●回想
とうとうここまで追い詰めたな、と雪ノ下正太郎(
ja0343)は思う。これまで数々の戦いを乗り越え、謎のブラック怪人を叩きのめしてきた。
正念場はこれからだ、とジョン・ドゥ(
jb9083)は気合を入れる。真っ赤な髪をなびかせ、視線は一点を見つめている。
まだ残っている、と染井桜花(
ja4386)は目前の敵を見つめる。やっとここまで来れたのだ。
これ以上の負けはない、と元海峰(
ja9628)は自分に言い聞かせる。最後の敵だ。
もう好きにはさせないと、緋打石(
jb5225)はこれまでの戦いを振り返る。メタル四天王と呼ばれるトップ2たちをようやく倒したのだ。
クオンジャーのプロトタイプで、かつてゴールドメッキ総統に単身で挑んで敗北し、新たなる記憶を植え付けられて、つい数回前までクオンジャーと敵対していたヴァルヌス・ノーチェ(
jc0590)は、熱い気持ちで一杯だ。
これまでの戦いぶりをカットインさせて、オープニングテーマソングが流れる。『五行戦隊クオンジャー』の最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされる!
●変身!
「クハハハ、よくぞここまで辿り着いたな、クオンジャーどもよ!」
荒野の中央の岩場の高みに神々しく立ち、金ピカの全身鎧で身を包んだゴールドメッキ総統が叫ぶ。
「しかしもう力は残っていないのではないか? 次の変身で最後にしてくれる!」
「それはどうかな!」
正太郎は強気に叫び返す。確かにここまで強敵にも立ちはだかられ、満身創痍の体も隠せないのは事実だ。しかし、最後の敵を目の前にして、弱気な事は言っていられない。これで最後の戦いにするのだ。
「よし、望み通り最後の変身を見せてやろう。ただし、お前の最後だがな!」
海峰も力強く言う。
ジョンは赤い石、燃える意志を変身バンドに埋める。
「ゴールドメッキ、貴様もここまでだ! クオンチェンジ!」
『礼』の達筆な筆文字が浮かび上がり、ジョンを包み込む。
「赫灼たる業火は生命の輝き、クオンレッド!!」
武器の錫杖を左手に持ち回して、名乗りを上げる。他のメンバーも次々に名乗りを上げた。
「クオンチェンジ! 青い地球は仁の星、クオンブルー!!」
正太郎はハルバード(槍斧)を片手に、ドラゴンを模したポーズを取りながら声を上げる。
桜花も「……クオンチェンジ」と小さく呟いた。
「……植物の命を育む、土の行、クオンイエロー」
大槌(ハンマー)を振りかざし、片足を上げてポーズを決める。
海峰も「クオンチェンジ!」と言って白い石をバンドにはめる。
「西蔵より来たりし水を生ずる義の金気、クオンホワイト!」
両手には二刀流小太刀。構えを取る。
最後は石が「くおんちぇんじ」と叫んで、太刀を振るい乱舞のポーズを決める。
「その心、悪を砕く激流なり……クオンブラック!」
「五人揃って!」
「「「「「五行戦隊クオンジャー!!」」」」」
バックでドーン! と大きな爆発が起こり、変身シーンを盛り上げるのはお決まりだ。
ヴァルヌスはグリーンメタリックのボディで控えている。ゴールドメッキ総統に改造されて以来、人間の姿には戻れないのだ。
「クオンジャープロトタイプ、クオングリーン! ゴールドメッキにはここで消えてもらう!」
それぞれの意志を携え、ゴールドメッキ総統に走り寄っていく。
ブルーの正太郎は、武器のハルバードで斬りつける。が、ゴールドメッキ総統は微動だにしない。ビームブレードで反撃してくる。
「くっ、すごい衝撃だ……」
触れてもいないのに、風圧だけで圧倒される。
「厄介だな。レッドの武器であのビームブレードを何とかできないか?」
ホワイトの海峰は、ジョンに耳打ちする。
「わかった。やってみる」
レッドのジョンは「無尽光!」と必殺技名を叫ぶ。錫杖に赤い意志を込め、居合のように一撃を食らわせた。うまくビームブレードを狙ったつもりだ。一瞬遅れて、ゴールドメッキ総統の右側の岩が爆発する。
爆煙が消え去る前に、破壊し損ねたビームブレードが、イエローの桜花の元に伸びてくる。それを寸でのところで、大槌で撃ち落とす桜花。
「……吹き飛べ」
ド派手に巨大なハンマーを振り回し、ビームブレードを狙い撃ちする。徐々に短くなっていくビームを叩き潰し、ゴールドメッキ総統の近くに辿り着く。
「今まで貴様に苦しめられた者の想い……忘れさせぬぞ!」
ブラックの石が、過去に犠牲になった人々の事を想う。
「来るなら来い! 全て叩き斬ってやろう! 来い! 黒竜!」
石は波乗りの要領でドラゴンに乗り、ゴールドメッキ総統に突っ込む。
「世を乱し、力無き者を虐げる貴様等を……私は許さん!! 出でよ、赤竜!」
