.


マスター:佐紋
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
形態:
参加人数:6人
サポート:2人
リプレイ完成日時:2012/05/25


みんなの思い出



オープニング

 ひとえに被害は甚大だった。
 天使達の襲撃によるを受けた旭川である。
 庁舎は言うに及ばず、物質的、人的被害も計上すれば軽く億越えだと思われた。

「まさに激戦だな。しかし、これらは実験に過ぎなかった…か」
「今頃京都では仲間達が死闘ですよ。勝ってほしいですね」
「無論だ。そのために手を尽くしているのだ。学園の総力を上げてな。そして、ここからも私達の戦いと言うわけだ」
「まぁ、ですよね」

 二人は京都で戦っている撃退士達とは別に、試された大地に降り立っていた。
 既に復興は始まっている。復興という名の戦いが新しく始まっているのだ。

 普通の人間よりも身体能力の高い撃退士はこういうところでも活躍の場はあった。
 瓦礫の撤去作業や救援活動などやることは山積みだ。
 大きな脅威は去ったとはいえ、小さな事柄はいくつもあるのだ。
 はぐれサーバントも少なからず存在した。
 いわばアフターケアも撃退士の仕事である。

「あちらに出現したサーバントは無事退治したそうですよ」
「そうか。それにしても…」
「ですね…」
「これはあんまりではないか?」
「これも仕事の一つ…らしいですよ?」
「いや、慰撫と言う意味では解らんのでもないが」
「これを部長に持ってくるあたり、本当に人が居なかったんですかねぇ…」

 二人が手にしていた紙にはタイトルが書かれてあった。
『励ましの歌』
 つまりはだ、人々の傷ついた心を、歌のプレゼントで元気にしよう!
 という試みである。
「あの野郎…!」
「さすがあの先輩ですね。予想斜め上からのビーンボール」
「戦地に赴く撃退士しか歌えない歌があるんだ。とかなんとか高尚なことを言っていたがっ!」
「あれは完全に遊んでましたね。でも、ほら。歌の力は本当に凄いですし。間違ってるとも言えない訳で」
「それが憎たらしい所なんだがな…」

 頭を抱える楓。歌も必要に迫られたときしか歌ったことがない。
 本当に畑違いな依頼だった。
 用意されたステージは庁舎にあった多目的ホールだ。
 そこで歌を披露することとなっている。
 現地の人を励ます歌を歌ってくれという依頼だ。

「もう、あれですよ。伝家の宝刀を抜くしかないですね」
「伝家の宝刀?…あぁ、アレか」
「そうですよ。アレにしましょう」
「…そうするか」
「しかしだ、歌うにしろその前にだな」
「各種救援活動も、ですね」
「そう言うことだ」


 後日、学校の掲示板に以下の張り紙が出されていた。

『北海道旭川できらめくステージが君を待っている!来たれ未来のトップアイドル!歌って踊って皆に元気を!』

『北海道旭川での慰撫の仕事です。各種救援活動を行った後に、撃退士ならではの元気が出る歌を現地の皆様に贈り、勇気付けよう!』

「困ったときの依頼形式…まさに伝家の宝刀ですねぇ」
 旭川から一時的に戻っていた男性生徒が掲示板を見て呟いた。


リプレイ本文

 北海道旭川。
 天使達の襲撃を受け甚大な被害が出た土地である。
 この地に住むのを諦め他の地に移住して行った人たちも少なくは無かったが、
 この地にとどまる人たちも少なくなかった。
 人はいかなる天災・人災を受けても立ち上がってきたのである。
 復興を目指し、人々の新たなる戦いが始まっていた。

 ●
「よーっし!みなさんを元気付けちゃいますよーっ!」
 丁嵐 桜(ja6549)は元気一杯な様子で駆けていく。
 桜はとある小学校に出向いた。
 そこは天使達に襲撃され、家をなくした人たちに避難所となっている場所だ。
 先の戦いで家族を亡くしたり、大きなショックを受けた子達は大勢いた。
 大人も子供もみな暗い顔をしている。
 桜は救援活動として、子供達の遊び相手をしようと考えた。
 子供が元気になり笑顔になれば、大人も元気付けられる。
 なにより、子供は明日の希望なのだ。その子供達に笑顔がなければ人道支援などありえない。
 自分に出来ることはと考えた桜だったが、自分の得意なことで励ますことにした。
 みんなに逞しく、協力してこれからを生きてもらうために「相撲大会」を開こうと考えたのだ。
 小学校の教職員の人に頼んで、綱引き用の太い綱を借り受ける。
 綱で囲いを作り、広さは4メートル55センチと現在の土俵の大きさにはして簡易土俵を作った。

