「この京都を取り戻す千載一遇の機会…逃す訳にはいきまセンね」
呟いたのはフィーネ・ヤフコ・シュペーナー(
ja7905)
過去の作戦に参加しつつも、ザインエルの圧倒的力で敗北した苦い過去を持つ。
今回の作戦で、ここから始まる戦いの果てで必ず京都を取り戻し、
かつての悔しさを晴らし、溜飲を下げる。
囚われた人たちを解放し、人間としての尊厳を取り戻すのだ。
自然と武器を持つ手に力がはいる。
「これだけの数の敵を前にすると武者震いが止まらねーな…ふはは!!」
ガルムSPを肩に担ぎ、八重歯をむき出しに嗤うのはギィネシアヌ(
ja5565)だ。
「しかも、前に戦った朱雀まで登場してくれるたぁ、気が利きすぎではあるな」
「まぁ、そう言うな。それだけあちらさんも本気だと言うことだろう」
楓がギィネシアヌの横に立ち、符を展開している。やる気は満々のようだ。
「戦力差は単純に二倍、圧倒的不利なのは分かっている。だが、戦力差は策、それと強い意志で覆す。
そうやって俺達は天使を撃ち落としてきたんだからな」
君田 夢野(
ja0561)が一歩前にでる。
手にするは愛剣のフランベルジェ。
さぁ行こう。と軽く自身の胸を打ち先陣を切った。
対峙するサーバントは横陣を敷いていた。左右対称になっている。
宇治川の陣で皆と話し合い作戦を練った。
まずは右側から回り込むように進軍。最右端のウィスプとイフリートの早期撃破を目指す。
ただし、密集陣形は避け、適度に展開しつつ、戦力を一極に集中投下するのだ。
何故密集陣形は避けるのか?それは、敵に範囲攻撃を持ったものが多いためだ。
こちらのダメージの分散を狙う作戦でもある。
「野郎ども。鬨の声をあげろ!ぜってー勝つぞー!!」
周りを鼓舞しながら夢野と共にウイスプに切り込んで行くのは遊佐 篤(
ja0628)
オートマチックP37が火を噴き、確実にウイスプの体力を削り取っていく。
「よし、アイツに集中攻撃だ!」
夢野が斬りかかり、篤が撃った敵をまずは、第一目標と定めた。
一体ずつ確実に仕留めて行くのだ。
「すごい熱さです。でも、挫けません…っ」
ウイスプに狙いを定め、矢を放ったのはリゼット・エトワール(
ja6638)
放たれた矢は寸分の狂いなくウイスプに命中した。
リゼットの言う通り、戦場は灼熱となっている。
何せ炎系のサーバントが勢揃いしているのだ。予め上着に水をかけ、防火対策をしておいた。
また大量に水を持ってきていたメンバーにお願いし、持ってきていなかった皆に回して防火対策も済ませた。
リゼットの矢を追うようにして、一発の弾丸がウイスプを貫く。
そして、一体のウイスプは敵である撃退士に何をすることもなく退場させられたのだ。
負けるわけにはいかない。京都を取り戻す為にも、負ける訳には‥‥!」
撃ったのは黒瓜 ソラ(
ja4311)
愛銃を手に自分を鼓舞する。そうでもしないと戦場で心が折れてしまいそうなのだ。
「ボク達だって一枚岩って訳じゃないけれど、相手だって同じなんだ。ボクは、それを知ってる!
