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マスター:櫻 茅子
シナリオ形態:ショート
難易度:やや易
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/07/06


みんなの思い出



オープニング

●木下慎也は弱者である
 木下慎也は弱かった。久遠ヶ原学園に在籍する撃退士としてはもちろん、心根も一般の人間と比べて非常に弱かった。
 どれくらい弱いかというと、戦闘訓練では相手が構えをとるだけで降参と叫びたくなるし(実際に叫ぶ勇気なんてなかった)、戦闘自体はあっという間に決着が着くし(もちろん敗者は木下だ)、教室で数人がひそひそと話しているのを聞くと無条件に怖くなったし、謝りたい気持ちになった。一部被害妄想と言うべき症状も混じっているが、とにかく、彼はあらゆる面が『弱い』人間だった。
 外見も特筆できるところがない、中肉中背の平平凡凡なものだ。身体も薄く、一時期はもやしなんてあだ名がつけられたほどである。
 木下はそれを仕方がないと思っていた。これからも変わることなんてないと確信していた。自分は底辺を行く人間だと信じて疑わなかった。
 彼女に出会う、その日までは。

●すべては愛のため!
「特訓につきあってほしいんです!」
 斡旋所で、木下は職員にずいと顔を近づけそう叫んだ。
「は、はあ。特訓、ですか?」
「そうです、オレは彼女のために、もっと強くなりたいんです!」
 興奮気味に詰め寄る木下に、職員は落ち着くように促す。しかし木下は拳を握り、「落ち着けるわけないでしょう!」と言い返すと、直後、「はあ」と大きなため息をついた。テンションの落差に、職員はこの子大丈夫だろうかと心配になりながらも、依頼の続きを促す。すると木下は頬を染め、職員から目をそらしながら、内緒話をするようにひっそりとした声音で語りだした。
「えっと、ちょっと恥ずかしいんですけど……。オレ、あの……高い背と黒髪が魅力的な、あの女の子……。……さんを、好きになりまして……」
「あの子? すみません、聞こえなかったのでもう一回言ってもらっても?」
「なんで聞き返すんですか! 山内ユウコさんです! あっ、言っちゃった!!」
 恥ずかしい! と手で顔を覆い、木下は身もだえる。
 職員は『山内ユウコ』の名に聞き覚えがあるような、と記憶を探ろうとしたが、再開された木下の話にすぐ意識を戻す。
「えーっとですね……。依頼なんですけど、特訓につきあってくれる人を探してほしいんです。ユウコちゃんは強い人が好きだって聞いたんですけど、ほら、オレってこんな見た目だし」
「そうですね、お世辞にも強そうとは言えないです」
「職員さん、結構ズバッと言いますね? まあ、事実なんですけど……。とにかく彼女に認められるくらい強くなって、こここ、告白、をできたらなと思ってここに来ました。あ、報酬はちゃんと用意してますよ! 貯金崩してきました!」
 そこまで聞いた職員の頭に、ふと疑問が浮かぶ。
「特訓なら、教官に頼めばいいのでは? その方がお金もかからなくて済みますよ」
「教官の特訓はこわ……いえ、同じ生徒の立場から教わりたいことがたくさんあるので」
 なるほど、怖いのか。
 必死な木下の様子に、職員は苦笑を浮かべ、「わかりました」と告げる。
「本当ですか!」
「はい、依頼として承ります。では、どんな特訓を必要としているのかをはじめ、詳細を教えてください」

