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マスター:扇風気 周
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:4人
リプレイ完成日時:2014/07/08


みんなの思い出



オープニング

 あの日、諦めなくて良かった。

 そう思える日は、来るのかしら?


 その日、少女はおぼつかない足取りで、ふらふらと街中を歩いていた。
 目指す先は郊外にある廃ビル――その、屋上だった。

 靴を揃えて、ひしゃげたフェンスの向こう側で、裸足の状態で立ってみた。

 遺書は書かなかった。

 高校を卒業して約三ヶ月。
 仲の良かった友達は皆、卒業して大学や専門学校に進んだ。

 少女だけが、大学受験に失敗して浪人した。
 机の上で参考書を広げて、「勉強をしているフリ」だけを熱心にやりながら、この三ヶ月を過ごした。

 それが母親にバレたのは一週間前のことだ。

「いい加減にしなさい」という母親の叫び声に耐え始めて一週間。
 もう、限界だった。

 あと一歩進めば楽になれる。
 あの、落ちゆく夕日に向かって飛べばいい。
 跳んでしまえばいい。

 びゅう、と風が呻いた。
「……うぅ」と、風が鳴いている。

「ううぅ、ううぅぅ……」

 風ではなく、泣き声だった。
 あと一歩進めば楽になれるのに、楽になるのが怖くて、楽になれなかった。

「怖いのかい?」

 背後から聞こえた声に、少女はハッと振り向く。

 穏和な笑みを浮かべた男が立っていた。
 優しそうな男だった。

「死にたいのに、死ねない。そんな自分が悔しいのかい?」

 少女は、恥ずかしさと情けなさに唇を噛む。

「恥じることはないよ。人間、誰だってそんなものだと思う」

 男は手を広げて、直後、軽い調子で言ってのける。

「みんなは辛い時期を耐え抜いて、今を楽しんでいる。なのに、自分は楽しさだけを欲しがって、それが手に入らないから楽になりたがっている。それを恥だと思うキミはきっと、真面目な人なんだろうね」

 瞬間、少女は呆然とした。
 母はいつも、彼女の失敗を「不真面目」のせいだと決め付けた。
 そして今も、勉強が手に付かない彼女自身を責め続けた。

「かわいそうに。キミは、何も悪くないのにね」

 自分が産まれてからずっと一緒にいる母にはわからなかった胸中を、会ったばかりの男が見抜き、慰めた。
 その事実を理解した瞬間、少女は風の音よりも大きな声で泣き叫んだ。

 理解者を得た安堵感と、見知らぬ誰かですら見抜いてくれた孤独を母がわかってくれない現実への虚無感。
 それらが混じり合って、頭の中はぐちゃぐちゃになってしまっていた。

「……良かったら、少し時間をくれないかい?」

 彼女に歩み寄った男が、彼女の傍らに膝をついて、背中を擦っている。

「少し楽になるといい。誰も責めたりしないさ」

 ――だって、キミのことをわかってくれる人なんてどうせ、ボクを含めてどこにもいないのだから。

 優しい声を掛けながら、男は心中で残酷な現実を呟いていた。


 夕日が落ちたあと、男は少女を連れて歩いた。
 郊外の、不便な場所にあるせいで買い手が付かない空き地を目指して歩いた。
 少女は気力を失っていて、黙って男についていく。

 その空き地には巨大な植物が生えていて、天頂部に大きな蕾をつけていた。
 植物に近付くと、少女は突然、力を失って倒れ込んだ。
 男は、花の根元に少女を寝かせてやった。

「現実っていうのは、ひどく残酷だ」

 男は、眠る少女の頬を撫でながら呟く。

「悪夢に浸るのと、悪夢みたいな現実に目覚めるのと、いったいどちらが悪夢なのだろうね」

 植物の茎から、光るツタが伸びてくる。
 ツタが少女のうなじに接触した瞬間、閉じていた蕾がゆっくりと花開く。
 毒々しい、紫色の花だった。
 花開いた瞬間、花粉が舞い散って、あたりに降り注いだ。