なら、付け入る隙なんていくらでもある!」
そう自分に言い聞かせて己を奮い立たせる。戦場では一瞬の迷いや判断ミスが命取りとなるのだ。
泣き虫ではいられない。
そして、サーバント達の反撃が始まる。
対峙する全てのサーバントが炎系のサーバントと言うこともあり、やはり炎を使った攻撃で攻め立てられた。
イフリートが灼熱の炎を撒き散らす。範囲魔法が夢野を篤を柊誠をフィーネを苦しめた。
更にウイスプが特攻を仕掛けてくる。
「暑苦しいのは苦手デス。熱いのも同様デス」
ディバインナイト特有の受けの高さを生かし、耐え切るフィーネ。
特攻を仕掛けてきたウイスプにお返しとばかりにタングストアックスで斬りかかった。
「この京都を取り戻す千載一遇の機会…逃す訳にはいきまセン!」
「その通りなんだぜ!」
ギィネシアヌのガルムSPがフィーネに特攻を仕掛けてきたウイスプに銃弾をお見舞いする。
倒せなかったものの、かなりのダメージを与えたようだ。
それに畳み掛けるようにして、白波恭子(
jb0401)がウイスプに斬りかかり、見事撃退した。
「ふぅ。なんとか戦えそうだな」
レベルで言えばこのパーティーでは一番低く、防御面では不安が残る。が、攻撃に特化したこの身だ。
攻撃が最大の防御であることを体現せしめた。前に出る勇気を持って更に敵と対峙していく。
「これでもくらえっ!」
イフリート目掛けて『ポイズンミスト』を放ったのはクイン・リヒテンシュタイン(
ja8087)
イフリートにはレジストされてしまったが、その範囲に居たウイスプ2体に毒効果を与えることに成功した。
仲間が向かって右側に攻撃を仕掛けている間の、陽動と目くらましが主目的なのだ。
「ふははっ、君達にはしばらく大人しくしてもらうよっ!」
「楓さん!合わせて!」
「了解だ!」
リゼットがミネラルウォーターを鳳 優希(
ja3762)の前方の数本投擲し、
それに向けて『マジックスクリュー』を放つ。
対象は右側に寄って来ていたイフリートだ。
ミネラルウォーターは敵は炎系の敵なので、少しでも効果を見込んでの水だった。
優希の放った激しい風の渦が、イフリートや近くに居たウイスプ2体を巻き込む。
更にそこへ楓のマジックスクリューが重ねて放たれた。
激しい風の渦が二つ、互いに勢いを増すような形となり敵を勢いよく切り裂いていく。
二人のマジックスクリューでウイスプ2体を撃破。イフリートにはしっかり朦朧効果を付与することが出来た。
「ここで負ける訳にはいかないのです。この先に未来があるのですから」
「まだ…いけるわね」
一人、戦況を後方から観察・監視していたのは権現堂 桜弥(
ja4461)だ。
この部隊唯一のアストラルヴァンガードである自分はサポートに徹するべく、
一歩身を引いたところに位置していた。
桜弥は血を見るのが苦手でまともな戦闘に参加してなかった。しかし…。
「アスヴァンの私が血が苦手なんて恥ずかしいわよね。慣れるしか無い。
弟だって戦ってるのよ?私が戦わずにどうするの? さぁ!京都を奪還するわよ!」
自分を鼓舞し、戦況を見据える。
一番の懸念事項である朱雀は、まだその場から動いていない。
動いていないが先ほど優希達が攻撃したイフリートに向かって炎のブレスを吐いた。
見る間に回復するイフリート。そして朦朧も解けてしまう。
「解ってはいたけれど…厄介ね」
「厄介だとは思うけど、まずは各個撃破だね。後ろからの援護はお任せを!‥‥ネア先輩も、お気をつけて!」