●木下慎也の初恋道
 木下慎也の話をまとめ終えた職員は、眉間に深いしわを刻んでいた。
「『木下がやっとやる気を出した!』なんて、教官の方々は喜んでましたが……。本当に喜んでいいことなんですかね、これ」
 木下慎也は向上心がまったくと言っていいほどなく、成績も最下層をうろうろしているような生徒だった。しかし、山内ユウコに恋をしたことをきっかけに変わろうとしている。
 そこだけ見ればいい話なのだが――。
「山内ユウコさんって、かーなーり、屈強な女の子なんですよねぇ……」
 そう、山内ユウコはボディビルダーでも目指しているのかと言いたくなるほど、立派な体格をしていた。強さがすべてと言うように、鍛えることが趣味な少女だった。木下の話を聞いた時にひっかかったのは、いつだったか彼女を目撃して、そのあまりのインパクトに頭の隅に残っていたからだ。
「しかも、惚れたきっかけが技をかけられたからって……」
 木下と山内が出会ったのは、教官が戦闘訓練を組んだのがきっかけだったという。
 職員は山内について語る木下の言葉を思い出す。
『とにかく、今までにない技のキレだったんですよ! オレって自他ともに認める弱者だったんで、本気を出されることがあんまりなかったんです。でも、彼女は違ったんです。すごい本気度でした。あそこまで全力で瞬殺されたのは久しぶりでしたね。それから、もう世界が変わったと言いますか。とにかく、彼女から目が離せなくなったんです。で、しばらく様子を見てたら、料理が得意だったり、小物にはかわいいものを使っていたり、猫とか子供とかに向ける優しい視線に気づいたりして。もうだめだー、これは惚れるしかない! ってな感じで。そうだ、特訓してくれる相手だけじゃなくて、女の子が好きなアイテムとかシチュエーションとかを教えてくれる人もいてくれたら助かります! ユウコちゃん、女の子らしいとこらあるから。へへへぇ』
 ……デレデレと語っていた彼は、なんというか、微妙にマニアックな道へ進みそうな気がするのだけれど。
 しかし、最後の彼の言葉は誠実だったと思う。
『――告白をOKしてくれるのが一番の理想ですけど、彼女に話しかけて、友達からでもはじめられればと思うんです。とにかく、特訓を通して彼女のそばにいられるような人間に近づけたら、って。なので、どうかよろしくお願いします』
 職員は一抹の不安を覚えながらも、静かにほほ笑む。
「さてと。依頼として承ったことですし、彼を鍛えてくれる子を探すとしましょうか」

●噂の彼女
 山内ユウコは撃退士である以上、強さが必要不可欠だと考えている。だから日々の鍛練はもちろん、天魔が起こした事件を調べたり、その対応を勉強したり……。とにかく毎日、ほとんどの時間を実力を磨くために費やしていた。
「よくそこまで頑張れるな」なんて言われることもある。だが、自分はまだまだ弱い。もっと精進しなくてはいけない。
 遊びに行く約束をしたり、かわいいグッズの情報交換をしたり、そんな何気ないやりとりに憧れないわけではない。もちろん、年頃の娘らしく、恋にだって興味がある。
 だけど、とユウコは思う。自分のように勇ましい女を好きになる物好きはいないだろう。だから、このままでいい。
 ユウコは、自分が普通の女の子のような青春を送ることはないと確信していた。そう、信じて疑わなかった。


リプレイ本文

●集結、恋の伝道師!
 依頼をうけた撃退士たちは、それぞれの育成方針を固めていた。
 仁良井 叶伊(ja0618)は顎に手をあて、「うむ……」と考えをまとめる。
「要するに基礎から鍛えてくれという事ですか。見た目の強さと戦闘での強さは別物であって、かつ戦闘の強さとは『殺しの技術』の強さである事は説明するまでも無い……のですが、此処では依頼を考えて基礎的な事が出来る様にしたいですね。まあ、師匠の受け売りで悪いですが……。私は戦闘知識と基礎体力を担当したいかと……」
「女の子に好かれたいから強くなりたいってのは……俺はあんまりそういう不純なの好きじゃないけど、まあ一般的な青少年ってやつは動機付けって単純だよね……。俺は肉体的な鍛錬も重要なんだけど、精神的な成長と知識が大事だって事は今回の件で学んで活かすよう誘導していく所存だよ」
 天羽 伊都(jb2199)の言葉に、雫(ja1894)もこくりと頷いた。
「動機は兎も角、前に進もうとする気持ちは良い事だと思いますね。私も自身の経験を元に戦闘知識を教えようと思います」
 佐藤 としお(ja2489)、浪風 悠人(ja3452)も彼らと同様、基礎を元に戦闘知識等の技術を叩き込む予定だと告げる。一方で、雁鉄 静寂(jb3365)だけは別行動する旨を説明した。
「突然告白されても普通なら引きますし困りますよね。わたしは山内さんの心の準備をしておこうと思います」
 特訓は日曜からはじまり、その後は各曜日の放課後に実施。一巡した後は状況に応じて行う形にしようと決まると、木下の特訓が始まるのだった。