「どうぞ召し上がってください、天使さま」

 少女の感情を生贄に捧げて、男は――名無鬼は静かにその場を立ち去る。
 花が咲いている空き地を、天使から与えられた小型の監視サーバントが覗き見ている。


 明くる日。

「……どうも、奇妙な敵が出現しています」

 狩谷つむじ(jz0253)が、斡旋所を訪れた撃退士を捕まえて語っていた。

「空き地に咲く大きな花なんですけど、武器を持って近付くと花粉を盛大にばら撒くそうです。
 花粉を吸い込むと意識が朦朧としたり幻覚が見えたり――とにかく、普通ではいられないみたいです。
 しかも、花の周りにはこれまた大きなハチがぶんぶん飛んでいるそうで。
 でもハチと戦っている最中、偶然武器を落とした撃退士が、素手なら花に接近できると気が付いたんです」

 そして花の根元には、捜索願が出されていた行方不明の少女がいた。

「敵と少女は繋がっています。無理に切り離そうとしたところ、花粉をばら撒かれて撤退を余儀なくされました」

 幻覚から回復した撃退士は全員、同じ幻影を見たと証言している。

「原理はよくわかりませんが……花は、彼女の辛い思いを代弁している。そう考える他ないようです」

 つまり、彼女が悪夢から目覚めれば幻覚は止まるかもしれない、ということだ。

「被害者を助けてください」

 取り急ぎ、求められる大きな役割は二つある。
 武器を持たない状態で敵に近付き、被害者を説得する。
 あるいは、説得を担当する仲間を守る。
 この二つだ。

「厄介ですが、他に方法がありません。彼女の親族と、彼女と苦しみを共有した先発隊からの依頼です」


 しかし疑問は残る。

 何故、こんな面倒なサーバントを作る必要がある?

