ついに始まったボッチの集い2012。壇上ではボッチゆえの心温まるエピソードが次々と披露され、
笑いと悲しみの輪が広がっていた。
「ふふん!私は今回リア充枠よ!会場にいるボッチ共にそれを分からせてあげるわ!」
気炎を吐きながら壇上に上がるのはフレイヤ(
ja0715) 自分はリア充。信じて疑わない。
「ふっ、特別に私のリア充エピソードを話してあげるわ。
まず私が学園内を歩いていると人が道を開けてくれる。私の威光で民草が恐れ戦くのね。
それに携帯でメールのやり取りを1日10回以上するわね、ママと。
そういえばこの前、男の人にナンパされたわ。彼はこう言ってたの「市役所はどちらですか」って。
ふふ、ナンパで市役所デートを勧めるなんて中々乙な男よね!
どう!これで私が如何にリア充なのか分かったでしょ!?私に招待状なんか送りつけるんじゃないわよ!」
しーん…。会場が生暖かい空気に包まれる。フレイヤを見るみんなの目がやたらと慈愛に満ちた眼差しだ。
「な、何よこの空気…わ、私はリア充なのよ…く、悔しくなんか無いんだからねっ!」
目から何やら汗がにじんでいるようだ。
ツンデレ風味のボッチに暖かい拍手が送られる。フレイやは誰がなんと言おうとボッチだった。
「お疲れ様でした」
ニコニコとしながら御堂・玲獅(
ja0388)がフレイヤに冷たい飲み物を差し出す。
「あ、ありがとう」
フレイヤがおずおずと受け取る。
玲獅は予め立食パーティ用の料理を作る厨房へ行き、
追加の料理を作らせてくれる様お願い許可を得られるように要請していた。
元々料理は有志が作っていたので、快諾され立食パーティ用の追加料理を作成する。
メニューは野菜のミルフィーユ仕立て・野菜のキッシュ・オニオンタルトレット・野菜のゼリー寄せ等。
やけ食いしても男女ともに大丈夫な心配りがあった。
その後は、発表を終えた参加者に冷たい飲み物を渡すなど精一杯の気遣いをしている。
容姿も悪くない。性格も良し。気遣いも出来る。なぜこれでボッチなのかが分からない。
しかして、その答えは自身にあったのだ。
玲獅の発表の番になり、壇上へと上がる。
「今は誰かを好きになる自分が想像できませんが、自分を磨き続けます。結果は後から来るでしょう」
そう、自分が求めていないのだ。きっかけがなかったとも言える。
今はボッチかもしれないが、いつかはいい人と巡り合えるだろう。会場の男性陣の熱い視線を受けていたのだから。
次に壇上に上がったのが月詠 神削(
ja5265)
「……俺の、ボッチとしてのエピソード……ねえ……。ガチの戦闘依頼に参加し過ぎて、
彼女作って遊ぶ暇が無い。以上。…文句あるか!? というか俺は、ここに飯食いに来てるんだよ!」
壇上から飛び降り、近くのテーブルにあった料理にがっつりとかぶりつく神削。
目にうっすらと光るものがあったのは、皆そっと見てみぬ振りをした。
「あ、その野菜のゼリー私も貰っていいですかー?」
神削がふと振り向くとホワイトラビットのぬいぐるみポシェットを下げた白い帽子が可愛い
逸宮 焔寿(
ja2900) がニコニコとしながら立っていた。
「おう、別にいいぞ。お前も一杯食え」
野菜ゼリーを差し出す神削。それを受け取りご満悦な焔寿は、隣に立ちニコニコしながら食べ始めた。
「これ、美味しいですね♪」
天使のような笑顔を浮かべながら頬張る姿に神削は少し見とれてしまった。
「?…焔寿の顔に何か付いてます?」
「あ、いや、別になんでもない。美味しいそうに食うなと思ってな」
「はい。これとっても美味しいですよ♪あ、お兄さんも食べてみます?はい、あーん」
笑顔でゼリーを差し出す焔寿。神削の時が止まった。相手は小等部とはいえ、何このシチュエーション。
狙ったわけではないのに、これってリア充奥義「はい、あーん」じゃね?
