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マスター:サトウB
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2013/10/13


みんなの思い出



オープニング

●オッサン達の失踪

 三人組のバンド『グリーンプラネット』、還暦も間近になって来た彼らがふらっと姿を消したのは、数週間前のことだった。失踪というわけではなく、長めの休みが欲しいと言う希望を叶えた結果だ。ところが、三人の所属事務所は俄かに空気が張り詰めていた。
 三人がどこへ行ったのか、一緒にいるのかバラバラなのか、その全てを事務所は把握できていなかった。何せ完全なオフである、プライバシーの侵害だよーなどと言われてしまっていたから突っ込んだことも訊けず。マネージャーも彼等が休暇中である分、別の歌手のマネジメントに駆け回っており、常に人手も足りていない。
 そんな時にスタッフが偶然見つけた、SNSの書き込み。
『グリプラに会った!自分は世代ぢゃないけど、素敵な歌を聞かせてもらったょ☆』
 書き込みは高校生のもの。避難している所で彼等に会ったと言うのだ。知れ渡った途端、事務所内は大騒ぎになった。
 長年のファンは大勢いるし、特大会場のライブ集客力もある彼等だが、テレビ出演などはめっきり減っている。今までもソロやイベントの参加など割と好きに活動していた彼等は、思い切って揃って東京を抜け出したらしい。数週間ぶりに掴めた足取りが、危険地域のものだとは。
 ところが事務所は人手不足。安定せず緊張した情勢だが、だからこそ娯楽は求められるためにスタッフは休みなしだ。誰も探しに行かせられず、そもそも一般人が支配地域へ近付くなど自殺行為で到底許せるものでは無い。
 メンバーの携帯にメールを繰り返し送り付けるも詳しい居所などを教えるような反応は無く、そのうち届かなくなってしまっていた。
 久遠ヶ原学園に連絡が行ったのは、SNSで足取りを掴めたさらにその一日後。事務所の所長からいろいろな伝を通り、グリーンプラネットの保護は正式に学園に依頼された。