ソラのスナイパーライフルが再び火を噴き、イフリートに命中する。
「応!ソラも気張るのぜ!」
ギィネシアヌも負けじとイフリートに銃弾を浴びせた。
今の戦果はすでにウイスプ4体と幸先は良い。が此処からだろう。
イフリートがその身に纏う炎を恭子達に浴びせかけようとしたしたその時だ。
「させない!」
クインが咄嗟に『マジックシールド』を恭子に展開し、魔法防御力を上げダメージを大幅に軽減する。
「この程度の魔法が自慢かい?僕に比べたら所詮3流というところだなっ!」
「ありがとう。助かりました」
「ふふっ。どうってことないさっ!」
楓のマジックスクリューが再びイフリートに飛ぶ。
運よく、朦朧にかかったイフリートに恭子の大太刀による白刃が入った。
手ごたえあったが、倒すには至れない。
「ショウタイムだ、一曲歌ってやるぜ!」
恭子に合わせるように夢野がフランベルジェを振り下ろす。音を凝縮して解き放つ一撃『ティロ・カンタビレ』
もはや衝撃波と言うが相応しきその一撃は、荒れ狂う歌声の様な響きと共に敵をイフリートをなぎ倒し、
その後方にいたウイスプをも巻き込む。イフリートは倒しきったもののウイスプまでは無理であった。
そのお返しとばかりにウイスプが夢野達に向かって突撃してくる。
しかしその時だ。
「舞うのです、蒼き鳳凰よ!」
夢野達の前に現れたのは一体の蒼き鳳凰。鳳凰大きく羽を動かし、軽やかに舞う。
優希のスキル『蒼の舞踊守陣』が発動し、ウイスプの突撃を軽減することに成功する。
「助かった!」
「いいえ。でも、気を抜く暇は無いのです。次来ます!」
ウイスプが夢野に向かって突進する。それを前に出て受け止めるのは誠だ。
心強いな…。
リゼットは戦いの最中ににそんなことを考えていた。
学園に来てからずっと温かく接してくれている桜弥。
バイト先で優しく声をかけてくれたギィネシアヌが一緒なのだ。
それにいつも元気づけてくれる篤もいる。他の仲間もいる。
敵の数が多くても不安な気持ちはでてこなかった。
不安よりも更なる勇気をもらっているかのよう。
いつも何かしら、自分は色々な人に恩を受けている。
ならば、今ここでできることは、普段世話になっている人たちへの恩返しだ。
自分が皆を守るだなんて言ったら、おこがましいかも知れないけれど、
けれど、お世話になった人を守りたいという気持ちは本物の筈だ。
別のウイスプが前衛を抜けて篤に襲いかかる。
「避けて!」
リゼットのから放たれた矢がウイスプに命中し、篤は容易に避けることが出来た。
リゼットの回避射撃が功を奏したのだ。
「ありがとうな!」
リゼットはこくりと頷く。守ることが出来た。少しでも恩を返せることが出来る。
少し顔が緩みかけたが、ここは戦場。少しの気の緩みが惨事を招くことはよくあることだ。
自身の気を引き締めなおす。
出来るをことをただ、ひたすらにやっていくのだ。
そう、できることをひたすらにやっていく。
クインは己の実力不足をよく理解していた。優希や楓の前ではまだまだだ。。
だが、弱気を見せても、実力不足を嘆いても戦場は待ってくれないし、助けもしてくれない。
頼れるのは己のみ。己の現時点での実力のみで勝負しなければならないのだ。
実力がなければ、せめて心だけは強固であれ。
ここにいるのは…戦士として立っているクインV・リヒテンシュタイン。戦士なのだ。
故にクインは堂々とした態度で戦うのだ。
堂々とした態度で味方を守るのだ!