周りを見る。刺すような視線が痛い。お前今さっきボッチとか言ってなかったか?と皆が睨んでくる。
忍び寄るしっと団の影(
「あ、あぁ。ほら、それはお前の分だから自分で食えよ。って、次の発表はお前の番みたいだ」
焔寿が後ろを振り向くと係りの人か呼びに来ていた。
焔寿は頷くと、差し出していたゼリーをひょいと自分の口に入れ壇上に上がっていく。
ふぅ…と額の汗を拭う神削であった。
壇上に上がった焔寿はしばし沈黙。時を刻む音だけが響く…。
「えーと、来年の球技大会に新しい種目の追加して欲しいんですが。種目名は『ボッチボール』」
外野(非モテとかボッチ)と内野(リア充)に分かれて争う、れっきとした『競技』らしい。
「きっといい汗がかけるのですよー」
会場が沸き起こる。「リア充死すべし!」「非モテの力見せてやるぜー!」「やってやるぁ!」
など、怨嗟の言も聞こえてくる。
笑顔でボッチを煽る(結果的に)焔寿は正しくボッチの天使だった。
「ぼっちで何が悪いというのじゃ…!確かに生まれてこのかた、親しい間柄になる縁は無かったとはいえ、
誰にも迷惑などかけてはおらぬというのにこの仕打ち!」
ぶつぶつ呟きながらメニューを平らげていくのは叢雲 硯(
ja7735)
一体何処にその料理は入っていくの?と周りを若干引かせながら食べていく。
しかし、負けず劣らずのツワモノが、その横にいた。ユリア・スズノミヤ(
ja9826)がいた。
二人の食べる姿は実に優雅だ。優雅なのだが手が止まらない。お皿が積みあがっていく。
そして硯の発表の番になった。壇上へ向かう。
「コホン。…ほれ…フラグって言うじゃろ?廊下で拾ったハンカチがとか。あぁ言う類の奴じゃ。
あ、なんか今のそれっぽいなって思っても特に立たない。あとに残るのは空回りした虚しさのみ…。
一体幾度と経験したことか。しかしつい…つい期待してしまうのじゃ…!」
硯の目に涙が光る。会場を見渡すと皆がしたり顔でうんうんと頷いている。
がっくりと肩を落とす硯に優しく声をかけるユリア。
「暗い顔していると…幸せが逃げちゃう…。笑って…?大丈夫…みんなは一人じゃないよ…?
美味しい料理があるのに…不幸せなんて勿体無いから…皆さんを勇気付けるために…一曲踊りますね」
実はユリアはこの会、ボッチの集いのことをよく分かっていなかった。
なので、会場に着いた際に主催者である嫉妬マスクに尋ねたのだ。自分は何をすればいいだろう?と。
返ってきた答えは明瞭。自分のやりたいことをすればいい。
ならば、私のやりたいこと、得意なことは食べることと踊ることだ。
壇上で、ステージでは一曲躍らせて下さいと嫉妬マスクに告げ、了承を得ていた。
そして今、壇上では軽快なギターのリズムに合わせ、ユリアが軽やかに情熱的に踊っている。
少しでも明るく、皆が幸せになればいいなと、思いを込めて。
やがて会場は手拍子が生まれユリアの踊りも艶やかに激しくなって行く。加速するギター。加速する手拍子。
加速する踊り。ボルテージは最高潮となり、やがて最後の音かき鳴らしてギターが止む。
同時にユリアが前を向いて動きを止めた。
一拍した後に、観客からは大きな拍手が鳴り響く。ユリアに駆け寄る硯。
「いやぁ、特等席から見せてもらったのじゃ!おぬしの踊りは情熱的でいいのう!今度わしにも教えてくれぬか?」
硯の顔には既に悲壮感(哀愁)は無かった。
「喜んで…」
ユリアは微笑んで了承したのだった。
