「なるほど。分けられるはずだ」

 ミルザムが納得していた。

「あれ、これ間違ってるんです?」

 観衆の微妙な反応を察知してAbhainnが首を傾げるが、「いえいえいー」とつむじが否定しつつノった。

「私この歌好きですー」
「あっ、よかったー。私も良い歌なので覚えました!」

 ちょうど前奏が終わり、歌が始まる。

 細けェことはいいんだよ祭りなんだから楽しめばいいンだよ、と言わんばかりにちらほらと観客もノりはじめた。
 神主も率先して最前列でノっていた。

「うむ、祭りと歌は楽しい。いい笑顔だ」

 イカ焼きをモグモグしながら、ミルザムがAbhainnを眩しそうに見つめていた。
 歌い終えた後、Abhainnは笑顔を振りまきながら袖に下がった。

 すると、スピーカーからマジックショーでおなじみの、あの音楽が流れ始めた。
 エイルズレトラ マステリオ(ja2224)の催しだ。
 黒いタキシードにシルクハット、カボチャマスクという格好で登場した彼はカードを扇型に広げて、すぐに閉じる。
 直後、カードは鳩に変わっていた。
 もう片方の腕では、スーパーボールをバスケットボールのように弾ませている。
 最初は普通に跳ねたが、途中から跳ねなくなった。
 どよめきに対して、エイルズレトラはニヤリと笑った。

「種明かしはこの子に頼もうね」

 彼は、いつの間にか自分にそっくりなぬいぐるみを足元に置いていた。
 マントを被せて振り払うと、ぬいぐるみはエイルズレトラ自身に変わる。
 影分身を巧みに使ったマジックだ。

「疲れちゃったから、あとお願いね」

 本体はマントを羽ばたかせたあと、観衆に紛れて姿を消してしまう。
 影分身はオロオロと困り果てるがそれも束の間、十数秒後にドロンと消えた。
 彼自身は祭りを楽しむべく、既に出店が並ぶ方へと向かっていた。

 境内では再登場したAbhainnの神楽舞が始まり、ノストからお守りを貰ったつむじが喜び跳ねている。

●巫女のアルバイト
 奉納は終わったが、境内は活気に満ちていた。
 社務所の前にも、お守りや御朱印を求める人々が列を作っていた。

 書家の家系に名を連ねる星杜 藤花(ja0292)は巫女服を着用して、御朱印を担当していた。
 声を掛けられるたびに巧みに筆を走らせ、手渡すときは丁寧に礼をしている。

「……だけど、既婚でも大丈夫なのでしょうか? それに本当は神職の方が持つべきものですし……」
「あ、いいのいいの。お爺ちゃんが許可してるし」

 隣にいた神主の孫娘はさらに続ける。

「気を付けてね。お爺ちゃん、お尻撫でてくるから」
「えっ!?」

 藤花は驚き、身を強張らせる。
 藤花は境内整備で活躍した星杜焔と入籍しているが、色々あって清い関係を維持している。
 養子を持つ身だが、この類の話には未だ免疫がなかった。

(っ、お、お仕事)

 頬を赤らめながら、無心で筆を走らせる。
 焔が迎えに来るまで、うっすらと紅潮したままだった。

 社務所では、おみくじも人気だ。
 担当する巫女の前には列が出来ているが、Ω(jb8535)はそれを眺めながら境内を竹箒で掃いていた。
 先ほどまでおみくじを売っていたのだが――

「我の笑顔はただじゃあないからね」

 と愛想笑いもせず、

「ミシャグジ? 引く? 今なら大凶いっぱいだよ」

 といった有様だったので、神主から竹箒を渡された。
 以降、彼女は「豆腐喰いてぇ……」と無関係のことを考えながら、ぼんやりと箒を動かし続けている。

 だが、不意に聞こえたシャッター音とフラッシュが意識を覚醒させた。
 振り向けばそこに、無断撮影を行ったカメラ小僧。
 無言で即、カメラを破壊した。

「これだ」

 役割を見つけたΩは、周囲を警戒し始める。

●必勝祈願
 社務所の前で、シルファヴィーネ(jb3747)が真剣な面持ちで何かを見ている。
 彼女が凝視しているのは絵馬だった。

「必勝祈願」に利益あり、と説明されたばかりだ。

 ふと顔を横向けると、説明書きの看板に「恋愛成就にも効き目あり!」と書かれていた。

(……恋愛成就? 誰かとの恋が上手くいきますように、とでも書くのかしら?)

 男なのに自分よりも女装が似合う、ある人物の顔を思い浮かべる。
 一瞬で顔が赤くなった。
 ……置いてあるマジックペンに手を伸ばす。
 隣の家族連れの声を過剰に意識しながら字を、

(……出来る訳ないでしょうがぁぁ……。そもそも悪魔が神頼みって何? って話だし……)

 そもそも、願いは自分で叶えるべきだろう、と自己完結。
 ――だが、他人の願いを祈願するのはいいのでは、という思いも頭を過ぎる。

 絵馬には、「あいつの苦しみが少しでも軽くなりますように」と書かれた。

 その隣に、ミハイル・エッカート(jb0544)の絵馬もぶら下がっている。
「ピーマンに勝つ!」と、漢らしさを思わせる力強い字だ。

(俺はピーマンを避けたいのになぜか向こうから寄ってくるからな……)