「マジックシールド!」
クインのマジックシールドが恭子の前に展開された。
残り二体となった内の一体であるイフリートの炎を受け止めていく。
「ふはは!その程度の炎では、僕の守りは解けやしないぞ!」
朱雀から吐き出される炎のブレスが再びウイスプをイフリートを癒していく。
そして勢いを回復したイフリート達が再び攻勢に転じてきた。
それぞれにダメージを負うメンバー達。
「ライトヒール!」
桜弥から溢れ出るアウルの光は恭子に優しく降り注がれる。
最前線に立っているだけあって恭子や夢野は狙われやすい立ち位置となっていた。
かといって、引くわけにはいかない。
こんな所で引いてしまってはルインズブレイドの名が廃る。
自分は戦う者だ。戦えば傷つくのは道理。
怪我を恐れていては勝利は無いのだ。
恭子は顔を上げる。
そこに映るのは夢野の背中だった。
ルインズブレイドとして、この戦線の切り込み隊長として夢野は恭子の遥か先を行く。
共に戦っていれば、その実力差は嫌でもわかる。
現に夢野は時に恭子を庇いつつ、時に敵を攻撃しやすいように立ち居地を変え、
サーバントに向かって刃を奮う。
「大きな背中だな…」
カチンと来る。あたしは誰だ。あたしが防御を捨ててまで、攻撃に特化しているのは何故だ。
斬る為だ。何を斬るのだ?決まっている…化け物を含め全てだ。
自分の弱い心さえも斬り捨てる一太刀。
愛刀を握り締める。
「やってやるさ。まずは…お前からだ!」
夢野がさっと場を空ける。そこにお膳立てされたウイスプが一体。
それを見事に斬り捨てた。にっと笑う夢野がいる。
いけ好かない奴だ…だが、それもいい。
恭子は夢野の隣に立ち、太刀を振るって行く。
ウイスプの体当たりによる範囲攻撃は直線状だ。
「おいみんな、範囲攻撃に気をつけろよ?」
各自わかってはいるものの、戦況は刻一刻と変化している。
自分が気づかないうちに味方と直線上に並び、ウイスプの格好の的となることがある。
そこに篤からの声がかかり、さっと離れるのだ。
常に、互いの立ち居地を確認し、中衛に指示を出す篤。
さらに、後方から位置し全体を見渡し戦場を指揮する桜弥。
前線ではそれらの指示を受け夢野が引っ張る。
二人の指揮者、篤と桜弥が戦場を作り上げ、夢野が応える形と自然となっていた。
結果的に見れば、この役割分担がこの作戦を成功に導いた要因だろう。
最初は数で劣っていた撃退士だが、次第に数でも追いつき始める。
やはり、質はこちらの方が上回っているのだ。
封都以来、それぞれに研鑽を重ねた結果が今ここに出ているのだ。
「いくぜ!八岐大蛇!」
銃身に巻きついている真紅の蛇八匹が銃口の中に潜り込み一発の弾丸に圧縮され、発射された。
撃った弾丸は螺旋状の真紅の軌跡を描き、二体目のイフリートの体を穿ち貫通した。
かなりのダメージを負ったようで、ぐらつくイフリート。これが好機だと感じた桜弥は動いた。
「援護します!皆さんもあのイフリートを!」
桜弥の銃弾がヒットする。
「…見えた。これで決めます」
スナイパーライフルを構えていたソラ。周りが無音になるほどの集中力を発揮していた。
そして、静に引き金を引く。
発射された弾丸は唸りを上げ、螺旋を描き、イフリートの頭部に着弾。
そして貫いた。
所謂ヘッドショットだ。
それが見事に決まりイフリートを撃墜した。動いている敵をヘッドショットなど普通は出来ない。
しかし、それをやってのけたソラ。
「やるじゃん、ソラ」
何時の間にか横にいたギィネシアヌがソラの肩を叩き、親指を立てる。
「っはい!」
大切な先輩からの賛辞。技量で言えばまだソラはギィネシアヌには追いついてはいない。
追いついてはいないが認めてもらえたのだ。お前も立派な戦士だと。
三体居た内の最後の一体となったイフリートが後衛に回り込もうとしたが、
誠がタウントでひきつけることに成功する。
そして、誠を中心に火炎による範囲攻撃を仕掛けてきた。誠はディバインナイトなので、防御は高い。
が、しかしその範囲に恭子も入っていた。
それを見たフィーネが動く。咄嗟にスキル『防壁陣』を発動し、受け防御を成功させた。
誰も脱落者を出すことなく皆で帰るのだ。