●はじまり、はじまり
「恋する乙女はって……あ、男の子だったね?」
 トップバッターを務めるのはとしおだ。
「さて、先ずは基礎作りから始めようじゃない。規則正しい生活はしてる?」
 ぎくり。身体をこわばらせた木下に、としおはリラックスするよう促す。
「別に朝型夜型どちらでもいいけど不規則は良くないよ。体内時計が狂うといい事は無いからね」
 一息おいて、さらに続ける。
「他にも毎日走って体力を作らないと訓練についていけないよ。腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワット等々、基礎体力に含まれるからね? それと知識も大切。もしかしたら実技が苦手ならこっちを極めてみれば? そういった面でユウコさんをサポートする事も出来るかもよ!?」
「一挙両得だね!」と笑みを浮かべるとしおに、木下は気持ちが明るくなるのがわかった。まあ、勉強も苦手だからどうしたものかとも思ったのだけど。
「あの、女の子らしい一面をくすぐるような何かを知りませんか?」
 木下の質問に、としおは少し考えたあと、こう言った。
「1ほめ2おし3ムード、かな? それと、ユウコさんにあったら毎日必ず何でもいいから褒める事。自分から積極的に声を掛けて行くことで彼女に特別感をもってもらおう。でも、ともかく自分を覚えてもらわないとね。日々のランニングのルートをユウコさんに合わせて自然に挨拶から始めてみたり……なんてどうかな?」
 木下の頭に、「お弁当作ってきたよ」なんていう甘酸っぱいイベントが浮かんだ。が、すぐにがっくりと肩を落とす。
(そもそもついていけないよな……)
 自信をもてないような木下に、としおはこう声をかけた。
「さて、とにかく基礎が出来てないと何にも出来ないからね。先ずは基礎を徹底的に洗い直して鍛えなおしましょう!」
「はいっ」
「それと。挫けそうになったら頑張ってるユウコさんを見て挫けてる自分と照らし合わせて、彼女に見合うかどうか自分の心に問いかけてみて」
 その言葉は、木下の胸をじわりと熱くさせるのだった。


●練習狂の歌
 次に現れたのは叶伊だ。
「戦闘での役割とか基本的な動き方とかの基本的な事のおさらいから初めて、その中で基本的な意識の使い方を教えます」
 準備体操とストレッチを終えた木下に、叶伊はこう告げた。
「まずは……走る事ですね……」
「走る、ですか?」
「はい。私もこの体格での機動の為に体を壊さない為に念入りに走りこんでますが、ただ走るだけではなくジグザグにとか、ダッシュしたり、たまに止まったり、飛び越したりと……」
 ハードな要求に木下は目の前が暗くなったような気がしたが、きっとこれが撃退士の正しい訓練なのだろうと思い直す。
(本格的にやると心と体を折りかねないので本当に基本的な所から呼吸を見ながらですね)
 木下の動きを見ながら、自身の経験談を交え指導を入れた結果、木下はなんとかノルマを達成した。小鹿のようにぷるぷると震えていたが、やる気は衰えていないようだ。それを確認した叶伊は、「次は筋力強化を目指しましょう。……地味ですが」と次の指示をだした。
 体幹から外に向けて、丁寧に負荷をかけることで、よい筋肉を身に着けることができる。筋肉の破壊と再生を考え、バランスよく。
 そして、もう少しで限界だろうというあたりで切り上げ、戦闘の知識を教えることに専念する。
(特に戦闘での脅威度の計り方は丁寧に……動くものは脅威であり、その次に近いものですかね)
 頭の中で考えをまとめながら、木下にもわかるよう教えていく。
「原則としては『視野は広く、心は静かに』ですね 」
 そんな言葉で締めると、木下は「ありがとうございました!」とお礼を言って、帰路へと着いた。足は相変わらず情けないことになっていたけれど、最後まで逃げずに乗り切った達成感を味わう。
(まあ、実戦練習の為に余力を残したいかと……あっちは下手すると訓練で死にますからね)
 叶伊の考えを知らないまま、木下は帰っていく。オレ、もしかしてイケてるんじゃない? なんて、かりそめにすぎない自信を持ちながら。
 とっぷりと日が暮れた頃、一日目の特訓も終了したのであった。


