結界内に侵入後、暫くの後にサーバントが襲い掛かってきた。
しかし強化してあるバスはその速度を落とすことなく目的地に向かう。
運転しているのは仁科 皓一郎(
ja8777)だ。
「っち、予想はしていたが、な!」
目的地までは迅速に安全にと心がけてはいたが、今はそれも状況が許さない。
ならば、スピードは落とさず、一刻も早く目的地まで運ぶのみ。
だが、仲間を乗せているのだ。そこはギリギリのラインでバスの制御を保持しつつ突っ切る。
「振り切れそうに無いのなら、ここは迎撃する!」
バスから身を乗り出し迎え撃つのはインフィルトレイターの七種 戒(
ja1267)やダアトのグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)だ。
昔は梃子摺っていたサーバント達が一撃の下に屠られる。
「少しは私も成長したって言うことか…」
戒は銃を降ろし、溜息を付いた。
「日々の研鑽は無駄では無いということですね。ん…見えました。あそこが梅小路公園です」
グラルスの言葉に皆が前方を向く。程なく、バスは陽動ポイントである梅小路公園に到着した。
バスから降りるメンバー達。ここからが正念場なのだ。
約一時間もの間、偵察班の時間を稼ぐ必要がある。
梅小路公園は広い。その広いエリアの中で、メンバーは『芝生エリア』で的を迎え撃つことを選択した。
見晴らしがかなりいいエリアだ。敵が何処から来るのか一望できるのが利点だが、遮蔽物が無い以上、
逃げ場が確保しづらいというのも難点ではあった。
「結界内は全て敵地…気を付けねばな」
鳳 静矢(
ja3856)が周囲の警戒をする。そして静矢の感に僅かに引っかかるものがああった。
見れば、西に位置する森からファイアレーベンが2羽飛来してくるのが見える。
「来るぞ!情報通りファイアレーベンが2体!」
静矢の声に皆が反応し、多対一持ち込めるよう布陣を組む。
「身体を張って皆を守るのが私の仕事…」
「さぁって、ここは気張る場面やねぇ」
アストラルヴァンガードの道明寺 詩愛(
ja3388)と紫ノ宮莉音(
ja6473)それぞれシールドを具現化させる。
二人の背後には、桜宮 有栖(
ja4490)や戒・グラルス、東雲楓などが陣取る。
有栖は和弓を引き絞る。何度も行ってきた射だ。その姿は一片の淀みなく、堂に入ったものだった。
(……二度と、私のような者を作らぬために)
しん。っと静まる世界に自分を入れる。
極限にまで高まった集中は、自分と標的以外に色を付けることなく灰色の世界となる。
放たれた矢が当たるイメージの確立。一度目を閉じ、再び開く。
必中のビジョンが見えた。中てるのではない。中るのだ。
ぶんっ。と言う弦鳴りがし、矢が放たれた。確認するまでもなく矢はファイヤレーベンに突き刺さる。
「…良し」
残心をしつつ敵を見る。ファイヤレーベンは明らかに弱っていたが、それでもこちらに飛来する。
「地上も中々悪くない…ご招待するな、っと」
戒の体が淡く銀色に煌めく。自分の集中を極限に高め、アサルトライフルの引き金を絞る。
その弾丸は正確無比。美しい軌跡で、吸い込まれるようにファイアレーベンの頭蓋を打ち抜く。
One Shot One kill。
一般家庭に育った戒が、様々な経験を経て積み重ねた戦う力だ。
戦士としての戒がそこにあった。
僅か二撃で撃墜されたファイアレーベンだったが、残りのもう一体が襲い掛かる。
「それはさせねェ」
皓一郎がカイトシールドでレーベンの攻撃をいなす。僅かなダメージは喰らったが、
まだまだ余裕の域だ。
「さぁ、戦いを愉しもうじゃないか」
皓一郎の陰から飛び出したのは翡翠 龍斗(
ja7594)は自身の闘争心を解き放つ。
金色の百龍が龍斗から立ち昇り、それは巨大な一つの黄龍となり自身に顕現させた。
持っているバタフライアクスを渾身の力を込め、レーベンに叩きつけた。
その一撃は見事に入り、レーベンの片翼を切り飛ばすことに成功する。
悲鳴を上げるレーベンに、止めの一撃を静矢が入れる。
「…ふむ。幸先は良いですね」
レーベンを封殺することに成功したメンバー。続く増援のコボールトも詩愛と莉音の連撃で難なく倒せた。
しかし、しかしだ。こんな簡単に物事が運ぶわけは無い。それを十分に知っている面々は油断なくあたりを警戒する。
そして新たな敵が現れた。封都のサーバント代表格であるサブラヒナイトである。