●オッサン達と避難民

「え、ユッシー、事務所拒否?」
「ムームーうるさいんだもん」
「俺もしたよ。諦めてくれればいいのにねー」
 年齢にそぐわない髪色・髪型、小綺麗だが歳の割には少し派手目なミュージシャンスタイル。どう見ても地方の集会所の中で浮いているこの三人のオッサンがグリーンプラネットだった。
 天使と悪魔に襲われる、などという曲の中でしか見た事の無い事件が実際に起こるこの世の中。まだ普通に暮らせる東京では肌で感じる事の出来ないこの事態を、自分の目で見てみたいと彼等は細々こっそり旅を続けていた。
 愛用のギターと、仕事では絶対に使わないような軽くて安いポータブルキーボード、それにちょっとの身の回り用の荷物。それだけの荷物で特に明確な目的地も無く乗っていたバスを終点で降りてだらだらと田舎道を歩いていた所、急に呼び止められてこの集会場に連れ込まれ、それからしばらくこうしていた。
「夕方までにおうちに帰れる?」
 同じ集会所内で座っている小さな女の子が母親にそう尋ねるが、彼女はどうだろうね、と微笑むばかり。
 聞いた話だと、彼等が向かっていた先の集落が天魔に襲撃されて住民がここに避難して来たのだと言う。討伐には近くにいた撃退署の撃退士が出向き当たっていると言い、幸いな事に死者も負傷者も出てはいなかったが、突然住まいを追われた住民達の空気は重い。風通しを良くする為に開け放たれた掃き出し窓から、遠く、時折低い地鳴りのような音が聞こえる。
 歌いましょうか、とか、言えない。
 今までなら、避難して来た人々と歌ったりなどしてほんの少し笑顔を取り戻すような事は出来た。だがしかし、現在進行形で住まいを脅かされている人々の気持ちの張りつめ方は今までのそれとは違う。グリプラにドンピシャ世代の人もちらほらいるが、誰も彼等に気付きはしない、というよりもそんな余裕がないようだった。
「すいません、久遠ヶ原学園の者です」
 玄関口から若い声が聞こえたのは、そんな折。撃退士養成機関を名乗ったその若い女の子は、小さく頭を下げながら部屋に入って来ると、三人に向かってまっすぐ歩いて来た。
「グリーンプラネットさんでお間違いないですか」
 明らかに周りとは違う雰囲気を纏っていながら、周囲の住民達はそこでやっと彼等の存在に気付いたらしかった。
「え、うん」
 元より隠すつもりなど無いのであっさり返事をすると、ほんの少し住民達がザワつく。
「ライズサウンズの依頼で お迎えに上がりました。久遠ヶ原学園の者です」
「事務所から? ……その為にあんな大人数で?」
 玄関にいるのは二、三人。それでも三人のオッサンを迎えに来たにしては多いと思うが、その向こう、玄関の外にもちらちらと人影が見えた。
「この近辺の天魔の討伐のメンバーが一緒ですので。皆様の保護を完了しましたらそちらへ向かいます」
「ああ……そう」
 見つかっちゃったなぁ、と三人が視線を交わしたその時、突然すぐ傍で獣の咆哮が谺した。ビクリとして開け放たれていた掃き出し窓を振り向くと、こちらへ向かってくる禍々しい姿をした虎のような生き物の姿が見えた。
「うわっ!?」
 窓に近かった住民達が悲鳴を上げて逆側へと押し寄せる。久遠ヶ原学園の女の子だけがその流れに逆行し、手元に現れた武器でもう中へ入り込む所まで来ていたその虎へ一閃浴びせ、押し戻して手早く窓を閉めた。
「現場の数と合わない……! 二体確認した!」
 玄関にいた一人が叫ぶと、彼女も頷いて玄関へと駆けて行く。
 その途中、小さな女の子が怯えた顔で泣き出していた。彼女はほんの少しだけ足を止めて、にこりと微笑む。
「大丈夫、すぐにやっつけちゃうからね」
 しかし、子供は泣くのをやめず、母親の胸に顔を埋める。その母親も、怯えた表情を隠す事も出来ずにいる。出来るだけ恐怖心などは拭ってあげたいが、時間もなく容易ではなさそうだと判断した彼女は音を立ててドアを閉め飛び出して行った。その音にも、子供達は肩を竦める。
 素早く窓の鍵を確認し全てのカーテンを閉めたのは、グリーンプラネットの三人と彼等と同じくらいの年齢の人達ばかりだった。ある程度歳を重ねると、経験値で体は驚きながらも最善の行動をとってくれるらしい。
 外の様子は一切見えなくなったが、音は聞こえる。あの虎の吼える声、時折、勇敢な撃退士達の叫びも。しかし、平常とは異なる音ばかりで、人々の緊張は解れる気配はなかった。
 空気が重くて痛い……。そう思ってぐるりと部屋を見回したボーカルの山本の目は、泣き止まなかったあの女の子の所で止まった。怯えて、恐くて恐くてしょうがない、お母さんも怯えているからなおさら。震えるその目と目が合った所で、山本はにこりと笑って大きな声を出した。
「恐くないよ!」
 その突然の声に驚きながら、仲間二人は顔を見合わせ何をするべきか即座に察し、楽器を取り出す。
「もっと大きい声と音出せば、恐いのは逃げちゃうからね」
 何の根拠も無いが本当に何も恐れていないオッサン達の笑顔に、住民達はきょとんとして彼等を見る。外から聞こえるのは咆哮と叫び声、明らかな戦闘の音。恐怖に身を硬くし、なるべく音を立てまいと本能的に動かなくなっていた彼等にそれを忘れさせる程、場にそぐわないその言葉のインパクトは強烈だった。
 大人達が唖然として緊張を忘れると同時に、子供達の泣き声も止まっていた。


