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マスター:桜井直樹
シナリオ形態:ショート
難易度:普通
参加人数:6人
サポート:1人
リプレイ完成日時:2015/02/11


みんなの思い出



オープニング

●御神木に非ず

 とある山中に、突如巨大な樹が出現したという。初めは巨大な実が五つ付いていたようだ。
 そこはほぼ山の山頂で、周囲には小さな集落が点在していた。
 最初は御神木の出現かと地元の人々は崇めていたらしい。
 ところが信心深い老人が、縄を付けようとその樹に近付いたところ、数メートル手前から先には進めなかったという。まるでバリアでも張られているかのように。
 不可思議に思った地元の人々は役所に相談し、念のため久遠ヶ原から調査員を送ってもらうことにした。
 すぐに二名の撃退士がやって来て、樹の様子を見てみる。一見、普通の大樹と変わったところはないが、確かに樹の根元の地面には、まるで魔法陣のようなものが描かれていて、数メートル手前から先には進めなかった。
「これは、植物型のディアボロでは?」
 撃退士たちは一旦距離を取り、住人も遠くに引き離してから、根本に向けて爆破攻撃を仕掛けてみた。すると、ゴゴゴと地鳴りがし、巨大な実の一つが飛んだ。その瞬間にも、もう一人の撃退士が一太刀薙ぎ払う。
 実が飛ばされた距離は、その時は五十メートル程度だったが、着地点の周囲はクレーターのようになっている。
 それは大人が三人がかりでようやく届くような周囲の大きさで、重さは何人がかりでも持ち上げられない程だった。
「やべぇ、こいつやっぱりディアボロだ!」
 撃退士がさらに銃や弓で攻撃を仕掛けるが、しゅるしゅると細い幹が触手のように伸び、時には枝が矢のような鋭い形状になって飛び出してきた。二人ではどうにもいかない。
「一旦引く! 増援して戻ろう!」
 二人の撃退士の判断では、こちらから攻撃しない限り、大樹は動かないようだ。
 落ちた実は攻撃してきたりすることはなかったが、そこにあるだけで不気味な形状のものだった。故にまだ手を付けていない。
 実が飛ぶ瞬間を見ていた方の撃退士によると、その一瞬にだけ幹に傷を付けることができたということで、一閃の痕が一筋付いている。回復能力はないようだった。
 その後、集落の住人は、ひとまず被害が及ばないであろう程度の距離にまで避難を済ませた。
 正式な依頼では、この不可思議な樹を伐採して欲しいが、できるだけ集落の建物の被害は抑えて欲しいとのことだった。
 幸い、一番近い建物でも、樹から五百メートルは離れているので、実が飛んで潰されることはなさそうだ。ただ、触手のような細い幹がどこまで伸びるのかはわからない。
 本体の大樹が動くことはないようだったが、根本にある魔法陣のような不思議なもののせいで、直接接触することはできないだろう。隙があるとすれば、巨大な実が飛ぶ瞬間に緩む攻撃と防御のタイミングと見られる。
 残りの実は四つ。果たして大樹型ディアボロは破壊できるだろうか──?


