「巨椋池に、朱雀……。うふふ、私の好きな小説に出て来る最初のボス敵との決戦地を、
私の好きな四神を模したサーバントで穢そうなんて……潰す」
凄くイイ笑顔でルーネ(
ja3012)が呟く。
「…あの朱雀を放っておけば色々と本物さんに怒られそうなのですよ…。」
神城 朔耶(
ja5843)が困ったような表情で応えた。南木神社で巫女の修行をしている折に触れた四神の伝承。
それを模したサーバントが出現したのだ。朱雀は神獣。本来は人間にあだを成す敵ではない。
「ハッ、調理する前に既に焼けてる鳥とは手間が省けてる相手だぜ。何、四神…の朱雀?そ、それくらい知ってるのだ!」
ギィネシアヌ(
ja5565)は少し焦っていた。鳥が嫌いなので衝動的に立候補して敵の情報を今ひとつ理解してなかったようだ。
しかし、参加するにはきちんと倒しきる。それが撃退士であり自分の役割だ。
「さて、皆が集めてくれた情報を統合すると、水に弱そうなんだがそこを突く作戦でよかったのぜ?」
四神の伝承を色々調べた結果だ。それを受けてグラルス・ガリアクルーズ(
ja0505)が話す。
「今回参加するメンバーには水属性の攻撃を出来る方は居ないので、現地で水を調達し、事に当たるとしましょう。水田やため池などがあればいいのですが」
「現地の地図を見る限り、辺りは農地なので、何とかできる可能性が高いですね」
月輪 みゆき(
ja1279)が地図を睨みながら言った。確かに現地は農地だ。しかも都合のいいことに水田用の地となっている。
「よし、それじゃ俺が水門を開放するのぜ。うん」
ギィネシアヌが立候補した。それに伴い作戦が立てられる。水攻撃は出来ないが、水に朱雀を叩き落す作戦だ。
もちろんそれで倒せるとは考えていないが、弱体化を狙うことは出来るだろう。
「あと、四神はそれぞれに司る部位や色なんかがある見たい。もし、そこまで考慮して作られたサーバントならそれが弱点とかになるかもしれないわ」
風鳥 暦(
ja1672)が発言した。よく調べている。
「それにしても、また飛んでいる相手…多いですね、最近。でもまぁ、目の前で盗られた地ですし。早く戻したいので頑張りますか」
イアン・J・アルビス(
ja0084)がむんっと自身に気合を入れた。
「四神の一体、朱雀かぁ。もし伝承通り不死身だとしたら…蘇るのならそれでも構わない。死ぬまで殺すだけさぁ」
雨宮 歩(
ja3810)が朱雀の画像を見ながら呟いた。体中から炎を吹き出す神獣朱雀。
今、激戦の幕が上がろうとしていた。
その威容はまさに神獣。古都を守護する朱き翼。
現地に到着し相対したメンバーは、しばしその威容に感嘆した。
その姿は何処までも美しく荘厳。
崇拝信仰の対象とされるのも頷ける。四神が朱雀。ここに顕現。
「よし。それじゃ、作戦通りに行くのぜ!」
ギィネシアヌは水田農地の水門を開けに行く。
「皆様に加護を…」
朔耶が『アウルの衣』を使用し、近接組に加護をかける。
そして一番に飛び出したのは歩だ。
「調査と推測は探偵の基本。戦闘の中でも役立たせないとねぇ」
味方の作戦のため、囮役を買って出たのだ。素早くジグザクに動き、チャクラムを投擲しヒットさせる。
朱雀はその場から大きく上昇し、歩に羽ばたきを仕掛け真空波を放ったが何とか回避にした。
しかし、その威力は凄まじく、真空波でバックリ切り刻まれた地面が惨状を物語っている。
「これは…当たったらやばいってモンじゃなさそうだねぇ」
歩の額に汗が落ちる。
「金属の表面には凝結により水が生じ、水は火を消し止める。五行説の相生と相剋コンボを喰らえ!」
ガルムSPの銃身にドライアイスの袋を針金で括り付け、銃身が冷えるようにしていた。
四神が司るとされている五行の相克『水剋火(水は火を消す)」と相性の「金生水(金は冷えて水を生む)』を使った