「楓部長と久々に会えるチャンスっ!この会場に居るのは間違い無いんだけど…部長はどこかなぁ……。
いた!楓ぶちょー!」
フレイヤと歓談していた東雲楓の姿を確認すると猛然と駆け寄り抱きついたのは宮本 明音(
ja5435)
久しぶりに会うので頬ずりしてぎゅーっと抱きしめる。
「おぉっと!…なんだ明音君か。君もこの会に参加していたのだな」
「オカシイデスヨネ!私ぼっちじゃないですけど、ぼっちじゃないですけど!」
そこで強調する辺りが既にボッチであることの証左なのだが、それは言わぬが華だろう。
「はい、これどうぞー」
給仕としても参加している鴉乃宮 歌音(
ja0427)が飲み物(もちろんノンアル)を三人に渡した。
「あ、歌音さん!ナンデマタソンナスガタニ」
「え?変かな?」
「イエ、ニアッテマスケド。クヤシイコトニ」
歌音の姿はスケート付ミニスカ猫耳メイドだ。男なのにメイドコスがとてもよく似合う。所謂性別が迷子。
「この会に参加しているということは、歌音さんもぼっちだったんですね!」
「私の場合はあんまり恋愛とか興味なくて。ま、今はぼっちを楽しんでいるよ」
「そんな皆に朗報だ。天才の私が良い薬を開発したのだ!」
懐から取り出した試験管数本を3人に見せ付ける。試験管のラベルには「フェロモンUP」と書かれていた。
「それは?」
歌音が訝しげに問う。明音は「また部長の発明品!」っとキラキラと目を輝かせていた。
「これは各々が持つヒトフェロモンをUPさせ、異性を惹きつけてしまおうという恐るべき薬なのだ!」
明音とフレイヤの行動は素早かった。シュバッっと楓から試験管をもぎ取り一気飲みする。果たして、その結果は!?
「「……」」
「あんまり効果ないみたいだね」
歌音が苦笑する。楓はおもむろに歌音にも薬を勧めてみた。歌音は「面白そう」っと言って薬を飲み干す。
その結果は…恐るべきものだった。歌音から甘い香りが爆発的に発せられたのだった。
「「「好きぃ!」」」
躊躇無く歌音に抱きつく三人。異性にのみ訴えかけられるよう作った薬であったが、性別が迷子の歌音はどうやら
性別関係なく惹きつけてしまう効果を発揮したらしい。
「ちょっと、皆離れて!ってこら、何処触ってるの!おさわり禁止だってば!スカートを捲くろうとするなぁ!」
さすがの歌音も肉食系?女子三人に集られては、どうしようも無かったりする。
その乱痴気騒ぎは10分ほど続いたのだった。
その乱痴気騒ぎを尻目に壇上に上がったのは雪室 チルル(
ja0220)と佐藤 七佳(
ja0030)
二人は、同じ会に出席すると聞いて事前に打ち合わせを行っていた。
そして、発表するのは…
「「ぼっち・で・あるあるー!」」
ぼっち故の「あるある」を披露しようと言うのだ。所謂自虐ネタである。
最初は七佳が発言し、チルルが応えていく形式となっているようだ。
「その1。季節の行事(バレンタインとかクリスマス)の相手は家族くらいしかいない」
「当然よね」
「その2。少しいいなと思った相手には既に相手がいたりする」
「そんなものよねー」
「その3。気がついたら今日学校で一言も喋っていない」
「たまたまよ!話す機会が無かっただけで!」
「その4。携帯がなるのが1日1回以下」
「ぼっちで悪いかー!!!」
肩を怒らせハァハァと息をするチルル。思わずヒートアップしたようだ。七佳は苦笑している。
「そう言えば、チルルさんはネトゲで何か自慢話?があるとか」