 そして教職員室の放送機器で全校放送で呼びかけた。
「えーテステス。んっうん!皆さん、こんにちはー!突然の放送でごめんなさい。
あたし、久遠ヶ原学園の丁嵐 桜っていいます!
今から、校庭で子供相撲大会を開いちゃいます!皆さんに笑顔になってほしくって考えました!
小さいみんなー!相撲は楽しいぞー!相撲をすれば元気がでるよー!
さぁみんな!校庭へ集まってねー!」

 放送後桜は動きやすい服装に着替え(タンクトップにスパッツ)校庭に戻った。
 一杯集まっているかなと?と期待したが、土俵には一人の少年しかいなかった。
 他にも子供たちは数人いたが、遠回しで見ているだけだ。
 大人たちも今の放送を聞き数名集まってはいるが、思ったより反応が鈍い。

「おまえ、撃退士なんだろ?俺がお前倒せたら、俺強いってことだよな」
 少年は先の戦いで両親を失っていた。両親は襲撃したサーバントの犠牲になったのだ。この少年を逃がして。
 両親が倒れた光景を少年は覚えている。寝ても覚めてもその時の光景が頭から離れないのだ。
 強くなりたい。そう思っていた折に先ほどの放送があった。
 少年の目には悲しみ・決意・様々な色が見える。桜はしばらくじっと少年を見ていたが、やがて笑みを浮かべた。
「そうだねー。あたしを倒せたらね!言っておくけどあたし強いよ?現役の横綱にだって負けないんだから!
あたしに土をつけたら、君の求める強さも得られるんじゃないかな」
「そっか…絶対倒してやる!」
 土俵の上で桜と少年は対峙した。少年はがむしゃらに桜に突っ込んでいくが、当然、撃退士である桜はびくともしない。
 簡単に少年に土を付けていく。上手投げ、下手投げ、押し出し、寄り切りなど、基本技で簡単に打ちのめしていく。
 少年は倒されるたびに体中砂だらけになった。倒れた際に小さい傷も負っている。しかし。
「くっそう!もう一度だ!」
「いいよ!何度でもこーい!」
 それでも少年は諦めなかった。何度転んでも土を付けられようと、果敢に桜に挑んでいった。
 やがて、その少年に「がんばれー!」「負けるなー!」と応援の言葉が周りから出始めた。
 気がつくと土俵の周りには結構の人たちが集まっていた。
 負けても転んでも、何度も立ち上がる少年に心を動かされたのだろう。
 そしてその少年のほかに、ぽつぽつと桜に挑むものが増えてきた。
「よーし!みんな纏めてかかってこーい!」
 桜は笑顔で皆と対峙する。
 そんな桜に次々と少年少女が戦いを挑んでいく。
 土俵の周りには、更に大きな歓声や応援が飛び交うようになった。
 皆、笑顔で子供達と桜に声援を送っている。そして大歓声が起きた。
 実に十数人係りで桜に土をつけることに成功したのだ。
 子供達は大喜びで土俵の上を跳ね回っている。
「いやぁ、皆強いね!これならみんな大横綱になれるんじゃないかな!」
 倒した子供達も倒された桜も皆、良い笑顔になっていた。

 そこからは子供達による相撲大会になった。
 行事は桜が努める。
「はっけよーい!のこったのこった!のこったのこった!」
 倒されるたび、倒すたびに周りから歓声が起きる。
 更に桜はデモンストレーションとして光纏をし、スキル『四股』を披露する。
 四股を踏む時に周りから「よいしょー!」と掛け声が上がった。
 思いっきり四股を踏むたびにズドーン!と砂埃が舞う。さすがの撃退士だった。
 みんなびっくりしたが、その後は笑いあう。桜流の皆への励ましは、確かに心に届いたようだった。 

 ●
 場所は変わって、災害対策室では奉丈 遮那(ja1001)がノートPCを借り受け、
 救援物資の整理振り分けをしていた。
 各地から届けられる救援物資の管理はそれだけで大変だ。
 公平に行き渡るように管理しなければならないし、被害が大きい所には優先的に割り振らなければならない。
 管理は最重要課題なのだが、えてしてそこが杜撰になりがちだ。
 災害が起きている所に送られた救援物資が横流しを受けている等と、各種報道でも取りざたされている昨今である。
 しっかりとどこから送られてきたものなのか、数量はいくらか、物品は何なのかをデータ入力しまとめていく。
 また、管理しやすいように表計算ソフトで管理表を作成。自分がいなくても皆が使いやすいように、
 いろいろと表を作成し、簡易マニュアルなども作成していった。
 ちなみに遮那はジャージ姿で作業をしている。機動性を重視したのだ。
 はぐれサーバントがでる可能性も考慮し各種装備も持ってきている。