ジョンは赤竜を呼び出し、バイクモードで突撃する。ゴツい四輪バイクのマフラーからは爆炎が吐き出され、猛加速し燃え盛る車輪が周囲を蹴散らす。
海峰も白竜を呼び出し、竜の形のスケボーに変形させて突っ込む。硬い角はゴールドメッキ総統を傷付ける。
「……モードチェンジ、黄竜! バイクモード!」
桜花も呼び出した黄竜をバイクモードに切り替え、土の力でジャンプ台を生成して走って来る。さながらスタントばりの華麗さだ。
途中に立ちはだかる雑魚怪人を人間スケボーにして、ゴールドメッキ総統に叩き込んだ。
正太郎はハルバードを地面に突き刺し、「ブルーホールド!」と叫ぶ。すると、地面から無数の木の根が生えて、ゴールドメッキ総統を絡め取った。
そこへヴァルヌスがゴールドメッキ総統に突進する。チェーンで繋がった拘束アンカーが、ゴールドメッキ総統の身体を挟み、ブルーホールドとの連携で身動きが取れなくなった。
ヴァルヌスは自分の身体をゴールドメッキ総統に擦り付ける。アンカーで巻きつけられた二人のボディは擦れ合い、ギリギリと音を立てる。
「お前に与えられた命、返す時のようだな!」
グリーンメタルのボディが割れ、淡い緑色の発光を始める。徐々にその光は大きくなり、ゴールドメッキ総統を包み込む。
「ぐ、ぐぬぅ……!」
苦しげな声を上げるゴールドメッキ総統。クオンジャーの連携した攻撃が効いているかのようだ。
ヴァルヌスは続ける。
「元よりお前を止める為に賭けた命だ、惜しくはない。それに、想いを託せる奴らがいるんだ。もう、未練もない」
グリーンメタルのボディから漏れ出した光によってか、ゴールドメッキ総統のメッキがパリンと音を立てた。
「今だ、クオンジャー!」
ヴァルヌスの声に、クオンジャーは各々の武器を合体させる。
「木!」
「火!」
「土!」
「金!」
「水!」
「「「「「クオンバズーカ!!!」」」」」
どおぉぉぉ────ん!!!
そんな激しい音と衝撃で、ゴールドメッキ総統は吹き飛んだ……はずだった。
「……世界の平和を……頼むぞ、クオンジャー……」
ヴァルヌスは小さく言い残し、淡い光となって消えた。
●決戦!
「フハハハハ!!! この程度で私が倒せるとでも思ったかぁあ!?」
大きな爆煙の向こうから、ゴールドメッキ総統の声が聞こえたと思うと、巨大な黄金のドラゴンが現れた。
「……あれが……ゴールドメッキの本体……」
桜花が無表情に呟く。
「よし! こっちも合体だ!」
ジョンが仲間たちに声を掛ける。
「行くぜ!」
正太郎は変身バンドに再度意志を込める。
海峰も石も、ヴァルヌスの意志を受け継ぎ、気持ちを込めた。
「「「「「五行合体!!!」」」」」
変身バンドから五色の光が輝く。五色のドラゴンが集まり、腕や足、胴体となって合体していく。
「「「「「クオンドラゴン!!!」」」」」
西洋ドラゴンの翼を持った、人型のロボットが現れる。瞬時にクオンジャーはクオンドラゴンの操縦席に転送される。
「よし、これでも喰らえ!」
海峰は二刀流小太刀を振り、棒状の裏手裏剣を放つ。ゴールドメッキ総統の本体、ゴールデンドラゴンに剣が幾つか当たって、小傷を付けては弾き返される。
「ではこれでどうじゃ!?」
石は大きめの太刀を出し、乱舞をするようにゴールデンドラゴン目掛けて回転しながら攻撃を繰り返す。
「ヌハハ! このゴールデンドラゴンに、小細工など効かぬわ!」
ゴールドメッキ総統は余裕のようである。
「……これは、どう」
桜花は左腕の黄竜を一旦離脱させ、アルマジロのように丸くして高速回転させ、大槌でフルスイングした。
「……ガイアストライク」
黄竜が跳ね返ってきたところを、桜花は何度もハンマーで打ち返した。ゴールデンドラゴンが少し足元をフラつかせる。
「良いのぅ、イエロー、そのまま再度合体ぢゃ」
石の声に、黄竜は左腕に戻る。
「よし、このクオンブラックの氷の剣を受けよ!!」
石は水の属性を利用して、水を生成し氷を作り出す。それを勢い良くゴールデンドラゴンに差し込んだ。翼を刺されたゴールデンドラゴンは、大きな咆哮を上げる。
「よし、ここで勝負だ!」
「成・敗!」
正太郎が再びハルバードでブルーホールドを発動し、地面から生えた無数の木の根がゴールデンドラゴンの全身の関節を極めて破壊して爆破する。追って、ジョンがクオンドラゴンに凄まじい爆炎を吐かせ、ゴールデンドラゴンにトドメを刺しにかかる。
「よぉっし、必殺技だ!」
正太郎が叫び、右足から青い炎のような五芒星を浮かべる。
「自分も行くぞい!」
石は左足から黒い炎の五芒星を出す。
海峰は右腕から、桜花は左腕から、ジョンは胸からそれぞれの色の五芒星を生成した。
そしてその五つが重なり──!!