「簡単なことですよ、天使さま」

 サーバントを『発注』する前に、主に問われた名無鬼は説明した。

「だってこっちの方が、撃退士たちが怒りそうで楽しいじゃないですか」


 そして今、名無鬼は監視サーバントを経由して、大きく咲いた花の様子を自室で眺めている。


リプレイ本文

 彼女は昔の夢を見ている。

 母に百点の答案を見せたときの夢だった。

「花マルさんだね」

 微笑みを向けられたあと、抱き締められるのが幸せだった。
 頭を撫でられるのが誇らしかった。

 良い点を取れば褒められる。
 単純な解釈だった。

「この調子でがんばりなさい」

 いつからか、母は「もっとがんばれ」と言うようになった。

「受験が過ぎるまでの辛抱だから」

 笑顔を求めて、彼女は母の言う通りにした。

 頭がぼんやりして、頭痛がひどくなり、がんばれなくなったのはいつからだったか。

「ママはどこで間違えたのかしら」

 母の形をした影が彼女に言う。
 直後、影は形を変える。

「私は、どこで間違えたのかしら」

 母は彼女に、彼女は母に。
 影は姿を変えながら、彼女の間違いを暴こうとしている。


「……自分とママに責められる夢かぁ」

 悪夢の内容を聞いたオズワルド(jc0113)は、うーん、と唸る。
 彼と共に被害者の説得を担当する予定の草摩 京(jb9670)も、神妙な顔をしている。

「早く悪夢から解放させないと」

 決意を呟く日下部 司(jb5638)の横で、ノスト・クローバー(jb7527)が「そうだね」と同意する。

「俺は口を挟むと辛辣な言葉しかかけられなさそうだし、説得は任せておくよ」

 右に同じです、と抑揚のない声で機嶋 結(ja0725)が同調した。

「相手が悪魔でないなら、機械的に処理するだけです」

 隣では百目鬼 揺籠(jb8361)が咥えていた煙管を口から離し、細く、長く煙を吐き出している。

 その紫煙の向こう側に、毒々しい花の化け物が咲いていた。
 向坂 玲治(ja6214)が、軽く拳を鳴らす。

「どれ、雑草の間引きと害虫駆除しに行くか」




 多くの人が、心の奥底で夢を見ている。

 いつか誰かが助けにきてくれる夢を。

 いつか誰かの、光になる夢を。


●援護班
 ヴヴヴヴヴ、と生理的な嫌悪を催す羽音が響いていた。
 毒花の周りを飛び交うハチの群れへ、堂々と歩み寄る影が一つ。
 向坂だ。
 武器を肩に担いだまま、くいっ、と指で手招きしながら言い放つ。

「ほら来いよ。お前らの敵はここにいるぜ」

 まずはハチを花の周囲から引き剥がし、被害者の説得役と護衛を送り込む。
 それが今回の作戦だ。

 その目論見通りに、ハチたちは挑発に乗った。
 向坂は反転して、花から遠ざかる。
 陽動を補佐するため、機嶋とノストもハチの群れの左右を並走する。
 群れの最後尾では毒島勇輝(jb6176)が追走していた。

 彼らが花から十分離れたところで、説得班と護衛班が迂回しながら花を目指していく。
 群れの最後尾にいた数匹のハチが反応したが、毒島が阻霊符を発動させてハチの気を逸らした。

(実戦における光纏を観察する、いい機会ね)

 毒島はハチに攻撃を行わず、攻撃を防ぎながら花から遠ざけていく。

 先頭のハチは向坂を追い続けて、最後尾付近のハチは毒島を追い続ける。

 その誘導に奇異なものを感じたのか、左右を固めていたハチの移動速度が鈍った。
 数匹のハチが花に戻ろうとした瞬間、銃声が連続で轟く。
 機嶋が放った、二丁拳銃による威嚇射撃だった。

「ノストさん!」

 花粉に注意を、という警告を込めて、機嶋が彼の名前を呼んだ。
 説得班に攻撃が及ぶ場合は銃撃する、というのは事前に打ち合わせ済みだ。
 銃声が聞こえた瞬間、ノストは移動を止めて花に振り返っている。

 花が上体を反らすように幹をしならせ、こちらに花粉を飛ばしてくる瞬間に彼は備えていた。

 ――ふっ! と短く呼吸を切りながら、ノストは光纏を一段と輝かせる。
 同時に、大きく風が吹いた。
 上空へ向かう春一番が壁となり、花粉を押し上げる。
 吹き上げられた花粉が落ちてくる前に、ノストも陽動に戻る。

「助かります」
「うまくいってよかったよ。……俺らも注目されるようなスキルを持っていたらよかったんだけどね」

 状態異常を回避したものの、陽動中に攻撃をしたのはこれが最後になった。

 もっと離れれば花粉を飛ばされずに済むかもしれないが、保障はない。
 風を起こすタイミングを間違えば、状態異常で悲惨なことになるかもしれない。

 これらの可能性を考慮して、彼らはハチの攻撃を受けることに専念した。
 機嶋はハチの攻撃を鎧で受け続け、ノストは予測回避で攻撃を掻い潜る。

「ぐっ!」

 うまく攻撃をやり過ごしていた毒島が、ハチの体当たりで負傷する。
 続けて別のハチから噛み付かれそうになった瞬間、向坂が割って入った。

「ありがとうございます!」
「おう」

 庇われた毒島は、自分と性質の違う向坂の光纏を見て密かに思う。

(一口にアウルといっても、光纏には個性があってとても興味深いわ……)

 遠くを見れば、機嶋も自己治癒能力を上げて奮戦している。

(実に面白い!)