リプレイ本文

●解除

「この樹何の樹気になる樹ってところか?」
 現場に到着し、大樹を眺めながら向坂玲治(ja6214)は呟いた。そこへ、同じようなことを考えていた秋嵐緑(jc1162)も同調する。
「何かのCMですよね」
 しかし、ルナリティス・P・アルコーン(jb2890)は呆れた声で言う。
「いや待て、すぐ気付け住人よ。突然生える樹が天魔以外の何だというのだ……神の奇跡という時代ではあるまいに」
 確かに、突如現れた大樹を御神木と崇めるとは、呑気な集落である。
 片目に眼帯をした少女、狩霧遥(jb6848)は、明るく笑いながら「それほどここは平和だったんでしょうね」と言った。
「まぁ、集落の人が困ってるんだから、早々に排除しないとね」
 結構どうでも良さそうに、出雲楓(jb4473)は一人ごちた。
「まずは様子を見ながら一つ目を落としてみるか」
 龍崎海(ja0565)はじっと大樹を見つめ、動きがないことを確かめた。確かに向こうからの積極的な攻撃はないらしい。
「じゃ、陣形を組むか」
 玲治の声に、撃退士たちはあらかじめ相談しておいた位置についた。
 玲治と海の攻撃組の間に、援護の遥、そして上空からは緑が抵抗の薄さを狙う。ルナリティスは地中からの攻撃を試みる手はずで、出雲は実の飛ぶ方向や大樹の変化を見る監視役を買って出た。
「まず、俺から行かせてもらう!」
 海が宣言し、アウルで作り出した槍を大樹の根本に向かって投擲した。魔法陣の効果によって、槍は弾かれる。しかし、次の瞬間、ゴゴゴ……と地鳴りがした。
「地鳴り! そろそろ飛ぶよ! 上から二番目の実、秋嵐さんの方!」
 言われた緑は、上空から様子を見る。飛んできた実をショットガンで撃ち落とせるか試してみたが、実の威力は衰えない。緑は慌てて横に飛翔して避ける。
 その間に玲治が弓を引き、先程海が攻撃したのと同じ辺りに狙いをつけて放つ。矢が刺さる。
「あんまり上ばっか気にしてると、文字通り足元掬われそうで嫌だな」
 呟きつつ、周囲も気に掛ける。
「流石に地中まで防御する理由は薄かろう……まぁダメでも他の手をとるまでだが」
 次はルナリティスが物質透過の能力を使い、地中に沈み込んで行く。
「様子を見て、一旦知らせる」
 そう言い残し、彼女の身体は地中に消えた。さすがはハーフ天魔である。
 調べてみたところ、地中は魔法陣の効果が届いておらず、攻撃は効きそうに思える。
 ルナリティスは魔法陣のすぐ外で顔を出し、「私がこれから攻撃する!」と宣言した。
「了解!」
 出雲は大樹を注視する。他の撃退士も、どの実がどのタイミングでどちらへ飛ぶのか、しっかり見つめている。
 地中でルナリティスの攻撃が通用したのだろう、もう一度ゴゴゴ……と地鳴りが始まった。
「飛ぶよ! 狩霧さん、龍崎さんの方に少し避けて!」
 言われた遥は、慌てて海の隣に飛ぶ。その間に、抵抗の薄い上空から、緑が大樹の中心を狙ってショットガンを放った。いくつかの枝が破裂する。が、その直後に、他の枝が矢のようになって緑に攻撃を放つ。
 緑は上空高くまで飛翔し、それらの枝は追撃できずに落下した。
「向坂さんの方に矢が落ちるよ!」
 出雲は矢の落下地点を予測して向坂に叫ぶ。
「おっと、りょーかい!」
 玲治は華麗に左側に転がり、六本程の枝の矢を避けた。
「残り二つですね。出雲さん、何か手掛かりは掴めそうですか?」
 遥は監視役の出雲に訊ねる。
「そうだね……飛ぶ実は地鳴りと同時に震えてるから、どれが飛ぶのかはすぐにわかるよ。方向はそんなに変化が効かないみたい。だから多分、あと二つは、最初にルナリティスさんがいた場所と、その左六十度くらいじゃないかな」
「わかった。じゃあ、俺たちは攻撃に徹して問題ないってことかな」
 海が瞬時にアウルディバイドを使用して回復する。
「そうだな、もう少し近付いても良さそうだ。出雲は引き続き監視を頼む」
 玲治はそう言って、大樹に近付いた。確かに魔法陣より先には進めそうにない。
「いいよ」
「私はもう一度、地下からの攻撃を仕掛けてみるが、それで良いか?」
 ぽこっと地中から顔を出したルナリティスが、玲治に向かって訊いた。
「頼んだぜ。その間に俺と龍崎さんで攻撃を仕掛けてみる」
「上は任せてください」
 上空から緑が出雲にサインを出す。
「私は龍崎さんと向坂さんの援護をしますから!」
 遥も二双の直剣を装備し、二人とともに大樹に近付く。
 もう一度ゴゴゴ……と地鳴り。ルナリティスの予想通り、地下は手薄らしく、大きめの攻撃が通じるようだった。
 出雲が言っていたように、三つ目が誰もいない地上に落ちる。その実が飛ぶ瞬間を狙って、海と玲治は二人でアタックを仕掛ける。最初の狙いと同じ箇所を執拗に集中狙いする。
 そこへ幹の触手が二人を絡め取ろうとするかのように伸びてきた。遥が双剣モラルタ・ベガルタで切り落としていく。
「私も行きますよ」
 上空から緑が最後の実を落とすべく、ストライクショットを放つ。抵抗の薄い大樹の上部は、容易くショットガンを貫通させた。実は出雲の言っていた場所に落ちる。
 緑の攻撃宣言を聞いていた海と玲治は、タイミングを合わせて一点集中攻撃を放つ。それを邪魔する触手の幹や、枝の矢は、遥が見事に切り落としていく。
「魔法陣が……消えていく……」
 海の言葉と同時に、地中から慌ててルナリティスが出てきた。
「魔法陣は解けたか?!」
 地中でも何かを感じ取ったのであろうルナリティスは、肩で息をしている。
「根が、異常な動きをしていた。注意した方が良いぞ」