 遭難してやっと出会った食事はピーマンだらけ。
 BBQの差し入れドリンクが何故かピーマン・カフェオレ。
 人助けで俺一日貸し出し券を競売に提供したら、落札者がピーマン農家。

(ピーマン料理まで作って食べる羽目に……あぁ、しばらく寝込んだぜ)

 彼に信仰はないが、神にすがりつきたい気持ちだった。
 先ほど気合を入れて、賽銭箱に小銭を叩き付けた。
 打てば打つほど効きそうだ、と思い柏もたっぷり打った。

 時は来たのだ。

「いらっしゃいませェ♪」

 かき氷の出店をやっていた黒百合(ja0422)に、注文を一つ。

「ピーマン・シロップで一つくれ」
「はぁい♪」

 食べたあと、ミハイルは運ばれた。

●出店
 黒百合の店には、ピーマン以外にも様々な味が用意されていた。
 イチゴやレモンといった定番に加えて、フルーツを乗せたトロピカル系、大人向けにアルコール系もある。
 ピーマンは、キムチ味や納豆トッピングといった変わり種(ゲテモノ?)に属するメニューだった。

「倒れるほどではないはずですがァ?」

 ミハイルのことは自治体に任せて、彼女は店に戻った。
 店先に置いた氷の造花が評価されて、店は大繁盛している。

「きゃはァ、夏祭りといえば出店ェ、出店と言えばカキ氷ィ、いっぺんやってみたかったのよォ♪」

 義手の維持費の足しにすべく、積極的に呼び込んで売上を伸ばしていく。

 月乃宮 恋音(jb1221)も、黒百合の隣で鼈甲飴の店を出していた。
 決まった形の飴を売るのではなく、客の希望を聞いて作る飴細工の店だ。
 先ほどまで神社の手伝いをしていたので、巫女服を着用している。
 Wカップ――それどこのサッカー大会? というバストサイズに調節された巫女服である。
 訪れる客は飴を作るところではなく、彼女の胸ばかり見ている。
 当人は作業に夢中で、視線に気が付いていない。

(う、うぅ……お店を早く落ち着かせて、琵琶を演奏しにいかないと……)

 恋人のための「ドラゴンゾンビ型の鼈甲飴」は既に作成済みだが、まだ用事はたくさんある。

 繁盛する店が隣り合ったことで、列もだんだん崩れ始めていた。
 エクセリア=バーグ(jb7454)が現れたのは、ちょうどその時だった。

「……では私の執事力をお見せしましょうか」

 様々な問題を解決してきた能力を、彼はここでも存分に発揮する。
 まずは、これ以上ないスマイルを浮かべながら列の整備を完了させた。
 その後は店側に立ち、客の注文に応じていく。
 黒百合や月乃宮と目を殺す勢いで視線を交わしてシャープに作業をこなす様は、圧巻の一言だった。

●出店巡り
 喜屋武響(ja1076)と櫟 諏訪(ja1215)は、共に恋人と都合が合わなかった。
 だから、二人で回ることにした。

「今日はのんびり楽しみましょうねー?」
「うんうんっ、今日はよろしくねっ!」

 屋台の食べ物を、片っ端から制覇していく。
 特に響の食べっぷりが強烈だった。

「だ、だって食べ盛りの男子高校生だし……! 美味しい匂いが俺を呼んでるんだよっ」

 黒百合の店で買ったかき氷を食べながら歩く二人は、射的の出店で立ち止まった。

「諏訪さん、俺、銃はセンス無いからやってるとこ見てるね!」

 諏訪は頷いた後、コルク弾を充填しながら銃身を確認する。
 銃の癖を把握してから、ぬいぐるみストラップに狙いを定める。

「さすがに射的で外すわけにはいかないですねー?」

 見事、命中させていた。

「諏訪さんすっごいすっごい!」
「これでお土産ができましたねー」

 もちろん、恋人に渡すつもりだった。
 射的を終えた二人は、神社の方へ向かう。

「そろそろ進級試験だしさー……学業成就、お願いしとかないと」

 響がため息まじりに話す。

「今の俺にとっては進級できるかどうかが大きな戦いってことで、駄目かな?」
「いいと思いますよー」
「諏訪さんは何をお願いするの?」
「秘密です。でも、しっかり願いますよー」

 順番が来た二人は、熱心に手を合わせる。

(……恋人と幸せな毎日が続きますように)

 諏訪の、切なる願いだった。


 諏訪の切なる願いを現在進行形で叶えている二人がいた。
 ファング・CEフィールド(ja7828)とシエル・ウェスト(jb6351)の二人だ。

「へえ、これが日本の御祭り、かあ」

 周囲を見回すファングの腕を取って、シエルは叫ぶ。

「食ーべーまーすーよー!」

 シエルはファングの腕を引っ張って、出店に突撃する。
 焼きそば、綿菓子、ヨーヨー釣りに射的と、祭りの基本をファングに見せていく。

「と言うか、一緒の依頼って修学旅行以来ですよね?」

 はしゃぐシエルに微笑みかけながら、ファングは歩調を合わせる。
 そのタイミングに合わせて、近寄ってくる男がいた。

(ん?)

