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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:8人
サポート:3人
リプレイ完成日時:2013/05/20


みんなの思い出



オープニング

●高競争率!

 別に、学園一番のイケメンでも、生徒会長や運動部のヒーローでもない。
 王子様系でもないし、ちょいワル系でもない。
 普通で普通で普通すぎるのに、何故あの人はあんなにモテるんだろう?
 平均的普通少女、二宮愛花(にのみやあいか)は毎日ため息の日々だった。
 高等部に入って早々、好きになったのは、どこのクラスにも一人はいそうな普通男子だった。
 顔はまぁまぁ、程々に優しく、そこそこユーモアもある、友人も普通にいる、勉強も中の中の上程度、運動は平均的、取り立ててこれというポイントはない。
 ただ、なんとなく「いい感じの人」だった。
 話しかければ、きらめきはしないが普通の笑顔で応えてくれる。
 うっかりぶつかれば、バラは背負わないがきちんと謝ってくれる。
 落し物を拾ってあげれば、ウインクはしないが真面目にお礼を言ってくれる。
 愛花は平均的普通少女だったから、高嶺の花に恋はしない方だった。分相応を心得ているというか、無理はしない性分というか。
 しかしそんな彼女が好きになった普通男子、吉野誠(よしのまこと)は普通のくせに何故か非常にモテた。モテるように見えた。
 愛花自身、自分が好きになっておいて何だが、そこまで彼がモテる理由がわからなかった。
 何故モテるとわかったのかというと、先日彼の誕生日があったからである。
 新しいクラスになって間もないのに女子は吉野の誕生日を知っており、数名の女生徒がプレゼントを渡しているのを見た。
 直接見ていないのも含めれば、多分「モテる」の範囲に入るのではないだろうか?
 今どき「三高」とかは死語だし、「イケメン」の基準もあやふやだ。
 普通男子が普通にモテてもおかしくはないのだが、なんだか納得がいかない。
 自分が手の届かない高値の花に恋をしてしまったのだろうかと、つい自分を貶めてしまって気が滅入るのだった。
 愛花は当日まで吉野の誕生日を知らなかったし、もちろん知っていたとしてもプレゼントなどするわけもない。というか、こんなに誕生日が早いなんて反則だと、妙な八つ当たりをしてしまう。
 幸い誰も吉野に告白したわけではないようで、カップル成立の噂は聞かないのが何よりの幸運だった。
 それでも愛花は気が気でない。果たして自分が告白する下準備をするまでの結構な期間に、誰かが彼に告白してうまくいったりはしないだろうか?
 そう思うと気持ちは焦るばかりで、毎日吉野を見るだけで憂鬱になってくるのだった。