「「「「「五芒星フレイム!!!」」」」」
その五芒星の重なりは、竜の形になり、真っ直ぐにゴールデンドラゴンに向かっていった。黄金のボディでゴールデンドラゴンは耐えている。
そこへ現れたのは……緑の人型ロボットだった。
かつてヴァルヌスが操っていた、緑竜のロボ形態だ。その両手から緑の竜の形の光が放たれ、五芒星フレイムの後押しをする。
グイ、と緑竜によって押し込まれたクオンジャーの最後の必殺技は、見事にゴールデンドラゴンを大破させた。
「「「「「やったぁ!!!」」」」」
クオンジャーたちは手を叩き合って喜ぶ。
「まだ立ち上がるってオチはないよな?」
正太郎はゴールデンドラゴンの消滅した方に目をやる。するとそこには、元の大きさに戻ったゴールドメッキ総統が倒れていた。
「……トドメ……刺す」
桜花は大槌を振りかざし、全員の力を込めて、ゴールドメッキ総統に打ち込んだ。今度こそ、ゴールドメッキ総統は木っ端微塵となったのだ。再生もしないようだ。
「メッキは剥がせなかったけど……お前の分もやったぜ、ヴァルヌス」
「心は生きてるんだな」
「……ありがとう」
「誰もヴァルヌスの心までは壊せないんだ」
「心強い仲間を持ったものじゃ」
各々は、光となって消えたヴァルヌスと緑竜の方に向かって、気持ちを捧げた。
(ヴァルヌス……俺も近いうちにそっちへ行くぞ)
心の中で語りかけたのはジョン。彼は火の属性という制約上、文字通り自らの命を燃料として戦っていたのだった。全ての戦いが終わればその先は長くない事は、自分でも承知している。ただ、仲間には言えない。
心も身体も摩耗したクオンジャーは変身を解いた。バラバラになったゴールドメッキ総統に近付く。警戒もしながら。
「……本当に、倒したんだな」
海峰は呟いて、ゴールドメッキらしき一欠片をつまみ上げる。その途端、その欠片は灰となって消えた。次々に粉々になった欠片たちは、灰となって浮かんでは消えていく。
「これで、終わったのじゃ」
石は確信を込めて言った。
「……そう、終わり」
桜花も小さく頷く。
「おい、バンドが……」
急に正太郎が声を荒らげた。皆は言われたように変身バンドを見る。すると、そこにはめられた石は灰となって消え、さらには変身バンドまでが消失した。
「俺たちの使命も終わりってわけか……」
正太郎はヒーローの終わりを悟った。
「俺たちの必要ない世界が来たって事だ」
ジョンは笑って言う。
「……世界平和」
無表情ではあるが、桜花の安堵は仲間には伝わる。
「これがヴァルヌスの望んだ世界だ」
海峰は空を見上げる。
「それが一番良いのぢゃ」
満足したように石は頷いた。
クオンジャーは全員で空を見上げ、そこにはヴァルヌスの面影もあった。
そうしてアップテンポのエンディングテーマが流れ、クオンジャーの変身バンドを見つけてからの出会いから、これまでのブラック怪人との小競り合いや、メタル四天王との戦い、それぞれの変身シーンや日常のひととき、最後にゴールドメッキ総統を倒すシーンまでが回想された。
ラストはいつも以上にサビが繰り返され、輝くようなメンバーの笑顔で締めくくられた。
『五行戦隊クオンジャー』──完!!!
●夢のあと
「でさでさ、グリーンがね!」
少年Tのおかげか、少女Yの思い込みか、無事三十分使って『五行戦隊クオンジャー』の最終回を夢で予測する事ができたらしく、少女Yは少年Tに熱く夢の内容を語って聞かせていた。
もう陽も傾き始め、何度も同じ事を聞かされている気もする。
「イエローのトドメもね! ブルーの技とかね! ホワイトの想いとかね! ブラックの乱舞とかね!」
とにかくカッコ良かった! を繰り返す少女Yに、少年Tは律儀に頷きながら聞き流していた。
本当のテレビ放送の最終回は今週末。果たしてどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
普段は朝の特撮モノなど見ない少年Tだったが、最終回くらいは見ておこうという気になった。
特撮ドラマよ、永遠に──……。