「お疲れさま。精が出ますね」
「あ、はい。おつかれさまです〜」
 一人の男が声をかけてきた。遮那と同じく救援物資の管理を担当している地元の役人だ。
 男は遮那に温かいお茶を差し出す。それを受け取り遮那は一口啜った。
「貴女のおかげで、大分はかどっていますよ。本来であれば私がもっとしっかりしていなければいけないのですが…」
「いえいえ。私は自分にできることをしているだけですので〜。
それに、皆さん不眠不休で働いていらっしゃいますから。私より皆さんのほうが頑張ってらっしゃると思います〜」
「そう言っていただけると多少救われます。この街は私達の街ですからね。
 自分達の街は自分達で!という思いが皆強いんですよ」
 男もお茶を啜った。ちょっと休憩という形になったので、用意されたお茶請けなどを食べながら
 しばし談笑する。

 と、そこへ急報が届けられた。
「大変です!瓦礫の下からサーバントが!」
 どうやら、相当弱っているらしいが、そこは腐ってもサーバント。
 一般人の手に負えるものではない。
「私、ちょっと行って来ますね。皆さんはここにいてください」
 遮那はV兵器を装備し駆けて行く。
 現場に到着すると、既に戦いは始まっていた。
 一人の撃退士が剣を構え応戦している。
 遮那は撃退士の反対側に周り、ジャマダハルで斬り付ける。
 元々弱っていたことと、先に駆けつけていた撃退士の活躍もあってサーバントは
 それから数分後にあっけなく地に伏した。
 止めの一撃を差したのは遮那であった。
「ふぅ…緊張しました」
 念のために装備を持ってきておいて大正解だった。
 手負いとはいえ、サーバント。次も上手く行くとは限らない。
「美味しい所を持って行かれちまったな。まぁ、ご苦労さん」
 共に戦っていた撃退士が声をかけてきた。
「無事に倒せてよかったです〜」
「そうだな。幸いこの戦闘での被害もなし。迅速に倒せた。これもあんたが来てくれたおかげだ。
まぁ何にせよ、これ以上の被害が出なくて良かった」
「そうですね。それが一番だと思います〜」
 その後、駆けつけた他の撃退士や処理班により、サーバントは無事処理された。
 しばらくして、遠巻きに戦闘を見ていた地元民が遮那を含めた二人の撃退士に次々に感謝を言葉をかけてきた。
 心に傷を負う人々にとって、サーバントは負の象徴であり、トラウマなのだ。
 それを倒した撃退士はまさに希望の象徴である。遮那は皆から受ける感謝の言葉に心が温かくなるのを感じた。

 そして復興作業にそれぞれが従事していく。
 遮那は災害対策室へ戻った。まだまだ、やることが山積みなのだ。
「お疲れ様です。聞きましたよ、ご活躍されたそうですね」
「活躍だなんてとんでもないです。私はそれよりも皆さんが無事だったことのほうが大事だと思ってますので〜」
 本心から出る言葉だ。その言葉に役人の男は深く頷いた。
 それから再び遮那は管理・整理作業に従事する。
 その仕事に対する姿勢と心構えは、確実に皆に届いていたようだ。