オリジナルコンボだ。よく特性を理解し、練られた攻撃といえよう。
ガルムから発射された弾丸は首尾よく当たりその身を穿つ通常より攻撃したものよりは多く与えたようだ。
やはり、五行相克は効く様であった。
「貫け、電気石の矢よ。トルマリン・アロー!」
グラルスの『トルマリン・アロー』が炸裂する。その確実性の高い攻撃は確実に当たりはするが、僅かに帯電させたのみだ。
「やはり、強敵ですね」
『小天使の翼』を使い空中に上がったイアンはブラストクレイモアで切りつける。
当たり所が浅く、たいしたダメージは与えることは出来なかったが、狙い通りの羽にダメージを当てることが出来た。
「いくぞ、みゆき君!」
「はい!」
楓とみゆきが同時に魔法攻撃を仕掛ける。共にイアンが切るつけた羽を狙っての攻撃だ。
攻撃は当たる。しかしさほど通ってはいない。
「回避力は高くなさそうですが、耐久力は相当のようですね。でも、この部位ならばどう!?」
『縮地』を使用し俊敏に動き回りながら、暦は相手の隙を探しピンポイントで心臓などを狙い打つが、
上手く箇所をそらされ、中々思うような箇所に当てられないで居る。
次はこちらの番だとばかりに朱雀は大きく体を逸らし、反動をつけて嘴から『極楽炎(炎のブレス)』を浴びせかけた。
「っづぅ!」
ルーネ・イアンはかわしきれず、その炎に巻かれる。歩はブレスの予備動作を見切り全力回避に何とか成功していた。
イアンを除いてそれぞれが体力の3分の一は持っていかれている。それほどまでに強力な攻撃だった。
「…想像以上にきついね」
ルーネが再び攻撃を仕掛ける。狙いは羽だ。ギィネシアヌが水を呼び込むのを信じ相手の飛行能力を奪う算段だ。
共にみゆき・朔耶・楓が歩を援護する。
続いて、暦も更に部位を狙って攻撃を仕掛けるが
「っく!何処に当てても急所らしきものは無し!か。とすると、後は属性!」
属性のためにも地に落とす必要がある。そう思い行動に出るのはイアン。
「ギィネシアヌさんが来るまでにその『飛行』は封じておきたいですね。では、試すとしましょうか!」
朱雀は4メートル程もある巨体なのだ。それを羽とその筋肉だけで飛んでいるのには無理があると思った。
故に『飛行』はスキルだと判断する。ならば、自身のが持つスキル『シールドバッシュ』で落とせるのではないかと考えた。
カイトシールドを活性化させ、勢いよく突進する。朱雀と激突するカイトシールドは眩い光を放った。
ぐらつく朱雀。纏っていた炎は若干減衰し、その身は地に落ちた。
「思った通りだ!」
落ちたと同時に、休耕状態であった田に轟々と音を立て、水が敷かれていく。
「タイミングはバッチリだったようだな!ヒーローは遅れてやって来るのぜ!」
ギィネシアヌが水門を開けて戻ってきた。
地に落ちた朱雀に水の絨毯が襲い掛かる。ジュワっと音を立て濛々と水蒸気が辺りを覆う。
「よし、今がチャンスだ。…黒玉の渦よ、すべてを呑み込め。ジェット・ヴォーテクス!」
グラルスのスキル『ジェット・ヴォーテクス』が朱雀へ襲い掛かる。
激しい風の渦は周りの水気を巻き込み、風と水を吸い込んだ風水弾となって朱雀に被弾した。
今までで一番大きな手ごたえがあった。水の絨毯に朱雀を沈めたのも功を奏したのだろう。
しかし、そこで朱雀の身に異変が起きる。
身に纏っていた朱い炎は、青白い炎となりその身を焼き焦がし始めたのだ。
「不死鳥は…蘇る。大きな炎を纏って…もしかして…再生!?」
朔耶が呟く。そして、それは的を得ていたのだ。傷は見る間に塞がっていき、新たなる力がわきあがってくる。
サーバント朱雀は不死鳥をもモ、チーフに作られていたのだ。
それを見ていた撃退士達に衝撃が走る。
「予想はしていたが…」
楓の表情がこわばる。再生というスキルは後何度使えるのか?それまでに倒しきれるのか?いや、倒せるのか?