リプレイ本文

●アウルの威力

 バシャン、と言う水音と、それから微かな水音。それら二つが重なった途端、辺りに酷い匂いが立ちこめ、撃退士達に飛びかかろうとしていたディアボロの足が僅かに引いた。
「くっせ……」
 そう呟いたのは、大きな水音を立てたヤナギ・エリューナク(ja0006)だ。獣の姿をした敵の鼻を潰そうと、虫取り用か何かで集会所の入り口に置かれていた酢を思い切りぶちまけたのである。それだけでも十分、自分の鼻まで痛い程の効果は得られたのだが、
「目に染みるっすよね。ふっふっふー」
 とニヤニヤしながら強欲 萌音(jb3493)がその上に香水を撒いたお陰で、その匂いのハーモニーは宛ら地獄のようなものとなった。液を直接垂らした訳でもないのに恐ろしい威力を放つ香水に、望月 六花(jb6514)がしまうよう萌音に促す。
「十分、鼻は利かなくなっていますよ」
 何なら彼らの鼻も利かなくなる。二体のディアボロは流石に鼻が利きすぎるのだろう、じりじりと後退りながら唸り声を上げていた。
 光纏と同時に数人が所持する阻霊符は効果を発動し、無効化の領域が展開される。
 狼と虎、二体のディアボロに、それぞれが狙いを定め飛び出すと、敵も同じように自分達の標的を睨み吼えた。
 狼へ向け、樒 和紗(jb6970)が弓を引き絞る。快活な音と共に射られた矢は狼の肩口に突き刺さり、短い悲鳴が上がった。間髪置かずに御門 彰(jb7305)が距離をつめながら銃撃を浴びせるが、寸での所でそれは躱されてしまう。
「速いね……でも」
 躱されたが笑みを浮かべた御門の視線の先、狼の背後に音を立てず移動したヤナギと江戸川 騎士(jb5439) の姿があった。背後の気配に狼は気付く事は無く、その存在は後ろ足への雷の如き一撃で初めて知らされる。
 剥き出した牙を震わせ、狼は振り向き様ヤナギへ飛びかかりその腕へと牙を減り込ませた。
「つッ……!」
 しかしその牙がヤナギの腕を食い千切るまでは行かず、さほど深くない所でぱっとその口から腕は吐き出された。樒の矢が狼の首を即座に貫いたからだ。
「大丈夫ですか!」
「問題ねーよ」
 多少は痛がりながら距離を取ったヤナギと入れ替わるように前へ飛び出た江戸川がその視界に狼を捕らえる。それと同時に彼の周囲は瞬間的に凍てつき、その冷気は狼の体へと鋭く突き刺さった。
「……寝ないか」
 よろけはしたものの、狼は眠りに落ちる様子は見せない。素早く体をひねり江戸川へと飛びかかるが、彼は不敵に鼻で笑いながら牙を躱し、距離を取る。
 虎を相手取る撃退士達も、狼組に引けを取ってはいない。
 ぱっと背中に現れた翼を羽ばたかせ望月が空へ舞い上がると、虎はその姿を追い空高く跳躍する。しかしその爪は後一歩の所で彼女を捕り逃し、注意を反らしていたその死角から亀山 淳紅(ja2261)のブラストレイが虎の体を一瞬で横断する。だが焼けた皮膚に声を上げるが、虎はまだまだ弱った様子は見せずに吼え立てる。
「チョロチョロしないでほしいっす!」
 萌音がすかさず電撃を食らわせるが、それでもその動きは止まらない。間髪を置かず鈴木悠司(ja0226)と望月が攻撃を加えるが、それぞれするりと寸前で躱されてしまった。
「うわぁ、避けられたかー!」
 躱した直後に繰り出された鋭い爪が、ぱっと彼の体に一筋の傷を付ける。じわりと赤くなったそれを痛がる表情の中に悔しさを滲ませ、鈴木が声を発したその時。
 彼等の守るべき集会所の中から、どん、と大きな音がした。一瞬驚くが敵から視線は切らず、しかし全員が注意を集会所へと傾ける。敵は二体、それは目の前で相手取っており中に侵入はされていないはず。捕捉出来ていない敵が実はいた? それにしては、悲鳴や破壊音などは一切無い。
 もう一度、どん。今度は、それの合間に手を叩く音。外まで大音量で聞こえる、大人数の手の音だ。
 撃退士達が動きを止めたのを訝しみ、ディアボロ達も同じように動きを止める。じりじりと睨み合う静けさが訪れ、集会所内から聞こえて来る音に歌声が混ざった。
「この音は……音楽は……良いね! 盛り上がってきたゼ?! 」
 音に乗せられるように、ヤナギの笑みがじわじわと満面に広がって行く。その様子に、鈴木もつられるような笑顔を浮かべ、ぎゅっと武器を握りしめた。楽しくてしょうがない、我慢を押さえるのが辛い、と言ったように。
「気になるー、乗せられそう! 早く終わらせよう!」
 睨み合う静寂は亀山の一撃で破られた。虎に対して放たれた風の渦はその体を巻き込み、容赦なく揉み上げる。
「ほらほら、キミの相手はあたいっすよー」
 解放され朦朧としている虎に向けて萌音が放った薄紫の光の矢がまっすぐ突き刺さり、それに驚く間もなく鈴木の斬撃が浴びせられ、苦痛で剥き出した牙は萌音へと向けられるが、その衝撃は望月の庇護の翼により彼女へと浴びせられる。しかし威力を殺され大したダメージは与えられず、立て続けのダメージと朦朧とし覚束ない足取りにその先は容易に想像出来、それを実現したのは鈴木と亀山の連撃だった。
 集会所からの音は時折テンポを変え、リズミカルに、スピーディーに、自然と撃退士達の体を踊らせる。
「これで終わってや!」
 集会所からの音にウズウズしてしょうがない亀山の願いに応えるように、虎はその動きを止めて地面に沈み込んだ。
「負けてられないね」
 虎の撃破を横目で見ながら、狼との距離をつめた御門がマンティスサイスを素早く繰り出す。ぱっと裂けた皮膚を狙いヤナギが斬撃を浴びせるが、それは避けられてしまい、逆に間合いに入っていた江戸川に狼が体当たりをする。躱そうとはしたものの間に合わず、江戸川はその衝撃を受け後ろへと下がる。
「やってくれんな!」
 僅かに足下を滑らせ留まり、江戸川が再び飛び出すよりもほんの少し速く、樒の矢が狼を射抜いた。吼え振り向いた狼に向かって御門が振り抜いた鎌の刃は、それでもまだ飛び上がる余力により避けられるが、攻撃を避けられた御門は小さく笑っている。
「終わりかな?」
 走るようなリズムは、宙を舞っている狼の体を捕えたその目が出す指先を軽快に踊らせるように跳ねた。ヤナギ自身も、まるでその音を操り力を増しているかのように鋭く、その美しいグリーンのワイヤーを狼の首筋目掛け走らせる。
 最高到達地点の寸前で首を裂くように絡んだワイヤーのせいで、狼の体勢は首をその位置に残すようにしてぐるりと崩れる。そしてワイヤーが食い込むのとほぼ同時に、その曝け出された胸元に突き刺さる真っ直ぐな矢。立て続けの宙での攻撃に狼が苦しそうに一声上げたその次の瞬間、
「頭がHeavenな親父らにお帰り願う為には、お前等が邪魔なのさ」
 吐き捨てた江戸川の蹴りが、不自然な姿勢で宙に留まっていた狼の体を、集会所からの音に負けない程の轟音を立てて地面に叩き伏せた。