 すっ、と浴衣の袖に手が伸びてきた。
 ファングはその男の手首を容赦なく、容易くへし折った。
 一歩、二歩、三歩――そこでようやく、男の短い悲鳴が聞こえた。
 激痛が遅れるほど、鮮やかに折ったのだ。

「どうしたんですか?」

 気付かせないつもりだったが、シエルはファングの微細な変化に気が付いていた。
 しまった、と思うよりも愛しさが先立って、ファングは呟く。

「今日の君はドキドキするよ、すごく、美しい」

 シエルは目を丸くしたあと、はにかみながら笑った。

「たこ焼き食べましょう! たこ焼き!」

 照れ隠しの為か、シエルは再びファングをぐいぐい引っ張る。
 山のようにたこ焼きを注文して、鬼のような勢いで平らげていった。

「ファングさん、あーんしてください」

 ギャグ漫画のような量に、ファングが「いやいやいや」と首を振る。

「まぁまぁまぁまぁまぁ」

 ファングをギャグ時空へ引き込むべく、シエルはたこ焼きを口に近付けていき、ファングは――?


 百目鬼 揺籠(jb8361)とルナリア・モントリヒト(jb9394)の二人組も、のんびりと出店通りを歩いていた。
 男女の組み合わせではあるが何を隠そう、ルナリアは悪党のボスで、百目鬼は部下だった。

「賑やかですよ、悪党の出番ですよ。……あ、浴衣あれば着てきてくださいねぇ」

 と、百目鬼が誘ったのだ。
 結果、浴衣姿のルナリアを連れて彼は歩いている。

「好きなの買って良いですよ」

 たこ焼きや綿菓子といった定番の出店を、ルナリアは物珍しそうに観察している。

「爺、これはどのように食べるんですの?」
「たこ焼きは爪楊枝で。綿菓子はこうやってですね……」

 ルナリアの口がソースや砂糖でべたべたになると、百目鬼は丁寧に拭ってやる。 

「む、なんですの、あの方々」

 ルナリアが指差したのは、特攻服を着た地元のヤンキーだった。
 気付いたヤンキーが「あぁッ?」と凄む。

「まぁまぁ」

 百目鬼が嬉々とした様子で近寄るが、ヤンキーは歯を剥く。

「そんなに事を荒立てねぇで」
「うっせぇ、この、」

 百目鬼の着物に腕が伸びる。

「喝――――っっっっっっ!!!!!!!」
「ふぎっ!?」

 ……。
 にこり、と笑った百目鬼はルナリアを連れて立ち去る。

「爺、あれ」
「ん? 金魚すくいがどうかしましたかぃ?」
「あんなに狭いところで、可哀想ですわ」
「……じゃあ、一丁救ってやりますか」
「えぇ。全て救って小等部へ配りますわよ」

 二人が金魚救いに挑む少し前に、狗猫 魅依(jb6919)も似たようなルートで出店を巡っていた。
 幼い体は浴衣に包まれていて、黒の髪と紅の瞳がより映えている。
 綿菓子、リンゴアメ、クレープ、チョコバナナといった甘味を手にするたび、猫の耳がピコピコ揺れた。

「みぅん♪」

 フリフリと揺れる尻尾に、通りすがった人々が目を奪われる。
 口の周りはソースとチョコと砂糖でべたべたになっていた。
 その姿のまま、最後に行きついたのが金魚すくいの屋台だった。

「おさかにゃ……おさかにゃ……」

 おや、と百目鬼とルナリアが目を見張る。

「……これたべられる?」
「だめですのよ」
「みぅん……」

 よだれを垂らしながら金魚を注視していた狗猫が、ルナリアにやんわりとたしなめられた。

「せっかくなんで、一緒にやりますかぃ」
「みぅん♪」

 百目鬼が、狗猫の口の周りを丁寧に拭っている。


 白地の着物に、薄桃色の花が咲いている。
 その浴衣は、ファラ・エルフィリア(jb3154)によく似合っていた。
 到着して間もない彼女は、すぐに人ごみから友人の姿を見つけ出す。

「おー。ネイやんだー!」
「……ん? ファラさん?」

 必勝祈願を終えて帰ろうとしていた、ネイ・イスファル(jb6321)だった。
 着用しているのは濃紺の浴衣である。

(……ネイってば浴衣似合ってるねぇゲヘヘ)
「っ!?」
「あれ、なんで及び腰になるかにゃー?」
「い、いえ、なんでもありませんよ?」

 ファラから漏れ出す、腐のオーラのせいだった。

(何故でしょう。狩られる獲物の気分になりました……)
「せっかくだし、一緒にお祭り回る?」
「あ、そうですね」

 二人はのんびり、出店通りを歩く。

「皆さー。夏色々遊んでるけど、やっぱり皆が揃ってって、なかなか難しいよねー」
「一緒に行けるかどうかは、運も必要になりますからね」
「大きい戦闘のときだけ揃うってのも辛いからさ。皆でまたわいわいやれるといいねぇ♪」
「そうですね……もっと平和になったら、皆で遊びに行ける機会も増えるかもしれませんよ」