 ●
 佐藤 七佳(ja0030)は各家庭を訪問していた。
 何か困っていることがあれば、それをメモして、災害対策室に現場の声として届けているのだ。
 特に老人、子供の話し相手を中心に努めている。
 物理的な復興だけでなく、精神面のケアも重要と考えての行動だった。
 各家庭での困っていることは千差万別大小様々だったが、やはり群を抜いて困っていることは
 ライフラインの復旧が滞っていることだろう。
 水はようやく確保できるに至ったが、一部の地域ではまだ電気が復旧していなかった。
 今の季節でも夜はまだまだ冷える。そう言う訴えが多いのだ。
 七佳はそれを聞き届けると、すぐさま電気の通っていない家を中心に回り、毛布を届けた。
「これ、この前言っていた毛布です。お届けにあがりました」
「ありがとうございます。わざわざ届けていただいて…」
「いえ。私にできることなら何でも言ってくださいね」
「そういえば、お隣のさんが昨夜トイレに行く際に転んでしまったらしくて…」
「この辺り、まだ電気が通ってないですもんね。わかりました。ちょっとお隣に行って見ますね」
 七佳は一礼してからドアを閉め、隣のお宅に訪問した。
 中から出てきたのは年老いた女性で、足を痛めたのか少し引きずっている。
「お隣さんから聞きました。あの、昨夜転んだとか…」
「あぁ、なんせ真っ暗だったから、懐中電灯片手に行ったんだけど、途中で転んじゃってねぇ。
その時足を捻ったらしくって」
「シップとかは貼ってらっしゃらないんですか?」
「あいにく手持ちが無くってねぇ…」
「わかりました。私、シップ貰ってきます。おばあちゃんもう少し待っててね」
「良いの?私なんかのために」
「私なんか何て言わないでください。じゃ、ちょっと行ってきます!」
 七佳は猛ダッシュで災害対策室に駆け込み事情を説明。シップを貰い受けるとすぐさま走り戻った。
「ただいまー!おばあちゃん。これ、シップ貰ってきました」
「まぁ、もう行って来てくれたの?本当にありがとうねぇ」
「ううん」首を横にふり「困っている人が居たら助けるのが、私達撃退士なんです」
「そうだねぇ。貴方達はこの街を守ってくれたんだものね。そうだ、少し上がっていかない?
今丁度お茶を入れたところなのよ」
「それじゃぁ、お言葉に甘えて」
 七佳は笑みを浮かべ、お宅にお邪魔した。
 お茶の用意を少し手伝い、年老いた女性の足にシップを貼る。
 それとなく部屋を見回すと、仏壇には彼女の夫らしき人の遺影が飾られていた。
「…お一人なんですか?」
「そうねぇ。主人には数年前に旅立たれて。子供達は遠く離れたところに住んでるから、今はこの家に一人きりなのよ」
 寄る辺も無く広い家に一人。今は電気も通ってないので、テレビもつけられない。
 ますます孤独感が彼女を蝕んでいくだろう。
 七佳はそんな孤独感を払拭するべく、彼女の話し相手を努めた。
 結構お喋り好きだったらしく、七佳は聞き役に徹し、会話の合間に相槌を打つ。

 …気がつけば、七佳がこの宅に来てから既に2時間が過ぎようとしてた。
 彼女は思いのほか孤独を抱えていたらしく、堰を切ったように話し続けていたのだ。
「あら、もうこんな時間。本当にごめんなさいねぇ。私ったらしゃべり続けてばかりで」
「いえ、良いんです。おばあちゃんの話、本当に面白い話ばかりでしたから」
「そう言っていただけると助かるわ。でもごめんなさいねぇ。なんだか引き止める形になってしまって」
「気にしないでください。私も楽しかったです。それじゃぁ私、そろそろお暇しますね。また来ます」
「ありがとう。本当に貴女が来てくれて良かったわ」
「私もおばあちゃんに会えて良かった」
 二人は笑みを浮かべ、別れを告げた。
 一人一人の心のケアも大事にする七佳の行動に、また一人救われた人が居た。
 救援活動は長期にわたる仕事だ。自分達は数日しかいないが、その間は一人でも多くの人達の
 心のケアをしてあげよう。そう思う七佳であった。

 ●
 藍 星露(ja5127)は慰問内容を何にしようかと考えていたが、
 得意の中華料理(実家が老舗の中華料理屋)の腕を生かし、炊き出しをしようと考えた。
 メニューは何が良いかと考えたが、見た目にも楽しめる刀削麺(とうしょうめん)で行くことに決めた。
 味を日本寄りにするか中華寄りにするか悩んだが、今回は中華寄りで行くことにする。
 出来うる限り本場の味で食べて欲しいと思ったからだ。
 刀削麺は普通の包丁で麺を切るのではなく、くの字型に曲がった包丁を用いて生地を麺状に削り落として
 直接鍋の中に入れ、茹でて作る。
 この麺を削る作業は中々に難しく、熟練した職人でなければ綺麗に削るのは難しい。

 今回は炊き出しということもあり、大鍋を用意した。
 湯の沸いた大なべに前に立ち、麺生地の塊を持つ。
 そしてリズミカルに特殊な包丁を動かし、麺を削り鍋の中に入れ落としていく。
 星露の美しい容姿と相まって、その調理姿は大好評だった。
 茹でた麺をスープと絡め刀削麺の完成である。
 それを手際よく器に等分に移し盛り付けていく。 