思考のループに入りそうなその時、ギィネシアヌが割って入った。
「ごちゃごちゃ言うのは後にするのぜ!相手が回復しようが、それを上回るダメージを与えればいつかは倒せる!」
ギィネシアヌのアサルトライフルが火を噴き、回復に専念している朱雀に弾幕を浴びせかける。
そこで気づいた。何故あいつはその場から動かないんだ?もう一度飛べば水場からも逃げられるのに。
「そうか!あいつ!回復中は身動きが取れねーんだ!」
「ならば、今は好機ですね!皆さん畳み掛けましょう!」
みゆきの掛け声と共に各々の武器が火を噴き、朱雀を穿ち、切り刻んでいく。
幾度かの攻防の後、朱雀の炎が燃え盛る。
『舐めるなよ人間共』
脳裏に響く声。今の声は朱雀が放った言葉なのか。
ゾクっとする。一瞬で体の毛が総立ち、背筋に冷たいものを入れられたような感覚が各々を襲った。
朱雀の身に纏っていた炎が吹き荒れ、大気を焼き、天をも焦がす。
朱雀にのみに許された滅殺の炎。『鳳翼辿翔』が今、撃退士に牙を剥こうとしている。
「来ます!皆逃げて!」
暦の叫びが皆に届き、回避行動に移った数瞬後、朱雀の炎の羽ばたきが全方位に放たれた。
美しくも圧倒的な熱量と共に吹き荒れる炎の嵐。神獣と称される朱雀の文字通り、必殺技だ。
それに巻き込まれたのはルーネ・暦・イアン・歩だった。
文字通り、炎に焼かれたメンバー。
…一瞬彼岸が見えた。走馬灯とやらも見たかもしれない。今までの自分ならそこで終わっていただろう。
しかし、今の自分には帰りを待っていてくれる人が居る。…その彼女が微笑んだような気がした。
「こんな…所で…やられるわけには…いかない…んでねぇ!」
気力を振り絞り立ち上がるのは歩だ。その身は正に満身創痍。
立っているのがやっと、いや、立っているのも不思議な状態だ。
「神魯伎神魯美の詔以て、彼の者を清め賜う事の由、願い奉る」
朔耶の祝詞と共に『ヒール』が歩を癒す。焼かれた身が幾分か回復し体に活力が戻る。
「…助かるよぉ。今のは正直危なかった」
「いえ。これも私の務め。お気になさらず」
にこっと朔耶が微笑む。
歩ほどではないが、他のメンバーも大ダメージを負った。
たったの一撃。いや、必殺の一撃は正しく必殺だった。
「いやぁ、強い。まったく持って強い!理不尽なまでの強さだね」
ルーネがぼやいた。その言葉は皆の心を代弁するものであったことは間違いない。
ルーネが朱雀に向かってダッシュする。それを援護するギィネシアヌ。
鎖鎌を構え、そのまま攻撃するかと思いきや、跳躍した。跳躍と同時に鎌を朱雀に投げて、引っかかりを作り、
遠心力を持って見事朱雀の背に飛び乗る。
しかし、相手は朱雀、その身に纏う炎に焼かれるは必定。だが、そんなことは承知の上なのだ。
「朱雀七星が一つ、鬼宿に生まれた者として。……絶対止めて、落としてみせる!」
自らの身をベットし、朱雀との死闘を開始した。
ルーネを振り落とそうとする朱雀は、再び空へ羽ばたこうとする。
しかし、それをさせてはいけない。水は再び朱雀の身を覆い、確実に弱体化をさせているからだ。
ここで畳み掛けねば、空へ逃がしてしまったら今の自分達には後が無い。
それを誰よりも分かっているのはイアンだった。
「タウント!」
スキル『タウント』を使い、強制的に自身に気を向かせる。
「ジェット・ヴォーテクス!」
再びグラルスのジェット・ヴォーテクスが水を巻き込み風水弾として朱雀に炸裂する。