●音の魔力

 集会所の中はさながらカオスだった。子供達は飛び跳ねて床を鳴らし、大人達は膝や手を叩き自分の体を楽器に音を奏でている。全員が笑顔で、住民達に先程までの影は微塵も見られない。
 ギターの金田一が玄関から入って来た撃退士達の姿に気付き、振り上げた手をゆっくり静かに下げる。合わせて人々の音は抑えられて行き、騒ぎがすっと引いた静けさの中に、キーボードの湯島が先程までとは打って変わった優しい手つきで、柔らかいメロディーを奏で始めた。
「『輝きの物語』……?」
 中へは入らず外で煙草を蒸かすヤナギは、その音にぽそりと呟く。その手は、自然といつもの愛器を奏でる形を取って。

一人で出来ると思っていた 難しいだけだと

 それはずっと昔にリリースした彼らの代表バラード。カバー曲も多く、あらゆる世代が大体この曲のサビは口ずさめる。
 小さな子供達は、まだこの歌を知らない。詩の意味もわからないだろう。それでも目をしっかりと開き見据え、彼等の歌を聞き入っている。

僕には歌えないその歌 どんなに声を張り上げても
するりと手元を抜け出して どこかへ行ってしまう

 一見救いの無いその言葉、それは最後に希望へと続く為の物だと大人達は知っている。だからこそ、誰からとも無く示し合わせる事も無く、自然と全員がその歌を口ずさみ。

何が出来るの? 何も出来ないの?
それは僕と同じ心 暗闇の中迷うその手を
「掴んで、一緒に」

 目が合った御門を手招きした金田一が、ギターケースのポケットを指す。わからないながらもそこを探ると、出て来たのは小さなトライアングル。

君にしか歌えない歌が僕を奮わせる
僕にしか書けない詩が君を羽ばたかせ
It’s story of shine 紡ぎ出す

 撃退士達も巻き込み、全員が奏でる光の旋律。そこに出来上がったその音は、とても優しく美しく。トライアングルの甲高く透き通った音が、魔法のような音楽の細い余韻となって、音の消え行くのを静かに見送った。
「ほらね」
 全てが終わり一息ついて、山本は子供達に言う。
「恐いのいなくなっちゃったでしょ? 何の音もしないもん」
 ほんとだ。と一人が言うと、他の子供達も笑いながら繰り返す。その様子に大人達も安心して、先程までとはまた違う笑顔を浮かべていた。
「凄いっすね! これこそお金じゃ買えない価値ってヤツっす!」
「嬉しいねー。ありがとう」
 目を輝かせている萌音に、望月に手渡された飲み物を啜りながらグリプラの三人はニコニコと言う。金では買えない、と言う褒め言葉に、だが江戸川が鼻を鳴らして皮肉そうに辛辣な言葉を吐き出した。
「金じゃ買えないだろうよ。敵がいるのにデカい音出すとか……何で引きつけるようなことするかね」
 撃退士としては、一般人に自ら脅威を呼び込むような真似はしてほしくない。それに、音楽に真摯に向き合い追い求めて行く彼からすれば、全開で不真面目なグリプラに言ってやりたい事は山ほどある。ただストイックな分、純粋に状況と彼等の音を楽しんではいたが……。しかし痛烈なその言葉は、年季の入ったいい加減なオッサン達には特に何の効果も持たなかった。
「だって、ああいう恐いのは君たちがなんとかしてくれるじゃない。してくれたし」
「俺達じゃあれはどうにも出来ないもんね。腰やっちゃうわあ」
 えへへへへ、と笑い合う三人。反省とか何とか、そう言ったものは微塵も感じられない。
「それがアンタらの戦い方のつもりなら、ベテランが青臭い事をして後輩や一般人が真似るとか考えないのか? 被害者の生活支援募金ライブとかよ、他に出来る事は……」
「えー、だって別に慰問とかってわけじゃなくて、ボクらただうろついてるだけだもん。支援ライブは別腹〜。だからコッソリ旅してたんだよねえ」
