「京都…まだ救い出せていない人が大勢…全員は無理でも一人でも多く」
道明寺 詩愛(
ja3388)の機転でトラックとドライバーを学園側で用意してもらい、
現場へと急行していた。事前に作戦を立て、教会突入前に阻霊符を発動することも決めておいた。
程なく教会前に到着したメンバー達。教会の外には依頼内容だったケルベロスが倒れている。
どうやら先行した東雲達が倒したようだ。念のため道明寺はスキル『現世への定着』を使用・展開しつつ中に入る。
中で見たものは、4体のキューピッドの攻勢を受け、サブラヒナイトの弓をかわしている両名であった。
体のいたるところに負傷しており、だいぶ息が上がっている。特に楓はかろうじて立っているといった具合だ。
「あれは‥‥サブラヒナイト!?…あの位置、険呑です。奴に張り付きます!突破出来る方は行ってください!」
東雲達から少し離れたところで矢を射掛けていたサブラヒナイトに夏野 雪(
ja6883)が向かう。
「ちぃ!おらおら!道をあけるのぜ!」
ギィネシアヌ(
ja5565)とcicero catfield(
ja6953)さらに雨野 挫斬(
ja0919)雨宮 歩(
ja3810)が
それぞれの銃に火を噴かせ、サーバント達を一旦蹴散らす。
そして道明寺は東雲・柊の下へ急行し『癒しの風』を使用した。
「部長さん他一名、大丈夫ですか?」
「助っ人参上ってねぇ。まだ生きてるかぁ、部長?」
と雨宮が東雲たちに声をかける。
「詩愛君に歩君、それに皆も…助かったぞ」
「二人とも動けるなら助成を頼む、鞭打つようですまんが、状況が状況だ」
獅童 絃也(
ja0694)が東雲達に声をかける。
「あぁ了解だ。まだまだいけるさ」
「じゃぁ、誠君は詩愛ちゃんと一緒にガード!楓ちゃんはサブラヒを魔法攻撃でよろしく!」
雨野がマグナムを構えキューピッドに威嚇射撃を行う。
その直後だ。サブラヒナイトが構えていた鬼蒼燐光のエネルギー弓を天井へ向け、蒼焔の矢を放った。
天井が音を立てて瓦解し、コンクリートの破片が撃退士を、何より床に倒れている人々に降り注ぐ。
「させるもんか!」
東城 夜刀彦(
ja6047)が蛇腹剣で降り注ぐコンクリート郡を弾き捌いていく。
お返しとばかりに、もっとも大きなコンクリート破片を蛇腹剣で絡め取り、サブラヒナイトに投げつけた。
それを片手でことも無く破砕するサブラヒナイト。
これを皮切りに新たな戦端は切って落とされた。
東城が阻霊符を発動させ、夏野が自分を中心にスキル『アウルの衣』を発動させ、メンバーの魔法防御を上げる。
キューピッドに向かったのは雨宮・ギィネシアヌ・cicero。
サブラヒナイトに向かったのは東城・夏野・獅童・東雲の編成だ。
雨野は最初に救助者や遺体を詩愛の元に移送した。
「流れ弾とかで怪我さしたらやだし、戦うのに邪魔だからドけとかないとね!」
集めてもらった人々を庇うようにして盾を構える道明寺と柊。
「何がそんなにおかしいんだよ、気に食わねぇ顔しやがって!」
キューピッドへスキル『紅弾:八岐大蛇紅弾』を発射するギィネシアヌ。
螺旋状の真紅の軌跡を描き弾丸は一体のキューピッドへ向かう。
弾は見事に命中し小さな爆発音立てる。しかし、撃破には至らず下卑た笑みを浮かべながら
お返しとばかりに矢を放ってきた。それを済んでの所でかわす。
だが、別のキューピッドが立て続けに矢を放ってきたのには対処しきれず深手を負ってしまった。
「ライトヒール!」
ギィネシアヌにすぐさま治癒をかける道明寺。
「私の役目は結界の維持とみなさんのサポート…」
道明寺の的確なサポートが、皆を心強くしていた。