「あぁ、あの話ね…。ネトゲで20人のギルドに入ったら、10人が他人の2nd、4人が引退者、で、自分以外全員夫婦」
ひゅぅぅぅっと会場にえも云われぬ風が駆け抜けた。それは…自慢なのか?と会場から呟きが聞こえてくる。
「べ、別にその人達とは楽しく遊んでるんだからね!」
「チルルさん…泣いて良いんですよ?」
「う、五月蝿いわね!泣いてなんかやるモンですか!ひぐっ」
ネトゲの話を振ったのはかなりの薮蛇だったようである。ここらで七佳は強引に話題を変えた。
「ま、まぁそれはともかく。ぼっちって受身の人が多いですよね。私もそうなんですけど。
とはいえ、気になる男性も今は居ないのですが」
「居ないのなら、見つければいいじゃない!ほら、ここには一杯ぼっちがいるんだしさ!」
チルルの発言に会場のぼっち男子が思いっきり盛り上がった。
「付き合ってくれー!」「一目見たときから好きでしたー!」等と都合の良い声も聞こえてくる。
「御免なさい。私、情緒を大切にしたいの」
中々に七佳は手強そうであった。
次に壇上に立ったのは鐘田 将太郎(
ja0114)
「ボッチか…恋愛沙汰は研究対象じゃないしー。彼女なんて…彼女なんていなくてもいいんだこんちくしょうー!!」
絶叫する。昔、初めての恋愛で振られた苦い体験が頭をよぎる。
会場の同情する声を受けながら、とぼとぼと壇上から降りた。
「そんなに落ち込むではない。 そらそら、わらわが酌をしてやろう。
なぁに、単に人生辛い事ばかりという輩が好かんだけじゃて」
将太郎に声をかけてきた人物が居た。見ると、そこに立っていたのはザラーム・シャムス・カダル(
ja7518)だ。
「あ、ありがとう。貴女は?」
「わらわはザラーム・シャムス・カダル。ザラームでよいぞ」
「俺は鐘田 将太郎。よろしく」
「ふむ、良き名じゃな。ところで、先の発表じゃがな。何をそんなに嘆く必要がある?そもそもボッチとはなんじゃ?」
そう、このザラーム。ボッチの会を趣旨を理解していなかったのだ。招待状が来たから、とりあえず来て見たのだ。
「えっと…ボッチとは…独り身…孤独ということだ」
「あぁ、そういう事か。なるほどのう…道理で。この会場の澱んだ空気も納得できるというものよ」
「ザラームもこの会場に来たということは、ボッチなんだよな?」
「そうだのう。休日は朝から晩まで寝ておるな。授業間、昼食時間も机で寝ておるわ。
予定などありはせん。そも『トモダチ』とはなんじゃ…?」
「エ?」
さすがに将太郎はボッチといえども、少しは友達は居る。しかし、ザラームは言った。『トモダチ』とは何かと。
「友達って言うのは…何でも話せる仲と言うか、遊ぶ相手だったり、時には喧嘩する相手だったりする仲間のことを指す」
「ふむ…なるほどのう。兄弟とは違うのであるな?」
「もちろんだ。血の繋がっていない義兄弟とも違うから。でもまあ、兄弟以上の絆で結ばれることもある。そういった人を「親友」って言うんだけどな」
「ふむ…兄弟を越える絆を持った他人は、わらわはまだおらんのう…お、言いことを思いついたぞ。
お主、わらわのトモダチになってみんか?」
思いがけない申し込みだった。が、異性の友人などめったにできるものでもないし、将太郎にとってザラームは
ボッチ同士ということもあり、なんとなく気兼ねなく話せる。よって受けてみても良いかなと思った。
「ま、まぁお前がそう言うんだったら、仕方ないから友達になってやるよ」
まさかのツンデレである。それから二人はいろんな話題に華を咲かせながらボッチの会を楽しんだのであった。