「真似したら縁切るぞって知り合いには釘刺して来たもんね」
 自由だ……。負けじとまだ何か言おうとした江戸川だったが、その前にギターの金田一に思わぬ言葉をかけられてしまう。
「ていうかアナタ美人でカッコいいねえ。口悪いけどそれがいいわあ」
 悪意0%の、純粋なる褒め言葉だ。 
「……男だ」
「へぇ! イッケメェ〜ン」
 完全にペースを崩され、それ以上の追撃は江戸川には出来なかった。
 むう、と黙り込んだ所に、外にいたヤナギが携帯を振りながら入って来る。
「こっちはもう大丈夫だろ、処理の連中も来る。向こう行くぞ」
「あ、バンドマンだ〜」
 湯島がヤナギを見て、ニコニコしながら指を指す。『あの』グリプラにミュージシャンだと指摘され動揺したのか、ヤナギは思わず足を止め、小さな声で
「ぅす」
 と返事をする。
「何でわかったんです?」
 御門が不思議そうに尋ねると湯島は首を傾げ、「ニオイがしたから」と不思議発言をした。
「ボーカル?」
「ドラムじゃない?」
「いやいやーベースでしょー」
「何でわかるんです!?」
 驚愕の表情を浮かべる鈴木に、やはり「ニオイがした」と不思議発言を繰り出す湯島。そのやりとりに、他の二人はさして驚きもしない。へらへら笑いながら、片付けていた楽器と荷物を背負い、よいしょと立ち上がる。
「さて、じゃあ俺らも行かないとね」
 集落の応援へ向かう四人の後ろを玄関へと歩いて行くグリーンプラネットの後ろについて行き、靴が上手く履けずによたよたする三人に望月がぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございました」
「ん? 何が?」
「私達は敵を倒す事は出来ますが、時に人の心を救うには無力です。……これからもたくさんの人を勇気づける歌手であってください」
 三人はにこりと笑い、頷く。
「アナタの声可愛かったよ。良く聞こえて来た」
 そう金田一に言われ、望月は少し恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。それからトライアングルを急に任せた詫びを御門に述べると、彼はぶんぶんと首を振った。
「楽しかったです!」
「こちらこそ。世界を救うヒーローと一緒に歌えるなんて光栄だったよ」
 そして靴を履き終わる。三人の足が外へと向いた瞬間、ずっと後ろで落ち着かずそわそわしていた亀山が、意を決したように叫んだ。
「自分も、こんな歌謡いになりたいです! 恐怖も吹き飛ばせるような声を、歌を謡えるような 」
 突然の大声に驚きながら、グリーンプラネットと撃退士達は、優しい目で彼を見る。
「絶対! いつか隣に並んで歌えるほど! びっぐになります!」
「うん、わかった」
 顔を赤くして、一気に喋り切って方で息をする亀山に、山本が手を出した。ビックリして戸惑いながら差し出した亀山の手を、山本は強く握る。
「待ってるよ」
 その後ろで、湯島と金田一も微笑んでいる。
「生きてる間にヨロシクね」
「そうだね。特にヤマは不摂生だからあんまり時間ないよ〜」
「うるせーよ高血糖と虫歯が」
 笑い声に包まれ、そのまま手を振りながらグリーンプラネットは出て行く。楽しい余韻だけを残し、自分達も音であるかのような振る舞いで消えて行くその背中を見送……
 る前に、三人の前に外で待機していた樒が立ちふさがった。
「またこっそり逃げられては、俺達が困るのですが」
 苦笑した樒の顔に、グリーンプラネットは顔を見合わせて肩を竦める。
「あちゃー。逃亡失敗しちゃったなぁ」
 舌を出して笑うオッサン達は、そのまま保護され最寄りの駅まで強制送還されて行った。