 星露の刀削麺があまりにも美味しそうだった為、炊き出しの前はかなりの長蛇の列になっていた。
 そこでちょっとした騒動が起こった。早く食べたいと欲を出した人たちが割り込みを掛けてきたのだ。
 しかし、そこは撃退士の星露である。騒ぎを収めるべく素早く行動を開始した。
「ねぇ、貴方達。みんな順番を守って食べにきてくれてるの。
 貴方達も自分の前に割り込まれると嫌な気持ちにならないかしら?
 それにね、何も諍いを起こさなくても、貴方達が食べられる分はちゃんと用意してあるわ」
 スキル『アウトロー』を使っての説得である。
 割り込みを掛けてきた数人のグループは星露の説得に応じ、割り込みを掛けられた人たちに謝罪し
 元の場所へと戻っていく。
 すぐさま場を収めた星露に拍手が巻き起こる。それと同時に刀削麺の手伝いに来てくれていたスタッフが
 料理が完成したことを告げに来てくれた。
「ありがとう皆さん。さぁ、料理は完成したようですので、お腹一杯食べていってくださいね」
 周りから歓声が起こる。
 星露は再び厨房に戻り、追加分の刀削麺の作成に取り掛かった。
 結果を言えば、星露は厨房に5時間立ち続けた。その間ずっと刀削麺を作っていたのである。
 普通の人間よりも身体能力の高い撃退士とは言え、これには流石に疲れを見せた。
 
 一仕事終わったあと、大きく背伸びをして、炊き出しの場を眺める。
 皆、星露の作った刀削麺に舌鼓を打ち笑顔があふれている。
「おねーさんありがとう!これすっごく美味しかったよ!」
 星露を見かけた子供達が駆け寄ってきて、空になった器を見せ感謝の言葉を告げる。
「ほんとほんと!今までこんなの食べたこと無かった!」
「これ、どうやったら作れるの?」
「ばっかお前、これはなぁ。中国4千年の歴史でそう簡単に作れるもんじゃないんだぞ!」
「えー!?じゃぁ、これ作るのに4千年かかるの?」
 子供達の元気な笑顔と掛け合い漫才?に星露から笑みがこぼれた。
「これはね、作るのに4千年もかからないけれど、いっぱい練習しなきゃ作れないのよ」
「「「そっかー!」」」
 元気の良い子供達であった。この元気の良い子供達に笑顔を咲かせることが出来たのだ。
 自分のやったことは間違いでは無かった。そう思う星露であった。

 ●
 君田 夢野(ja0561)は瓦礫を撤去する作業に従事していた。
 普通、瓦礫の撤去作業は重機をもって行うのだが、そこは撃退士である。
 ある程度の大きさの瓦礫なら自分ひとりで片付けられるのだ。
 多量の瓦礫を意気揚々と運び、周囲を元気づける夢野。
「これくらいの瓦礫、お手のモンですよ!さぁ、頑張っていきましょう!」
 が、無茶しすぎて潰れる事もあった。
「ぐほっ!? や、やりすぎた‥‥!」
 運べると判断した山積みの瓦礫だったが、バランスを崩して倒してしまったのだ。
 瓦礫に埋もれる夢野であったが、すぐに復活し瓦礫をどかす。
 埃まみれになった夢野に、皆が笑っていた。なんとか笑いを取ることには成功したようである。
 しばらく瓦礫撤去作業に従事していたが、時間も夕方になり一旦作業は中止となった。
 また明日に再開されることとなったのだ。

「さぁって、これから何するかな」
 俺達撃退士はただ眼前の敵を倒すだけじゃなく、傷ついた人を癒す事も出来る。
 アウルの力は、人を守る為の力なのだからきっと出来るはずだ。
 その信念の元にこの依頼に参加した夢野だった。