「脱落者など、出させはしまセン」
口に出すことで自身に強い暗示をかける。
それは不退転という名の覚悟だった。
突出し、自分達の後方に回ろうとしてきたイフリート。
言ってみれば、これは各個撃破のチャンスに繋がっていた。
それを逃しはしないのが後衛に陣取る桜弥だ。すぐさまイフリート撃破を中衛に指示を出す。
「イフリートが突出してきています。中衛はあいつを狙ってください!」
桜弥の指示に従い、優希が楓がそれぞれにイフリートに向かって攻撃を放つ。
桜弥は桜弥で傷付いたメンバーにライトヒールをかける。
「よし、取って置きを見せてやるぜ」
篤は持っていたオートマチックP37を仕舞うと水泡の忍術書を出した。
「火を纏う者対戦用の武器だ。これでも喰らえ!」
忍術書から水の泡が立ち上がる。その泡は高圧縮され、直線状に放たれた。
凄まじい勢いの水流がイフリートに直撃し、その胴に穴を開けた。
ひざを突き、崩れ落ちるイフリート。これでようやく3体撃破となった。
「ふぅ…あとはウイルオウイスプと朱雀だけか」
まだ、ボスは鎮座している。
「厄介なイフリートを倒せたとはいえ、まだ朱雀もいるしな!」
夢野が正面に居たウイスプを切り伏せる。
いつの間にか数的にもこちらが上となっていた。
ウイスプも残りは半数の六体となっている。
しかしついに、今まで動きのなかった朱雀が動き出した。
優雅に羽ばたき、ゆっくりとこちらに向かってきたのだ。
「気をつけろ!あいつのスキルは範囲がとてつもなく広い。バラけるのぜ!」
以前朱雀と戦ったことのあるギィネシアヌから警告が飛ぶ。
朱雀のスキル『鳳翼辿翔』は 全方位攻撃(5スクウェア範囲内)炎の羽ばたきで敵を蹴散らす強力な魔法攻撃だ。
しかも、喰らえば5スクェア分後退させられ温度障害までつくというおまけつきだった。
その朱雀を迎え、部隊はいよいよボス戦へと突入していく。
「と言っても…まずは残りのウイスプを倒さないと」
ソラのスナイパーライフルか銃弾が発射されウイスプに中る。
ソラが中てたウイスプの周りに二体ウイスプが固まっていた。
「固まっているのなら。鳳さん、東雲さん、あそこのウイスプに」
「マジックスクリューね!」
篤の言葉に優希が応える。そしてすぐに優希と楓のマジックスクリューが放たれウイスプを風の刃で切り裂いていく。
さらにマジックスクリューにはリゼットの手伝いもあり、ミネラルウォーターが投擲され、
水気の多いものとなっていた。
それが功を奏し、ウイスプ二対を撃破。
「逃しはしない!」
クインの六花護符から雪玉の様なものがウイスプへと射出され、ウイスプを屠っていく。
「くははっ、僕の魔法は侮れないよっ!」
「お前は後回しだ、影縛り!」
篤の影が朱雀へと伸び、影が朱雀を縛っていくが、羽ばたきでその影が霧散してしまう。
レジストされたのだ。
「ちぃ!流石にそう簡単にはいかないってことか。範囲攻撃がくるぞ!散れ散れ!!」
朱雀がこちらへ攻撃を仕掛ける前に、ウイスプに動きがあった。
残るウイスプ三体が夢野・恭子・フィーネにそれぞれ突進をしていく。突進をし、抜けた先で止まったのだ。
まるで後ろへは逃さないと言った形で。
「しまった!」
後ろにウイスプ。前からは朱雀が迫る。
朱雀の身に纏っていた炎が吹き荒れ、大気を焼き、天をも焦がす。
朱雀にのみに許された滅殺の炎。『鳳翼辿翔』が今、3人に襲い掛かった。
朱雀の炎の羽ばたきが全方位に放たれた。
美しくも圧倒的な熱量と共に吹き荒れる炎の嵐。神獣と称される朱雀の文字通りの必殺技だ。
その炎の熱量に身の毛がよだつ。
あんなのをまともに喰らったら唯ではすまない。
「避けて!」
リゼットの回避射撃が夢野に向かう。
その援護を受け、夢野はなんとか回避しきった。
そして、救援の手はまだあった。
「舞うのです、蒼き鳳凰よ!」
「マジックシールド!」
優希のスキル『蒼の舞踊守陣』が発動したのだ。
優希が舞う踊るように軽いステップを踏む。
すると、蒼の鳳凰が出現し、恭子の前に舞い降りる。
蒼い鳳凰対朱雀。はからずしも神獣同士の対決。
蒼い鳳凰は軽やかに舞い、朱雀の炎を受け止めて行く。
受けきれるか?