かなりのダメージを与えたようで、ぐらっと朱雀がたたらを踏んだ。
「その羽貰います!」
暦が忍刀・雀蜂を活性化し、スキル『闘気解放』を使う。
爆発的に高まった攻撃力を持って朱雀の羽を斬り付ける。先ほどのグラルスとの攻撃も相まって
深く傷つけることに成功した。
甲高い声を上げつつ、苦しがる朱雀。そして、再びその身を青白い炎で包み『再生』が始まる。
「それが始まったということは、相当その身も危ないということですね」
みゆきと楓が再び魔法攻撃を朱雀に当てた。
二度目の悪寒が各自を襲う。近距離に居るものがそれを喰らえば、もう、まず間違いなく
死ぬこととなるだろう。朱雀の身が激しく炎を逆巻く。朱雀が持つ必殺技『鳳翼辿翔』
撃退士の死へのカウントダウンが始まった。
「ここは僕が止めます」
イアンがカイトシールドを活性化させる。
この身はディバインナイト。なれば、守って見せよう。乗り切って見せよう。
スキル『シールドバッシュ』これが決まれば相手の攻撃をも防ぐことが出来る。
一世一代の見せ場が訪れたのだ。気を沈め己を一個の盾と成す。
朱雀と視線が絡んだ。必殺技を屠ろうというのだ。
そして、朱雀の『鳳翼辿翔』が放たれた。
「この身は盾!皆を守る唯一片の盾!雄ぉぉ!シールドバッシュ!!」
イアンのカイトシールドが眩い光を放ち、相手の炎をも飲み込み、朱雀へと到達する。
吹き荒れていた炎はかき消され、見事『鳳翼辿翔』を防いだのだ。
「この機を逃さない!これでどうだ、焼き鳥のおばけめ…!」
ギィネシアヌのアサルトライフルが火を噴いた。その弾丸が見事、朱雀の目を打ち抜き貫通させる。
「ここで畳み掛ける!終わりにする!」
もう一度『鳳翼辿翔』を使われたら後が無い。ここが好機だ。ここで潰さなければいけない。
暦は再び『闘気解放』を使い羽を攻撃する。そしてその一撃は羽を切り飛ばすことに成功した。
朔耶も梓弓を構え、朱雀に攻撃。歩も近接で攻撃し、みゆきと楓は共にありったけの魔法を放つ。
「これでチェックメイトだ!」
三度目の『ジェット・ボーテクス』を放つのはグラルス。文字通り、これが止めになるかと思われたが、
最後でまたもや朱雀の『再生』が始まった。
「ふうぅ…これで決める!」
リジルを活性化し、大上段に構えるはルーネ。自身のアウルを高める。
「ハァアアアア!」
『スマッシュ』を使用しての高威力の一撃を朱雀に叩きつけた。
自身、最高の一撃だった。これ以上の手ごたえは今までに感じたことが無い。
果たして、その結果は…。
…視界が炎に染まる。フワリと炎が舞う。
熱いはずの炎が熱もなく、中空を踊るよう舞っていた。
朱雀を構成していた炎は大気に溶け込んで、炎の華を咲かせる。
それは正に散華。炎の華を中に散らしながら…朱雀はその身を大気に溶かしていった。
「…終わりましたね」
みゆきが呟く。朱雀を見事に倒したのだ。その成果は誇れるものである。
しかし、分かっていた。これで終わりではないと。
遠くを見つめる。ここから北に行けば京都の中心地だ。
そこにはまだ多くの人たちが自分達の救助を待っている。
その中心地に暗雲が立ち込めていた。遠くで聞こえる雷の音。
その雲はとぐろを巻き、まるで龍のようだ。
これからの戦いを彷彿とさせるような稲光が京の都に降り落ちる。
「…貴方達の思い通りにはさせません…決して」
朔耶はその雲を見つめながら、新たに決意をするのだった。
了