●恋愛相談

 愛花は高等部に入ったばかりで、現在はフリーだが、今までに二人の男子と付き合ったことがある。
 自慢ではないが、どちらも向こうから告白された。
 特に取り上げるものもない平均的普通少女の愛花だが、普通以下ではなかったので、普通の男子生徒と普通に付き合った。楽しかったけれど、どちらも自然消滅のような感じで終わってしまったが。
 高等部になったのだから、もっとちゃんとした恋をしたい!
 それが愛花のこの一年の目標でもあった。もちろん勉強も実技も頑張るつもりだが。
 クラスメイトの友人に相談しようと思ったのだが、現状だと誰が密かにライバル候補になっているとも知れない。愛花が吉野を好きだと噂になっても困る。
 そこで年上の友人である、大学部の少女Yに相談することにした。あの人に相談したら、きっと面白がられるだろうなぁ、とは思いながら。
「じゃ、協力してもらおうよ」
 いともあっさりと、この年上の友人はのたまった。
「いやぁ、私って非リア充だからさぁ、そういう方面って疎いのよねー。コレもボンクラだし、役に立たなさそうでしょ?」
 コレ、と親指で指した方向には少年Tがいる。「失敬な」という表情をしているが、このような扱いには慣れているのか、無言で読んでいた本に目を落とした。
「で、でも、みんなにバレたら困るし、この恋絶対叶えたいの! 冗談で言ってるんじゃないんだよ?」
 さすがに愛花も危機感を持ったのか、焦って少女Yを止める。
 多分少年Tは「もう遅いですよ」と思っているはずだ。
「そこはそれ、撃退士たるもの、口が堅くないと一人前とは言えないでしょ」
「ううう、それでもどこかから漏れたりしたら、私もう学園に来れないよ」
「不登校の原因になりたくはないなぁ。そこはうまくやってもらおうね」
 愛花の心配とは裏腹に、少女Yの中では計画は進行しているようだ。
「その吉野くんとはどれくらい仲いいの?」
 いつの間にかメモを片手にしている少女Yが訊ねてくる。
「普通にクラスメイトだよ。他の子と同じくらいは話すし、席が近いからシャーペン貸してあげたこともあるよ」
「すごいじゃん! このリア充が!」
 シャーペン貸したくらいでそこまで言われたくなかったが、愛花は黙っていた。
「じゃあさ、吉野くんにプレゼントあげた子ってどういうタイプ?」
「んー、普通だよ? ギャルでもないし、委員長でもないし、一般的なクラスメイトだったから私もびっくりしたの。自分からプレゼントするようなタイプじゃないっていうか」
「愛花ちゃんとそう変わらないってことね」
 余計なことを言う。
「じゃあ吉野くんもあんまり深く受け取ってないんじゃないかな?」
 見かねた少年Tが、本から顔をあげてそう言った。
「え?」
「カップルになったって話もないみたいだし、普通に誕生日って聞いたからあげただけで、彼女たちは実は他に好きな子がいて、その本命の子が誕生日の時に気軽にあげられるように、取り敢えず吉野くんにあげてみただけとか」
「予行演習ってこと?」
 愛花が不思議そうに言うと、同時に少女Yも言った。
「本命の時に『べ、別にあんたにしかあげないわけじゃないんだからねっ!』ってこと?」
「あなたの思考は間違ってますが、まぁそういうことでもあるかも知れませんね」
 ほほうと二人の恋愛に未熟な女子は頷く。
「やっぱり男性の意見は参考になります」
 愛花はほっとしたのも束の間、少女Yが早速愛花に吉野の性格やら経歴やらを質問してきた。
 わかる範囲で答えたものの、それで斡旋書にチラシが貼られることになるとは思いもしなかった。
『求厶! この恋応援してください!』なんていう恥ずかしい依頼を見たが、それが自分のことだとは思いもしなかったのだ。


