「よく集まってくれた諸君。今回の依頼はこの二つの薬を売って売って売りまくってくれと言うことだ。
一番売った参加者には特別報酬も約束しよう。それでは各人の検討を祈る!」
部長の一声により、毛生え薬を売る者、身長が伸びる薬を売る者に綺麗に分かれた。
・毛生え薬
月臣 朔羅(
ja0820)・櫟 諏訪(
ja1215)・宮本明音(
ja5435)・名芝 晴太郎(
ja6469)
・身長伸びる薬
権現堂 幸桜(
ja3264)・土方 勇(
ja3751)・日谷 月彦(
ja5877)・夏野 雪(
ja6883)
まずは、毛生え薬班から見てみよう。
●毛生え薬班
月臣 朔羅はまず情報戦を展開すべく、販売促進用のWEBサイトを作成し始める。
周知を徹底し、売り上げ増を狙う作戦だ。WEBサイトを作る際に予め部長に確認を取り、OKを貰っている。
「通販も出来るようにしておいたほうがいいかしら。毛生え薬だから人目につくのは避けたいって思う人が居るかもしれないのよね。
後は・・・WEBサイトに毛生え薬の成功例として動画をUPしたいのだけど、誰か毛生え薬試してみない?」
「はい!自分やりますよ!あと、キャッチコピーに『悩める人に、髪の救いの手を』ーって言うのはどうですかねー?」
元気よく手を上げた人物が居る。くるくるとしたあほ毛が特徴の櫟 諏訪だ。
朔羅から了承を得、毛生え薬を手渡される諏訪。それを一気に自分の頭に振り掛ける!
数秒後、諏訪の頭に面白い変化が起きた。あほ毛だ。
あほ毛が縦横無尽に伸び。まるでそれが意思を持ったようにうねうねと動き空中に文字を描き出した。
『毛生え薬は成功した!自信を持ってイーンだよー』
グリーンだよー!っと幻聴が聞こえる。
っぶふぉ!っと名芝 晴太郎は吹き出した。毛が伸びるのはわかるが、あほ毛が伸び、
あまつさえ意思を持ったように動くとは、予想の範囲外だった。
宮本明音は「ほえー」と呟きながらあほ毛を見た。そして自分の髪の毛を触る。
今回の依頼では実演販売を自分もするもするつもりでいた。
自分が成功した場合一体どのように髪の毛が伸びるんだろう?そう思ったのだ。
「絶対に一番売って部長のご褒美もらうんだ‥っ!!」
ぎゅっと決意を新たにする。
「え、えっと・・・ともかく、今の様子はこのカメラで動画撮影したわ。これで売り上げアップは固いわね」
「それじゃぁ、準備に取り掛かろう。明日決行の朝昼夜の3回に分けて、人通りの多い場所で販売。で良いんだよな?」
「そうですね。春太郎さん一緒に売りに出ませんか?」
「おう、まかせとけ!」
「よーし、それでは売って売って売りまくりましょー」
『おー!』
次の日の朝、毛生え薬を販売班は駅前に居た。人通りがごった返す中で一人でも多くの人に見てもらおうと言う作戦だ。
事前にビラを作成し、そのビラにQRコードやURLを載せてある。昨日撮影した動画を販売用のWEBサイトにアップしてあるのだ。
そのビラを片手に、通行する人々に配っていく。また、ビラ自体は学校の掲示板や、飲食店街にも既に貼り出していた。
また、昨日のうちから呟きサイトで呟き、大体的に宣伝をかけていたのでWEBサイトのアクセスカウンターは
かなりの勢いで回っていた。数件WEBでの予約注文も入っており出足は好調だった。
諏訪の大きな掛け声とあほ毛、朔羅の扇情的な姿、明音の配慮ある販売の勧め、販売する時の笑顔を忘れない
晴太郎の気さくな声かけにより、街頭販売もかなりの勢いで毛生え薬が売れていく。