「おにーちゃーん!」
 不意に後方から呼びかける声があった。振り向くと、先ほどの撤去作業現場を遠巻きで見ていた三人組の子供達だ。
「ねぇねぇ、おにーちゃん撃退士なんでしょ!?あれやってよあれ!」
「そうそう!こう、シュパーって光るやつ!」
 子供達はどうやら光纏をして欲しがっているようだった。
「ようし見てろよ!」
 夢野の体から金色の五線譜の帯が現われ、全身に螺旋状に纏う。
 その光景はとても幻想的で、子供達は目を輝かせて見入っていた。
 やがて、光纏は収まり元に戻っていく。
「っと! どうだい、これが光纏ってヤツだ」
「すっげー!俺もやりたい!」
「皆が出来るかどうかは、流石に俺にはわかんないなぁ。
でもさ、皆がもし撃退士になりたいんなら、今すぐにでもできることがあるよ」
「えー!なにー?」
「それが出来たら撃退士になって、ピカーって光れる?」
「俺達撃退士は悪いやつらを退治するのが仕事だ。これは皆も知ってるよな?
でもさ、撃退士の仕事はそれだけじゃないんだ。撃退士は悪い奴等をやっつけると同時に
皆の役に立たなくちゃならないんだ」
「皆の役に?…それってどうするの?」
「簡単なことで良いんだ。困ってる人が居たら助けてあげる。これを心に行動するだけなんだよ」
 子供達はうんうん唸り、考え込む。夢野はそんな子供達を見て微笑んだ。
 撃退士に興味がある子供達がいる。この中から、本当に明日の撃退士が誕生するかもしれない。
 自分がそのきっかけとなることが嬉しかった。
 やがて、一人の男の子がポツリと呟いた。
「うーん…お隣さんの犬の散歩とか?」
「あ、お前んちの隣の人って、今足痛めてて犬の散歩できないんだっけ?」
「そう、そう言うことで良いんだ。誰かの役に立つことが出来れば、その心を胸に行動してれば。
 そして、撃退士になりたい!っていう強い思いがあればさ、きっと撃退士になれるよ。ここに夢を秘めてね」
 夢野は左手で自分の胸をトンッと叩く。
「そっか!僕、早速犬の散歩手伝ってくる!」
「あ、ずりぃ!俺も行く!」
「僕もー!」
 駆け出していった子供達だったが、途中で急ストップをして、夢野へ振り向いた。
 そして三人揃って左手で胸を叩く。
「「「ここに夢を秘めて!」」」」
 夢野は破顔し子供達に向かって大きく手を振った。子供達も手を振り返し、やがて走り去っていった。
「あの子供達の未来、夢を守れるのは今の俺達の仕事なんだ。守らなくちゃな…」
 左手で自分の胸をトンッと叩く。ここに夢を秘めて。
 
 ●
 それぞれの救援活動が終わり、今日は最終日。
 旭川の庁舎にある多目的ホールでのステージに立つ日だ。
 この時のためにそれぞれが時間を割いて練習してきたのである。

「でだ。どうして私の服が、この、初等部か中等部の制服なのだ」
「あははー。いや、部長さんって見た目にアレだし、年齢知らなかったのよねー。
それに高等部以降だと合うサイズが無かったからさ」
「ぐぬぬ!見た目にアレなのはだな!…しかし、もう衣装がどうのと言ってる時間も無いか…。
もっと早く衣装合わせはするべきだった…」
 ここは控え室で、衣装を(制服)合わせていた楓が悲観にくれる。それを慰めるのは七佳だ。
 他のメンバーを見てみよう。他のメンバーも大概は制服だった。学生らしく制服で望むこととなったのだ。
 桜は中等部の制服にピンクのスカーフを首に巻いている。
 星露は高等部の制服だが、脱いだジャケットを、腰に袖を結んで巻き付けるアレンジを加えた。
 ブラウスとネクタイの姿が、ほんのりと色気をかもし出していた。
 遮那は高等部の制服を借り、夢野も高等部儀礼服。
 七佳は中等部の制服にスカートは赤のチェック柄プリーツスカートへ。
 黒のサイハイソックスで絶対領域を確保など若干のアレンジを加えている。

 最後にステージでの位置確認を行う。
 中央に夢野を配し、その右に遮那。その右に星露。夢野の左は桜、その左に七佳、その左は楓と言う配置である。

 間もなく開演時間だ。緊張がそれぞれを襲う。舞台に立つということは、普段の戦いとは違う緊張があるのだ。
 そんな中、夢野が皆に言った。
「みんな、今日が最終日だ。今は緊張とか色々あると思うけど、でもさ、楽しもうよ。俺達の歌を届けよう!」
 皆の顔に笑顔が広がり、自然と円陣を組む。
「久遠ヶ原ー!」
「「「「「ファイト!」」」」!」

 大歓声を受けスポットライトを浴びながら登場するメンバー達。
 観客席を見れば、それぞれ旭川で知り合った人たちがこちらに向け手を振り声援を送ってくれている。
 そして、旭川での最後の仕事。ステージが始まった。
 最初は皆が知ってるポップスや童謡など共感を得られる歌を歌い、会場を温めていく。