「ちくしょう、リア充め!」
歓談する将太郎とザラームを憎憎しげに遠めに見つめながら、まったく遠慮なく料理を食べまくり、
嫉妬の篭った視線を投げかけるのは土方 勇(
ja3751)だった。二人は別に付き合っているわけでも何でもないので
リア充では無いが、勇から見るとイチャイチャしてるように見えるのだ。
「嫉妬の視線で人を焼き尽くせたら……!」
ふと壇上を見上げると、そこには勇の知っている人が立っていた。雨宮アカリ(
ja4010)だ。
「私の父は某国陸軍外人部隊の日本人、母は海兵隊のアメリカ人よぉ。
生まれたのも戦場なら育ったのも戦場。物心付いた時から訓練また訓練だったのよねぇ。
4年前からは戦闘要員として何度も敵に銃を向け、向けられたわぁ。
で、そんな中この学園に来たのは去年11月。
「趣味は?」と聞かれた時に、特に無いから「掃討作戦よぉ♪」って笑顔で言ったらドン引きされて、
それ以来ずっと一人よぉ……」
それは引く。絶対引く。「掃討作戦」は無いわぁ…と心に思う勇であった。
アカリは喋らなければ、断然モテる。いや、モテそうなのだが言動が残念だった。
壇上から降りてきたアカリに声をかける。
「アカリん…お疲れ様」
「あら…いさむん。そっか。いさむんならここに居てもなんらおかしくは無いわよねぇ」
「ひ、酷い言い方だ!でも否定できない自分が居る」
「ほら、テーブルには折角の美味しい料理があるんだし、食べましょうよぉ。…食べるしかないじゃない。
もう、今日はやけ食いよぉ!」
二人して滂沱の涙を流しながらやけ食いをする。
そんなやけ食いをしている二人を横目で見ながら、隣のテーブルで歓談していたのは神楽坂 紫苑(
ja0526)だ。
「ん〜オレの場合、自分の縁より、回りの友人達に、縁運んでいるようなんだよな〜。
友人はあまり多く無い方だが、仲よく=絆深くなり、久しぶりに会ったりすると、友人達に必ず恋人できているな?
更に、双子の弟に間違えられ、告白…むなしいぞ」
「「なんだって(ですってぇ)!?」」
横のテーブルに居た二人が急に話に割り込んできた。
「貴方と仲良くなったら、必ずその友人達は恋人になってるのぉ?」
「い、いや必ず出来るかどうかわからんが、その確立が高いというだけだ」
「神楽坂さんとは同じ部活で交友も持ってるから…僕もリア充に成れる可能性が!」
「でも、貴方も不思議よねぇ。モテそうな容姿なのに」
「好きで1人でいるんじゃないだけどな?もう、諦めの領域の心境だから、焦る気も失せた」
苦笑しながら答える。
「諦めたら、そこで試合終了だぞ」
姫路 眞央(
ja8399)が話に入ってくる。実は先ほどからこのテーブルで紫苑と話していたのは眞央であった。
眞央はこの会場にいるであろう、とある人物を探しに来ていた。
しかしどうも、ここには居ないと言う情報を先ほど入手したばかりなのだった。
「私もいまでこそボッチだが、昔は妻が居て愛娘も出来た。全てにおいて諦めなかったからだ」
そう、諦めたりはしない。愛娘をこの学園に連れ去った憎い非モテ騎士に制裁を下すまでは!
眞央の背後に炎が見える。全てにおいて誤解なのだが、当事者はそうは思っていない。
「とかく、諦めはいかんな。君達はまだ若い。ボッチと連呼しているが、本当のボッチはな…。
40、50歳を過ぎたボッチはな…よろしく哀愁のレベルでは無いぞ。…少ししんみりしてしまったが!
