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マスター:サトウB
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:5人
リプレイ完成日時:2013/01/13


みんなの思い出



オープニング

 るい、るい、るるい。
 形容しがたいその音は、二人の背後をそろそろりと付いてくる。ただそれが音なのか、それを纏った動きであるのか、それはわからない。
 音を立てず、空を切らず、それは僅かな気配だけを持っている。
 るい、るい。
「気味悪いっすね」
 二人組の調査隊、その若い方は眉根を寄せてそう呟いた。遠くで風が枝の隙間を通り抜けるような音がする。背後でざわざわ鳴るこの葉の音は、まるで誰かが後をつけてきているかのよう。
「気味悪いって何だ。幽霊でもいるってのか」
 彼よりも少々歳の行った方は、その言葉を鼻で笑った。
 自分達が子供の頃には夢物語だった『天使』とか『悪魔』が、今や当たり前の存在として人間を脅かす世の中。ファンタジーな幻は現実のものとなり、自分達はそれを敵と捉えて真っ向から立ち向かう職にある。調査隊と言う立場上、一般人よりも遥かに多く天魔やそれが作り出したものを目にする機会に恵まれる彼らには、モンスターも妖怪も実在のものであって、未確認で恐れるようなものではない。
「今更何が怖いってんだ。実害無い分、幽霊だったらありがたいだろ」
「何言ってんすか、やですよぅ!」
 るるい。
 木の葉だらけで隠れた道を歩き通し、ようやく二人は目的の場所へ足を踏み入れた。
 そこは山の中の小さな集落。この辺りの山間では珍しく、住宅が割と密集している地区だ。瓦屋根の時代を感じさせる家から、まだ築浅な家まで。それら全てに灯は無く、人の気配もない。
 辺りを忙しなく照らしながら進んでいくと、むに、と若い彼の足が何か柔らかい物を踏みつけた。
「わっ!」
 少々怯え気味だった彼は予想外の感触に声を上げて驚き、また暗い中に響き渡った声に年嵩の彼も思わず肩をすくめておどろく。
「何だ!」
 飛び上がった足元をライトで照らすと、そこに転がっていたのはぬいぐるみだった。片手で持てるくらいの、汚れてはいるが可愛らしい顔をした白熊だ。
「びっくりした……」
「まったく、驚かせるな」
「おじちゃん達、どこの人?」
 会話に突如割り込んできたのは、幼い声だった。振り向くと、今進もうとしていた道に一人の女の子が立っている。その姿はごくごく自然で何の疑いも無くその存在を認めてしまいそうだったが、
「え……は?」
 すんでの所で彼等の頭は正常に訴えかける。
 ここは、数ヶ月前にゲートが出現して放棄された集落だ。住民は強制退去となり、未だ居住許可は降りていないし、きっと降りる事はない。ゲート自体は破棄されコアも破壊されてはいるが、あり得るかもしれない危険を回避するためにこうして自分達はたった二人で調査にやってきているのだ。
「何で子供が……?」
「どうしてこんな所にいるんだ、お父さんかお母さんは一緒なのか?」
 るい、るい。
 音が大きくなってくる。
 少女は身を硬くしてじっと二人を見ており、頷きも首を振りもしない彼女を怪訝に思いつつも、二人はそちらへ歩み寄ろうと一歩踏み出した。
 するとその足を止めるように、少女は小さく口を開く。
「おじちゃん達が来たから、お家に帰れないんだよ」
 るい。るるるるる。
 風か、そうではない何かなのか。耳に届くか届かないかを掠めていく音。空気が急速に異様なものに変わっていく事に、異様な光景を目の当たりにしている二人は気付かない。
 その音の気配が、気配の音が、渦を巻いて二人の背後に集まっている事にも。
「何?」
 意味深なその一言に何かを返そうとしたその途端、二人の背後に突如大きな気配が頭をもたげた。振り向く前に、それは低く恐ろしい程の咆哮を上げる。
「ひっ……!?」
 振り向いたその目線の先、と言う程でもない至近距離に、ありえないものがいた。
「そんな、馬鹿な!」
 それは二本足で立ち上がった、白熊だった。