「主よ、我に力を与えたまえ」
自分の集中を極限に高めスキル『精密射撃』を行うのはciceroだ。
先ほどギィネシアヌが紅弾を当てたキューピッドに狙いを定め引き金を引く。
銃弾は見事にキューピッドに着弾した。
そこへ追い討ちをかける雨宮。
予め発動させておいた『壁走り』を使い、教会の壁を駆け上がり一気にキューピッドとの差を詰める。
「不愉快なんだよ、お前らぁ。地に堕ちて、無様に嗤え」
武器をバヨネットハンドガンから蛍丸に切り替え、負傷著しいキューピッドへ切りつけ、地上に叩き落す。
そして勢いはそのままに壁に着地し、また壁を駆け上がる。実にアクロバティックな、鬼道忍軍らしい戦いをしていた。
雨宮に叩き落されたキューピットを待ち構えていたのは、嬉々とした表情を浮かべた雨野。
武器を偃月刀に持ち替え、キューピッドを遠慮なく縦横無尽に切り刻んでいく。
「キャハハハ!うん!やっぱり直に解体する感触を感じないとね!気持ちい〜!イっちゃいそ〜キャハハハ!」
絵的にはかなりお見せできない解体ショーが展開されており、やがてピクリとも動かなくなるキューピッド。
更なる敵を求め戦いは続く。
キューピッド達との戦いを背に、サブラヒナイトと対峙しているのは夏野だ。
夏野は徹底的にサブラヒナイトの正面に張り付き、他の仲間の下へと行かせない様に体を張っていた。
「さぁ、相手は私だ!貴様の矛で、我が盾貫いてみせろ!」
カイトシールドを持ち、立ちはだかる夏野。
守るための防御ではない。攻めるための防御だ。仲間を信じ、仲間を守る盾になることこそが自身の戦い。
だから傷を負ってでも前に出る。夏野の顔に気迫が漲っていた。
サブラヒナイトを阻む夏野と連携して動いているのは獅童だ。正面は夏野が陣取っているので、
側面からの攻撃を仕掛ける。
基本近接戦闘の獅童は自身の使う八極拳をベースにした独自の武術で攻撃を行う。
一撃必殺の八極拳をベースにしているだけあってその攻撃は震脚による踏み込みから始まり、
拳撃、肘撃、靠撃、崩撃と流れるように、強打の連撃へとつなげて行く。
「ハァ!」
サブラヒナイトの体勢を一時的に崩すことに成功するも、そこまでだ。
流石は物理防御の高さを誇るサーバントである。よろめく程度で獅童の連撃を受けきってしまった。
「続きます!」
蛇腹剣をロータスワンドに持ち替え東城が飛び掛かり、認識阻害を発生させるスキル『目隠』を使用した。
ワンドを振りぬき着地する。サブラヒナイトに黒い霧が覆う。スキルは見後に成功したようだ。
しかし、かといって相手の攻撃力が弱まったわけでもない。
サブラヒナイトは太刀を振り上げ、夏野に攻撃を仕掛ける。
「っぐぅ!」
カイトシールドから火花が飛び散り、押し負ける形となった。
地面に転がる夏野に追い討ちをかけようとした時、東雲の魔法攻撃が入り追い討ちを阻止した。
「妥協はしない‥‥!この体動く限り、立ち塞がってみせる!」
すぐさま立ち上がり、体勢を立て直す夏野。
ほどなくもう一体のキューピッドを倒し、これで2体目を撃破となった。
残る二体のキューピッドだが、サブラヒナイトが片手を上げるとその元へ急降下し、
対峙している夏野と獅童へ『魅了』を使ってきた。
急激な眩暈が二人を襲う。
「…こんなの!」
歯を食いしばりレジストに成功した夏野。しかし獅童が魅了にかかってしまい攻撃の動作を止めてしまった。
当然それを見逃すサブラヒナイトではない。大太刀を振り上げ襲い掛かる。
獅童に太刀が振り下ろされる瞬間、割って入る黒い影は東城。
咄嗟に獅童を肩で突き飛ばし、ロータスワンドで受けるも体制が悪くダメージを追ってしまった。