そう思ったが----散った。
鳳凰は蒼い炎を散らしながら霧散していく。
しかし、それでもかなりの量は受けきったはずだった。
また、クインの放ったマジックシールドもフィーネの前に展開されたが、
数秒間耐え切ると、こちらも崩れ去った。
受けには成功したが、受け切れなかったのだ。
自分達が撃退士でなければ、魔装を身につけていなければ、スキルでの対抗がなければ、
その炎にはまず耐えられなかったろう。
一瞬で消し炭になっていたに違いない。
それほどまでの炎だったのだ。
恭子とフィーネはひざをついていた。
特に恭子のほうが酷い有様だ。気絶はしなかったものの、一瞬彼岸が見えたような気がした。
「ライトヒール!」
桜弥から癒しの光が恭子に降り注ぐ。
フィーネはシールドを外し、リジェネ―ションを自分に発動させた。
「あんなもの…そうそう何度も受けれたものじゃナイ」
フィーネがごくりと喉を鳴らす。
「露払いは任せな!」
ギィネシアヌの『紅弾:八岐大蛇』が放たれる。
弾丸が螺旋状の真紅の軌跡を描き、ウイスプに着弾し、爆ぜた。
一発で仕留めて見せたのだ。
ソラが感嘆の声を上げる。
「まずは、雑魚からですね」
リゼットのグレートボウかや矢が放たれ、ウイスプを射抜く。
しかし、倒しきるまでには至らない。
そのウイスプに恭子が切りかかり、見事仕留めた。
そして、最後のウイスプへと恭子は向かった。
「…天魔殺すべし‥‥慈悲は無い。諸行無常‥‥」
ソラは自分の内側に深く潜り込む。自分の奥底に眠るのは氷。
自分の深層意識を除き見し、強制的にカオスレートをマイナスまでもって行く。
スキル『凍えそうな程に冷たいその声に耳を傾ける 』
内側から聞こえてくるのは冷たい声。
ソラの瞳から感情が消えた。ゆっくりとスナイパーライフル構え引き金を引く。
黒い霧を纏った弾丸は吸い寄せられるように朱雀へと向かい…着弾した。
カオスレート-3補正が大きく効いた。
クリティカルでは無いが、かなりのダメージを負わせたことは見て取れる。
朱雀の美しい火の羽がぶわぁっと舞い散り、霧散しているのだ。
「もう一度行くぜ!影縛り!」
再び篤から影が伸び、影の鎖が朱雀を縛り上げていく。
先の着弾の影響もあったのだろうか。
今度はしっかりと影が朱雀を絡めとり動きを阻害することに成功した。
「よっし!効果が続いている間に一気に決めるぞ!」
「了解!楓さん打ち合わせ通りに!」
「心得た!」
優希と楓が左右に展開し、同時に『クリスタルダスト』を放つ。
朱雀の左右から同時に煌めく氷の錐が出現し、文字通りに串刺しにしていく。
朱雀は火属性。そしてクリスタルダストは水よりいでたる氷。
水剋火。五行思想からなる朱雀の弱点を付いた攻撃だ。
そしてその攻撃は、影縛りで動きを制限させられていることもあり、難なく中る。
みれば、たったこれだけの攻撃で既に満身創痍。これなら押し切ればいけるか!?