 久遠ケ原学園の一室に集められた撃退士達は、その報告を黙って聞いている。
「この白熊はサーバントの可能性が高い。というか、十中八九そうだろう。だがその少女に関してはそうとも言い切れない」
 スクリーンに現れるのは、昼間の件の集落の写真だ。酷く荒廃しているわけではないが人の気配は無く、小綺麗な廃墟、と言ったところだ。
「ここは強制退去となった集落だ。もしかしたら、近辺に勝手に住み着いた一般人がいるかもしれない」
「その一員であるかもしれないということですか」
 一人の撃退士の質問に頷き、教師は手元のスイッチでプロジェクターを切る。
「そうだ。もしも天魔であれば、熊と共に撃退。一般人であれば家族共々保護しろ」
 その言葉と共に、撃退士達は誰からとも無く立ち上がった。


リプレイ本文

 かさりかさりと、彼らの足は落ち葉を踏んで音を立てている。道があるにもかかわらず、その舗装された道も落ち葉に埋もれてしまっていた。
 歩を進める撃退士の、その表情には警戒が浮かんでいる。ピンと張りつめ、辺りを照らしながら黙々と進んでいるが、その先頭の袋井 雅人(jb1469)だけはそれに該当しない。
「……それ何なんですか」
 怪訝そうに訊く只野黒子(ja0049)に笑顔を向け、袋井は持っていた箱を掲げてみせる。
「何って、ケーキだよ」
 さも当然そうに言う彼のフォローなのか、その隣を歩いていたマーシー(jb2391)が黒子を向いて、
「袋井部長は女の子が大好きだからね」
 と笑顔で言うが、それも結局黒子を黙らせる要因にしかならなかった。
「あなた女の子だけが目的なわけ?」
 Erie Schwagerin(ja9642)の冷たい視線も全く気にせず、袋井は真っ直ぐな瞳で頷く。
「人間の男はそんな事ばかり考えているのか」
「あの人が特殊なんですよ」
 口の端に笑みを浮かべるヴィルヘルミナ(jb2952)に対して、森田良助(ja9460)が慌てて全人間男性のためのフォローをした。
「あ、家だ」
 マーシーが声を上げてライトをそちらへ向けると、古い瓦葺きの家がぼんやりと明かりの中に浮かび上がった。そこから道の先に、点々と家が連なり出す。
「思ったより新しいのだな」
 そう呟いて、後ろをずっと気にしながら最後尾を歩いて来たフィオナ・ボールドウィン(ja2611)も前を向く。家自体は古いものの、所々リフォームしたばかりのようである。
「簡単に捨てられるような土地ではなかったんだね……」
 言いながらその向かいに立っている家へと森田のペンライトがすっと移動すると、その動きの途中で暗がりを照らしていた光の輪の中に白い何かが照らし出された。
 るい。
 慌てて光を戻すと、道の真ん中に白いワンピース姿の女の子が、何も持たず何もせず、じっとその場に立っている。
「あの子だ!」
 るるる、るるるる。るい。
 先頭の袋井とマーシーが駆け出す中、ヴィルヘルミナだけは別のものを見ようとしていた。その姿に気付いた森田が彼女を見ていると、彼女は視線だけで森田を見る。
「何か聞こえるか」
 るいるいるい、るるい。
 問われ、瞬時に鋭敏聴覚を発動する。仲間の足音、衣擦れなどが耳に入ってくるが、気を張り構える程の異常な何かは森田の耳には届かない。
「いえ……何も」
 ヴィルヘルミナも同様に、何かが聞こえている訳ではなかった。
 だが感じる。耳に届くようで神経を直接震えさせるこれは、気配だ。
 一方先頭にいる袋井は、無防備に少女へと近づいていた。
「こんばんわ、かわいい嬢さん」
 袋井がそう言うと、少女は少し身を固くして後ろに下がる。
「大丈夫、何もしないよ。ケーキ好き?」
 戦場にケーキって……そう思いながら、マーシーもやわらかい笑顔を浮かべ、少女に近づく。
「僕はこのお兄さんのお友達ですよ〜」
 安心させようとしてなのだろうが、こんな幼い少女を本気で口説こうとしている男の友達では結局怪しいではないか。そう他の面々が思って口に出そうとしたその時、一行の背後でけたたましい咆哮が発せられた。
「何!?」
 ばっと反射的に振り返ると、今来た道に巨大な白い塊がある。それはぐうっと伸び上ると三メートルに届こうかという巨大な白熊だった。
「おいでなすったわね」
 エリーが不敵に笑うと同時に白熊へ向かって走り出す。そちらへ向かおうとして、報告を思い出しマーシーは足を止め振り返った。少女の姿はまだそこにあったが、その目は恐怖で見開かれ、じりっと足を引いている。
「大丈夫だよ、あの人たちがやっつけてくれるからね」
 笑みを戻してしゃがみこんだマーシーに並び、袋井は持っていた箱を開けて同じように微笑んだ。
「ケーキ食べて待ってようよ」