「とっても厄介な奴のお出ましやなぁ」
莉音がぼやく。サブライヒはとても固い上に、物理攻撃を軽減する能力もあるのだ。
「よし、あいつは僕達ダアトに任せてくれよ。それじゃあ本領発揮といこうか」
グラルスがアリスノトリアを構え、意識を集中させる。また、楓も攻撃態勢に入った。
「黒玉の渦よ、すべてを呑み込め。ジェット・ヴォーテクス!」
激しく巻き起こる漆黒の風の渦に相手を閉じ込め、そのまま巻き込む。
楓も同時に同じ魔法であるマジックスクリューを放ち、ダブルでの激しい風の渦がサブラヒナイトを襲う。
一つならまだしも、同時に同種の魔法を重ねがけされ、流石に避けることは出来なかった。
しかも、この魔法は「朦朧」効果がついている。その結果はまさに抜群だった。
グラルスのジェット・ヴォーテクスが見事にサブラヒを朦朧状態へ陥れたのだ。
「よし!今のうちに叩いてください!」
目論見が上手く成功し、難なくサブラヒを屠っていく。
ここまで特に怪我らしい怪我を負う事もなく敵を倒してきた。大規模の時よりもはるかに成長した自分達がいる。
しかし、時間という制約は想像以上に自分達を苦しめることとなるだった。
ファイアレーベンが二体同時に出現し、そのファイアレーベンを倒しきれずに、更に二体増援が飛来する。
更にまた二体の増援が飛来し、計六体のファイアレーベンに囲まれることがあった。
ファイアレーベン四体から同時に火球を放たれ、それぞれにダメージを負う。まさに絨毯爆撃を喰らう形となったのだ。
「っくぅ!流石にこのままじゃ…皆を癒す優しき桜をここに…桜舞!」
詩愛の掌から綿毛を飛ばすように優しく放たれるアウルの光は桜の花びらを形どり舞い踊る。
その光景は散り行く桜吹雪を連想させ、皆を優しく癒していく。
しかし、『庇護の翼』を使い龍斗のダメージを肩代わりした皓一郎は一気に体力を削られており、
満足に回復できていない。それを見た莉音は皓一郎にヒールをかける。
「すまねぇ。助かるぜ」
「皆が無事でいることの方が大事やし、きにせんでええよ」
「だな。誰一人脱落者は出させん」
「数が多いな…ならば!」
静矢から紫色の霧が立ち昇り、それらが全て自身の柳一文字に収束していく。
振り抜いた一文字から、紫色の大きな鳥の形をしたアウルの塊が勢い良く飛び出し、三体のレーベンへ紫鳥が襲い掛かった。
そしてその紫鳥は悉くレーベン達を屠っていき、見事に撃墜せしめた。
「破ぁぁ!」
龍斗はアクスを振り下ろし衝撃波を繰り出す。その衝撃波はレーベンを両断することに成功した。
前衛の仕事を遂行する龍斗と静矢。そしてその背後から矢がレーベンへ向けて発射される。
有栖の矢がレーベンの体を射抜き。墜落するレーベン。
「緋鴉の相手はお任せを。悉く、穿ち堕として差し上げましょう」
「だな。もう遅れはとらない」
戒のロングレンジショットが更に増援として飛来してきていたレーベンを一撃の元に屠る。
今日の戒はまさしく無双状態であった。結果を見れば一人で屠ったレーベンの数は実に十体。
レーベンから見ると戒はまさに死神の様に見えたかもしれない。
自身に『リジェネレーション』をかけつつ回復を図る皓一郎。
油断はしていなかったが、先ほどの様に連撃を喰らうと自身が危ない。
何より自分は盾。皆を無事に帰しきるまで倒れてはならないのだ。
残りのレーベンと増援のレーベンを倒していくメンバー達。
詩愛のセットした携帯のアラームが鳴り響く。
携帯アラームを10分おきにセットされていた。そしてこの地に付いてから都合3回目のアラームだ。
ようやく半分の時間を稼ぎ出すことが出来た。
いつもの依頼なら、敵を倒して終わりが多く、ここまでの持久戦はなかなか経験することは無い。
それだけに焦燥感はある。一秒一分がとても長く感じられるのだ。見えない時間という重圧が疲労となり、
それぞれにのしかかっていく。
「皆さん。あと30分です…がんばりましょう!」
それでもやらなくてはならないのだ。この先にこの京都を開放する一手があると信じて。
グラルスは気になることがあった。
梅小路公園には大きく3つのエリアに分かれており『芝生エリア』『川原ゾーン』『生命の森』となっている。
その生命の森の奥にひっかかる場所があった。その名も『朱雀の庭』
グラルスが以前戦った『朱雀』の名前を冠する場所があるのだ。
ファイアレーベンの増援は全て生命の森から飛来している。