●頼りがいのある後輩
 まずは火力の集中と、自分が駒として浮かないよう戦闘時に工夫できる力、考え方について教える。これが実践できるようになれば、自然と頼られる存在になるんじゃないかな。
 伊都はそんな考えの元、木下の指導にあたっていた。「ちょっと説教っぽくなるだろうけど勘弁ね!」と前置きし、しかしわかりやすいよう言葉を選びながら。
「天魔との戦いで気をつけるというか、まあ基本的には俺達撃退士は個で天魔と比較すると劣ってしまう事の方が多いのでどうしても複数で対処して戦っていかざるを得ない部分は多いよね。そうすると味方との連携が必須になってくるし、実際連携どうするのかって話になると、同じ敵に手数が集中して火力を圧倒させるって事に尽きるよね」
 伊都の話を聴きながら、木下は必死に手を動かしていた。後輩に教えられてるなんて気にしている場合じゃない。
「ここまででなにか質問はある?」
「えーっと……複数人で敵に攻撃する時、どうしたらうまく位置どりができるでしょうか……?」
「視野を広く持つ、仲間の動きを予測する、自分の力を理解しその場に適した攻撃を出す、とかいろいろあるよ。そこらへんは実戦……演習で慣れるのが一番じゃない?」
 伊都のもっともすぎる答えに、木下は「そうですよね」と力なく返すしかなかった。
「天魔との戦いは命がけ。楽に強くなれるわけないし、その場限りの力を身に着けたって意味がないよね」
 そうだ、その場限りの力なんて意味がない。再びやる気を取り戻した木下に、伊都は懇切丁寧に話を聞かせた。
 そして、すっかり日が暮れた頃、「今日はこれで終わり」と終了が告げられた。
「撃退士は肉体的な鍛錬はもちろん、精神的な成長と知識が必要なのはわかってもらえた?」
「はい、それはもう。これからも頑張ります!」
 どこかぐったりとしながら、けれど瞳には力強い光がある。その光が明日以降の特訓で消えなければいいけれど、なんて考えながら、伊都は帰路につくのだった。
 二日目の特訓、終了である。


●ひっそりと
(可愛いもの好きで筋骨隆々な少女ですか。きっとコンプレックスもありますよね)
 静寂は唯一、ユウコとの接触を図っていた。有名なケーキバイキングの情報を手に入れ、ユウコが出ている授業の演習に参加し声をかける。
「すごいですね。お名前をお聞きしても?」
 山内さんと同性同士でデートして、心の準備をしてもらおう。
 静寂の作戦も、密かに、けれど確実に動きだしていた。


●いよいよ、実践
 伊都の後を継いだのは雫だ。
「まず、最初に自身の力を把握して下さい。何が出来て何が出来ないのか、これを理解していないとどれ程訓練をしても実戦ではお荷物になりますから」
「……はい……」
「木下さんのジョブ特性はグッドもしくはバッドステータスの付与と考えて、どの様な場面で何を付与させるかを理解していきましょう。相手が魔法攻撃を中心に編成されているのに鉄壁や見切りを付与させても意味が薄いですからね」
 雫は能力の使い方や自身の経験を元にした戦闘の基礎知識をみっちりと教え込むと、「タッグ戦を行いましょう」と提案した。木下の口から何かが抜けているのは気のせいだろう。
 としお、叶伊の協力の元行われた実戦は、それはもうすごかった。何がとは言えないけど。だって覚えてないもの。

「グッドステータスを付与させる時は、タイミングに注意して下さい。効果時間を考えて先走りには注意を」
「バッドステータスの時は、相手を観察して何をメインに使うのか、形状から何が無効化されるか良く考察してから付与させて下さい」

 なんて返事をしたかも覚えていない。気付いたら終わっていて、地面につっぷしていた。
 木下はじわりと瞳を潤ませる。つい昨日までの自信がとんでもない思い違いだったと自覚だったのだ。
「木下さんは、御世辞にも相手を倒す力が強いとは言えませんが専攻であるアカシックレコーダーの力を理解して確りと運用すれば十分強いと思います」
 木下が落ち込んでいるのを察した雫は、さりげなくフォローを入れる。「それと」と続ける。
「同じ女性として言わして貰えれば、力が強いだけの男性よりも弱気になった時に寄り添って支えてくれる強さを持った人の方が好感は持てます」
 戦闘面以外でも意見をくれる雫にときめきそうになったのは、仕方がないと思う。
 濃密な時間だった……なんてぼんやり考えながら、木下は眠りにつく。