リプレイ本文

●前準備

 ベルメイル(jb2483)と袋井雅人(jb1469)は、放課後に剣道部の練習を見に来ていた。
 吉野が剣道部ということなので、近距離戦の訓練に付き合って欲しいという口実で依頼に誘い出す計画だ。
 幸い練習はもう終わりのようで、部員たちは片付けに入っていた。間もなく体育館を出る様子だ。
 そこへ二人はさりげなく一人になった吉野に近付いて行った。
「あの、そこの君、吉野君というのかな?」
 胸に貼った手書きのネームプレートを読みながら、ベルメイルが声を掛ける。
 なるほど、まったくもって普通だ。最後の方だけ練習を見ていたが、突出して上手でもなく、足を引っ張ることもない。
 見た目もさっぱりしたショートカットの黒髪、きょとんとして初めて見る顔にやや不安げな色を見せるところも一般的な反応だ。
 個性がなくて目立たないことを気にしている袋井でさえ、「普通だ」と思ってしまう。
「急にすまないね。俺は大学部3年のベルメイルという。俺のジョブはインフィルトレイターでね。遠距離攻撃がメインではあるが、近距離戦も心得があった方が良いと思っているんだよ。もし良ければ少し稽古を付けてもらえないだろうかと思って、先程から剣道部の練習を見せてもらっていたんだが……」
 怪しい勧誘ではないと判断したのか、先輩に対して吉野はにっこり笑った。
「僕なんかで役に立つかどうか……見た通り、剣道もさして上手くないですし」
 そこへ袋井が後押しをする。
「僕は高等部2年の袋井雅人。東北で大規模戦があるので今のうちに少しでも自分を鍛えておきたいのです。知り合いはみんな忙しくて予定が合わないので、新たに仲間を探しているのですが、協力願えないでしょうか?」
 優しげな印象の袋井にそう言われて、確かに訓練は必要だなと思う。
「じゃあ、僕でよかったら。いつやるんですか?」
(乗った!)
 二人は心のなかで親指を立てながらお互いを見合った。
「今度の土曜の午前中は空いてるかい? ちょうど午後から依頼が入っていて、よければそちらにも同行してもらえると助かるんだけれど」
 ベルメイルがさりげなく依頼の同行まで誘いにかかる。袋井も印象のいい笑顔でにっこりする。ベルメイルが天使の微笑みを使うまでもなく、善良な吉野は頷いた。
「了解です。依頼ってことは、他にも誰か?」
「ええ、依頼には女性も同行します。ちょっとした校内の見回りなんで、そう気張ることはないですよ」
 袋井の言葉に時間と待ち合わせ場所を確認して、あっさりと吉野の勧誘に成功した二人だった。

「愛花ちゃんはっけ────ん!!」
 廊下を歩いていたら、いきなり見知らぬ少女に拉致ら……手を引っ張って行かれた。
「えっ? えっ?」
 わけもわからず、悪意を感じなかったので素直に駆け足でついていく。
 階段を駆け上がって、息を切らせて着いたのは屋上だった。放課後なので誰もいない。
 瀬波有火(jb5278)と名乗った少女は元気に挨拶し、愛花をきょとんとさせた。
「あ、よろしく」
 愛花も気圧されて挨拶を返す。
 有火は恋愛相談の依頼を見たと愛花に打ち明けたが、その途端愛花は我を忘れて憤怒した。
「先輩ったら! 私で遊ぶなんて酷い! ぐぬぬ」
 そこへ静かに月隠紫苑(ja0991)が現れた。有火が愛花を連れてくるというので、事前に接触しておきたかったのだ。
「私もご一緒させていただきます。高等部3年、月隠紫苑です」
 自分と違って胸の大きな美人を目の前にして、愛花はやや怒りを忘れた。貧乳の少女Yに見せてやりたい。
「先輩も遊びで依頼を出したわけではないと思いますよ。愛花さんの乙女心は私自身もよく分かるので、応援したいと思います」
「そういうわけで、今週の土曜日いいかな? 依頼を一緒に受けて欲しいんだよ。もちろん吉野君も一緒だよ」
「ええええ?!」
 いきなり話がまとまりすぎていて、愛花は驚きと戸惑いを隠せない。
「大丈夫です。いつも通りに話せばいいのですよ」
 紫苑の言葉に有火も続ける。
「吉野君とお話したり挨拶するときに、他の人にする時よりもちょっとだけ気持ちを込めてみるといいよ。ただし露骨にならないようにね。さりげなーくさりげなーく、これが大事だよ」
「う、うん……」
 お人好しの愛花は結局依頼を受けることになるのだった。

「では、この依頼頂きますねぇ……」
 担任の教師から無理矢理依頼を作ってもらった中等部3年の月乃宮恋音(jb1221)は、ほとんど前髪で顔が隠れていながらもほくほくした表情で廊下を歩いていた。
 化学を受け持つ担任から、各学部の化学室の毒物指定されている危険な薬品庫の管理を依頼された。
 勝手に持ちだされないように鍵はもちろんかけてあるが、時々高価な薬品が少なくなっていることがあるらしい。
 悪い研究に使われていてはいけないとかねてから気にしていたのを知っていたので、恋音は依頼を持ちかけたのだった。
「……あとは紫苑さんにピックアップしてもらったカラオケ店を押さえるんですよぉ」
 人数は10人になるはずなので、わざわざ電話をしなくてもスマホで予約ができる。
 人見知りで人と話すのが苦手な恋音には、とても便利なシステムだった。