突き飛ばされた衝撃で魅了から回復した獅童。
「っく、すまない」
「いいえ。このぐらいどうってことないです」
夏野のライトヒールが東城に飛び、すぐさま傷を癒す。
「疾っ!」
サブラヒナイトに風の刃と護符が殺到する。
風の刃を放ったのは道明寺だ。忍術書はブーツに巻きつけて具現化。
蹴り足から風の刃を飛ばして攻撃したのだ。護符は東雲が放ったものである。
魔法の直撃を受けるサブラヒナイト。
しかし、ここからが正念場だった。
サブラヒナイトの指揮下の元、キューピッド達が連携を取り、攻撃してきたのだ。
キューピッドは撃退士の攻撃をひらひらとかわし、マジックアローを確実に叩き込んでくる。
また、サブラヒナイトの白刃も加わり、撃退士それぞれがダメージを受けていくが
適時、道明寺の『癒しの風』や夏野の『ライトヒール』が飛びそれぞれを回復していく。
そしてついに決着が付くときが来た。
雨宮が『壁走り』を使い壁を駆け上がっていく。それと同時に東城も『壁走り』を使い反対方向から駆け上がる。
二人は空中で視線を交わすと軽く頷く。
ホワイトナイト・ツインエッジを装備した東城が壁を蹴り、キューピッドに肉薄。
「喰らえ!」
勢いを殺さずそのまま振りぬいた。
攻撃が見事に当たり、吹き飛ぶキューピッド。それを待ち構えていたのは反対方向で駆け上がっていた雨宮だ。
「落ちろ!」
飛ばされてきたキューピッドを空中で地面に蹴り落とす。
鬼道忍軍の見事な連携だ。
そして地で待ち構えていたのはエクスキューショナー雨野だ。
「いらっしゃ〜い♪」
恍惚とした表情を浮かべ楽しげに切り刻んでいき、やがて止めを刺した。
もう一体のキューピッドに引導を渡すべく、ciceroのアサルトライフルが火を噴き確実にダメージを与えていく。
それに続くのはギィネシアヌだ。ciceroの銃撃が深手を負わせ動きが相当鈍くなっているのを確認すると
一気に勝負を決めるべく、スキル『紅弾:八岐大蛇』を使用した。
放たれた弾丸は螺旋状の真紅の軌跡を描き、キューピッドに喰らいつき、その腹を食い破った。
「教会にキューピッドのサーバントは…出来すぎなんだぜ」
最後に残ったのはサブラヒナイトだ。道明寺と東雲の魔法攻撃が確実にダメージを蓄積させ、
もう一押しと言ったところまで来ていた。
サブラヒナイトは白刃を振り上げ襲い掛かる。それを盾で受け止める夏野。
余力が無いのかサブラヒナイトの攻撃は弱弱しいものであり、完全に防ぎきった。
これを好機と捉えた夏野は盾ごと、思いっきり体当たりを仕掛ける。
「今です!」
「応!」
全身の筋肉を収縮させ、力を丹田へとためる。
「この一撃を通す、我が武の真髄その身に刻め」
それは、非常にゆったりとした動作だった。ただ、拳を突き出すだけ。
だが、その拳には自身の力を全て込めた最大の一撃。この拳は一つの槍。
ズンッと震脚が地面を踏みしめ、その反動を螺旋とし力をうねらせ拳を叩き込む。
スキル『破山』を使った沖捶がサブラヒナイトに叩き込まれた。
派手に吹き飛び壁にたたき付けられるサブラヒナイト。そして、それきり起き上がることは無かったのである。
「ふぅ…終わったな」
皆がそれぞれに傷つき、敵が5体もいる想定外の依頼ではあったが、なんとか新しい犠牲者を出さずに済んだのだ。
「一息つくのは、後にしましょう。早くしないと他のサーバントが…」
「…そうですね」
道明寺の提案に夏野が頷く。
外で待機していたトラックに救助者を次々に運び出すメンバー。
「きっと、きっとある筈なんだぜ…」
ギィネシアヌはある物を探していた。そしてとある男性の遺体の近くに転がっていた小さな箱を発見する。