 友人同士、のんびり過ごしている。


「はぁ……」

 賑わう出店通りをため息まじりに歩くのは、雅楽灰鈴(jb2185)である。

「白ちゃん来れんだもんなぁ……」

 服装は濃灰と黒の市松模様の甚兵衛で祭り仕様だが、兄が一緒に来られなかったため、表情は晴れない。

「しゃーないて、土産でも買ってこか……なぁしろこ?」

 肩に乗せた猫を撫でながら、出店を巡る。

「お、この面しろことくろこにそっくりやん。買ってこか」

 飼い猫によく似た黒猫の面を側頭部に付けて、土産になりそうなものを物色していく。

「次は射的かな……ん?」

 雅楽の目に入ったのは、犬乃 さんぽ(ja1272)の屋台だった。
 射的に似た装いの店だが、的は景品ではなく、弓道に用いられる的だった。

「いらっしゃい! 真ん中に刺さった数で景品が変わるよー!」

 指の間に手裏剣を挟んで、金色のポニーテールを揺らしながら犬乃がウィンクする。

「シュリケンと言ったらニンジャ、正義のニンジャのボクが、バッチリニンジャの技をお祭りに、だもん!」

 言いながら、犬乃は実際に的の中央に手裏剣を当てて見せる。
 美貌も相まって、このパフォーマンスが子供たちに受けていた。

「あの兎のぬいぐるみ……うさぎて、白ちゃんみたいやんなー。あのジッポかっこえぇな……嫌やけど黒いのんにも持って帰ったるか」

 雅楽は犬乃から手裏剣を受け取り、的に挑む。

「わぁ、3つ命中だよ! おめでとう!! ぬいぐるみとジッポだね……臨・兵・闘・者・皆・陣・裂・在・前、忍龍召喚!」

 呼び出されたヒリュウが、雅楽に景品を渡す。

「ありがとなー、くノ一の姉ちゃん」
「わわ、ボク、男だもん!」

 雅楽はその後も順調に、戦利品と食べ物を土産に加えていった。
 そろそろ帰ろうか、というところで花火の案内が聞こえた。

「……あー、ムービーやな」

 頭上に向けて携帯を構える。

「あ?」

 雷が、鳴っていた。


「おおーっ、レオ、レオ! 次はこれやろうぜ、射的だっ」

 大狗 のとう(ja3056)は、心友の花見月 レギ(ja9841)を引っ張り回していた。
 リンゴ飴や綿菓子をはじめとした荷物は、全て花見月が抱えていた。

「のと君。あんまり急ぐと転んでしまうぞ」
「わかってるわかってる!」

 はしゃぐ大狗はさっそく銃を構えて、カウンターに肘を乗せている。

「のと君。銃はもうちょっと……」

 花見月は大狗の背中に手を添えかけて、一瞬止まった。
 ……年頃の女の子に密着するのは不躾だろうと考え、後ろから銃身を支える方法で指導する。

「こうか?」
「うん。そう」

 勝ち取った戦利品を手に、二人は店を出る。

 二人の近くで、小見山紗風と東城 夜刀彦が話している。

「奉納、お疲れ様でした。とても素敵でしたよ!」
「ありがとうございます。フフッ誉めてもらえるとうれしいですね」

 巫女服から浴衣に着替えた小見山がしとやかに微笑む。
 紺色の浴衣を着た東城は、顔を赤らめる。

(さっきはカメラ押す余裕なくてしょんぼりだったけど、次こそは! 次こそは!)

 と、東城が意気込んだ瞬間、何か降ってきた。
 雨だった。

「って、えええ!? 頭冷やせ的な勢いで土砂降りぃい!?」

 屋根を求めて、一斉に人並みが動く。
 東城たちも無事に避難することができた。

「いきなりすっごい降ったね。だいじょうぶふぉあ!?」

 東城が吹き出す。
 濡れ透けの浴衣を着た小見山が、身体を隠そうと焦っていた。

「ちょ、ぅぉ、ままま待ってこれ羽織って!」

 夜のために準備していた上着を慌てて被せる。

「……ありがとうございます」と小声の小見山。
「だだ、だいじょうぶ?」
「ええ大丈夫です……」

 お互い、自分の顔が見れなかった。


「やはー! いきなり降ってきたな、びっくりだ!」

 雨宿りできる場所へ猛ダッシュした大狗が、髪をかき上げながら一息つく。

「夕立と言うより……スコールだな……と」

 食べ物中心の戦利品を抱えていた花見月が、何かに気が付く。

「これってば、濡れてないか? ……うん?」

 食べ物の心配をしていた大狗も花見月の視線に気付く。
 花見月は、透けた大狗の下着にどう反応すべきか悩んだ後、

「……実用してくれてたんだな。それ」

 誕生日に贈った物だったので、つい呟いてしまった。

「ん? ああ、着け心地が良いからな! ありがたく使わせて貰ってる」

 大狗は濡れたシャツを抓んで水滴を飛ばす。
 ――よくよく考えると、友人への贈り物としてどうだったのだろう。
 そんなことを今さら思った花見月だが、すぐに首を振った。
 大狗との関係に、形容詞は意味を成さない。