●訓練と依頼

 土曜日の午前中、ベルメイルと袋井、吉野は夢中で訓練をした。
 本当はあと二名ほど来る予定だったが、急にキャンセルされたことにして、三人での訓練である。
 ルインズブレイドの吉野に合わせ、袋井も近接武器の白虎八角棍で気合を入れて訓練に励む。
 ベルメイルも接近戦の練習ということで、素手で相手の懐に潜り込む訓練に身を費やす。
 口実の割にきちんとした訓練になったのは、吉野に疑問視させないためでもあったが、何より吉野自身が真剣だったからだ。
 根は真面目なようである。ベルメイルは心の中にメモした。フラグが立つ役に立てばいいのだが。

 昼食後、「お待たせしましたー」と駆け寄ってくる少女がいた。
 中等部2年の夏木夕乃(ja9092)だ。見回りの依頼ということで、ビシっと制服を着こなしており、武器を携帯している。本格的だ。
 そこへ依頼に同行する高等部3年の平良沙夢(jb3716)と、大学部2年の嶌谷ルミ(jb1565)が合流する。有火と紫苑、恋音と愛花も無事合流し、自己紹介を済ませたところ、吉野が「あれ?」と言った。
「二宮も一緒なんだ? 偶然だなぁ」
「よっ、吉野くんもなんだ? ぐっうぜんだねぇ」
 あくまで偶然を装う愛花に、沙夢は後押しをする。
「あれれ? お二人さんは知り合いなの?」
「ああ、クラスメイトだよ」
 『クラスメイト』の言葉にややがっかりしながらも、愛花は吉野がすぐに自分に気付いてくれたことを嬉しく思う。
「それじゃあ学部で分けましょうか? 全員で回ると時間もかかるし」
 ルミの提案で、大学部は遠いので男子三人、高等部は愛花と有火と紫苑とルミ、中等部は恋音と夕乃と沙夢ということになった。劇薬はそこにしか置いていないのである。

 中等部の化学室を一応建前だけ確認しながら、三人は女子トークに花を咲かせている。
「平良さんってもう結婚してるんですねー。素敵です」
 沙夢の話を聞いて夕乃は心底驚いている。
「で、月乃宮さんは袋井さんにラブ、かな?」
 いきなり図星を突かれて、恋音はわたわたする。それだけでもう肯定と同じだ。
「何故……わかってしまうのでしょうねぇ……?」
「だって、同じクラブでしょ? さっきも仲良さそうだったし。気づいてないのは本人だけかもです。ところでラブコメ推進部ってどんな活動を──」
 楽しげな女子トークは続く。

「こんな依頼まで頼んじゃって、ホントに申し訳ないです」
 恐縮する愛花を、ルミはなだめる。
「みんな愛花さんの恋を応援したいだけですよ。それにこの見回り依頼は本物です。日常に紛れた天魔の動きを察するのに重要なこと。仕事は仕事でしょう?」
「出来ることからでいいんです。少しずつ、今の気持ちを大切にして恐れずに進んでください」
 紫苑も優しく声を掛ける。もちろん、高等部の化学室のチェックは念入りに行う。
 有火は珍しく真面目に声を掛ける。
「大事なのはね、本気だからって急がないことかな。恋人同士になるまでが早いと、別れちゃうのも早いって言うしね。ゆっくりと、少しずつ距離を埋めるように、片思いの時間も楽しめるように、ね?」
「うん、ありがとう」
 愛花はあまりに親身になってくれる、会ってまだ時間の浅い仲間に励まされる。少女Yとは大違いだ。
「恋は焦らないことが重要です。好きなアクセに洋服、香水やネイルを身に纏うのは乙女のお守り。自信が芽生えると女はキレイになれるでしょう? 卑屈にならない事が重要なんです、また話してみたい、と興味を抱いてもらえる様にね」
 にっこりと笑う、ロップイヤーのフードをかぶった可愛らしいルミを見ていると、本当にそうだなぁと愛花は思える。