 観客席前中央部の辺りには少し開けたスペースがあり、車椅子でも観覧できる席があった。
 その中に車椅子に座り、笑顔で自分に声援を送ってくれている年老いた彼女が居た。
 ステージ袖には地元の役人の人達が特等席で声援を送ってくれている。
 一番前の観客席では、男の三人組が自分の左胸をトンっと叩きながら声援を。
 その後ろでは負けん気の強そうな男の子とその仲間達が両手をぶんぶん振っていた。
 観客席後方では、炊き出しで顔見知った子供達や大人達が大声援を送ってくれていた。

 夢のような輝くステージ。今までの活動を通して育んできた絆は確かにここにあった。
 歌うメンバーも声援を送る観客側も、それぞれが笑顔なのだ。
 華美な言葉など要らない。派手なダンスもいらない。伝えるのは真心のみ。
 その心が伝わっている実感がここにある。
 まさに『きらめくステージ』がここにあるのだ。

 …そして笑顔で溢れたステージも次でいよいよ最後の曲となった。
 今回参加したメンバーが一人一人、観客に向かって感謝の言葉を告げる。 

「みんなー!今日は集まってもらって本当にありがとー!あたしー!みんなのことだーいすきー!」
 桜がマイクを掴み感謝の言葉を精一杯伝える。観客席からは大声援と拍手が巻き起こった。

「この数日間で知り合えた皆様が駆けつけてきてくれた事、本当に嬉しく思います。
お集まりいただいてありがとうございました」
 観客席から「「「藍 星露ー!!」」」と大声援が起こった。
 旭川の人たちの胃袋を満たし心を掴んだ星露の人気が伺える。

「舞台で歌うのはさ、やっぱり緊張しちゃったけど。
それ以上にみんなの笑顔が見れて、あたし本当にここに来て良かったと思う!」
 少し涙声になりながら七佳が喋る。それを受け観客席からまたもや拍手が沸き起こる。

「数日間ではありましたが、皆さんの支えに少しでもなれたんだと言う事が、今の私の財産です。
もう少しここにいようかな?なんて思ったりもしちゃいます〜」
 ステージ袖から「君は残るべきですね!」と熱いラブコールがかかったり、観客席からも惜しむ声がそれぞれに響いた。

「復興の主役はここにいる旭川の皆さんだ。一刻も早くこの旭川が元に、いや、元よりも素晴らしい街に復興できるよう
頑張って欲しい。もちろん、私達久遠ヶ原学園も惜しみない助力と、天魔を退けることをここに誓おう!」
「さすがぶちょー!」「ようじょー!」など今までとは少し違う声援と笑いが巻き起こる。

「本当にありがとう旭川の皆さん!俺達ここに来て良かった!!皆さんに笑顔にできて本当に良かった!!!
皆さんに出合えて本当に、本当に良かった!!!!」
 夢野の絶叫が観客席の大声援と大歓声、大拍手を巻き起こした。
「それでは…次が最後の曲になります。聞いてください。『尽き無い光』」

 会場の照明が落ち、伴奏が始まる。
 この曲はオリジナル曲だ。それぞれがパートの歌詞を持ち寄り、作り上げた力作となっている。

 歌い出しは夢野だ。彼にスポットライトが当たる。
 心を込めたテノールの力強く響く歌声を人々に届け、その傷ついた心を癒すために歌う。
 これでも長年音楽に親しんできた身、心に響く歌声を届ける自信はあった。

「この久しく遠い 険しい道に満ちる
尽きる事の無き光が導く その先の末にある
美しく輝く夢を いつの日か見てみたい 」

 次にスポットライトが当たったのは遮那。必ずしも笑顔ばかりではなく、
 歌詞に合わせた表情を出して歌い上げるていた。
 また、振り付けも派手に動くようなものでなく、身振りや手の動きで感情を表して細やかに歌う。