「風邪を引く前に急いで焼きそば、だな」
「ああっ! なぁなぁ、服も濡れちゃったしさ、これってば家で食べようぜ!」

 雨は降っているが、大狗は満面の笑みを咲かせている。


 同じ状況下にもかかわらず、爽やかで健康的な場面と無縁の二人は、こちら。

「おー。なんかすごい濡れた。綿飴食べ終わっててよかったよー」
「えぇ、凄い土砂降りで……ぶふぉ!?」

 ネイ・イスファルが、ファラ・エルフィリアの姿を見て吹き出した。

「ファラさん! 透けてる! 透けてる! 白の浴衣だから余計に!」
「おお、ネイやん水も滴るイイ男で体格丸わかりでひゃっほぅ」
「ちょ、隠して! なんでヒャッホゥなの!?」

 腐り気味だからです。


 雨はまだ降り止まない。

 ルナリアは百目鬼が用意していた傘に入り、雨に打たれずに済んだ。
 シエルとファングも、用意してあった傘に二人で身を寄せている。
 二組とも、雨宿りするために境内へ向かっていく。

 彼らの後ろ姿を、屋根の下から鴉女 絢(jb2708)とジョシュア・レオハルト(jb5747)が見送っている。

「すごい雨だったねー」
「はい……」

 実は、二人とも今日が初対面だった。

 パーカーにマフラー姿のジョシュアがリンゴ飴を買おうとした際に偶然、鴉女と注文が被ったのだ。
 困ったことに、その飴が最後の一個だった。

「あ、ど、どうぞ。僕は次のが準備出来るまで待ってますから」
「あ、いいんです? ありがとうございます!」

 そのまま「せっかくの縁だから」ということで、一緒に出店を巡っていた。
 そこに、雨が降ってきたのだ。

「さっきからなんで下向いているの?」

 質問されたジョシュアはさらに顔を背ける。
 鴉女は、スカートに薄手のシャツという格好だった。
 びしょ濡れになった彼女の肌に、服がぴったりと張り付いている。

「と、とりあえず、これを」

 透けている下着を見ないようにしながら、ジョシュアがパーカーを差し出す。

「あっ、ありがとう」

 鴉女はさっそくパーカーを羽織るが丈が足りず、スカートが張り付いている太ももまでは隠せない。
 彼女は、その罪深さに気付かない。

(僕はどうすれば……と、とりあえずこうすればいいのかな)

 マフラーで自分の視界を遮ってみる。
 が、

「どうしたのー?」

 赤面している顔を、下から鴉女に覗かれる。
 悪戯っぽく可愛らしく笑う彼女を、初心なジョシュアは直視できない。

「よろしければ、どうぞ」

 言いながら二人にタオルを差し出したのはエクセリアだった。
 彼は天気予報で夕立を予測し、傘やタオルを配り歩いていた。

「でも、あなたも濡れてますよ?」と鴉女。
「雨は好きなもので。それよりもあなた様が濡れる方が私は心配です。どうかご自愛を」

 前髪の毛先から水滴を落とす彼は、気が利くイイ男だった。


 食べ物巡りから雨宿りへ流れたのは、ギィ・ダインスレイフ(jb2636)と陽向 木綿子(jb7926)も同様だった。

 ギィが屋台を全制覇する勢いで食べ歩き、陽向も美味しそうに食事をするギィから多幸感を得ていたが、雨の勢いには勝てなかった。

(ヒナ……濡れると、風邪ひく)

 ギィはとっさに、羽織っていた上着を陽向に被せた。
 雨宿りができる場所まで、全力疾走だった。

「ヒナ、寒くないか?」
「上着を被せていただいたから、私は大丈夫です。でも先輩がずぶ濡れ……」
「うん……タコヤキ、濡れた……」

 ギィは肌が透けるほどに服が濡れたことより、食べ物が水浸しになったことを悲しんでいた。
 陽向はギィをじーっと見て、考える。

(……プールに一緒に行った事ありますし、上半身は見た事ありますけど……こう、服が濡れて透けると何と言うか……)

 何と言うか?

(いっ、いえっ。何でもないです)

 ぽわぽわした思考をぶんぶんと打ち消す。

「折角のたこ焼き、濡れちゃいましたね。新しいの買いに行きましょうか。あっちにカキ氷もありましたよ」
「……うん、食べる……」

 ほんのりと頬を緩ませるギィを見て、陽向の心も安らいだ。

「……ヒナ、今日の服、変わってる……」
「あっ、はい。巫女装束を着てみました。どうでしょう?」

 両手を広げて、くるりくるりと身体を回す。

「……うん。悪くない……」

 陽向が、笑った。


 雨のせいか、気温が下がっている。
 濡れた身体が冷えるには十分だ。

(このままだと風邪を引いてしまいますね……)

 巫女服を着たままの微風が、空を見ながら呟く。
 彼女自身は空気の変化に敏感なため、濡れることなく避難していた。

(身体を拭くものが余ってないか、神社へ確認してきましょうかね)

 走りかけた彼女を、浴衣姿の桃夜(jb9017)が「なぁ」と呼び止めた。

「巫女さん、濡れて困ってる奴を見かけたら、これ使ってくれ」

 彼が差し出したのはタオルだった。
 微風を見送ってから、桃夜は屋根の下で酒を飲み、焼きそばを食べる。

 雨が上がるまで――花火が始まるまでのんびり待ってみるつもりだった。
 そして花火を見ながら、のんびり過ごすつもりだった。

 同じ屋根の下には、家族連れの姿もある。

(懐かしいものだな……賑やかで、こんなのもたまには良いだろう)