「ところで吉野君、袋井君……この学園は可愛い子が多いと思わないかい。例えば今回のメンバーだったら誰がタイプだい?」
 大学部の化学室の点検を終えたベルメイルは、廊下を歩きながら男子トークを始めた。
「え? いやぁ、そんな……」
 照れる吉野にベルメイルはダメを押す。
「恥ずかしがるなよ、折角の学生だ。こういう甘酸っぱさも未来を作るフラグなのさ」
「フラグ……立つといいですねぇ……」
 袋井はぼんやりと呟く。
「これでもラブコメ推進部の部長なんですが」
「へぇー? ラブコメ推進部って一体どんな活動を──?」
 校門まで男子トークは続く。



●打ち上げと称して

「お疲れ様でーす!」
 既に校門に到着していた女性陣に迎えられた男子三人は、「遅くなってごめん」と言って駆け足で合流した。
「よっし、打ち上げだ、やろうども! パーッとやろうぜー!」
 夕乃の盛り上がる言葉に、みんなは乗りで「おー!」と手を挙げる。遅れて愛花も手を挙げる。それを見て吉野も手を挙げた。よっし!
「紫苑さんが教えてくれたカラオケのお店を予約しておいたのですよぉ……」
 恋音が言った行き先がカラオケと聞いて、歌に自信のない愛花は焦ったが、音楽好きな吉野は乗り気なようだった。ここは吉野の好みを知るためにもついていくべきだろう。

 夕乃は受付で無料で貸してくれるという、タンバリンとマラカスを受け取った。案内された番号の部屋に飛び込んで行く。
「あ、月乃宮さん、隣おいでよ〜」
「私、その隣〜」
 手を挙げて沙夢は席に着く。その隣にルミ、有火、紫苑、愛花と続く。そこへベルメイルが吉野の背を押し、「先に入ってくれないかい?」とまんまと愛花の隣に座らせることに成功した。その後へ袋井が入り、ドアを締める。
「ひゃっはー! 一番最初に歌うのはあたしだー!」
 有火が早速曲を入れる。最近久遠ヶ原で話題の『瞬間エナジー』だ。
「おっ、いい選曲ですねー」
 袋井もノリノリで前のめりになる。
 賑やかな音楽の合間に夕乃はタンバリンを鳴らし、恋音にマラカスを渡す。
「袋井君はどんな歌を歌うの?」
 恋音のために、沙夢は聞く。
「最後にみんなで『久遠ヶ原学園校歌』とか熱唱したいです!」
 吉野に劣らず普通だと思いつつ、恋音は一緒に歌えるだけでも嬉しく思うのだった。
「注文しますが、みなさん、食べたいものありますか?」
 紫苑の呼びかけに、メニューが回される。全員で見れないので、三人と三人と四人に分かれてメニューを見る。敢えて愛花を男性陣の見るメニューの方に回したのは、ルミがメニューを引っ張って見えにくくしたせいだ。
(ごめんやで愛花ちゃん。頑張って)
 男性陣は愛花に優先的にメニューを見せてくれる。注文は紫苑が部屋にあったタッチパネルで入力していく。
「吉野くんは何食べる?」
 愛花は勇気を出して声を掛ける。
「ラーメン食べたいなぁ。やっぱりとんこつかなぁ」
「俺達、主人公の親友ポジっぽいと思わないかい袋井君……」
 吉野たちには聞こえないように、ベルメイルがぽろりと呟いた。
 実は袋井にもフラグが立っていたのだったが、本人は気づかない。