そっと開けると、中にはきらりと輝くマリッジリングがあった。
「………」
それを懐にしまい男性を見下ろす。その人はとても穏やかな表情をしていた。
瓦礫を皆でどかし、男性を含めた3人の遺体をトラックに収容する。
道明寺は念のためスキル【生命探知】を活性化・使用した。
生命反応を感知した場所を地図に記し次回以降の作戦資料として学園に提出して
今後の救助活動に役立てようとしたのだ。
そして、帰路に付いたのである。
数日後、教会内で倒れていた人たちは徐々に回復を見せていた。
とある病室を訪れた撃退士達。その病室には婚約者を失った女性がいた。
女性は回復はしていたが、心を閉ざしたままだった。顔に生気が無く、頬には涙で濡れた後があった。
ギィネシアヌは持ち帰った小箱、マリッジリングをそっと女性に渡す。
「俺はそんなに出来た人間じゃないからこんな事しか出来ないけれど、忘れなければきっと心の中で生き続ける。
貴女を愛した人の分までいつか幸せになって欲しいんだぜ」
女性は小箱を受け取り中身を見た。生気のなかった瞳に感情が宿り再び涙が頬を伝う。
「でも!あの人が居ないんじゃ、私は!私は!」
「命は‥‥背負えない。でも、思いなら、背負える。思いは、託された人しか背負えない。
貴女の大切な人の思い‥‥託されてあげてほしい」
夏野がそっと囁く。思いは、想いは永久に続くのだ。彼女を庇った男性の想いがあったからこそ、今の彼女が居る。
彼を想えるのは家族などもいるだろうが、彼が最後に想ったのは間違いなく彼女であるはずだ。
「ご主人は笑顔でした。彼の想い、大事にしてあげてください」
道明寺が静かに語りかける。
「ん〜、貴女の旦那さんは貴女を助ける為に死んだんだよね?なら生きたほうがいいんじゃない?
少なくとも貴女が死んだら旦那さんは死に損だよね?それが嫌なら死ぬ気で生きないと。
それに私達も痛い思いして助けた人に死なれたら気分悪いしね!」
口は悪いが雨野の言葉尻には彼女を思いやる心が感じ取れた。
「…俺は自分のせいで人を死なせました。依頼の中…俺達を救うために、その人達は自らの命をかけたのです」
ぽつりと東城が呟く。そんな結末は望んでいなかった。生きていて欲しかった。けれど手に残ったのは死亡通知だけ。
「…生きる、ということはとても苦しいものだと思います。どうして、と…問うてももうあの人達は答えてくれません。
生きていて欲しかったと思うこちらの願いは叶えられない…けど…。
安穏とした死に逃げれば、託された願いも思いも無いものとして扱うことのような気がするんです。
命をかけて救ってくれたその人の事すら無かったことにしてしまうようで…。
花婿さんは…最期に貴方に何かを…伝えられましたか?あったとしたら、その人の願いを
その思いを、無駄にはしないで欲しいんです。貴方の命そのものが、花婿さんの命なんだと…思いますから」
シーツを描き抱き、彼女は嗚咽した。何度死のうと思ったことだろう。
でも解っていた。彼はそんなことを自分に望んじゃいないと。
寂しかった。思い出せば出す程に胸が締め付けられる。でも、彼がくれたこの命。
助けてもらった恩人である撃退士の皆が救ってくれた命を絶つことはできない。
してはいけないことだと教えてくれた。
「ありがとう…ございます。本当に…ありがとうございました」
嗚咽は続くも、彼女は生きる意志を見出せたようだった。
しばらくは病室に残り何をするのでもなく彼女に付き添っていたメンバー達。
人のぬくもりに、あたたかさに彼女の心も氷解していったようだった。
…こうして、真の意味で今回の依頼は幕を終えた。
了