 酒で舌を湿らせながら、もう一つ思う。

(今度は昔みたいにあの子と来たいものだ。叶うならばな……)

 雨はまだ、止まない。


 斉凛(ja6571)はメイド服を着て、甘酒と紅茶の出店を手伝っていた。
 店先で片付けをしていた彼女は、急な夕立でずぶ濡れになった。

 純白のメイド服は水に透けるが、下着は見えない。
 胸が小さく、幼児体型の彼女はブラを着けていなかった。

 ふわりとしていたメイド服が肌に張り付き、痩躯のラインがくっきりと出てしまっている。
 恥ずかしそうに胸を隠していると、嗜虐心を露にしたカメラ小僧が殺到してきた。

「辞めてくださいですの……お願いだから!」

 ぐすん、と泣くが無断写真撮影会は終わらない。

 そこに、恋愛祈願を終えて歩いていた神谷春樹(jb7335)が通り掛かる。

「……」

 彼は、集団に気付かれないように慎重に、しかし迅速に接近する。
 次いで、具現化したワイヤーでカメラとメモリーを瞬時に破壊した。

(ちょっとやり過ぎかもしれないけど、あんな写真が残ってるのは良い気がしないもんね)

 慌てふためくカメラ小僧たちに、神谷は告げる。

「不思議なことがあるね。嫌がってるのに無許可で撮影した天罰じゃない?」

 呆然とする斉に、神谷は手を差し出す。

「ここは危ないし移動しようか」
「ま、待てェ! 黙ってれば調子に乗って、」

 叫んだカメラ小僧が迫ってくると、神谷は有無を言わさず斉を抱き上げた。
 お姫様抱っこしながら、その場を颯爽と脱出する。

「ま、まてぶげら!?

 追おうとしたカメラ小僧たちが、何者かにトンファーで殴られた。
 やったのは夕立でずぶ濡れになり、イライラしているΩだった。

「……水って電気をよく通すんだっけ。やってみないと、解かんないや」

 帯電トンファーを構える彼女はとてもいい笑顔だったと、目撃者は語る。

「ありがとうございますですの」

 移動中、終始真っ赤だった斉は地面に下りてからようやく礼を言った。
 神谷は斉の服の状態に気付き、赤面した顔を背けながら上着を貸した。

「安物だから、返さなくても良いから」
「……すみませんですの。こんな物ですがお礼に彼女さんとどうぞ」

 斉が猫型のクッキーを渡す。
 雨が徐々に、弱まり始めている。


 雨を避けずに佇む撃退士がいた。
 アスハ・A・R(ja8432)の周囲には、うっすらとした青色の光が鱗粉のように漂っている。

「雨、か……ああ、打たれるのも悪くはない、な」

 何をするでもなく祭りの様子を眺めていたはずが、今は上空と雨を見つめている。
 表情は笑顔だったが、眼差しは悲哀に満ちていた。
 彼は、自分の髪が蒼くなる原因となった一連の戦いや、その時に逝った二人のことを思い返していた。

「……神頼みや冥福を祈る、というのも少し違う、が……ま、たまには、な」

 お賽銭でもして軽く祈っておくか、と歩を進める。
 雨の勢いは落ちてきている。
 が……雨が無くなることは未来永劫、ありえない。

「また、味わいたいもの、だな……あの苛烈な豪雨を、な」


 蓮城 真緋呂(jb6120)は、浴衣を着ている。
 藍色地に桔梗の花模様のもので、とてもよく似合っている。
 ――だが今は、その着物姿を見れない。
 あれも美味しい、これも美味しいと食べ歩きながら屋台を楽しんでいたのが数分前。
「あら、雨?」と空を見上げたのはつい先ほどのことで、今は、同行している米田 一機(jb7387)の上着にくるまれている。
 おまけに、密着している。

「え、あ……」

 ほぼ抱き締められるような格好になったせいで、うまく思考が回らない。
 米田の七分袖ジャケットが、雨に打たれる音が、自分の心臓の音と重なる。
 ……米田の胸に耳を押し当てていたため、蓮城が気付く。
 心臓の大きな音が、二つある。

「……ありがと」

 きっと、彼もとっさの行動だったのだ。
 この照れくささは、共有のものだ。

 事実、米田も「……どうしよう」と固まっていた。
 突然やったはいいものの、密着したことで頭が真っ白になっていた。

「雨宿り、いこうか」

 彼がようやく出した声は上ずっていたが、蓮城は頷いてくれた。

「驚いた、わね」

 屋根の下に移動したあと、蓮城が声を震わせながら呟いた。

「ご、ごめん」
「あっ、ち、違う違う、雨の話……き、急に降るから」

 自爆だった。
 穴があったら入りたい、と米田は思う。

「……ふふっ」

 少し気まずいけれど、悪い雰囲気ではなかった。
 その証拠に蓮城は小さく笑って、二人はまだ密着したままだ。

 雨が止むまで、ずっとそうしていた。

「帰りましょうか」

 浴衣姿の蓮城に促されて、二人は手を繋いだ。
 帰り道、米田はふと空を見上げる。
 雲が切れて、涼しい風が吹いていた。

(今年の夏は、ずいぶん色んなことがあったなぁ……)

