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「ここが旧支配エリアね。なんともまぁ寂れに寂れた場所だこと」
雨野 挫斬(
ja0919)がポツリと呟く。
人っ子一人いない。かつてはその栄華を誇っていた街であろうこの場所も
今では廃墟と化している。買って来た双眼鏡を構え辺りを見渡した。
今のところは敵は現れてはいない。持ってきた久遠ヶ原非公認新聞の『無無』を広げ
神器の情報を拾い読みする。
「ん。廃墟ー廃墟ーぼーろぼろーこんなところでお仕事だってー。変なのー」
鬼燈 しきみ(
ja3040)が疑問の声を上げる。
そう、おかしいのだ。何故旧支配エリアでディアボロが出たのか。
襲う人間も廃墟と化したこの街には居ないはずである。
「侵略にしては戦力がバラけすぎ。陽動にしては戦力を投入しすぎている。
領土の取り合いにしても、両陣営の戦闘は散発的…しかも旧支配エリアでの戦闘」
石田 神楽(
ja4485)が静かな笑みを浮かべながら、思考を加速させる。
挫斬の持ってきていた無無にも今回の旧支配エリアでの戦闘のことが取りざたされていた。
全てがおかしい。特に両陣営入り乱れての戦闘と言うのが、
今までの戦いではありえなかったことなのだ。学園の意図も測りかねる。
とはいえ、今回のディアボロ討伐は不可解でもやらなければならないのだ。
少しでも敵戦力を削がなければ、助かるであろう人たちをも助けられなくなる。
「ふん…不可解な動きねぇ…色々気にはなるが、取り敢えずは目の前の敵だな」
ギィネシアヌ(
ja5565)が前を見据え銃を構える。
そこには闇があった。
闇から生まれる影。
都合三体。
真紅の鎧で時代錯誤な武者鎧。
常に他者を威圧する漆黒のオーラを身に纏い、
切れ味の鋭い野太刀を構える。
ディアボロ『鬼武者』
ここに見参。
「ふむ。ここが地獄の三丁目とやらかもしれませんね。鬼を狩るのは骨が折れそうです」
神楽が鬼武者を見て呟く。あれは強敵だ。身に纏うオーラからもわかる。
「ははっ!いいじゃんいいじゃん!これは食いでがあるねぇ」
染 舘羽(
ja3692)が嬉々としてブロードアックスを取り出した。
「…正直だるいけど。まぁこれも仕事。ちゃちゃっと料理しますかね」
いつも気だるそうな九重 棗(
ja6680)の中で「カチリ」とスイッチが入る。
戦いを愉しむ準備が出来たのだ。
その他、到着した面々も武器を構える。相手はディアボロ鬼武者。
ここに戦いの火蓋が切って落とされた。
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「きゃはは!いっくよ〜!」
偃月刀を構え、一気に間合いを詰める攻撃を仕掛ける挫斬。
それと同時に雀原 麦子(
ja1553)が佐藤 七佳(
ja0030)が棗が舘羽が突っ込んでいく。
鬼武者は三体居る。連携攻撃をされると厄介なので、それぞれを分断しようと言う作戦を
予め立てていた。
前衛を買って出たメンバーがそれぞれにあたりを付け、お互いの距離を離していく。
スキル『闘気解放』を使用し、自身の戦闘力を跳ね上げるのは麦子。
「ハァァァアアアア!」
大太刀を思いっきり鬼武者に叩き付け後方へ引かせる。
「っと、全力でいったんだけど流石に倒れたりはしないか。まぁ、そうでなくっちゃね♪」
分断には成功したのだ、まずは是をもって良しとする。
挫斬と麦子、棗が敵を離した。
敵一体に付き、各3人で対処していくことを予め作戦立てしておいたのだ。
まずは棗の班から見ることとしよう。
スキル『縮地』を使い、移動動力を増しつつ攻撃をしかけている棗。
移動の際にワイヤーで簡易トラップを仕掛けいく。
「うぇーい。まずはその足を止めようかなー」
しきみがスキル『影縛の術』を使った。蛇腹剣で攻撃をしつつ、その剣から影が
蛇の様に這い出し、鬼武者を絡めとろうとする。影は鬼武者の体にまとわり付いたが
すぐさま霧散してしまう。レジストされたのだ。
「オラオラ! 俺のとっておきだ、存分に喰らいな!」
ギィネシアヌのアサルトライフルが紅く光る。その光はやがて8体の蛇となり銃口へ。
そしてそれらの蛇が一発の弾丸として、鬼武者に牙をむいた。スキル『紅弾:八岐大蛇』である。
紅い弾丸は鬼武者に着弾し、ダメージを負わせることが出来た。
しかし、まだまだ相手は余裕を持っているように見える。
「へっ。そうでなくっちゃな!燃えてきたぜ!」