若いんだから、こう、もっとだな!バーンと当たって砕けろ!私もそれで妻をゲットしたんだ」
ニヤリと笑う眞央。そこから昔話に花が咲きどうやって妻を口説き落としたのか、攻略方法など
楽しい会話が続くのであった。
「なるほどなるほど。このような面白い会合に参加できるとは、実に運が良い。
この際ですので、私の知的探求を大いに満たさせて頂きましょう」
グラン(
ja1111)は持ってきていたデジカメを用意し、録画・撮影をしていた。
ボッチ達のステキなオモヒデを動画・画像としてに遺してあげる簡単なお仕事だ。
適当に会場を回り、ボッチの話を聞いては相槌を打ち、それらしく頷く。
後は強いて言えば、ぼっちが集った時に起きる化学反応を観察していた。
基本、ボッチは奥手が多い。ので、ファーストコンタクトは無言同士が多いのだ。
しかし、一度話を切り出すと、結構喋る人が多かったりする。
最初のきっかけさえ掴めばあとは乗りと惰性でどうになかるケースもあるのだ。
ただし、生粋のボッチは話しかけても二言三言で終わることが多い。
「ふむ…大体こんなものでしょうか。それではこれを後に纏めて結果をレポートするとしましょう」
意気揚々と引き上げるグラン。顔には笑みを浮かべている。それは邪笑ともとれる笑みだった。
壇上に上がる男が居る。満を辞しての登場。ラグナ・グラウシード(
ja3538)だ。
ラグナはおもむろに『タウント』を使用し、強制的に注目を集める。
そして『紳士的対応』を使って演説を始めた。
「諸君!跳梁跋扈するリア充どもに対し、怒りを感じてはいないか!
さぁ、我らと共にリア充に天誅を加えようではないか!」
会場の各所から「リア充死すべしー!」等の声が上がる。
「もちろん!ディバインナイトであるならッ!なお歓迎だ!我らの集い、
『非モテ系ディバインナイト友の会』に入らないか?!我々は、諸君らの力を欲しているのだ!ジーク!非モテ!」
「「「「「「「「「「ジーク!非モテ!」」」」」」」」」」
もう、わけが分からないほどに会場の一体感が半端無い。
「ラグナさんのボッチ力がどんどん上がっている!?」
自作した非モテ力測定機(握力計のような外観のもの)を見て驚愕しているのは若杉 英斗(
ja4230)だ。
先ほど見たときはボッチ力18万だったのが、今は18・20・30・50・70・100・200・300・500万と極端に上がり…
「無限大…だと!?」
そう、今は計測値が測定不能。つまり無限大(∞)を示していたのだ。
恐るべし非モテ。恐るべし非モテディバインナイト友の会である。
ちなみに、今も計測値は∞を指している。そう、今もだ。ちなみに今は計測器は英斗自身に向けられていた。
そう、自身にである。ラグナがボッチ力∞となり、英斗もそれに当てられ∞となってしまったのだ。
ボッチ力は感染する!恐ろしい事実であった…。
そして、それに気づく英斗。少し顔が青ざめる。周りを見渡すと、ふと視界に東雲楓の姿が映った。
ダッシュで近寄り、計測器を楓にかざす。最初、楓のボッチ力は8万だった。そしてニコニコとしながら
楓にソフトタッチ。計測器は見る見るうちに値を跳ね上げ∞を示す。
「英斗君…ところで、今さっきから何をしているのだ」
そして事情を説明する英斗。
「ぶふぅ!ボッチ力測定器に、ボッチ力∞だと!君は何てことをしてくれるんだ!」
「だって先人はこういいました。死ねば諸共」
「アホかー!」
怒り狂う楓はそれこそいろんな人に触りまくる、感染するボッチ力∞。会場は一時喧騒に包まれたが。
やがてそれは沈静化する。一時的に上がった∞も時がたてば薄らぐようであったのだ。
「てゆーからぐにゃんさー、そゆ事すっからモテねーんじゃん?」
にへって笑いながら、喧騒の中を壇上から降り立つラグナに近づくのは百々 清世(
ja3082)
ちなみに初対面である。
「貴様は誰だ!それに私のことをなれなれしく呼ぶな!特にお前からは…リア充の匂いがする!」