 毒島は心を躍らせているが、負傷の度合いが進むにつれて焦りが募る戦況ではあった。

「もう一度攻撃してみるかい? さっきよりも離れているし、花粉が飛ばせる距離を判別できるかもしれない」

 蝶のように舞いながら、ノストが声を掛ける。

「……」

 武器を銃から刀に変更した機嶋が、光纏で刀身を黒く染める。
 斬撃を繰り出そうと地を蹴った瞬間、「待った!」と向坂の声が聞こえた。

「あれは……」

 毒島が花の方を振り返る。ハチも動きを止めていた。
 花の化け物が、悲鳴を上げている――。



 彼女は、夢を見ている。

 ビルの屋上で、夕日を前にして、膝を抱えて泣いている夢を見ている。

 前にも後ろにも行けない夢だった。

「いたいところはない?」

 背後から聞こえた声に、彼女はハッと振り向く。

 あのときと違って、誰もいなかった。
 代わりに、今度は空から声が降ってきた。

「初めまして、草摩京です。よろしくお願いしますね」
「ボクはオズワルド。悪魔だけど人間の味方だよ。きみの名前はなんていうの?」

●護衛班
 現実の彼女は、花の根元で夢と現実の境目を漂っている。

 ……正直に言うと、日下部はそんな彼女のことを快く思っていない。
 結局、彼女は自分の弱さに負けているだけではないか。
 不真面目というのは、あながち間違っていないのでは。
 彼は、そう考えている。
 しかし、救助に関しては別だ。
 無事に救出する。その一念に関しては強いものを持っていた。

「行かせませんよ」

 陽動から漏れたハチを前にする日下部は、武器を構えていない。
 救出完了まで絶対に構えず、攻撃も行わない。
 不退転の覚悟で武装した身体こそが、唯一無二の盾だった。

 飛び込んでくるハチの攻撃を、日下部は真正面から受け止める。

「俺に構わず声を掛け続けて下さい」

 彼の背後では、草摩とオズワルドが説得を始めていた。
 百目鬼もそばに控えている。

「あなたの夢を見たひとから話は聞きました。……辛かったんですね。お母さんに理解されなかった事」

 ……うぅっ、と嗚咽が漏れた。
 オズワルドの毛むくじゃらの手が、涙を拭う。

「いつもどおりが当たり前になっちゃったのかも。……家族や友達は傍に居るからこそ、きみの気持ちに気付けなかったのかも」

 ううぅっ! と苦しげに少女が呻いた瞬間、ヴヴヴヴ! と羽音が近付いてきた。
 ハチが一匹、日下部を振り切って接近してくる。
 渾身の体当たりを代わりに防いだのは、百目鬼だった。
 続けてもう一匹ハチが攻撃してきたが、間一髪で日下部が止めた。

 二人に目礼した後、草摩は再び少女に語りかける。

「痛みを誰かに理解して欲しかったですよね……受験の悩みや苦しみを聞いて欲しかったですよね」
「でも、私、……が弱かった、から……みんな、同じなのに」

 彼女が示した初めての反応を、草摩とオズワルドは逃さない。

「それでも……結果が出なくても、貴女は頑張ったじゃないですか」
「そうだよ。辛いなら逃げよう。今は無理して前を向かなくていいし、頑張らなくたっていい」
「……だめ、それだと、ママが喜ばない」

 少女が何か言おうとした瞬間、ギィィィ! と花が蠢いた。
 鞭のように振るわれたツタを、百目鬼が身を投げ出しながら受け止める。
 吹き飛んだ後、受け身を取った百目鬼は鋭い眼光で花を射抜く。