「喜びも 悲しみも 忘れられないから
前に進めない? そこにいても良いよ
いつか思いでにできるよう
今は 夜空に星灯りを探すように」

 次は桜だ。ダンス等は無いが、ちょっとした手振りを加えて歌っている。
 普段の元気一杯の声とは違い、大きな声だが優しい感じで歌い上げた。

「現在(いま)はまだ泣いててイイよ だから諦めないで
明日が来たら笑おう!キミのために 誰かのために…」

 次にライトが当たり、前に出たのは星露だ
 華麗に優雅に舞うようにターンを披露し、歌い上げる。
 くるっと回る動きは中国拳法で慣れており、お手の物だった。

「涙でも 痛みでも
消せない希望(ひかり)が胸(ここ)にある 」

 七佳にスポットライトが当たる。七佳は得意のアクロバティックな動きは多用せず、
 位置の入れ替えや手の動き等の若干の動作で歌詞を表現する。
 明日へ歩き、明日を照らすのだ。

「勇気 心に灯して 明日へ歩もう
希望 心に灯して 明日を照らそう」

 そして楓にもスポットライトが当たる。いつもの眼鏡を外し裸眼で観客席を見る。
 皆良い笑顔だった。そしてこちらの歌を真剣に聞いてくれているのがわかる。
 この期待に応えなければ。そう思い、心を込め歌い上げる。

「尽き無い光が 皆に届くように
道照らす光が 君に届くように」

 そして最後のフレーズは全員での合唱だ。

「此処から永久に 歌を歌おう
此処より永久に 愛を歌おう

此処から永久に 歌を歌おう
此処より永久に 愛を歌おう」

 メンバーの脳裏にこの数日間の事柄が思い浮かぶ。
 現地の人に混じって苦労を重ね、励ましあい、助け合ってきた。
 そして絆を結んできた人たちの笑顔。
 目に前にいる観客のみんな。
 感情の高まりがアウルの高まりに繋がり、一斉に光纏をする。
 それぞれの暖かな光が自身を照らし、皆を照らす。
 撃退士は皆の希望であり光だ。まさしくそれは尽き無い光そのものであった。

 そして歌は終わり、マイクを離す。
 会場は万雷の拍手と大歓声が巻き起こった。
 今此処にメンバー達は確かに希望を、夢を、旭川の人に届けて見せた。
 それぞれが泣き出し、お互いを称え合う。それを見た観客もまた心を動かされ感動し
 惜しみない拍手をメンバーに捧げた。
 …こうして慰問ライブは成功のうちに幕を閉じたのである。


 後日、夢野は今回の旭川の活動を振り返っていた。
 当初、学園に入った時は『音楽で心を癒す』事も目的としていた。
 しかし、本当は肉親と故郷を奪った天魔への復讐に心を囚われていた…そんな気がするのだ。
 今では忘れかかっていたが、今回の活動を切っ掛けに初心を取り戻せたかもしれない
「夢を、護る‥‥そう、それが俺の、俺達の戦う意義」
 自身の胸をトンっと叩き、物思いに耽りつつ、そう呟いた。


 了



 曲名:尽き無い光
 作詞:君田 夢野・奉丈 遮那・丁嵐 桜・藍 星露・佐藤 七佳・東雲 楓(作詞順)
 作曲:君田 夢野

 この久しく遠い 険しい道に満ちる
 尽きる事の無き光が導く その先の末にある
 美しく輝く夢を いつの日か見てみたい  

 喜びも 悲しみも 忘れられないから
 前に進めない? そこにいても良いよ
 いつか思い出にできるよう
 今は 夜空に星灯りを探すように

 現在(いま)はまだ泣いててイイよ だから諦めないで
 明日が来たら笑おう!キミのために 誰かのために…

 涙でも 痛みでも
 消せない希望(ひかり)が胸(ここ)にある

 勇気 心に灯して 明日へ歩もう
 希望 心に灯して 明日を照らそう

 尽き無い光が 皆に届くように
 道照らす光が 君に届くように

 此処から永久に 歌を歌おう
 此処より永久に 愛を歌おう

 此処から永久に 歌を歌おう
 此処より永久に 愛を歌おう


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: Blue Sphere Ballad・君田 夢野(ja0561)
 序二段・丁嵐 桜(ja6549)
重体: −
面白かった!:5人

Defender of the Society・
佐藤 七佳(ja0030)

大学部3年61組 女 ディバインナイト
Blue Sphere Ballad・
君田 夢野(ja0561)

卒業 男 ルインズブレイド
撃退士・
奉丈 遮那(ja1001)

卒業 女 ディバインナイト
慰撫の楽士・
藤堂 瑠奈(ja2173)

大学部3年287組 女 アーティスト
あたしのカラダで悦んでえ・
藍 星露(ja5127)

大学部2年254組 女 阿修羅
序二段・
丁嵐 桜(ja6549)

大学部1年7組 女 阿修羅