「おぉーすっげー。匂いでわかるもんなん?ちなみにどんな匂いなわけ?」
「そうだな…なんと言うか、えもいえぬ爽やかミント系というか…って何を言わせるんだ貴様!」
「あっはっはは。やっぱおもしれぇなぁらぐにゃん。らぐにゃん、モテたくね?」
「ぐっぬぬぬ!モテたいに決まっているだろう!」
「じゃぁ、俺がモテるコツって奴を教えてやろーか?」
「なんだと!」
ラグナに衝撃が走る。もし、清世の話が本当なら非モテを卒業できるかも知れないのだ。しかし自分は非モテ。
そう簡単にモテる筈が無い。ラグナの中で凄まじい葛藤が始まった。
「…ちょっとだけ教えて見ろ!」
「OKOK。まずは肝心要のことなんだけど、女の子を知ることだなー。研究っつてもいいかもしんね」
ポカンとするラグナ。知るということはどういうことなんだ?もしやアレでソレで…ッボっと顔が赤くなる。
「その顔見て、えっちぃこと想像したのはわかんだけど。そうじゃねーんだわ。らぐにゃんさー。
女の子向けの情報誌とか読んだ事ねーじゃん?」
「当たり前だろう!」
「その当たり前って奴をさぁ、くずしてみ?」
モテる清世からモテのコツを教授してもらうラグナ。はたしてこれが後にどうなるかは…神のみぞ知るところだ。
虎綱・ガーフィールド(
ja3547)とカーディス=キャットフィールド(
ja7927)は会場を巡っていた。
神出鬼没の嫉妬マスクを探していたのだ。
「嫉妬マスクさーんどこですかー?」
カーディスはテーブルクロスの下を覗き込むなど、あらゆる所を探しているが…。
あっちで見かけた!と思えばすぐに違うところに移動していたりと、中々に捕まえられないのだ。
「まったくもって捕まらないのです。一体どこに?」
「カーディス殿。口元にソースが付いておるぞ。しかし嫉妬マスク…一体何者なんだ…」
二人が嫉妬マスクを探す理由。それは二人が所属する部活の「しっと団」への勧誘のためであった。
あちこちで目撃情報があるため、なかなか捕まえられない。っと思いきやあっさりと捕まえることが出来た。
カーディスが料理を取ろうとした瞬間、目の前に嫉妬マスクが居たのだ。
ある意味、カーディスのお手柄である。
「おぉ、嫉妬マスク殿!探しましたぞ!」
「む?私に何か?」
「実はそなたを我がしっと団へと迎え入れたいと思うてな。我らとこぬか?」
「ふむ…しっと団のことは昔から知っていました。何れは挨拶しに行こうとも」
「おぉ!それでは!?」
「だがしかし。今は故あって出向くことは叶わないのです。よって勧誘はありがたいのですが、
辞退させていただくとしましょう。しかし、カーディス殿にしろ、虎綱殿にしろ、
本気を出せばすぐにボッチ枠から脱却できると思っているのですがね」
「ん、まぁこんな部活に所属しておりますしの。そういった話題に発展することすらないわ!」
「残念ながら、左に同じく」
「さて、もう一度問いますぞ。我らの所に来ては下さらぬか?」
「度々のお誘いは大変ありがたいですが、やはり返事は変わりませんな」
「ふむ…それは残念だ。しかし、すぐに、とはいえぬだがいつかともに戦おう。我らは同志ぞ。」
虎綱が嫉妬マスクに握手を求めた。嫉妬マスクは快く握手に応じる。硬い。掌が厚く硬質化している。
これは紛れもなく戦士の手だ。相当手練の様にも思える。カーディスとも嫉妬マスクは握手をした。
そしてその後二言三言会話を交わすと、嫉妬マスクは去っていったのだった。
「嫉妬マスク…相当強そうですね」
カーディスが呟き、それに虎綱が頷く。
「何れは剣でも語ってみたいものよ」
ボッチの会はそろそろ終盤に差し掛かろうとしていた。
ソリテア(
ja4139)が壇上に立つ。
ソリテアはリア充である。決してボッチなどではないが、何故か招待状が届いたのだ。
あとで主催者の嫉妬マスクに聞いてみると、リア充枠として参加して欲しい。とのことだった。
