現場に到着したメンバー達。見れば、先駆けの撃退士とサーバントが戦っていた。
サーバントと対峙していたのは元々4人の撃退士だったが、今は3人と減っている。
一人は文字通り食われたのだ。
「ロォッホッホ。飛んで火に入る夏の虫。ならぬ、新しい撃退士諸君がご到着ですか」
サーバントが駆けつけたメンバー達を見た。
「後は俺達に任せな。楓、こいつらの護衛頼めるか 」
「うむ」
仁科 皓一郎(
ja8777)が光纏し阻霊符発動させる。そして対峙していた3人の前に立った。
撃退士の3人はまさに満身創痍といったところで、駆けつけるのがもう少し遅ければ
この三人も食われていたことだろう。
「助かった…後は頼む」
悔しさと疲労をにじませながら、退いていく3人と護衛する東雲楓。
それを見届けると、皓一郎は改めて眼前の敵を見据えた。
「改めて名乗りましょうか。私の名前はGulaと申します。あぁ、貴方達の名前など良いですよ。
私に食べられてしまうのですからねぇ」
でっぷりとした体をゆさゆさと震わせ楽しげに嗤うのはサーバントのType:Gula。
8本の触手を持つ怪異だ。
「七つの大罪、か…随分と、趣味の良いコト、で? 」
油断なく盾を構える。
「…ずーいぶんと喰い散らかしてくれたじゃねェの、おデブちゃん」
溢れ出る闘気を押さえもず、Gulaに叩き付けるのは島津 陸刀(
ja0031)だ。
「ヌフフ。私にとって貴方達は家畜と同じなのですよ。私に食べられるだけの存在。食料!私が生きる糧!
人間達を捕食する者。それが私Type:Gula!…そう、これも一つの弱肉強食と言ったところでしょうかねぇ」
下卑た嗤いを上げながら、塵芥を見るかのような視線を投げかけてくる。
「文字通りの人食い暴食サーバントだねぇ。悪趣味かつ不愉快な奴だなぁ」
食われた奴らの敵討ちとか、弔い合戦とかは柄じゃないんだけどねぇ。
と呟きながらGulaを睨み付ける雨宮 歩(
ja3810)
「食事のマナーぐらいはちゃんと守りなぁ。マナー違反のお客様には死の罰を、ってねぇ」
チャクラムを取り出し構える歩。
「ロォッホッホ。弱い犬ほどよく吼える。宜しい。身の程を教えてさし上げましょう」
「お前がなァッ!」
歩の陰から飛び出す紅の獣。大きく開けた口はGulaの触手に齧り付き、そのまま引きちぎる。
「ケラケラケラ!前は嫉妬、今回は暴食……いいねぇ、頂点に近付いてる気がすっぜぇッ」
既に全身に口と言う口の紋様を浮かび上がらせているのは、『人間』の革帯 暴食(
ja7850)
「ふむん。人間の中にも私と同じ属性の方が居ましたか。…おや、よく見れば『嫉妬』と対峙した撃退士ではないですか。
他にも数名居るようですが…ロォッホッホホ。これは愉快。お互いの弔い合戦ということですな」
Gulaの触手が動く。暴食を取り押さえようとしているのだ。それらか回避するために動こうとしたが間に合わず、
両手を拘束される。
次に足を拘束されようとした時、数発の弾丸が触手を貫き拘束が解かれる。
撃ったのはインフィルトレイターである青木 凛子(
ja5657)だ
「お食事はお行儀良くするものよ」
銃口からの発射炎をフッと吹く仕草が実に絵になる。
「突っ込みすぎんなよ。まぁ、無事で何よりだが」
皓一郎がカイトシールドを構えながら前に出てきた。
「さぁここからは俺の仕事だ。こっちを見ろ!」
スキルのタウントを使用し、Gulaの注目を引こうとする。しかし。