阻霊符を展開し、透過を防いだ神楽。
次に、ドラグニールと梓弓でそれぞれに攻撃し、相対的に物理と魔法どちらが
相手の防御力が高いのかを冷静に見極めていた。
「ふむ。なるほど。そちらは耐性に関してはあまり変わりが無いようですね。
ならば選択するのはこちら、ドラグニールでしょう」
一つ一事象を確かめながら、冷静な対処をする。正に冷静なスナイパーだ。
敵と正対し後衛や他藩に向かわぬよう移動を阻害する様に攻撃を仕掛ける挫斬。
それに連動するように攻撃を仕掛けるのが舘羽だ。
鬼武者の意識が神楽に向き、そちらへ行こうと仕掛けたとき、それを素早く察知し進路を切る。
「うおっと、させないよん。あんたの相手はあたしだ。余所見しないで踊ろうぜ!」
『光纏式機動戦闘術』これは七佳が既存のスキルを改良し、独自のスタイルを確立させた戦闘術だ。
アウルを身体各部に収束、放出する事で瞬間的な加減速や姿勢制御に利用することにより、
多角的な戦闘を行うことが出来る。ただし、これは未完成。改良する余地はある。それでも。
『光纏翔』を使い、更に自身のスピードを上げ、『光纏迅』で己のもてうる力を加速させる。
「スピードだけなら自信があります!」
急加速からの鋭い一撃を鬼武者に叩き付ける七佳。戦闘スタイルの構築見えてきていた。
鬼武者の体がぶれる。麦子を喰らわんと『連撃』を仕掛けてきたのだ。
それは白刃の檻。不可避の刃三連が麦子を襲う。
一撃目はいなした。しかし2撃目で浅くダメージをもらい、3撃目でいいのをもらってしまった。
「っくぅ、やるじゃない」
油断していたわけではない。だが、わかる。剣技においては相手が上なのだということが。
「一対一ならば不利だったかも知れんが、生憎これはそうではい」
鬼武者の連撃が終わった後の僅かな硬直の隙をついて
東雲楓のフレイムシュートが鬼武者に直撃し、たたらを踏ませた。
「速さで押し、力で押し、技で押す。群れる人間の強さってやつを披露しますよ」
七佳・麦子・楓がそれぞれに鬼武者を押し、徐々に追い詰めていく。
一番最初に大きな動きが出たのが、挫斬の班だ。
鬼武者からいい斬撃をもらってしまった挫斬は、その斬撃に恍惚とする。
嗚呼こいつは強い。私よりも強い。故に私を満たしてくれるのはコイツしかいない。
「キャハハハ!!本気出すよ!グチャグチャに解体してあげる!」
その目に狂喜を宿し偃月刀を真一文字に振りぬく。スキル『なぎ払い』を発動させた。
渾身の一撃が鬼武者を捉え、その動きを捕らえた。見事にスタンが決まったのだ。
「今よ!二人とも追撃お願い!!」
「チャンース!痛いの一発入れちゃうよー…さ、耐えられるかなぁ?!」
戦いに楽しみを見出す舘羽が嬉々としてブロードアックスを鬼武者に叩き込んだ。
『鬼神一閃』その剛撃が鬼武者の鎧を砕き、弾き飛ばした。強烈な一撃が入ったのだ。
「追撃の一手はお任せを」
既に『黒刻』によって、自身の戦闘力を増していた神楽の目が鋭く敵を射抜く。
持っていたドラクニールに、弾に黒曜石に似た結晶が纏わりつかせる。スキル『黒晶』だ。
絶対必中の一撃を鬼武者に発射し着弾。弾に付いていた結晶が命中と同時に砕け爆ぜる。
鬼武者の胴に風穴が開いた。
ひざをつく鬼武者、それでもなお戦おうとする意思は衰えない。
しかし。
「ざーんねん。あなたは此処で御仕舞いだからぁ!」
偃月刀を振り下ろす挫斬。まともに喰らった鬼武者の目から光が消え、地に倒れ伏した。
七佳は加速したまま跳躍し、速度エネルギーを位置エネルギーに変換。
更に上空でアウルの噴射で加速を行い、純白のオーラを鳥のように纏った急降下突撃を繰り出した。
「はぁぁ!」
パイルバンカーが唸りを上げる。加速も全てをエネルギーに変えての突撃だ。
ズドン!っと派手な音を出し、突き出される鉄杭。
鬼武者に大ダメージを与えたが、倒すには至らなかった。
「実戦で始めて使いますが…「白隼」良いようですね」
白隼とは、彼女が独自に編み出した戦闘術だ。『光纏翔』『光纏迅』を同時発動させての
七佳の必殺戦闘術である。七佳はインラインスケートを駆使し、転進して道をあける。
「さぁて、多分次が最後の一撃になるんじゃないかしら」
麦子が大太刀を前に突き出し、構える。平突きの姿勢だ。
すると鬼武者は持っていた野太刀を大上段に構える。あの構えを麦子は見たことがある。
「二の太刀要らずの…違う。あの野太刀ということは…防御を捨てた狂気の剣」