皆がそう思ったときだった。
身に纏っていた朱い炎は、青白い炎となりその身を焼き焦がし始めたのだ。
「!?そうか…再生をも持っていたか」
楓が呟く。傷は見る間に塞がっていき、新たなる力がわきあがってくる。
サーバント朱雀は不死鳥をもモチーフに作られているのだ。それ故のスキルである。
しかし、完治したわけではなさそうだ。ところどころに傷が見える。
相手のスキル『鳳翼辿翔』は確かに怖い。
しかし、それを怖がっていては、得るものも得られない。
ましてや救助などは夢のまた夢だ。
夢野が自分の胸をトンと叩き、猛然と切りかかる。
「受けろ!ティロ・カンタビレ!」
音の塊が唸りを上げ朱雀に叩き込まれる。
「お前を絶対に倒す!その先に続く明日を勝ち取ってみせる!」
そう、その誓いを胸に。
「辞世の区を詠め、介錯してやる…無理か。所詮は獣」
冷めた目で感情が消えた顔で、ソラは無感動に朱雀に照準を合わせる。
「死ね」
短い殺し文句と共に引き金を引く。先ほどと同じように黒の弾丸は朱雀へと向かい、
胴に着弾する。そしてその弾は朱雀を貫き通した。胴に風穴を開けたのだ。
朱雀から甲高い悲鳴が上がる。
「後輩が頑張ってんのに、先輩が遊ぶわけにもいかんよなぁ!」
ギィネシアヌの目が紅く光る。それと同時に銃身にまとわり付いていた八つの蛇が銃口に入り
発射の時を待つ。紅弾:八岐大蛇。
何度このスキルを使ってきたことだろう。もう、何度天魔を屠ってきただろうか。
あと、どれくらいこれを使えば、終わりが来るのか…。
「俺に終わりが、悪に終わりがあるとすれば!それは!お前らを食い殺しつくしたときだぜ!」
弾丸は紅い軌跡を描き朱雀へと殺到する。そして、そのアギトはその羽を喰い散らかした。
最後のウイスプを斬り捨て、恭子は片膝をつく。
それを見た篤が声をかけた。
「もう無理はするな。後は俺達に任せとけ。お前は後方で休んでろよ」
篤の言葉にキッと目をむける恭子。
「馬鹿なこと言わないでくれ。後はあいつだけなのだろう。この依頼は敵の全滅だ。仕事は終わっていない」
「馬鹿はお前だろ!もし、最後の最後で死んだりしたらどうするんだよ」
「それならば!そうなったら、あたしはそこまでの人間だったということだ!
これから先、もっと死線をくぐることになるだろう。ならば、こんな所で躓いてなどいられない」
太刀を杖にふらつきながらも立ち上がる。慌ててそれを支える篤。それに桜弥。
「これが最後のライトヒールよ」
桜弥から癒しの光が恭子に降り注ぎ、傷が見る見る治っていく。
「無茶をしたいときは仲間に相談するといいわ。手を貸してくれ。ってね」
桜弥がウインクし、篤が苦笑する。恭子は軽い溜息を付くと、二人に向かいこう言った。
「あたしは斬ることしかできない。だから、手を貸してくれないか」
「OK!私はいいわよ。もともとサポート大得意だからね」
「まぁ、俺も援護してやるよ。しょうがねぇからな」
「すまない」
恭子は二人に目礼すると、朱雀へと向かう。対峙して分かる。その圧倒的な存在が。
さすがは朱雀と言ったところか。その炎の熱量に再生能力。
四神として作られた実力もよくわかる。
決して一人では適わない相手だろう。
「でもね…」
桜弥が呟く。人間は一人だと弱い生き物だ。それは人間である撃退士だって同じ。
一人じゃ天使には敵わない。この朱雀にだって適わない。
しかし、皆で力を合わせれば…不可能を可能に出来る!