「ロォッホッホ。残念ながら私は貴方には興味はございませんのでね。それよりも…」
視線を皓一郎の後ろに居た虎綱・ガーフィールド(
ja3547)に向ける。
「そこの方のほうが美味しそうだ。さぁ、通らせていただきますよ。私の食欲が彼を食べたがっているのでねぇ」
「んだとぉ」
皓一郎のタウントが効かない。何故かは知らないが背後に居る虎綱が美味しそうだと言う。
そんなやり取りの中、一人で行動するものが居た。影野 恭弥(
ja0018)だ。
Gulaから見えない位置で密かに移動し、凛子と挟み撃ちに出来る位置まで移動していたのだ。
息を整え、心を沈める。既にGulaは射程に捕らえた。しかも、向こうはこちらに気づいている様子は無い。
「何処を狙っても中りそうだ」
触手を狙い味方の援護をする。
恭弥のシルバーマグWEが火を噴いた。その弾丸は寸分狂いなく、Gulaめがけて飛んだのだが、
当たる瞬間に触手が吹き飛んだ。
Gulaの触手が寸でのところで身代わりになったのだ。
「何処の誰が作ったのかは知らないけど、…悪趣味なもの、作ってくれた、ね。
知能がわざわざ高そうなのも…笑い方も、むかつく」
Gulaに向かって跳躍し、真上からその勢いを殺さずにブラストクレイモアを振りぬいた。
その攻撃は見事にスマッシュヒットし、触手の1本を圧壊させる。
しかし、そんなことは何処吹く風といわんばかりにGulaは虎綱を目指した。何かに惹かれるように。
「…ほう。自分に興味があるとはのう」
虎綱は距離をとりつつ、皓一郎を盾にしつつ、挟み込みに有利な地点へと誘導する。
「グラトニー…か以前そんな悪魔にもあったのう」
「おや、あちらにも私のようなものが居ましたか。ロォッホッホッホ。これは愉快愉快」
「くかかか!お主と一緒にするでない!そやつは純粋であった。純粋に全てを食らい、飲み込んだ。
対して貴様はどうだ。喋る。煩う。挙句は他者を気にするなど!愚劣愚鈍の極みぞ!」
「ヌフフ。勘違いしないで頂きたいですねぇ。同じ喰らうモノでも、格というものがありましてね。
私は創造主から多大な知性を賜った。愚劣愚鈍?ノンノン。知性とは即ち、愉しみを味わうことの出来る感性を持ち、
その場を作り出すことが出来るのですよ。このように」
Gulaは口を開けた。その口は大きく立てに割れ、お腹の部分までに達する。
そしてその大口を持って吸い込みだしたのだ。逆巻く風が虎綱を襲いGulaへと引っ張る。
なんとか抵抗を試みようとしたがそれも失敗し、そして、進路上に居た皓一郎諸共にGula自身の元へと
強制的に引寄せたのである。残っていた触手が虎綱を絡め取ろうとするが。
「っちい!」
皓一郎は咄嗟に持っていたカイトシールドを前にかざし、触手をいなす。
触手の攻撃はいなせたが、自身に迫る大口までは回避できなかった。
やばい、喰われる!そう思った時だ。
「土でも食らってろ!」
Gulaの大口に次々と土の塊が射出されていくではないか。
見れば、虎綱が土塊の忍術書で咄嗟にGulaの口にめがけ攻撃していた。
二人はその隙に飛び退き距離をとる。土塊をボリボリガリガリと音を立て豪快に喰っていくGula。
「ふむん。土はやはり味気ない。血の滴る人間の肉で無いと満足できませんねぇ」
そこから一進一退の攻防が始まる。敵は一体だけなので、手数はこちらが多い。十分に攻めきれる相手ではあったが、
Gulaの触手が邪魔なのだ。触手はほぼ一撃で倒しきることが出来るが、2ターンほど経った頃に自動的に生えてくる。