「いやしかし、実りあるこっそり旅だったな」
「あの撃退士くん達、面白かったねえ。みんな違っててカッコよくて」
「そうだね。……あー、メロディ出て来た。あ、いい感じだ」
「おー。旅が生んだ音? 出会いが生んだ音?」
「どっちにしても、こうやって飛び回らなきゃ生まれなかった音。イイよ、これ」
「そっか。旅しないと出来なかった音楽ね……」
「…………」
「…………」
「…………」

 久遠ヶ原学園にグリーンプラネットの新曲CDと、あの三人がまた姿を消したと言う話が届くのは、それからもう少し先の話――。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: RockなツンデレDevil・江戸川 騎士(jb5439)
 光至ル瑞獣・和紗・S・ルフトハイト(jb6970)
重体: −
面白かった!:4人

Eternal Flame・
ヤナギ・エリューナク(ja0006)

大学部7年2組 男 鬼道忍軍
撃退士・
鈴木悠司(ja0226)

大学部9年3組 男 阿修羅
歌謡い・
亀山 淳紅(ja2261)

卒業 男 ダアト
流行の最先端を行く・
強欲 萌音(jb3493)

大学部5年162組 女 ダアト
RockなツンデレDevil・
江戸川 騎士(jb5439)

大学部5年2組 男 ナイトウォーカー
守護の決意・
望月 六花(jb6514)

大学部6年142組 女 ディバインナイト
光至ル瑞獣・
和紗・S・ルフトハイト(jb6970)

大学部3年4組 女 インフィルトレイター
撃退士・
御門 彰(jb7305)

大学部3年322組 男 鬼道忍軍