 ひと通り全員で歌い、話した後、呼び出しのインターホンが鳴った。
『お楽しみのところ誠に失礼致します』
 どうやら終了まであと10分らしい。延長を遠慮して、最後に袋井の希望通り、『久遠ヶ原学園校歌』を全員で熱唱した。
 それから沙夢がメールアドレスの交換を言い出す。
「なんていうか、今日限りの依頼仲間って以上に、お友達として。折角出会えたんだしね♪」
 そうして、スマホ同士をぶつけたり、赤外線を使ったりして、全員がお互いのメールアドレスを交換した。
「交換したってことは、いつでもメールしていいってことなの」
 ルミの言葉に、ここからフラグが立つかも知れないと内心ガッツポーズをするベルメイル、その台詞を口実に袋井にメールしたい恋音、「お友達として」に喜ぶ愛花と、様々だった。

 会計に向かう途中で沙夢が愛花に耳打ちする。
「しかし特定の相手がいないっていうことは、逆に言えば幾らでもチャンスがあるってことでもあるよね。諦めないことが肝心だよ」
 結局吉野には好きな女の子がいないとベルメイルから聞き、安心したところだ。
「女の子らしさを磨くのも勿論大切だけど、彼との距離感を縮める努力も必要。吉野君、英語が苦手みたいだからそれをきっかけにするとか。愛花ちゃんが得意なら教えてもいいし、苦手なら一緒に勉強しない? とかね。どんな恋でもまずは一歩から。焦って階段を飛ばすのは怪我する元だよ。私も旦那様とは色々あったし……(ぽっ)」
 16歳で人妻になった沙夢は頬を赤らめてアドバイスをしてくれた。
 紫苑も小声で言う。
「命短し恋せよ、乙女〜ですよ〜」
「……そのぉ……。……多少、お気持ちはわかります、頑張って下さい……」
 恥ずかしそうに恋音も伝える。心のなかに袋井を想いながら。
「愛花さん、吉野さんがさっきの曲のCD貸してくれるって言ってました。愛花さんの次にまわしてくださいねー」
 夕乃もいつの間にか間を取り持ってくれている。
 一回依頼を共にしただけなのに、こんなにもみんなは自分を思ってくれている。これが斡旋所に出されていた依頼だったとしても、他人の恋にここまで懸命になってくれるなんて、涙が出そうだった。
「みなさん……今日は本当にありがとうございました。
 吉野にはわからなかったが、他の八人はにっこりと頷いてくれた。
(愛花さん頑張れー!)
 袋井は心の中で全力で応援する。カラオケでも恋の応援歌を歌ったつもりだった。
「吉野君、また訓練に付き合ってくれるかい?」
 ベルメイルは女子ではなく吉野に聞く。
「はい、僕も勉強になります。よろしくお願いします」
 そうしてこの依頼と打ち上げは解散となった。

 翌週、愛花が嬉々として吉野のメアドゲットを少女Yに報告に行くと、にんまりして依頼料をせしめられることをこの時の幸せな愛花はまだ知らない。


依頼結果

依頼成功度:大成功
MVP: フラグの立たない天使・ベルメイル(jb2483)
重体: −
面白かった!:4人

翻弄の新月・
月隠 紫苑(ja0991)

大学部5年308組 女 阿修羅
撃退士・
夏木 夕乃(ja9092)

大学部1年277組 女 ダアト
大祭神乳神様・
月乃宮 恋音(jb1221)

大学部2年2組 女 ダアト
ラブコメ仮面・
袋井 雅人(jb1469)

大学部4年2組 男 ナイトウォーカー
迎え火に故人を想う・
嶌谷 ルミ(jb1565)

大学部7年243組 女 陰陽師
フラグの立たない天使・
ベルメイル(jb2483)

大学部8年227組 男 インフィルトレイター
若き人妻・
平良・沙夢(jb3716)

大学部5年192組 女 ダアト
バイオアルカ・
瀬波 有火(jb5278)

大学部2年3組 女 阿修羅