攻防一体となった触手であった。お互いにダメージを与えつつも決定打はなかった。
●
その状況を読みきり、以外にも戦況を組み立てたのは姫川 翔(
ja0277)だ。
味方とGulaの間合いを読み、敵の攻撃・パターンを読む。
「触手は一撃で屠れるようだね。力もそこまで強くなさそうだ。でも、厄介だから…結ぶ」
スマッシュで幾つか切り落とし、残った触手を掴んで結ぶ。
そして、それは効果があった。結ばれた触手はろくな動きもとれない状況に陥ったのだ。
まるで戦場を上空から見下ろしたように状況を読み、的確に行動する。
一部のアスリート等が言う。それはホークアイだと。
上空から別の目を持って戦況を読むのだ。
凛子達の援護を受けつつ、翔は考えた。そういえば、奴は『サーバント』だったなと。
先ほどから、Gulaが率先して攻撃を仕掛け、狙っているのは虎綱や陸刀・歩・暴食等、
カオスレートが魔よりの者ばかりしか攻撃を仕掛けていないのだ。
「…陸刀とか。おいしそうに…見えるの、かな。狙われた人の共通点…魔?たぶん、そう。みんな気をつけて」
それは事実であった。元々Gulaは悪魔を屠る者として作られたのだ。その名残として、魔に近いものを優先して
襲っていたのである。
「ほう。そう言うことだったか。それならば…考えがある」
動いたのは恭弥。一旦攻撃を止め、スキルを物理攻撃特化にし活性化。
スゥっと目を閉じる。アウルを両目に集中させ、見開いた目は金色に輝いていた。
左目からは炎のようなオーラが放出される。
そして命中を飛躍的に向上させ、次の動作へと移った。
味方が攻撃を仕掛けた後、内に秘めし自分の闇を開放した。その瞬間、Gulaの顔が、体が恭弥に向く。
開放された闇が魔が、Gulaを引きつけたのだ。
「脳裏に刻め…これが、恐怖だ」
放たれし弾丸は黒き炎を纏って、Gulaへと殺到する。狙ったのは脚部であり、右足の膝関節だ。
そして、その魔弾は見事に脚を打ち抜いた。
「機動力を無くしたところに追い討ちを行ってみようかぁ」
歩から出る影が瞬時に伸びて行き、Gulaを拘束しにかかる。そしてその影は地面を這い出Gulaを雁字搦めにしたのだ。
「お膳立てはしてやったんだ、追撃は任せるよぉ」
「ケラケラ!ナーイスッ。これで喰い放題ッ!」
再び暴食が突貫し、文字通り襲い掛かる。触手を喰い散らかそうと思ったが、その前に。
「おおぉらぁあッ!」
前方に倒れこむ形で、かかと落としをGulaの目に叩きいれた。それは見事に成功し、Gulaの片目を潰すことに成功する。
その暴食と呼応するように動いたのは凜子だ。恭弥とGulaを挟む感じで間合いを取っており、
常に攻撃する機会を伺っていた。
凜子に背をむけ、拘束されたGulaはまさに動かない的だ。目にも留まらぬ速さで思う存分に弾丸を撃ち込んでいく。
Gulaは影の拘束を強引に引きちぎり、大口を開けた。近くにいるものを纏めて自分の下へ吸い込もうとしたときだ。
その予備動作を正確に見切った者が居た。陸刀だ。溢れ出る闘気を全開に、鬼神の如くGulaに襲い掛かる。
「これでも喰らいなぁ!」
手足に炎を纏わせ拳打・脚打を浴びせかける。一撃・二撃・三撃・四撃と次々に打が決まり、
止めとばかりに右腕に渾身の力を最大の炎を纏わせGulaの頭めがけて振りぬいた。
スキル『烈火爪』
己の積み上げてきた経験を、力を、今ここで最大限に発揮する。
その攻撃は流れるように、その打撃は瀑布の様に。