お昼になり、それぞれは売る場を分けた。朔羅と諏訪は飲食店街に来ていた。
「1番、あほ毛ドリルですよー!……次は2番、あほ毛ソードですよー!」
縦横無尽にあほ毛を操り、客を呼び込む諏訪。
また、移動販売できるよう、運搬用のリアカーを学校から借りていた。
「こちらは摩訶不思議な毛生え薬ですよー!どんな人でもあっという間にロングヘアーが手に入りますよー!」
朔羅はキャンペーンガールよろしく、愛想の良い笑顔でビラ配り&販売を進めている。
唸るあほ毛の威力もあってか、客寄せには大いに成功していた。
お昼時のサラリーマンが、何だ何だと言って押し寄せ、毛生え薬を手に買っていくのだ。
「ありがとうございました♪・・・さて、此方の売れ行きは上々ね。あっちはどうかしら」
スマホを片手に春太郎に連絡を取る。
「ビラ配りの方は順調よ。そちらの売れ行きとかサイトのアクセスとかはどう?」
「あぁ、こっちもそれなりに売れてる。やっぱり事前告知と動画が効いたみたいだよ。サイトからの注文も良い勢いだ」
食堂前で販売していたのは春太郎と明音だ。
「ロングにするのは大変だけど使うだけで!面倒だったら切っても大丈夫っ!」
精一杯の接客でお客にアピールをかけていく。
「ちょっとそこ行くお兄さんお姉さん! 寄ってらっしゃい見てらっしゃい! タネも仕掛けもありますが!
今から、この薬の実演をします!まぁ、見てってください!」
毛生え薬を勢いよく自分の髪の毛に振り掛ける春太郎。
・・・暫く変化は起きなかったが、徐々に髪の毛が伸びだし、ショートだった髪は腰の辺りまで伸びた。
それを見ていた周りからは「おぉぉぉ」と歓声が上がる。
「晴太郎さん髪長いと印象変わりますね‥。可愛いですよっ!」
「ありがとう!うぉっほん!さぁどうですか!?これは本物、今がチャンスです!今なら通常価格よりも割安で買えますよ!」
食堂での販売は盛況だった。
夕方になり、最後の締めとばかりに大体的に宣伝攻勢をかけるメンバー達。
明音は髪の毛が少し薄めの人やイメチェンしたい女の子を中心に声かけをしていた。
小学生から大人まで幅広く需要を見込んでのことだ。
「あ、む、娘さんとかにどうですか?私、今から実演をしますね。よかったら見ていってください」
恐る恐る薬を頭にかける。
・・・シャラン
鈴鳴りが聞こえた。どこからなのか?決まっている。明音からだ。正確には明音の頭髪だ。
肩を少し越すぐらいの髪の毛が綺麗に艶やかに足元まで伸びたのだ。どこの平安貴族のお姫様だと言わんばかりの
髪の量である。髪の毛を少し持ち上げ下に零せば、シャラシャラと音が鳴りそうな髪の毛だった。
「こ、このようにですね!髪の毛が伸びるんですっ!」
ちょっと自分でも驚きの効果だったが、今の実演が効いたのだろう。
販売メンバーにお客様が寄り次々と薬が売れていく。
結果、この日だけで相当な数が売れた。途中で持ってきた分が全て完売し、予約注文にまで発展した勢いだ。
「勝敗抜きで楽しかったわ。たまには、こういうのもいいわね」
「そうですねー、まさか完売するとは思ってみなかったですよー」
「あうぅ。この髪の毛切るのがもったいないです」
「いや、ほんとロングの俺も良いって言うか、気分変わるもんだな」
「そうだ。この後皆さん空いてますか?打ち上げしませんかー?」
「それは良いですわね。せっかくだから部長さんも誘いましょうか」
「さんせーい!部長をもふもふするの!」