 射程に収まると同時に、森田のダークショットが白熊に向けて放たれる。黒い弾丸は白熊の腕に当たったがそれ程のダメージではなかったらしく、よろけることもない白熊は森田をぎっと睨み付けた。それを好機と、呪文を唱えていたエリーが白熊へ向けてぱっと手を向けると、白熊の周囲の地面から何本もの手が蠢きながら現れる。しかしその手は白熊をからめ取ることはなく、今度は白熊の目がエリーを捉えた。
「意外、避けるくらいの頭は持っているのね」
 白熊の足が一歩踏み出そうとするよりも速くヴィルヘルミナがエリーの前に出ると、必然的に白熊の目標は彼女へと移行する。走りこむ彼女に向かって鋭い爪が振り下ろされるが、それを紙一重で避け、彼女は空へと舞い上がった。
「ほれ、追ってみろ」
 空へ上がる標的を追い、白熊の頭は天を向く。そうして地上への注意が一瞬消え、いつの間に移動したのか、道の脇へと潜んでいた黒子の攻撃が熊の腹を突き抜けた。命中に喜びもせず、黒子はただじっとその前髪の奥から標的を見続けている。
 気配を殺した黒子の位置は知られず、見ていない所からの攻撃にその元を探そうと忙しなく辺りを見回す血走った目は、彼女が潜んでいる茂みを素通りし、腕を組みこちらを見ているフィオナを見つけた所で止まった。
「獣如きに端から我が至宝を抜くこともあるまい」
 来た道を戻るように離れたフィオナは、月を背負い不敵に笑った。同時に彼女の周りに現れた魔力球から出現した光る剣は、彼女が踏み出すと同時に白熊へと一本残らず突き刺さる。
 激しい怒号を上げフィオナを攻撃しようとするその手に、森田の二発目のダークショットが的中すると、白熊は再び声を上げて足を止めた。
「ダークショットはこれで終わり……」
 いらなそうだ、と判断してナイトビジョンを押し上げると、森田の視界はぱっと赤くなる。少し驚いて目を見開くと、エリーが真っ赤なドレスに身を包み、笑みを浮かべながら影の書を開いた所だった。
 ずるりと足下の月光に作られた影が隆起し、その姿は長い棘の形を成す。それは次の瞬間には白熊の肩を貫いて消え失せ、間髪置かずに上空からヴィルヘルミナの氷の刃が同じ場所を斬り付け、白熊は激しい咆哮を上げた。
 大きく見開いた目は上空のヴィルヘルミナを捉えたが、この高さをどうする事も出来ない事は分かったのだろう。再び地上に降りた目が森田とエリーを捉えるが、その注意は直後フィオナへと強制的に向けさせられる。
「誰に背を向けている、無礼な獣が」
 不敵に笑いながら剣の切っ先を突きつける。真っすぐな殺気とタウントの効果が合わさり、白熊は迷わずに彼女へと突進してきた。
 その背に再び黒子が射撃を浴びせるが、今度はそのダメージにも白熊は怯まない。
「チッ!」
 振り下ろされた爪を剣で受け止めるが、その強大な腕力に防御ごとフィオナの体は吹っ飛ばされてしまう。
「気をつけろ。喰らうとデカいぞ」
 黒子が攻撃しやすい隙を作ったつもりが、頭に血が上っている所にタウントの効果が効き過ぎなくらいに効いている。
「全く、考える事も出来ない化け物が」
 そう呟き、切れた口の端の血をぺろりと嘗め、フィオナは笑った。