一撃一撃が正義の鉄槌。
そしてその攻撃は確実にGulaの生命を削った。さらに頭を揺らされたGulaがたたらを踏む。
スタンは入らなかったが、大ダメージを入れたことには違いない。
「…おのれ。ここまで私を追い詰めるとは…家畜の分際でぇ!」
憤怒に染まる凶相でGulaの全触手が所構わず暴れまわる。それぞれがダメージを負う。
そのうちの2本が陸刀の手を拘束した。そして脚を押さえ込もうとしたときに、割って入ったのは皓一郎だ。
「それはさせねぇな」
武器をバトルシザースに切り替え、陸刀を捕らえていた触手を切り落とす。
「助かるぜ!」
「気にしなさんな。これも仕事だしよ」
「その大罪、刈り取ってやろう」
隙を突いて飛び掛ったのは虎綱だ。漆黒の大鎌を思い切り振りぬき、Gulaの触手・右腕を切り飛ばした。
「片腕は寂しかろう。どうせなら両の手を無くしておくがよい」
先の撃退士を無事帰還させた楓が戻り、そのまま高圧の炎をもって左腕を焼き尽くした。
「ぐあっぁぁ!」
痛みによる悲鳴を上げるGula。
「どうしたッ!その程度で根を上げるのかッ!そんな事じゃぁ『Gula』なんて名乗れねぇなァッ!」
暴食に向かってきた触手を返り討ちとばかりに、食いちぎる。血飛沫をあげるその血さえ飲み干す。
「そろそろ終わりが見えてきたなァ。ま、所詮うちとお前じゃぁ、暴食としての年季が違ったってことかァッ」
ケラケラと嗤いながらさらにGulaに噛み付いていく暴食。
そして、その言葉の通り、終焉は迫っていた。
「貴方がしゃべると、とても不快なのよ。そろそろその五月蝿い口をなくしてあげようかしら」
凛子から立ち昇るアウルの光。シャンパンゴールドの粒子のような小さな光が指先や髪先から零れ落ちる。
美を追求する凛子は攻撃にも美しさがあった。
スナイパーライフルが目にも留まらぬ速さで火を噴く。相手は動けない的なのだ。凜子にとって外しようが無い。
そして、その裁きの銃弾はGulaの体を貫いたのだ。
「痛みのお味はいかがかしら」
悠然と歩み寄る凜子、そして止めとばかりに数初の弾丸をGulaに叩き込む。
その弾丸で勝負は決した。
絶えず再生していた触手はもう再生はせず、Gulaは虫の息だ。
「…ロォッホッホ。まさか、家畜にしてやられるとは。…これは主が笑っているでしょうなぁ」
「主だと?そうだ、お前を作った奴は誰だぁ」
歩がGulaに駆け寄り問う。
「ロォッホッホ。…我が主の名はケルーベリム。主は天才であられる。…故に、また私のようなモノを作り出し、
貴方達の前に…立ちはだかることでしょう…」
そう言うと。Gulaは事切れる。こうして戦いは終わった。
凜子はGulaに食べられた人たちを助けられないかと一縷の望みを抱きGulaの腹を裁き開いたが。
「…」
既に消化された後で、食べられた撃退士が所持していたであろうブレスレットのみ回収することが出来た。
●
「まぁ、そこそこは楽しめたかな」
ケルーベリムが愉快そうに笑った。一部始終をみていたのだ。
「さぁ、お次はなんにしようか。いやはや人間は面白いなぁ。色んな感情がそれぞれの笑いを起こしてくれるんだから」
鼻歌交じりに呟く。自身の目の前には様々な素体が並べられており、サーバントとして作り出される時を待っている。
「…うーん。憤怒もいいけれど、これは取っておこう。よし、決めた。次は…怠惰だ」
怠惰なら、この素体がいいな。と愉快に笑いながら嬉々としてサーバントの作成にとりかかった。
了