●攻撃

「秋嵐さん、魔法陣が解けたよ!」
 出雲は緑の声を掛けると、彼女は翼を仕舞い、地上に降りてきた。二人は慌てて大樹のふもとに向かう。
「うわぁ……」
「トランスフォーム、トランスフォーム」
 出雲も緑も棒読みになっている。
 そこには、根が地上に這い出してきて、うねっている光景があった。
「やっぱり言わんこっちゃないな」
 足元を警戒していた玲治は、口唇の端で皮肉げに笑った。
 一旦全員で距離を取る。さすがに大樹そのものが移動してくることはないようだったが、幹の触手と枝の矢に加えて、太い根が数本、うねうねと不気味な動きをしていた。
「どれ、きついの一発ぶちかますか」
 玲治はオーラを纏い、弓をきつく引き絞る。そして渾身の一撃を繰り出して、先程から海と集中攻撃して弱らせておいた根本の部分を貫いた。
 痛みがあるのか、怒りの気持ちがあるのか知らないが、うねる根は大地を叩き、枝の矢が降り注ぎ、幹の触手が乱舞する。
 遥がシールドを張り、枝の矢から仲間を守る。もう一度上空に舞った緑は、裏手に回って攻撃を放った。大樹の攻撃が緑の方へ向くが、その時は既に緑は上空だ。
「今だ!」
 玲治と海、ルナリティスはアウルを集中させ、強い一撃を放ち、それぞれの根に当てた。根は炸裂し、弾け飛ぶ。
「もう一本!」
 残りの一本に出雲が双銃で威嚇し、根の攻撃方向が定まったところで、遥が書を手にし、捻れた血色の槍を生み出して放った。最後の根も破裂する。
 それでもまだ、大樹は幹の触手と枝の矢で攻撃してくる。
「根が本体ではないのでしょうか?」
 遥は意外そうに言う。
「ちょっと、何なのこの樹!? 喧嘩売ってるみたいだね。あ、売ってるのはこっちか」
 出雲はとぼけたことを言いながら、十文字槍で矢を落としていく。
「なら、上から行くしかないですよね」
 緑はもう一度高く舞い上がり、ショットガンを放つ。かなり上部の枝葉はなくなってきていて、大樹の背も低くなってきた。
「とにかく総攻撃だ!」
 海はヴァルキリージャベリンで槍を作り出し、玲治は再びオーラを纏い、遥は双剣を携え、ルナリティスは飛翔してライフルを構える。同じく上空にいる緑もショットガンを持ち、出雲は双銃をしっかりと握った。
 皆で同じ方向からの総攻撃。上空にいる者は上を狙い、地上にいる者は遠距離で中部を狙い、近距離で下部を狙った。味方に攻撃が当たらないようにしながら、少しずつ全員で立ち位置を変えて回転していく。
 徐々に大樹の攻撃が遅くなり、威力も減ってきたようだ。
 こうやって大樹を包囲しながら全体にダメージを与え、陣形を崩さないように撃退士たちは攻撃を続けた。
 やがて、ゴゴゴ……と地鳴りがする。
「まだ実があるのか?!」
 周囲を見渡すルナリティスだったが、それは大樹の断末魔だった。触手になっていた幹も遥に切り落とされ、矢を放ち過ぎたのか枝葉は落ち、太い幹も根もやられてしまい、息絶えたという感じだった。