今までもそうだったし、これからもそうなのだ。
それぞれの個が結集し郡と成り、それがやがて大きな個となる。
「さぁ!私が、私達が冥府へと送り届けて差し上げます!結集する人間の力!見せて差し上げます!」
啖呵をきり、篤と共に恭子に続いた。
「まだ、回避射撃はの残数は残ってますね」
リゼットは自身のスキルを確かめる。戦場ではそれが命とりにもなりえるからだ。
「こちらのマジックシールドも残っている。やれやれ。僕達は皆のサポートに回った方がよさそうだな」
クインがリゼットの真横に来ていた。
「サポートは不満ですか?」
「まさか!僕は自分の実力を知っている。僕が無闇やたらに攻撃参加するよりも、
今は適時サポートに回った方が被害が少なく効率がいいことぐらいわかるさっ!」
「くすっ。私もそう思います。私自身もそうしようって思ってたんです」
「くははっ!ならば行こうか!メインイベントが僕達を待っているっ!」
「はい!」
二人はそれぞれに武器を構え散開した。固まっていては狙い撃ちにあう可能性もある。
それぞれが、それぞれの役割を果たすのだ。
誠が楓の指示に従い、朱雀に張り付く。
タウントを使用し、注意を自分にひきつけた。
楓からクリスタルダストが朱雀に飛び、その身を穿つ。
当たり所が良かったらしく、ぐらぁっとその身が倒れかけたが、また、再生の炎が噴出し
見る間に回復していくのだ。
「再生中は身動きが取れないようデスね」
持っていた武器をタングストアックスからゴクマゴクへと変更した。
攻撃力重視の戦斧だ。ずっしりと重みが手に伝わってくる。
何も出来なかった封都とは違う。それぞれに成長し、自身も成長できた。
いまだ助けを待っている人がこの先に居ると思うと、胸が苦しくなる。
「待っていてくだサイ。必ず助けますカラ」
朱雀へ向かい、ゴクマゴクを振り下ろした。
「さて、決着を付けに行こうかなぁ」
優希がの周りの温度が下がる。
楓の話によれば全開の朱雀戦で再生は3回あったそうだ。今、二回目の再生が終わった。
つまるところ、後一回しか再生が残っていない。
しかも、体力が全快になることは無いらしいのだ。
終わりが見えた。
「水は私のイメージ…それを全て朱雀に叩き付けるですよ!」
大気が冷え煌めく氷の錐が優希の周囲に出現する。
その数は楓が作る氷の錐と同等。いや、それ以上だ。
自身の髪の色と合わさり凄く涼しげで美しく見える。
「いっけぇ!クリスタルダストォ!」
氷の錐が朱雀に殺到する。
一本二本三本と次々とのその身を貫いていくのだ。
皆の剣が、矢が銃弾が魔法が朱雀のその身を貫き刺し、屠っていく。
最後の再生が始まるも、それを上回るダメージを与えれば言いだけだとばかりに、
次々と攻撃をしていく撃退士達。
お返しだとばかりに決死の『鳳翼辿翔』を放ち、それぞれを焼焦がした。
しかし、片膝を付こうが、地に転がることになろうが、起き上がり、癒され朱雀へと立ち向かうのだ。
「これで終わりだ!地に帰れ!ティロ・カンタビレ!」
夢野の放った一撃が朱雀の身を削り穿つ。
『ピィィイイイイイイイ!!!』
大きな断末魔をあげ…やがて朱雀は倒れた。
その身は最後に大きな炎を上げ、その身を焼き尽くし、そして灰となったのである。
もう、再生することもなかった。
「終わったぁ…」
リゼットが深い溜息を付く。そこへ篤がやってきた。
「お疲れさん。リゼット、怪我は大丈夫か?」
「これぐらいどうってことないです。でも、心配ありがとうございます」
「いや、無事ならそれでいいんだ」
この戦いを無傷で乗り切ったものはいない。皆、自分の体力をギリギリまで使い、傷ついていた。
それほどの激戦だったのだ。
「他の所はまだ戦っている所があるようだ。小休憩の後、次の戦場が待っているぞ」
楓が声をかけて来た。
光信機使い、他の戦場と連絡を取り判明したのだ。
「じゃぁ、休んでなんていられなです。すぐに助けに行くです」
優希が提案する。他はまだ戦っているのだ。救援が一歩遅れるだけで死に直結するこの戦場で。
「そうだな。では、この部隊はこれより他の部隊の救援に向かう。
皆、疲れているだろうが、仲間を助けに行くぞ!」
「了解!」
こうして、楓達は次の戦場へと向かった。仲間達を助けるために。
取り残された人たちを助けるために、次なる戦場へその身を投じたのだ。
了