「私は…罪を犯して、ぼっちを選びました」
彼女は語る。過去に故郷の天魔戦争で恋人(天魔化)を自分の手で殺めた事があった。
暫くは罪に縛られボッチだったのだが、とある依頼で今の恋人に出会い、告白。
過去も十字架も背負い、今に至るのだった。ソリテアの過去の出来事に共感する撃退士も少なからず居た。
常に死と隣り合わせの撃退士だ。恋人同士となっても相手が死に別れする事だって、少なからずある。
いや、多いだろう。
それでも、ソリテアは覚悟したのだ。過去を背負い、今を生きようと。今の恋人と共に歩こうと。
いつかその道が別れる日が来ても。
そのソリテアを嫉妬マスクが迎える。
「やはり貴女を招待して正解でした。そして過去を抉るような話をさせてしまい申し訳ない」
「いえ、いいんです。話すことで皆さんの一助に成れるんだったら」
「貴女の言葉はきっと皆さんの心に届いたことでしょう。…人は寄り添わなくては生きてはいかれない」
「嫉妬マスクさん…もしかして貴方は…」
「ははっ。少しお喋りが過ぎたようです。それでは、この後もお楽しみください」
嫉妬マスクはソリテアに一礼すると、その身を会場の中へ溶け込ませていった。
壇上に一人の男が上がる。彼の名は宮村 昴(
ja7241)
俳句をこよなく愛し、川柳を嗜むボッチ男。
この日のために、ボッチ川柳を発表するのだった。今、悲哀が始まる。
「それでは、ボッチによるボッチ川柳を…通学路 春夏秋冬 影ひとつ」
会場からは「あぁ…」「あるわー」など悲哀に満ちた同情・同意が聞こえてくる。
「ボッチ飯 何が悪いか 言ってみろ」
「休日は ひとり街出て ショッピング」
「携帯が 無くても特に 困らない」
「友達と 知人の違いを 考える」
「昼休み トイレの中で 飯を食う」
会場が…悲しみに包まれていた。「もうやめて!」「それ以上僕達の心を抉らないで!」「やめたげてよう!」
など、悲しみの連鎖が巻き起こる。
日本人の心に刻まれた俳句の、川柳の五・七・五がリズムよくボッチの心を抉っていく。
言葉の魔術師 宮村 昴。恐るべしゴ○ーワード。
「はい、時間切れです。宮村さんありがとうございました」
気がつけば持ち時間を越えてしまっていたようだ。これからがいいところだったのに!
っと思っては見たものの、会場を見渡すと、多数の人がorzの体制になっていた。
「ちょっとやりすぎたかな…」
ちょっと所では無いのである。翌日、彼には「ボッチ川柳 大賞」の称号と記念品が送られたのだ。
色々あったボッチの会2012もそろそろ閉幕。
そしてついにこの男が動いた。暗躍するのは九重 棗(
ja6680)
奴はそう…リア充だ。
「ボッチ共の話…なかなか悲哀に満ちていて面白かったな!」
リア充枠での参加なのだが、それをひた隠しにして。密かにハンディビデオを回していた。
部屋の隅で壁に寄りかかり、壇上を撮る。
壇上の他に会場をさっと一周し、それぞれのテーブルでの様子なども撮りまくる。
そして嫉妬マスクによる閉会の挨拶が行われ、めでたくボッチの集い2012は幕を下ろした。
下ろしたのだが、ここからが棗にとっての本番だ。
翌日、撮っていたテープを放送室に持って行き、そのテープを放送室から流して逃走。
悪戯には全力を尽くす棗の真骨頂だ。
即効で逃げ、集いに来たボッチの反応を見て爆笑しようと思ったのだが…。
確かにボッチ達の悲哀に満ちたその姿、それらの画像を見た参加者ボッチの、
いたるところのでの阿鼻叫喚に最初は大爆笑だった。
しかし気づいたのだ。嫉妬マスクがこちらを見ている。テープで流している様々な場面で嫉妬マスクが明らかに
カメラ目線だったのだ。
「…にゃろう」
そして、テープの最後に入れた覚えの無い嫉妬マスクのメッセージが入っていた。
「これにて、ボッチの集い2012は本当に閉幕である。ボッチの諸君!来年も会えることを楽しみにしている!」
了