噂にあったレーベンの巣は生命の森にあると見て間違いなさそうだ。
その生命の森の先にある朱雀の庭。そこが気にかかる。
そして、この公園に到着したときから僅かに感じている『懐かしい気配』
奇しくもそれは生命の森がある西から感じられていた。
「居る…のだろうな」
自身に確認するように呟く。
「居る、とは?」
有栖がグラルスの呟きを聞き逃さなかった。
「…四神が内、朱雀。僕と東雲さんが以前に戦った相手さ」
「恐らく間違いだろう。朱雀だ」
楓も気づいていた。懐かしい気配があることに。
「!…皆さんに知らせなくては」
「いや、それはいい。今は朱雀など放っておけ。奴の気配は動いていない。今までのことを鑑みるに
こちらから手をださん限りは動かないだろう。私達はこの場で陽動を。時間を稼ぐのだ。決めたことは遂行せねばな」
「…わかりました。今はこの場にとどまり、時を稼ぐことに集中します」
「うむ。そうしてくれ」
そして次のサーバントの増援が現れる。またもやレーベンはともかく、サブライナイトもお出ましだ。
戒が楓に先ほどのマジックスクリューを撃つように要請し、楓が応じた。
楓のマジックスクリューが唸りを上げ、サブラヒに襲い掛かる。確かに命中はしたものの
朦朧はレジストされたようだ。
「ちょと、痛いかも、な?」
その後に戒の『ダークショット』がサブラヒに襲い掛かる。
黒い弾丸はサブライに命中し、その鎧を削り穿つ。
「ふぅ…体は熱く、心は冷静に…」
戦う者の心情を言葉に出し、自身を更に高みへと押し上げる。
そこから更に数ターン後、またもやレーベンに囲まれる事態に陥いる。
それぞれのスキルが打ち止めになってきて、効果的にダメージを与えられなくなってきたのだ。
「危ない!」
レーベンの火球が戒に直撃しそうになった瞬間、莉音が戒の前に咄嗟に立ち戒を庇う。
その火球の威力は戒にもダメージを与えたが、莉音のおかげで大怪我には至らなかった。
「莉音助かった」
「みんなを助けるのは僕の、僕らの役目やから。背中守らせてください」
「あぁ!背中は預けたぜ」
再び詩愛の携帯アラームが鳴った。5回目のアラームである。
「皆さん50分経ちました!あと少しです」
再び桜舞を使用し、皆を癒していく詩愛。都合三度目。もう、桜舞は使えない。
なんとか、脱落者は出さずにここまで来た。あと、もう少しだ。
また西の森から飛来するファイアレーベン。
戒や有栖のインフィル勢が遠距離でダメージを与え、龍斗と静矢で止めを刺していく。
基本的なパターンはこれで出来上がっていた。上手く行けば、一撃も喰らうことなく
倒せるパターンだ。しかし、いつもそう上手くいくとは限らない。
「っちぃ!撃ちもらした!」
静矢のP37が火を噴くが、回避されてしまい反撃を食らう。
「任せろ!」
龍斗がその残りのレーベンを屠る。
幸い静矢が負ったダメージは少なかったものの、蓄積されたものが重くのしかかる。
そこで静矢はスキル『剣魂』を使用し自信を回復させた。
このスキルを使うのも、都合三度目、まさしく打ち止めだ。
これ以降はもう回復の手立てが無い。アスヴァン勢の回復スキルも流石に打ち止めで
残りのターンは回復無しで凌がなければならない。
「まだなのか…」
1時間経てば、生徒会の援軍がこちらに来る手筈となっていた。
自身に『シバルリー』をかけ、防御を上げつつ皆の盾になる皓一郎。
もう、満身創痍だ。敵の攻撃を受けきること数十度。
心は折れることは無いが先に体が言うことを聞かなくなってきている。
「早くきやがれってんだ…」
「お待たせしました!皆さん…無事のようですね」
生徒会の増援がようやく姿を現した。
皆、本当にギリギリのラインだった。気絶者・重体者が居ないことが嘘のような状態だ。
まさに激戦だった。倒れこむようにして各々が用意されたバスに乗り込む。
「偵察は、あちらはどうなりました?」
詩愛が応援にきてくれたメンバーの一人に聞く。
「えぇ。皆さんのおかげで無事に任務を果たすことが出来たようです。本当にお疲れ様でした」
「そうですか…良かった…」
そっと溜息を付く。こちらも誰一人として脱落者を出すことなく無事に帰還できるようだ。
今回の任務の延長上に敵の本拠がある。
京都を救う一手をうったに過ぎない。ここからまた激戦が始まるのだ。
今はこの身を休め、再びこの地に戻ってくる。
そう、決意を秘めメンバー達は帰還したのだった。
了