●処理

「よもや次が生えてきたりはしないと思うが……念の為に処理しておくべきだな」
 ルナリティスは落ちた実を見ながら呟く。
「何これ、見るだけで気分悪……」
 出雲も口元を押さえている。
「最後はキャンプファイヤーですかね」
 緑は無表情だが、纏うオーラが楽しそうに感じられる。
「あんだけデカけりゃ、浴槽も何も作り放題だったな」
 玲治も不思議なことを言って、海に「お風呂が好きなのかな?」と言われている。
「私もお風呂好きですよー」
 遥は汗を拭いながら会話に入っていく。
「取り敢えず、これぶっ潰しておこうか」
 出雲が言って、全員で実を残さず破壊した。
「これだけあればキャンプファイヤーできますね」
 何故か異様にキャンプファイヤー推しの緑だったので、処理がてら、大樹の残骸を燃やすことにした。
「おまんら許さんぜよー」
 緑が棒読みで何かの台詞を口にしながら、集めてきた大樹の残骸に火をつける。
「この季節にはもってこいの火だよね」
 海も暖を取りながら遥と話している。
「あったかいですよねー」
 一人離れてキャンプファイヤーを眺めていた出雲に気付き、玲治がそっと声を掛ける。
「お前はもう監視役しなくていいんだぜ? あっち行けよ」
 素っ気ない言い方ではあったが、玲治なりの思いやりを感じた出雲は「そうだね」と言って、火の方へ近付いて行った。
「さすがにここまで灰にすれば、次が生えてくることもあるまい」
 ルナリティスは残骸の端々まで拾って持って来る。
「お前も火に当たれよ」
 などと言いながら、何気なく手伝ってやる玲治だった。
「玲治こそ私に付き合う必要はないぞ。すぐに行く。人間は火に当たっているといい」
 お互い粗暴な言葉の中に、思いやりの気持ちを感じた。
「ま、早々に来ないと火が消えちまうぞ」
 そう言って玲治は火の方に歩いて行った。
 ルナリティスも火に当たり、少し皆で話をした。火が消えると、灰を大樹のあった場所に空いた大きな穴に埋めた。根が暴れたため、周囲の樹木や岩が粉々にはなっていたが、穴をふさぐことはできた。
「さて、避難している住人の方々を呼びに行きましょうか」
 遥の声に、撃退士たちは山を降りる。
 海は一度振り返り、少し荒れてしまった土地を見やった。この程度の被害で済んだのは、幸いにして大樹が自走しなかったからだ。少し目を伏せて、また前を向いた。
 集落の住人が避難している場所まで、仲間たちと歩いて行く──これからも、まだ。


依頼結果

依頼成功度:成功
MVP: −
重体: −
面白かった!:5人

歴戦勇士・
龍崎海(ja0565)

大学部9年1組 男 アストラルヴァンガード
崩れずの光翼・
向坂 玲治(ja6214)

卒業 男 ディバインナイト
理系女子・
ルナリティス・P・アルコーン(jb2890)

卒業 女 ルインズブレイド
導きの白銀・
出雲 楓(jb4473)

大学部3年180組 男 ルインズブレイド
眼帯の下は常闇(自称)・
狩霧 遥/彼方(jb6848)

大学部2年56組 女 ルインズブレイド
こそこそ団・
秋嵐 緑(jc1162)

大学部4年291組 女 インフィルトレイター