 一方徐々に離れて行く戦闘の音を背に聞きながら、男二人は固まっていた。
「髪の毛綺麗だね」
「ケーキ好き?」
 問題の少女は袋井の悪意無い質問に答える事は無く、じっと動かない。同じように、袋井とマーシーも迂闊に動くことが出来ずにいる。
「一人? 家族の人は?」
 その言葉に、足下を見ていた少女が顔を上げる。
「お父さんとお母さんと、おじいちゃん」
 家族がいる。ケーキの蓋を閉めた袋井は、首を傾げて少女の顔を覗き込んだ。
「みんなはどこにいるの?」
 近付いた顔から離れるように一歩引き、それから少女は一軒の家を指差した。
「あたしのお家」
「みんなあそこに住んでいるんだね?」
 マーシーがそう言うと、きっと少女が彼を睨む。
 るるい。るる。
「あのおじちゃん達が来たからお引っ越ししたの。危ないからって」
「え?」
 彼女の言う『引っ越しした』は、強制退去の話だろう。しかし、『おじちゃんたちが来たから』というのが繋がらない。調査員達が来たのは強制退去から何ヶ月も後の話でついこの間である。
「おじいちゃん泣いてたよ。お父さんもお母さんも。みいちゃんのお父さんも。ひろくんのおばあちゃんも。今もずっと!」
 るるるるるるるるるるる。
 ぐしゃりと音を立て、ケーキの箱がひとりでに潰れた。ごうと急に風が吹き、足下の枯れ葉を高く舞い上がらせ、驚いたマーシーが右手をポケットから引き抜こうとしたが、袋井の手がそれを止める。
 二人を睨みつけ、少女は泣いていた。
「帰りたいよう、ここあたしのお家! 帰る!」
 帰る。泣き叫ぶ言葉が風と共に吹き荒れる。
「お兄ちゃん達も同じ人だ、あたしたちをお家から追い出した人だ!」
 あの『おじちゃん達』とは、この間の調査員ではなく、強制退去に立ち会った撃退庁関係者と撃退士の事ではないか。自分達が同じ種類のものである事など、光纏もしていないのにどうしてわかる。
 やはり天魔か?
 右手を再び引き抜こうとして、またもそれは袋井によって止められた。今度は手を出すだけではなく、ポケットの上からがっしり掴まれている。
「袋井部長!」
「大きな声出さない!」
 マーシーを叱りつけ、それから泣いている女の子の顔を覗き込む。
「あの白熊さんがいると、おうちが危ないからダメなんだよ」
「嫌い! 白熊さんもお兄ちゃん達も嫌い!」
 泣き止まず叫ぶ少女に、袋井はにっこりと笑った。
「あのお姉ちゃん達は白熊さんをやっつける為に来たんだ。白熊さんがいなくなれば、おうちに帰れるよ!」
 その言葉に、少女ははっと顔を上げた。吹き荒れていた風はぴたりと止まり、その音で聞こえなくなっていた戦闘の音が再び届く。

 ヴィルヘルミナの氷の刃が白熊の首筋を斬り付け、それに怯んだ瞬間、森田が近距離から弾丸を撃ち込んだ。先程から熊の動きは徐々に鈍っているが、しかしまだ動ける白熊は、動物的に瞬間瞬間はその怪我をものともせずに素早く動いた。
 その攻撃の射程内に入ってしまっていた森田に向かって、横殴りに頭を振る。避けようとはしたものの避けきれずに、森田は横っ飛びに白熊の頭に吹き飛ばされた。
「ほんとだ……。これはキツイな」
「何の為の忠告だと思っている。我の言葉を無駄にするな」
 自分の横に着地した森田に吐き捨て、彼を追おうとこちらに向かっていた白熊に向かってフィオナが飛び込むと、その剣は白熊の脇腹を音を立てて切り裂いた。
 白熊の足下はよろけ、ほぼ倒れる寸前に辛うじて踏みとどまっている状態だったが、それでもまだ立っている。あと大きな一撃で地面に倒してしまえば起きては来ないだろう。
 自分の一発では小さい。それを知りながら、黒子は狙いを定め、白熊の背に向けて発砲した。肩の辺りがパンと弾け、今のは真後ろからだと分かったのか、辛うじて立っているその足で後ろを振り向く。そして黒子の潜む茂みを見据え大きく吠えたその瞬間、
「氷に貫かれる気分はどうかしら? お似合いよ」
 煌めく氷の錐がその巨体の中心を貫き、その咆哮はそのまま最後の断末魔と重なった。