「話がしてぇっつってるの! 無粋な真似すんじゃねぇですよ!」

 その間に、少女が草摩とオズワルドが告げる。

「私、別に受験なんてどうでもよかった。ただ、ママに偉いねって言ってほしくて……期待に、応えたくて……」

 ……。

「馬鹿みたいよね……もう、子供じゃないのに。ママも、呆れちゃう」

 それが、彼女の嘘偽りのない心情だった。

「……きっと貴女は少し不器用だったんですね」

 沈痛な面持ちで呟いた草摩に、オズワルドが「うん」と頷く。

「不真面目なんかじゃ絶対にありません」
「そうだよ。きっと誰のことも傷つけたくなかったんだよ」

 少女の目が開く。焦点の合わない、ぼんやりとした視線だった。

「お母さんのこと、まだ大好きですか?」
「……うん」
「なら、一緒にお母さんに伝えに行きましょう。死ぬくらいなら、思いっきり叫んでみませんか?」
「……やだ、甘えるな、って、怒られる」
「うまくいかなかったら一緒に泣きます。伝わったら、一緒に笑って泣きます。……一度死んだと思って、お母さんに気持ちを伝えてみませんか?」
「むり、だよ……できない、こわい」

 花が悲鳴を上げた。
 攻撃の勢いが増すが、日下部と百目鬼が、歯を食い縛って踏み止まる。

「ここまで頑張ってきたんでしょう! 自分でそれを否定しちまうんですかぃ!」

 百目鬼の叫びをかき消すためか、花がまた叫ぶ。

「きみは自分を傷つけてるよ。お手伝いはできるけど、きみを助けるための一歩を踏み出せるのはきみだけなんだよ」

 そばにいるオズワルドの声なら届く。

「きみ自身を助けてあげて。目を覚まして!」

 草摩の声なら届く。

「もしも拒絶されたら、いつでもうちの神社に来て下さい。私は真面目でも不真面目でもない、お母さんが好きな貴女を待っています。いつだって話を聴いて、一緒に笑って、一緒に泣きますから……」

 手だって、届く。

「さあ、手を取って下さい。伸ばせば、すぐ傍に私たちは居ますよ」


 全てのハチが、花に向かって飛んでいた。
 援護班が虫を追っている。
 花が怒り狂っている様子も見えた。
 オズワルドの咆哮が聞こえて、青白い光纏が広がっていくのも見えた。

 説得成功の合図を受けて、銃を取り出しながら毒島は呟く。

「……なるほど。アウルだけが撃退士の力……ではないわけね」

 彼女が狙うのは、少女と花を繋ぐ触手だ。
 光纏で身体能力を引き上げて、集中する。
 引き金を引いた直後――花の巨体が、揺れた。

「撤退します!」

 少女を抱える草摩の背中に、再捕獲を狙ってツタが伸びてくる。

「おっと、俺を忘れてねぇか?」

 強引に割り込んだのは、全力疾走で駆け付けた向坂だ。
 ツタは向坂に巻き付いて彼を取り込もうとしたが、日下部と機嶋が素早くツタを切り落とす。

「こっちでさぁ!」

 鉄下駄でハチを蹴り飛ばしながら、百目鬼が叫ぶ。
 向坂も槍を振り回して援護していた。
 二人が作った退路を、オズワルド、草摩、日下部の三人が進む。

 少女はオズワルドに抱えられて、草摩は弓で周囲を警戒しながら追走していた。
 殿は日下部が勤めていて、接近してきた二体のハチを神速の刃を飛ばし、最後には沈めていく。

 一分の隙もない、見事な撤退だった。


 花の周辺には、多くのハチが残っていた。
 花もまだ生きていて、怒りを燃やしている。

 しかしそれ以上に、撃退士たちの光纏も輝きを放つ。
 ぶん! と空を薙いだ槍の穂先が、化け物に向けられた。

「ようやく解禁か……お礼参りといかせてもらうぜ」

 槍の持ち主である向坂は、ニヤリと笑いながら突撃する。

「これで本気が出せるようになる。手加減するのはどうもまだるっこしいね」

 雷を下半身に、風を上半身に纏ったノストが全身を緑色に輝かせて、手近のハチに挑む。
 ハチの攻撃を紙一重で避けてアウルを叩き込み、魔法書で放った真空の刃でトドメを刺していく。