「まぁ、ほどほどにな」
こうして毛生え薬班の販売は大成功に終わった。
さて、次に身長が伸びる薬を販売している班に目を向けてみるとしよう。
●身長が伸びる薬班
夏野 雪は部長と話をしていた。雪は身長が低く、実演をしないかと持ちかけられたのだ。
「そんなに身長って必要?護らなきゃいけない部分が大きくなるし‥‥‥私は、今のままでいい」
「うん?まぁ、それは人それぞれだな。しかし、君の場合はどういう動機でこの依頼に参加したのかね?」
「・・・売り子・・・経験・・・してみたかった」
「成る程。経験を積むと言う意味合いでの参加か。だが、素直なことを言わせて貰うと、
君自身あまり接客には向いているとは思えんな」
「・・・わかってる・・・だから・・・色々と教えて欲しい」
「ふむ。よかろう!任せておきたまえ。まずは接客と言えば一番大事なのが・・・」
部長から接客のイロハを教えてもらう雪。必死になりメモを取っている。本人のやる気が見えていた。
身長を伸びる薬を担当した班はあらかじめ打ち合わせを行い、結果、商店街で売り込むことにした。
事前準備として薬の紹介と販売場所を書いたビラを作っており、それを配るとともに宣伝しようと言う考えだ。
ちなみに、呟きサイトでの呟きも積極的に行っており、それなりの話題的な盛り上がりを見せていた。
商店街は一番人通りが多いところで、販売スペースを借り、日谷 月彦と夏野 雪が売り子を務める。
「こちらが今話題の身長乃麦酒。なんとこれを飲むだけであら不思議。身長が伸びるのデス。
身長でお悩みのアナタ。有象無象の鬱憤をまとめて晴らす時デス。これでコンプレックスで悩む必要はなくなりマス」
平たい口調で売り子を務める雪。初めてのこともあり、なかなか緊張が抜けず台詞が棒読みになってしまうのだ。
ちなみに販売の武器として、記念撮影した部長のビフォーアフターを引きのばした絵を掲示していた。
月彦は最近の写真を合成して自分の身長が小さかったように見えるようにし、プリントしていた。
少しでも売り上げ増を狙っての作戦だ。
「ちょっと時間をいただけないでしょうか…」
爽やかな笑顔で背の低い男性に話しかける月彦。
「この薬で(男性)の身長が伸びますよ。僕がその一例ですよ…ほらこの写真(合成写真を出す)…これが昨日の僕です」
合成写真はかなり出来がよかった。素人目では全然嘘がわからないレベルだった。しかし。
「これ、本当に伸びるんですか?それも短時間で?でもなぁ・・・」
身長にコンプレックスのある客はそれでも半信半疑だ。
月彦が販売している場所の前の道へ、とあるカップルがやってきた。なにやら口論になっているらしい。
皆がそのカップルに視線を向ける。
口論をしているカップルは、偽装カップルの土方 勇と権現堂 幸桜である。所謂サクラだ。
権現堂 幸桜は男だ。男なのに美少女だった。
「相変わらず、幸桜くんの女装はどう見てもただの美少女だよね……」
偽装カップルでの打ち合わせの際に、衣装をあれこれと決めていたときの勇の台詞である。
幸桜の衣装は、外見はそれほどまでに完璧だった。知り合いにばれないように深緑のウィッグに朱色のカラコンから
黒のウイッグに変更しカラコンを外しているが、その姿はまさに大和撫子と言った出で立ちだ。
そんな幸桜が勇に対して身長の低い男性に対し、コンプレックスを突く一言を放った。
「勇が私より身長が低いのが許せないんです!」
ガーン!!