 戦闘を終えた五人が袋井とマーシーの元に戻ると、二人はその場に立ち尽くしており、少女の姿はそこには無かった。
「あの少女はどうした」
 つぶれたケーキの箱を見下ろしながらフィオナが問うが、マーシーは首を振るばかりだ。
「消えちゃいました……」
「消えた?」
 とどめを刺したのを確認し、振り向いた時にはそこには誰もいなかった。目を離したのはほんの一瞬だったのに、まるで元からそこに誰もいなかったように、気配の残滓すら残っていなかったのである。
 念のため少女が指差した家へ向かうが、外から見えるリビングはがらんとしている。人の気配も生活感も一切無い。
「人はいないですね」
 辺りの空気を嗅ぐように見回し、ふうと息をつきながらヴィルヘルミナは言う。
「気配もない。何の気配もな」
「何の……って?」
 そう返す森田を見て、ヴィルヘルミナは耳を指してみせた。
「何も聞こえなかったのだろう?」
 そう、鋭敏聴覚を使用しても何も聞こえなかった。あの少女からは音がしなかったのだ。
 音を出さない生き物などいない。まして小さな少女の足音や鼓動は、ここにいる面子とは大きく異なるものだ。神経を張りつめ収集する音の中に、戦闘におよそ関わりがあるとは思えない音があれば、気付かない訳が無い。
「そんなわけ……あの子、凄く叫んでましたよ!?」
 しかし驚いた顔をしながら、森田は首を振る。呆然とするマーシーに、フィオナは腕を組んだまま言った。
「彼女は音を発せない、届いたのは貴様達だけだ」
 その言葉に、袋井とマーシーは顔を見合わせる。
「この世のものではない者は、向こうから接触相手を選ぶもの」
「つまり……」
「少なくとも、この『世』のものではなかったということだろう」
 静かにそのやり取りを聞いていた黒子が、庭に落ちていた汚れた白熊のぬいぐるみを拾い上げる。
「だから、あの白熊は少女とともに現れたのでしょうか?」
「そうねぇ。彼女は言ってみれば感情の固まり、それに反応してあの白熊が現れていたのなら納得いくわねぇ」
 はあ、と袋井が大きな溜め息をついてみせた。がっくりと肩を落とし、どんよりした空気が周囲に漏れだしているのが見えるくらいに落ち込んでいる。
「袋井部長、口説けなかったからってそんな落ち込まないで。僕たちのラブコメはこれからだ! ですよ」
「それ打ち切りじゃん! 違うよ、それもあるんだけどさ」
 口説けなかった意外にこの人が何を落ち込むのか、と首を傾げるマーシーを横目で見ながら、袋井は浮かない声のトーンのまま言葉を繋ぐ。
「あの子には僕達も敵だったんだ。ここを追い出されて、憎くてしょうがなかったんだよ。あの白熊がいなくなった事で、少しでも晴れてくれれば」
「さあ帰るぞ」
「ええ!? まだ話の途中……」
 袋井の言葉をぶつりと断ち切り、フィオナは来た道を戻ろうと踵を返した。
「人を助ける為人に憎まれる、それが嫌ならば民の信用に足るだけの力を持てば良い。過ぎた事は生かすものであって引きずるものではないのだ」
 そう言いながらきびきび歩いて行ってしまうフィオナを追い掛け、森田が歩き出す。
「そうだね。僕達は明日の小テストの事でも考えてればいいんだよ。力を付けて学園を卒業したら、きちんと人を助けられる撃退士になるんだから」
 ぱあっと明るい笑顔でそう言う森田の笑顔につられて、全員がにこにこ笑ってしまう。明日の小テスト、という戦闘の後に出てきそうも無い単語に苦笑しながら、一行は家に背を向け歩き出した。
 来た時よりも一層明るい月光が、風のない静かな夜道を行く七人の撃退士の足下と行く先を煌々と照らしている。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:6人

新世界への扉・
只野黒子(ja0049)

高等部1年1組 女 ルインズブレイド
『天』盟約の王・
フィオナ・ボールドウィン(ja2611)

大学部6年1組 女 ディバインナイト
撃退士・
守叉 典子(ja7370)

大学部8年57組 女 ルインズブレイド
セーレの王子様・
森田良助(ja9460)

大学部4年2組 男 インフィルトレイター
災禍祓う紅蓮の魔女・
Erie Schwagerin(ja9642)

大学部2年1組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
非凡な凡人・
間下 慈(jb2391)

大学部3年7組 男 インフィルトレイター
“慧知冷然”・
ヴィルヘルミナ(jb2952)

大学部6年54組 女 陰陽師