 彼と同じく、毒島もハチを攻撃している。 

「私のアウル、喰らいなさいっ!」

 装備は銃から杖へ変更されているが、攻撃自体は光纏で作った氷の鞭で行っている。
 ハチに命中するたび、氷の粒子が飛び散る鮮やかな攻撃だった。

 一方、機嶋は花の近くへ駆けつけるときに使用した全力跳躍で、ハチの合間を駆け抜けながら攻撃している。
 ハチが繰り出す死ぬ間際の特攻を警戒して、先手必勝の斬撃を繰り出しては移動する。

 元々能力が低いこともあって、ハチたちは瞬く間に掃討されていった。

 そして――

「ギィイイイイイイ!」

 花は、身動きが取れずにいた。

「これで終ぇです! 御覚悟を!」

 百目鬼の左手が伸びて、茎や葉に巻き付いている。
 かざした掌には眼が浮かび、花を睨み付けて束縛している。
 全て幻覚だが、花には抗う術がない。

 拘束された花に、影が重なる。
 空高く跳び上がった向坂の影だった。
 花に突き刺した槍の一撃が、トドメになった。 


「色々趣向を凝らしたみたいだが……結局大した事ねぇな」

 一仕事終えて、向坂が息をつく。

「で、大丈夫そうか?」

 向坂の視線の先には、救出された少女がいる。
 彼女の周りに、撃退士が全員集まっていた。

「少しぼんやりしているみたいだけど、問題なさそうです」

 応急手当をしていた毒島の言葉で、安堵が広がる。
 しかし、少女の顔色は優れない。

「あなたは『どうしたい』ですか?」

 日下部が声を掛けると、少女はぴくり、と反応した。

「年下の俺が言うべきことではないかもしれませんが、自分自身がしたいことを見つめて下さい。負けないでくださいね」

 少女は目を閉じる。
 草摩が手を握ると、少女は涙を一筋流して握り返してきた。

「ところで、君はどうして花に捕まっていたんだい」

 ノストが単刀直入に尋ねた。

「同じような目にあうことを減らすのも、撃退士の役目だからね」

 少女は、小声で「妙な男」について口を開いた。
 その途中、オズワルドが頭上に向かって叫ぶ。

「誰だ!」

 異常を感知した瞬間、頭上の景色が歪み、羽根を生やした目玉が出現する。
 機嶋が即座に銃撃したが、目玉はそれよりも早く位置をずらした。
 ニィィ、とほくそ笑むように、監視サーバントが目を細める。

「お前が黒幕だな! どうしてこんなことするんだ! 卑怯だぞ!!」

 返答はない。
 目玉は現れたときと同じように、姿を溶かして消えていく。

「人の子の心で弄ぶような真似。いけすかねぇ感じでさ」

 百目鬼の言葉が、その場にいた全員の心を代弁していた。

「それはさておき……来たみたいです」

 毒島の言葉に、全員が反応する。
 サイレンを鳴らして救急車が近付いてきた。
 停車した後、救命士よりも早く駆け降りてくる女性の姿があった。


 個人情報保護のため、報告書はここで途切れている。
 ただ、両者の夢は叶った――とだけ、記載がある。



依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

秋霜烈日・
機嶋 結(ja0725)

高等部2年17組 女 ディバインナイト
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
この命、仲間達のために・
日下部 司(jb5638)

大学部3年259組 男 ルインズブレイド
撃退士・
毒島 勇輝(jb6176)

大学部7年3組 女 アカシックレコーダー:タイプA
【名無輝】輝風の送り手・
ノスト・クローバー(jb7527)

大学部7年299組 男 アカシックレコーダー:タイプB
鳥目百瞳の妖・
百目鬼 揺籠(jb8361)

卒業 男 阿修羅
『楽園』華茶会・
草摩 京(jb9670)

大学部5年144組 女 阿修羅
撃退士・
オズワルド(jc0113)

高等部2年18組 男 ナイトウォーカー