 その夏がもうすぐ、祭りと共に終わる。

●花火
 神社の裏手に小さな丘がある。

 その人気のない場所で、神楽坂 葵(jb1639)は無表情で不機嫌そうにしている。
 原因は彼女の隣にいる、黒華龍(jb4577)にあった。

 多忙でめったに姿を見せない彼からデートに誘われたまではいい。
 出店巡りをしたのも問題ない。
 その最中、黒が人前で神楽坂にべたべた触り始めたのが問題だった。

「夜は女の肌を美しくしますねぇ……おっと、貴方は元から美しいですが」
「触るな、と言ってるだろうが!」
「くっくっく……可愛らしい反応だ。敏感で結構な事です」

 へそが見える、丈の短いぴったりしたシャツにホットパンツ、サンダルという装いだったので上気した肌が隠せなかった。
 表情にはあまり出していないし認めるつもりもないが、一緒に居られるのは嬉しい。
 だが人前でべたべたされるのは嫌だった。
 恥ずかしかった。
 タコ焼きを買って「はい、あーんしなさい」とからかわれてからここに逃げ込むまで、一言も話していない。
 それにもかかわらず、黒はサングラスをかけた悪人面でニタニタ笑っている。
 すぐに悟る。
 あれは、どうやって茶化そうか考えている顔だ。

 久しぶりに会えたのに、と腹を立てた瞬間に、大きな音が鳴って花火が上がった。
 雨で開始が遅れたが、見事な花火だった。

 ……美しくも儚い光景にあてられた神楽坂は意を決して黒に寄り添い、そっと手を握り、指を絡めた。 

「蛇……いや、華龍。置いて逝くなよ、絶対に……」

 悪人面の黒から、ニタニタ笑いが消えて、サングラスの向こうで目が見開かれた。
 彼がサングラスをかけ直して、二人がキスを交わすまであと、数秒――。


「たーまやー」

 穏和な表情で呟いているのは柚島栄斗(jb6565)である。

「遥と一緒に見られなかったのは残念ですが、やっぱり楽しいですね」

 恋人と来ることは叶わなかったが、彼は存分に祭りを楽しんでいた。
 先ほどから頬張っているたこ焼きの味にも満足していた。
 彼は、他にも色んな荷物を抱えていた。
 恋人(厨二病)のために購入した銘入りの木刀が背中に刺さっている。
 手提げ袋には可愛らしい扇子が入っている。
「金魚を全て救った」と豪語する女の子から金魚も貰えた。

「喜んでもらえるといいんですけどねー。……っと、いけない。忘れてた」

 花火の写真を撮って、恋人に送るつもりだったのを思い出した。

「ひと夏の思い出にってことで、一つっと」

 シャッター音を鳴らしたあと、写真を確認する。

「……ん? 花火、欠けてる?」


 花火が咲いている夜空を、飛び回っている撃退士が二人。
 闇の翼で空を飛ぶウェル・ウィアードテイル(jb7094)が、幽樂 來鬼(ja7445)を抱えている。

「ナイトフラワースカイクルーズ……なんてね。特等席での花火観覧、一緒に楽しんでよ?」

 要は、遊覧飛行だった。
 花火が始まるまでは出店で遊んだり食べたりしていた。
 しかし、花火が始まってからウェルが人気のない場所に幽樂を連れ込み、いきなり抱き上げた。
 その後は花火と一定の距離を保ち、のんびりと神社上空を飛行している。

「クルーズってねぇ……でも久しぶりにゆっくり出来るから楽しまないとねぇ」

 幽樂が笑うと、ウェルはもっと笑ってみせた。

「わっ」

 ウェルが、くるくると宙を舞う。
 遊園地で回転するコーヒーカップを気取ってから、再び止まる。
 喜びの舞だった。

「來ちゃん、いつも甘えたりわがまま言うウェルちゃんに付き合ってくれて、ありがとね」
「……お礼言われるとなんか照れるのだぉ」

 幽樂が照れくさそうに笑う。
 彼女たちが互いを相棒と認め合ったのはまだ最近だが、二人の間にはそれを感じさせない信頼があった。
 咲いては消えていく花火と違い、きっと、これからもずっと、続いていくはずのものである。
 その心地よさを表現するように、ウェルがゆったりとした飛行に再び切り替えていた。

「のんびりだのぉ」
「うんー」

 二人の横顔を、花火の光が彩っている。


 花火が上がるころ、蛇蝎神 黒龍(jb3200)は翻訳業務の都合で既にホテルへ戻っていた。

 必勝祈願は神社で済ませてきた。
 お守りも二つ買ってきた。
 片方は自分のため、もう片方は恋人のためのお土産だった。

(喜ぶとええなぁ)

 戦闘意欲がとても高い人物なので、喜んでもらえるはずだった。

「……少し休憩しよか」

 ノートパソコンを広げているテーブルの上には屋台の料理と、コンビニで買ったビールやつまみがある。
 彼にとっては忘れてならない、カフェオレもある。
 それらに手を伸ばしつつ、動画サイトで神社の花火が上がる様子を視聴する。

 小休止のあとは、一気に仕事を片付けた。
 ふと窓の方を見ると、近くでも花火が上がっていた。

「ここにも花火上がんねんなぁ」

 呟きながら、荷物から恋人の写真を取り出す。

「乾杯」

 こつん、とカフェオレの容器を写真にぶつけてから中身を口に含んだ。


 もうすぐ花火と祭りが終わる。
「また皆で遊べますように」と書かれた絵馬が、風に揺れている。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:23人