●激しい時間
「あまり偉そうな事は言えませんが、僕で良ければお相手しましょう」
 やわらかな笑みを浮かべた悠人にほっとしたのは、ほんのわずかな時間だけだった。
「今日まで座学が多かったという話ですので、僕は戦闘に関して踏み込んで指導しようと思います」
 悠人は木下に得物であるナイフをとるように言うと、自身を相手にどこまで動けるかをまず確認した。武器の構えから攻撃後まで、一連の動作を見る。
「武器は自分が動かしやすい、力を発揮しやすい持ち方を心掛けてください。戦いながら、弱点である死角や傷口、急所等に狙いを定められるようになるといいですね」
 涼しい顔で木下の攻撃をいなす悠人に、木下は必至でついていく。
「間合いや踏み込みは敵と自分の得物で有利に打ち合える距離を意識してください。そして大事なのは攻撃に満足せず、敵の攻撃に備えて避けるなり受けるなりの意識の切り替えです。現状、木下さんは攻撃にだけ意識が向いてしまいがちなようですので」
 悠人の一撃をうけ、木下が動きをとめる。息が荒い。一度休憩をはさんだ方がいいだろう。
 休憩がてら、悠人は女の子と行くのにオススメのお店……スイーツ店やグッズショップを教え、妻帯者としてレディとの接し方を伝授する。
 そして、ほどよく身体が復活した頃。
「最後に、実践形式の模擬戦をしましょう」
 悠人は鋭い光を瞳に宿し、木下と向き合った。
 先ほどの訓練で、力の差は知っていた。だが、ここでやめるなんて嫌だ。
「う……おりゃあっ!」
 魔具を振るう。だが、悠人は難なくシールドで緊急活性化したゼルクで受け止め、神速を使用した一撃を放つ!
「げほっ」
 木下は息を詰まらせながらも立ち向かう。しかし、がくりと。ほどなくして、木下がひざをついた。
「はじめに比べ、随分動きがよくなっていました。このまま精進すれば強くなれますよ」
 木下をそう励まし、悠人はそのままさばけていった。教えられることは教えた、と無事行動を起こせればいいがという思いは、しっかりと木下に届いており――
「……明日、ユウコちゃんに告白する!」
 そう、決意をしたのだった。


●決着の日
「息抜きも必要です。甘いものでも一緒に食べませんか?」
 演習を終えた静寂は、ユウコとともにケーキバイキングを訪れていた。
「休みの日は何をしているんですか?」
「特訓や勉強をしてます。けど、料理が好きなので、食べたいものを作ったり……」
「すごいです! 色々作れるなんて尊敬です!」
 カロリーを計算しながらも、ガールズトークに花を咲かせる。その流れで、さりげなく男性の好みの話へと誘導していく。
「山内さんは、どんな男性が好みなんですか?」
「強い人、ですかね」
「強い男って、やっぱり心の強さや包容力ですか?」
「……そうですね。力があっても、心が強くなければ押しつぶされてしまいますから」
 きっちりとリサーチをしつつ、「腹ごなしに」とショッピングへ誘う。
(彼女の体型を出来るだけカバーする、可愛い服を見立てましょう)
 だが、ユウコはあまり服屋に寄りたくないようだった。体型を気にしているのだろうか。
「山内さんは十分女性として魅力的ですよ」
 それでも乗り気になれないユウコに、静寂は腕の見せ所だと気合いを入れる。
「黒のワンピオンワンピなんてどうでしょう?  アクセントカラーにベージュを挿して締める所を締めれば女らしくなりますよ。銀のアクセも合わせましょうか。……いいですね。似合っていますよ」
 ユウコは困惑していたが、満更でもないようだ。
 木下たっての願いで特訓を続けている仲間に連絡を入れると、木下が告白する気になったとかえってきた。いよいよですね、と思いながら静寂は口を開く。
「実はあなたを好きな人がいます。強い意志と粘り強さを持つ男性に興味はありませんか?」
「私を……?」
 信じられないというユウコに、「本当です」と返した。嫌がっているわけではなさそうだと判断し、木下にすぐ来るよう言う。
「来ましたね。では、ちょっと席を外しますね」
 静寂は距離をおき、二人の様子を観察する。そして――

「ユウコちゃんのことが好きです! お友達からよろしくお願いします!!」

 ――微妙に謙虚な告白があったと、仲間に連絡したのだった。


●放課後
 その数日後。
 正直こんなに人が集まってくれるとは思ってませんでした。そんな言葉から始まるお礼の手紙が、協力者の元に届けられた。
 同時に困惑を隠し切れないユウコとともにトレーニングに励む木下の姿が見られるようになり、依頼を遂行した面々は口元を緩めることになるのだった。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: ラーメン王・佐藤 としお(ja2489)
 朧雪を掴む・雁鉄 静寂(jb3365)
重体: −
面白かった!:6人

撃退士・
仁良井 叶伊(ja0618)

大学部4年5組 男 ルインズブレイド
歴戦の戦姫・
不破 雫(ja1894)

中等部2年1組 女 阿修羅
ラーメン王・
佐藤 としお(ja2489)

卒業 男 インフィルトレイター
おかん・
浪風 悠人(ja3452)

卒業 男 ルインズブレイド
黒焔の牙爪・
天羽 伊都(jb2199)

大学部1年128組 男 ルインズブレイド
朧雪を掴む・
雁鉄 静寂(jb3365)

卒業 女 ナイトウォーカー