鬼武者の身に纏うオーラが更に濃くなっていく。全てを捨てた最狂の一撃を繰り出そうとしているのだ。
生前は名のある剣士だったのかもしれない。出来れば正々堂々と試合ってみたかった。
が、今の自分は撃退士、相手はディアボロだ。そこにあるのは殺し殺される戦場の空気。
その空気が重たくなる。徐々に張り詰め膨張を増し、今にも爆発しそうだ。
「カタン」っと、廃墟となったビルのコンクリート破片が地に落ちた。
カッと目を見開き猛然と襲い掛かる麦子。大太刀を最速・いや神速で鬼武者に突きいれんと繰り出す。
それに呼応し大上段からの必殺の一撃を振り下ろす鬼武者。
スキル『餓突』
麦子の大太刀が鬼武者の野太刀よりも早く鬼武者の体を貫いていた。
「っふぅ…。剣に一切の曇りなし。惜しいわね、貴方…」
どうと倒れた鬼武者を一瞥した。
「っと、コイツが最後になったか。とっとと終わらせたいね」
棗が他の戦場を見る。戦場に張り巡らせたワイヤーが此処で機能した。
先に担当していたディアボロを打ち倒し、
加勢に来た舘羽の攻撃を避けた鬼武者がワイヤーに足を取られたのだ。
とはいっても、それはほんの小さな隙だ。しかし、棗にはその隙で十分だった。
「おぉらぁ!」
スキル『破山』を使用した漆黒の大鎌が鬼武者に襲い掛かる。
回避行動を取れなかった鬼武者を切り裂くことに成功し、大ダメージを通した。
「一気に攻めるのぜ!」
ギィネシアヌのアサルトライフルが紅く光る。再びスキル『紅弾:八岐大蛇』を放つ。
紅弾が鬼武者を喰い破らんと襲い掛かり着弾する。倒すには至らなかったが、その兜を弾き飛ばした。
「これはチャーンス!此処で決めるー」
スキル『回天』を使う。相手の頭を両足で挟み込んで後方に回転し、頭から地面に叩きつける技だ。
所謂「フランケンシュタイナー」だが、更に体を捻ることで錐揉み状の回転を加えて
殺傷力を上げている。しきみの48の殺人技のひとつだ。
よほどの隙が無い限りこんな大技は繰り出せないだろうが、今回はこれが綺麗に決まり
止めの一撃となった。地に伏した鬼武者はそれきり動かなくなったのだ。
「うぇーい!あいむなんばーわーん!」
「やるじゃん、しきみちゃんかっけーのぜ!」
ギィネシアヌがしきみの肩を抱いて喜び合う。
「やれやれ…終わったか、あぁだるい」
棗が気を抜き、その場に座り込んだ。
「いやぁ、今回もきつかったわねぇ。あぁ…勝利の後のジュース最高!」
麦子が泣きながら飲んでいた。本当はビールを飲みたかった。浴びるように。
勝利の美酒と言う言葉もあるくらいなのだ。しかし、それを許さなかったのは楓だ。
「勝って兜の緒を締めろと言う言葉もある。帰るまで我慢だぞ麦子」
「はぁ〜ぃ。あ、その時は付き合ってよね♪」
「まぁそれぐらいなら。そうだ、あては棗君に任せよう。いいだろう?棗君」
「ま、別にいいけどね。料理好きだし」
ちゃっかり棗を巻き込む楓であった。
●
「はー、終わった楽しかった。…けど、こんな人もないとこででかいのが3匹も何してたんだろうね。
鬼ごっことか?」
舘羽が大きく伸びをしながら発言する。
「何かさがしものでもしてるのかなー?」
「こんなところでか?でも何にも無いのぜ」
しきみとギィネシアヌが首を捻る。
「…やはり、ひっかかりますね」
神楽が呟く。
今回の敵は確かに強かった。特に前衛は敵の剣技に押され大きな傷を負ったものも居る。
しかし、しかしそれだけなのだ。
あまりにも単純過ぎないだろうか?
旧支配エリアのこんな廃墟に突如現れる天魔。
また、別の依頼ではとある少女を救出する依頼も出ていたと聞く。
少女自身なのか、それともその少女が何かを持っているのか。
「ねぇねぇ今こんな事になってるんだって。だから周囲に敵がいないか偵察って名目で、
ちょっと探検に行かない?上手くいけば何かわかるかもよ?」
挫斬が楓に無無を見せながら話した。無無には今回の騒動についての見解が載っているが、
あくまでも上辺のことのみだ。
「そうだな。まだ時間はあるし、少し探ってみるのも良いかもしれん」
みんな、今回のことは何かしら引っかかっているのだ。
辺りを探索し始めようとしたその時、まるでこちらを見張っていたかのように無線が入る。
「…はい…はい…了解しました。これより帰還します」
無線を切った七佳が皆に視線を合わせて首を振った。
深追いはするなということらしい。
神楽が空を見上げる。
暗雲立ち込める空に光は差さない。
その手に掴むものは何なのか。
その答えが出るのは今暫く時を必要とする。
了