そんな擬音が脳内補正されるような落ち込みっぷりをしめす勇。
ちなみに月彦に薬を勧められていた背の低い男性もショックを受けたようだ(笑)
「そんな、幸桜さんっ!?」
「だから…勇、ごめんなさい…もう終わりにしよ…」
「ま、まってよ!幸桜さんっ!・・・このままじゃぁ僕は・・・ん!?そ、それは!」
切羽詰ったところに、さも偶然目にしたかのように身長の伸びる薬を販売しているのを発見した勇。
今すぐ売ってくれと月彦に詰め寄り、薬を受け取った。
「まだ終わりなんかじゃないよ! こ、これさえ飲めば!」
躊躇なく飲み干す勇。
結論から言おう。大成功だった。
勇が薬を飲んだとたん、突如光纏が始まり光が溢れた。そしてその光が収まると大変身した勇がいたのだ。
丸っこい体型はすらりとした体型に。背は幸桜よりも少し高いくらいにまで伸び、そして何よりイケメンだ。
何故かイケメンに成っていた。どこの俳優ですか?と問いたくなるくらいにイケメンだ。何かを天元突破し超越した勇がそこに居た。
「……視点が高く……!!」
「え!?本当に勇なの!?嘘…」
信じられないものを見てしまった幸桜。言ってしまえば、薬を飲む前の勇の外見はどう見てもモテる外見ではなかった。
それが今や押しも押されぬイケメンである。自分の鼓動が乱れ始めるのを自覚した。ドキドキしてきたのだ。
「これで……もう許せないなんてことはないだろう。これからも一緒に居てくれないかい?」
「う…うん…こんな私でよかったら…」
ドキンッと盛大に胸が高鳴る幸桜。不意をついた勇の流し目を食らってしまったのだ。
だめ!自分は男なのに!心に決めた人が居るのに!・・・何かの葛藤が始まった。
「どうだい、僕だって身長があればそれなりだろ?」
「うん…今の勇はカッコイイよ♪」
素直に賞賛の声が出る幸桜であった。
大成功を見た月彦はこれをチャンスと捕らえた。そして、一気に販売を進めていた男性を押す。
「僕が見た感じあなたはモテる要素がある…しかし、身長が高ければ文句は無いです。ほら、あのカップルの男性のように」
「こ、これください!1本!いや10本ください!」
もう、それからは戦場である。まさに飛ぶように売れていく薬。
勇は幸桜と二人で商店街を歩きながら宣伝した。予め準備したビラを渡して自分の元の身長の写真を見せながら、
『飲むだけでこうなりました!』と宣伝する。
また、幸桜は携帯の呟きサイトで情報発信をした。
『売れ行きすごいから早く行かないと無くなるよ』と呟きまくったのである。
そのおかげもあってか、身長が伸びる薬は販売開始から3時間で全て完売した。
呟きサイトでの宣伝も大いに成功したようだ。完売後の予約注文も殺到している。
接客を担当していた雪は最初は引きつった愛想笑いだけだったが、後半慣れてきたら次第に自然に笑顔を会得。
最初に比べればはるかにまともに接客も可能に成っていた。
「凄く‥‥‥良い経験になった。戦うよりも‥‥ずっと緊張した」
「はは。雪は良くがんばった。最初はどうなることかと思ったけど、後半は自然に笑顔が出ていたしな。お疲れさん」
「ありがとう・・・」
月彦が雪の頭をぽんぽんっと軽くなでる。
その横で、いつもの姿に戻した幸桜は軽いため息を吐く。
「薬を飲んで勇がいつもの勇じゃなくなった時、僕、どうしようかと思った」
「アハハ。鏡を見るまでわからなかったけど、思わず「誰?」って自分で言ってしまったよ・・・」
勇が苦笑する。
「ところで、この後打ち上げしないか?完売記念に」
「それはいいですね。皆でいきましょう」
「・・・ついていく」
「了解です月彦先輩!盛り上がりましょう!」
身長が伸びる薬を販売する班も大成功の内に終わった。
さて、ではどちらがもっとも薬を売ったのだろうか?
●結果
後日部長から一同を教室に集められ発表があった。
結果、僅差ではあったが身長が伸びる薬を売った班が上回ったとの発表だった。
土方 勇の実演販売での大成功が功を奏したようだ。
MVPはやはり土方で、部長より特別報酬が手渡された。
「本当に僅差だったが、どちらも良くがんばってくれた。今回は非常に感謝したい」
こうして部長の感謝の言葉と表彰にて今回の依頼は幕を終えたのである。
了