思い繋ぎし紫光の藤姫・
星杜 藤花(ja0292)

卒業 女 アストラルヴァンガード
赫華Noir・
黒百合(ja0422)

高等部3年21組 女 鬼道忍軍
撃退士・
喜屋武 響(ja1076)

大学部3年283組 男 ルインズブレイド
二月といえば海・
櫟 諏訪(ja1215)

大学部5年4組 男 インフィルトレイター
ヨーヨー美少女(♂)・
犬乃 さんぽ(ja1272)

大学部4年5組 男 鬼道忍軍
奇術士・
エイルズレトラ マステリオ(ja2224)

卒業 男 鬼道忍軍
絆を紡ぐ手・
大狗 のとう(ja3056)

卒業 女 ルインズブレイド
思い繋ぎし翠光の焔・
星杜 焔(ja5378)

卒業 男 ディバインナイト
災禍祓いし常闇の明星・
東城 夜刀彦(ja6047)

大学部4年73組 男 鬼道忍軍
紅茶神・
斉凛(ja6571)

卒業 女 インフィルトレイター
撃退士・
小見山紗風(ja7215)

卒業 女 ルインズブレイド
肉を切らせて骨を断つ・
猪川 來鬼(ja7445)

大学部9年4組 女 アストラルヴァンガード
特務大佐・
ファング・CEフィールド(ja7828)

大学部4年2組 男 阿修羅
蒼を継ぐ魔術師・
アスハ・A・R(ja8432)

卒業 男 ダアト
穏やかなれど確たる・
微風(ja8893)

大学部5年173組 女 ルインズブレイド
起死回生の風・
フィル・アシュティン(ja9799)

大学部7年244組 女 ルインズブレイド
偽りの祈りを暴いて・
花見月 レギ(ja9841)

大学部8年103組 男 ルインズブレイド
Eternal Wing・
ミハイル・エッカート(jb0544)

卒業 男 インフィルトレイター
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
撃退士・
神楽坂 葵(jb1639)

卒業 女 ルインズブレイド
符術士・
雅楽 灰鈴(jb2185)

高等部3年2組 女 陰陽師
もふもふもふもふもふもふ・
伊座並 明日奈(jb2281)

大学部1年129組 女 ダアト
precious memory・
ギィ・ダインスレイフ(jb2636)

大学部5年1組 男 阿修羅
子鴉の悪魔・
鴉女 絢(jb2708)

大学部2年117組 女 ナイトウォーカー
おまえだけは絶対許さない・
ファラ・エルフィリア(jb3154)

大学部4年284組 女 陰陽師
By Your Side・
蛇蝎神 黒龍(jb3200)

大学部6年4組 男 ナイトウォーカー
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー
撃退士・
シルファヴィーネ(jb3747)

大学部1年164組 女 ナイトウォーカー
オネェ系堕天使・
ユグ=ルーインズ(jb4265)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
黒 華龍(jb4577)

卒業 男 鬼道忍軍
白炎の拒絶者・
ジョシュア・レオハルト(jb5747)

大学部3年303組 男 アストラルヴァンガード
あなたへの絆・
蓮城 真緋呂(jb6120)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプA
闇を祓いし胸臆の守護者・
ネイ・イスファル(jb6321)

大学部5年49組 男 アカシックレコーダー:タイプA
久遠ヶ原から愛をこめて・
シエル・ウェスト(jb6351)

卒業 女 ナイトウォーカー
完全にの幸せな日本語教師・
柚島栄斗(jb6565)

高等部3年7組 男 インフィルトレイター
刹那を永遠に――・
レティシア・シャンテヒルト(jb6767)

高等部1年14組 女 アストラルヴァンガード
諸刃の邪槍使い・
狗猫 魅依(jb6919)

中等部2年9組 女 ナイトウォーカー
High-Roller・
ウェル・ウィアードテイル(jb7094)

大学部7年231組 女 阿修羅
揺れぬ覚悟・
神谷春樹(jb7335)

大学部3年1組 男 インフィルトレイター
あなたへの絆・
米田 一機(jb7387)

大学部3年5組 男 アストラルヴァンガード
遥かな高みを目指す者・
エクセリア=バーグ(jb7454)

卒業 男 アストラルヴァンガード
成層圏の彼方へ・
佐伯栞奈(jb7489)

大学部5年303組 女 アストラルヴァンガード
【名無輝】輝風の送り手・
ノスト・クローバー(jb7527)

大学部7年299組 男 アカシックレコーダー:タイプB
陽だまりの君・
陽向 木綿子(jb7926)

大学部1年6組 女 アストラルヴァンガード
圧し折れぬ者・
九鬼 龍磨(jb8028)

卒業 男 ディバインナイト
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
インファイトガール・
Ω(jb8535)

卒業 女 アカシックレコーダー:タイプB
桜色の追憶・
桃夜(jb9017)

卒業 男 ディバインナイト
撃退士・
ルナリア・モントリヒト(jb9394)

高等部2年27組 女 アカシックレコーダー:タイプA
歌う天使・
Abhainn soileir(jb9953)

大学部3年1組 女 アストラルヴァンガード